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残り滓の使い魔-06



翌日の朝、ヴェストリの広場では悠二が常の日課である早朝の鍛錬を行っていた。
鍛錬を始める前にウォーミングアップとして学院の周りを一周走った後、昨日と同様に木の枝を剣に見立て、一心不乱に振るっていた。
(一つ一つの個々の動きじゃなく)
“徒”との戦い、そして鍛錬の際に常に目にしてきた、シャナが大太刀『贄殿遮那』を振る姿を思い出し、自身が木の枝を振る動作にトレースする。
(一連の動きとして、斬る!)
全身を流れるように動かし、目前に見えない敵をイメージし攻撃を繰り出す。
力を加えればすぐに折れてしまいそうな細長く、武器にするとしたら何とも頼りない木の枝だったが、悠二が無意識に“存在の力”を流し、一寸もぶれることなく空を裂く。
ここに来る前に、クリスマス・イブに御崎市を突如襲ってきた“紅世の徒”との戦いで、悠二は戦闘者として更なる飛躍を遂げ、本人も気づかぬうちに身体能力は人の域を抜けていた。


彼女は、己の手に炎を浮かべた少年の動きを見る。
(──すごいわ!)
常人を超えた動きを見せる少年の姿を、ただ、見る。


(誰かに見られてる? 森の中か?)
悠二は鍛錬を続けながら考える。
平時では警戒がいまだに出来てはいないが、“徒”との戦闘中や鍛錬中など集中しているときには気配を鋭敏に感知し、奇襲に備えることが出来ていた。
何者かが森の中からこちらを窺っているであろうことはわかったが、動く気配もなく、シャナが言う『殺し』を感じることもなかった。
(“徒”でもフレイムヘイズでもないし、偵察か何かかな? 人の使い魔は珍しいみたいだしな)
悠二は気配を感じ取りながらも、構わず枝を振り続け、何事もなく鍛錬を終えた。


部屋に戻りルイズを起こすと、すぐに洗濯をしにいなくなる。
このことをルイズは不満に思っているのだが、他人から向けられている気持ちに疎い悠二がこれに気づくことはなく、今日もルイズが自分で服を着ることになった。
外にある洗濯場に来ると、また先ほどと同様に視線を感じた。
今は鍛錬中などではなく、全く集中力を欠いているといっても過言ではないのだが、それでも悠二は気配を感じることができた。
(室内までは追ってこないってことは、誰かの使い魔かな? まあ、屋内まで追ってきたらすぐにばれるからな)
誰が見ているのかは皆目見当がつかなかったが、なんだか監視されているようで不愉快だった。
しかし、攻撃してくる気配もないので、とりあえず何か起こるまでは静観し、相手の出方を窺うことにする。

(それにしても、洗濯板で洗うなんて小学校の家庭科以来かな?)
こちらに召喚され、ルイズに小間使いのように使役され、ほんの少しとはいえ家事の大変さを自覚した。
(いつもは母さんにしてもらってたからわからなかったけど、感謝しないとな)
元の世界について考えると、早く帰らなくてはと焦燥に駆られる。
(焦っても仕方ないよな。とりあえず、情報収集しないと)
洗濯を終え、今朝から感じている視線を気にしながらも部屋に戻った。


ルイズは後悔していた。それは、昨日に引き続き、今日も自分で着替えたからだった。
使い魔を召喚する前から自分で着替えていたのだから、別に自分で着替えても問題は無い。
しかし、使い魔がいるのに自分で着替えているのは、なんとなく負けたように感じていた。
(あいつは起こしたらすぐ洗濯に行っちゃうみたいだし、いったいいつ起きてるのかしら?)
どんよりとした雰囲気を纏いながら着替え、それが終わったと同時に、計っていたのかというほどのタイミングで悠二が戻ってきた。

悠二は部屋に戻ってくるとすぐに違和感を感じた。
召喚されてから常に元気だった、というより喧しかったルイズが、今日は何故か陰鬱な様子だったからだ。
(体調でも悪いのかな?)
悠二が部屋に戻ってきてもルイズはチラッと見ただけで、すぐに目を逸らしてしまう。
昨日までの様子とのギャップに戸惑ったが、一応声を掛けることにした。
「あの、ルイズ? どうかしたの?」
当たり障りのないように声を掛けたが、ルイズは生返事を返すのみで、具体的には何もわからなかった。
その態度に疑問しか浮かばなかったが、どうやら聞いても答えてくれなさそうだったので、これ以上このことには触れないようにした。要するに、臭いものには蓋をするということだ。
物憂げな表情のルイズと、その様子を不思議がる悠二は揃って食堂へ向かった。


「あんた、昼から厨房で食事もらいなさい。そっちのほうがいいでしょ?」
今日も床でスープを啜っていると、突然告げられた。
昨日の今日で、どう心変わりしたのかは不明だったが、悠二にとっては嬉しいことだった。
朝から運動をしていたら、こんな量の食事では足りるはずもない。しかし、この心境の変化には甚だ疑問であった。
何か悪いものでも食べたのか? といらぬ心配をしてしまうほどに。


朝食を終えると、悠二はルイズにコルベールの元へ行くと告げ、彼の研究室へ向かった。
彼の研究室は凄惨たる光景だった。何の本かはわからないが、研究書と思われるものが雑多に置かれ、実験用具なども所狭しと置かれていた。
足の踏み場もない、とは言い過ぎではあるが、とにかく物が多い部屋であった。それに、実験に使ったであろう薬品の臭いが部屋中に漂っていた。
コルベールは悠二が来たのを見ると、笑顔で席を勧めた。

「待っていたよ。それじゃあ、授業の時間にしようか」
昨日約束したように、悠二はコルベールにハルケギニアでの常識、魔法について学びに来ていた。
その代わり、地球の技術を教えることになってはいたが。コルベールが何から説明したらいいのか決めかねているようだったので、ハルケギニアの社会体系について聞いた。
「私はトリステインの人間だからあまり他国について詳しいことはわからないが、わかることは説明しよう」
そう言い、一対一の個別授業が始まった。ルイズに以前聞いたことがある内容もあったが、大まかにしか教えてくれていなかったので、改めてコルベールに聞いたことは正解だった。
たくさんの話の中でも悠二が特に興味を抱いたのは、ゲルマニアでは金さえあれば平民が貴族になることも可能であるということ、アルビオンという浮遊大陸があるということ、東方という場所が近隣の国にとっては人跡未踏で全くの未知の世界であるということだった。

(平民より貴族のほうが色々と便利そうだよな)
元の世界に戻るためには情報が必要不可欠であり、その情報を得るためには、平民より貴族のほうが圧倒的に有利であることは火を見るより明らかだった。
だからこそ、金があれば貴族になれるというゲルマニアには非常に興味がわいた。
(浮遊大陸か……一度は生で見てみたいな)
浮遊大陸なんてまさにファンタジーそのもののような存在に、年相応の好奇心から興味があった。
もっとも、現在は内戦状態にあるらしく行くことは叶わないが。
(未知ってことは、それだけ可能性があるってことだよな)
もし、ここで帰る方法が見つけられなかったとしても、更なる希望があり、安堵する。
コルベールがハルケギニアについて一通り話し終えると、今度は悠二が地球について教える番になる。

「じゃあ、僕も社会体系について話しますね」
悠二の話にコルベールは時折メモをしながら真剣に聞いていた。
基本的に日本のことしかわからなかったので、その辺は適当に誤魔化しながら話していたが、コルベールにとっては聞いたことのほとんどが目新しいことだった。

「魔法については授業でもやっていることなので簡単に説明しますな」
魔法には先住魔法と系統魔法がある。先住魔法は比較的自在法と似ていて、杖を使わず口語で呪文を唱える。
系統魔法はメイジが使う魔法で、杖を用いルーンを唱えることで発動する。などといった、四系統の専門的な内容には触れなかったが、大まかなことは理解できた。
(一度先住魔法を見てみたいけど、……無理だろうな)
コルベールから聞いた内容では、先住魔法を使うのは主に亜人であり、必ずしも友好的ではないということだった。
中でもエルフは、メイジを十倍は集めないと対等ではないらしい。そう考えると、現実的に先住魔法を見ることは厳しかった。

「じゃあ、次は地球の技術について説明しましょうか」
悠二がそう言うと、コルベールは慌てて顔を横に振った。
「ちょっと待ってくれ。君の世界の社会のことをまとめるので精一杯なんだ。それはまた次の機会にしてくれ」
「じゃあまた今度ということで。ありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。また何かわからないことがあったら、いつでも来てくれ」
コルベールに礼を告げ、研究室を後にした。

外に出ると、日の高さでかなりの時間が経っていたことに気づいた。
悠二、コルベール共に互いの話に夢中になっていて、今まで時間の経過を忘れていた。
(そういえば、おなか空いたな)
自分が空腹であることを自覚し、朝食時ルイズに、
『昼からは厨房で食事をもらいなさい』
と、言われていたことを思い出し、コルベールの研究室前を去った。


「これ、すごくおいしいよ」
悠二は厨房にいた。ルイズに言われたとおりに厨房で昼食をもらっていたのだ。
出された食事は賄い食であったが、召喚されてからルイズに出された食事と比べると、まさに月とすっぽん、本当に満足のいくものだった。
昨日の昼のことといい、厨房の人たちにお世話になりっぱなしだったので食後のデザート運びを手伝うことにした。

「これ落としたよ」
悠二がデザートを配っていると、取り巻きの友人に自分を薔薇に例えて、特定の彼女がいないと宣言している、ギーシュと呼ばれている頭の悪そうな男子生徒がいた。
確かに顔は美形と言っても差し障りはなかったが、下手な歌劇でもやっているかのような振る舞いは傍から見ると気色の悪いものだった。
────そして、本当の悲劇の始まりは、その生徒のポケットから落ちた香水のビンを悠二が拾って、渡したところからだった。
「これは僕のじゃない。君は何を言っているんだね?」
ギーシュは否定したが、その香水のビンを見た周りの生徒たちが騒ぎ始めた。
「その香水はモンモランシーのじゃないか?」
「そうだ! その香水はモンモランシーが自分のためだけに調合しているやつだぞ!」
「ギーシュ、君はモンモランシーと付き合っている。違うか?」
周りの生徒たちが囃し立てる。ギーシュは否定していたが騒ぎは収まらなかった。

そうしていると、ギーシュのそばに一人の女生徒がやってきた。その子は涙をこぼしながら言った。
「ギーシュ様……やはり、ミス・モンモランシーと……」
「いいかい、ケティ。彼らはゴ」
ギーシュは全てを言い切る前に、ケティに思い切り頬を平手で叩かれた。パシンといい音が響いた。全身の動きが連動した、いいビンタだった。
「その香水があなたのポケットから出てきたのが、何よりの証拠ですわ! さようなら!」
帰り際に今度は逆の頬をビンタしてケティは去っていった。

悠二は面倒なことに巻き込まれる前に逃げようとしたが、今度は般若のような形相の巻き毛の女の子がやってきた。
「誤解だ、モンモランシー。彼女とは」
またしてもギーシュは言い切ることができなかった。モンモランシーがギーシュにワインを頭からかけ始めたからであった。
「やっぱりあの一年生に手を出していたのね……うそつき!」
モンモランシーはギーシュの股間を蹴り上げ、いなくなった。
あまりの光景に周りの男子は、股間を抑えたまま誰も動くことができなかった。それは、悠二も一緒だった。
すると、うめいていたギーシュが涙目で、悠二を睨み付けるようにして言った。
「君が軽率に、香水のビンなん、ビンなんかを拾い上げたおかげで、二人のレディの、め、名誉が傷ついた。どうして、くれるんだね?」
まだ股間が痛いのか搾り出すように、内股のギーシュは言った。
「えーと、ごめんなさい?」
ギーシュのあまりの悲惨さに、悪くもないのにかかわらず自然と謝罪の言葉を発していた。
疑問系ではあったが、謝罪には違いなかった。これで、自分にかかわることは全てが丸く収まったと思った悠二だったが、ギーシュは更に言いがかりをつけてきた。

「ああ、そうか。君はあのゼロのルイズが呼び出した、平民か。ゼロの使い魔に貴族の機転を期待した僕が間違っていたよ。
しかしこのままという訳にはいかないな。ふむ、決闘、いや、教育してあげよう。ヴェストリの広場に来たまえ」
そう言い残すと、取り巻きを引き連れて食堂を去った。ギーシュが一気に捲し立て言い切ったため、悠二に反論のひまはなく状況を把握しきれないまま取り残されてしまった。

「あ、あなた、殺されちゃう……」
悠二の後ろで身をちぢこませていたシエスタが震えながら言う。
「貴族を、本気で怒らせたら……」
「え?」
しかし、悠二の言葉を聞く前にシエスタは走り去ってしまった。
とにかく、決闘をするしないに関わらず広場に行かなければと思い、悠二が広場のほうへ向かっているとルイズが駆け寄ってきた。
「あんた、なに勝手に決闘なんか約束してんのよ」
「ええと、僕にもよくわからないんだけど、とりあえず、これは決闘じゃなくて教育らしいよ」
「教育なんてあんたを痛めつけるための体のいい言い訳じゃない。早く謝っちゃいなさいよ!」
ルイズはそう言ったが、悠二はギーシュの取り巻き数人の手によって引きずられて広場のほうへいってしまった。

────そして、ヴェストリの広場で決闘が始まった。




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