あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-17


 ルイズは、学院長から受け取った一冊の本を前に、呆然としていた。
 それは、『始祖の祈祷書』と呼ばれる国宝で、トリステインの王族の婚姻の時、巫女に選ばれた貴族の娘はこれを手に詔を詠み上げる習わしになっているらしい。
 結婚する王族とは、ゲルマニアの皇帝に輿入れするアンリエッタで、彼女は巫女にルイズを指名したのだという。
 そこまでは良い。いや、恐れ多いとは思うが、姫さまの指名なら否やはない。巫女は式の前より、始祖の祈祷書を肌身離さずに持ち歩かなければならないというのも、詠み上げる詔を自分で考えねばならないというのも、まあいいだろう。
 問題は、部屋に持ち帰って何か詔の参考になることが書いてないかと開いてみた本の内容である。
 本のページを開いた瞬間、指にはめたままの指輪、水のルビーが輝きだし、その光を浴びた始祖の祈祷書が同じく光りだしたのである。
 何が起こったのかと、指輪を見て、次に開いたページに眼を落としたルイズは、光の中に古代のルーンで書かれた文字を発見する。
 座学において優秀な成績を誇り、それでも貪欲に知識を吸収し続けるルイズにとって、それを読み解くことは容易い。そうして読み勧めた内容は、彼女にとって頭の痛いものであった。

 内容を簡単に説明すると、この本は始祖ブリミルが書いた物であり、虚無の系統の呪文が書き記されている。そして、これは始祖と同じ虚無の系統のメイジが、始祖の血に繋がる王家に伝わる指輪――――例えばルイズの持つ水のルビーなどである。を指にはめた者だけが読み解く事ができるようになっているらしい。
 つまり、これを読むことができる自分は失われし伝説の系統、虚無の使い手だということになる。
 馬鹿げている。そう思う。
 魔法の成功率ゼロのルイズ。どんな魔法も失敗の爆発魔法になってしまう落ちこぼれ。そんな自分が、伝説の再来だと、この本は記してあるのだ。
 思い当たる節はある。
 アプトムだ。アルビオンから帰ってきて、図書館で調べた結果、彼の左手にあるルーンが本当に始祖の使い魔ガンダールヴのものであることは確認済みである。
 強大な力を持ち、始祖の使い魔のルーンを持つ使い魔。そんなものを召喚できるのが、伝説の担い手であるというのは、実に納得できる話ではある。他人の話であれば。
 だが、自分が当事者であるというのなら、考えずにはいられない。これまでの16年間は何だったというのかと。
 物心ついてから、彼女は常に努力し続けてきた。せめて人並みの魔法が使えればという、泣き言を飲み込み修練してきた。
 それでも、魔法が使えなかった自分が伝説? 伝説だからこそ、これまで自分は魔法が使えなかった?
 どちらにせよ、その結論は彼女の努力を踏みにじる事実でしかなかった。
 ふざけるなと彼女は思う。この本が国宝であるという認識がなかったならば、破り捨てていたかもしれない。
 だって、あまりにも酷い話ではないか。もしも、もっと早くにこの本を手に取ることができていたならば、彼女はゼロなどと言われなくて済んでいた。周りの嘲りに耐える必要もなかった。両親や上の姉の叱責に震え、自分の不甲斐なさを責めなくても済んだ。
 そう思い憎悪にも似た怒りを覚えても、彼女はこの本から眼を離せない。伝説に残るようなメイジになってアプトムを帰してみせると約束したからという理由もあるが、それ以上に魔法が使えるようになりたいという想いが強かった。
 この本に書かれた最初の呪文は、エクスプロージョン。虚無の中で最も初歩の呪文である爆発の魔法。言葉にすることなく読み勧めたそれは驚くほどすんなり彼女の中に染み渡り、これこそが自分の魔法だと知らされる。これまでの失敗である爆発魔法は全てこれに繋がっていたのだと理解する。
 だけど、自分はこれを唱えるべきなのだろうか? こんなものに頼るべきなのだろうか?
 それ以前に、今は姫さまの結婚式に詠み上げる詔を考えるべきで、愛する者を失い別の男の元に嫁がなければならない不幸な王女を事を差し置いて、自分の事情に頭を悩ませるのはいかがなものか。
 とはいえ、詔など簡単に思いつくものではないし、気を抜くとすぐに本の方に意識が行ってしまう。
 そんなわけで、ああだこうだと頭を悩ませていると、いつのまにか部屋に入ってきていたシエスタが声をかけてきた。アルビオンから帰って来て以来、どういうわけかシエスタは、よくルイズの部屋に尋ねてきていた。
 ちなみに現在アプトムは部屋にいない。自分でも、魔法について調べる必要を感じたらしく今は図書室に行っているはずである。

「進んでないみたいですね」

 真っ白な草案を見て言うシエスタを、むー、と睨んでやるが彼女は堪える様子もなく、「気分転換をしたほうがいいんじゃないですか」と言ってくる。
 シエスタの見たところ、ルイズは暇さえあれば机に向かって過去の資料を読んでいるだけだ。これでは、過去にあった結婚式の詔の丸写しなら作れても、本人が納得できるものが出来上がることはないだろうと簡単に想像できる。
 しかし、そんなシエスタの言葉にルイズは難色を示す。彼女にはやることが多いのだ。詔が出来上がったら、次は魔法の勉強をしなくてはいけない。
 始祖の祈祷書という新たにできた悩みの種もあるのだから。ついでに言えば、気分転換と言われても何をすればいいのか分からない。真面目な性根である彼女は、そういうことは魔法が使えるようになってからだと考えていたので娯楽に詳しくないのだ。

「なら、わたしの村に遊びにきませんか?」

 詔を考えるだけなら学院でなくてもできるし、それができるまでは、勉強ができない。授業に出ても、身が入らないであろう予想もできる。
そして、すぐに完成するものでもない。
 なら、いっそ息抜きがてら、自分の故郷の村に遊びに来ませんか? とシエスタは誘う。
 彼女は、この可愛い貴族の少女を村の皆に紹介したいと思っていたのである。村のみんなは、この少女をきっと好きになるはずだと確信もしていた。
 そうして、煮詰まっていた彼女は、「じゃあ、アプトムがいいと言ったら、行くわ」と答え、後で確認を取ってみて以外にもあっさりと許可が出たので、ルイズは休暇を取ったシエスタと共に彼女の村に遊びに行く事になるのである。




 トリステインの王宮にあるアンリエッタの居室において、部屋の主である少女が仮縫いの純白のドレスに身を包んでいた。
 そのドレスを着てゲルマニアに嫁ぐことになる少女は、そこに集まった女官たちが何を言おうとも無表情に頷くだけであり、それを見かねた太后マリアンヌは、女官たちを下がらせ娘と二人きりで話をする事にした。

「望まぬ結婚なのは、わかっていますよ」
「そのようなことはありません。わたしは、幸せ者ですわ。生きて、結婚することができます。結婚は女の幸せと、母さまは申されたではありませんか」

 痛みを堪えるような顔で訴える娘をマリアンヌは抱きしめる。
 マリアンヌは、娘とよく似た善良な人格の女性である。いや、アンリエッタの方がマリアンヌに似たと言うべきだろうが、この際それはどうでもいい。
 アンリエッタの延長線上にあるような人間である彼女は、誰よりも今のアンリエッタの心情を理解していた。
 娘が誰かに恋をしていることも、その恋を捨てて望まぬ結婚をしなければならないことに胸を痛めていることも。
 もちろん、その恋の相手がウェールズであるとまでは知らないが、それを知らなくても娘の考えは手に取るように分かる。
 そして、その生きた年月の分だけ娘よりも広い見識を持っている彼女は、それが一時の感傷に過ぎないことも理解していた。
 彼女とて、小娘であった頃は、政略結婚など気に入らなかったし、全てを捨てて恋に身を焦がしたいと思ったこともある。
 だが、それがいかに愚かしい思い込みであったのか、今ならば理解できる。
 彼女たちは、籠の鳥である。これは別に、虜囚だという意味ではない。籠の中で守られ生まれ育った生命であるがゆえに、そこから出ては生きていけない脆弱な生き物であるという意味である。
 例えば、ウェールズが生きていて、アンリエッタが望むように全てを捨てて二人で逃げ出したとしても、二人は決して幸せにはなれない。
 守られ、かしずかれる生き方しか知らないアンリエッタに市井の民のような生活はできない。人の上に立つものとしての教育だけを受けて育ったウェールズも同じである。
 王族と言う立場に生まれ、そこでしか生きられない二人がそれを捨てたとしても待っているのは不幸な結末だけ。あるいは、お互いを憎みあい傷つけあう不幸な関係になったかもしれない。
 だから、彼女は言うのだ。

「恋は、はしかのようなもの。熱が冷めれば、すぐに忘れますよ」
「忘れることなど、できましょうか」
「あなたは王女なのです。忘れねばならぬことは、忘れねばなりませんよ。あなたがそんな顔をしていたら、民は不安になるでしょう」

 アンリエッタは恋するものを喪った。だけど、その想いはいまだ消えず、その身を焦がす恋の炎が消えてしまうことなど信じられない。だけど、それは許されないのだとマリアンヌは言う。

「わたしは、なんのために嫁ぐのですか?」
「未来のためですよ」
「民と国の、未来のためですか?」

 そのために犠牲になれと言うのか? そんな思いと共に吐き出した言葉に、マリアンヌは首を振る。

「あなたの未来のためでもあるのです」

 アルビオンを支配したクロムウェルが『虚無』を操るという噂は太后である彼女の耳にも入って来ている。そんな力を持った者が不可侵条約をいつまでも守っているはずがない。
 だから、アンリエッタには、軍事強国であるゲルマニアにいてほしいというのが、母としてのマリアンヌの願いであるのだ。

「……申し訳ありません。母さまの考えも知らず、わがままを言いました」
「いいのですよ。年頃のあなたにとって、恋はすべてでありましょう。母も知らぬわけではありませんよ」

 アンリエッタが胸を痛めていることを知りつつも、恋がいずれ冷めるものであることと、望まぬ結婚でも愛を育むことが出来ることを自分の経験上知っているマリアンヌは、娘の将来が明るいものであることを信じて祈る。
 そして、この恋が冷める日が来るなどとは信じられぬアンリエッタは、母の胸に顔を埋めて、ただ涙をこぼすのであった。


 そこに、その女が何者なのかを知る者は一人しかいない。その一人とは、アルビオン皇帝を名乗る男クロムウェルである。
 彼は、女について必要最低限のことしか語らない。曰く、東方の『ロバ・アル・カリイエ』からやってきた、自分たちの知らない技術体系を知る女性である。
 彼はそれ以上の説明をしない。そして、誰もそれを咎めない。新生アルビオン政府においては、クロムウェルの意向が全てだからである。
 シェフィールドという名であるらしい、その女が普段何をしているのか知る者はいない。そもそも、めったに姿を見せない人間なのだ。
 必要な時に、クロムウェルと行動を共にしているところが見かけられるだけで、それ以外ではまったく姿を見せない謎の人物。それがシェフィールドである。
 そんな彼女に疑念を持つものがいなかったわけではない。だが、その正体を掴めた者もいない。

 その日、ロサイスの街を歩くシェフィールドの後を尾行する男がいた。それは、今のアルビオンでは珍しくもない傭兵の一人である。
 その傭兵は、クロムウェルの命令を直接聞くような立場の物ではなく、ゆえにシェフィールドとの間に何の接点もない。
 そんな彼が、彼女の後をつける理由は何なのか。ただ単に、いい女だからと路地裏にでも連れ込むつもりなのか、はたまた彼女の正体を訝しんだ誰かに雇われたのか。
 それを知りたいと思ったのは、彼女自身であっただろう。
 男が知っていたのかどうか、これまでに彼女が街を一人で歩いている姿を見たものなどいない。
 つまり彼女は、わざと尾行させていたのだ。男の目的を知るために。
 そうして、彼女は人気の無い方へと歩き出し、ついには他の人の目がない空間まで男を誘導し、男を待ち受けた。
 おびき寄せられたのだと悟った男は、本性を剥き出しにする。目を血走らせ、口の端から牙を除かせたその男を見るものがいれば男の事を指してこういうであろう。吸血鬼、あるいは屍人鬼と。


 人の立ち寄ることがほとんどないそこに、おそらくは男性であったのだろう死体が転がっていた。
 凄まじい力で五体を引き千ちぎられ、頭を潰されたその肉塊を見て、元の傭兵の面影を見出す者はいないだろう。
 そんな死体であった……。




 酒場にて、彼女が男の持っている荷物について質問したことに特別な意味はない。あえて言うなら暇だったのである。
 男が持っているのは、何か箱が入っていると思しき大きな袋と喋る長剣。
 長剣の方は彼女が渡したものでもあるので、どうでもいいのだが、袋の方は気になる。盗賊だからとかいうことは関係なく。
 そんなわけで尋ねてみた彼女に対し、男はどうでもよさそうに中に入っていた二つの物品を取り出してみせる。
 それは、古びたオルゴールと、取っ手も何もない黒い箱。そして、それに彼女は憶えがあった。

「これは……、『始祖のオルゴール』と『災いの箱』……。なんで、あんたが持ってるんだよ!?」
「知っているのか?」
「えーと、まあ、うん」


 思わず言ってしまった彼女だが、考えてみれば自分の身元に関係する情報は口にするべきではない。が、今更遅いし、こいつには言っても問題ないかと考え直す。
 と言っても、彼女も詳しいことを知っているわけではない。彼女が知っているのは、アルビオン、ガリア、トリステインの三王家と宗教国家ロマリアには、それぞれ三つの物品が始祖の時代から受け継がれており、男の持っている二つと、もう一つ風のルビーと呼ばれる指輪がアルビオン王家に伝わる国宝であるということだけだ。
 そんな説明を聞いた男は、ポケットからある物を取り出す。

「それは、風のルビー! そんな物まで持ってるのかい!!」
「むしろ、これを持っているからこそだな」
「どういう事だい?」
「簡単なことだ、これを手に入れたら、何かと共鳴していることに気づいてな。それを追ってみたらオルゴールと箱があった。ただそれだけのことだ」

 共鳴? と首を傾げるが、それは考えても自分には分からないことだろうと、特に考えもなく箱に手を伸ばしてみて、それが開いていることに気づく。
 ちょっと待てよ! と彼女は思う。この箱は開かないものであったはずである。鍵がかかっているのは分かるが、鍵穴はなく魔法でも開かない。もちろん錬金も効かない。そういう箱であったはずである。それが何故開いているのか。
 聞いてみると、気になったので力ずくで開けてみたと答えが返ってきて、聞いたことを後悔した。そもそも魔法が効かないということは、この世界において人の手の及ばない代物であるという意味を持つのだが、このバケモノには関係なかったらしい。
 そして、なんとなしに好奇心に駆られるまま中身を見てもう一度後悔する。中には三角形に近い六角形の円盤状の物体が入っていた。それ
は、中心部に金属製の球体がはまっていて、外殻の隙間からは、得体の知れない触手のような物が覗いていた。
 それが何なのかなど分からなかったが、確かに災いにふさわしい代物だなと彼女は思った。
 そんな時である、その酒場にある少年が訪れたのは。


 少年が、その酒場にたどり着いたのは、偶然でないのなら、運命に導かれてということになるだろう。
 彼には、アルビオン皇太子ウェールズ・テューダーに会うという使命があった。正確には、その使命を持つものに同行する任務だったが、細かいことである。
 そのために先に行ってしまった、二人、ルイズとアプトムを追った彼だったが、追いつく前に王党派の本拠たるニューカッスルが墜ちてしまった。
 この事を知った時点で少年は、帰ろうか。などと思っていた。
 ウェールズが死んでしまっているのである。今更会いに行くも何もない。というか、少年のいないところで、ルイズが使命を果たしていたのであるが。
 だが、それは叶わなかった。というか、遅かった。
 トリステインとゲルマニアの同盟が締結され、それに対し両国に不可侵条約を打診したのはアルビオン側であるが、レコン・キスタにトリステインへの侵攻を諦めるという選択はない。
 現状、レコン・キスタはトリステインに攻め入る準備をしている状況である。そんなアルビオンからトリステインへ出ている船になど危なくて乗れない。
 というか、トリステインの貴族であると知られるだけでも危険だと今の彼は知っている。
 高い授業料だったなぁと空に近い財布を振ってみたりする彼は、見逃してもらうために、この旅行のために持ってきたほとんどのお金を消費し、この酒場での食事を済ませたなら晴れて無一文である。
 そして彼、ギーシュ・ド・グラモンは、その酒場で、顔をフードで隠した女性と顔全体を包帯で隠した男に出会う。



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