あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-18


 オーク鬼と呼ばれる亜人の種族がいる。身長二メイルほどの巨漢で、豚に似た顔を持つ性根の凶悪な種族である。
 十数体いるそいつらが、タルブの村の近くに移動してきたのには理由がある。
 この種族はハルケギニアに広く生息しており、どこで出会ったとしても不思議ではないのだが、この一団がトリステインに住んでいた者ではなく他国からやってきた二つの集団の合流したものと知れば人々は驚愕しただろう。
 その二つの集団は逃げてきたのだ。恐ろしい力を持ったバケモノから。


 二つの集団の片側が出合ったそいつは、最初人間の少年の姿をしていた。
 多数の幻獣と熊や狼のような肉食の獣を従えた二人の少年の一方。それが、オーク鬼たちが住処とする廃村に現れたバケモノである。
 人間の子供を好物とする嗜好を持つオーク鬼に襲われ村人が逃げ出したという、ハルケギニアには珍しくもないそこに少年が現れたのは、もちろんオーク鬼を討伐してこの村を人間の手に取り戻すためである。
 少年たちの命令に従い獣たちが囲むと、オーク鬼たちは少年たちに襲い掛かった。知能が低いと見られがちなオーク鬼だが、命令をしている人間を倒せば、周囲の獣たちを追い払えるだろうという推測ぐらいはできる。
 それこそが少年たちの狙いだったと気づいたのは、その直後。
 片方の少年の肉体が膨れ上がり、オーク鬼の身長を上回る体格と獣の顔を持つ亜人へと変化する。長い爪を生やした豪腕が振るわれると、先頭にいたオーク鬼の頭がざっくりと引き裂かれる。
 その後ろを走ったオーク鬼が手にした棍棒で、そいつを殴りつけるが、少年が変化した亜人はダメージを受けた様子もなく、その棍棒を奪い取り、逆に殴りつけられたオーク鬼が脳漿をぶちまけて倒される。
 こうなればオーク鬼たちも気づく。
 自分たちを討伐に来たのは、このたった一人の亜人で、獣たちは自分たちを逃がさないように取り囲む目的のためだけに連れてこられただけなのだと。
 そして、オーク鬼たちは逃げ出すことになる。そのほとんどが倒され、数体のみが逃げ延びることができたのは、幸運なことであったと言えよう。


 もう片側の集団が出合ったのは、不可解な外観をした亜人であった。体格はオーク鬼たちよりも小柄で、頭部には一本の角を生やし、体中を薄い紫色の甲殻で包んだ生物というより魔法で動くゴーレムの類を思わせる外観の持ち主。
 そいつはこう言ったのだ。

「たまには、こっちの力も使って慣れておかないと、いざという時に困るかもしれません。悪いけど、遊んでもらいますよ」

 そうして虐殺が始まった。その時のオーク鬼の一団は数十の大集団であった。それがたった一人の亜人によってほとんどが殺しつくされた。
 その亜人は強かった。強すぎた。
 オーク鬼は一体で人間の戦士五人に匹敵すると言われる戦闘力を誇る亜人である。その彼らが、そいつには手も足も出なかった。
 最初に仕掛けた棍棒の一撃は左手一本で受け止められ、そいつが振るった拳の一撃でそのオーク鬼は胴体を分断された。
 そいつにとってオーク鬼の肉体は豆腐の如く脆いらしく、無造作に振るわれる一撃だけで、彼らは絶命していく。
 遠く離れた別の国のオーク鬼たちが獣の顔を持つ亜人に思ったように、彼らもこの亜人には勝てない事を理解した。
 だが、こちらも逃げられたものは、そう多いものではなかった。
 逃げようとした者に、亜人が顔を向けると、その額が光り、そうと気づいたときには、そのオーク鬼たちは頭部を失った屍を晒すこととなっていたのだ。


 ほとんどが殺しつくされ、逃げ延びた二つの集団はトリステインで合流し、その心にこびりついた恐怖から逃避するため、山を越え森を抜
けここまで来れば大丈夫だと判断したこの地で、タルブの村を襲撃することを決めた。


「すごい! すごいです! あの凶暴なオーク鬼たちを二人だけで皆やっつけちゃうなんて、ミス・ヴァリエールもアプトムさんもすごいで
す!」

 興奮した面持ちで叫ぶシエスタに、ルイズは、あー、うん、そうね。と気まずい顔で答えた。

 ルイズの気晴らしとシエスタの休暇の里帰りに来たタルブの村で、三人が最初に見たのは村を襲う巨漢の亜人の群れであった。

「あれが、この村の住人か?」

 などと聞いてしまうアプトムだったが、「そんなわけないでしょう!」とシエスタが返してくる。
 まあ、そうだろうなと思うアプトムが、ではどうするかと頭を捻ったところでルイズが駆け出した。
 アプトムにとっては見知らぬ村人がどうなろうと知ったことではない。
 だが、ルイズは違う。貴族には外敵から民を守る義務がある。魔法の使えない貴族であるルイズにとって、貴族としての在り方は、何に換えても守らなければならないものなのだ。
 そうして、飛び出したルイズを見捨てるという選択はアプトムになく、二人はオーク鬼を退治することになった。

 はっきり言ってしまうとオーク鬼は弱かった。
 ただの平民からすると、圧倒的な戦闘力をもつ生物なのだが、アプトムからすれば、ただ腕力が強いだけで特別な能力も持たない亜人の集団など、相手にならない。弓でも撃ってきていたならルイズを守るのに苦労していたかもしれないが、棍棒で殴りかかってくるだけの相手の腕を掴み投げ飛ばすなど容易なことであった。

 そうして、アプトムに守られたルイズは呪文を紡いだ。
 それは、いつもどおりの爆発の魔法。いつもと違ったのは、唱えた呪文、威力、精度。
 ルイズが呪文を唱えるたびにオーク鬼の足元や顔のすぐ前に爆発が起こり、吹き飛ばされる。
 だが、その爆発は威力に反していつも通りに殺傷力に乏しく、オーク鬼たちに大したダメージを与えなかった。

 だから、本当の意味でオーク鬼を追い払ったのはルイズではなくアプトムである。
 いや、それも正確とは言えない。現実にオーク鬼たちに恐怖を植え付け敗走させたのは、ここに来る前に彼らの仲間を殺害した亜人である。
 彼らは、人間のものと思えない腕力で自分たちを、あしらうアプトムの姿に、ここに来る原因となった虐殺者の影を見たのだ。
 そんなわけで、傍目にはルイズこそがオーク鬼を追い払ったように見えていたが、事実はそうでないと知る少女は、素直にシエスタの賞賛を受け取ることができないのだった。もちろん、オーク鬼が恐怖する影など知らず、アプトムに対して恐れをなしたのだろうという程度の認識ではあるが。

 ちなみに、アプトムの方はルイズの唱えた呪文が気になっていた。彼は、ルイズと違って呪文に詳しくないので、それが今まで聞いたことのないものであると、始祖の祈祷書に記されていたものだなどと分からない。
 分かるのは、その呪文は、何度も途中で中断させていたものだったのではないかという不自然さだけであった。


 その日は、ルイズとアプトムはシエスタの生家に泊まることになった。元々シエスタはそのつもりだったし、村に着いたら宿を借りればいいだろうと簡単に考えていたルイズの方は、是非とも泊まっていって欲しいと懇願するシエスタの両親に押し負けてしまった。
 というか、本人に実感はないが、ルイズは村を救った恩人である。

 アプトムからすれば、雑魚もいいところのオーク鬼も、多くの平民にとっては充分な脅威であるし、大抵の場合、民を守るべき領主は、倒しても得がなく犠牲者を出すこともあるオーク鬼の討伐に兵を出すことを嫌い、見捨てる事も珍しくないのだと知る村人たちが感謝するのも当然であろう。もちろん、全ての領主が民を見捨てるような貴族ではなく、この村の住人が近在の領主を信用していないというわけでもなかったのだが。

 そんなわけで、オーク鬼を追い払ったルイズと、その従者であるアプトムの所に多くの村人が駆け寄り、両手を合わせて拝む者まで現れた。
 更に、シエスタから奉公先でお世話になっていると聞かされた彼女の両親が、宿を決めていないという二人を家に誘うのは当然の事であっ
ただろう。実際に学院で世話になっていたのは、むしろルイズの方であるが。

 そうして、ルイズは慣れぬ賞賛に悩まされることになった。
 シエスタの家族はもちろん、村長を含めた村中の人間が集まり、ルイズの勇敢さと魔法を褒めちぎるのたが、魔法を賞賛されるというのは始めての事で、なんだか居心地が悪い。彼女の使う爆発の魔法は失敗として叱責されたり嘲られるばかりで賞賛の対象になったことなどないのだから。
 なのに村人は、さすが貴族さま! おれたちにできない事を平然とやってのけるッ。そこにシビれる! あこがれるゥ! だの、こんな凄い魔法は見たことがないだのと褒めてくる。

 こんな居心地の悪いのは初めてだ。助けてアプトムーっ! なんて思うが彼はここにはいない。
 二人は、ただオーク鬼を村から追い払っただけで、根本的には何も解決していない。
 だから、始末をつけてくるとアプトムは出かけた。その始末という言葉が、オーク鬼を皆殺しにするという意味なのか、もう二度と村を襲えないよう遠くに追い払うのかルイズは知らない。アプトムが言わなかったという事は、自分が知る必要がないことなのだろうとルイズは、理解する。


 そして翌日、ルイズは村の近くの草原を横目に眺めながら、シエスタとアプトムを連れて歩いていた。
 別に、どこに行こうという目的があるわけではない。元々、この村に来たのは単なる気分転換であるのだから当然か。
 昨夜は、村の名物料理だというヨシェナヴェやら秘蔵のワインやらを振舞われ、夜遅くまで村人の相手をしていた彼女は、当然のごとく今朝も中々起きられなかった。

 別に、早起きしなければならない理由はないのだが、起きてみると家にはアプトムとシエスタしかいなくなっており、他の村人たちはともかく、家のみんなはどうしたのかと聞いてみて、全員がもう仕事に出ていて、七人いる弟妹も手伝いに行っていると言われると、なんだか何もしないで寝ている自分が悪いような気がしてくる。

 シエスタは、わたしもいますよと言ってくれるが、彼女は休暇を取ってきているのだし、自分がいなければ家のみんなの手伝いをしていただろうと予想ができてしまうので、やはり申し訳ない気がしてくる。
 それで、家を出てみたのだが、会う人間みんながルイズの顔を見ると仕事を中断して挨拶してくる。

 昨夜、ルイズは村の恩人であるだけでなく、この国の大貴族ヴァリエール公爵家の娘でもあると明かしてしまったので、これも当然の事態なのだが、やはり申し訳がない気がしてしまうのである。
 そんなルイズを見かねてか、シエスタに誘われたのが、この草原である。
 青い空の下、どこまでも続くように見える緑色の絨毯。それは、このハルケギニアでは、それほど珍しくない風景なのだろうけど、それがとても美しいものだとルイズは感じた。


 そして、シエスタに感謝した。疲れていたのだ。体がではなく心が。
 自覚はなかったが、アプトムを召喚してからのルイズは、ずっと気を張り詰めていた。そして、アンリエッタから受けた任務。ウェールズの死。ワルドの裏切り。そこから受けた心の傷を癒す間もなく渡された始祖の祈祷書。

 おそらく自分は、張り詰めて切れる直前の糸のようなものだったのだろうと今は分かる。そんな自分を連れ出してくれたシエスタには、どれだけ感謝しても足りない。心からそう思う。
 そんなことを考えるルイズに、何かを思い出した様子でシエスタは言う。

「そうだ。この先の寺院に、『竜の羽衣』って秘宝があるんです。見に行きませんか? どこにでもある名ばかりの秘宝なんですけど、ちょっとした話のタネにはなると思いますよ」
「秘宝って、どんなの?」
「えーと、実はそれ、わたしのひいおじいちゃんの持ち物だったんですけど、なんでもそれを纏ったものは、空を飛べるそうです」
「飛べるそうです? 本当に飛んでるところを見たことは?」

「ありません。ていうか、飛ぶわけないんです。マジックアイテムってわけじゃないし、誰かが飛んでみろって言ってもひいおじいちゃんは、もう飛べないって言うだけで。だから、村のみんなも、インチキだって言って信じてないんだけど、おじいちゃんは、とてもいい人だったからって好かれてて、今も大切に保管されてるんです」

 へー。と、口に出し、たまには、そういうのを見に行くのも悪くないかなとルイズは思う。
 特にすることもないのである。珍しい物ではあるのだろうし、今度下の姉に会った時にでも話せば、インチキでも喜んでもらえる自信がある。
 そう思って行った先で見た物は、なるほど確かに、空など飛びそうもない代物で、だが、それを見て少しだけ表情を変えるアプトムがいた。

「お前の曽祖父の事を聞いていいか?」

 そう言ったアプトムの顔は、いつも通りの感情を読みにくいもので。だから、シエスタも特に思うことなく、知ることを伝え彼を曽祖父の墓に案内した。

 海軍少尉佐々木武雄。異界ニ眠ル。そう書かれた墓石を見て。アプトムは思う。
 これは、自分や『破壊の杖』を持ち込んだ誰かと同じく地球から来た者の眠る墓である。
 だが、どういった方法で来ることになったのか。自分のように誰かに召喚されて来たのであれば、何の参考にもならない。だが、違う方法なら……。
 そう考えて、首を振る。その男が、どんな方法でハルケギニアに来ることになったのだとしても、本人がもういなくなってしまっているのであれば、意味がないではないか。

 そんなどうでもいい一幕はあったが、タルブの村での数日、ルイズは、とても穏やかな日々を過ごした。
 そして帰る時になって、詔をまったく考えていない自分に気づき、夏休み最終日の小学生のように狼狽する事になるのである。


「師匠。ぼくは、もっと派手な方が好みなんですけど」
「知ったこっちゃないね。あんたの好みなんて」

 自身の要求を、ばっさりと切って捨てられギーシュは落ち込む。
 アルビオンに来たはいいが、帰れなくなってしまった彼を拾ってくれたのは、マチルダという名のこの女性と、その護衛をしている顔全体に包帯を巻いた怪しげな風体の男である。ちなみに『ソムルム』と名乗っていた。

 マチルダはともかくとして、男の方は声といい体格といい、彼の見知ったある人物によく似ていたのだが、本人の口からはっきりと違うと言われたし、念のためにこっそり確認した男の左手には、その人物にはあった印がなかった。
 考えてみれば、彼の知る人物は常にルイズの傍にいるはずなのだから、こんなところで見知らぬ女性と行動を共にしているはずがないし、あちらが剣を持ってはいたが使うどころか持ち歩きさえしなかったのに対し、こちらの男は普通に剣を使っている。
 これは別人だなと結論付けた彼は、その後、男の剣が聞いたことがあるような気がする声で話すインテリジェンスソードだと知っても、偶然ってあるんだなぁとしか思わなくなっていた。

 それはともかく、二人に拾われたギーシュがここに来てやっていることは二つ。トライアングルメイジであり、いろいろと実戦を経験しているらしいマチルダの教えを受けることと、アルビオン軍の軍艦の建造、整備、修理やら何やらの手伝いであり、トリステインに出兵する際の人員となる事も決定している。
 もちろん、これは本人が言い出しての事というわけではない。本人としては、祖国トリステインの敵に与するくらいなら死んだほうがマシだと思っていたのだから。
 だが、現実問題として、この地でそんなことを言っていても意味がないのである。
 ここで自分はトリステインの貴族だなどと言っても捕まって拘束されるか、悪くすれば殺されるだけであるし、軍艦の整備などにしても彼がやらなくてもこの街の他の誰かがやるだけである。

 一時は、出兵できないように船を沈めてやろうかと出来もしないことを考えもしたが、現状では表向きトリステインとアルビオンは不可侵条約を結んでいる。ここで、トリステイン貴族である自分が騒ぎを起こしても自国に迷惑をかける結果にしかならない。
 ならば、ここにいる間は正体を隠し積極的にアルビオン軍に協力して、あわよくばトリステインに戻った時に役に立つような情報を集め、いざ出兵した時に抜け出してアルビオンからトリステインを守るため戦おうというのが、彼の出した結論である。

 と言っても、自分で考え付いたことではなく、拾ってくれた二人に、こうすればいいのではないかと言われたことを、受け入れただけなのだが。
 しかし、自分は、それでいいとして、二人は、それでもいいのかと聞いてみたが、二人はレコン・キスタという組織に対する忠誠心はないので、別に構わないと答えが返ってきた。

 ただし、聞いたところ、二人の上司はあのワルド子爵で、そちらはレコン・キスタの掲げる大儀とやらを真に受けて婚約者すら欺き裏切った者なので気をつけろと言われ、出来るだけ接触を避けようと誓ったギーシュである。
 ちなみに、拾われて数日経ち、彼は多くの時間を二人と共にしていたが、ワルド子爵と鉢合わせる事態に陥った事はない。
 ギーシュは知らないことだが、ワルドは、包帯の男に疑念を抱いており、その為その男を連れてきたマチルダも信用できぬと、接触を控えるようにしていたのだった。


新着情報

取得中です。