あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

(・||・)な使い魔

「何ですって! サイト達はもう出発してしまったって言うの」

戦場の慌しさに満ちたアクレイシアの港に、悲鳴にも似たキュルケ叫びが響く。
問い詰められたジュリオも、普段のように軽妙な口を利くことが出来ず、ただ静かに頷くのみであった。

「残念だが…… 予想以上に敵の展開が早い
 君達の援軍を待って要る余裕が無かったんだ」

「そ、そんな」

「やれやれ、せっかく運び込んだ秘密兵器も、無駄足となってしまいましたか」

新造艦・オストラント号を引率してきたコルベールが深いため息をつく。
その視線の先には、一行をここまで遅延させてきた鉄の塊、既に無用の長物と化した、異世界の大型兵器があった。

【タイガー戦車】

製造当時、その驚異的な重装甲と、88mm砲の超火力により当代随一と謳われたこの機体が、
あらゆる兵器を操ることが出来るガンダールヴの手元にあったなら、
たちどころに戦況を一変させ、大切な生徒達の命を守る事ができた筈であろう。
だが、現状では文字通り宝の持ち腐れ、使い所の無い鉄の塊に過ぎなかった。

「ねぇ、ジャン、なんとかならないの?
 戦線はもう、目と鼻の先だって言うのに……」

「……残念ですが、今のオストラント号は燃料が足りません。
 それに、あの重量物をここまで運搬するので、既にメイジ達も限界に来ています」

「…………」

コルベールの冷静な分析に対し、タバサが常ならぬ深刻な表情を見せる。
こうしている間にも、虎街道の前線では、旧友達の死闘が繰り広げられているであろう。
一同の間に、重い沈黙が溢れる。

――と、

「ミスタ・コルベール、【虎の羽衣】の準備を」

「ミ、ミスタ・タカトラ!?」

「……へっ? 
 うッ! ウワアアアァァアアァァ―――ッ!?」

真横からの声に振り返ったジュリオが、その端正な顔立ちに不釣合いな狂声を上げる。
無理も無い事である、彼の眼前に居たのは、この上ないほどに完全な不審人物であった。

艶やかな黒の長髪に、肩幅の広い、逆三角形の見事な体躯。
上等そうな黒のスーツを着こなした一見優雅な佇まい。

それをブチ壊しにするのは仮面! まさかの仮面! 怪人の如き仮面!

上流階級の貴族が秘密の舞踏会で使うような、魅惑めいた代物ではない。
チェーンソーを手にした不死身の殺人鬼が身に着けるような、シンプルゆえに不気味なマスク。
こめかみの辺りに入った大きな亀裂が、見る者に生々しい惨事の跡を想起すらさせた。

「あ、あ、あ……、 あなたは?」

「私がティファニア・ウエストウッドの使い魔の高虎です」

「そ、そうか、あなたが……!」

ゴクリ、とジュリオが生唾を飲み込む。
四人目の虚無の使い魔が、【仮面】だという情報は、前もって彼も入手していた。
あまりにも杜撰かつ無意味な情報ゆえに、ジュリオは諜報員の拙さを内心毒づいたものだったが
いざ、本人を目の当たりにしてみると、確かに、仮面、としか言いようが無かった。
なぜに仮面? どうしてこの場面で仮面? 一体なんのための仮面なのか?
なるほど、これでは先人も『記すこと憚れる』としか書けないであろう。

「そ、そんな事よりタカトラ、虎の羽衣って、アンタ、まさか……」

キュルケの問い掛けに、高虎の瞳がキラリと光る。
(実際には仮面の奥の瞳が見えるわけがないが、キュルケはその様を
 高虎の放つただならぬオーラから感じ取っていた)

「あのタイガー戦車は、私が牽引しましょう」

 ・
 ・
 ・

【虎の羽衣】

ペダルの回転により発生した応力を、ローラーチェーンにより後輪へと伝え、
ジャイロ効果により転倒することなく走り続ける事を可能とした、二輪の人力車である。

故・佐々木武雄氏がタルブの地に残した、その異界の名機は、
ただひたすらに速く走る事のみを目的に作られており。
平地ならばどんな名馬よりも速く、まさに地を駆ける虎の如き雄姿を見せた。
それは、高度な治金技術と運動力学によって生み出された、近代科学の結晶そのものであった。

「――ですがタカトラ! いくらなんでも無理です!
 メイジが十数人がかりで保持してきた戦車を、人力で牽引するなどと」

「勿論、独力では無理です。
 ですからあなた達は、ここにいるメイジの皆さんとともに、風竜で追走してきて下さい
 魔法で戦車の重さを軽減してさえくれれば、後はどうとでもなります」

言いながら、高虎は厳重な固定化を施した牽引用の鎖を、虎の羽衣へと結び付けていく。

「無理、無理、無理よ! 高虎ッ!
 メイジが20人がかりで支えて、それでも船の底が抜けそうな程の重さだったのよ!」

「せめて、牽引用の馬が来るのを待った方が……」

「無謀」

四人がみな、口々に仮面男の無謀を止める。
ジュリオの要請により、急遽かき集められたメイジ達は、仮面の平民の奇行に嘲笑すら見せていた。

高虎は一言も反論しない、ただ、かわりに脱いだ。
黒塗りのシックなネクタイを、手馴れた手つきでシュルリと外し、
上等そうな黒のブレザーを惜しげもなくバサリと投げ捨て、
ストライプの入った紺のワイシャツの胸元を、バッ、と勢い良く広げた。
突然の異常事態に、居合わせた一同が絶句する。

「……マ、本気……?」

かろうじてキュルケが呟く。
ぱっと見、首から下までは一流紳士であった筈の高虎、
そのスーツの下から現れたのは、ヘラクレスもかくやという程の見事な筋肉だったではないか。
ランニングシャツから飛び出した両肩は、激流で磨かれた雄大な岩石を思わせる。
レーシンググローブをはめる上腕二等筋の盛り上がりは、生命の力強さすら感じさせた。
いや、驚くべきは露になった肌だけではない。
上等なズボンを内側から押し上げる大腿筋の異常な膨らみは、まさしく本物の走り屋の証明であった。

「なんと言う見事な筋肉……
 そこいらのオークのような、脂肪交じりの雑多な肉体とは決定的に違う
 スポーツと自己節制により長年かけて磨き上げられた、まさに走るための肉体……」

「タ、タバサ……、声に出てるわ」

冷や汗を滲ませながら対手の力量を推測するタバサを無視しつつ、準備を終えた高虎が羽衣に乗る。
ハンドルすれすれまで頭を下げ、引き締まった臀部を天高く突き上げる。
脚部のペダルを最も効率よく回転させるための、本物のレーサーの姿勢であった。

「みんな、まばたきひとつしないで見ていなさい!」

高虎の叫びに我に返った一同が、あわてて杖を構え、詠唱を始める。
直後、高虎がまさに砲弾のように、勢いよく飛び出した。
一直線に伸びた鎖がビギンと音を立て、巨大な戦車がズズッと揺らぎ、
まるで、巨大なカブが抜けたかのように、大きくハネながら動き始めた。

「ほ、本当に動くとは……、しかもこれは、牽引するといった次元じゃあないぞ」

「信じられない……、でも、あんなにハネたら走行が安定しないわ!
 危険よ、タカトラ! 少しスピードを落として……」

「いえ、アレが正解」

タバサの言葉を裏付けるかのように、高虎はかえってスピードを上げていく。
高虎の加速にあわせ、戦車は高速で地面に叩き付けられ、ドゴン、ドゴンと大地を揺るがしていたが、
衝突音の生じる間隔は、次第に大きく開き始め、やがて……

「ゲッ!? ゲェ~~~~~! 戦車が浮いた!?」
「そ、そんなバカなッ! いかに我々がレビテーションで軽減しているからって!?」

驚愕の声を上げるメイジ達を尻目に、額の汗を拭いながらタバサが解説する。

「そう、戦車を浮かせるまで加速する事によって
 地面との摩擦は無くなり、余計なエネルギーのロスをカットすることが出来る。
 あの人、外見よりもずっとクレバーな走りをするわ……」

「ク、クレバー?
 ただ全力で走っているだけじゃないの?」

「と、とにかく、このまま間道をひた走れば、前線はもう目の前……」

そこまで言いかけて、何事かに気づいたコルベールが、ハッ、と顔を青ざめさせた。

「あ、あ~~……」

「ど、どうしたって言うの、ジャン?」

「ダ、ダメなんだ、いくら彼がケタ外れの実力者とは言え
 彼にはこの間道を抜けられないワケがある」

「ワケ? 一体この先に何があるって言うのよ?」

「それは……、アレだ」

「……ッ!? そ、そんな!」

コルベールの震える指の先に見えてきた【アレ】に一同が絶句する。
一行の前に立ちはだかったのは、そそりたつ絶望的なまでの激坂であった。

「なっ、何なのよアレ!
 何だってあんなものが間道の出口にあるのよ!」

「間道の出口だからこそ、だよ
 最大傾斜45度を上回る悪夢のような勾配……通称【虎殺し】
 今から300年ほど前、間道沿いを拠点とした野盗の襲撃から旅人を守るため
 時の教皇によって建造された激坂だ」

「激坂って……、あんなモン越えられるワケないでしょ!
 あのスピード・大荷物で転倒なんかしたら、ケガどころじゃすまないわよ」

「タカトラ……」

だが、眼前に出現した壁の如き斜面に対しても、高虎は怯む事なくペダルを回す。
男の魂がマシンに宿ったかのように、二つの車輪は恐るべき速度で激坂を一気に駆け上る。
瞬く間に坂の半分を通過し、突破も可能かと思われた……が、

「ああ! スピードが落ちたわ」

「無理もない、ここまでの脅威の激走だけで、太ももには乳酸が溜まっていたはずだ」

「いけない、このまま戦車が地面についたら、体勢を立て直せなくなる」

「な、何とか…… 何とかしないと……!」

その時、キュルケが積んでおいた荷物をまさぐったのは、
悲劇的結末を回避せんとするガムシャラな行動から来たものだった。
だが、この状況で【それ】を手に取った事は、まさに運命と呼ぶしかない、ある種の因果によるものであろう……。

 ・
 ・
 ・

ジャーン ジャーン

ハルケグニアの空に澄み切った打鐘の音が響き渡る。

「タカトラッ! 頑張って、もう少しよ!」

キュルケが打ち鳴らしていたのは、トリステイン魔法学院に封印されていたマジックアイテム【破壊の鐘】である。
大仰な名前に反し使い方の分からない、大きいだけの鐘であった。
キュルケ自身、その効果を信じていたワケではない。
ただ、鬼気迫る走りを見せる高虎に対し、何とかエールを送ろうとしただけの事であった。

だが、その鐘の音が、高虎の耳に届いたその時……、
一同は、記すこと憚れるとまで謳われた四人目の使い魔の脅威を、目の当たりにする事となった。

「うん? な、何だか心なしか…… い、いや、加速している!」

「そ、そんな、キャア!?」

「これは……!」

筋肉が膨らむ! ペダルが回る!
真っ白なランニングシャツが! 上等なスラックスが勢いよく爆ぜる!
そして、その鍛え抜かれた惚れ惚れするような大胸筋に、【(・||・)】という模様のルーンが煌々と輝きだす!

半裸となった全身筋肉の仮面男が、瀑布の如き勢いで激坂を一直線に駆け上る!

キュルケも、タバサも、コルベールも知らなかった。
自転車を愛するチャリバカ達は、自身の限界を超えた走りの先に、自分だけの【輪道】を持つ事を。
キュルケの持つ鐘には、特別な細工がしてあった訳ではない。
競輪を、自転車を愛するチャリバカ達の想いを乗せた鐘の響き、それこそが、高虎を輪道へと導く魔法の正体であった。

「「「さ、坂を超えた~~~~~ッ!!」」」

目の前で起こった本物の奇跡を前に、メイジ達が歓声をあげる。
頂上へと到達し、そのままの勢いで羽衣ごと上空へと跳んだ高虎の眼下に、
激闘を繰り広げる虎街道の光景が広がる。

その時、高虎の背後でビギン、と金属が砕ける音が響いた。

驚くべきことに、先に音を上げたのは、強固な固定化の施されていた筈の、牽引用の鎖の方であった。
頑丈な枷から解き放たれたタイガー戦車が、慣性によってハルケギニアの空へと舞い上がる。
同時に張り詰めていた緊張の糸が切れ、重量を減じていたメイジ達のレビテーションが一気に解ける。

「さあ、才人君! これを使いなさいッ!」

「へっ…… う、うわあああああああああああああああぁアァァァァ―――――ッ!!」

振り向きざまに才人が叫ぶ、無理もない。
彼の視界に映ったのは、猛烈な勢いで断崖から飛んでくる半裸の筋肉仮面、
そして、重量はゆうに50tを超そうかという、空飛ぶ戦車だったのだから……。

幸いな事に、戦車は放物線を描きながら頭上を跳び越して行ったため、才人は挽肉にならずに済んだ。
そして、勢いのままにタイガーが突っ込んでいった先には……、

「こ! こっちへくるなアァァァ―――――ッ!!」

「あ」

ボゴン!

――と、

その日、もっとも不幸だった女の絶叫を残して、
50tの鉄塊の直撃を受けたヨルムンガントの一団が、無残なボーリングのピンと化した……。

 ・
 ・
 ・

……そして、

【四つの虎の伝説】から十年、

あの日、一人の男が魅せた、ひとつの可能性……【ケイリン】は
極上の娯楽として、また、明日を夢見る平民たちの希望として、ハルケギニアの地に定着しつつあった。

うららかなトリステインの春の空に、例年通り、新入生のどよめきが
そして、あの、伝説の男の声が響き渡る。



「私がトリステイン競輪学院校長の高虎です」



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