「――ルイズちゃん。今私たちがどこに向かっているか、差し支えなければ教えてくれないかね?」
「食堂よ」
「ああ、朝食をとるんだね!それには賛成だ。実を言うと私はさっきからお腹がペコペコでね!」
食堂に着いた双識は高級レストランさながらの豪華な佇まいに感心した。
天井からはシャンデリアが吊り下げられ、銀の燭台が瀟洒な皿を飾りたてている。
並べられている料理は朝食とは思えないほどに豪勢で、朝食を余り摂らない双識は、見るだけで胸焼けがして来そうだった。
天井からはシャンデリアが吊り下げられ、銀の燭台が瀟洒な皿を飾りたてている。
並べられている料理は朝食とは思えないほどに豪勢で、朝食を余り摂らない双識は、見るだけで胸焼けがして来そうだった。
あたりは既に食事を始めている生徒や教師で賑わっている。
その歓談の間を縫うようにして、ルイズは中央テーブル端の席に座った。
双識もその横に座ろうと思ったが、席の両側は既に食事をしている生徒で埋まっていた。
その上、ルイズの前にある料理は、どう控えめに見ても二人分の量があるようには見えない。
その歓談の間を縫うようにして、ルイズは中央テーブル端の席に座った。
双識もその横に座ろうと思ったが、席の両側は既に食事をしている生徒で埋まっていた。
その上、ルイズの前にある料理は、どう控えめに見ても二人分の量があるようには見えない。
「これはまた随分とおいしそうな料理だね。――で、私はどこに座って、何を食べればいいのかな?」
「あんたは、これ」
ルイズの指さす先――床を見ると、そこには、堅そうなパンと粗末なスープが置いてある。
ひょっとして、いやひょっとしなくても、これが自分の食事なのか。
双識はルイズの顔を、見る。淡い希望を抱いて。
ひょっとして、いやひょっとしなくても、これが自分の食事なのか。
双識はルイズの顔を、見る。淡い希望を抱いて。
「あんたみたいな使い魔は本当は外、私の特別な計らいで中で食べられるんだから感謝して欲しいぐらいね」
双識の視線を意にも介さず、的外れな慰めをかけるルイズ。
ルイズはあくまで使い魔と主人の上下関係をはっきりとさせておきたいらしい。
ルイズはあくまで使い魔と主人の上下関係をはっきりとさせておきたいらしい。
「――モノを食べる時はね、誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。独り静かで豊かで……」
「馬鹿なこと言ってないで、早く食べなさいよ」
双識は諦めて外見通りに堅いパンを囓りながら、食事する生徒たちを見渡す。
何人か好みに合う生徒がいたらしく、双識の顔が緩む。それをルイズが目ざとく見つける。
何人か好みに合う生徒がいたらしく、双識の顔が緩む。それをルイズが目ざとく見つける。
「言っとくけど、他の生徒に手を出したら、殺すからね」
「ああ、ルイズちゃんはそれほどまでに私のことを愛して――」
「違うわよ!平民と貴族は身分が違うの。もしバレたら、即刻打ち首よ。それでとばっちりを受けるのは私なんだから」
「違うわよ!平民と貴族は身分が違うの。もしバレたら、即刻打ち首よ。それでとばっちりを受けるのは私なんだから」
なんだそんなことか、と双識は首を振る。
「それは安心したまえ!私はルイズちゃん一筋なんだ!」
「全然わかってないじゃないの……」
食事を終えたルイズと消化を終えた双識は、授業を行う教室に移動した。
魔法の授業をするぐらいだからと、双識はもっと特殊な部屋だと思っていたのだが、意外なことに何の変哲もない講義室だった。
そして、食堂の出来事から半ば予想していたことだが、やはり双識は席に着かせてもらえなかった。
そうこうしているうちに授業が始まるのか、中年の女性が入ってくる。
この女性も魔法使い――メイジなのだろう。
魔法の授業をするぐらいだからと、双識はもっと特殊な部屋だと思っていたのだが、意外なことに何の変哲もない講義室だった。
そして、食堂の出来事から半ば予想していたことだが、やはり双識は席に着かせてもらえなかった。
そうこうしているうちに授業が始まるのか、中年の女性が入ってくる。
この女性も魔法使い――メイジなのだろう。
「皆さん、春の使い魔召喚は大成功のようですわね」
女性は生徒全員を見渡す――と、ある一点で目が留まる。
「あなたは随分と変わった使い魔を召喚したようですわね。ミス・ヴァリエール」
女性教師の冗談に、教室のあちらこちらからクスクスという笑いが漏れる。
「なんたって、ゼロのルイズだからな!」
「何ですって!かぜっぴきのマリコルヌの癖に、私を侮辱するの?」
太った生徒の飛ばした野次に敏感に反応するルイズ。
売り言葉に買い言葉。
あれよあれよという間に、ルイズとマリコルヌという生徒は口げんかを始める。
その熱気にあてられたのか、教室中もにわかに騒がしさを増した。
売り言葉に買い言葉。
あれよあれよという間に、ルイズとマリコルヌという生徒は口げんかを始める。
その熱気にあてられたのか、教室中もにわかに騒がしさを増した。
結局、例の女性教師が魔法で場を強引に纏めて授業が始まった。
時々不明瞭な単語が出てくるものの、授業で説明する内容自体は昨日ルイズに聞いたことと変わらない。
が、実際に目の前で魔法が使われているのをじっくりと見るのは初めての体験だ。
『練金』と言う魔法らしく、目の前で石が金属に変わる。それはとても双識の興味を引いた。
食い入るように教壇を見ている双識を、ルイズは不審そうに見る。
時々不明瞭な単語が出てくるものの、授業で説明する内容自体は昨日ルイズに聞いたことと変わらない。
が、実際に目の前で魔法が使われているのをじっくりと見るのは初めての体験だ。
『練金』と言う魔法らしく、目の前で石が金属に変わる。それはとても双識の興味を引いた。
食い入るように教壇を見ている双識を、ルイズは不審そうに見る。
「――何よ、そんなに集中しちゃって。授業がそんなに楽しい?」
「魔法をじっくり見る機会は私にとっては初めての体験だからね。少なくとも、種が割れた手品よりは面白い」
「テジナ――って何?その――」
「ミス・ヴァリエール!授業中の私語は厳禁ですよ!」
「ミス・ヴァリエール!授業中の私語は厳禁ですよ!」
教壇から厳しい叱咤の声が飛んでくる。
私語がばれたのだろう。さっきまで説明をしていた女性教師が、腰に手を当ててこちらをにらんでいるのが見えた。
私語がばれたのだろう。さっきまで説明をしていた女性教師が、腰に手を当ててこちらをにらんでいるのが見えた。
「すみません……ミセス・シュヴルーズ」
「授業中に私語をしているほど余裕なら、ミス・ヴァリエール。『練金』はあなたにやってもらいましょう。さあ、前に出てきなさい」
女性教師――シュヴルーズの言葉に教室の空気が変わる。不思議そうな顔をするシュヴルーズに、キュルケがおずおずと言う。
「あの……ミセス・シュヴルーズ。それは止めておいたほうが……」
「何故ですか?ミス・ヴァリエールは努力家だと聞いています。自己研鑽の機会を与えるのが何か不味いことなのでしょうか?」
「「「「「「爆発します!!」」」」」」
教室の中にいるルイズを除いた生徒全員の声がハモる。
だが、シュヴルーズには生徒たちが何故猛反対するのか、その理由が全くわからなかった。
彼女はルイズの仇名と、その由来を知らなかったのだ。
だが、シュヴルーズには生徒たちが何故猛反対するのか、その理由が全くわからなかった。
彼女はルイズの仇名と、その由来を知らなかったのだ。
「――とにかく『練金』はミス・ヴァリエールにやってもらいます。さあ、練金したい金属を強く心に思い浮かべて」
その決定に、生徒たちの顔が引きつる。泣き出す生徒や、念仏を唱えだす生徒もいた。
「何よ!あんたたち!今度こそは成功するに決まってるんだから!」
そのどこから来るのかわからない自信を胸に、ルイズは石と向かい合う。
シュヴルーズは真剣な表情で杖を振るその様子を、自分の過去の姿を重ね合わせる。
そうそう、私も魔法を覚えたての頃はこんな感じ――
シュヴルーズは真剣な表情で杖を振るその様子を、自分の過去の姿を重ね合わせる。
そうそう、私も魔法を覚えたての頃はこんな感じ――
盛大な爆発が起こった。
使い魔が暴れて人が飛び人がぶつかって物が壊れて使い魔にぶつかり使い魔が暴れて――
ルイズの爆発から教室は一転、阿鼻叫喚の地獄と化していた。
「だからゼロのルイズにやらせるなって言ったのよ!」
「俺の使い魔が!ラッキーが!蛇に飲まれちまった!ラッキー!」
「大きな星がついたり消えたりしている……彗星かな?違うな、彗星はもっと、パァーッって動くもんなあ……」
生徒の絶叫が聞こえる。いくつか断末魔も混ざっているようだ。
原因の一端を担ったシュヴルーズは床に倒れ、筋肉の赴くままに痙攣を繰り返していた。
その余りにも不気味な体操に、生徒が何人か失神する。可哀想だが、向こう三ヶ月はあの動きが夢に出てくることだろう。
原因の一端を担ったシュヴルーズは床に倒れ、筋肉の赴くままに痙攣を繰り返していた。
その余りにも不気味な体操に、生徒が何人か失神する。可哀想だが、向こう三ヶ月はあの動きが夢に出てくることだろう。
パニックは、もはや収集がつかない状況になりつつあった。
「ふうん。なるほど――ね。だから『ゼロ』か」
「ふうん。なるほど――ね。だから『ゼロ』か」
双識も爆発に巻き込まれてはいたが、二次災害の範囲からはどうにか逃れていた。
教室の隅の柱に背中を預けて、教壇付近で生徒たちに囲まれているルイズを見る。
生徒たちの文句を浴びているようだが、ルイズはそれをどこ吹く風といった調子で受け流していた。
教室の隅の柱に背中を預けて、教壇付近で生徒たちに囲まれているルイズを見る。
生徒たちの文句を浴びているようだが、ルイズはそれをどこ吹く風といった調子で受け流していた。
煤で汚れた双識の顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
どうやらルイズもこの世界では『普通』ではないようだ。
かつての世界で、双識がそうだったように。
どうやらルイズもこの世界では『普通』ではないようだ。
かつての世界で、双識がそうだったように。
行き詰まった殺人鬼を召喚した、行き詰まった魔法使い。
言葉にするとそれは随分と滑稽な有様だろう。
自分の弟なら、こう言うに違いない。
自分の弟なら、こう言うに違いない。
「――傑作、だな」
(ゼロのルイズ――合格)
(第四話――了)
(第四話――了)