あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

日替わり使い魔-06




「決闘よ!」

「望むところ!」

 トリステイン魔法学院、本塔の中庭――既に日も落ちたそこに、二人の少女の声が響く。
 片方はルイズ、片方はキュルケ。トリスタニアから帰ってきた彼女たちは、今にも掴みかからんばかりに睨み合っていた。
 そんな二人を遠巻きに眺めるのは、ルイズの使い魔たるリュカ。パトリシアの毛並みを、片手間に手入れしながら。その足元では、プックルが丸くなって退屈そうにあくびをしていた。
 また、レックスとタバサの双子は、なぜか手に手を取り合って立派なダンスを披露している。それを見ていたもう一人のタバサが、何の感情も篭ってない拍手をパチパチと送っていた。そちらの方は、ルイズとキュルケにはまったく興味を示していない。



 なぜこうなったか――それは、学院に帰ってきてからのキュルケの一言に端を発する。

 学院の敷地内に入るなり、彼女は『フリッグの舞踏会』が翌日に控えていることを思い出した。そして、そのパーティーのダンスの相手に、リュカを指名してきたのだ。
 もっともそれだけならば、ルイズが噛み付くのは変わらないだろうが、キュルケの方はただあしらうだけだっただろう。それがこんな喧嘩にまで発展したのは、キュルケが続けて口にした提案にある。リュカの服を、キュルケが見立てると言い出したのだ。
 キュルケの実家であるフォン・ツェルプストー家は、ルイズの実家であるラ・ヴァリエール家と、国境を挟んで睨み合っている関係にある。
 ラ・ヴァリエール家といえば、この国で五本の指に入る大貴族――それと対等に渡り合えるとなれば、その力がいかほどのものであるか、想像に難くない。ならば、そのフォン・ツェルプストー家のキュルケが見立てる服が、ただの服であろうはずもない。
 となれば、ラ・ヴァリエール家の一族たるルイズが対抗意識を燃やすのも、当然の話であった。自分の方が立派な服を見立てると言い出し、どっちがリュカの服を見立てるかで言い争いになったのだ。

(城に帰れば、その手の服の一着や二着、掃いて捨てるほどあるんだけどなぁ……)

 グランバニアの王族であるリュカは、そんなことを思いながらこっそりとため息をつく。もっとも、自分が王族であることは教えてないので、そんなことはルイズたちの知ったことではないのだが。
 とはいえ、妻や子供たちを見れば、リュカが平民などではないことは察しがつくだろう。
 ダンスの話題になったことで、思い出したようにダンスを披露している子供たち――そのよく教育された見事なステップを見れば、その親であるリュカが貴族に連なる者であることは、尚更知れるというものだ。

 余談ではあるが――
 リュカ自身は、子供たちよりもダンスが上手くはない。王子でありながら、物心つく前から一介の旅人、しかも途中十年ほど奴隷として過ごしていた彼にとって、『王族としてのたしなみ』など無縁も良いところであったからだ。
 妻や従姉妹のドリスに、徹底的にダンスを仕込まれたことはあるが――そのドリスに「センスがない」と一蹴されたのは、苦い思い出だ。

 ――ちなみに、自分の身分を明かしていない理由としては、主に二つほどある。

 一つは、自分より身分が上であることを知ったルイズたちが、態度を変えることを嫌ってのこと。今のリュカにとって、自分を『リュケイロム王』ではなく『ただのリュカ』として接してくれる人間は、もはや数えるほどしかいないのだ。
 もう一つは、ハルケギニアとグランバニアでは国交が一切ないため、教える意味がないこと――見たことも聞いたことのない国家の者が「自分は王族」と言ったところで、それがこの国の何に影響を与えるというのだろうか。無駄に混乱させるだけだろう。



 ――閑話休題――



 リュカがそんなとりとめのないことを考えている間にも、ルイズとキュルケの言い争いは白熱していた。
 何やら、リュカを縛り上げて木の上から吊るし、ロープを魔法で切ってリュカを落とした方の勝ち――などという物騒な勝負方法を提案している。
 リュカが思わず「勘弁してくれ!」と横から口を出すも、まるで聞こえた様子もなかった。

 ――んで。

「……さすがに奴隷時代でも、こんな扱いはされた覚えはないなぁ……」

 結局吊るされることとなったリュカは、自分の現状にトホホとため息を漏らす。まあもっとも、あの当時に自分たちを監督していたムチ男たちとは違い、ルイズとキュルケには悪意がないのが救い――ある意味、だからこそ余計にタチが悪いとも言えるが――であろう。
 そしてそれを観戦する二人の子供は、別段止めるでもなく、のほほんと眺めている。なんでも、「ミルドラースやエスタークと真正面から戦って平然としているお父さんが、頭から地面に落ちたぐらいでどうにかなるもんか」とのことだ。
 レックスがベホマやザオリクを使えるとはいえ、その信頼に満ちた温かい言葉に、リュカは親として涙が止まらない。そう、これは子供たちの信頼を勝ち得て感動している涙なんだ。そーじゃなきゃイヤだ。イヤなんだってば。
 リュカがそんな感じで人生の儚さに想いを馳せている間にも、ルイズとキュルケは「魔法でリュカを落とした方が、リュカの服を見立ててダンスに誘えるのよ」だの、「べ、別にリュカをダンスに誘いたいわけじゃないけど、服は私が見立てるんだから!」だのとやっている。

 そして、二人の勝負は始まり――

「ロープじゃなくて壁を爆発させてどうするの!」

 先攻で魔法を放ったルイズに、キュルケが嘲笑する。そう――彼女の放った失敗魔法は、まったく狙った場所に命中せず、本塔の壁を爆発させたのだ。その結果に、ルイズは反論もできずに憮然とするしかなかった。
 その後、後攻のキュルケが危なげないコントロールでリュカのロープを燃やし、リュカを地面に落とす。勝ち誇るキュルケを横目にレックスがリュカの元へと行き、剣でロープを切って解放した。

「モテモテだね、お父さん」

 ヒューヒューとはやし立てる息子の物言いに、リュカは苦笑するしかない。勝負に負けていじいじと草むしりを始めたルイズを見ながら、「後でフォローしとくか」などと考える。
 と――その時、不意にリュカの背筋を寒いものが走った。

「…………!?」

 ゾクリとしたその感覚に、周囲を警戒する。見ればレックスも同時に――あるいは、自分よりも反応が早かったのかもしれないが――険しい表情で周囲を見回していた。
 そして直後、その感覚の正体がわかった。自分たち――とりわけルイズのすぐ後ろに、全高30メイルはあろうかという巨大ゴーレムが立っていたのだ。
 そのゴーレムは、リュカたちが見た時には既に足を振り上げており――

「危ないっ!」

 咄嗟にレックスが飛び出し、そのゴーレムの足元にいたルイズに抱きついてそのままゴロゴロと転がった。

「な、何すん――って、何これ!?」

 突然押し倒されたルイズが抗議の声を上げようとするが、先ほどまで自分のいた場所を巨大なゴーレムが足を踏み降ろしていたことに気付くと、さぁっと顔を青褪めさせる。

「大丈夫?」

「え、ええ……あなたが助けてくれたの?」

 自分と大して背格好の変わらない、しかも五つは年下の少年に抱きかかえられているという現状に気恥ずかしさを感じつつ、ルイズが尋ねた。問われたレックスは「うん」と一つ頷くと、ルイズを地面に降ろして剣を抜き、ゴーレムの方に向き直る。
 そのゴーレムはといえば、リュカたちを完全に無視して本塔へと向かい、その拳を打ち付けていた。どこの誰かは知らないが、少なくとも友好的な相手ではないだろう。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! まさかそれであのゴーレムと戦うつもり!? そんなちっぽけな剣で、あんな巨大な敵をどうにかできるわけないでしょ!」

「なるさ。お父さんもタバサも、プックルもいるから」

 背を向けたまま答えるレックスの声からは、微塵の不安も感じ取れない。そして彼は、もう既に杖を構えている自分の双子の妹に視線を向ける。

「というか――あれぐらい、タバサ一人で十分だよね?」

「もちろん」

 双子の兄の言葉に彼女は頷き、静に目を閉じて精神を集中させ、魔力を練り上げる。
 そして、おもむろに杖を振り上げ――

「イオナズンっ!」

 ゴゥ……という音と共に、空気が震えだした――直後、巨大ゴーレムは、想像を絶する大爆発を起こした。

 ――ルイズも、キュルケも、そしてキュルケの友人の方のタバサでさえ、その爆発を前に目を白黒させた。
 大魔法――そう呼んでも良いぐらいの大破壊を前に、三人は絶句するしかなかった。

「な、ななななな――」

 ゴーレムがいた場所を中心として粉塵が舞い上がる中、数秒が経ち――ようやっとルイズが声を上げた。もっとも、驚愕のあまり言葉にすらなっていない声ではあったが。
 それとほぼ時を同じくして風が吹き、ゆっくりと粉塵を晴らす。そして見通しが良くなったそこには、元のゴーレムの姿は影も形もなかった。ただ、直前にゴーレムが殴りつけていた壁は、見事に穴が開いていたが。
 そして――その穴から顔を覗かせる、黒いマントとフードの人物の姿。

「あれは――!?」

 リュカが誰何の声を上げるが、その人物はすぐに杖を振り、ゴーレムを生み出した。土のメイジだ。
 サイズこそ一回りほど小さいが、それは間違いなく先ほどと同じゴーレムである。先ほどのゴーレムも、おそらくあのメイジによるものであったのだろう。サイズが小さいのは、残りの精神力の問題か。
 ともあれそのメイジは、自ら生み出したゴーレムの肩に飛び乗り、リュカたちのいる方向とは反対方向に向かって逃げ出した。

「逃げるわっ!」

「わかってる!」

 ルイズの声に応え、リュカはプックルの背にまたがった。プックルは「ガウッ!」と一声啼くと、地を蹴りゴーレムを追随する。
 歩幅が大きいとはいえ、鈍重なゴーレム。それに比べて小柄とはいえ、動きの俊敏なプックル。両者の差は、瞬く間に縮まっていく。

「プックル! 飛べっ!」

「ガウッ!」

 リュカの命令に従い、プックルは一声大きく吼えると共に、大きくジャンプした。
 一息に腰のあたりまで飛び上がり、次いでリュカがプックルの背を蹴って二段目のジャンプをする。更に人間で言うところの肩甲骨のあたりで杖を突き刺し、それを足場にして三段目のジャンプ。リュカは見事、メイジの立つゴーレムの肩に飛び乗ることに成功した。

「ここまでだ」

 リュカは腰に差した鋼の剣を抜き、その切っ先をメイジの首筋に突きつける。
 が――

「…………?」

 リュカは首を捻った。そのメイジは、剣を突きつけられているというのに、まったく反応がない。こちらを平民ふぜいと侮っている、という様子でもない。怯えどころか慢心すら――いや、一切の感情がないのだ。
 まるで人形のよう……と思い立ったところで、「まさか」という思いが浮かんできた。リュカはそのフードを引っ掴み、乱暴に剥ぎ取る。
 果たして、その中にいたのは――

「やられた……!」

 リュカは舌打ちした。フードを剥いだその下にあったのは、ただ人の形を模しただけの土人形。ゴーレムの肩から直接生えているような形で作られていた。
 となればこちらは囮、本物は既に別の方向に逃げていることだろう。そう判断したその瞬間、ゴーレムは役目は終えたとばかりに崩れ落ちた。
 宙に投げ出されたリュカは、地面に落ちる前にプックルに拾われた。危なげなく地面に着地すると、土の中から自分の杖を拾い上げ、そのままルイズたちのところへと戻る。

「……ごめん、逃げられた」

 申し訳なさそうに頭を下げるリュカ。
 と――その時、「きゅいきゅい」と鳴き声を響かせ、いつの間にか空の上にいたシルフィードが降りてきた。その背に乗っていたタバサがひょこっと顔を見せると、彼女も「見失った」と一言で報告した。
 あの場面で咄嗟に囮を使うなど、かなり場慣れしている相手だったに違いない。聞いていたルイズもキュルケも、二人のその報告に特に目くじらを立てることはなかった。

 ――ただ――

 ルイズがリュカたち親子に向ける視線が、リュカには少々気になっていた。
 その視線には、何やら複雑な、それでいてどこか不穏な感情が混じっていた――





 ――明けて翌日――

「……はぁ」

 学院に戻って来たミス・ロングビルは、馬から降りるなり疲れたように嘆息した。
 何を隠そう、彼女こそが昨晩学院を襲撃した土メイジである。その筋での通り名は、『土くれのフーケ』――ここ数年、貴族の財産を荒らし回っている、悪名高い怪盗だ。
 そんな彼女が疲れているのは、もちろん昨晩のことである。

「一体なんだい、あの連中は……!」

 周囲に誰もいないことを確認しながら、素の口調で毒づく。
 昨晩、生徒の一人が放った爆発魔法により、強固極まりない宝物庫の外壁に傷がつけられた。それを好機と見て、すぐさま行動を起こしたのだが――ゴーレムで外壁を壊して侵入し、『奇跡の杖』を手に取ったその瞬間、自分のゴーレムが大爆発を起こしたのだ。
 壁の穴から外を覗いてみれば、自分のゴーレムがいた場所に杖を向けている子供の姿が見えた。まさか、あのガキが? などと思うのも一瞬。慌てて魔法で『例のサイン』を残し、返す杖で新しいゴーレムを作って飛び乗ると、更にダミーを作り出した。
 あのゴーレムを一撃で葬るようなのを相手にするのだ。念には念を押して押し過ぎることはないだろう。フーケはゴーレムの巨体に隠れながら近くの茂みへと身を移し、ゴーレムを追撃する猛獣とその背にまたがる男をやり過ごした。
 まったく、予想外に強力な連中が居合わせたもんだ――なんとかやり過ごせたことを幸運に思いながら、彼女は『奇跡の杖』を持って学院の外へと馬を走らせた。

 早馬を飛ばすこと数時間――各所にキープしてあるアジトの一つへと辿り着き、『奇跡の杖』を眺めるフーケ。
 ディテクト・マジックを使い、これがマジックアイテムであることは判断できたが、使い方も効果もわからない。試しに精神力を送り込んで振ってみるも、何も効果が現れなかった。
 そんなことを何度か繰り返し、やがてフーケは匙を投げた。そして、わからないのならばわかる者に聞けば良い――そう思い、杖をアジトに残して学院へと戻った。そのプランも、戻る途中で何パターンか考えていた。

 だがどのパターンでも、最も考慮に入れなければならない懸案事項があった――それこそが、自慢の巨大ゴーレムを一撃で粉砕した、あの連中のことである。

 あんな戦力が学院にいたなどとは、事前の調査でも把握できていなかった。昨晩はうまくやり過ごせたが、事と次第によってはもう一度事を構える必要も出てくる。
 先ほどの言葉は、その不安からのことであった。

(とはいえ、もう杖は振られたんだ……後戻りなんかできやしない)

 盗んだものを横流しするのに、使い方がわからないままでは支障が出る。あそこまでの危険を冒して手に入れた宝物が二束三文にしかならないなど、笑い話にもならない。
 そんなことを考えながら歩いていると――ふと、あるものに気付いた。

「……ゴーレム?」

 それは一体のゴーレムであった。学院の入り口近くに鎮座している。
 直立すれば全高は5メイルほどだろうか。レンガで組み上げられたような、頑丈そうな土色のボディ。無骨ではあるが、それゆえに力強さを感じさせるその作りは、それなりのセンスと実力を兼ね備えたメイジによるものであると推察できる。

(まあ、あたしのゴーレムほどじゃないだろうけど)

 頭の中で自分のゴーレムと比較するが、すぐに自分の方が優れていると判断する。同じゴーレム同士なら、5メイルと30メイルでは勝負にすらならないだろう。
 すぐに興味を失い、そのゴーレムの脇を通って学院に入ろうとするが――その瞬間、ゴーレムの目がフーケを捉えた。

「……………………」

 ピタリと足を止めるフーケ。じっとゴーレムを見返す。

「……まさか、ね」

 一瞬、このゴーレムから自意識のようなものを感じたが――フーケはそれを気のせいと判断し、すぐに視線を外して再び歩き出した。

 フーケが学院長室の前まで辿り着くと、中からざわざわとした喧騒が聞こえてきた。
 ああ、慌ててる慌ててる――フーケは唇の端を吊り上げて笑いつつも、コホンと一つ咳払いし、『大盗賊フーケ』から『学院長秘書ミス・ロングビル』へと自身のスイッチを変える。
 礼儀正しくノックしてから扉を開く。すると、部屋の中の視線が、一斉に彼女へと集中した。中にいたのは予想通り、学院長オールド・オスマンを始めとした教師陣と、昨晩の現場に居合わせていた女生徒三人。
 そして、平民っぽい青紫のマントとターバンの男に、十歳を過ぎたばかりと思しき男の子。どちらも昨晩目にした姿だ。だが、あの場にはもう一人女の子がいたはずだが、何故かそちらは姿が見えない。

「ミス・ロングビル! どこに行ってたんですか! 大変ですぞ! 事件ですぞ!」

 コルベールが、興奮した様子でわめき立てた。こうして慌ててる貴族の姿を見るのは、フーケとして活動するロングビルの楽しみの一つである。だが彼女はそれを表に出すことなく、落ち着き払った態度を装って口を開いた。

「申し訳ありません。朝から、急いで調査をしておりましたの」

「調査?」

「そうですわ。今朝方、起きたら大騒ぎじゃありませんか。そして、宝物庫はこのとおり。すぐに壁のフーケのサインを見つけたので、これが国中を震え上がらせている……大怪盗の……仕業…………?」

「「「「「…………」」」」」

 ロングビルの言葉は、途中から尻すぼみになった。というのも、彼女が話している途中から、突然周囲の視線が冷たくなったからだ。
 まさか、ヘマをした? 一体どこで? ロングビルが内心で焦りを覚えていると――

「……何を言っとるんじゃね、ミス・ロングビル?」

 そう問いかけてくるオスマンの目は、なんというか呆れが多分に混じっていた。見れば、他の連中も同じような種類の目を向けてきている。
 だが、ロングビルにとっては、オスマンの方こそ何を言ってるのかわからない。目を白黒させている彼女の元に、コルベールが歩み寄ってきた。

「ミス・ロングビル……今回の件は、フーケの仕業ではありません」

「は?」

「宝物庫に残っていたサインですよ。少々暗号じみた意味不明な文章でしたので、つい先ほどまでみんなで意味を考えていたのです。その結果、犯人は『土くれのフーケ』の手口を模した、いわゆる模倣犯であるという推測が立ちました」

「あのサインが意味するところは、おそらく『フーケのお株を奪ってやったぞ』という意味に違いあるまいて」

 コルベールの説明にオスマンが補足し、呆れたように嘆息する。その態度は、「まったく、大人げない犯人じゃのう」と如実に語っていた。
 だがそこまで説明されても、ロングビルは意味が理解しきれなかった。頭の上に『?』マークを三つほど浮かべる。

「……確認してきます」

 ロングビルは内心で焦りつつも、どうにか平静を保った態度で退出した。
 そして、向かった先は宝物庫――早足で到着したそこは、衛士たちがいまだ被害の検分をしていた。そんな彼らを横目に、自分が昨晩魔法で壁に書いたサインを探す。
 自分で残したものである。もちろん、それはすぐに見つかったが――

「……………………」

 それを見るなり、ロングビルはあまりのことに絶句した。
 そのまま数秒の忘我を経て、一旦フリーズしたロングビルの思考は再び活動を始める。

 ――そして。

「しまった間違えたァァァーッ!」

 恥も外聞もなく、思いっきり叫んで頭を掻き毟った。衛士たちの不審げな視線が集中するが、当のロングビルはまったく気付かない。
 昨晩の自分は、ゴーレムが粉砕されたことに余程慌てていたのか、とんでもない間違いをしていたようだ。もし時間移動ができるならば、昨晩に戻って自分をぶん殴ってやりたい――思わず、そんなことを頭に思い浮かべてしまう。

 そこに残っていたサイン。その文面にはこう書かれていた――





『土くれのフーケ、確かに領収いたしました。まちるだ』








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