あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-32


 その者は眼鏡をかけた大柄な男だった。
くるぶしまで届くコートを羽織り、胸元には十字がぶら下がっている。
金色の短髪。俄かに顎鬚を生やし、顎下左から頬にかけて大きな傷痕が目立っていた。

 男は少女エマに先導されてついていく。
なんでも・・・・・・ジャックとジムが喧嘩しているので、それを止めて欲しいということであった。

「コラーーーッ、2人ともやめなさ~~~いッ」
二人の姿を確認し、言葉だけで窘める。
まだ小さい子供なので、叩き叩かれるのもちょっと小突き合いしている程度に過ぎない。

 男の言葉に、すぐに二人は喧嘩をやめる。
「いったいどうしたというのです」
男はすぐに仲裁する為にその理由を聞く。

「ジムの奴が先に殴ったんだッ」
「ちがわいッ、ジャックが僕の本を・・・」
木々の隙間から差し込む陽光が、眼鏡に当たってキラリと光る。
「どんな理由があるにせよ、暴力を友達にふるうなんていけません!!」


「はァ~い」
「神父さま、ゴメンなさい」       バケモノ
「いいですか?暴力を振るって良い相手は、悪魔共と異教徒どもだけです」

 ジャックとジムは素直に謝り、男は自分を呼んだエマの頭を撫でた。
「ありがとう、神父さま!」
そう言うとエマはジャックやジムと共に走って行く。

 男は踵を返して歩きながら一人ごちる。
(この世界から見れば・・・・・・俺のほうが異教徒なのだろうがな)




「おかえりなさい、アンデルセン神父。早かったですね」
光に照らされ美しく輝く、流れるような金髪。やや童顔の入るも端正な顔立ち。
まるで妖精のような娘は、普通の人間とは異なる部分が二つある。

 まず尖った耳。人間とエルフの間から生まれたハーフエルフの少女。
しかし少女の身体的特徴を一つ挙げるならば、そんな瑣末な事よりもまず目にいくモノがある。
あらゆる男を魅了する、超弩級な胸。顔や他の部位とは不釣合いな、おっぱいをそなえていた。
少女の肢体のギャップは凄まじく、単にグラマーな女よりもそそられるものがある。

「ええ、ティファニア。あなたと同じで素直な子供たちですからね」
しかし親と子ほど離れた男、アンデルセンは魅了されることのない数少ない例外。
自分の娘に欲情する父親はいない。アンデルセンがティファニアを見る目は、正にそれと同じである。
同時にティファニアはアンデルセンを父親のように慕っている。
それは村の子供たち、ジャック、ジム、エマ、サム、サマンサにとっても同様である。

 実際に孤児院で働いていたアンデルセンは、子供たちの扱いは手馴れたもの。
温和で優しく、教養もあり、男手としても活躍する神父は、もう皆にとってかけがえのない家族であった。


 ロサイスとサウスゴータを結ぶ街道から、少しばかり外れた森の中にある小さな村、ウエストウッド。
村そのものが孤児院のようなもので、親をなくした子供を引き取り暮らしている。
アンデルセンがここにきてから、もう大分時間が経つ。

 今いるハルケギニアとは、全く別の世界。突然召喚されて、この世界へとやってきた。
元の世界で――――――自分は死んだ。宿敵アーカードと雌雄を決し、敗れたのだ。
『エレナの聖釘』を使い、神を肯定した化け物と成り果て、奇跡の残骸になるも負けた。

 死んでやってきた、この世界。
最初は地獄かとも思ったが、違った。
待っていたのは、慎ましく平和な生活。
少なくともこの小さな村の中は、闘争のない世界だ。

 前の世界で塵となる時。
声が聞こえた。童たちの声。皆が遊ぶ声がした。
もしかしたら・・・・・・自分はそれによって導かれたのかもしれない。
マクスウェルは――――――いなかった。そのかわりにいたのがこの子達である。


 この世界に来た時は相応に戸惑いもしたが、今はこの静かな村で、この素直な子供たちと共に生きたい。
かつての信仰心を忘れることはないが、無理に布教しようとも思わない。

 ただの銃剣でいい、神罰という名の銃剣でいい。
生まれながらに嵐ならば良かった。脅威ならば良かった。一つの炸薬ならば良かった。
心無く、涙も無い、ただの恐ろしい暴風なら良かった。
アンデルセンの中にある二面性。その狂気の部分は、今はもう奥底で眠っていた。


 イスカリオテは、ヘルシングは、ミレニアムは、ロンドンは、どうなったのだろうか。
ハインケルは、由美江は、由美子は、そしてアーカードは、どうなっているのだろうか。

 少し気にはなるが、村での静かな暮らしはアンデルセンに全てを忘れさせようとしていた。

「どうしたの?アンデルセン神父」
ティファニアの声でアンデルセンは我に返る。
「いえ、なんでもありません。少しだけぼーっとしてしまった」
アンデルセンは優しい・・・・・・とても優しい笑みを浮かべる。
ティファニアは安心したのか、アンデルセンに負けないくらいの笑顔で答えてくれた。



 ――――――その時だった。

 アンデルセンは弾かれたように振り向く。その・・・・・・方向に。
禍々しき空気が辺りを満たし、空間が歪んでいくような錯覚を覚える。
眼鏡の奥にある双眸が見開かれ、瞳孔が開き、心がブルブルと打ち震えた。
奥底で隠れていた筈の、深く眠りについていた筈のアンデルセンの狂気の側面が、滲み出すように表層へと顔を出す。
そしてアンデルセンは衝動のままにゆっくりと、歩き出した。

 ティファニアは首を傾げて、アンデルセンを見つめる。
次にアンデルセンの向く方向へと目をやった。

 木々の奥から、小柄なシルエットが歩いてくるのが確認できた。
しかし歩くにつれて、アンデルセンとの距離が詰まっていくにつれて、その形は変わっていく。
少女の肉体は青年の肉体に、帽子と服は白から赤に、黒い長髪も短くなっていく。

 尋常ではない雰囲気に、見えない圧力に、ティファニアは一歩、二歩、三歩と後ろへと下がった。
少女改め青年は背負っていた剣を鞘ごと無造作に投げ捨て、さらに歩を進める。


 近づく二人は唸るような声を上げ、握った拳を顔までもっていく。
――――――瞬間、何か巨大な・・・・・・とてつもなく巨大な物同士がぶつかった。
そんなような衝突音が、静謐を破壊し、森を、空気を、大地を揺らした。

 アンデルセンの拳が相手の顔面に、相手の拳がアンデルセンの水月へと叩き込まれたのである。
ビリビリと余韻を残し、二人は愛しい恋人と邂逅したかのように、互いの名前を叫んだ。
「アーカードォ!!!!!」
「アンデルセンッ!!!!!」
二度目の拳が交差し、またも轟音が響き渡る。

「まさかこんなところで会えるとはな!!我が宿敵!!!」
「AMEN!!!」
三度、拳が叩き込まれ二人は血を流しながら笑い合う。

 アンデルセンの見たことの無い表情。信じ難い光景。だがどこか幻想的でもあった。
度を越えた二つの狂気が織り成す、途方も無い非現実感がティファニアの心を虜にしていた。


 アンデルセンはどこからか、二本の銃剣を取り出して両逆手で構える。
対するアーカードは、無手。ただ手刀の形をとった右手は、研ぎ澄まされた刃のような鋭さを感じさせた。
二人は一転して音も無く睨み合う。

 ティファニアは呼吸ができなかった。
あまりの光景に一旦止まってしまい、この状況で息継ぎをしようものなら、それが戦闘開始の合図になりかねない。
そう、本能で理解していたのだった。

「テファ姉ちゃーーーん!神父さまーーー!」
「なんの音~~~?」
「ティファニアお姉ちゃん!・・・・・・?誰この人~?」
「神父さま!血が出てるよ?大丈夫?」
「ねぇねぇ、何があったの?」

 すると突然、叫びながら駆け寄ってきた子供たちがわいわいと騒ぎ立て始める。
ハッと気がついたティファニアがすぐにそれを制止しようとするが、先にアンデルセンが口を開く。
「興がそがれた」
「・・・・・・闘争の空気ではないな」

 アンデルセンは銃剣をしまい、アーカードは腕を下ろす。
「・・・・・・どの道、今の装備では殺しきれん」


 ともすると、子供の内の一人がアーカードへと近づく。
「なんだおまえー、悪者かー?」
およそ危機感とは無縁の中で生活してきた子供には、好奇心しかその心にはない。

 アーカードに近づく子もいれば、ティファニアの後ろから見ている子もいる。
無邪気にアンデルセンの体にひっついたり、流れ出る血を心配そうに見たりと、反応の様々な子供たち。
そんな様子を眺めてから、アーカードはアンデルセンを見やる。

「日和ったか、アンデルセン」
「フンッ」
アンデルセンは目を背け血を拭い、アーカードは子供の頭をわしゃわしゃと撫でた。
「ククッ・・・・・・俺も人の事は言えんがな」
アーカードは笑い、アンデルセンは「チッ」と舌打ちをした。

 ルイズ達と共に過ごしていると、やはりどうしても丸くなってしまう面が多々ある。
昔と違って吸血鬼を狩るような任務もないし、あるのはささやかな闘争のみ。
平穏に暮らす時間の方が遥かに長い。


「あの・・・・・・お二人はお知り合いなのですか?」
ティファニアが恐る恐る口を開く。

「親友みたいなもの、だよね?」
帰ってきた答えは、アンデルセンでもアーカードでもない。
当然ティファニアや子供たちでもなかった。


 その言葉を発したのは上空から降り立った、猫耳の少年であった。
続いてもう一人の男が、少女を抱えて落ちてきた。
華麗に着地した少年と違って、男の方は地面を豪快に粉砕して着地する。
抱えていた桃色髪の少女を降ろすと、アーカードとアンデルセンを見据えた。
視線をそのままに、男はアーカードとアンデルセンへと近づいていく。


 アーカードは一瞬その妙な取り合わせと、何故ここにいるのかという疑問が湧く。
が、近づく男の気に当てられ、とりあえずそんな疑問は置いておく。

 互いの肩が触れ合うほどの距離で、三者はそれぞれ一言も発せず、ただただ睨み合う。
流石の子供たちも何かを感じ取ったのか、揃ってティファニアの方へと退避する。
三人の威圧感が村を、森全体を支配し、やがてアーカードは唇に艶を浮かべて、笑った。

「・・・・・・なんなのよ、一体」
埃を払い終わった桃色髪の少女ルイズが、空気を読まず肩を竦めて一言。
が、すぐにその現況を見るなり、「マズイ」と思って口をつぐむ。


 アーカードと第二竜騎士中隊を探して、付近を空から捜索していたら突如鳴った大きな音。
一度目で気付き、二度目で探し、三度目でおおよその位置を特定した。

 するとその方向を見ていたシュレディンガーが、"タイイ"とか言う男とアイコンタクトをした。
シュレディンガーは頷いて竜から飛び降り、わけもわからないまま"タイイ"に抱えられ、浮遊感を味わった。
とりあえず無事に降り立ったものの、見知らぬ男二人に同世代くらいの少女と子供たちが何人か。
いつの間にか"タイイ"他二人との睨み合いが始まり、状況がまるで把握できない。

「あぁ・・・・・・アーカードが出す殺意に、よく似てるなぁ」などとぼんやりと考える。
と、猫耳の少年が目の前の状況に対して気怠そうに口を開いた。

「大尉~、やめましょうよぉ。今の僕らに争う理由はないんだしィ」
そう言われ、大尉と呼ばれた男が緊張感を弛緩させると、残る二人の男も同じように少し間を置いてから弛緩させた。


「不思議そうな顔してるね~。『吸血鬼』アーカード、『聖堂騎士』アレクサンド・アンデルセン」
「・・・・・・はっ?アーカード???」
ルイズは思わずその名前に反応する。

 魔法を使った様子もないのに竜から飛び降りて無事なこと。
いきなり始まった睨めつけ合い。さらにおよそ人間が出し得ないような圧倒的なプレッシャー。
そしてシュレディンガーと他の二人が知り合いのようだ、という事も疑問を残すところ。

 だがそれよりも何よりも、シュレディンガーがアーカードの名を呼んだ事に、ルイズは一番の疑問を抱いた。
少なくとも周囲にアーカードの姿はない。辺りを見渡すが、それらしい姿も発見できない。
「ねぇシュレディンガー、一体なんなの?わけわかんない」

 ルイズの問いを、少年シュレディンガーは逆に疑問符で返す。
「なにが??」
次に口を開いたのは、アーカードであった。
「そういえば、我が主の前では・・・・・・見せたことがなかったな」

 ルイズの頭が高速で回転し始める。目の前の男の言った「我が主」という言葉の意味。
目の前の青年に、「我が主」なんて呼ばれる筋合いはない。でも今の話の流れ的には、自分に対して言っている?
でも自分を「我が主」と呼ぶのは、自分の使い魔のアーカードだけだ。
何が何やらわからなくなっているルイズの目に、飛び込んできたのは驚くべき光景だった。


 青年の体が少女の体に、赤が白に、短かった髪が長髪に。
自分の見知った使い魔の姿が、今目の前に出現した。

 状況の推移に、頭がついていかない。
えっとつまり、今までの情報から察するに――――――。

「変身したー!!」
「すげー!」
「どうやったのー?」

 ルイズの思考が止まる。瞬きも呼吸すらも忘れて止まる。
好奇心旺盛な子供たちが、アーカードへと駆け寄っていく。
アーカードはそんな子供たちの頭をポンポンと撫で、「ははは」と笑っている。



 ――――――そうだ、今の子供が言った言葉に全てが集約されていた。つまり『変身』。
「あーあー、かのご高名な『吸血鬼』アーカードが・・・・・・随分と日和ったもんだねェ」
シュレディンガーが、少し呆れ気味で言った。アンデルセンは眉を顰め、大尉は静かにその光景を見ている。

 あぁ・・・・・・どう見たって、あれは自分のよく知るアーカードだ。ルイズは頭を抱える。
悩むよりもまず先に、確認しなくちゃいけない事がある。
とても・・・・・・とても、重要なことを。

「アーカード、アンタ・・・・・・『男』に変身できるんだ・・・?」

 ルイズは思わず。とりあえず、当たり障りのないように。そう・・・・・・聞いていた。
何故ならはっきりと、聞く気にはなれなかったから。いや、聞きたくなかったから。
だって――――もし――――そうだったとしたら――――。

「ん~、少し違うな。正確に言うなら男がメインパーソナルで、今が変身していると言った方が正しいな」

 ルイズの頭の中で、今までの想い出が走馬灯のように流れる。
つまり、あれだ。そう、つまり。つまり、今まで、女だと思って接してきた。
でも男がメインってことは、男がメインってことで。つまりアーカードは本来は男。

「尤も、私にとっては姿形など何の意味もない」
そんなアーカードの声は、もうルイズの耳には入っていない。


(そう、ということは――――――思い出したくないあの夜とか、あの夜とか、あの夜とか)

 あの夜の出来事とか、女だと思ってたから自己嫌悪に陥りつつも、なんとか立ち直れたのに。
男だったら――――――男だったのなら――――――男であったのなら――――――それはつまり。
男と閨を共にし、男と同衾し、男と・・・・・・男と・・・・・・その、アーカードと・・・・・・。使い魔と・・・・・・。

 あぁ、そうだ。アーカードは二人の妻がいたって言ってたじゃないか。
あれは同性愛だとか百合だとかそういう意味じゃないんだ。
一人の愛した女性がいたと言っていたじゃないか。
あの時点でおかしいと気付くべきだったんだ。確認しておくべきだったんだ。


「いっ・・・・・・いやぁあぁあああアアアアアッ!!!」
耳の先まで真っ赤になった、ルイズの叫びが、森の中を木霊した。
それはアーカードとアンデルセンの、殴り合いの音に勝るとも劣らなかったとか・・・・・・なんとか。



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