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虚無と賢女 幕間1

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ロイヤル・ソヴリン号の反乱。
その一報が伝えられたとき、ハヴィランド宮殿の中で驚かない者は居なかった―――少なくとも表面的には。
アルビオン王立空軍大将にして本国艦隊司令長官、そしてアルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーもまた驚愕に身を震わせた。そして直ちに反乱を収めるために本国艦隊を出動させ、臨時旗艦イーグル号にて陣頭指揮を執ることとなった。
ハルケギニア全てを見渡しても最大級の戦艦ロイヤル・ソヴリン号といえど僅か一隻による反乱。その討伐に五十隻以上の本国艦隊を投入をウェールズ王子に決意させたのは、威圧によって砲火を交えることなく反乱を収束させる思惑があった。
―――だが、その思惑は最悪の形で裏切られることとなる。





イーグル号のすぐ隣を先ほどまで航行していた軍艦が、爆発を繰り返しながら高度を落とし大地へと墜ちていく。

「殿下! モントローズ号が墜ちては戦線を維持しきれません!」
「後詰のサマセット号とケント号を右翼に回せ! 何とか支えきるぞ!」

次々に入る絶望的な報告に、ウェールズは矢継ぎ早に指示を下す。
爆音と閃光と衝撃―――砲火の中、襲い掛かってくる竜騎士たちに、イーグル号の散弾砲が迎え撃ち辛うじて接近を防ぐ。その間に、後方に控えていた二隻の軍艦がイーグル号の右へ移動し、ようやく一息をつく間を与えられたウェールズは、額の汗を拭いながら敵艦隊の最深部に鎮座する、全ての元凶たるロイヤル・ソヴリン号を睨みつける。

「パリー……。あのクロムウェルという男の手腕は見事なものだな」
「ふむ、ロイヤル・ソヴリン号のみならず、四十隻もの軍艦に反乱を決意させておりますからのぉ」

パリーと呼ばれた老メイジも、ウェールズと同じようにロイヤル・ソヴリン号を睨みつけていた。

「しかし、策士としては天晴れなれど、軍人としては失格としか言いようがありませんな!」

クックックと不敵な笑い声をあげるパリーに、ウェールズも釣られて笑い出す。

「その通りだ。これだけの兵力差、しかもこちらの腹を突いたにも関わらず、我らを仕留めることが出来ないようではね」

ほんの僅かな間ではあったが、イーグル号の後甲板に戦場には不似合いな明るい笑い声が響いた。

「よし! あの恥知らずの反乱者どもに一泡吹かせるぞ! 全艦、敵左翼に一斉射撃、その後突撃して一気に突破する!」

ウェールズは本国艦隊司令長官としての責務を果たすべく、傷つきながらも必死の抵抗を続ける残存艦に新たな指示を下した。





レキシントン平原上空で行われたアルビオン王立空軍本国艦隊と反乱艦ロイヤル・ソヴリン号の戦いは、開戦直前にロイヤル・ソヴリン号に乗り込んでいたクロムウェルという司教の演説により、出動した艦隊の内、約四十隻が反乱に同調し、大方の予想に反して反乱軍の勝利に終わった。この戦いの後、反乱軍はハルケギニア統一と聖地奪回を旗印に掲げた貴族連合『レコン・キスタ』の名乗りを上げ、クロムウェル司教は総司令官の任に就いた。

一方、レキシントン会戦から辛うじて撤退に成功したウェールズ皇太子は、王都ロンディニウムに帰還すると残存兵力をまとめ上げてレコン・キスタ討伐に乗り出した。しかし……、その後も戦場において、宮殿において、そして駐屯した街において多くの離反者が現れることとなり、大小問わず全ての会戦で敗北を続けることとなった。

こうしてアルビオン大陸での拠点を次々と失ったアルビオン軍―――王党派は王都ロンディニウム失陥後、残存した千にも満たない兵力を率いて大陸の端にあるニューカッスル城へと立て篭もることとなった。それに対し、レコン・キスタ軍は離反した諸侯や傭兵、さらにはオーク鬼やトロル鬼を戦力に組み込んで数万という兵力へと膨れ上がっていた。
兵站を整え、陣容を揃え直した後に行われる総攻撃、それがアルビオン王家最後の日になるであろうことは、誰の目にも明らかになっていた。





トリステイン王宮の一室、内装が整った執務室にて一人の男性が報告書に目を通して顔をしかめていた。真っ白な白髪の上に高位の聖職者にのみ許される球帽をかぶり、灰色のローブを身につけた痩せすぎの老人。彼こそトリステインの内政と外交を一手に執り行っているマザリーニ枢機卿であった。

「そうか……ロイヤル・ソヴリン号の反乱が火種となって、一気に燃え広がったという訳か」

骨ばった指で報告書をめくり、記されたレキシントン会戦とその後の顛末を読み終える。この報告書を持ち込んだ官吏は不安そうな表情でマザリーニ枢機卿を見つめていた。

「枢機卿……、我が国としてはどのような立場を採られます? 反乱勢力、いえレコン・キスタはハルケギニア統一を掲げております。状況によってはアルビオン一国の問題では済まなくなりますが?」

部下の言葉に、マザリーニ枢機卿は報告書から目を離し窓の外を見やる。ちょうど夕暮れの日差しが、窓から見える王宮の中庭とトリスタニアの町並みを染め上げていた。

「こちらから手を出す必要ないあるまい。向こうから何も支援を求められていない以上、派兵する大義名分もない」

冷徹さすら感じさせる言葉に官吏は息を呑む。しかし、同時にマザリーニ枢機卿の判断も間違っていないことを彼は悟っていた。
トリステインの国力は年々低下の一途を辿っており、高位の貴族の中には王室への忠誠を軽視し、既得権益のために国を貪っている者も少なくない。そして平民や下級貴族の有能な人材が、隣国ゲルマニアへ流出し続けていることが、さらに国力低下への拍車をかけていた。仮にアルビオン王家から援軍を求められたとしても、トリステインは十分な兵力を派遣するだけの余力はどこにもない。

「しかし、状況がどちらに転んだとしても、対応できるだけの手を打っておく必要はある」
「は……」

マザリーニ枢機卿は執務机に積んであった書類の中から、一枚の外交文書を取り出す。それはゲルマニア皇帝からの親書であった。

「今夜中にゲルマニア皇帝への返書を用意する。明日の夜明けと同時に使者を出立させるように手配しておくように」
「了解いたしました」

官吏の返事に対し退室するように手を振ると、マザリーニ枢機卿は返書をしたため始めた。一礼を入れた官吏が退室し、足音が遠ざかって聞こえなくなると筆を置き、再び窓の外を眺める。

「内憂を払えぬ王家に存在の価値はない、か……」

その呟きを発したマザリーニ枢機卿本人が、まるで自分のことを言うかのように自嘲気味に苦笑を浮かべる。まるで、トリステインも内憂を抱えて、それを払いきれないと認めてるかのように……。





夜の帳がトリスタニアに降り、働いていた者もある者は家路へとつき、ある者は盛り場へと繰り出す。何ら変わらない日常を謳歌する者たちの姿であった。その裏では、決して表に出ることのない者たちもいた。彼らは夜闇の中でこそ活発になるのであった。
そんな裏社会の者たちが集まる場所―――表向きは裏路地にひっそりと店を構える寂れた酒場に、『土くれ』のフーケが姿を現したのは、トリステイン魔法学院での騒動から十日ほど経った日の夜であった。

「……久しぶりだな」

店の奥、カウンターの中でコップを磨いていた五十ほどの男が、店に入ってきたフーケにチラっと視線を向ける。大して広くない店内には、何人かの堅気ではありえない雰囲気を纏った男たちが酒を飲み、扇情的な衣装で身を包んだ数人の娼婦たちが客を流し目で誘っていた。
フーケは無法者たちの値踏みするような視線を適当にあしらいつつ、カウンターの椅子の一つに腰掛けた。

「ああ、当分忙しくて身動き取れなかったからねぇ。……それで頼んでいた送金は出来てるかい?」
「アルビオンへの送金なら済ませてある……が、問題が発生した」

問題と聞いて、フーケの形のいい眉が少し釣りあがる。

「どういうことだい?」

その問いかけにマスターは答えず、ただただコップを磨いていた。フーケは舌打ちをしながら、カウンターにエキュー金貨を数枚叩きつけるように置く。

「アルビオンで反乱が発生した、それで向こうは大騒ぎになっている」

手早く金貨を回収しながら、マスターは感情と抑揚のない声で答える。フーケは反乱と聞いて嘲るような微笑みを浮かべた。

「へぇ~……、そいつはご苦労なこった。それで? アルビオンの王家どもは反乱鎮圧にどれくらい苦労してるんだい?」
「全戦全敗。傭兵たちの話を聞く限りでは、ニューカッスル城に追い込まれた王家は今月中にも倒れるという話だ」

アルビオン王家が倒れる―――その言葉はフーケの顔から嘲笑をかき消し、驚愕へと変えていった。

「それは本当かい? あのアルビオン王家を圧倒してるってのかい!?」
「間違いなく本当だ。ロイヤル・ソヴリン号を始めとして艦隊の大半と貴族、どうやったかは知らんがオーク鬼やトロールまで反乱軍の指揮下に入ってるという話だ。それに王家に忠誠を誓っていた有力諸侯や側近までもが、次々と王家から離反しているようだな」
「……は、ははは。そいつは愉快だねぇ……」

フーケの軽口は精彩を失っていた。かつて自分の家を、反逆者として貴族の名誉を剥奪したアルビオン王家。それが惨めにも指揮下にあったはずの軍に反旗を翻され、諸侯に見放されて倒れ、傭兵やオーク鬼やトロル鬼といった連中に名誉も誇りも奪われて散っていく様子が思い浮かべていた。同時に、自身の中にあった復讐心が燃え上がらずに、ぶすぶすと燻っている感触を感じていた。

「そういうわけだ。その反乱軍―――ハルケギニア統一と聖地奪還のための貴族連盟レコン・キスタと名乗っているが、そいつらの影響でルートも一部混乱している。ルートそのものは生きているが、届くのは当分先になるな」
「ハルケギニア統一と聖地奪還……? ははは、そりゃあ悪い冗談ね? それとも夢物語を目を開けたまま話してるのかしら?」
「さぁ……な」

そこで話は終わったとばかりに、マスターは磨き終えたコップを脇に置き、別のコップを手にとって磨き始めた。
フーケは整理のつかない感情と共にレコン・キスタのことを思考の脇に追いやると、最も重要なことを思い浮かべた。送金の受取人―――大切な妹分と養っている孤児たちの顔を思い浮かべる。戦火が、そして戦後に職を失い無法者と化す傭兵どもが彼女たちを襲わないのか、と。

「そうだ……、もう一つお前の耳に入れておきたいことがあった」

衆目に晒される危険を覚悟で妹分たちをトリステインに連れてくるべきかと考えていたフーケは、マスターの言葉に顔を上げる。

「この情報はサービスだが、最近『土くれ』のフーケを探っている者がいる」
「探っている者? そりゃあ、衛兵や貴族の使い走りがフーケを追い掛け回していて当然じゃないか」
「そういう連中とは違う奴、という話だ」

磨いていたコップを置くと、マスターはフーケを正面から見据える。その雰囲気にフーケも思わず息を呑んだ。

「白い仮面をつけたメイジなのだが……フーケの名の他に、マチルダ・オブ・サウスゴータの名でも探している」
「ッ!?」

かつて捨てることを強いられた貴族としての名前を聞き、フーケの顔が蒼白になる。

「幸いと言うべきか、そのメイジは裏の礼儀には詳しくないようだ。ここの存在にも気付いてないが、せいぜい気をつけたまえ」
「あ……ああ、気をつけておくよ……」

アルビオン王家に訪れるであろう終焉と、マチルダ・オブ・サウスゴータの名で彼女を探っている者の存在。二つの衝撃的な事実にフーケは無性に喉の渇きを覚え、ワインを注文し、それを一気にあおった。喉の渇きはそれで癒されたが、思考を乱れはアルコールでは抑えることは出来なかった。
その日は普段よりも早く酒場を後にすると、フーケは学院へと戻ることにした。一度、学院の自室に戻り、今後のことを整理することだけを思っていた。
そのため―――

「あ……、忘れてたよ」

エレアノールから頼まれていた情報の収集を思い出したのは、月明かりに照らされる学院の門が見えた頃であった。





ルイズは机に向かい、昼間の授業で習ったことの復習をしていた。実技では限りなく底辺に近い成績だが、座学では学年でもトップクラス、その理由はこまめな予習復習にあった。無論、魔法が使えないことに対して、使えるようになりたいという自然な欲求が勉学に駆り立てているのだが、同時に座学だけでもトップクラスにいなければ実技の赤点がフォローしきれないという現実的な問題も努力の一助になっていた。
ルイズの後ろでは、エレアノールが厨房から持ってきた熱い湯でお茶の準備をしていた。部屋中にお茶の香気が、その準備が進むにつれて徐々に浸透していく。

「ルイズ様、そろそろ一息入れられてはいかがですか?」
「……ええ。それじゃあ、そっちのテーブルに貴女の分と一緒にお願い」

一緒にお茶を飲もうという意味を正確に解釈したエレアノールは、テーブルに二人分のお茶とお茶請けのクッキーを用意する。

「いい香りじゃない、上手く淹れたのね」
「ええ、シエスタさんに教わりましたから」

エレアノールの言葉に、なるほどとルイズは頷く。

「ああ、そういえば最近よく一緒にいるわよね」

無意識に呟きながらお茶を口に含み、口中に広がる風味に頬を綻ばせる。ルイズの肥えた舌も満足させる淹れ具合であった。
続いて、お茶請けのクッキーに手を伸ばして、一つ摘み上げる。

「これも貴女が作ったの?」
「それは頂き物です。先ほど、女生徒さんたちから食べてください、と」
「あ~……、なるほど」

納得半分呆れ半分で頷く。恐らくファンクラブの誰かの手作りクッキーなのだと、ルイズは見当をつけた。
ルイズは直接そういったことと関わりを持っていなかったが、たまに彼女を経由してエレアノールに手紙やプレゼントを渡そうとする者が現れるので知っていた。
ちなみに、文字の読めなかったエレアノールのために最初はルイズが音読していたが、数日前に行った文字の勉強の成果があっという間に現れ、今ではエレアノールも読めるようになっていた。

(そういえば、今日もギーシュとマリコルヌが一緒に歓談してたわよね。あとモンモランシーも)

クッキーをかじりつつ思い返す。ギーシュがエレアノール風の青銅ゴーレムを作ってその美しさを讃えつつ自分の腕前を自画自賛し、マリコルヌがそれを一体欲しがって取り合いになり、最終的に呆れたモンモランシーがギーシュの脳天に一撃を入れるという、お笑いの寸劇のような一幕があった、と。
そこまで思い出したところで、ルイズは笑いの衝動に襲われる。辛うじて笑い出さずに済んだが、我慢で歪めた表情にエレアノールが不思議そうな眼差しを向けてきた。

「あの? お口に合いませんでしたか?」
「え? ぅ……そ、んなことないわよ……ぷぷっ」

しばし不思議そうにしていたエレアノールであったが、結局そのことを問いただすことはなかった。





こうして、多少不自然なこともあったが、ルイズとエレアノールのお茶の時間はゆったりと流れいった。
部屋の隅に立てかけられていたデルフリンガーの「いやぁ、平和だね~」という呟きがそのまま情景になったように。

―――しかし、その平穏とは裏で、ハルケギニアに戦乱の嵐が襲い掛かろうとしていた。



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