あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔はメイド-08



 結局、何の対策もないまま、品評会の日はどんどん近づいていた。
 「うーん、こっちがいいかしら? いや、こっちのほうが?」
 ルイズは色々な服を引っ張り出してきながら、シャーリーの前を行き来している。
 何をしているのかというと、品評会の服を選んでいるのだった。
 挨拶だけで終わるにしても、いつものメイド服では少々華がなさすぎる。
 シャーリーが召喚時に来ていた服もちょっと地味だ。
 何気にトリステイン、ハルケギニアのそれとはデザインが異なっているので、悪くはないのかもしれない。
 それでもさほど差異があるというわけでもないので、よく観察せねばわかりにくいだろうが。
 しかし、色々と服を持ち出してはみたものの、
 「今いち、しっくりとくるのがないわねえ?」
 であった。
 ルイズの服も着れないことはないのだが、学院内では基本制服で過ごすので、それほどたくさんの服があるわけではない。
 かといって、まさかパーティー用のドレスなどを貸すわけにいかないし、さすがにサイズの問題もある。
 また、ルイズとシャーリーでは髪の色、瞳の色、雰囲気、年齢と色んな違いがあった。
 それゆえ、ルイズが着て似合う服も、シャーリーだとどこかチグハグになってしまうのである。
 他のメイドの服を借りるという案も出たが、生憎とシャーリーと同年齢のメイドはいない。
 比較的年が近いのはシエスタだったが、背丈はもちろんスリーサイズにも違いがありすぎた。
 これではルイズの服のほうがましである。
 前に街で買ってやった服もあるが、シャーリーの選んだものは比較的地味なものだった。
 礼服としても使えぬことはないが、品評会にはちょっと……というものである。
 「少なくとも、そっちの対策はしとくべきだったわねえ……」
 今さらながら、ルイズは頭を抱えていた。
 そんな主人にシャーリーはちょっと、いや、かなり困ってしまう。
 シャーリーも年頃の女の子であるから、お洒落には興味がないわけではない。
 しかし、メイドの身分でそんなことを考えられるわけもなかった。
 さらに仕事に慣れるのに一生懸命で、そういったことに気を向ける余裕はなかった。
 ましてやってきたのは、身も知らない、おとぎ話のような魔法の国。
 とにかくにも、まず環境・生活に慣れるのが第一であったのだ。
 「ああん、もう、どーしよう!」
 ついにルイズはへたりこんでしまった。
 シャーリーは何も言えない。
 そんなことをやっていると、いきなり部屋に入ってくる者がいた。
 「ルイズ、いるわよねー?」
 赤い髪と褐色の肌の美女……キュルケ。
 キュルケはルイズを見て、にまっと笑う。
 何だかおっきな猫みたいだな、とシャーリーは思った。
 「さっきからバタバタとうるさいと思ったら、シャーリーと何してるのかしら?」
 「変な言い方しないで! 明日着る服を選んでるだけよ!」
 ルイズはフンッ!と 鼻息を荒くする。
 「なるほどぉ。確かに、メイドの服じゃあちょっとねえ?」
 キュルケはシャーリーを見ながら、うんうんとうなずいた。
 「で、着せる服で悩んでいると――」
 「そうよ。悪い?」
 「悪いなんて言ってないわ。むしろいいことよね?」
 キュルケはシャーリーに近づき、くいっとその指先で顎を持ち上げる。
 「あ、あの……」
 驚くシャーリーの瞳を、キュルケはじっと覗きこんだ。
 「素材は十分にいいんだから、これをそのまま、ってのはもったいない話……」
 「だから、やめてって言ってるでしょう!?」
 ルイズはシャーリーを抱き寄せるようにして、強引にキュルケから引き離した。
 「せっかくだけど、あんたのコーディネートはお断り!! 用がないならとっとと帰って!!」
 ルイズはキュルケにべーっと舌を出した。
 「まったくゼロのルイズは、胸もゼロなら寛容や柔軟性もゼロなのね」
 「好きなように言えばいいわ。ほら、出てって出てって」
 ルイズは一瞬不快そうな顔をするものも、しっしと手を振ってみせた。
 「……あ、そう」
 キュルケはそんなルイズに、つまらなそうに肩をすくめた。
 「はいはい、それは失礼をいたしました。邪魔者は早々に退散いたします」
 「わかればいいのよ」
 ルイズは勝ち誇ったように鼻から蒸気のような息を噴き出す。
 「品評会の時、その子に変なカッコさせるんじゃないわよう?」
 キュルケは去り際にそう言い残し、ドアを閉めた。
 「まったく! 相変わらず嫌な奴なんだから!」
 「……」
 あっけにとられて二人の淑女の言い争いを見ていたシャーリーだが、その視線はいつしかルイズへと注がれていた。
 何故、あの人と仲が悪いんだろう?
 それが、シャーリーの疑問だった。
 確かにあまりルイズと気性が合うようなタイプには思えない。
 でも、そんなに悪い人には思えなかった。
 何というのだろうか。
 お互いに何かというと張り合い、喧嘩をするきっかけを探しているようにも見える。
 「あの……」
 ――どうして、いつも喧嘩をなさるんですか?
 つい、好奇に駆られてシャーリーは口に出しかけたが、
 「え?」
 「い、いえ。なんでもありません……」
 ルイズが振り返った時、シャーリーはハッとして言葉を飲み込む。
 いけない、これはいけない。
 主人のことに、興味半分で口を挟むというのはメイドの分を越えている。
 第一無礼だ。
 メイドとしては、あるまじき行為である。
 シャーリーは内心で自分を叱りながら、無意識のうちに頭を下げていた。
 そんなシャーリーの態度をルイズはきょとんとした顔で見ていたが、
 「あは、あはは……。そういえば、毎度毎度みっともないところを見せてるわね……」
 ルイズは今さらながら赤面して、照れ隠しの苦笑いを浮かべた。
 「あ、いえ……」
 「自分でも、レディーとして恥ずかしいことだとは思うわけだけど……。色々と、譲れないこともあるのよね」
 そう言って、薄桃色の髪をした淑女は、ベッドに腰をおろした。
 「あいつ……ツェルプストーと、我がヴァリエール家は昔っから対立し続けたのよ」
 ルイズは説明しようとして、ちらりとシャーリーの顔を見る。
 どこまで話せばいいのだろう?
 「……まあ国境沿いに領地で隣あっててね、戦争が起こった時も何度も戦ってるし……。根が深いわけ」
 「はあ……」
 「だから、あいつに挑発されると私もすぐにむきになっちゃうのよねえ……。恥ずかしいわ」
 ルイズはこつんで自分の頭を叩く。
 実は勢いで、先祖代々恋人や婚約者を奪われ続けて話をしかけたが……。
 いざシャーリーの顔を見るとさすがに話せなかった。
 色んな意味で恥ずかしすぎる。
 また、大声で他人にくっちゃべるような内容でもない。
 そういえば、と思考が記憶の中から古いものを引っぱりだす。
 何代前かのご先祖様で、ツェルプストーに奥さんを取られた人がいたわけだが。
 他人事なら笑いの種だが、当人からすれば腸が煮えくり返るような気持ちだったに違いない。
 その奥さんのほうは、その後どうなったのだろう?
 ツェルプストーの妻になったのか、それとも愛人になったのか……。
 あるいは、すぐに別れてしまったのかもしれない。
 何しろ相手は、あの色きちがいのツェルプストーである。
 どうでもいいが、何となく気になった。
 仮に別れたとしたら、トリステインにはなかなか戻りにくいかもしれない。
 あるいは、その後ゲルマニアで生活したのだろうか?
 ルイズは未経験だが、外国暮らしというのは、なかなかにしんどいものらしい。
 まして、伝統を重んじ石頭と他国から言われるようなトリステインの貴族が、奔放なゲルマニアでうまく暮らせたのだろうか。
 「まあ、いいわ」
 ルイズは気を取り直し、一枚の服を手に取った。
 あれこれと古いことを考えても意味はない。
 まずは、シャーリーの服をどうにかしなければ。


 「まーたヴァリエールのやつをおちょくりに行ってたのかい?」
 イザベラは銃の手入れをしながら、ノックもなしに部屋に入り込んできた悪友に言った。
 「まあね」
 キュルケは悪びれる様子もなく、イザベラのベッドに腰をおろす。
 「よくもまあ、飽きもせず……」
 イザベラは呆れた声でつぶやいた。
 「だって面白いんだもん」
 キュルケはそう言ったが、
 「そのわりにゃ、今日はつまらなそうな声出すね」
 イザベラは振り向きもせずに言った。
 「わかっちゃった?」
 キュルケはぼふっと、イザベラのベッドに身を放り出す。
 胸元が大きく開かれたその格好は、男の名のつく生き物なら見惚れずにはいられないだろう。
 あるいは、同性であっても惹きつけられるかもしれない。
 「お前は自分が駆け引きに優れてると思ってるんだろうが……見る奴が見れば全部駄々漏れさ」
 イザベラはにこりともしないで言い放った。
 「一本取られたわ。やっぱりイザベラは鋭いわ……」
 「ニコニコした面の下で、何か企んでるかわからないのが、いっつもそばにいたんでね」
 「……それって、ひょっとしてあなたのお父様のこと?」
 「………………」
 これに対し、イザベラは無言。
 「……ごめん。気に障ったなら、謝るわ」
 「いや? よくわかったな」
 イザベラはくるりとキュルケに顔を向けて、眼を細めた。
 笑っているのか、それとも獲物に狙いをつけているのか、よくわからない顔だった。
 「あなたは、ほとんど実家のこと話さないけど、時々何気なくこぼしてるから――」
 「そうかい。なら、それだけのことと、聞き流しときな」
 イザベラは、今度は本当に笑みを浮かべると、また銃の手入れを再開した。
 キュルケはゆっくりと身を起こしてから、イザベラの背中を見つめる。
 「……そのほうが、いいかもね」
 「ああ、そのほうがいい」
 イザベラの答えに、キュルケはどこかアンニュイな表情で息をついた。
 悩ましげな目元が、匂いたつような色香を放っているが、それを感じ取る者は部屋にはいない。
 「何だか、最近のルイズはからかいがいがないのよね。妙にお姉さんぶっちゃってさ」
 「私としちゃ結構なことだがね。お前さんとの阿呆な言い争い、ありゃちょっとした騒音公害だ」
 イザベラはケケケと声を出して笑う。
 「つれないんだから……」
 「何を今さら。あたしゃ世界一つれない女だよ」
 「あ~あ。せめて、あの使い魔の子が、男の子だったらねえ。そしたらもうちょっと楽しみがあるのに……」
 「お前は十二、三の餓鬼まで食っちまうのか? そのうち色恋沙汰で後ろから刺されるぞ?」
 「お生憎様。恋に命を燃やすのは、フォン・ツェルプストーの伝統なのよ」
 キュルケが体をくねらすと、そのはずみで、大きなバストが揺れた。
 「どうせ他人の男や女を取ったとか、取られたかって話だろ? くだらないとは言わないけど、刃傷沙汰に私を巻き込むなよ?」
 「あら、その時は助けて~って、泣きつくかもよ? だって私たち、お友達だもの」
 イザベラの毒舌に、キュルケはにんまりと笑って見せる。
 「……言っとくが、一年の時の馬鹿騒ぎみたいもん想像してるのなら、脳みそがスイーツだよ?」
 イザベラは振り返ると、何とも言えない薄気味の悪い笑みを浮かべた。
 一年前の新入生歓迎会の折、キュルケは他の女子と悶着を起こしたことがある。
 原因は色恋沙汰、本人いわく『情熱』のためだ。
 その時は風魔法でドレスを切り裂かれたりと色々あったのだが。
 「な、なによ……?」
 キュルケは、イザベラの笑いに驚き、思わず身を縮める。
 「国の恥になるが、話してやろう。私の故国、ガリアのど田舎で起こった話さ」
 イザベラは手入れの終わった銃銃を置き、椅子ごとキュルケのほうへ向き直した。
 「別にどうってこたあない。さっき言ったように惚れた腫れたって話がきっかけだけどね」
 イザベラは伏目がちに話し出す。
 「ある男がある女に振られた。それだけじゃなく満座の中で恥もかかされた。それが始まりさ」
 「それじゃわけわかんないわよ。もっと具体的に話しなさいよ」
 「じゃあ、言おうか? ある男が嫁になる女を、式の当日に別に男に掻っ攫われた。そいつの名前も言おうか?」
 「……いえ、いいわ」
 キュルケは首を振る。
 「花嫁さんは色男と駆け落ちしちまった。で、村中の前で大恥かかされた男は、どうしたと思う?」
 「どうしたの?」
 「しばらくは家の中に引きこもってたそうだけど、しばらくたったある日、ぷっつん切れちまった」
 キュルケの質問に、イザベラは頭をさして人差し指をくるくる回した後、ぽんと手を開いた。
 「切れた? ……自殺でもしたの」
 「それだったら、まだ良かったんだけどねえ?」
 余計な手間もかからないしさあ、とイザベラは皮肉げに笑い、肩をすくめた。
 「そいつはその晩、村中を駆け回って、花嫁と色男の家族・親族を殺して回った。餓鬼も含めて数十人、よくやったもんだよ」
 イザベラは笑顔でものすごい話をした。
 キュルケは言葉をなくして、イザベラの顔を見る。
 「しかし、いくら暴れまわったって所詮一人、それもただの平民だ。追われる形になった男は、結局捕まる前に自分に自分で始末をつけた」
 「死んだってことね……」
 「ああ、そうさ。迷惑な話だろ? モテない男の嫉妬とか逆恨みってのは嫌だねえ」
 「――うわ」
 キュルケはげんなりした顔で顔を覆った。
 「他にも、色々あるぞ? 話してやろうか?」
 「……遠慮しとくわ」
 ニヤニヤ笑いのイザベラに、キュルケは全力で拒否の念を示した。
 これにイザベラは不意に表情を引き締め、
 「男と遊びのは勝手だけどな? もっと遊び方を考えなきゃ、くだらないことになるよ――」
 「あなたの言うこと、わかる気はするんだけど……。でも、無理ね、きっと。性分だもの」
 「だろうね……」
 イザベラは苦笑した。
 「あんたは地獄に落ちても色恋沙汰で一生懸命だろうよ」
 「もちろん。でも、私にだってそれなりのモラルはあるわ」
 「へえ?」
 「欲しいものは何だって奪うけど、相手の一番大事なものには手を出さない。それだけは守ってるの」
 「それが賢明だろうよ」
 「でも、イザベラ?」
 「あん?」
 「さっきの話、本当のことなの?」
 「――ああ、事実さ。十何年か前の話らしいがうちの領内の、すぐ隣で起こったことだからね」
 そう言ってから、イザベラは口に手を当てる。
 「もっとも、あんまりいい話じゃないから、村の連中や取り調べた役人もあんまり話してないだろうが……間違いは無い」
 「ふーん」
 「何せうちの親父が拾ってきた話だからな。情報筋は確実さ。っとに、親父は奇談とか珍談とかいうのが死ぬほど好きでね」
 あちこちから集めてくんのさ。横で聞かされるこっちの身にもなれって……と、イザベラは顔をしかめる。
 キュルケは何とも言えない顔で、
 「ユニークなお父様なのね……」
 「ああ、死ぬほどユニークだよ。ぶん殴りたくなるくらいにさ」
 イザベラはけっとつぶやき、窓の外を見た。
 双子の月に、青い髪の少女は父の顔を思い浮かべているのだろうか。
 それから、イザベラは後頭部を掻きながら、
 「言っておいてなんだが、深くは聞くなよ?」
 「そうね。そのほうがいいわね。何となくわかったわ」
 キュルケも、イザベラの横に立って月を見た。
 「ねえ、イザベラ? いつか、あなたをうちの実家に案内したいわ」
 「ゲルマニアには何度も行ってるが……そういや、あんたのうちは行ったことないね」
 「でしょ? だから」
 「遠慮しとく」
 「どーして?」
 「そうなったら、今度はあんたをうちの実家に案内しなきゃならなくなるだろ? だからダメだ」
 「あら、そんなこと気にしなくっていいのに」
 「こっちには気になるんだよ」
 悪友の誘いに、イザベラはふんと鼻を鳴らしてみせた。


 隣の部屋では――
 「ああー、どうしよう~~! やっぱり良い服がない~~~!!」
 服の山の埋もれて、ルイズが頼りのない悲鳴を上げていた。
 というか、この山を整理するのは結局シャーリーなのだから、余計な仕事を増やしただけであったりする。
 結局、この晩は何の進展もないままふけていった……。



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