ギーシュが更に薔薇の杖を振り、七体ものワルキューレが現れ、俺を取り囲んだ。
流石にこれは厄介だ。
これら青銅騎士がただのからくり人形だとすれば、学習機能が無いので、先程と同じように飛びかかってくるのをハンマーの振り回しで粉砕出来る。
しかし今回の場合、指揮しているのは人間。操作の精度は判らないが、身を低くして斬り込ませるくらいのことは出来るだろう。
頭上で振り回せば低い攻撃、回転しながら振り回せば飛びかかられる。
剣では斬れる気がしない。相手の動きが結構速いから爆弾は当てられないだろう。どうしたものか。
「ふっ、迂闊に攻撃出来ないみたいだな」
「ちっ……」
「来ないのならこちらから行くぞ!」
ギーシュが薔薇を振り、七体の内の剣を持った前方の三体が身を低くして斬りかかり、残る空手の後方の四体が飛びかかってきた。
囲まれている為、逃げられない!
斬りかかる剣は盾で防いだ。しかし、後ろのワルキューレまでは防げない。背中を幾度も殴られ、ダメージが蓄積する。何度目かに、蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされて倒れ込んだ俺の周りをワルキューレ達が再度包囲する。
「どうした、もう終わりかな?」
「まだだ……っ!」
気合いで立ち上がる。体の節々に痛みが走る。これ以上は、この決闘後も体に支障を来すだろう。
あの技が……効くかは判らないが……試してみる価値はある。
背負っていた剣――あの退魔剣は時の神殿跡地に安置したため、これはただの鋼の剣だ――を抜き、横に構え、精神を集中させ、息を整える。四方八方より来る者全てを薙ぎ払う剣技!
「ワルキューレ、一気にやってしまえ」
ギーシュが杖を振ると共に、ワルキューレ達が一斉に、その手に持つ剣で突いてくる。そして、それらが手に持つ剣で刺し貫かれる数瞬前!
「てやああああっ!!」
“回転斬り”!
剣を伸ばし切ったまま回転し、外側に向かう剣の遠心力を利用し、敵を斬りつけると言うよりも弾き飛ばす剣技。
この剣が鋼だったためか、ワルキューレ達は大きく弾き飛ばされ……漏れなく星々になってしまった。
この時、金属疲労によってか、剣は折れてしまった。
しかし、青銅で出来たワルキューレが、鋼の剣で、回転斬りとは言えあそこまで吹っ飛ぶだろうか。
「……何故、俺は右手で剣を持ってるんだ」
右利きの人間は、左手の方こそ力があると聞く。左利きの俺の場合は逆なのだろう。そのおかげで数倍もの威力が生まれたようだ。
ワルキューレを空の彼方まで飛ばされたギーシュは、ただただ唖然としていたが、次の瞬間に余裕そうな顔に戻った。
「ふ……ふっ。平民にしてはやるようだな。だが!」
ギーシュは新たな薔薇の造花を懐から取り出し、花びらを散らせた。それらが地に着くと、再びワルキューレ達が姿を現した。代わりにギーシュの顔色は少し悪くなった。
「この杖がある限り、ワルキューレは無尽蔵に創り出せる!」
しかし、それが虚勢に見える。「無尽蔵」の辺りが疑わしい。
ん、待てよ。杖がある限り……?
「杖が無かったらどうなるんだ」
「創り出せないどころか、操ることも出来ないが、そこからは奪い取れるというのかね!」
「ならば、奪い取ってみせよう」
巾着袋から取り出した物で、ギーシュの薔薇の杖を狙い、投擲した。
流石にこれは厄介だ。
これら青銅騎士がただのからくり人形だとすれば、学習機能が無いので、先程と同じように飛びかかってくるのをハンマーの振り回しで粉砕出来る。
しかし今回の場合、指揮しているのは人間。操作の精度は判らないが、身を低くして斬り込ませるくらいのことは出来るだろう。
頭上で振り回せば低い攻撃、回転しながら振り回せば飛びかかられる。
剣では斬れる気がしない。相手の動きが結構速いから爆弾は当てられないだろう。どうしたものか。
「ふっ、迂闊に攻撃出来ないみたいだな」
「ちっ……」
「来ないのならこちらから行くぞ!」
ギーシュが薔薇を振り、七体の内の剣を持った前方の三体が身を低くして斬りかかり、残る空手の後方の四体が飛びかかってきた。
囲まれている為、逃げられない!
斬りかかる剣は盾で防いだ。しかし、後ろのワルキューレまでは防げない。背中を幾度も殴られ、ダメージが蓄積する。何度目かに、蹴り飛ばされた。
蹴り飛ばされて倒れ込んだ俺の周りをワルキューレ達が再度包囲する。
「どうした、もう終わりかな?」
「まだだ……っ!」
気合いで立ち上がる。体の節々に痛みが走る。これ以上は、この決闘後も体に支障を来すだろう。
あの技が……効くかは判らないが……試してみる価値はある。
背負っていた剣――あの退魔剣は時の神殿跡地に安置したため、これはただの鋼の剣だ――を抜き、横に構え、精神を集中させ、息を整える。四方八方より来る者全てを薙ぎ払う剣技!
「ワルキューレ、一気にやってしまえ」
ギーシュが杖を振ると共に、ワルキューレ達が一斉に、その手に持つ剣で突いてくる。そして、それらが手に持つ剣で刺し貫かれる数瞬前!
「てやああああっ!!」
“回転斬り”!
剣を伸ばし切ったまま回転し、外側に向かう剣の遠心力を利用し、敵を斬りつけると言うよりも弾き飛ばす剣技。
この剣が鋼だったためか、ワルキューレ達は大きく弾き飛ばされ……漏れなく星々になってしまった。
この時、金属疲労によってか、剣は折れてしまった。
しかし、青銅で出来たワルキューレが、鋼の剣で、回転斬りとは言えあそこまで吹っ飛ぶだろうか。
「……何故、俺は右手で剣を持ってるんだ」
右利きの人間は、左手の方こそ力があると聞く。左利きの俺の場合は逆なのだろう。そのおかげで数倍もの威力が生まれたようだ。
ワルキューレを空の彼方まで飛ばされたギーシュは、ただただ唖然としていたが、次の瞬間に余裕そうな顔に戻った。
「ふ……ふっ。平民にしてはやるようだな。だが!」
ギーシュは新たな薔薇の造花を懐から取り出し、花びらを散らせた。それらが地に着くと、再びワルキューレ達が姿を現した。代わりにギーシュの顔色は少し悪くなった。
「この杖がある限り、ワルキューレは無尽蔵に創り出せる!」
しかし、それが虚勢に見える。「無尽蔵」の辺りが疑わしい。
ん、待てよ。杖がある限り……?
「杖が無かったらどうなるんだ」
「創り出せないどころか、操ることも出来ないが、そこからは奪い取れるというのかね!」
「ならば、奪い取ってみせよう」
巾着袋から取り出した物で、ギーシュの薔薇の杖を狙い、投擲した。
あ、ありのまま、今起こったことを話すわ!
『私の使い魔が腰に提げた袋から何かを取り出したと思ったら、彼の左手から竜巻が飛び出してギーシュの杖をかすめ取り、使い魔の手に戻った』
な……何を言っているのか解らないかも知れないけれど、私にも解らなかった。
頭がどうにかなりそうだった……。
マジックアイテムだとか、四次元巾着袋だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。
頭がどうにかなりそうだった……。
マジックアイテムだとか、四次元巾着袋だとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてない!
もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……。
「な、なななな……」
謎の竜巻に杖を奪い取られたギーシュは、ワルキューレを操作することも出来ず、ただただ驚愕するばかりだった。
「……ただの薔薇の造花のようにしか見えないな。本当に杖か、これ?」
私の使い魔はと言うと、奪い取った薔薇の造花をあちこちから眺めている。
「そんな……魔法が使えないというのは嘘だったのかい!?」
「? 何を言ってるんだ。俺はただ……」
ギーシュや、私含む観衆の疑問に答えようとした使い魔は、何かを思い付いたような顔をすると、言い直した。
「そうだな、嘘だと言うことになる。今、俺が使って見せたのは、竜巻を自在に操る魔法だ」
観衆が騒ぎ出す。ギーシュは信じられないと言った顔をし、次に浮かんだのは恐怖だった。
「先程の質問にも答えよう。あの鉄球を何処から取り出したかと訊いたな?
鉄球に限らず、あらゆる物を別の場所に仕舞っておけるし、いつでも取り出すことが出来る。俺はそういう魔法を使っている」
そんな魔法だったなんて!
て言うか、あいつ、魔法使えたんじゃないの!
「そ、そんな魔法、聞いたことないぞ!」
「そうだろう、俺にしか使えないからな。……さて、先刻はよくも痛めつけてくれたな?」
使い魔が一歩出ると、ギーシュはハッとし、一歩後退り、喚いた。
「ま、待て、待て待て! 君の勝ちだ! 決闘では杖を取られたり落とされたりしたら負けなんだ!」
「む……」
彼が私を見る。私は「その通りだ」と言う意味で頷いた。
「ならば、勝者である俺の言うことを聞いてくれないか」
ギーシュはビクッと肩を震わせたが、潔く肯いた。
「何でも聞こう」
満足そうな顔で、使い魔は言った。
「お前に名誉を傷付けられた女性二人に謝って来い」
謎の竜巻に杖を奪い取られたギーシュは、ワルキューレを操作することも出来ず、ただただ驚愕するばかりだった。
「……ただの薔薇の造花のようにしか見えないな。本当に杖か、これ?」
私の使い魔はと言うと、奪い取った薔薇の造花をあちこちから眺めている。
「そんな……魔法が使えないというのは嘘だったのかい!?」
「? 何を言ってるんだ。俺はただ……」
ギーシュや、私含む観衆の疑問に答えようとした使い魔は、何かを思い付いたような顔をすると、言い直した。
「そうだな、嘘だと言うことになる。今、俺が使って見せたのは、竜巻を自在に操る魔法だ」
観衆が騒ぎ出す。ギーシュは信じられないと言った顔をし、次に浮かんだのは恐怖だった。
「先程の質問にも答えよう。あの鉄球を何処から取り出したかと訊いたな?
鉄球に限らず、あらゆる物を別の場所に仕舞っておけるし、いつでも取り出すことが出来る。俺はそういう魔法を使っている」
そんな魔法だったなんて!
て言うか、あいつ、魔法使えたんじゃないの!
「そ、そんな魔法、聞いたことないぞ!」
「そうだろう、俺にしか使えないからな。……さて、先刻はよくも痛めつけてくれたな?」
使い魔が一歩出ると、ギーシュはハッとし、一歩後退り、喚いた。
「ま、待て、待て待て! 君の勝ちだ! 決闘では杖を取られたり落とされたりしたら負けなんだ!」
「む……」
彼が私を見る。私は「その通りだ」と言う意味で頷いた。
「ならば、勝者である俺の言うことを聞いてくれないか」
ギーシュはビクッと肩を震わせたが、潔く肯いた。
「何でも聞こう」
満足そうな顔で、使い魔は言った。
「お前に名誉を傷付けられた女性二人に謝って来い」
その後、ケティとモンモランシーの容赦ない暴行を受けているギーシュを見届け、私と使い魔は食堂に戻った。
あのメイドに、彼の無事を報せる為だ。
「良かった……本当に良かった……」
泣きじゃくるなんて大袈裟ね。いや、貴族の怒りを怖れる平民からすれば嬉し泣きも当たり前かも知れない。
「私……えーと……あれ?」
「どうしたの?」
「あのう、今更な気がするのですが……彼のお名前って」
「!」
……えーと。
「…… もういい。どうせ俺の名前なんて二度しかタイトルにならなかったよ!
空気王の遠縁だよ! 夢を見る島だって、ゼルダが一回名前しか出ただけなのに何が『ゼルダの伝説』だちくしょおおおおお!!!」
「あ、ちょっと! 待ちなさい!」
泣きながら走り出す本名不詳の使い魔を私達は追った。彼よりもシエスタの方が圧倒的に速かったため、彼の逃走劇は五秒弱で幕を閉じた。
あのメイドに、彼の無事を報せる為だ。
「良かった……本当に良かった……」
泣きじゃくるなんて大袈裟ね。いや、貴族の怒りを怖れる平民からすれば嬉し泣きも当たり前かも知れない。
「私……えーと……あれ?」
「どうしたの?」
「あのう、今更な気がするのですが……彼のお名前って」
「!」
……えーと。
「…… もういい。どうせ俺の名前なんて二度しかタイトルにならなかったよ!
空気王の遠縁だよ! 夢を見る島だって、ゼルダが一回名前しか出ただけなのに何が『ゼルダの伝説』だちくしょおおおおお!!!」
「あ、ちょっと! 待ちなさい!」
泣きながら走り出す本名不詳の使い魔を私達は追った。彼よりもシエスタの方が圧倒的に速かったため、彼の逃走劇は五秒弱で幕を閉じた。
「取り乱して済まなかった」
取り押さえられてひとまず落ち着いた彼は、とりあえず詫びた。
シエスタは自分が彼――リンクを心配していたことを告げ、仕事が残っているからと厨房へ戻っていった。
「名前について不遇を受けていたことがあったのでな。つい気にしすぎてしまった」
「……許しといてあげるわ。それじゃ、リンク……でいいのよね?」
「ああ」
頷く彼に、私は右手を差し出した。
「これからも、よろしくね。あんな凄い魔法が使えるんだもの。頼りにしてるわよ」
リンクは、あー、などと言いながら何かを考えたようだが、まあいいか、と呟き、手を差し出した。
「よろしくな」
私達は固く握手を交わした。
取り押さえられてひとまず落ち着いた彼は、とりあえず詫びた。
シエスタは自分が彼――リンクを心配していたことを告げ、仕事が残っているからと厨房へ戻っていった。
「名前について不遇を受けていたことがあったのでな。つい気にしすぎてしまった」
「……許しといてあげるわ。それじゃ、リンク……でいいのよね?」
「ああ」
頷く彼に、私は右手を差し出した。
「これからも、よろしくね。あんな凄い魔法が使えるんだもの。頼りにしてるわよ」
リンクは、あー、などと言いながら何かを考えたようだが、まあいいか、と呟き、手を差し出した。
「よろしくな」
私達は固く握手を交わした。
「……勝ってしまいましたね」
「勝ってしまったのう」
ギーシュがリンクに降参を宣言した頃、トリステイン魔法学院長室。
そこでは、春の使い魔召喚の儀式の監督を務めていたミスタ・コルベール教諭と、学院長であるオールド・オスマンが、鏡のようなものに映し出されたギーシュとリンクの決闘の様子を見ていた。
「詠唱も無しに、竜巻を生み出すとはのう」
「ええ、それにしても、あの剣の回転で銅像が見えなくなるまで吹き飛ばせるとは思えません。やはりあの青年は、伝説のガンダールヴに間違いありませんよ! 早速アカデミーに、」
「まあ、待ちなさい、ミスタ・コルベール。仮に彼が本当にガンダールヴだとしてもじゃ、アカデミーには報告しない方が良かろう。解剖されるなどという噂も強ち嘘ではなさそうじゃからの」
「(そ、それもそうですね。流石はオールド・オスマンでいらっしゃる。)ここに来た時にミス・ロングビルの尻を撫で回していた方とは思えませんが」
「聞こえとるぞ!」
「勝ってしまったのう」
ギーシュがリンクに降参を宣言した頃、トリステイン魔法学院長室。
そこでは、春の使い魔召喚の儀式の監督を務めていたミスタ・コルベール教諭と、学院長であるオールド・オスマンが、鏡のようなものに映し出されたギーシュとリンクの決闘の様子を見ていた。
「詠唱も無しに、竜巻を生み出すとはのう」
「ええ、それにしても、あの剣の回転で銅像が見えなくなるまで吹き飛ばせるとは思えません。やはりあの青年は、伝説のガンダールヴに間違いありませんよ! 早速アカデミーに、」
「まあ、待ちなさい、ミスタ・コルベール。仮に彼が本当にガンダールヴだとしてもじゃ、アカデミーには報告しない方が良かろう。解剖されるなどという噂も強ち嘘ではなさそうじゃからの」
「(そ、それもそうですね。流石はオールド・オスマンでいらっしゃる。)ここに来た時にミス・ロングビルの尻を撫で回していた方とは思えませんが」
「聞こえとるぞ!」