あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のパズル-22

朝の冷たい空気の中、風竜の背中から、キュルケ、ギーシュ、タバサ、ティトォはタルブの村を見下ろしていた。
村の近くには、見渡すかぎりのだだっ広い小麦畑が広がっている。上質の小麦が採れることで有名な土地なのである。
タバサは小声で風竜に命じる。きゅい、と一声鳴くと、風竜はばっさばっさとはばたいて、村の広場に降りた。
するとたちまち大騒ぎになってしまった。
「うわあああ!竜だ!竜!」
カンカンカン、と鐘がならされ、村人たちが家から飛び出してくる。
村人たちは、風竜を遠巻きに取り囲んだ。棒やくわを持って、みな一様に怯えた顔で風竜を見つめている。
「あちゃあ、失敗したわね」
キュルケが困ったように呟いた。田舎に暮らす人たちにとって、竜は恐怖の象徴なのだ。
どうしたものか、とキュルケが立ち上がろうとすると、なにやら驚いたような、若い女の声が聞こえた。
「まあまあ!みんな、どうしたの?」
キュルケたち四人は、風竜の背中から顔を覗かせて、声のする方を見た。
すると、純朴な感じの、黒髪の女の子がこちらに駆け寄ってきていた。
「はぐれ竜が迷いこんできやがったんだ!危ないから家に隠れてろ!」
「いやね!おじさん、あの竜の背中を見て。あれは貴族様の竜じゃない」
少女はくすくす笑う。
村人が竜の背中を見ると、なるほど、貴族のマントを身にまとった人影があった。
「ほら、みんなもそんなに怖がらないで。いいですか、貴族の乗る竜には、危ないことなんてなんにもないんですよ」
少女はそう言って、村人たちを落ち着かせる。その口ぶりは、なんだか得意げであった。
村人たちが、棒やくわを降ろすのを見て、一行は風竜の背中から降りた。
キュルケは髪をかきあげて、黒髪の少女のほうを向いた。
「助かったわ。あなた……」
黒髪の少女は、驚いた顔になった。
「まあ!魔法学院の皆さんじゃありませんか」
「あっ!きみは!」
ギーシュも驚いたように叫ぶ。キュルケは怪訝な顔になった。
「なによ、ギーシュ。知り合い?」
「学院のメイドだよ。彼女は、そのう。ぼくのちょっとしたトラブルの現場に居合わせてね……」
ギーシュは気まずげに呟いた。どうもあんまり話したくないらしい。
ごにょごにょ言うギーシュの言葉を、ティトォが引き取った。
「シエスタじゃないか。そっか、ここはきみの故郷だったのか」
「あっ、あなたは……、アクアちゃんのお兄さんの……、ティトォさん、そう、ティトォさんだ」
シエスタは、自分と同じ黒髪の少年を見て、ぽんと手を叩いた。
そっか、あんまりお話しする機会がなかったから、顔忘れてたけど。
いつもいつもミス・ヴァリエールがアホだの使い魔だの愚痴ってるティトォさんだ。
「ティトォさんがいるってことは、ミス・ヴァリエールもいらっしゃるんですか?」
「ルイズはいないよ。なんだか、行き違いになっちゃったみたいで」
「そうなんですか……」
シエスタはちょっとだけしょんぼりした声になった。
そんな様子を見て、キュルケはぴんと来た。
そういえば最近、ルイズがメイドと仲良くしてるって噂を聞いたことがある。それがこのシエスタなのだろう。
「それで、どうして皆さんタルブに?」
「宝探しに来たのよ」
「はい?宝……、ですか?」
シエスタは首を傾げる。この村に宝物があるだなんて、初耳だ。
「『魔王の骨』って言うらしいけど、聞いたことないかな」
「魔王の……、うーん。あ、ひょっとして。でも、あれは……」
「なになに?」
キュルケが目を輝かせて、ずいと身を乗り出した。
「いえ、みなさんの言う『魔王の骨』かどうか、ちょっと分からないですけど、心当たりが一つ……」
「それ!それよ!それにちがいないわ!ねえ、案内お願いできるかしら」
「え、あ、あう。はい。わかりました」
キュルケの勢いに押されて、シエスタは後じさった。
「それじゃ、あの。付いてきてください」
シエスタはそう言って、村はずれの森に向かって歩き出した。
キュルケたち一行も、その後に続いて歩き出す。
シエスタは先導しながら、ぽつりと呟いた。
「それにしても、なんだか魔法学院からのお客さんが多いなあ」


「これが『魔王の骨』か」
「そうね、確かにそう呼ばれるのも納得ね」
ギーシュとキュルケはそれを見て、感嘆の声を上げた。タバサはノーコメントだった。
タルブの村から少し歩いた森の中、窪地となった場所に、それはあった。
「すごいな」
「そうね、すごいわね」
ギーシュとキュルケはそれを見て、ぽかんとして呟いた。タバサはマントの下から本を取り出して、読みはじめた。
「確かにすごいけど……」
キュルケはため息をついて、首を振った。
「これは、とてもお宝とは言えないわねえ」
シエスタに案内されて、やってきた森の中にあったものは、まさしく巨大な骨であった。
森の木々より遥かに背の高い、アーチ状の骨が、何本も地面から突き出ている。形からしてこれは肋骨だろうか。
そのままぐっと視線を先にやると、ところどころに背骨らしい部位が地面から突き出ている。
「大昔の、竜の骨じゃないかって言われてます。削り取って薬にして飲んでる人もいます。通りがいいから、村のみんなは「とんがり岩」って呼んでるんですよ」
シエスタが説明した。
「竜って言っても、きみ。こいつはゆうに百メイルは越えてる!そんなに大きな竜なんて聞いたこともないよ!」
ギーシュはぶるりと身を震わせた。
「なんだっていいじゃない。もう骨なんだもの、なにができるっていうじゃなし」
「うん、まあそれはそうだが、でも考えてもみろよ。こんなにでっかいドラゴンが、かつてはこの空を飛び回ってたんだぜ。なんというか、ロマンをかき立てられる話じゃないかね」
ギーシュはうっとりと、巨大ドラゴンの背中に跨がった自分の姿を思い浮かべた。
竜騎士隊、グリフォン隊、マンティコア隊の三隊で構成されたトリステイン王国の魔法衛士隊は、男子の憧れの的である。
その中でも竜騎士隊は、花形であった。当然ギーシュも少なからず憧れている。
突然ギーシュの足下が盛り上がって、ギーシュはバランスを崩して尻餅をついた。
見ると、地面から顔を出しているのは、ギーシュの使い魔の巨大モグラであった。浮気性な主人に、モグモグと抗議の声を上げる。
「ヴェルダンデ!ああ、ごめんよ、きみというものがありながら、つい余所見をしてしまったようだ。でもわかっておくれ、なんたってぼくはきみのことが一番大事なんだからね」
ギーシュはすさっ!と巨大モグラに抱きついた。
「あんたはいつも余所見ばっかりでしょ」
キュルケは気のない声で言った。結局お宝を見つけることができなかったので、もう『魔王の骨』への興味を失ってしまったようだった。
タバサも地面に座り込んで、すっかり読書モードである。
ティトォはと言うと……、『魔王の骨』を見つめて、何やら考え込んでいるようすだ。その顔には、真剣な表情が浮かんでいる。
「ダーリン、あなたもあの骨が気になるの?殿方って、ああいうのがお好きなのね」
キュルケはくすくすと笑った。
「いや……、違う」
「?、なにが?」
キュルケはふと、ティトォの顔を見た。
ティトォは『骨』とは違うところに視線をやっていた。ティトォが注目しているのは、巨大な骨ではなく……、骨を取り囲むように生えている、樹の方だった。
指でこめかみをトントンと叩いている。ティトォが考え事をするときの癖である。
よく見ると、ずいぶんと変わった樹だった。周りに生えている森の樹とは違って、葉が一枚もない。
そして葉の代わりに、丸い木の実のようなものが枝にくっついていた。
「あの樹がどうかしたっていうの?」
「あれと同じ……、いや、似ているものをぼくは知ってる。あれは……」
ティトォの言葉は、背中からかけられた声に遮られた。
「おや?君たちは!こんなところで何をしているのだね」
どこかで聞いたことのある声に、キュルケとギーシュは振り返った。
「ミスタ・コルベール!」
木陰から現れたのは、つるりと禿げ上がった頭の魔法学院の教師、コルベールであった。メイドのシエスタといい、意外なところで、意外な人に出会うものである。
「おはようございます、ミスタ・コルベール」
コルベールの姿を見ると、シエスタはぺこりと頭を下げて挨拶した。
「おお、おはよう。どうしたんだね、君がここに来るなんて、珍しいね」
キュルケは首をかしげて、シエスタに尋ねた。
「あなた、ミスタ・コルベールとどういう知り合いなの?」
「ミスタは、二日前くらいからタルブに滞在してらっしゃるんですよ」
「そうとも!」
コルベールが叫んだ。
「わたしは休暇中なのだ。そこでこのタルブの村へと、研究にやってきたというわけだ」
見ると、コルベールはなにやらいろいろな道具のつまった鞄を肩にかけている。
コルベールの生きがいは、研究と発明である。研究対象を探して、休暇となるとあちこちの遺跡を探索している。
そして大抵は、なにも成果を得られぬまま帰ってくるのであった。
「はあ、そうなんですの。確かにミスタの興味を惹きそうですものね、これ」
キュルケはこんこんと『骨』を叩いてみせる。
コルベールは一瞬きょとんとしたあと、笑いながら言った。
「いや、違うんだよミス・ツェルプストー。わたしが研究しているのは、骨ではない。そのまわりの、樹のほうさ」
「樹?」
キュルケは怪訝そうな声を上げた。ギーシュもその言葉に、辺りを見回す。
「ただのへんてこな樹じゃないですか」
「いや、この樹には、なにか不思議な性質があるのだ。私は偶然にもそれを発見した」
「不思議な性質?」
「そうとも!この樹には、魔力が流れている。といっても、わたしたちが操る魔力とは少し違う種類のエネルギーだ。
 そのエネルギーは、動物や植物に影響を与えているようなのだ。まだ調べている途中だから細かなことは分からんが、とにかく実に興味深い樹なんだよ、これは!」
コルベールは興奮してまくしたてる。
「樹じゃないですよ」
ふいに、ティトォが呟いた。コルベールと、キュルケ、シエスタ、それにギーシュは、ティトォのほうを見た。
タバサは本を読んでいたが、なにやら訳知りな様子のティトォの声の響きに、本に視線を落としたまま、耳を傾けた。
ティトォは自分に注目が集まっているのにも気付かないようすで、その奇妙な樹を見つめながら、言った。
「これは、根です」


『星の樹』
それは、この大地の心臓とも呼ぶべきもの。
大地の奥深くを中心とし、地表に向かって根を伸ばす。
大地をひとつの生物と考えるなら、張り巡らされた『星の樹』の根は、大地の神経や血管のようなものである。
根を伝って、大地の持つエネルギーは大地のすみずみにまで行き渡り、大地を潤す。
森は広がり、新たな草花が生まれ、生き物は次の段階へと進化する。
そして動物が卵を温めるように、大地より生み出され、育てられた動物や植物、火や水は、また大地を温める。
そしてまた、大地は新たな命を産み落とす。
これこそがエネルギーの循環法則。
『星の樹』は、エネルギー循環を司る特別な樹なのである。
そして『星の樹』は、その根に大地のエネルギーを少しずつ溜め込んで、存在の力の結晶体『星のたまご』を実らせるのだ。


その日の昼、ティトォたち一行はシエスタの生家で昼食をごちそうになった。
ふるまわれた野うさぎのミートパイは極上で、ここしばらくまともな料理を口にしていなかった一行は、夢中になって平らげた。
細い身体のわりに健啖家であるタバサなど、おかわりまでしていた。
貴族が家の料理をおいしいと言ってくれるのが嬉しいのか、シエスタの両親は気前よく追加のパイを焼いた。
食後には、あまった生地に砂糖をまぶして焼き上げた菓子パイがふるまわれた。
「パイづくしって感じねえ」
キュルケは、ナプキンで上品に口元を拭いながら呟いた。
「タルブは、上質な小麦が採れるんですよ。パイとパンは、この村の名物なんです」
なるほどな、とティトォは納得したようすで、お茶をすすった。
地表に顔を出した『星の樹』の根は、土地に恵みを与えると言われているのだった。
シエスタが食器を片付けていると、小さな子供たちが部屋に入ってきた。
シエスタの兄弟姉妹たちである。母親に、シエスタの手伝いをするよう言われてきたのだ。シエスタは、八人兄弟の長女であった。
「あっ!パフ・パイだ!いいな、いいなあ」
「シエ姉ちゃん、ぼくたちのは?ぼくたちのぶんはないの?」
子供たちは、バスケットに盛りつけられた菓子パイを見て、騒ぎだした。
「こら!だめよ、お客様がいらっしゃるのに、失礼でしょ」
「あたしもパイ食べたい!たーべーたーいー」
「ぼくも!ぼくも!」
「あなたたちにはあとで焼いてあげるからね、ほら、お皿持ってってちょうだい」
シエスタは食器を持たせると、子供たちを部屋から追い出した。
それから、少し頬を染めて、ぺこりと頭を下げた。
「すす、すみません。騒がしくって、もう」
「あら、元気があって、かわいいじゃないの」
キュルケは机に頬杖を付いて、くすくすと笑った。
「まったくです。子供は元気なくらいがいい!」
コルベールもうんうんと頷いた。
シエスタは苦笑いする。
「でも、あの子たちったら元気すぎて。ほんと、困っちゃいます」
口ではそんなことを言っていたが、久しぶりに家族に囲まれたシエスタは、幸せそうで、楽しそうだった。
そんなシエスタを見ると、なんだかこっちまでほほえましい気分になって、ティトォは目を細めた。
しかし同時に、どうしようもなく胸が締め付けられる。
思えば、ルイズにも、キュルケにも、タバサやギーシュにだって、家族はいるだろう。
でも、ティトォには……、ティトォとアクア、そしてプリセラの三人には、もう家族はいない。
100年前のあの日、全て失ってしまった。
父さん。
母さん。
みんな。
アロア。
マギ……
ぎゅ、とティトォはテーブルの下で拳を握りしめた。
いつか必ず、全てを終わらせます。奴を、この手で……
ギーシュはきょとんと、ティトォの顔を見て、言った。
「……きみ、どうしたんだい?そんな顔をして」
「ん。いや、なんでもない」
ティトォはそう言って、バスケットの菓子パイを取って、かじった。
カリカリとした歯触りが心地いい。
テーブルの面々も、パイに手を伸ばした。
すると、コルベールがふと思い出したように声を上げた。
「はて。そう言えば、きみたちがなぜこんなところにいるんだろう。授業はどうしたんだね?」
ギーシュとキュルケは、あちゃあ、といった顔になって、ついとコルベールから目をそらした。
タバサは黙々とパイを食べ続けていた。


翌日、魔法学院。
キュルケとギーシュ、そしてタバサの三人は、モップやバケツを持って廊下を歩いていた。
授業をサボって宝探しをしていたことは、コルベールにあっさりばれてしまった。
「授業をすっぽかすなんてとんでもない!すぐに帰らなくてはいけません。ああ、いけませんとも!」
そう言って、コルベールはキュルケたちを魔法学院へ送り返したのである。こうして秘宝を求めての冒険旅行は終わりを迎えた。
魔法学院に戻ると、こわい顔をした教師たちが三人を出迎えた。
なにせサボりまくっていたものだから、教師たちはカンカンに怒っていたのである。
そんなわけで、キュルケとタバサとギーシュは、罰として魔法学院全ての窓ふきと、さらには大講堂の掃除を言い渡されたのだった。
そして、三人がほこりっぽい講堂の床をモップで磨いていると、ルイズがやってきた。
「お久しぶりね」
ルイズはそう言って、腕を組んで講堂の壁に寄りかかった。そして、冷ややかな目でキュルケとタバサ、ギーシュを見回した。
「何日もどこへ行ってたのかしら?」
「宝探しよ」
「無断で授業をサボるなんて、どういうつもり?そんなのは不良のすることよ。あら、いやね。そういえばあんたってば、ツェルプストーだものね」
なんだか理由になってない理由でもって、ルイズは嫌味ったらしくキュルケをなじった。
「ギーシュ、……はともかく、優等生のタバサまでキュルケにそそのかされて。ほんとにしょうがないんだから。今回のことはいい薬になるでしょうね。この広い講堂を磨くのは、さぞかし大変でしょうからね」
ルイズは優等生ぶった口調で、ネチネチと小言を並べた。
キュルケはそんなルイズの態度を気にしたふうもなく、燃えるような赤髪をかきあげた。
「あら、でも宝探しの冒険はすばらしかったわよ?忘れ去られた遺跡……、魔物が跋扈する森や洞窟……、危険とロマンあふれる冒険の旅……、学院では決して経験できない、刺激的な日々だったわ」
ルイズは、うぐ、と喉の奥で音を出すと、悔しそうに眉根を寄せてうなった。
なんのことはない、要するにルイズは、宝探しの旅に自分だけ仲間はずれにされたような気がして、悔しかったのである。
ルイズはぶるぶるぶる、と身体を震わせると、そんな嫉妬まじりの感情を押し隠し、ツンと胸を反らせた。
「はん、でも結局宝は見つからなかったんでしょ。むむむ、無駄足じゃないの」
今度はキュルケが、ぐ、と喉を鳴らした。
ルイズとキュルケはしばらく睨み合って、う~~、と唸っていたが、やがて「ふん!」と鼻を鳴らして、そっぽを向いてしまった。
「まあいいわ、そんなことより、あいつはどこ」
「あいつって?」
ギーシュが尋ねる。
「ティトォよ。わたしの、使い魔の。あんたたちと一緒だったんでしょ」
「彼はいないよ」
「はあ?」
ルイズは頓狂な声を上げた。
「ぼくたちは宝を探して、タルブの村へ行ったんだが……、そこで、ミスタ・コルベールと会ったんだ」
タルブ。どこかで聞いたような……、ルイズは首をかしげた。
そうだ、思い出した。シエスタの故郷の名前だった。
「タルブには変わった樹が原生していてね、なんでもティトォによると『星の樹』というんだそうだ。ミスタ・コルベールがその『星の樹』を研究していると聞くと、手伝いたいと言い出してね。そんなわけで、ティトォはタルブに残ったんだよ」
ぼくたちは学院に追い返されちゃったんだけどねえ、と言って、ギーシュはモップで杖を付いて寄りかかり、ため息をついた。
ルイズはもう、最後のほうはギーシュの言葉を聞いていなかった。
「はあ?宝探しに行った先で、変わった樹を見つけて、それを調べたいから帰って来れないですって?はあーん?はあーん?」
ずだん!とすごい音が大講堂に鳴り響いた。ルイズが足で床を思いっきり踏みつけたのだ。
「あいつどこまでやりたい放題なのよおぉぉ!姫さまの結婚式までもう一月ないじゃないのよおぉぉ!」
ルイズは怒りのあまり、ずだんずだんとやたらに地団駄を踏んで、変なダンスを踊りはじめた。
キュルケはなんだか呆れたように、そんなルイズの様子を見ていた。
「姫殿下の結婚式と、あんたの使い魔さんになんの関係があるってのよ」
「大ありよ。いいことキュルケ、わたしはね、恐れ多くも姫殿下の式の巫女を任されたのよ」

ルイズはキュルケたちに説明した。
アンリエッタの結婚式で、自分が詔を詠みあげること。その詔を、自分が書き上げなければならないこと。そのため、読書家の使い魔に手伝わせようと思ったこと。
なんというか他力本願極まれリ、といった感じだが、なにしろ人には得手不得手というものがあるのであるので、ルイズの判断はまったく賢明であるといえた。
もしルイズの作った詔を読み上げたりしたら、アンリエッタの結婚式は、長きにわたる語りぐさとなるに違いなかった。
もちろん悪い意味で、である。ルイズには悲しいほど文才がないのだった。
「なるほど、その王女の結婚式と、この前のアルビオン行きって関係してるんでしょ?」
ルイズはちょっと考えたが、それくらいは教えてもかまわないだろう、と思って、こくりと頷いた。
「あたしたちは、王女の結婚が無事行われるために、危険を冒したってわけなのねぇ。名誉な任務じゃないの。それってつまり、こないだ発表されたトリステインとゲルマニアの同盟が絡んでるんでしょう?」
なかなかに鋭いキュルケであった。ルイズは、憮然とした表情で三人の顔を見回した。
「誰にも言っちゃだめなんだかんね」
「言うわけないじゃない。あたしはギーシュみたいにおしゃべりじゃないもの」
するとギーシュは、心外だといった顔で、格好を付けたポーズを取った。
「ぼくだって言いやしないさ!なにしろ、姫殿下の名誉がかかってるからね」
ルイズはタバサを見る。この子はまあ、心配ないだろう。無口だし、そんな口が軽いようには見えない。
「それにしたって、あんた、どうするのよ?詔を作るなんて、無理よねえ」
ルイズは俯いた。
キュルケは、ルイズの肩に手を回した。そして、わざとらしい微笑を浮かべる。
「手伝いましょうか?危険な任務を果たしたんですもの、あたしたちにだってその権利はあってもいいと思うけど」
「なに言ってんのよ、あんた、ゲルマニアの人間じゃないの!外国人に姫さまの式の詔を任せるなんて、だめよ」
「あんたねえ、アンリエッタ姫がどこの国に嫁ぐのか忘れたの?トリステインとゲルマニアは、同盟国になったのよ」
キュルケは小さく鼻を鳴らした。
キュルケの言うことはもっともだったが、ヴァリエール家の宿敵であるフォン・ツェルプストーに頼み事をするのには、どうにも抵抗があった。
ルイズはちらりとギーシュのほうを見た。
ギーシュは、造花の薔薇を手に持って、優雅な動作でそれを振ってみせた。
「おや?僕に頼みたいのかい?任せてくれたまえよ!姫殿下が嫁いでしまわれるのは悲しいが、このギーシュ、心を込めて姫殿下にささげる詔を!」
ルイズはため息をついて、かぶりを振った。ギーシュはだめだ。センスが悪い。
しかも最近ますます悪くなってる。マントやシャツに宝石なんか縫い付けて、悪趣味極まりない。
こういうセンスが悪いってことは、詩のセンスも悪いってことなのである。
と、なると。残ったのは……
ルイズはタバサのほうを向いた。あまりしゃべったことはないのだが、いつも本を読んでいるし、うってつけに思えた。
「ねえ、タバサ。お願いしたいんだけど……」
しかしタバサは、本をパタンと閉じると、首を振った。
「ガリア人」
そう一言呟いて、また本を広げた。説明としてはそれで十分だろう、と言った口調だった。
「あなた、ガリアの貴族だったの?」
キュルケがちょっと驚いたような声を上げた。ルイズは少し呆れたように言った。
「キュルケ、あんた友達でしょ。それなのに知らなかったの?」
「あら、友達のことを全て知っているべきだなんて考えは、傲慢よ?」
キュルケはそういって、意地の悪い笑顔でルイズを見つめた。
「で、ルイズ。あなた他に誰か、頼むアテはあるのかしら」
ルイズは、うううう……、と唸ったが、やがて観念して、がくっと頭を下げた。
「……お願いするわ、キュルケ」
キュルケは愉快そうに笑った。
「最初っからそう言えばいいのよ。始祖と四大系統への感謝を詠みあげる、ね。えー、こほん。『おお、炎よ!身を焦がす情熱よ……』」
「あのねキュルケ、歌劇じゃないんだからね」
ルイズはため息をついて、窓の外を見た。雲ひとつない青空が、どこまでも続いていた。
アンリエッタ姫の結婚式まで、あと一月……。

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