あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

第25話 真実 前編




 教皇聖下参戦……あまりにも意外な言葉に、ルイズ達はしばし固まってしまった。
 そんな彼女たちの様子に気がついたヴィットーリオは、優しく諭すように言葉を掛けた。
 「ああ、なにもいきなりこの場から、というわけではありませんよ。いくら何でもそれをやってしまったらロマリアが大混乱に陥ってしまいます」
 「で、ですよね」
 何とか復活するルイズ。
 「お忍びでないとまずいのは確かですが、それでも数日の不在を納得させる建前は必要です。まあ周辺の視察にかこつけて、ということになるでしょう。ちょっと視察の目的地が変わるだけのことです」
 「は、はあ……」
 何ともアバウトな物言いに、ルイズはため息をつくしかなかった。
 「とはいえ、早急な行動が必要なのは確かです。こちらも直ちに準備を整えますので、明日もう一度この場へ来てください。マザリーニへの書状など、受け入れの手筈を整えてもらわなければなりませんからね」
 「判りました」
 ルイズが頷いたことによって、当面の問題はこれで決着が付いた。ヴィットーリオも冷めてしまった紅茶を飲み干すと、改めてルイズ達を見渡してから、ゆっくりと言葉を発した。
 「さて、これでとりあえずの用件は終わりましたね。まだ時間は大丈夫ですから、この機会に何か聞きたいこととかはありますか? 答えられることならばお答えしますよ」
 「実際滅多にないことですよ、聖下と直談判できるということは」
 隣からジュリオも話を促す。
 ルイズはタバサの方を見つめ、まず持ってきた荷物から『始祖の祈祷書』を取り出した。
 それにルイズのはめている『水のルビー』を添えて差し出す。
 「お話の前に、どうかこれをお改めください。トリステイン王家に伝わる秘宝、『始祖の祈祷書』です」
 「おお……」
 そこまでは予想していなかったのか、ヴィットーリオは感嘆の声をあけだ。
 「これはわざわざ……ありがとうございます、ミス・ヴァリエール。ありがたく拝見させていただきます」
 一緒に差し出された水のルビーをはめ、祈祷書を開くヴィットーリオ。
 それと同時に、祈祷書に光が満ちた。
 「これは……」
 しばし後、ヴィットーリオは祈祷書を閉じ、指輪を外してルイズに返却した。
 「ありがとうございます。ミス・ヴァリエール。実にすばらしい呪文が手に入りました」
 「そ、そうですか?」
 「ええ。まさに今の状況にもってこいの呪文です。中の中の中、“転移扉(トランス・ドア)”。私の知識と力の及ぶ限り、好きな地点へ繋がる扉を生み出す呪文です」
 「おめでとうございます」
 思わずそう言ってしまうルイズ。そんなルイズを心からの感謝を捧げる目で見つめるヴィットーリオ。
 「どうやらこの呪文はあくまでも自分がよく知る場所にしか扉を開くことが出来ないようなので、これでアルビオンまでひとっ飛び、とは行かないようです。ただ、帰還の手間が大幅に省けるのは大きいですね」
 「すごいですね……私はいまだに“爆発”しか使えませんのに」
 微妙に落ち込むルイズに、ヴィットーリオは再び声を掛ける。
 「心配することはありません。今の私のように、虚無の力は、それが必要になったとき、初めてもたらされるもの……それに」
 そこでいったん言葉を切り、改めて姿勢を正してヴィットーリオは言葉を続けた。
 「あなたはおそらく『攻撃』を司る虚無。その力が呼び起こされるのは、戦いの中という可能性が高いのです」
 「攻撃、ですか?」
 「はい。ガンダールヴを従えるのは、攻撃の属性を色濃く持つ虚無が多いらしいと、教会に伝わる伝承では語られています」
 ヴィットーリオは、何かを思い出すように視線を中に向け、続きを語りはじめた。
 「明確なものではありませんが……虚無にも系統魔法のような、四つの区分けがあるといわれています。

 ガンダールヴを従えるものは『攻撃』。
 ヴィンダールヴを従えるものは『移動』。
 ミョズニトニルンを従えるものは『支援』。
 記すことさえはばかれるものは『心理』。

 厳密なものではなく、あくまでも傾向だそうですけれども」
 「あ、あの……」
 申し訳なさそうに、ルイズが小さく手を上げる。
 「その……ヴィンダールブとか、ミョズニトニルンって、どういう意味ですか? 使い魔の名前だとは判りますけど……」
 一瞬ぽかんとなるヴィットーリオとジュリオであったが、すぐにその顔は元通りの優しげなものになった。
 「これは失礼……ミス・ヴァリエールは、急なことでまだ虚無の伝承について聞く機会がなかったのですね。これは私のミスです」
 そして傍らのジュリオに向けて視線を向ける。それだけでジュリオは察したらしく。多その場で立ち上がると、姿勢を正してから言った。
 「まずはこの歌を聴いてください。虚無に関わる、古くから伝わる歌です」
 そしてジュリオの口から、見事な歌声が流れ出した。ルイズ達が、シルフィードに至るまで思わず聞き惚れてしまうほどの。



 神の左手ガンダールヴ。勇猛果敢な神の盾。左に握った大剣と、右に掴んだ長槍で、導きし我を守りきる。

 神の右手がヴィンダールヴ。心優しき神の笛。あらゆる獣を操りて、導きし我を運ぶは地海空。

 神の頭脳はミョズニトニルン。知恵のかたまり神の本。あらゆる知識を溜め込みて、導きし我に助言を呈す。

 そして最後にもう一人。記すことさえはばかれる……。

 四人の僕を従えて、我はこの地にやってきた……。



 「こんな歌が……」
 感嘆するルイズ。
 「これはわりと古くから伝わっている歌です。別に虚無の担い手が現れたのは六千年ぶりというわけではありませんからね。この歌も市井に伝わっていないわけではないのですが」
 「知らなかった」
 タバサもぽつりと漏らす。ヴィットーリオはそんな二人を眺めて、諭すように言う。
 「魔法学院のようなところですと、これに関する文献は一般生徒には閲覧できないところにあるでしょうからね。授業で習う性質のものではありませんし」
 ルイズも納得したように小さく頷いた。
 「今度調べさせてもらいますわ」
 「それがいいでしょうね」
 そう言うと、ヴィットーリオは、おもむろに立ち上がった。
 「さて、話は尽きませんが、さすがに時間がまずそうです。明日の午後にはしかるべき手段を記した書状をここで受け取れるようにしますので」
 「判りました。このたびはわざわざのご助力、ありがとうございます」
 立ち上がり、深々と頭を下げる一同。シルフィードはタバサに頭を押さえられてであるが。
 「では、再会を楽しみにしていますよ」
 「僕も、麗しいお嬢様方に会えるのを待っています」
 優雅に立ち去る教皇と、嫌みなくらい似合うウインクを残して去るジュリオ。
 その姿が消えたとたん、ルイズは深々と息を吐き出した。
 「き、緊張した~~~~」
 「お疲れ様でした」
 なのはが、優しく声を掛ける。
 その声を聞いて、改めて脱力し、崩れるようにへたり込むルイズであった。







 一方、そんな和やかさとは無縁の場所もあった。
 アルビオン、円卓の間では、苦り切った表情の貴族達が卓を囲んでいた。

 「よもやあれだけの兵が返り討ちに遭うとは……」
 「魔法学院がそれほど手強いとは」
 彼らの元に魔法学院襲撃が失敗したという報告が届いたのである。
 この問題に関して、今更誰の責任である、などと言い出すものはいなかった。
 さすがに今そんなことを言おうものなら、むしろそのことをこの期に及んでと批判されることが目に見えていたからである。
 「しかたありませんでした。私の手元には皆さんより少し詳しい報告が届きましたが、今回の失敗は、計画の不備ではありません。まさに予想外というべきものだったようです」
 「と、おっしゃいますと?」
 そう発言をしたクロムウェル司教に、貴族の一人が問い掛ける。
 「こちらの予想を超えていた部分は二つ。一つは襲撃の手を逃れた教師が、ただ一人で百名近い兵を一撃で粉砕できるほどの実力者であったこと」
 「な、なんと……」
 「そこまでの腕利きが」
 驚きの声を上げる貴族達。
 クロムウェルは、まだインクも乾いていなさそうな報告書を片手に、説明を開始した。
 「名前をジャン・コルベール。詳しい経緯は不明ですが、どうやらかつて、あの『ダングルテールの虐殺』の時、あのメンヌヴィルの上官だった人物のようです」
 「な、なんと……」
 彼らの間に驚きと同時に納得の表情が浮かび上がっていた。
 彼らはメンヌヴィルの強さ、恐ろしさを知っている。その上司ともなれば、いかほどのものであろうか。
 「それに加えて、学院で優秀な生徒の一人が、実戦を通してトライアングルからスクウェアになってしまったとか。戦場ではままあることと聞きますが、このようなタイミングでとなると、いささか皮肉なものを感じます」
 「うーむ……」
 貴族達は思わず考え込んでしまった。そこにいささか場違いとも思われるほど明るい司教の声が響く。
 「ですが皆さん。今はそのことを悔やんでいる場合ではありません。うまくいかなかったとはいえ、状況が決定的に悪くなったわけではありません。トリステインの援助が届き、体勢を立て直しているとはいえ、万全ではないのです」
 「そうか、この作戦はあくまでも側面攻撃。正面に大きな影響が出たわけではない」
 「そうです。後々のことを考えると少々頭が痛いですが、これは始祖が策略ではなく、堂々たる力によって決着をつけよとおっしゃっているのでしょう」
 その言葉に、貴族諸侯達の間に力がみなぎってゆく。
 「そうだ。数こそ互角なれど、まだ相手の補給は十分ではない」
 「城も被害を受けているから、籠城できようもない」
 「降伏した兵達の統率もまだ取れているとは言い難いはず」
 「ならば勝機は十分にある! むしろあまり時間を与えてはいかん!」
 皆の士気が上がっていく。
 「ならばはじめましょう。乾坤一擲の戦いを。これで負けるようでは、諸国を統合してエルフ達に勝つなど夢のまた夢!」
 「決戦を!」
 「決戦を!」

 大いに意気を上げた貴族諸侯達によって、全軍上げての決戦が挑まれることになった。
 「最後に皆さん」
 そしてまとめるように、クロムウェルは語る。
 「残念ながら確実とはいえませんので詳細は伏せますが、わたくしには幾つかの秘策があります。うまくいかずとも損にはならず、決まれば一気にこちらが優勢になるものです。戦いの展開次第ですが、多少の不利は気になさらずに」
 「……虚無、ですか?」
 「それは言わぬが華というものです。始祖の加護が我々にもきちんとあることを証明するだけのことです」
 「それは心強い」
 それを最後に、会議は終了した。やがて会議場には、クロムウェルただ一人が残っていた。

 そこにやってくる人物が一人。

 人物は女性であった。その姿を知る者は、クロムウェルがいつも秘書として連れている人物であるときが付いたであろう。
 彼女の姿を見たとたん、クロムウェルはそれまでの威厳あふれる姿を崩し、まるでおびえる子供のような有様になった。
 「シェフィールド、本当にアレで良かったのかい?」
 「ええ、とてもお上手でしたわ」
 その女性は、長い髪を幅広の布で束ねた、独特の装いをしていた。布の一部が額を隠すように巻かれている。
 それは必要があってのことであった。その布の下には、ある紋様が刻み込まれているのだから。
 彼女はおびえるクロムウェルを、愛し子のように抱きしめた。
 「ご安心を。あなたの背後には我々が付いています。こたびの戦いの際にも、あのお方からの援助があります。彼らは予想外の敵によって崩れることになりますわ」
 「シェフィールドっ」
 さらに力強く彼女を抱き寄せるクロムウェル。その姿は女を抱く男と言うより、むしろ母を抱きしめる子供のようであった。
 そんなクロムウェルの背を、シェフィールドは優しくさする。その顔に、見るものを凍らせそうな酷薄な笑みを浮かべつつ。


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