ハルケギニア唯一の水蒸気機関を備えたフネ、探検船《オストランド号》が往く。
伝説の虚無の担い手とその使い魔としての使命を果たした、一組の男女を、遙かなるオストランド(東方)へと遣わすために……。
もう戦わなくていい。舵を取るコルベールを始めとした乗組員達の顔にはやっと訪れた平和への喜びと、これから向かう新天地への希望に満ち溢れていた。
伝説の虚無の担い手とその使い魔としての使命を果たした、一組の男女を、遙かなるオストランド(東方)へと遣わすために……。
もう戦わなくていい。舵を取るコルベールを始めとした乗組員達の顔にはやっと訪れた平和への喜びと、これから向かう新天地への希望に満ち溢れていた。
――――ただ一人を除いて。
多くの人に見送られた華々しき旅路の空は、そのまま忘却の彼方に消え去るはずだった宿敵との決戦の舞台となったのだ!
オストランド号、機関室。
置きっぱなしにされていた工具箱にぶつけた脛を抑えて屈み、ルイズはか細い呻き声をあげた。
これが平時だったらば「かかか片付けときなさいよ! っもう!」とか何とか言って蹴っ飛ばす所だが、さすがに今はダメ絶対。
息を殺して追っ手の動向に全神経を注ぐ。杖を落としたのだ。助けが来るまでは逃げるしかなかった。
「……っ!」
すぐに風を感じるほどの近さでエア・ハンマーが炸裂。折れた蒸気パイプが熱い中身をけたたましく噴き上げる。
「今のは当たったかな? ……当たったか~い? 痛かったか~い? 痛かったら泣けぇ! 泣いて許しを請うんだぞ、ルイズぅ~~~」
汗を流してルイズを追うのは、今や見る影もなくなった元婚約者ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。
彼女の使い魔に味わわされた屈辱的な敗北からか、それともレコン・キスタ瓦解後の筆舌に尽くし難い労苦のせいか……とにかく彼は復讐の鬼。
貨物箱の中に隠れ、単身オストランド号に潜入。妄念漲る二十体もの偏在でブリッジを占拠し、ルイズの使い魔と仲間達を抑え、こうして無力となった
彼女を鬼気として追い回しているのであった。
置きっぱなしにされていた工具箱にぶつけた脛を抑えて屈み、ルイズはか細い呻き声をあげた。
これが平時だったらば「かかか片付けときなさいよ! っもう!」とか何とか言って蹴っ飛ばす所だが、さすがに今はダメ絶対。
息を殺して追っ手の動向に全神経を注ぐ。杖を落としたのだ。助けが来るまでは逃げるしかなかった。
「……っ!」
すぐに風を感じるほどの近さでエア・ハンマーが炸裂。折れた蒸気パイプが熱い中身をけたたましく噴き上げる。
「今のは当たったかな? ……当たったか~い? 痛かったか~い? 痛かったら泣けぇ! 泣いて許しを請うんだぞ、ルイズぅ~~~」
汗を流してルイズを追うのは、今や見る影もなくなった元婚約者ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドである。
彼女の使い魔に味わわされた屈辱的な敗北からか、それともレコン・キスタ瓦解後の筆舌に尽くし難い労苦のせいか……とにかく彼は復讐の鬼。
貨物箱の中に隠れ、単身オストランド号に潜入。妄念漲る二十体もの偏在でブリッジを占拠し、ルイズの使い魔と仲間達を抑え、こうして無力となった
彼女を鬼気として追い回しているのであった。
「ハッハッハッハ! 見つけたぞ、ルイズぅ~~! 眉間なんか撃ってやるものか! ボールを吹っ飛ばしてやる!!」
「ボールって何よーーーーーっ!!?」
「ボールって何よーーーーーっ!!?」
お互いに逃げ場のない空の上、逃げるルイズに追うワルド。
どちらも必死の健脚だが後先考えてないワルドが勢いで勝り、とうとうルイズの首根っこをふん捕まえた。
どちらも必死の健脚だが後先考えてないワルドが勢いで勝り、とうとうルイズの首根っこをふん捕まえた。
「怖いかいクソッタレ? 当然だ。元グリフォン隊隊長の僕に勝てるものか!」
「た…試してみる? わたしの使い魔だって元コマンドーよ……!!」
「ルイズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「来たな、大佐ぁ!!!」
「た…試してみる? わたしの使い魔だって元コマンドーよ……!!」
「ルイズーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」
「来たな、大佐ぁ!!!」
機関室へ飛び込んできた憎むべき相手に、振り向きざまのエア・カッター。
「メイトリクス!!!」
逞しい右肩から散る鮮血を見て、ルイズは使い魔の名を叫んだ。
「大佐ぁ、腕はどんなだい?」
「こっちへ来て確かめろ!」
「いいや結構。遠慮させてもらうよ」
手応えあり。柱の陰に隠れたメイトリクス大佐の傷の深さに余裕の狂笑を浮かべるワルド。
繰り出した偏在のほとんどは彼の操る〝ガンダールヴの槍〟によって案山子のように撃ち倒されてしまったが、それももはや弾切れ。あの魔法を吸収する
インテリジェンス・ソードもない。
「大佐ぁ、腕はどんなだい?」
「こっちへ来て確かめろ!」
「いいや結構。遠慮させてもらうよ」
手応えあり。柱の陰に隠れたメイトリクス大佐の傷の深さに余裕の狂笑を浮かべるワルド。
繰り出した偏在のほとんどは彼の操る〝ガンダールヴの槍〟によって案山子のように撃ち倒されてしまったが、それももはや弾切れ。あの魔法を吸収する
インテリジェンス・ソードもない。
後は、この筋肉もりもりマッチョマンの変態をぶっ殺すだけだ!
「実に気分が良い。ハハハッ! これから死ぬ気分はどうだ大佐ぁ? 貴様は老いぼれだ!!」
「ワルド! ルイズは関係ない。放してやれ! 目的は俺だろう?」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「ワルド、お前でも勝てる」
「ワルド! ルイズは関係ない。放してやれ! 目的は俺だろう?」
「フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」
「ワルド、お前でも勝てる」
見え見えの挑発。軋る奥歯の音。
分かっていても受け流せないほどに、ワルドはメイトリクスへの憎悪に蝕まれていた。
分かっていても受け流せないほどに、ワルドはメイトリクスへの憎悪に蝕まれていた。
「来いよワルド。杖なんか捨てて…かかって来い……!!」
「楽に殺しちゃつまらんだろう? ナイフを突き立て、俺が苦しみもがいて死んでいく様を見るのが望みだったんだろう?」
「~~~~~っ!!!」
「そうじゃないのか、ワルド?」
図星である。あの礼拝堂での敗北から付いてしまった人生のケチを払うにはそれしかない。それしかないのだ。
逃げようとした所に投げられた丸ノコっぽい物で切断された左腕が痛む。残酷に削られた頭皮が疼く。
タルブ上空では騎乗していた風竜ごと、ロケランとかいう破壊の杖で火の玉にされた。
その後も崖から落とされたり、首の骨を折られたり、スパッと出番が無くなったり……恨み言を数え上げればキリがない。
「テメェを殺してやる……!!」
そして何よりも我慢ならないのは、自分がこいつに恐怖しきってしまっているということだ。
「さあ、ルイズを放せ。一対一だ! 楽しみを不意にしたかないだろ? ……来いよワルド。怖いのか?」
「ぶっ殺してやる……!!!」
「~~~~~っ!!!」
「そうじゃないのか、ワルド?」
図星である。あの礼拝堂での敗北から付いてしまった人生のケチを払うにはそれしかない。それしかないのだ。
逃げようとした所に投げられた丸ノコっぽい物で切断された左腕が痛む。残酷に削られた頭皮が疼く。
タルブ上空では騎乗していた風竜ごと、ロケランとかいう破壊の杖で火の玉にされた。
その後も崖から落とされたり、首の骨を折られたり、スパッと出番が無くなったり……恨み言を数え上げればキリがない。
「テメェを殺してやる……!!」
そして何よりも我慢ならないのは、自分がこいつに恐怖しきってしまっているということだ。
「さあ、ルイズを放せ。一対一だ! 楽しみを不意にしたかないだろ? ……来いよワルド。怖いのか?」
「ぶっ殺してやる……!!!」
対峙するだけで足が震える股間が湿る。
「人質なんて必要ないっ……ヘヘヘッ…そうだ! ルイズにゃもう用はねえ! ヘヘヘヘハハ…偏在も必要ねえや…! 杖もいらねえ!! 誰がテメェなんか!
テメェなんか怖かねえ!!」
テメェなんか怖かねえ!!」
何とかしてよ、お母さん。
「野郎、ぶっ殺してヤぁルぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!」
もはや理性は聖地の彼方。ワルドは絶叫にも似た雄叫びと共に突進した。
「いいいい一体、何が始まるの……?」
自らの思考を超えた急展開に呟くルイズ。
至極冷静に折れた蒸気パイプを拾って振りかぶるメイトリクス。
ちなみに左手のガンダールヴのルーンは炉心限界の輝きを放っている。
この鉄面皮、愛娘ジェニーにも等しいルイズを危険な目に遭わされて密かに激怒しているのだ。
「ふんッッ!!」
バリスタの勢いで投擲された蒸気パイプは狙い過たずワルドの鳩尾を貫き、背後のボイラーに縫い止めた。
至極冷静に折れた蒸気パイプを拾って振りかぶるメイトリクス。
ちなみに左手のガンダールヴのルーンは炉心限界の輝きを放っている。
この鉄面皮、愛娘ジェニーにも等しいルイズを危険な目に遭わされて密かに激怒しているのだ。
「ふんッッ!!」
バリスタの勢いで投擲された蒸気パイプは狙い過たずワルドの鳩尾を貫き、背後のボイラーに縫い止めた。
「ぎゅうううぇうううぅふうううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ?!!!!?!!!!」
〝蒸気抜き〟ダァァ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ッ!!!!!!!!
「地獄へ堕ちろ、ワルド!!」