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超神ネイガーVS閃光のワルド 「遠い風の中で豪石!」後編

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 自分が非力であるということ。それはルイズがこれまでの人生の中で散々思い知らされてきたことだった。
彼女は魔法が使えない。呪文を唱えて杖を振れば、結果は常に爆発の一択だ。
「練金」も「ファイアー・ボール」も「エア・ハンマー」も、一年生でも片手間に成功させることが出来るような初歩的なコモン・マジックすら、
成功確率は常にゼロ。付いた渾名は『ゼロのルイズ』だ。由来を話せば情けなくて泣きたくなる話だとルイズは思っていた。
 努力はした。授業は誰よりも真面目に聞いていた。他の生徒達が遊んでいる間にも彼女は魔法の理論を必死に学んだ。
なのに、結果が付いて来なかった。いつまで経ってもルイズは『ゼロのルイズ』のままだった。
それでもルイズは諦めなかった。周囲の嘲笑と罵倒を持ち前の気丈さで撥ね退け続け、更に努力を重ねてきた。だというのに、やはり結果は出なかった。
 劣等感。無力感。愛する家族への申し訳無さ。実り無き試行錯誤を繰り返す度、心の中に降り積もっていく澱。ルイズを奈落へ引きずり込もうとするそれ。
知らず知らずそれに引き摺られ、奈落の淵に足を掛けていたその時、ルイズは出会ったのだ。
ゼロである彼女が初めて為し得たイチ。どうしようもない程お人良しで、訳が分からない程パワフルで、身も蓋も無い正義感の持ち主である大男を。

「錬金! フライ! ファイアー・ボール! エア・ハンマー!」

 爆発、爆発、また爆発。ルイズが出鱈目に呪文を唱える度、礼拝堂の床が、長椅子が、壁が爆発していった。煙と土埃がもうもうと礼拝堂を舞った。
威力だけならラインにも届くルイズの失敗魔法はしかし、ワルドには一発も当たらなかった。
その多くは見当外れの箇所を爆破し、たまに目標付近で爆発が起こっても軽やかに飛びのかれてかわされる。
唯でさえ細かいコントロールの利かない失敗魔法だ。ワルド相手にまともに通用する道理が無い。だが。

「ロック! アンロック! サイレント! レビテーション!」

 ワルドが向かってくるのを見ても、ルイズは詠唱を止めなかった。
失敗、失敗、また失敗。唱える呪文の尽くが失敗し、空中に爆発の華を咲かせていく。
ああ、自分は非力なんだと今更ながらに思う。名家ヴァリエール家の末娘だの何だの言ったところで、自分が出来るのは精々この程度の抵抗なのだ。
それにしたって後幾許も持つまい。シャンデリアの上から遍在の一体が飛び降りるのが見えた。誤爆に巻き込まれたら堪らないとでも思ったのだろうか。
 不意に、ケン達と共にフーケを捕まえた後で、「どうせゼロのルイズなんて何の活躍もしてやしないさ」とクラスメイト達が自分の陰口を叩くのを見た時の
ことを思い出した。言い返せなかったのが悔しかったことも。
ああ、自分は非力なんだと繰り返し思う。貴族の誇りがどうのこうのと言ったところで、自分は所詮非力な小娘なのだ。
 だが、それでも。戦うのだ。どんなに非力でも、手と足が動いて戦う意志がある限りそれは決して無力では無い。イチが決してゼロでは無いように。
ケンから聞いた彼の故郷とそこを襲った災厄の話を思い出す。
ケンは戦ったではないか。彼の故郷が空を覆い尽くす害虫の群れに蹂躙された時、農業人としての誇りだけを武器にたった一人で戦ったではないか。
ケンは守り続けてきたではないか。彼の故郷とそこに住む人々を。そして、この世界に召喚されてからはルイズとその周りの人々を。
ギーシュの八つ当たりからシエスタを守った。決闘を通じてギーシュに己の非を認めさせ、彼自身から彼の矜持を守った。
フーケのゴーレムに踏み潰されそうになったルイズ達を守った。
非力であるということが、美しいと信じたものを汚されて立ち上がらない理由にはならないのだと。守るために戦わなければならないのだと。
防禦こそ最大の攻撃なのだと。ケンはそう教えてくれたのだ。

「錬金! 錬金! れ――」

 ワルドの放った魔法、空気の鎚がルイズの身体を軽々と吹っ飛ばした。壁に叩き付けられて背中を強打し、その痛みで息が止まる。

「ぁ……」

 言葉にならない呻きを漏らし、ルイズはその場に蹲った。

「残念だよ、ルイズ。……非常に残念だ」

 近付いてくるワルドの足音が、ルイズの耳にやけにはっきりと聞こえた。
杖は手放してしまった。体力も精神力も既に振り絞り切った。もう打つ手が無い。ルイズに抵抗する手段は無い。

「たす、けて……」

 弱々しく開かれたルイズの唇。そこから漏れ出た声を聞き取ったのか、ワルドの表情に薄っすらと失望の色が浮かんだ。
ワルドはため息を一つ吐くと、エア・ニードルの呪文を詠唱した。形成された真空の切っ先はルイズの身体を易々と貫くことだろう。

「たす、けて……」

 ルイズは尚も繰り返した。命乞いではない。彼女が助けを求める相手はワルドではない。
ルイズは身体に残っている力全てを喉にかき集めた。想いの丈を込めて、叫ぶ。

「助けて! ケン!」

 ルイズが自分で思っていた半分の大きさもなかったその声は。しかし、確かに彼の耳に届いていた。


 焼け焦げ、襤褸切れのようになっていたネイガーの身体がぴくりと動いた。
 身体中のあらゆる器官が上げる悲鳴をねじ伏せる。震える四肢に力を入れる。鋼の意志を四肢を内から支える張力とする。
 ネイガーがふらつきながらも立ちあがった。満身創痍の身体。幽鬼のような立ち姿だった。

「待て、ワルド……」

 それでも、その眼光の鋭さはいささかも衰えてはいなかった。
ワルドが思わず一歩後ずさってしまう程の気迫を放ち、悪を剥ぎ落とすナモミハギの化身が怒声を張り上げる。

「おめの好きなようにはさせねえぞ!」

 ルイズが求めたのは奇蹟だった。奇蹟を体現した男だった。奇蹟という言葉の意味と、それを授かるに相応しい人間がどんなものか彼女に教えてくれた男だった。
そう、奇蹟とは。強い意志を持ちながら知力・体力・精神力それら全てを絞り尽くした人間にのみ与えられる、天からの贈り物なのだ。






「……化け物め。まだ動けるのか」

 風系統最強の魔法の一つであるライトニング・クラウド。肌を焼き、肉を溶かし、骨まで焦がす威力の大魔法だ。
これをまともに喰らって立ち上がった敵にワルドは今まで出会ったことが無かった。
高速詠唱を用いた為に本式の詠唱で発動した場合と比べてその威力は減衰したものではあったが、それでも人間一人を死に至らしめるには十分過ぎる代物だった筈だ。
にも関わらず、敵は存命している。無論、効いていない訳ではない。奇妙な装束は何処も彼処も焼け焦げ、血が滲み出ている。手桶型の膝当てが付いた膝が笑っている。
半死半生、立っているのが不思議な位の重傷だ。魔法衛士大隊仕込みの戦闘術を用いるまでもなく、ただ近寄って軽く押せば勝てる位の。
 だが、この威圧感は何だ? 死に掛けの使い魔風情に何故この自分が気圧されなければならない?
背中を伝う冷たい汗の意味を侭ならぬ状況への苛立ちで覆い隠すと、ワルドはネイガーに向き直った。

「おとなしく寝ていれば楽に死ねたものを。無駄と知りつつ何故立ち上がる? 使い魔を続けるうちにルイズに情でも移ったか? 
だとしたら滑稽なことだ。ささやかな同情を恋と勘違いし、その為に最期を安らかに迎える機会さえ手放すとはな」
「見ちゃいらんねえからだ。ルイズが悲しむどごも、おめが無理して突っ張るどごもな」

 ネイガーの漆黒の瞳がワルドを真っ直ぐに見据える。殺し合いの最中であった。少なくともワルドの方は敵を殺すつもりであった。
ワルドはその為の覚悟を固めていた筈であった。だというのに、彼はネイガーに向け魔法を放つことが出来なかった。

「おめ、本当は今でも信じてえんだろ。トリステインを、自分の生まれた故郷を。信じてえからごしゃぐんだべ」
「……何だと?」
「オラの故郷は暮らしてくには大変などごだ。お陽さまが照ってる時間は笑っちまう位みじけえ。冬になれば雪っこさ降り積もって雪掻きにおおわらわ。
若え奴等は仕事が無え娯楽が無えっつって都会さ出てっちまうべ。……だども、秋田さだっていいどごはいっぺあるんだ。美しい山。美しい海。
歴史と伝統に裏打ちされた職人達の手技。あったけえ人情味。厳しい土地柄に負けねえ熱っつい心を持った奴等。オラはそんな秋田を愛してる。
だからそこを駄目にしようとする奴等と戦ってきたんだ。おめと同じようにな」
「寂れた田舎と一国の窮状を同列に語るなこの痴れ者が! 私と貴様が同じだと!? 戯言をほざくな!」

 超神ネイガー、アキタ・ケンは思う。この男はもう一人の自分だと。
ナモミハギより力を授かってから始まっただじゃく組合との戦い。戦い続ける中で一度も自分の戦う意味を疑ったことが無いと言えばそれは嘘になる。
戦っても戦ってもだじゃく組合の攻勢は衰えるどころか激しさを増すばかり。
この戦いに終わりはあるのだろうか。平和な秋田を取り戻すことなど、自分には不可能なことではないのか。そんな弱気の虫に憑かれそうになったことは何度もある。
もしもネイガー・ジオンやネイガー・マイ、荒海丸といった仲間達に出会わなかったら。終わりの見えない戦いの中で自分の芯が折れてしまったなら。
もしかしたら自分は今のワルドのようになっていたかもしれない。故郷を切り裂き蹂躙する者となっていたかもしれない。
まるでコインの裏と表だ。貴族と農民。魔法の世界ハルケギニアのトリステインと美の国秋田県のにかほ市。身分も生まれた場所も全く違うというのに、何の因果だろうか。

「貴様にわかるか! 同じ志を抱き、同じ戦場を駆けた戦友達の瞳が我欲で濁っていくのを見てきた私の気持ちが!
自分が信じ忠誠を誓った者達が、そんな価値の無い屑共だったと知った時の絶望が!
我ら貴族唯一絶対の宝である筈の誇りを、怠惰と保身という汚泥に塗れさせてしまった者達を見続けてきた私の怒りが!」

 血を吐くようにワルドが叫んだ。彼の青い瞳の奥で、怒りと悲しみが火花となって散った。

「泥に塗れたからって、宝物が溶けて無くなっちまうわけじゃねえべ! オラは宝物が泥の中さ落っこちたら拾い上げる。泥に塗れたら濯ぐ。
何回でも、何十回でも、何百回でもだ!」
「愚かな……! 最早聞く耳持たぬわ!」

 三人のワルドが一斉に杖を振り上げた。彼らが持つ杖の先に閃光が走る。幾重にも杖を取り巻き、ばちばちと音を立てて生まれる殺意の結晶。それが彼の返答だった。
本式の詠唱によるライトニング・クラウドだ。喰らえばヒトの形を留めていられるかどうかも怪しい。
くびきを解き放たれる瞬間を待つ巨大な雷の鎚が、礼拝堂の中を真昼のように照らし出していた。

「ライトニング・クラウドだ! 寂れた田舎の思い出に浸りながら焼け死ねがいい!」
「やってみれ! オラはもう倒れねえ! おめが目こ覚ますまでごしゃいでごしゃいでごしゃぎ倒してくれるど!」
「訳の分からない言葉を使うな田舎者がああぁぁ――――ッ!」

 放たれた電光が光の大蛇の如くネイガーに襲い掛かった。室内が真白に染まる。百匹の猛獣が一斉に吼えたてるような轟音が響いた。
 手で顔を覆い、閃光から目を守りながらワルドは勝利を確信した。これでは骨も残るまい。
自分は勝った。伝説の使い魔ガンダールヴに。「故郷」というものに執着する余り大義を理解しようともしない愚かな男に。
 だが、あの男の愚直さがトリステインの貴族達に少しでもあったのなら、郷土をより良く変えていこうという意識を誰もが持ち得たなら、自分はきっと――――。
少しだけそう考えて、ワルドは心の中でかぶりを振った。今更栓の無いことだ。

 そんな、何処となく空虚な勝利の実感に浸っていたワルドは、

「(……馬鹿な)」

 ありえない光景を見て驚愕することになった。  


 黄金の光が雷光を防いでいた。
 とても強いのに決して目を差さない優しい光。それが半球を形成し、ネイガーの身体を包んでいる。
 雷光は光の球を貫くことが出来ない。当たる端から光の球に吸収されていく。ネイガーが雷を取り込んでいる。

「(そんな馬鹿な!)」

 ワルドの頭は混乱の極みにあった。ありえない。こんなことはありえない。
杖も詠唱も無くこんな防御魔法を発動出来るとすれば、それは最早先住魔法の領域に足を突っ込んでいると言ってよいだろう。
スクウェアクラスのメイジにだって不可能だ。メイジですらないこの男にこんな真似が出来るわけがない。では、何なのだこの状況は?
ガンダールヴ。神の盾。伝説が今その本来の姿を見せているとでも言うのか?

「王牙」

 ワルドは黄金の光の中で一際眩く輝くガンダールヴのルーンを見た。

「豪石!」

 ルイズは雷鳴轟く中で何故かはっきりと響く超神の声を聞いた。

 ネイガーの纏っていた光が弾けた。

 その残滓、何十何百という小さな光の粒が、次々にぱあっと弾けていく。まるで黄金の粉雪だ。
一つ一つが金細工の一部のように複雑で精緻な構成を持っていた。異なる輝き、異なる構成、異なる美しさ。
どれ一つとして同じものの無い光の結晶が空中で絡み合い、交わり、ぶつかり、溶けていく。
それは幻想的な光景だった。荘厳なのに素朴で、見たことが無いのに懐かしい。破壊の爪痕を覆うように、黄金の粉雪が礼拝堂内に舞い落ちて行く。
 ワルドは得体の知れない衝撃が頭の頂きから足の爪先までを貫くのを感じた。
あらゆる常識、あらゆる矛盾、ここが戦場であるという場違いさ――それら全てが瑣末なことに思えるこの美しさに見惚れていた。

「……貴様、何者だ?」

 杖を取り落しそうになる腕に力を込め、足の震えを抑えつけながらワルドがそう問うた。

「海を!」

 ネイガーが左腕を真っ直ぐに突き上げる。

「山を!」

 脇に固めた右腕を正面に突き出し、そして右へ水平に薙ぐ。

「秋田を守る!」

 拳に輝く田んぼの字。背中に踊る米の文字。ベルトに煌めく「ア」のマーク。

「超神ネイガー・大豊作フォーム!」

 それは、丹田から絞り出される声であった。人の優しさ、鬼の厳しさ、神の厳粛さ、全てを内包した朗々とした名乗りであった。
その身に纏うのは刈り入れ前の稲穂の輝きだ。時に日照りと、時に多雨と、時に実りを狙う害虫と戦い、豆の潰れた手で鍬を握り、その先にある大豊作を信じ、
汗と泥に塗れ続けた者だけが手にすることが出来る金色だ。そこにあるのはただ己が信念を貫くという強い意志。
太陽に向かって伸びることを諦めないたくましい稲穂のように、ネイガーはしっかりと地を踏みしめていた。
一歩一歩近付いて来る黄金の鬼神の姿。それを見て、ワルドは子供の頃母が聞かせてくれたお伽噺を思い出す。
イーヴァルディの勇者。ハルケギニアで最も有名な英雄譚を。

「うおおおぉぉぉぉ――――!」

「ブレイド」の魔法で剣と化した杖を手に、ワルドは二体の遍在と共にネイガーに飛び掛かった。降りしきる黄金の粉雪の中、駆ける。
駆ける中で視界が滲んだ。涙が滾々と睫毛の縁まで溢れ出ていた。
自分は悪漢そのもので。相手は子供の頃夢中で読んだ物語の中から抜け出てきたような勇者そのもので。
 ワルドは泣いた。かつて自分が持っていたもの。国を裏切ると決めた時、遠い風の中に置き去りにしたもの。その大きさを思い、泣いた。
それでも止まることが出来ないのは、彼もまた己の信じる道を行く男であったからだ。
単純だが、それ故に相容れない。止まらないし、止められない。

「キリタン・ブレード!」

 白刃の両剣を左手に召喚し、ネイガーがそれを迎え撃つ構えを取った。
 ワルドはその目で隙を探していた。身体で杖を振るうタイミングを計っていた。そして結論する。勝てない。自分では絶対に勝てない。
百倍にも引き伸ばされて感じる時間の中で悟った結論は、奇妙なことにワルドに恐怖を感じさせるものでは無かった。
 ワルドは思う。目の前の男は、泥の中に落とした宝を拾うために自ら泥塗れになることを厭わぬだろう。誰に蔑まれ、無駄だと笑われても決して諦めないだろう。
信じて守ることを選んだ男と、諦めて壊すことを選んだ自分。安易な道に流れたのは、弱かったのは果たしてどちらなのか。
 ネイガーの剣気が爆発的に高まった。炎の羽根が舞い踊る。圧倒的な力の流れが物理的な力となってワルドの身体を吸い寄せる。
避けられない。こちらの斬撃が当たるイメージが全く湧かない。だが、ワルドの心は凪のように静かだった。

「すったげ比内鶏クラッシュ!」

 空間に幾筋もの黄金の軌跡が走った。神速の早さで振られた両剣がワルドと二体の遍在をぶっ飛ばす。
 意識が遠のく中で、ワルドは朝の訪れを告げる鶏の力強い鳴き声を聞いた。
 故郷を愛する心を同じくしながらも全く正反対の結論に辿り着いた二人の男の戦いが、今終わりを告げたのだった。

わかりにくいと思われる方言の解説

  • ごしゃぐ→怒る。叱る。
  • だじゃく→乱暴。横暴。
  • すったげ→凄い。とても。

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