あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

帝王(貴族)に逃走はない(のよ)!-04


日が沈んだとはいえ、月が二つ存在しているハルケギニアの夜は完全な闇に包まれるという事は少ない。
その月明かりの元の下、四つの影が動いていた。
景気のいい爆発は当たる事なく、全てを焼き尽くすような炎も、鎧すら打ち破るような氷の矢も、三つの影が追うたった一つの影には当たる事はなかった。

「やはり……な」
放たれた魔法を全て避けきった影――サウザーが腕を前に掲げると動きを止めた。
「やはり、貴様が最も実戦慣れしている。避けたつもりだったのだがな」

サウザーの腕に奔る僅かな一本の赤い線。全て避けたと思っていたが
その殆どが囮で死角からの数本が本命という事に気付いた時には、一本の氷の矢が腕を掠めていた。
サウザーが向けた言葉の先に居るのは、氷の矢を放った主であるタバサだ。
無論、他の二つの影はルイズとキュルケである。

「並みの使い手ならば、遅れをとっていたかもしれんな。くっはっははははは」
笑うサウザーとは対照的に、三人の息は上がっている。
散々振り回された挙句、放った魔法は殆どが避けられ、唯一タバサの放った物が一発掠めたのみ。
体力的にも精神力的にも一杯一杯なのだが、肝心のサウザーは息を乱すどころか、汗すらもかいてはいなかった。

第四話『否媚』

「はぁ…はぁ……なんで…あんたはそんな平然としてられるのよ……!」
「…間じゃ……ないわね……」
「……しかも、本気じゃない」
四体当地して息を乱すルイズとキュルケ。タバサも声こそは涼しいものだが、汗で額に青髪が張り付いている。
魔法が使えると言っても、体力的には一般人とそう大差はなく、南斗鳳凰拳伝承者であるサウザーと比べるのは酷というものだろう。

「俺が本気ならば、貴様らなぞとうの昔に死んでいる。雑魚が何人束になろうと……この俺を倒す事はできん」
基本的に、魔法は杖の先から放たれるために、ルイズとキュルケの魔法を避ける事は容易い。
視線と杖の向く先を見て魔法を放つ場所を先読みさえすれば当たる事はまず無い。
ただ、タバサの放つ氷の魔法は、大気中の水分を凍らせるという性質のものだけに、どこから飛んでくるかの先読みができずにいたが
それすらも殆どを避けきったのは、南斗聖拳の拳士としてのサウザーの力量が桁外れであるという事の証明に他ならなかった。
なにせ杖を向けたと思ったら、その先にサウザーの姿は既に無く、いつの間にか後ろを取られていたり
一人が放った魔法が他の二人に当たりそうになったりと、それはもう散々な光景が展開されていた。

召喚され、四日目から始まったルイズとの手合わせ。
手合わせと言っても、仕掛けるのはルイズだけで、サウザーが手を出す事は無い。
爆発の正体を見極めようという考えもあったが
そもそも、魔法に当たるつもりが無かったので、サウザーにとってこれは手合わせと呼べる代物ではない。
その二日目からは、騒ぎを聞きつけたキュルケとタバサも加わっての三対一の乱戦模様となっているのだが、ご覧の有様であった。
「精々、足掻いて俺を楽しませる事だ。そうでなければ意味が無い」
俺は蟻の反逆も許さん。と言っていた時と比べれば考えられない物言いだったが、多少の心境の変化と、遊びと考えれば何のことは無い。
魔法に関してはズブの素人なのだから、聖帝をしても学ぶべき事が多く、この三人。
特にタバサは前もそうだったが、どういうわけか知らないが実戦慣れしていて攻撃が幅広い。
本や人づてに聞いたりするのと、実際に目で見るのとでは対応力が大きく違う。
そういう意味では、この場はサウザーにとっても好都合な事と言えた。

「……ちょっと、どこ行くのよ。まだ終わってないわ」
ようやく落ち着いたのかルイズが顔を上げたが、サウザーはどこからか調達したマントを羽織り歩き出していた。
「今のお前達に何ができる。せめて万全を期してかかってこい。……そこの小ネズミもな。ふふ……はははははははは!」
ただでさえサウザーの動きすら捉えきれないのに、精神力、体力を消耗した状態ではそこらのモヒカンと同じである。
笑いながら余裕を崩さず立ち去るサウザーを見送るしかなかった三人が、小ねずみという言葉に疑問符を浮かべた時、近くの茂みが音を立てて動いた。

「だ、誰!?」
「や、やあ。奇遇だね……はははは」
茂みの中から引き攣った笑みを浮かべ出てきたのは、先日、サウザーに完膚なきまでに叩きのめされたギーシュ・ド・グラモンだった。
顔から滝のように冷や汗を流し小刻みに震えているあたり、よっぽどサウザーが怖いらしい。
「ギーシュじゃない、なにやってるのよ」
「い、いやぁ、君たちが毎夜、彼と戦っているのを見て心配になってね。」

「それなら、最初から出てくればいいじゃないの」
「……いや……だってほら……あの時は僕も本気で殺されるかと思ったんだよ。また同じ目に遭うかと思うとさ……君たちなら分かるだろう!?」

『俺に逆らった者に降伏が許されると思っているのか?』

貴族の決闘のルールに従い、参ったと言ったにも関わらずにサウザーはそう言ってのけた。
その点、死ぬかと思ったのはキュルケとタバサも同じだ。
三人が助かったのは、ルイズの『貴族は敵に背を向けない』というある種サウザーと同じ考え方である。
とは言っても、ルイズ自身はその事には気付いてはいなかったが。

「メイジを雑魚扱いとはね、あたしもこんなの初めてよ。ねぇルイズ。サウザーっていったっけ?彼一体何者よ、どこから来たの?」
「オールド・オスマンはロバ・アル・カリイエに伝わる拳法の使い手とか言ってたけど……よく知らないわよ。話してないし」
学院においてサウザーがルイズと行動を共にするという事は滅多に無く、大概は好き勝手に別行動を取っている。
今のところルイズが分かっている事と言えば、サウザーが名乗っていた聖帝。
つまり、南斗聖拳の帝王いうぐらいで、後は知らない事だらけだ。
その為、会話らしい会話もあまりせず、唯一、この時だけが会話をする数少ない機会なのだが
前述のとおり散々に振り回されそれどころではなかったりする。

「……南斗聖拳」
オスマン曰く、ガンダールヴにも匹敵するという伝説の暗殺拳。
暗殺という件が少々物騒ではあるものの、並のメイジでは相手にもならない事は既に己が身を以って証明されている。
ルイズにとって、御伽話にも近いガンダールヴなどよりは洒落にならないものを召喚してしまったという実感があった。
事故か偶然か分からないが、キュルケのサラマンダー、もしかしたらタバサの風竜より凄いのかもしれない。
そう考えると少し嬉しくもなったが、同時に悔しくもある。
今のところ、あくまでサウザーから気に入ったから力を『貸してやる』と言われているだけで危うい状態である事は間違いない。
それこそ動物でも拾うかのような扱いである。気が変わればどうなるか分からないし、なにより言動からしてそれは拙かった。
百歩譲って自分だけならまだいいが、逆らう者は平民、メイジ、それこそトリステインだろうと潰しにかかるかもしれない。
思い過ごしかもしれないが、どちらにしろ契約できないまま施しでも与えられるかのような状態はルイズにとっても非常によろしくなく
本人も好きな時にかかってこいと言っているのだから、できるだけ早く負かして契約させようと思っていたものの……現実はそう上手くいかないものだった。

「南斗聖拳ねぇ。あなたなら何か知ってるんじゃない?」
呟きが聞こえていたのか、キュルケがタバサに問いかけてみた。
「……見たことも聞いたこともない」
「タバサでも知らない……か。それにしたって――」
そこまで言って続きが途切れた。
なんと言っていいか分からなくなったからだ。

ワルキューレを軽く粉砕する力を持ち、人間離れした跳躍力。
地面に付けた十字傷もそうだが、真に恐ろしいのは空気の流れを感じ取る鋭敏な感覚を持つ風使いのタバサですら追いつけない体捌きにある。
そして、まだ底を見せきってはおらず、さっきまでのはサウザー曰く遊びらしいが、あの時は間違いなく殺す気だった。
両腕を無造作に下げ、限りなく見下した笑みを浮かべながら、まるで汚物でも消毒するかのようなあの眼を直視した時、経験した事の無い感情を味わった。
今まで数多くの男に見られてきたが、あんな風に、路傍の小石のように見られた事は一度だって無かった。
実に不愉快だ。無論、自分を気にも留めないサウザーもそうだが、一番気に入らないのはそうされて何も出来なかった事だ。
ああまでされて、黙っていられるようなタマでもなく、ルイズにかこつけて何とか一泡吹かせてやろうと思っているのだが、その結果がこれだよ!!!

「――案外、人間じゃなかったりしてね」
手も足も出ず、唯一出るのは口ぐらいのもので、半分冗談めかしてキュルケがそう続ける。
「……まさかね。あはははは……」
乾いた笑いが虚しく響いたが、それに続く者はその場には居なかった。
正直なところ、人間技とは思えない物を散々見せられたおかげで、そんな下手な冗談には笑えないのだ。

そんなこんなで、今日も平穏無事?に終わっていった。



――次の日


カチャリ、と食器の音が響く。
量こそ多少多いものの、サウザーの前に置かれた料理は、他の貴族の物と比べて顕職ないものである。
もっとも、場所は食堂ではなく、わざわざ自室に運ばせるという高待遇っぷりだったが。

この世界、文化レベルは中世より少し上といったところで歴史だけは長いようだが、魔法があるせいか技術の方はあまり発達していない。
とはいっても、比較対象が世紀末モード突入!(cv:千葉 繁)という具合に崩壊しているので、どちらがいいかと聞かれれば百人中九十九人はこちらを選ぶ。
そのうち城下も視察しておくかとも思ってはいたが、足が無いので止めた。
馬なら学院にもいるため移動手段そのものは存在する。
ただ、サウザーの言う足とは、玉座が付いたあの素敵な聖帝バイクの事である。
あの荒れに荒れたオフロード満天の荒野をサスペンション機構をガン無視したような聖帝バイクに乗り、頬杖を付きゆったりしているのだからやはり只者ではない。
黒王クラスの馬なら乗ってもいいが、あんなのがホイホイ居るはずもなく
つまるところ無いものねだりであって、そもそも玉座部分だけに作らせるとしてもタイヤでなく車輪でというのはどうにもシュールというやつだ。

「ふむ……」
一先ず手にした食器を置く。
口に合わなければ、いつものように下げさせるつもりだったが、食材が良いのか職人の腕が良いのか悪くない。
「両方……だろうがな」
いくら食料を集めさせていたとはいえ、世紀末で新鮮な食材が手に入る事はほとんどありはしない。
ガソリンだけは無駄にあったが、常に水と食料は欠乏している世界に比べると、こちらの世界の食糧事情は比較にもならない。
もちろん、ここの場所そのものが特別というのもあるだろうが、どうやら料理ごとテーブルを叩き割るという事にはならずに済みそうだった。

それにしてもと、思考が別の方に向く。
魔法のルールや法則やらは、数度の実戦を経て理解したが、サウザーをしてもルイズの魔法の謎はまだ見切れていなかった。
杖の方向や視線で先読みはしているものの、時間差無しで爆発が起こるのだからたまったもんではない。
コントロールや予備動作は荒削りでまだまだというところだが、訓練したり奇襲という方法を取れば十分に脅威になり得る。
なまじ威力が拳王の一撃と同等という事であればなおさらというところだ。

「……くだらんな」
いっその事、そうなる前に始末するかと考えたが、一瞬でその考えを消した。
南斗聖拳最強の、南斗鳳凰拳の世紀末の帝王。聖帝サウザーがたかだが一人の小娘の資質を恐れるなどとは実にくだらない事だ。
むしろ、そうするよりは利用した方が遥かに良い。
ラオウのようにケンシロウの資質に惚れたというわけではないが、それなりに気に入っているのも事実である。
素質が目覚めればよし、よしんばそれで向かってくるようであれば、叩き伏せ屈服させればいいだけだ。

ともあれ急を要する事でもなく、そう急ぐ事もない。
ケンシロウでさえ、素質が目覚めるには数年の時を必要とした。
ましてや、一度はシンに完膚なきまでに叩きのめされ、そこから数多の強敵との出会いと別れを繰り返し、この聖帝と対等の相手になった。
開花するには一体何年かかるのか分かったものではない。

――サウザー様……あなたは、愛を知らなければ覇王になれません……

ふと、あの女。サクヤが今わの際に遺した言葉が脳裏を過ぎった。
「……ふん、やはり喰えぬ女だ。気に入らぬ」
ならば、ケンシロウに敗れたのも必然だったということか。……あまり認めたくはないが、奥義を尽くして敗れたのも事実である。
「ならば、ラオウもケンシロウに敵わぬ……か」
そして、哀しみを知らねばラオウも覇王になれないとも言っていた。
病に侵されたトキではラオウの相手は務まるまいが、ケンシロウとラオウは遅かれ早かれ戦う宿命にある。
このままラオウが哀しみを知らずにそうなれば、恐らく勝つのはケンシロウのはずだ。

だが、もしラオウが……、とそこまで考えたが、最早、関係の無い事だとしてその思考を打ち切った。
仮に世紀末の世に舞い戻れたとして、どちらが勝利者となろうと身体の謎が見抜かれた以上、今のままでは敵うまい。
愛を知らぬが故に敗れたというのなら、愛を知れば覇王に、ケンシロウに勝てるのか。
馬鹿馬鹿しいと思わないでもないが、聖帝という肩書き以前に、一人の拳士として一度敗れた相手を越えねばならぬと思うのは至極当然の事である。

そんな事を考えていると、二、三回扉をノックする音が聞こえ、続けて知っている声が聞こえてきた。
「失礼いたします。ワインをお持ちしました」
「む、ご苦労」
サウザーが入室を促すと入ってきたのは、よくよく縁があるのかシエスタだった。
「料理長から、アルビオン産の秘蔵の一品をサウザー様にお渡しするように言われました」
どうやらもうすっかり帝王という噂は広まっているらしく、間違ってはいないのでサウザーもこれは特に否定したりはせず
その上、普段の言動が限りなくKINGなので平民の中で疑う者はほとんど居なかった。

グラスにワインが注がれないので目だけ動かしてシエスタを見たが、何やら少し慌てている。
どうやら、持ってきたのはワインだけで、詰まっているコルクが抜けないらしい。
「……あ、申し訳ありません。コルク抜きを忘れてしまいましたので、すぐに取ってきます」
「待て」
間髪入れずに待て、と言われシエスタの身体が思いっきり硬直した。
椅子に座る威圧感丸出しの男はトライアングルメイジをも圧倒した王、というのがシエスタの認識である。
機嫌を損ね咎められるのではないかと思ったのも無理はない。

今にも平謝りしそうなシエスタを見て埒が明かないと思ったのかサウザーが指を立て、それを横に薙ぐ。
風を切るような音がすると、一瞬遅れてワインの瓶に切れ目が浮かび上がり、そこから先が床に落ちていった。

「す、凄い……瓶がまるでチーズみたいに……」
「ふっ、中々面白い例えだな」
確かに鋼鉄すら引き裂くサウザーの手にかかればそこら辺の物はそう例えても間違いではない。
軽く離れ業を見たシエスタが驚きながらも傾けると切り口から赤い液体がグラスへ注がれる。
いい色合いだ。香りも申し分なく、少し口にしただけで上物という事が分かった。

「くっくはは、なるほどな。俺の居た場所では手に入らぬような上物だ」
なにせ、どこぞの酒場ではメチルアルコールを客に飲ますような世界だった。
あの世界では新しく酒が造れるような環境ではなかったし、そういった趣向品の類は戦前の物なのだが、ワインというものは保存が結構難しい。
そこ等辺に寝かせておけばいいというものではなく、温度、湿度全てが良好でなければダメになってしまう。
おまけに、そこに放射能の影響があると言えば、後はお察しくださいというところである。

「お気に召されたようでなによりです。……その、よろしければ少し、お聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか?」
「まぁ、よかろう。何だ」
今のところ、聞かれて拙いような話は無く、元より隠すような事は無い。
聖帝十字陵の建設に子供を使っていたという事も聞かれれば話してもいい。
こちらでそんな事を言えば非難されそうなものだが、要は価値観の違いにすぎず、力こそが正義という時代では力の無い者はただ蹂躙されるのみ。
当然、別世界に来たからといってその価値観が変わるわけでもなく、独裁の星は今だ健在であった。

「それではお聞きしますが、サウザー様のそれは先住魔法なのでしょうか」
杖を持ち、一般的にメイジと呼ばれる者が使う魔法を系統魔法に対して
エルフや吸血鬼などの亜人と呼ばれる者が精霊の力を借り行使する魔法が先住魔法と呼ばれている。
先住魔法に関しては本で知った程度だったが、こればかりは実際に知る機会が無いのでサウザーも放置していた。

「何故、そう思う」
「それは……あんなに高く飛ぶ方を見たことがありませんでしたし、杖も持たずに地面を斬ったのを見て……」
逆に質問を質問で返されると、少し臆しながらシエスタがそう続けた。
それを聞くと、なるほどな、とサウザーも納得はできる。
手刀により真空を生み出し、離れた敵も衝撃波の斬激により切り裂く南斗聖拳。
南斗爆星波を見ていたのだろうが、それを見て先住魔法とでも思ったようだ。

「これは、我が偉大なる師オウガイが命を賭して継承された最強の拳法。魔法などというものではない」
「魔法ではなく……拳法」
血の滲む様な修練に耐え抜いた者だけが習得できる先人達が練り上げた南斗聖拳。
さわりの所だけ教えてやったが、シエスタはひどく感心したようで時折相槌を打ちながら話に聞き入っていた。
なお、この後話が伝わったのか、料理長のマルトーを中心に拳の王。
即ち『拳王』と呼ばれるようになり、それを知った時この傲岸不遜の帝王にしては珍しく苦虫を二、三匹纏めて噛み潰したような顔をして笑っていたという。


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