あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの赤ずきん-22


日が暮れ、ラ・ロシェールの家々の窓から生活の明かりが漏れている。
ルイズとバレッタは、宿の自室のバルコニーに居た。
ルイズは柵に手をかけ、どこか憂いに満ちた表情をして夜空に浮かんだ月を眺めている。
柵の上に腰をかけているバレッタは、ルイズに背を向け紫煙を空に噴いていた。
バレッタの手にある細巻の火だけが辺りをぼんやりと照らす。
ふとルイズがバレッタに言葉をかけた。

「ねぇ。なんで今日一日中私にべったりひっついてるわけ?
 なんか気分が落ち着かないんだけど」

「しょーがないよぉっ。敵がどこにいるかわからないだもの。
 ってゆーか。ルイズおねぇちゃん、自分が敵に捕らわれたら終わりっていうの自覚してるっ?」

その言葉を聞いて、ルイズはギクっとした。
今も所詮守られる側の人間なのだと、思い知らされる。
視線を下に落とし、どこか気まずそうにルイズは言った。

「だからって、任務のためだとしても、トイレとかまでにもついて来るのは、やり過ぎっていってんのよ」
「そーかしらっ。どっかの髭を蓄えた変態が、襲って来るかもよ?」
「……あっそう……そのことはもういいわ。それより、ちょっと聞いてほしいことがあるんだけど」
「なーにっ?まぁー聞くだけならしてあげるけどっ」

柵に座っているバレッタは足をプラプラとばたつかせている。
ルイズは、腕を組んで難しそうな顔して言った。

「……ねぇ。私がワルドと結婚するって言ったらあんたどうする?」

バレッタは目をパチクリとさせて、ルイズを見つめて言う。

「ルイズおねぇちゃん昨日の晩、ワルドさまの告白断ってたじゃない。何言ってんのぉ?」
「例えばの話よ。それともまったく興味ない?」

「……そーねぇ。結婚はやめといた方がいいんじゃない?
 あーゆー、一見誠実そうなヤツってのは結婚して生活が始まった瞬間、豹変するタイプよ。
 ドメスティックバイオレンスに苦しむルイズおねぇちゃん!
 そして嫌味な姑との板挟みに悩むルイズおねぇちゃんっ!!あぁ!カワイソーっ♪」

「……」
「どーしたの?いきなり黙って、ルイズおねぇちゃん」
「……バレッタ、もうひとつ聞きたいことが……って何あれ!?」

言い終える前に、突然ルイズが驚きの声を上げた。
バルコニーに立つ二人が向けるその目線の先には、巨大なゴーレムが月を背負って立っていた。
いつの間に現れたのかわからない。何故こんなところに。
ルイズの頭の中で、疑問が錯綜する。

ゴーレムの肩に立っている人影が見て取れた。
緑の髪を風にたなびかせ、ルイズたちを見下ろしているメイジ。
これほどの巨大なゴーレムを操る人物にルイズは心当たりがあった。

「もしかして『土くれ』フーケ!?どうしてこんなところにいるのよっ!?」
ルイズに、ずばり言い当てられたフーケは嬉しそうな声を漏らした。

「あら、感激だわ。そんなに面識なかったのに覚えててくれたのね、カワイソーなお嬢さん。
 私がここにいるのわね、そこの赤ずきんの嬢ちゃんに仕返しするためさ!
 よくも恥をかかせてくれたねっ!ゴーレムの拳でそのバルコニーごとぶっ潰してあげるわよ!」

これはフーケがバレッタに対して向けた、
『バルコニーを攻撃するから避けろ』というメッセージであった。
操り主であるメイジの杖の動きと連動し、
ゴーレムは、その巨大な拳を、天を突くが如く高々と振り上げた。
フーケは表面上快活に喋っていたが、心臓はバクバクと激しい音をたてている。

演技。これは演技。ちゃんとバレッタも理解してくれる。

ゴーレムに肩に乗ったフーケを、バレッタは余裕の表情で見上げて言った。

「あららぁー?わたしがせっかく学院でとっ捕まえたのに脱走したフーケおねえちゃんじゃない?
 仕返し?逆恨みじゃない、ふざけんじゃないわよ。まだ懲りてないの?」

これも演技。ちゃんとわかってるはず。

バレッタは狂気に酔った殺人鬼のような歪んだ笑みを浮かべて、ドスを利かせた声で言った。

「その振り上げた拳をわたしに向って振り下ろすってことがどーゆーことかわかってんでしょーねっ?ねぇ?」

フーケはバレッタの言葉を耳にすると、逡巡した。
「……ぐっ!」

バレッタは殺気をふんだんに含んだ面相で、地面を這う蟻を足でにじり潰すかのような無慈悲さ、
それでいて威圧的な言葉をフーケに投げかけた。

「そんなことしたら今度は殺すよっ。もれなく、間違いなく、必ず、絶対に。
 どこに逃げよーと、誰を味方につけよーと……地平線の彼方まで追いかけて、追い詰めて……、
 ……ぶっ殺すわよ。それでもいーなら攻撃しなさいっ」

少女の闇に浮かぶ双眼が放つ不気味な光が、フーケの心を恐怖のどん底に突き落とす。
ゴクリと喉を鳴らす。頬を汗がつたい流れ、背中にも冷たいものを感じる。

演技……!これも演技!多分……いや絶対に……!
いやでもこのずきんならもしかして……!

ルイズにフーケである自分がバレッタとワルドを協力していることが、バレてはならない。
つまり、フーケは自分が紛れもなく敵対関係あることを示し、ルイズを騙し抜かなければならないのだ。
だからこその、この芝居であるし演技である。
何の打ち合わせもなかったが、この程度即興で出来て当然という暗黙の了解ようなものが、二人の間に存在した。

だが、フーケには迷いが生じていた。
演技であるはずのバレッタの言動が、あまりにも迫力がありすぎたからだ。
しかしフーケはやらなければならない、時間的な猶予もない。
ここで攻撃をしなければ、それこそバレッタの意向に反することになり、さっき言ったような標的になりかねない。
フーケは自分が葛藤して苦しんでる様を、
バレッタは見て楽しんでいるのではないかと、勘ぐっていた。
事実は本人にしかわからなかった。
フーケは意を決した。
迷いを振り払うかのように腹の底から声を出し、まるで叫ぶかのように言った。

「上等だよ!!!やれるもんならやってみな!!!」

フーケが叫ぶと同時に、ゴーレムは拳を振りおろした。
岩で出来たゴレームの拳は、いともたやすくバルコニーを粉砕した。
以前学院の宝物庫を襲ったとき作った土のゴーレムより、破壊力が増しているようだった。

バレッタはルイズを脇に抱え、粉砕するバルコニーから部屋の奥に向って飛ぶように跳躍し逃れた。
フーケは、バレッタの期待に応えたのだ。

しかしバレッタはワルドに対する憤りを、フーケを使って憂さ晴らしをしたのだった。
抱えたルイズを床におろすと、バレッタはどこか嬉しげに言った。

「じょーとーじゃないっ。さぁーってと、どう料理してあげよーかしらっ?……でもー、ここで戦うのは分が悪いかな?
 ま、とりあえず、一階の酒場まで行ってキュルケおねえちゃんたちと合流しよーよ。ルイズおねぇちゃんっ」

「……え、ええ。そうね。行くわよ、バレッタ」

ルイズとバレッタは共に駆けだし、部屋を抜けて、一階への階段に向かった。
フーケの耳に、二人が遠ざかる足音が届いた。傷が疼く方の肩を押さえ、安堵の溜息をついた。

「ふぅ……行ったわよね?……あとは宿正面に行ってしばらく待機、そして様子見。
 それにしても心臓に悪いったらありゃしない!確実に寿命が縮まったわ」

背に担がれたデルフリンガーが心配そうな声で言った。

「大丈夫かよ?まだ完全に肩の傷治ってねぇんだろ?無理すんな」
「大丈夫よデルフ。あぁ!それにしてもたちが悪い!平然と嘘吐きまくるってわかってるのに、
 どこかに本意が混じってんじゃないかって考えさせられるっていうか……いや本当にたちが悪いわ」
「まあ、それは違いねえな!」

カタカタと音をたてながら、愉快そうな声でデルフリンガーはそう言った。
ルイズとバレッタが階下に降り、訪れた先も修羅場であった。
いきなり玄関から現れた傭兵の一団が、一階の酒場で飲んでいたワルドたちを襲ったらしい。

ギーシュ、キュルケ、タバサにワルドは、傭兵たちに対して魔法で応戦している。
だが、多勢に無勢、思うような効果は上げられていないようであった。先ほどから膠着状態が続いている。
キュルケたちは、床に倒したテーブルの天板を盾にして身を隠し、傭兵たちと応戦していた。
傭兵たちは、魔法の射程外から矢を放ち、キュルケたちの行動を制限し、
魔法を唱えるための精神が消耗しきったところを、
一気に突撃をかけ、白兵戦に挑むといった作戦をもってして、戦いに臨んでいるようであった。

テーブルから少しでも顔を出そうものなら、矢が雨のように飛んでくる。
テーブルの天板に矢が突き刺さる音が、雨音のように響く。
キュルケたちは、完全に身動きが取れなくなっていた。
加えて、いつのまにか巨大ゴーレムの足が、吹きさらしの向こうに見えていた。

テーブルの陰に隠れているキュルケたちに、ルイズとバレッタも駆け寄って合流した。
ルイズがキュルケ達に向って喋りかける。

「こっちも、大変なことになってるわね」
「ええそうねルイズ。ここまで団体さんで来るとは思ってなかったわ、
 それに加えて……えーと?あのゴーレムってフーケでしょ?……それまでいるし、お手上げよ」

ワルドが眉を曲げて言った。
「参ったね」
「そーねぇ、見張りをサボった奴がいて参っちゃうわねっ♪」
「……」

ワルドは目を閉じ、深呼吸した。眉間には皺が刻まれている。
バレッタに対する憤怒の感情を押し殺し、冷静を装った態度でワルドは言った。

「いいか諸君、このような任務は、半数が目的地にたどりつけば、成功とされる」
こんな時でも落ち着き払った態度で本を広げていたタバサが、本を閉じてワルドの方を向いた。

「……二班に分けて、一方が囮?」
「その通りだ」

場に合わない、爽快な口調でバレッタが言った。
「じゃ!キュルケおねえちゃんにタバサちゃん、ギーシュおにいちゃん。
 精々目だって、敵を引きつけてねっ♪」

「ということだ、すまないが今すぐにでも行動に移した方がいい。裏口にまわるぞ」
「え??え?ええ!!?」

急転する事態にルイズはついていけてなかった。
ワルドはやさしく声をかけた。
「ルイズ、僕らは裏口から出て桟橋に向かう。彼らには申し訳ないが、これが最善策なのだよ」

「で、でも……」
キュルケが、燃えているかのような赤髪をかきあげて、笑みを浮かべて言った。

「行って来なさいなルイズ。あたしたち、
 あなたたちが何しにアルビオンに行くのかすら知らないんだもんね。いいってことよ」

薔薇の造花に目を落とし花弁をいじりながらギーシュが呟く。

「うむむ……ぼくは知ってるんだけどな……。
 でも女性だけを、こんなところに残すわけにもいかないし、これが一番か……」

タバサはルイズたちに向って頷いた。

「行って」

ルイズはキュルケたちに向って無言でぺこりと頭を下げたあと、
何かを振り払うかのように裏口に向って駆けた。
バレッタとワルドもそれに続いた。

酒場の厨房を抜け、ルイズ達は通用口にたどり着くと、
傭兵と思われる男たちの悲鳴が酒場の方角から聞こえた。

「……始まったみたいね」

ワルドは外に誰もいないことを確認すると、勢いよくドアを開きルイズたちを招いた。

「今のうちに行くぞ。桟橋はこっちだ」

ワルドを先頭にルイズが続く。そしてルイズに密着するようにバレッタがその後ろに続いた。
三人は闇の中へ溶けて消えて行った。
裏口へルイズたちが向かったことを確かめると、キュルケはギーシュに命令した。

「じゃあおっぱじめますわよ。ねえギーシュ、厨房に油の入った鍋があるでしょ?
 あなたのゴーレムで取ってきてちょうだい」

「お安い御用だ」

ギーシュはテーブルの陰で薔薇の造花をふった。花弁が舞ったかと思うと、
青銅の戦乙女、ゴーレム『ワルキューレ』がその姿を現した。
ワルキューレは主人であるギーシュの命令を受けると、厨房に走った。
しばらくすると、矢を何本も体を貫かれながらも、テーブルの影まで油の鍋を運んでくることに成功した。

「それを入口に向って投げてちょうだい」

キュルケはギーシュに対してそう言った。
だがギーシュは承服しかねる、といった表情をしている。

「ほら、早くしなさいよ、その油と私の炎の魔法を組み合わせて、大炎上を巻き起こしてあげるんだから。
 歌劇の始まりよ。さあ舞台の幕開けはあなたにまかせるって言ってるのよ?早くしなさい」

「ちょっと待ってほしい、確かにそれで傭兵は退けることができるだろうけど、フーケはどうするんだい?」

キュルケは目をパチクリとさせ、ギーシュを見つめた。
テーブルの陰から、外の様子を観察しているタバサが呟いた。

「ゴーレムが攻撃してこないのは、傭兵がいるから。追い払ったらゴーレムの攻撃が来る」

タバサの言う通りであった。あれほど巨大なゴーレムに攻撃を仕掛けられたら宿ごと破壊されてしまう。
そのことをギーシュは危惧していたのだ。
だが三人同時に同じ疑問が頭に浮かんだ。
何故、最初からゴーレムで攻撃してこなかったのか?と。
ゴーレムの攻撃ならば、不意打ちで宿ごと押しつぶしルイズ達を含め全員殺せる可能性があったはずだ。
だが、今そのことについて考えるのは不毛であった。
キュルケたちが今考えなければならないのは、傭兵を追い払った後、フーケのゴーレムを倒す方法。

「まずあたしが、傭兵を追い払うとして……っていうかギーシュ」

キュルケは、どこか気難しそうな顔をしてギーシュに声をかけた。

「あなたこの状況で随分と冷静ね?もうちょっと慌てふためいたり、怖がったりするもんかと思ってたけど」

キュルケの言葉を聞くと、ギーシュは顎を撫でて神妙な面持ちで言った。

「いや、今も怖いよ。もしかしたら死ぬんじゃないかと考えてる。
 怖い、確かに怖い。心底恐ろしい……でも」

ギーシュは一度言葉を切って、含みを持たせて続けた。

「ぼくは、もっと恐ろしいものを知っている、だからこの程度なんともないさ」

キュルケとタバサは。不自然なほどまでの説得力を持つギーシュの発言を真摯な態度で聞いていた。

『もっと恐ろしいもの』

それについてわざわざ言及するような野暮なことはしなかった。わかりきったことであったから。
キュルケは頭をかきながら、どこかイラついた調子で言った。

「まったく……あのコはわかってるのかしら。自分が周りの人間にどれだけ影響を及ぼしてるのか」
「わかっていない、無意識」
「ルイズもなんだかんだ言っても、よく物事を見られるようになったし、
 ……あたしも、宿敵ヴァリエール家の娘が相手だっていうのに、
 どーにも肩を持ちたくなっちゃってるし。なんなのかしらね、あのコは……」

「はっはっは!確かに得体がしれないな!
 しかし、今囮の役目を果たさないと、彼女に恐ろしいめにあわされることは確かだね!」

「……それは嫌」

歓談のように、バレッタについて話していると、
その空気を断ち切るかのように、矢の雨が激しさを増した。

「……っと、今はこんなこと話してる場合でもなさそうね。とりあえずどうにかしないと。
 誰か、フーケのゴーレムをどうにかする策はないかしら?」

キュルケは、そう言ったものの、この現状を打開するような策が、
すぐに思い浮かぶはずがないと思っていた。
だが、ギーシュが顎に手を当てて何かぶつぶつと呟いていた。

「元々、地形を利用して使うつもりで練習していたが、もしかしたらこの場合でも……うーん」
「何かあるの?ギーシュ?」

「いやなに、バレッタ君が土系統の魔法に興味が強いのにちょっと考えるところがあってね、
 昨日の晩、色々魔法を試してたのだよ。
 バレッタ君は何やら錬金で簡易しょうい弾がどうとかと言っていたが、よくわからなくてね。
 ぼくは、ぼくなりにぼくの魔法の新しい使い道を考えていたんだ」

「……で。それが、この状況でどうだって言うのよ?」

ギーシュは、遊びの一切ない真剣な表情で言ってのけた。

「ぼくに一つ作戦がある。二人とも協力してくれないかい?」

「え?」

ギーシュの作戦が、キュルケとタバサに伝えられた。


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