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ルイズと無重力巫女さん-18



トリステインから丁度馬で二日くらい掛かる距離に、ラ・ロシェールという『港町』がある。
港町でありながら辺りを頑丈な岩山に囲まれ、既に枯れてしまった世界樹の木が生えているだけの寂しいところだ。
何処にも海や川と言ったモノはないが、それでも世間では『白の国』と呼ばれるアルビオンへの入り口の役目も果たしている。
人口三百人と規模は小さい街ではあるがそれでもアルビオンと行き来する人々で常に街は賑わっているのだ。
建物は木造ではなく全て岩から削り出され、それ等は全て『土』系統のスクウェアメイジ達が作り出した努力の結晶なのである。

今の時間は深夜であるがラ・ロシェールの町は賑わっており、特に酒場などでは今も尚灯りがついている。
鎧を着こなし、槍や剣を背負った傭兵達が安そうな酒瓶片手に酔っぱらいながら道の真ん中を堂々と歩いていた。
彼らは全員アルビオンの王族派に雇われ、形勢不利と見てここへ逃げてきた者達である。
傭兵達にとっては雇い主を見捨てて逃げるということは別に恥じることではない、彼らは名誉より金と命が大事なのであるから。
共和制万歳!と叫びながら酒をあおる彼らを、空から見つめている黒髪の少女がいた。

「学院からここまで大分時間が掛かったけど…大分暗くなったわね。」
黒髪の少女、霊夢はそういうと真下にあった建物の屋根へ降り立った。
別に町の各所にある休憩所のような場所でも別に良かったが、
道にはあのように女なら小さくても良い、とか言いそうな奴らがうじゃうじゃいるのでこうして屋根伝いに移動しているのだ。
それに宿屋に泊まろうにも、霊夢はお金とかそういうものは一切持ってきていない。

では霊夢が何故この様な学院からかなり離れたこんな場所に来ているのかというと、それにはわけがあった。
「それにしても、なんでこんな異世界に幻想郷緑起があったのかしら?」
霊夢はポツリと呟き、今日の朝方に起こった出来事を思い返していた……。
ちょっとした事情で学院長室に来たところ、アンリエッタというルイズの幼馴染みと出会った。
その時、彼女がアルビオンという国で手に入れたという本が霊夢の言う『幻想郷緑起』だったのである。



『幻想郷緑起』とは……死んでは生まれ、死んでは生まれを繰り返す稗田の者によって書かれた幻想郷に関する本である。
妖怪、そしてそれを退治する者達、幻想郷の土地などが詳しく書かれている。
その歴史は古く、今では「現代向け」―霊夢はその言葉の意味が理解できていない――という名目で誰でも読めるような本になっている。
最も霊夢自身は少し読んでいる程度でそれ程興味を示していなかった。
だが、流石にこんな月が二つあるような異世界でお目に掛かるとは思っていなかったのだ。
そういうわけで、今霊夢は幻想郷緑起があったというアルビオンという国を目指しているのである。
ちなみにそこへどうやって行けば良いのかは聞いていないが…まぁなんとかなるだろう。という考えでここまで来たのである。




「それにしてもこの町はやたらと騒がしいわね。」
ラ・ロシェールの町は深夜になってもあちこちの建物から灯りは絶えない。
特に今はアルビオンから逃げてきた傭兵達が酒場で騒いでいるため尚更それに拍車を掛ける。
しかもそいつら全員が血気盛んなため時折罵声、怒声に混じって銃声なんかも聞こえてくるのだ。
幻想郷の人里にも此所と似たような場所はいくらかあるがこの町よりかは危険ではない。
「それに随分と物騒だし。早く出て行きたいわ…。」
霊夢はため息まじりにそう言って辺りを見回すと、ふと西の方に巨大な何かがあるのを見つけた。
それは暗闇の所為でハッキリとはしないが、まるで『木』のように見えた。それもかなりの大きさの。

その巨大の木の枝には木の実の様な物体がぶら下がっている。
だけどよく見てみると、どうにも「ぶら下がっている」というより「浮いている」様に見える。
「何か怪しいわね、あの木は。」
霊夢がそう言うと、下の方から何やら男の達の声が聞こえてきた。
「よぉ、お前さんもアルビオンからここまで逃げてきたのか。」
「おぉジャックか、あんな土から離れた大陸で死ぬのはまっぴら御免だからな。」
どうやら店の外で話しているらしく、『アルビオン』という単語が霊夢の興味に触れた。
何かと思い、霊夢は屋根の上から少し顔を出し、ひっそりと耳を傾けた。

「全く王族派の連中め、安く見やがって。俺たちは兵器じゃねぇんだぞ。」
「その気持ちはわかるぜジャック、いくら対メイジに強い俺たちでも限界はあるからな。」
「そういえば、アルビオンへ行く前はここから見える港を、『金を呼ぶ大きな豆の木』ってよんでたよな俺たち…。」
「だけどいざアルビオンへ行けばそこへ待ってたのは俺たちの棺桶ときた。全く冗談じゃないぜ?」

そこまで二人の話を聞いた霊夢は顔を上げて再び遠くに見える木を見つめた。
先程の話から個人的に推察してみるに、どうやらアレは『港』らしい。
霊夢が知っている港とは似てもにつかない形だが…先程男が言っていた「金を呼ぶ大きな豆の木」という言葉。
豆の木かどうかはわからないが少なくとも「大きな木」といえばあれくらいしか思いつかないのである…
「まぁでも、怪しいとは思っていたし。丁度良いから行ってみようっと。」
そう暢気に言うと霊夢はフワッと空中に浮かび上がり、大木の方へと飛んでいった。


先程彼女が佇んでいた屋根の上に二人の男女が現れ、のんびりと「港」を目指して飛んでいく霊夢を見つめていた。
一人は黒いマントを着込み、顔には白い仮面を被っている男であった。手には黒塗りの長い杖を持っている。
「あいつか?お前を難なく倒したという者というのは。」
「えぇ、あいつのお陰で額が今も尚痛くて堪らないわ。」
仮面の男に聞かれ、隣にいた暗緑色のローブを羽織った女は額を抑えながら悔しそうにそう言った。
「ハハ、どうやら大分手痛い目に合わせられたようだな。」
それを見て仮面の男は女を嘲笑うかのように体を小さく揺らすとそう言った。
女はそんな男の言葉を聞き、少し怒ったような口調で話しかけた。
「お前さんはアイツの強さは半端じゃないって事を知らないのさ。」
「ふぅん…つまりは、やってみなくては分からないと言うことか…?」
男は冷ややかにそう言うと踵を返し、何処かへ行こうとする。
「…どこへ行くつもり?」
「俺はちょっとお上からの命令であの娘を倒す手筈となっている。」
女はその言葉に、怪訝な顔をする。
「お上から…?それに倒すってどういう意味よ。」
「俺に聞くな、ただお前さんを倒したという少女の話を聞き、更にその少女がアルビオンへ来ると聞いた幹部共が俺にそう命令したのさ。」
男は心底ウンザリしたようにそう言うと女も呆れた様な顔になる。
「何よソレ?怪談話を信じて魔除けの聖水を部屋にばらまく子供と一緒じゃないの。」
「まぁ今は内の組織もピリピリしてるからな。さてと、では俺はあの少女を追う。お前さんは予定通り明後日の襲撃に備えておけ。」
男はそれだけ言うとバッと屋根から身を乗り出し、町の中へと素早く消えていった。



―――場所は変わり、霊夢が居る場所から大分離れた所にある宿屋「女神の杵亭」。
数ある宿屋の中でもここだけは一際豪華な造りであり、当然泊まる客も貴族ばかりである。
その一室には、ルイズが天蓋突きベッドに腰を下ろしカップに入ったお茶飲んでいた。
ヘッドの傍にある鏡台の上にはアンリエッタ王女からアルビオンのウェールズ皇太子への手紙が入った封筒が置かれていた。
ルイズは今一度ソレを見て、ため息をつくと音を立てずにお茶を啜り口の中に入れた。
今ルイズは悩んでいた。別にこの任務を何故受けてしまったか、ということではない。
それは何かというと、学院に置いてきてしまった霊夢のことであった。

アンリエッタからは、いかなる者にこの事を話してはいけないときつく命令されていた。
だからルイズも余り親密な関係ではない霊夢には話すつもりは無かった。
それからワルド子爵と共にグリフォンに跨り、たった一日でこのラ・ロシェールに来てからあることを思い出した。
(霊夢の奴は多分私が居なくても別に平気だと思うけど…。そういえばとっておいたあの御菓子、棚の中に入れたままだったわ!)
ルイズは霊夢を召喚する前、部屋の彼方此方に何かおめでたい事があった時にと取っ手置いた高級菓子を置いているのだ。
こちらがまともな食事と寝言のを提供する代わりに、霊夢は部屋の掃除をしてくれている。
ただ、そのときに保存している御菓子が見つかってしまうのは少しまずいのだ。
霊夢のことだ…きっと「丁度良いお茶菓子を見つけた。」とか言って食べてしまうに違いない。

ルイズは今にしてもっと別の所に隠しておけば良かった…と後悔していた。
勿論ルイズは霊夢が今この町にいるという事は当然知らない。

そんな風に一人悩んでいると、ふとドアからノックの音が聞こえてきた。
誰かと思い立ち上がりドアを開けるとそこには同伴者であるワルド子爵が立っていた。
手には二つのグラスと一本のワインボトルを乗せたトレイを持っている。
「やぁルイズ、ちょっと下へ行ってワインを貰ってきたよ。これから一杯どうだい?」
微笑みながらそう言うあこがれの人にルイズは思わず頷いた。
ワルドが部屋にはいるとルイズはドアを閉め部屋の左側にあるソファへと腰掛けた。
次いでワルドもトレイをテーブルに置き、ボトルの蓋を開けて中身をグラスに入れる。



血のように赤い色をしたワインは艶めかしく輝いている。
「ルイズ、君はこの少ない方のグラスを飲みなさい。」
ワルドはそう言い、少ししかワインが入っていない方のグラスをルイズに手渡した。
「子爵様、私昔のようにお酒に弱くなくなったのですよ。」
ルイズの言葉にワルドはチッチッと指を振った。
「ウソは良くないよミ・レィディ?君は今でもお酒に蜂蜜や果汁を垂らしていると聞いているんだ。」
「ヒドイですわ子爵さま、乙女の秘密を探るなんて。」
「それは誤解だよルイズ、君のことを愛しているからこそ…より一層君のことを調べたくなってしまうのさ。」
霊夢のような貴族社会とは全く縁がない人間が聞けば我が耳を疑ってしまうような言葉をワルドはさらりと言ってのけた。
しかし、貴族社会の中で生きてきたルイズは蜂蜜よりも甘い口説き文句に頬を真っ赤にさせてしまう。


それからしばらくの間ワルドとルイズは甘い甘い時間を楽しんでいたが、ふとワルドがある話題を出してきた。
「ねぇルイズ、あの時の事を覚えているかい?」
「…あの時の、事ですか…?」
ワルドの言葉にルイズはワインを飲みながら首を傾げた。
「そうさ、君がまだ小さかった頃に親同士が決めた婚約の事を…。」
ルイズは突然のことに口に含んでいたワインを吹きそうになったがなんとかそれを堪えてうまく飲み込むと返事をした。
「ゴホッ…は、はい。勿論今でもしっかり覚えていますわ。」
その応えを聞き、ワルドは頷くとまるで昔の事を思い出すかのように天井を仰ぎ見た。
「そうか、今までずっと覚えていてくれたんだね。…嬉しいよ。」
ワルドはそう言うとルイズの体を軽く抱きしめながらも言葉を続ける。

「僕は父が死んだ後、困難な仕事をこなしてグリフォン隊の隊長という位にまで出世できた。
 なにせ、家を出るときに決めたのだからね…。」

「決めたって…何をですか?」
最後の言葉にルイズは首を傾げた。
ワルドはルイズの華奢な体を抱き留めている腕の力を少し緩めると一言、こう呟いた。
「――――立派な貴族となって、君を僕の花嫁として迎えに行くってね。」





霊夢は飛び立ってから数分して、『大樹』もとい『港』へとたどり着いた。
ひとまず根本の方へ着地した彼女の目の前には完成してから何百年も経っているかのような木造の階段が幾つもある。
後ろを振り返ると吹き抜けホールのような造りの空洞になっており、他にも人が座るためのベンチやイスなどが設置されていた。
「野槌辺りが気まぐれで造った…とかじゃないわね。」
天井からつり下げられ、自身には読めない文字が幾つも記されている鉄製のプレート見て霊夢は冗談まじりに呟く。
「どうやらここへ来たのは正解ね。もしかしたら何か良い情報が見つかるかも…。」
霊夢はそう呟くととりあえず目の前にある見た目からして一番新しそうな階段を上っていった。
だけどやはり見た目だけだったらしい。階段がギシギシと軋む音を立てている。
途中でボキッと折れて吃驚するのはイヤなので、仕方なく飛んでいくことにした。

どんどんと上へ飛んでいくと、霊夢は枝にぶら下がってプカプカと空中に浮いている木の実――否、『船』を目にした。
ただそれは霊夢が知っている船とは違い、側面には翼が取り付けられている。
それに興味を引かれた彼女はひとまずその階で降り立つと遠くからその船を見上げた。
彼女の傍にある鉄製のプレートにはこの世界の文字で『アルビオン大陸行き』と書かれている。
「ふ~ん、船に翼ねぇ…。」
霊夢は関心があるのか無いのか良くわからない感じにそう言った直後…


「悪いがお前はそのアルビオン行きの船に乗ることは一生無い。」


後ろから男の声が聞こえ、霊夢は何かと思い振り返った。
だが彼女の背後にあるのは大小様々な木箱が無造作に積み重ねられているだけ。
そこには人の姿は見えない、いるのは精々ネズミぐらいだろう。

「…?何かしら今の声…それにアルビオンというとやっぱり―――――――   ―!?」

不思議そうに霊夢が首を傾げた瞬間、横からもの凄い殺気が伝わってきた。
霊夢は背負っていた御幣を手に持つとひとまず上の階目指して飛び立った直後…

 ド ン ッ !
「……グゥッ!!」
突如殴るかの様に風の塊が体に直撃し、空中にいた霊夢はなすすべ無く地面に叩きつけられた。
それは『風』系統では代表的な攻撃魔法であり訓練次第で人を殺す事すら出来る『エア・ハンマー』であった。
だがこれでくたばる博麗の巫女ではなかった。霊夢は痛みを堪えて立ち上がると『エア・ハンマー』が飛んできた方へと視線を向ける。
灯りがついておらず真っ暗なホールから黒いマントを羽織り、顔に白い仮面をつけている男が現れた。
「ほう、大分威力を押さえて放ったが…貴様を気絶させるには少し威力が無さ過ぎたか?」
男は右手に持っている杖を弄くりながら余裕たっぷりにそう言った。

「アンタ誰よ。ここで人を後ろから攻撃するような奴と知り合った覚えはないけど?」
霊夢は御幣を左手から右手に持ち替えると空いた左手で懐から針を取り出し、勢いよく投げた。
仮面の男は自分目がけて飛んでくる針へ向けて杖を向けた。
すると今度は男の目の前で小さな竜巻が生まれ、まっすぐ飛んでいた針は案の定その竜巻に突っ込んでいった。

次に男は杖を勢いよく振ると竜巻がフッと消え失せ、あとには勢いをなくし地面に転がっている針だけが残った。
「なるほどな…この対応の速さ、それなりに戦いの経験はあるようだな。」
仮面の男は何故か満足げにそう言うと霊夢に向かって走り出すと、手に持っている杖が青白く輝き始めた。

『エア・ニードル』――杖自体を魔法の渦で細かく震動させてその力で相手を刺す魔法。

霊夢は正面から正々堂々突っ込んでくる相手に対し、容赦なくお札と針で構成された小さな弾幕を飛ばした。
仮面の男はその弾幕をジャンプすることで回避すると、そのまま霊夢の背後へと降り立った。
そのまま背中越しから霊夢の胸を貫こうとしたが瞬間、男の目の前から彼女の姿がフッ…とかき消えた。

「なっ…!?」
「こっちよ、突撃馬鹿。―――『夢想妙珠』」
仮面の男が突然のことに驚くと上の方から霊夢の声が聞こえてきた。
男が上を向くと、そこにはいつの間にか空中に浮遊していた霊夢がスペルカードを右手に持っていた。
攻撃させる暇すら与えず霊夢は上空からスペルカード宣言をし、多数の光弾を放った。
大小様々な光弾が此方へ向かってくるのを見た仮面の男は舌打ちすると咄嗟に横っ飛びで避けようとしたが……
多数の光弾は、まるで男が横へ飛んだ所を見たかのように滑らかな動きで男の方へ迫ってきた。
(何!た…弾が俺の後ろをついてくるだとっ!?)

霊夢の放つ弾幕の特徴である『追尾』はある程度の回避行動などではそうやすやすとは振り切れない。
回避行動をし終えたばかりの男の側面に全ての光弾が直撃した。
その衝撃で吹っ飛んだ男は木箱が無造作に置かれていたスペースへと落ちていき、何箱か壊してようやく男はノックダウンした。
戦いが終わったと感じた霊夢は念のためにと持っていた針をしまうと、地面へ降り立った。
先程大量の木箱があった場所には――箱の中に入っていたのだろうか…―割れたボトルの中に入っていたエールにまみれた仮面の男が倒れていた。

「知ってる?弾幕ごっこで最初から弾幕の中に突っ込むような奴は、余程自分に自信があるか…ただの『馬鹿』だって事を。」





霊夢は倒れている男に冷たくそう言うと足下にあった杖に気づき、それを思いっきり踏みつぶした。
哀れにも悲痛な音と共にも真ん中から折れてしまった黒塗りのソレを、霊夢は軽く蹴飛ばし男への方へやる。
「アンタ一体だれよ?最初に言ったけど私はアンタみたいな奴は知らないわよ?」
霊夢は手に持った御幣の先で男の額を小突きながらそう言った。
「俺もお前と会うのは初めて…イヤ、一度会った気がするな―――」
額を小突かれながらも男はそう言った瞬間…突如男の体がフッとその場から消え失せた。
突然のことに少し驚きながらも霊夢は辺りを見回すと、西側の大きな窓からあの男の声が聞こえてきた。

「おい小娘、貴様が何の目的で西方のアルビオンへ行くか知らないがやめておけ。
 どうやら私よりも更に上にいる者達は貴様を敵視しているらしい。奴らはかなり本気になっている。
  もしこの警告を無視してアルビオンへたどり着いたとき、我ら「レコン・キスタ」が貴様の身を滅ぼすだろう!」

その声を最後に辺りは再び静かになり、後に残ったのは霊夢と木箱の破片だけであった。
一人の残された彼女は数秒の間を置いてから、大きなため息をついた。
「ハァァ~……どうしてこう、私の周りに厄介事が幾つも出てくるのかしら。」
霊夢はうんざりしたような感じでそう言うと御幣を背中に背負い先程男の声が聞こえてきた窓の方へと顔を向ける。
この町へ来てからずっと気になっていたのだが…西の方角辺りから何やら嫌な気配が僅かながら漂ってきているのだ。

―――それも人間には出すことが出来ない「人外」特有のおぞましい気配が…。

妖怪達が多く暮らしている幻想郷に住んでいる霊夢はその気配を何度も感じ取ったことはあった。
ロクな知能を持ち合わせていない下等妖怪の巣や、幻想郷の奥地にある「ひまわり畑」…。
(あぁでも、今感じているのはあの向日葵畑よりかは大分マシね…。)
霊夢は一人心の中でつぶやくと西の方角をジッと見つめた。
「先程の男の言葉といい、この気配といい…どうやらアルビオンとやらは西の方角にありそうね。」
そう言うと霊夢は飛び立とうと――せず、近くにあったベンチへ横になった。
今の今まで意識してはいなかったが、今になってあの空気の塊を喰らったときのダメージがやってきたのだ。
まるで全身筋肉痛のような痛みは霊夢の顔を少し苦しそうなものに変えている。
「服の下に羽織っている結界用のお札…変えておいた方が良さそうね。イタタタ…」

霊夢は常に、とは言わないが服の下に巻いているサラシには結界符を貼っている。
これによりもしも弾幕ごっこの際に胴体に被弾しても多少のことならば致命傷にはならない。
先程の『エア・ハンマー』もこれのおかげで威力を半減できたのだ。
ただ、攻撃を喰らうたびに結界符もどんどんとその威力を弱めていき、終いには消滅してしまう。
いつもならばすぐに新しい結界符に貼り替えいるのだが――
「そう言えば、ここに来てからそんな事をした記憶がないわね…。」
霊夢は一人そう呟くとゆっくりと目を閉じ、少ししてから小さな寝息をたてて眠りについた。

今すぐにでもアルビオンに飛んでいきたいのは山々だったのだが、生憎彼女の体には疲労とダメージがたまりにたまっていた。
人間誰しもそういう時は案外あっさり眠れるもので、れっきとした人間である彼女もまたその例に漏れないのである―――――



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