あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの最初の人-04


 飛び立ってすぐ、太公望の腕にかかる力がいきなり増した。
 腕の中のルイズが気を失っていることに気付いた太公望は、ひとまず地面に降り立ちルイズを見た。
「なんだ? 今は寝とるだけかのう」
 様態を確認して首をかしげる。見たところ――実際は"見た"より"感じとった"の方が正確だが――病気を患っているわけでもなければ、体が弱いわけでもないようだ。あたりまえだがショックで気を失ってしまうような外的ショックがあったわけでもない。
 しばらくルイズのほほをペチペチと叩きながら、なぜ気を失ったのかを考えてみたものの、ルイズという少女のことに詳しくない彼には、まったく理解できなかった。
 しかし、このままルイズをはたいてるわけにもいかない。
 いまだに眠ったままのご主人を彼女の部屋なり休める場所に寝かしておくべきだろう。
 しかしながら、召喚されたての太公望がルイズの部屋の場所を知ってるはずもない。
 そんなわけで困った太公望が、あたりをキョロキョロ見渡すと、塔の影に体の半分を隠した状態の少女と目があった。
「おーい! そこの、ちょっと」
「ひゃっ!」
 なぜだかわからないが、太公望が声をかけると少女は逃げ出した。
「……ここでは、わしはそんなに変なのかのぅ」
 やっぱり文化が違うのかの? とついでに呟いて、ルイズを抱え直し、地面を蹴った。
 飛行するために地面から足を離したのであるが、今度は先のように飛び上がることはせず、真横にすっ飛んだ。走るよりよっぽど速いので太公望の主な移動手段はこれである。
 広場の中心付近にいた太公望らとその少女との距離は人間的な尺度で測るとけっこうなものがあったが、短距離馬クラスの速度で移動する者の場合、話になる距離ではなかった。
 すぐに太公望は少女に追いついて肩を軽く叩く。
「少し聞きた」
「ひ?! ひあぁぁあ!! も、もも、申し訳ありません貴族様!!」
 肩に手が当たった瞬間、すさまじい速さで反転し土下座する少女。
 なんだこやつは? と、あっけにとられる太公望であったが、コルベールから聞いた「貴族は魔法を使役し、平民を統治する」という話を思い出し、合点がいった。
 ようするにこの少女は統治される側、すなわち平民であろう。
 程度の差はあれど、支配する者と支配される者の間にはこのような"恐怖"の感情が付きまとうものである。
 ここは、その程度が"ヒドイ"のだとすれば、目の前の光景もなるほどうなづける。現在腕の中で眠る主人にも貴族と間違えられたのだし、彼女の目にも自分はそう映ったのだろう。
 まぁ、「なに」を怒られると思っているのかは全くわからないが太公望にとってはどうでもいいことであった。
「とりあえずおちつけ、そして顔を上げい。わしは貴族ではないし、なにも咎めるつもりはない。ちょっとばかし尋ねたいことがあるだけだの」
 顔を上げた少女は、目に涙を湛えながら上目づかいで太公望を見つめる。
 ――その少女の顔は整っており、一般的に美少女と呼ばれる者のそれであった。鼻の周りにそばかすは、清純そうな雰囲気を醸し出す黒髪とあいまって、整った"綺麗"なその顔を、親しみやすさのある、"かわいらしい"顔へと変えていた。
 ――さらに、その中にどこか古風な日本女性の奥ゆかしさをも感じさせる顔とは対照的な、胸。着衣を持ち上げ、さあ出るぞ飛び出すぞ、と言わんばかりに自己主張するそれはまさに凶器、二丁拳銃、やニ丁バズーカ。
 ――服の上からでもわかるくらいに、出るとこは出る。引っ込むとこは引っ込む。そんなスタイルがさらにその凶器の殺傷能力を底上げする。
 ――そして、極めつけは少女の服と体勢である。言わずと知れた"メイド服"を身にまとい、きっちりと武器の"顔"、"胸"を見せる体勢。
 ――その目に涙なんてもんが浮かんだ日にゃ、男の庇護慾やら加虐欲やら、いろんな本能に根付く欲望をくすぐってしまう。つまりはもう、この世の八割の男は落ちてしまう。そりゃもうきっと堕ちてしまう。
 しかし、太公望はそんな男心をくすぐる振る舞いを意に会した風もなく、少女に手を差し伸べた。
 少女は礼を言いながらその手を取り立ち上がる。
 涙をぬぐい、裾についた泥や土を軽く払った後、姿勢を正して口を開いた。
「お見苦しい所をお見せしました。私はこの学院で貴族の方々に奉公させていただいてる、シエスタと申します」

「そういえば、自分は貴族じゃないって言ってましたけどなんであの場所にいたんですか?」
「んー……サモン・サーヴァント……だったか? まぁそんなので召喚されたらしいのぅ」
 現在、太公望はルイズを抱えながらシエスタにルイズの部屋に案内してもらっている。
 あのあと、太公望が自分の名前を告げ、事情を話し案内を頼んだ。急なことだったがシエスタはそれを快く受諾した。
 しかしなぜ一奉公人でしかないシエスタが、一生徒であるルイズの部屋の部屋を知っていたか、それは学院で勤務する平民内でのシステムが関係する。
 学院の奉公人は貴族の頼まれごとなら可能な範囲で何でもやる、いわゆる何でも屋のようなものだという。
 とうぜん、もろもろの用事で貴族の部屋に呼び出される事もあり、そんなときはあらかじめ決められた担当の者が出向くらしい。
 偶然シエスタは、ルイズを担当していたため部屋を覚えていた。というわけだ。
 太公望もあっさり案内しだしたシエスタに、ふと湧いて出たその質問をぶつけたが、その説明で納得していた。
「えっ?! じゃあ、タイコーボーさんって使い魔なんですか?!」
「使い魔といっても、なにをすればよいかまったくわからぬがのぅ」
「へえ~人間が使い魔になるってことがあるんですか?」
「あるんですかもなにも、こうしてわしがいるのだからあるんだろうのぅ。周りを見るかぎりは相当まれなケースのようだが……」
 そこで太公望の頭にひとつの疑問がふっと湧いて出た。
「そういえばお主はあそこで何をしておったんじゃ?」
 太公望を先導するような形で歩いていたシエスタの肩が大きく跳ねた。擬音で表現するのであれば「ギクッ」が相応しいような跳ね方であった。
「い、いや、別に覗いてななんかいませんですよ」
 気が動転して、正確で正解な答えを言ってしまったシエスタは、ルイズに聞かれていないかどうか確かめるためゆっくり首を回す。
 太公望は太公望で、貴族の神聖な儀式とやらを覗くのは大罪なのか? と、考えたりしていた。
 ルイズがまだ気を失っていることを確認したシエスタは、ササッと太公望の後ろにまわり背中に手を置き力を込めた。
「まぁまぁまぁ、そんなことどうでもいいじゃないですか、もうすぐミス・ヴァリエールの部屋ですから急ぎましょう。さぁ! さぁさぁ!!」
 別にそんなに急がずとも、と太公望は文句を言うが、シエスタはそれを聞かず背中を押し、走り続けた。
 ただ、ルイズの部屋が近かったというのは本当のことだったらしく、ものの30秒で部屋に着いた。
「そういえば、この部屋に鍵はかかっておるのだろうか?」
「はぁはぁ…………へ? えっとなんて?」
「いや、この部屋は施錠されいるのだろうかと」
 ああそれでしたら、とメイド服のちょうど帯のような部分をまさぐりだすシエスタ。
「ん~っと……あ、あったこれです」
 太公望は少しあきれた様子でそれを見ていた。
「それは……だれでもそうなのかの?」
「え? どういうことですか?」
「いや、どの奉公人もそのように担当している貴族の部屋の鍵を持っているのかの?」
「あ、いえいえ! 自慢じゃないですが貴族様の鍵を持たせていただけるのは奉公人のなかでも私くらいですよ!」
 ちょっとだけ胸を張るような体制で言ったシエスタの顔はなんだか誇らしげだった。
「ミス・ヴァリエールはよく夜食を頼まれるのですが、私の手があく時間でミス・ヴァリエールが指定する時間に届けようとすると、どうしてもミス・ヴァリエールがお風呂に出かける時間になってしまうんです」
「なるほど、それで鍵をのぅ」
「はい! 私のことをそれだけ信用してくださるのです。奉公人冥利に尽きますよ」
 いいながらガチャガチャっとシエスタは鍵を開けた。

 部屋に入った太公望はすぐにルイズをベットに寝かせようとしたが、シエスタがそれを止めた。
 どうやらベットメイクがしたかったらしく、軽くシーツを整えると、太公望に場所を譲った。
「いよっと、これでまあよしだろう」
 ルイズをベットにおろした太公望が呟いた。
「では、わたしはこれで失礼しますね」
「あ、ちょっとついでにもひとつ頼まれてくれんかの?」
 行こうとするシエスタを太公望が引きとめる。
「え? なんですか?」
「いや、これから少し出たいのだが、このままでわしが出て行ってはルイズが目を覚ました時誰もおらぬであろ? そこでちょっとお主に代筆を頼みたいのだが……字は書けるかの?」
「ああ、それならいいですよ。紙とペンはありますか?」
 あたりをキョロキョロと見わたし紙とペンを探す太公望。そんな様子を見て微笑みながらシエスタが別の案を出した。
「なんでしたら私がミス・ヴァリエールをみておきますよ。どうせ戻ってやることも特になかったですし」
「うーむ、まぁそう言うのならお言葉に甘えるとしようかの。ではルイズが目を覚ましたら、日が落ちる頃には戻る。とだけ伝えておいてくれ」
 それだけ伝えると、窓辺に歩き、窓を開く太公望。
 しかし、その足が窓枠にかかったところで急に太公望が振り返った。
 その振り返り方が、なんというかそりゃもう"ぐりんっ"と、人外な動きだったのでだったので、シエスタの口は小さな悲鳴を漏らしてしまった。あと、シエスタにはそのときの太公望の顔がえらく簡略化されて見えていた。
「あ、ここから一番近い町はどの方向にあるかの?」
「あ、ああはい。ここからですと……東の方向にトリスタニアがありますね」
 すまぬ、と礼を告げると、太公望は今度こそ飛び去った。
 だんだんと小さくなるその背中を眺めながらシエスタは思う、やっぱりタイコーボーさんはメイジなのかな? 杖持ってたし、飛んでるし……だとしたら没落貴族? でも、使い魔のこと全く知らないって言ってたし……というかあの動きができるのは人なのかしら?
 そんなふうにルイズが起きるまでまったく不明瞭な太公望の身の上について一人思考を巡らせるシエスタであった。

 部屋を出た太公望は、まず学院の真上、ハルケギニアの単位で約3000リーグ上空へ飛んだ。
「んーっと、沈む太陽が向こうにあるのだから、東はだいたいこっち……お、あったあった」
 そのまま町の影が見えた方に太公望は行く。
 だんだんと町の姿が目に大きく映る。
「あれは城か? ふむ、とするとトリスタニアとは城下町なのかの」
 そのまま地面に降り町の入り口から入っていった。

「ここの道は歩きにくいのぅ」それが太公望のトリスタニアに対する感想であった。
 入り口からまっすぐ城の方へと延びる道であるから、おそらく主要な道なのであろうが、その道幅は5メートルに満たない。
 その道幅に対して歩く人が、妙に多いもんだから4、5歩も歩けばすぐ人と肩をぶつけることになる。
 とくに行くあてがあるわけでもなかったので適当に歩き、人の流れに流され流され押し出され、一軒の店の前に出たので、そのまま入っていった。
「おや、これはこれは、貴族……様?」
 気の良さそうな店主が太公望に話しかけてくる。どうやらこの店は服屋のようだが、この国のお金なんて持っていないし、何よりこの町に来た目的は別のところにあった。
「わしは貴族ではないよ。ついでに言うと何か買いに来たわけじゃないしのぅ」
 その言葉で、店主の態度が、がらりと変わった。
「ひやかしならお断りだよ、帰った帰った。金を落とさない客なんて客じゃねぇやな」
「いやいや、ちょっと尋ねたいことがあっての、それくらいはかまわんだろう」
「……はぁ、とっとと終わらしてくれよ」
 太公望は店主に礼を言い、じゃあと商品の一つを指さし言葉をつづけた。
「あの服はいくらかの?」
「了承得てからひやかしかい? あんた、たち悪いなぁ…………まぁいいや、えっとあれはな――」
 そのあと太公望は、店主に貴族向けの服や平民の服の値段を一通り尋ねていった。
 太公望がわざわざ町に出向いた目的は、ここの物価や土地柄などを知ることであった。
 召喚された時点でコルベールに聞いておくことも考えたが、あのとき知りたいことは、自分が"いつのどこに"来たかであり、こういった類の情報は二の次であった。
 まあ結局、コルベールが言うことの全ては太公望の脳内にある記憶たちのどれとも合致しなかったのだが。
 それに情報の価値は、鮮度が良ければ良いほど上がるものだ。あそこでコルベールに聞くよりも現地で聞き込みをした方が、手に入れれるものはやはり大きい。
 さて、予定では太公望は、このあと何件か店をわたり同じように聞き込みをするつもりであった。
 しかし、ここの店主が口こそ悪いもののじつに気さくな人物で、聞くこと聞くことなんでも答えてくれたので、物価や土地柄に関して太公望が知りたいことほとんどすべてを店主が教えてくれた。
「いやぁ聞きたかったことはもう出しつくしたわ、時間とらせてすまんかったのう」
「まったくだ……っていうかホントに何も買わねぇし、迷惑な客だよ」
「そうは言ってもわしは文無しだからのぅ。まぁしかし恩は返さなければならんのう……」
 店主は、顎に手を当てながら考え込む風にする太公望に取り繕うように言った
「あ、いや、別にかまいやしねぇよ。俺んとこも見ての通り暇だったしよ」
「うぬ……確かにわしが来てからしばらく経っておろうに、まったく人が来る気配がないの」
 太公望がここを訪れてから、おおよそ40分。言葉の通り一人として店を訪れる客はいなかった。
「はぁ……商品に手抜きしてるわけでもないんだがなぁ……できるだけ素材も職人も選んでるつもりだしよ、この俺だって他の服屋の奴らに仕立ての技術で負けてるとは思わねぇんだ、ただ……立地条件が明らかに悪いんだよ」
 確かにこの店が建っている場所は、日の当たり様なところではなかった。
 だんだんと暗い表情になりながら店主は言葉を続ける。
「まったく……町の奴らはやっすいちゃっちい服売ってる店に流れるし、かといって貴族の偉いさんがたは "見栄張りたい"つってブランドもんのべらぼうに高い服ばっか売ってる店行きやがるし……高けりゃ良いってもんじゃねえんだよ!」
 言いたいことを言いきったらしい店主はカウンターに突っ伏しうなだれる。そんな店主に太公望は聞いた。
「……では、服の良さが分かるような者が来てくれればよいのだな?」
「ん? まぁほんとにそんな奴が来てくれればリピーターにする自身はあるさ」
 んー、と太公望はしばらく考えたあと、ポンと手をたたき、こう言った。

「よし、ここの店がこれから儲かるのか、このわしがひとつ占って進ぜよう」
「は?」
 その言葉に呆然とする店主。そんな店主をしり目に太公望はいつのまにか桃を取り出していた。
「……えっと、それは? なんだ?」
「ん? 桃だが」
「いや、それは分かる。いったいなにを始めるつもりなんだ?」
「そんなもの桃占いしかなかろう」
 ため息をついて、もう勝手にしてくれ、と手をひらひらさせる店主。
「ではではでは……」
 一拍置いて何かわからない、少なくともハルケギニアの公用語には聞こえないような奇声を発し始め、その勢いで手に持っていた桃を宙に放る。
 投げられた桃は、ハルケギニアにおいても適応されるらしい万有引力に引きずられ落ち行くが、ある高さでちいさなつむじ風に巻き込まれ静止した。
 太公望の手を見ると、これまたいつのまにか棒、打神鞭が握られている。どうやらそれを使って桃を浮かす風を起こしているようであった。
「あ、あんた……メイジだったのかい? っていうか何叫んでんだ」
 店主の言葉に耳を貸すことなく、順調に、順調に順調に、太公望は狂っていった――

「キエエェェエェエエェイ!!!」イタコに死霊が舞い降りたときのごとき狂声を発した瞬間、宙に浮く桃が真っ二つになった。
「むっ! これは!」
 桃の断面を眺め、太公望は何かを悟ったらしい。
「この店を出て右にまがり、2つ目の左に曲がる角のあたりに迷子がいるはすだから、その子の親を探してやれ。そしたら親があんたの店の商品買ってくれるはずだからのぅ」
 言い終わると太公望は、割れた桃の一方をカウンターに置き、もう片方を自分の口に放り込んだ。
 わけのわからないことを言い残して帰ろうとする目の前の男を呆然とした面持ちで見る店主。
 そんな店主を気に留めるとこもなくモリモリと桃を咀嚼しながら太公望は出口へと歩いて行く。そして、戸に手をかけたときもう一度口を開いた。
「あ、わしが出て行ったらすぐ行くようにのー」
 残された店主は少し混乱していたが、パタンという戸が閉まる音で正気に戻り半信半疑ながらも太公望の言葉に従うことにした。

「えーっと2つ目の角、つったらここだよな?」
 そっと曲がり角の先をのぞき見る店主。ゴミ箱、ゴミ袋、そして単なるゴミ。そんな異臭漂う裏路地と表通りの境目あたりに小さな男の子がほほを涙で濡らしながらチョコンと座っていた。
 そこはほんとに盲点とも呼べるような場所で普通に生活していれば通ることもないだろうし、見むきもしない場所であった。
「え、えっとおぼっちゃんどうしたんだ?」
 太公望の言葉通りの展開に、店主は驚き少し声が上ずりながらも、なんとか男の子に話しかけた。
「ふぇ……え、えっとおとっさん……はぐれっちゃって」
 男の子の言葉に、思わず店主の口から言の葉が漏れ出る。
「……マジかよ」




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