あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの黒魔道士 幕間劇-05


時代の節目は、常に良い作品が生まれるものです。
今夜ご紹介する舞台作品も、そんな時代の節目において、
後世に鮮烈な影響を与えた舞台として、人々の記憶に残るものであります。

その作品は、それまでの、いわゆる「良い子ぶった」トリステイン歌劇に対し、
「自由で、人間らしい、自立した」今日のミュージカルの先駆けとも言えるものでした。
それがゆえに、公開当時、批評家達からは「邪道だ!」「不道徳だ!」と批判を浴び
あるいは先鋭的な劇作家達からは「最高傑作だ!」「これこそ真の演劇だ!」と称賛を受けました。

その題名は、ある実在の女性の名前であり、主役もその女性がモデルとなっております。
激動に生き、恋をし、そして戦った、それまでの女性像からは大きく外れた、まさに異端とでもいうべき人物でした。

異端である女性を、主人公にした、異端の舞台。

ご紹介しましょう。
今夜の“美の巨星達”、その作品は――


ゼロの黒魔道士
~幕間劇ノ五~ 歌劇“エレオノール”


  ♪ここはトリステインが誇るアカデミー
   ここは私の城
   そう私は ここさえあれば何もいらない

   金も、地位も、名誉すらいらない
   ましてや、男なんて!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   みんな肥溜めにでも落ちて死んでしまえ!♪

実に、過激でしょう?
今日の我々からすれば、ごく普通の歌詞かもしれませんが、
初回公演の際、この“肥溜め”の下りで、何人の貴族の方々が腰を抜かしたことか!

ハーディ卿により描かれた作品に、ウェパイン伯が曲をつけて発表した歌劇、“エレオノール”は、この歌からはじまります。

今、舞台中央でこの冒頭の歌を感情たっぷりに歌い上げた、彼女、
彼女こそが、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール、
今回の舞台の主役、その人です。

トリステイン有数の貴族であるラ・ヴァリエール公爵家に生まれた彼女は、
その美しい容姿と、卓越した頭脳、そしてそのあまりにも激しい気性で知られる人物でした。

そうそう、彼女の容姿については、おもしろい逸話があります。
歌劇“エレオノール”の初回公演については、作曲を行ったウェパイン伯自らが演出も担当したのですが、
その際、主役のエレオノールを演じる役者については、このような注文をつけたそうです。

『髪は長いブロンド、これはカツラでいい!だが、高身長でやせ型でなければならない!
 そう、胸が毬のように膨らんでいるような女は絶対に演じさせるな!!
 あくまでも、洗濯板、いや!大地のように平らでなければならない!』

ね?変わった注文でしょ?
当時のトリステイン歌劇界では、踊りよりも歌、歌唱力が重視されていました。
そのため、やせ細った役者などはありえず、
ふくよかで、声に脂の乗り切ったヒロインを至上とする風潮でした。

それをウェパイン伯は、主役を場末の酒場まで捜し求めて大々的なオーディションを行い、
女性たちをあられもない姿に脱がせてまで理想の体格を持つ役者を探したという逸話もあるほど、
情熱をもってこの舞台の作成に取り組んだそうです。
全ては、素晴らしい演劇と、何より肖像画などの史実に忠実であろうとしたためであります。

そのため、初回公演では「鳥の骨の孫が喉から空気を絞り出しているようだ!」と酷評だったようです。
しかしながら、エレオノールを最初に演じたエミリーというダンサーは、
歌よりも踊りで魅せることに長けていたため、公演を重ねるごとに好評を勝ち得るようになってきました。
これにより、ふくよかな女性から、スレンダーでスタイリッシュな女性が人気になるようになったそうです。
男性の好みというのも、案外いい加減なものですね。

さて、舞台に戻る前に、モデルとなった女性と、その歴史を簡単におさらいしておきましょう。
冒頭で申しましたとおり、エレオノールはトリステイン有数の貴族であるラ・ヴァリエール公爵家に生まれ、
厳格な父親と、“史上最も若く美しく勇ましい女性”と歴史家のアラズラムが評する母、
カリーヌ・デジレの間に、長子として誕生しました。
母の血を色濃く受け継いだためでしょうか、エレオノールは古くからの良妻賢母となることを良しとせず、
その高い理想と、男勝りの性格、卓越した頭脳から湧き出る毒舌の数々により、
トリステイン・アカデミーにおける研究員としての確固たる地位を築く一方、
色事からはどんどんと遠ざかっていき、あげく許嫁にも逃げられるという運命をたどってしまうのです。
この許嫁が最後にエレオノールに宛てた最後の手紙は、
今もトリステイン王立図書館に大切に保管されています。
「もう、限界だ」
その言葉は、簡潔にエレオノールの周囲の評価を現しているといえましょう。
さて、貴族の女性にとって、婚約者に逃げられるということは不名誉極まりないこととされております。
このことから、エレオノールは男性不信に陥り、学術の世界へとその情熱を傾けることとなったのです。
冒頭の彼女の歌は、自分に恐れをなして逃げた婚約者へ、
そしてあらゆる男性へのの嫉妬と怒りを込めて、細い体の全身を使い歌いあげられます。
「男なんて!みんな肥溜めにでも落ちて死んでしまえ!」と。

さて、彼女の心の拠り所となったトリステイン・アカデミーは、由緒ある魔法研究所として、
今日も形を変えつつ、歴史にその名を残し続けている組織ではありますが、
舞台背景となったブリミル歴6242年当時、未曽有の危機に直面しておりました。
いわゆる“レコン・キスタ騒乱”、アルビオンに端を発した理想を求める人の渦は、
彼女の居城ともいうべき象牙の塔にもその爪をのばしていたのです。
とはいえ、それは直接的な武力行為ではなく、経済的影響、簡単に言ってしまえば、お金の問題です。
同年、トリステインの春小麦はラグドリアン湖近辺の水害により収穫が芳しくありませんでした。
さらに予期されていたレコン・キスタ率いるアルビオン軍との衝突はかの有名な“白光の奇跡”により回避されたものの、
依然、緊張状態が続いており、少なくなったトリステイン国庫の予算は大幅に実際に兵を動かす部門に割かれました。
それら影響を、研究所に過ぎないトリステイン・アカデミーがかぶる結果となり、
多くの研究者がアカデミーを去らねばならぬほどアカデミーの財政はひっ迫することとなったのです。

  ♪あぁ腹立たしい!
   お金のために 頭を下げねばならないなんて!

   あぁ腹立たしい!
   お金のために 時間を割かねばならないなんて!

   全て 男が悪いのだ!
   男どもが 争わなければ 何もかもうまくいくものを!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   みんな馬車に轢かれて死んでしまえ!♪

そのような状況にあったトリステイン・アカデミーへ救世主が訪れたのは、
“白光の奇跡”のほんの少し後であった、とされています。
隣国ゲルマニアのとある貴族から、国交強化の一環という名目で、
多大な資金がアカデミーに寄付されることになったのです。

より多額の給付金を確実に獲得するために、
アカデミーの所長はエレオノールに接待をするよう差し向けました。
この処置は、エレオノールの美貌と、聡明さでもって籠絡しようとしたという説と、
所長が女性蔑視の考えの持ち主であったため押しつけた、という説が存在しています。
ともかく、エレオノールは嬉々としてこの仕事を受けたわけではない、
ということが、次の歌詞で分かります。


  ♪何故 この私が男のために接待を?
   何故 この私が男のためにお茶くみを?

   しかも にっくきゲルマニア?
   笑わせるんじゃないわよ!
   野蛮で 粗野で 下品な者どもに
   この私の研究が理解できるはずがない!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   みんな犬に噛まれて死んでしまえ!♪

トリステイン貴族におけるゲルマニア嫌いは有名ですが、
エレオノールはヴァリエール家というトリステインのゲルマニア国境付近に居を構える家を生家としているため、
その傾向がより強くなったのではないかと、多くの研究家が指摘しております。

アカデミー所長も同様にゲルマニア嫌いであったと推察されますが、
お金のために、所長は“ある飲み物”を切り札として用意しました。

  ♪何だと言うの この焦げたにおいは?
   泥水のような色 煮えたぎった水
   東方の品だというけれど 珍しいだけで
   とても飲めそうにないわ♪

何か、お分かりでしょうか?
東洋産で、香ばしい香りに、褐色色の暖かい飲み物。
そう、答えは、コーヒー。
サハラよりも南方を原産地とするコーヒーは、当時のハルケギニアにおいては珍しい品であり、
まだその飲み方も確立されておらず、単に乾燥した豆を煮だしただけのものであったりしました。
エレオノールが試した入れ方もそれと同様であり、薬としてはともかく、飲用には適切ではありません。
珍しければ喜ぶだろうという所長のはからいであったのでしょうが、
味見を行ったエレオノールの感想は酷いものでした。

  ♪すっぱい!苦い!
   なんて刺激的で不思議な味なの!
   でも こんなものを飲むなんて 人間ではありえない!
   まぁいいわ 男に飲ませるならば このぐらいが丁度いい!
   ましてやにっくきゲルマニアの男ならば!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   みんな毒を飲んで死んでしまえ!♪

薬として飲まれていたものですから、この反応も無理は無いでしょう。

  ♪ゲルマニア 子爵 ピーコック卿のおな~り~!♪

おや!とうとうやってきたようですよ!

  ♪やってきた? そう、その男とやらがやってきたの?
   どんな男か見てやりましょう
   きっと野蛮な男ね
   オーク?いいえ、トロールのような姿かもしれないわ
   このコーヒーとやらで 出鼻をくじいてやりましょう♪

さて、満を持して舞台中央に登場した男性の容姿。
この舞台衣装も、初演公開時からほとんど変わっておらず、
いつの時代にも、見る人を驚かせる仕掛けとなっております。
素肌に胸当てのようなベスト、白い布で作られた羽のような大きな袖、
腰布の下は心もとない革製のビキニパンツのようなものに、丈の長いブーツ。
史実を基にしたと言われておりますが、この服装に関しては、
原作者のハーディ卿の悪ふざけであった、とする説が今は有力です。

  ♪ふん 顔は許してやってもいいわ
   ゲルマニア男にしては 上等ね
   でもどうせ頭の中は オークやトロール並なんでしょ
   それにしてもなんて破廉恥は格好なのだろう!
   これだから ゲルマニアは!♪

  ♪やぁやぁ! なんとお美しい方だろう!
   学術の砦に 咲き誇る一輪のヒナゲシのごとく!
   あなたのような方に出会えるとは
   人生とはかような贈り物を受くるものか!♪

さて、この銀髪の美しいピーコック卿という男性、実は歴史上、そのような名前のゲルマニア貴族は存在せず、
歴史家の間では彼の正体は誰かという議論が、度々行われております。
有名な説としては、当時、オークションハウス経営で大儲けをしていたキングス商会のキング伯、
あるいは珍説として、ガリア王家の食客であり、武器商人として暗躍していたとされるクジャ卿、
さらには“裏切りの閃光”ワルド子爵や、武器工芸の分野で知られたシュペー卿、
アルビオンのウェールズ王子とする説まであり、定かではありません。
この辺りにも、歴史のロマンがあると言えるでしょう。

  ♪なんて刺激的で不思議な声なの!
   でも こんなセリフに浮かされるなんて ありえない!
   まぁいいわ さっさと用事をすませましょう!♪

  ♪なんといい香りだ!
   天使のもたらした恵みだろうか!
   あるいは悪魔の誘惑であるのだろうか!

   もしや貴女が両方を兼ねているというのかな?♪

既に、皆さんはお気づきのことと思いますが、
ピーコック卿の歌うメロディーは、通常のハルケギニア音階とは異なったものとなっています。
どの部分も半音ずつ波打つように構成されており、独特の陰影を作りだしています。
これは、ウェパイン伯自身が楽譜に書き残してあるように、
『東洋的に!』との狙いからこのようなものとなったそうです。
そのため、ここで演奏される楽器構成も、通常のオーケストラの構成に、
東洋の楽器として“シタール”と呼ばれる東洋のハープが用いられています。
オリエンタルな魅力にあふれた男性に、次第にエレオノールは心魅かれていきます。

  ♪銀の髪に 不思議な声音
   東洋のお方かしら?
   薫るコーヒーと共に なんと魅惑的……

   いいえ! どうしたというのエレオノール!
   所詮男じゃないの!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   みんな扉にはさまれて死んでしまえ!♪


  ♪ほう コーヒーですか
   あぁ いい香りだ
   まるであなたのように 僕を誘う♪


  ♪まぁ お上手ですこと

   でもダメよ エレオノール!
   そうよ 騙されてなるものですか!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   あぁ でもなんと刺激的で不思議な方なの!♪


  ♪エキゾチックで 魅力的
   今まで会った女性とは どこかが違う
   あなたになら 任せられそうだ♪


  ♪任せるとは 何を?♪


  ♪火竜山脈の調査です
   船の準備は僕がいたしましょう!

   歴史あるアカデミア そして何より知的な貴女
   そう貴女ならば お任せするのに躊躇はない!♪

火竜山脈。
その地は、ガリアの背骨とも呼ばれる、6000メイル級の山々が連なる秘境として、
当時は、火龍の住まうその地は、学術的な調査はまだなされておらず、
固有種である動植物や、貴重な鉱物の存在を信じる人々は多くおりました。
地政的にも、魔学的にも意義のある調査地域対象であることは間違いなかったでしょう。
しかし、エレオノールは、その名誉よりも大事なものを、見つけたようです。

  ♪知的な女が お嫌いじゃないの?

   男なんて
   男なんて
   男なんて
   知的な女を嫌うものですのに♪

知的で聡明な女性。
男尊女卑の考え方は未だ根強く残っており、
エレオノールのことをそのまま許容する男性は、非常に稀でした。


  ♪何を嫌うというのですか!
   貴女の偉大なる母上は 聡明にして勇敢で
   誰に嫌われたと おっしゃるのです?♪


  ♪あぁ なんだと言うの
   ただのお世辞であるというのに!

   男なんて
   男なんて
   男なんて
   この人は違うというのかしら?♪


  ♪美味しい珈琲をごちそうさま!
   貴女の 笑顔が見れて良かったです
   もっと笑った方が お綺麗ですよ
   それでは また♪


  ♪なんて失礼な男なの!
   あっという間に去っていった!
   これだからゲルマニアの男というものは!

   男なんて!
   男なんて!
   男なんて!
   あの人以外 存在しなくていい!♪

恋の芳香に浮かされたエレオノール。
彼女の物語は、ここから始まるのです。


新着情報

取得中です。