あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

絶望の使い魔IF-7


自らの髭をさすりながら古い本を読んでいる老人がいる。
本の題名は『始祖ブリミルの使い魔たち』。
老人─オールド・オスマンはちらりと傍らにある鏡に映し出されている光景を見る。
森の中で一人のピンクの髪の少女が巨大なオークと本を挟んで向かい合っているのだ。
何か話しているようではあったが音声は拾えない。
話し合いがひとしきり終わると森の開けた場所までオークと移動し、
そして向かい合うと少女は背負っていた剣を抜く。
ここで少女を映していた鏡はただ老人の顔を写すだけとなる。
ここ最近オスマンはこの少女の様子を観察することが多くなっていた。
先程見た一連の動きはパターン化されているといってもいいほど毎日のことである。
分かるのは少女が戦闘を行おうとすると遠見の魔法は常に見えなくなることと、
彼女が人間を食べるはずの凶悪なオークと意思疎通を行っていることだ。
前者は何らかの阻害魔法を使うことでできそうである。
しかし後者はモンスター心通わせる能力を持っていることになる。
魔物を従える──まるで始祖ブリミルの使い魔の一匹、ヴィンダールヴの能力ではないか。
彼女の使い魔のルーンはガンダールヴであったはずだ。
手にしている本を見ても間違いなくガンダールヴであることを示している。
伝承では虚無の呪文は詠唱が長く、その時間を稼ぐために使い魔がいたと聞く。
ルイズ本人の戦闘能力の上昇はガンダールヴと言える。
ここにきてヴィンダールヴの能力まで保持していることがわかった。
始祖の使い魔2体の能力を有するメイジ。

ここで問題なのは『使い魔ではなくメイジである少女がその能力を持っていること』だ。

結論としては少女が扱っている力はけっして始祖の力ではないということだ。
おそらく使い魔の先住魔法か何かであり、その魔法の副作用のようなものでルイズの性格、
性質が変化してしまったのだろう。ルイズが力を得る前、召喚した直後の危険と判断したときに
亜人を始末して置けばよかったと何度も考えたが過ぎたことは仕方がない。
使い魔を始末するための魔法の選定は終わった。すべては計画通り。
あとは彼女の行動次第である。

_________


夜が更け、ろうそくの灯りに照らされながらルイズは手紙を書いていた。
誘拐未遂からもうすでに3週間ほど時が経っており、
噂されることの中心はルイズの行ったことから離れている。
その中には土くれが牢からまんまと逃げ果したという話があった。
あの怪我でよく逃げられたものだ。
現在書いている手紙は実家のほうに金を無心するためのものである。
今、ルイズはお金の重要さを実感しているのだった。
というのも、人を動かすということに金がかなりかかることに気付いたのだ。
ルイズが作らせた組織は少しずつ不必要な構成員を減らしているとのことで出費は減るだろうが
ルイズの小遣いだけではいささか不安であった。そしてこのたびの報告内容だ。
アルビオンの方面への輸送経費が恐ろしくかかると手紙に書いてあった。
浮遊大陸であるアルビオンへの交通の便は恐ろしく悪い。
そこに行くには大量に風石を積んだ船で空を駆けなければならないのだ。
風の力を溜め込んだ風石は高価であり、できるだけ消費を少なくするのが当然である。
よってアルビオン─トリステイン間の航路はアルビオンがもっとも近づいてきた時に活発となる。
しかしルイズはアルビオンの位置に関係なく連絡を密にするように言っていたので
その交流時期の外れた数少ない貴重な便に乗せてもらうために余分に金が必要となったのだ。
こうしたことにより、普段から使わず大量に貯めてあった財布の中身が警告を発し始めたのだ。
ルイズ自身が組織を作れと言っておいて金払いがよくなくなるのは信頼の失墜に繋がってしまう。
リーダーの男はともかく他の連中は金が切れれば離れていくだろう。
よって金の工面は優先事項となった。
当初、ルイズはこの組織にはアルビオンのことを調べてもらうだけのつもりであった。
すでにアルビオンの反乱が成功することは確定している。ここで切っても痛手はない。
しかし、上げてくる報告書は思っていたよりも広く調べられており、
この間読んだときには注目すべきおもしろい情報が載っていたのだ。
それはトリステイン貴族にアルビオンの貴族派の仲間と思われる者がいるというのだ。
すでに何人かリストになっている。確実であると判明しているのはどこも中小貴族ばかりだが
大貴族の中にも怪しい者がいるようだ。アルビオンの反乱軍、レコンキスタの手が思ったよりも
伸びていることに驚いた。これならトリステインとの戦争になるのはそう遠くない。
こうしたことからルイズは切らない方が有益であると判断した。

この2週間にあったことをゆっくり思い出す。

あの後、オークに魔道書を説明してもらった。
やはり身振りだけでは難しかったが少しづつ分かる文字を増やしていき、
だいたいの概要を把握するまでになった。

魔道書に載っていた魔法陣は契約するためのもので、契約をすることで先住魔法が使えるようになるらしい。
その日からルイズはオーク監修の元、魔道書に載っていた魔法と契約し始めた。
初めて呪文の契約をした時、ルイズは喜び勇んで呪文を唱えた。

るいす”のこえは やまびことなって あたりに ひびきわたった!

とりあえずオークの胸倉を掴んで思いっきり引き寄せ睨みつけたが、その光景はデルフリンガーから見れば
体格差により詰め寄ると言うよりぶら下がって遊んでいるように映ったという。
もちろんからかってきたデルフリンガーには仕置きをしておいた。
さらに詳しく理解してくるとなぜ使えないのかがわかった。
まず、この先住魔法にも適性と言うものがあるらしい。適性がないと契約しても使えないらしい。
次に魔法を唱える術者の力量。系統魔法のようにメイジを明確にランク分けしているわけではないがやはりそれなりのレベルと言う区切りがあるらしい。

今回の魔道書に載っていた先住魔法はほとんどが戦闘用の魔法であることがわかったが
その中でルイズがほしかったものがあった。

回復魔法である。

誘拐時にオークが唱えたその効果を見て以来、ルイズは期待していた。
しかし無残にもその適正はルイズにはなかったのである。
回復呪文の中で、もっとも簡単だと思われる「ホイミ」が使えなかったのだ。
ヒャドなどの水系統を唱えられるのなら回復魔法もいけると考えていたルイズは
1時間ほど膝を抱えて地面に座り込んでしまった。
しかし神は救いも与えている。幾つかの攻撃魔法と便利な補助魔法が少しだけ使えたのだ。
補助魔法も闇の衣で効果がないと考えていたが試してみると重ね掛けができ、ルイズは興奮して
淑女にあるまじき狂態を見せてしまった。
それを見ていたのは一本の剣と一匹のオークだけであった。
忠実なオークはもちろん剣の方も再三ルイズをからかって酷い目に合わされていたので
その時のことは一匹と一本の記憶の片隅にしっかりと保存されることになる。

実戦経験の少なさを補うことと、新しく覚えた魔法を用いた戦闘に慣れるために
ルイズはデルフリンガーが言っていたオークとの剣の修練を行うことにした。
とはいえ、補助魔法の影響下で滑らかに動けるようになることが目標としていたため、
ただ実戦さながらに戦うだけであった。
デルフリンガーの期待に添えたかははなはだ疑問であるが、
オークと戦っているとデルフリンガーは剣の扱いがどうのとうるさく言ってこなくなったので
諦めたのだろうと思う。彼にはこれからも剣という名の鈍器としてがんばってもらいたい。

羽ペンを置いたルイズは書き上がった手紙を読んでいく。
その文面は己の使い魔を出汁にしたものだ。
大筋の内容は『寝たきりの使い魔を起こすために水の秘薬を買ってみたが効果がない。
もっといろんな薬を試したいのでお金を送って欲しい』となっている。
使い魔に関わることなのできっと大丈夫だろう。
手紙をしっかりと封蝋したルイズは部屋から出て、兵の詰め所に行く。
これは普段なら手紙の宛名方面に行く荷馬車に任せるのだが、
早く手紙を送るならここにいる衛兵に頼めばよいと聞いたことがあったからだ。
詰め所にいた兵士にしっかりと明日の朝一番で送るように告げるが胡乱な目でルイスを見てくる。
兵士は気だるそうにしていたがルイズが金貨を5枚ほどテーブルに置くと
馬の使用の手続きをいきなり始め、緊急だ!と奥の兵士に声を掛ける。
掛けられた者はテーブルにあった金貨を確認した後、
3枚取るとルイズの手紙を丁寧に懐に入れてそのまま厩に向かってしまった。
手続きを行った兵士は残った金貨を懐に入れながらできるかぎり急がせましたとルイズに報告する。
やはりお金は大事だと再確認したルイズであった。



─────────────
夢を見た。
身体が揺れている感覚がする。視界は少し暗いだけ。
小さな小船の上で毛布を被り泣いていたようだ。
目を手で覆い、身体を縮めて震わせている。
これは小さい頃の夢だ。ヴァリエール公爵領の本邸で叱られて逃げ出した時、
自分だけの秘密の場所―庭の池に浮かぶ小船に隠れて過ごす。

「泣いているのかい、ルイズ」

その声に顔を上げる。
被っていた毛布を頭から外すが、その人物は日を背負い逆光になって顔が見えない。
泣いている顔を見られたくなかったルイズはすぐに顔を毛布に埋める。

これは違うとルイズは感じていた。こんなものはだめだ。

次の瞬間、ルイズの手にはデルフリンガーが握られており、体からは力強い躍動を感じる。
目の前の優しく声を掛けてくる敵を袈裟切りにする。
さっきまで優しげな顔をしていたその人物は何が起こったのかわからないといった顔で血を吐く。
裏切りを受けた者の表情とはなんと甘美なのだろう。
そして視界すべてが闇に塗りつぶされ、闇がルイズを包んでくれる。
毎晩与えられる優しく抱きしめてくれるような感覚にルイズは溺れてしまっていた。


────────
その日の最初の授業は風の盲信者ギトーの講義であった。
久しぶりに授業に出たというのにギトーの授業がくるとはなんと運の悪いと自らを嘆きながら
ギトーが熱弁をふるう様を半目で見ているとそれが耳に入ってきた。
皆、ギトーの演説には辟易しているのであまり真剣に聞かずに話していたのだが、
その中の使い魔品評会という単語をルイズの耳は拾ってしまった。
そういえばもうすぐそんな季節である。授業どころか最近はいつも外に出ていたため全く気付かなかった。
使い魔品評会・・・毎年行われる新しく召喚された使い魔に芸をさせるというものだ。
最近使い魔にしつけをする場面に出くわすことが多かったがそれが理由か。
ルイズの使い魔は眠ったままである。しかも行われるのは明日らしい。
使い魔が動かなければ、どうすることもできないではない。
ルイズはメイジとなったというのに学院の他のメイジと同じようにこなせない自分に怒りを覚える。
そのとき手元でメリっと音が鳴り、前後や近くの生徒がこちらを見てくる。
彼らは一様に顔を青くした後、授業中であるにも関わらずゆっくり席を立ち、ルイズの近くから離れていく。
ルイズも自分の手を見やると机の天板を握りつぶしてしまっていたことに気付いた。
この机の修理や片付けはどうなるのだろうかとルイズが考えていると
教室全体の雰囲気が慌しくなる。何事かと思うが原因はキュルケが炎を出していた。
どうやらギトーが挑発し、それにキュルケが応えようとしているようだ。
結果はギトーがキュルケの炎を吹き飛ばして終わり。

「諸君、風の前ではすべての者は立つことはできない。火、水、土そして伝説の虚無さえもなぎ払うだろう。
 私はここに風の最強の証を君たちに見せよう!ユビキタス・デル・ウィンデ・・・・」

詠唱が終わった後、教壇には三人のギトーがいた。

「これは風の遍在だ」

ギトーの二体の遍在はそれぞれに向かって風の魔法を使う。風の魔法エアハンマーがぶつかり合う。
生徒の注目が集まっているのを見てから遍在2体が消滅する。

「風は遍在する!いかに相手が強かろうが数の力には適わない!これが風最強の証明だ!」

そのとき戸口が開いてコルベールが入ってきた。ずいぶん慌てているように見える。
生徒に強さを見せつけたことで機嫌のいいギトーは朗らかに対応する。

「どうしました?ミスタコルベール。今は授業中ですぞ」
「授業は中止です、はやく外に出て準備をしてください。
 急な話ですが明日の使い魔品評会ですが王女、アンリエッタ姫がご観覧なさるのです。
 ゲルマニア親善訪問より戻られた足でこちらに向かわれており、本日到着予定だそうです」

それだけ言うとすぐに扉より出て行ってしまう。
そして少しずつ伝えられた内容が頭に染み込んでいくと、生徒たちの間でざわめきが起こった。

生徒たちが整列し道を作り、目の前を騎士に護衛された馬車が通っていく。
時折馬車の中から微笑みながら手を振る少女に歓声を上げていた。
その少女は馬車の外から見えない位置に座ると大きくため息をついた。

「姫様。ため息をつくのはこの馬車の中でだけですぞ」

頭に小さなティアラを乗せた少女、トリステインの王女であるアンリエッタ・ド・トリステインは
自分に話しかけてきた目の前に座る人物に目を向ける。
トリステインの政治で辣腕を振るうマザリーニ枢機卿。権力の集中により彼はよく悪く言われるが
間違いなくトリステインのために行動している。
このたびのゲルマニア訪問も彼が調整したものであった。
今回の訪問によりアンリエッタの将来が決まってしまったことで恨み言の一つも言いたいが
トリステインのためを思うなら一番の選択肢であろう。しかし今回のこと問題を残していた。
その問題を知るのはおそらく自分だけだろう。そしてこの問題は公にすることができないため、
アンリエッタは目の前の人物に相談することもできない。だからこそ自分は気分転換にかこつけて
親友がいるこの学院に来たのだ。この問題を解決できるであろう人物に会うために。

「此度のことで姫様は何か悩んでらっしゃるようですが大丈夫です。
 私がすべて取り計らいます。何も心配はいりません」

マザリーニ枢機卿の言葉にさらに自分がなんとかせねばなるまいとアンリエッタは決心した。



学院の生徒たちが王女に注目していたとき、ルイズはその隊列の中でも魔法衛士隊を観察していた。
一人ひとりがトライアングル以上のメイジであり、かなりの剣の腕前まで持っている。
最終的にトリステインを平らげるにはこいつらが立ちふさがるであろう。
だがこのルイズを相手にグリフォンに乗っているのは失敗である。いつか来るそのときが待ち遠しい。

歓迎式典が終わり、授業が無いことを確認したルイズは図書室にいた。
読んでいるのはマジックアイテムの本。魔法陣については分かったがそれ以上に気になるものがあった。
それは夢で見た光る玉だ。まさに夢で見た効果は天敵と言えるほどではないだろうか。
これについては調べるにしても他の者に知られるのはまずい。
なんと言ってもルイズにとっては危険な物である。
例え信用が置ける者であっても知られるわけにはいかない。
同じく図書室にいたタバサも誘わず黙々と探し続けた。


──────────

今日、使い魔品評会が午後から行われる。
すでに中央広場にちょっとした舞台会場が設置され、学園内は魔法衛士隊の面々が巡回を行っている。
昼食の時間になった頃に使い魔の目が覚めていないことを確認し、
ルイズは使い魔品評会を辞退することにした。
ぎりぎり間に合うのではないかと考えていたが、そんな都合のよいことは起きなかった。
落胆の念がかなり強く、立ち上がるだけなのに苦労する。
医務室を出てすぐに会ったコルベールに使い魔品評会を辞退することを告げると、
コルベールも使い魔が起きない現状を知っていたので了承し、
握りこぶしを作って報告するルイズが落ち込まないようにと励まそうとする。

「あなたの使い魔はすばらしい力を持っています。
 心無い人は眠っているだけだと言ってくるかもしれませんが、優れていることは間違いありません。
 メイジの実力は使い魔を見ればわかると言います。
 優れているが眠っている使い魔と同じく貴方の力もまた使い魔と同じくまだ眠っているだけなのです。
 あなたは間違いなく最高のメイジですよ」

コルベールがルイズをメイジとして持ち上げるように話すのを聞き、ルイズは少し冷静になることができた。
魔法が使えるようになってから自分がメイジだと変に意識しすぎていたことにルイズは気付いたのだ。
もともとルイズが剣を持ち始めたのも、型に当てはめずに自分を強くしようと思ったからである。
コルベールに礼を言って別れると図書室に向かうことにする。
今回のことで初心を思い出し、自分に精神的な未熟さを実感した。
それにまだまだ振り回されるかもしれないことに頭を痛める。
致命傷にならないうちになんとかしないといけない。


使い魔品評会はタバサの風竜が最優秀賞を勝ち取ったそうだ。

その夜、ルイズが部屋でデルフリンガーと先住魔法について話していた。
普段なかなか喋らせてもらえないデルフリンガーは機嫌がよさそうだ。

「お前さんのは契約はしているがエルフとかが使う先住魔法とはちょっと違うんだよなぁ」

「エルフがどんな先住魔法を使っているか知らないけどオークが持ってきた奴だからね。
 でも回復魔法が使いたかったわ。あれほど恐ろしい魔法はないわよ。
 死んでなければ大怪我を負っても回復できるとかありえないわ」

「確かにありゃすげぇよな。あいつとおめえさんとの剣の修練の名を借りた殺し合いで
 どちらも死んでねぇのは間違いなくあの「べほまら」とかいう魔法のおかげだ。
 戦うのはいいけど心臓に悪いぜ」

「あんたのどこに心臓があんのよ」

「ひでえな。こんなに心配してやってんのによ。
 こんなことならおめぇさんが失敗した時にもっとからかってやればよかったよ」

「あんた息の根止めるわよ?」

「俺は剣だから息なんてとうの昔に止めてらぁ。むしろ息なんてしたことねぇ」

「それは私への挑戦と受け止めたわ」

そう言うとルイズはデルフリンガーを手に取り、折るように力を加える。

「あ、ごめん、言い過ぎました。申し訳ございません」

すぐに謝罪してきたデルフリンガーに半目を向けながら、床に放り出す。
床に投げられたデルフリンガーは先程の殊勝な態度はどこへやらすぐに文句を返してくる。

「ったく。剣の扱いが荒いぞ。もっと丁寧に扱えよ」

「あんたの減らず口が減ったら考えてあげるわよ」

デルフリンガーの不満にしっかりとルイズは返す。

「嬢ちゃんとはこんだけ馬が合うってのになぁ。相棒じゃねぇのが残念だよ」

ルイズはふと気になる言葉を聞いたので眉を動かす。

「また剣の振り方がどうとか言い始めるんじゃないでしょうね。そんなの習得するのに何年かかるのよ。
 戦闘への慣らしの方が重要でしょ。技術ってのは後から付いてくるって聞くしね。
 ところで、相棒じゃないってどういうこと?あんたは私の剣でしょ?」

ルイズは少なからずこの剣に心を許していた。現段階でルイズの裏側を一番知っていると言える存在だ。
しかしここでそれが否定されるように感じてルイズは不安を抱いた。

「いや、それはもういいよ。おめえさんには必要なくなった。
 それと相棒ってのはな、持ち主とか使用主ってことじゃねぇよ。
 ええっと、・・・なんだっけ?忘れちまったなぁ」

マヌケなデルフリンガーの返答があったとき、ルイズの部屋にノックが響いた。
デルフリンガーへの追求を抑え、軽く闇の衣を纏う。
先程の会話を聞かれていたかもしれないことに背筋が寒くなる。
ルイズは慎重に扉を盾にしながら開ける。そこにはローブを纏った不審人物がいた。
部屋に入ってこようとするので、肩を掴み壁に押し付け、精一杯ドスを効かせた声で話しかけた。

「どちら様でしょうか?不審な動きをすると唯ではすみませんよ?」

「ル、ルイズ?」

どこかで聞いたたことあるような声に首を捻る。言葉に焦りが混じるローブの人物がフードを外した。
下から現れたのは頭にティアラを乗せた同年代くらいの少女。
その顔を見てやっとトリステイン王女であるアンリエッタだということに気付いた。
まさかの訪問客に思考が停止しそうになったが被り振りながら冷静になろうと努める。
なぜ王女がこのように人目を忍んでくるのかが疑問に思うが、
とりあえず部屋に入りたそうにしているので入れてやる。
部屋に入った王女はディテクトマジックで部屋を探索した後、懐かしそうに話始めた。
うれしそうに昔話に興じる王女の相手をしながら考える。
様子からしてルイズとデルフリンガーの話は聞いていなかったように見えた。

ルイズと王女はそれなりに親しかった事もあり、会いにきただけということもあるかもしれない。
宮廷で言えないような愚痴でも言いにきたのだろうか?
さっさと本題に入りたいルイズはアンリエッタに質問をする。

「姫様。それで今日は旧交を温めに来られたのでしょうか?」

ルイズが促すとアンリエッタは途端に浮かない顔をしてきた。

「私、結婚するの」

合点がいく。アンリエッタはこの事で愚痴を言いに来たに違いない。
確かこの娘はアルビオンの王子が好きだったはずだ。
いつぞやは逢引のために抜け出す時に身代わり役として寝床に潜っていたこともあった。
アルビオンの戦況ではその王子の属する王党派が終わろうとしている。
今入っている情報は反乱軍の兵士によって城の包囲が完了しそうであるとのことだ。
その暗い表情のアンリエッタに口の端で笑いながらもしっかり手で隠して事情を伺う。

「おめでとうございます。それでお相手の方は?」

「ゲルマニアの皇帝です」

それを聞きルイズはなるほどと頷く。

「今回のゲルマニア訪問の目的はそれでしたか。
 まあ今のアルビオンでの内乱で、貴族派の反乱が成功すれば次はトリステインですからね。
 ゲルマニアとの同盟は賛成します。王族としての責務大変であろうことをお察しします」

ゲルマニア─トリステイン間の婚姻による同盟。
当然考えられることであった。しかしこれはまずいことになってきた。
同盟が成立すれば反乱軍が攻めにくくなってしまう。この婚姻は妨げなければならない。
どうしたものか・・・
しかしアンリエッタはその言葉に絶句する。おそらくルイズならゲルマニアの皇帝との婚約に怒りを感じて
そんな境遇の自分に同情すると思っていたのだ。
部屋に入る時といい、冷静なルイズの言葉に戸惑いが生まれる。

「その通りです。ですが、問題があるのです。
 アルビオンのウェールズ様を覚えておりますか?」

「覚えてますよ。あのアルビオンの凛々しい王子様ですね?」

「そう、そのウェールズ様に私はある手紙を出してしまったのです」

「手紙を出すくらいで問題にはなりませんよ」

「いいえ、違うのです。
 その手紙にはゲルマニアに送られれば婚約は解消されるほどのことが書かれているのです。
 ・・・はっきり言ってしまいましょう。手紙私からウェールズ様への恋文です。
 婚約解消となればトリステインは独力で反乱軍と戦わねばならなくなります。
 この国のためにもなんとしてもその手紙を回収しなければなりません。
 それも絶対の信頼の置ける者でなければこんな任務を拝命させるわけにはいかないのです。
 しかし私が信頼できるような者は宮廷にはいません。どうすればいいのでしょう。
 誰か罪深い私を助けてくれるような者はいないのでしょうか」

アンリエッタはちらちらとルイズを見ながら事情を説明してくる。
話し方からして、ルイズが自分から志願してくれるのを待っているようであった。
まさに渡りに船の申し出であった。この任務に失敗すれば同盟の話はなくなる。
その様を思い浮かべたルイズはアンリエッタににっこりと微笑みを送る。

「姫様!ここに私がいるではありませんか。私にどうか命令してください。
 手紙を見事手に入れてこいと。それだけで動く貴方の友が宮廷にはいなくともすでに目の前にいます」

驚いているような顔を作りながらアンリエッタは言葉を返す。

「いけません!貴方をそのような危険な場所に行かすなどどうしてできましょうか」

「姫様のためならば危険なぞ省みない覚悟です」

「本当に行ってくれるのですか?」

「もちろんです。私以外にこれほど適任な者もいないでしょう。
 このルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、トリステイン貴族として、
 そして何よりあなたの親友として!この任務果たしてみせます」
「ああルイズ!私はなんとよい友を持ったのでしょうか」
「任せてください。すべてうまく行きますよ。すべて、ね・・・」

アンリエッタは最初に感じた違和感を忘れ、
ルイズの微笑みと自信のこもった言葉に大きな安心を覚えていた。
自分の指から指輪を抜いてルイズに手渡す。

「ルイズ。これは王家の宝、水のルビーです。これをあなたに。
 もし路銀が足りなくなればそれを売り払ってください」

ルイズはありがとうございますと言いながら受け取り自分の指に嵌めた時、
突如大きな音をたててその扉が開いた。そこにいたのは金髪の優男。
その名をギーシュ・ド・グラモンという。
ずいぶん前にルイズに決闘でフルボッコにされた男だ。

「話は聞かせていただきました!その任務、私にも任せてもらえないでしょうか?」

どうやら聞き耳を立てていたようだ。
ルイズはため息をついてからアンリエッタに視線を送る。
アンリエッタは純粋に驚いているだけのように見える。
とりあえず提案だけでもしてみる。

「この女子の宿舎に忍び込んだネズミは始末したほうがよいですね?」

「それは少し過激です。でも聞かれた事が事ですし仕方ないのかもしれませんね」

その会話を聞いてギーシュは失敗という言葉が頭をよぎる。
トリステインの一輪の花、アンリエッタ殿下に名前を覚えてもらい、
もしかすれば親しくなれるかもしれないチャンスに舞い上がり、
部屋に突入してしまったが窮地に立たされてしまった。
ギーシュはルイズの恐ろしさを文字通り身に染みて理解していた。
決闘での悪夢はいまだに夢に見てしまう。
そして土くれのフーケを学院長室まで引きずっていったのをギーシュはしっかりと見ていた。
なんのためらいも無くやると言ったらやる性格。
使い魔を召喚してから変化した凶悪なルイズが今は口封じという口実を手にして
ギーシュに視線を向けている。顔から血の気が引き、手がぶるぶる震え始める。

「お、おお、お待ちください。私、ギーシュ・ド・グラモンはトリステイン貴族の一人として
 姫殿下のお役に立ちたいのです」

その言葉にアンリエッタが反応する。

「グラモン?あなたはグラモン元帥の身内の方ですか?」

「息子であります!」

「あなたも私の力になってくれるのですか?」

「このギーシュ。姫殿下のためならばどのようなことでもやり遂げて見せます」

二人のやりとりを横から見ながらルイズは考えていた。
危機を脱しようと思っているギーシュはなかなか饒舌である。
しかしギーシュを連れて行くとどうなるだろうか。連れて行くなら先住魔法は使えない。
打算の結果、不可との結論が出る。

「だめよ。貴方じゃあ足手まといにしかならないわ。身の程を知りなさい」

しっかりと釘を刺すがアンリエッタがにっこりと微笑む。嫌な予感しかしない。

「ルイズ、そう言わずともいいじゃない。彼は彼で私のために動こうとしているのです。
 そんな貴族の忠誠を無碍にはできません。ぜひ彼も連れて行ってください」

「そ、そうだ!ドットとはいえメイジだぞ。ゼロの君とは違う!」

どうやらアンリエッタは本当に足手まといとなるとは考えていないようだ。
そして彼女に支持されたギーシュはかなり勢い付いてしまっている。
その言い草にルイズは静かに怒りを覚える。

「そのゼロにボロクズにされたのは誰かしら?ミスタグラモン?
 まあいいわ付いてくるのはいいけどこの任務は非公式だから死んでも名誉の戦死とはいかないわよ?」

「の、望むところだ。表に出なくとも貴族としての行動ならば誰が謗ろうとも恥じることはない」

名誉がない。そのことを聞いてギーシュは唾を飲み込んだがアンリエッタがこの場にいることを思い出し、
見栄をを張り通してきた。
仕方がない。ギーシュには途中で死んでもらうことにしよう。
それよりこのような任務を任せるほどアンリエッタが自分を信頼していることにルイズは注目する。
信じれる者が近くにいないとはなんとおもしろい姫だろうか。
もっとも信頼しているのが昔いっしょに遊んだだけのルイズであるというのが一番の笑い話である。
ルイズはアンリエッタが小娘である自分にこのような任務を与えることを馬鹿にするように考えていた。
しかし、貴族王族といった権力の渦の中でそのようなものに煩わされない友であり、
最近、トリステインで暴れていた土くれのフーケを捕まえるという偉業を達成しすることで
実力を示したルイズはアンリエッタからしてみれば今回の任務にまさに打ってつけの人材であったのだ。

アンリエッタよりウェールズへ宛てた手紙を受け取り、ギーシュとアンリエッタが帰った後、
一通の手紙を書く。その手紙を持ってタバサの部屋に行く。
扉をノックしたが返事がないので勝手に入ることにした。
部屋にはベッド、机、本棚だけであり、かなり殺風景と言えるだろう。
タバサは机に向かい椅子に座って本を読んでいたが、
ルイズが視界に入ると本にしおりを挟み机に置いて向き直ってきた。

「タバサ、今からちょっと付き合ってくれない?」

タバサが頷いて了承を示したのを確認するとルイズは使い魔で近くの森まで運ぶように頼んだ。
すぐにタバサは窓まで行き、口笛を鳴らす。ルイズとタバサはすぐに飛んできた風竜に乗り込み、
森の入り口に向かった。ルイズ持っていた手紙を手近な木の枝に結びつけるとすぐに学院へ帰る。
もちろん魔法衛士隊の巡回に見咎められたが、今日行われた使い魔品評会でタバサとその使い魔は
よく知られていたためすぐに開放された。
何事もなく終わったがタバサの風竜がずっとこちらを睨んでいたことが気にかかった。
元々使い魔には避けられていたが明確な敵意を向けるのはシルフィードだけだ。
タバサの風竜はアルビオンへ渡るのに使えるだろうが、タバサを完全に支配下に置いていないことから
協力を断念せざるを得ない。まだ彼女には光があるのだ。
タバサの母はおいしいネタだが、シルフィード然りまだルイズを裏切る余地がある。
それを完全に消すまでは弱みをみせることはできない。

朝が来る。
ルイズはすぐに寝巻きから旅装に整えてデルフリンガーを背負い、使い魔のいる医務室に向かう。
ルイズが使い魔に会いに行くのは毎朝の日課となってしまっていた。
今だに寝続けている使い魔に変わった様子は観られない。
今日から少し長く使い魔と離れることになる。
魔法が使えなかったルイズが始めて成功した魔法で呼び出された使い魔。
ゼロと陰口を叩かれていたルイズに新しい価値観と力を与えてくれた存在。
そして毎晩のように夢の中で安らぎ教えてくれている。召喚してからルイズは与えられてばかりである。
これでは主人とはとても言えないだろう。
いつまでも使い魔におんぶに抱っこでは格好がつかないではないか。
せめて目覚めさせなければ。
使い魔がいままで夢の中でルイズに伝えていたことを考える。
とにかく人間が負の感情を抱くようにすればよかったはずであった。
希望を見出せない世界を創ることはルイズ自身も望むことである。

「言っとくけどあんたのためにアルビオンに行くんじゃないんだからね。
 私は私がやりたいから行くのよ。勘違いしないようにね」

使い魔には感謝をしているというのに口をついて出たのは憎まれ口であった。
眠っていて聞いてないであろう相手とはいえどうにも素直にはなれない。
そんなルイズの目に一瞬だけ黒く輝いた使い魔の左手のルーンの光が飛び込んだ。
返事は期待していなかったルイズは激励を受けたように気分が高揚してくる。

「あら?このルーン。もしかしてこのすごいのが相棒だったのか?
 じゃあ嬢ちゃんは・・・」

デルフリンガーが何かを言っているがルイズは無視して使い魔を見つめる。

「ついでだしあんたも叩き起こしてあげるわ!感謝しなさい!」

堂々と啖呵切ったルイズは医務室から出る。
まだごちゃごちゃ言っているデルフリンガーは鞘にしっかり入れて黙らせた。

ルイズはそのまま集合場所に着いたときすでにギーシュが馬を用意して待っていた。

「ルイズ、馬の用意をしておいたよ」

ギーシュがルイズに話しかける。
この任務で大事なのはすばやく手紙を奪取し、それをゲルマニア皇帝に送ることだ。
確かにゆっくりと旅して間に合わなくなり、貴族派の手に手紙が渡っても
高確率でゲルマニアの皇帝に送られるだろう。
しかし少ない可能性だがアンリエッタとゲルマニア皇帝との婚姻がアルビオン側に伝わることになれば
ウェールズ王子が自ら手紙を処分することもあるかもしれない。
できるかぎりの速さが必要なのだ。
馬の具合を確かめているとギーシュが話しかけてくる。

「あの、つ、使い魔を連れて行ってもいいかな?」

メイジの使い魔を連れて行くことは別段おかしいことではない。
疑問に思っていると地面が膨らみ、何かが顔を出す。
それは1メートルを超えるでかいモグラだった。ルイズから隠れるようにギーシュの後ろに行くが
鼻をすんすん鳴らしながらつぶらな瞳でルイズの方を見ている。
ルイズはその使い魔が自分の手元を見ていることに気付き、右の眉を上げる。
その反応を敏感に捉えたのかギーシュは反対されると思ったのかまくし立て始める。

「ごめんよ。急ぎの任務であるのに地面を進むジャイアントモールを連れるなんてだめだろう。
 馬鹿なことを言っていると僕だってわかってる。でも僕とヴェルダンテは一心同体なんだ!」

いきなり使い魔を抱き始めたギーシュは放っておき、手を動かす。動く手に沿ってジャイアントモールの
瞳も動く。どうやら指輪を嵌めている手を見ているようだ。指輪をはずしポケットに入れる。
視線がポケットに向けられているのを確認し、もう一度付け直す。

「ギーシュ、このモグラ、私の指輪を見ているようだけど?」
「え!・・・そ、それはヴェルダンテの習性だよ。彼はよく鉱石を見つけ、集めてくれる。
 土メイジとしてはすばらしいパートナーだろ?」

使い魔を自慢するギーシュは本当に殺したい。

「連れて行ってもいいわよ」

「ほ、本当かい?ありがとう!」

地獄に仏を見つけたかのような顔をするギーシュに釘を刺す。

「ジャイアントモールは土の中を移動するけれどその潜行速度は馬並みよね?
 ただし遅れたら放って行くわよ」

ベルダンテベルダンテと騒いでいるギーシュはこの旅の中でその短い生涯を遂げることになるだろう。
今の内に騒いでおくといい。
そのときルイズはギーシュの後ろにこちらに近づいてくる影を見つけた。
見たところ年齢は二十台後半といったところか、かなりの美形で体格もよい。
騎士の一人なのだろう。こんな朝早くから騒いでいるので様子を見に来たのかもしれない。
足音が聞こえるようになってやっとギーシュもその騎士に気付いた。

「ええと、朝から騒いでしまい失礼しました。特に問題はないので・・・」

「いや、僕は君たちの護衛を任されたのだよ。
 私は魔法衛士隊グリフォン隊隊長のジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ」

ルイズはそれを聞いて歯噛みする。護衛を付けられてしまった。
それもそうだ。普通に考えてこれは当たり前の処置。
いくらアンリエッタがルイズを信頼していてもこれは国家の大事なのだ。護衛が付くのは当然だろう。
だがルイズから見れば護衛ではなく監視でしかなかった。
魔法衛士隊と言う実力でしか入ることのできない部隊。
その隊長を務めるからにはこのワルドはかなりの実力者なのだろう。
だが予定は特に変わらない。『貴族派の刺客』に殺されるのが二人に増えるだけだ。
しかしこのワルドの実力がどれほどのものであるかがわからなければうかつなことはできない。

「久しぶりだね。僕のルイズ」

微笑みながら話しかけてくるワルドに不審な物を見る目を向ける。

「おや?僕のことを忘れてしまったのかい。婚約者に忘れられるなんて僕は悲しくて死んでしまいそうだよ」

そう言われてルイズは自分に婚約者が居たことを思い出す。
たしかにワルドはルイズの婚約者であった。そういえば憧れていたような気もする。
最近いろいろあったので綺麗に忘れていた。死んでしまいそうならそのまま死んでくれたらいいのに。

「すっかり忘れていました。それに婚約は親が勝手に決めたことです。
 それに振り回されてはいけませんわ」

ワルドはルイズの綺麗な笑顔での忘れていました宣言に対しても全く動揺した様子を見せない。
なかなかに面の皮が厚い。

「なんと言うことだ。でもこの旅できっと二人の間を縮めてみせるよ」

ワルドが口笛を吹くとグリフォンが空から降りてくる。
それにワルドが騎乗し、ルイズに向かって手を差し出してきた。

「ルイズ、こちらにおいで」

ルイズが素直に寄っていくと突如グリフォンが暴れだした。
ワルドは不意を突かれてグリフォンから落とされたが、きれいに受身を取って起き上がる。
グリフォンは威嚇音を出しながらそのままワルドに爪を向けようとした。

「止めなさい」

それをルイズが止める。グリフォンはワルドから目を離さないように動きながら
ルイズの横にくると従者であるかのように伏せる。このグリフォンの動作に笑みを堪えきれず、
ルイズは手で釣りあがる口元を隠す。
これがルイズが始めて魔物を従えるということに成功した瞬間であった。
オークは最初から従順であったのでルイズはしっかりと自覚できていなかった。
これまで学院の使い魔たちには避けられ、本当に魔物を操れるのか不安であったが、
そんな悩みを一掃してしまった。使い魔となった魔物だけが従わないのだと理解できた。
ルイズは愛おしそうにグリフォンの鼻先をなでてから馬に乗せようとしていた荷物をグリフォンに付け直す。

ギーシュとワルドはそれを見て絶句していた。
しっかり飼いならされ、訓練を受けたグリフォンが騎士に逆らい、初めて会った少女に従っているのだ。

「ワルド子爵。この子、貴方を乗せたくないみたいよ?嫌われたわね。
 この子には私だけが乗っていくから貴方は用意した馬に乗って頂戴」

あっさりとそう宣言した後、自分の荷をくくり付け終わり、ルイズはさっさと出発しようとしている。

「ヴィンダールヴ?いや、しかし使い魔はガンダールヴのはず・・・
 始祖の魔法か?・・・・」

ワルドの呟きは誰にも聞かれず空に解けて消えた。

魔法学院の学院長室。
オールドオスマンはその出発の様子をしっかりと見ていた。
隣にいる王女にはよくぞルイズを国から離してくれたと喝采を送りたい。

「しかし大丈夫なのでしょうか。頼んだのはいいですがやはり不安です」

「そのためにグリフォン隊の隊長殿を付けたのでしょう?
 それに貴方が思っているよりもミスヴァリエールは強いですぞ」

「そうですね。さっきも騎士のグリフォンを奪うなんてことして・・・
 あの子は昔から変わっていたけど、ここでも変わらないのね」

アンリエッタが微笑ましそうに見ていたその光景はオスマンから見れば異常としか言いようがない。
訓練を積んだグリフォンが主人に攻撃したのだ。異常でなかったらなんだというのだ。

「彼女らに始祖ブリミルの加護のあらんことを・・・」

祈る王女から視線をはずしこれからのことを考える。
アルビオンに行くには浮遊大陸がもっとも近づいてきたときでないと航行便は出ないだろう。
3日以上はまだトリステインにいる計算になる。
王党派と連絡を取るのに手間取ると任務終了までにどれだけ時間がかかるかわからない。
亜人を滅するのは彼らがアルビオンについてからでいいだろう。



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