「も、モンモランシー……?」
ギーシュは、呆然と自分と破滅の間に立ちふさがったその少女を見やった。
イザベラが振り下ろした一振りの刃。それを、わが身でもって受け止めた少女の姿を。
モンモランシーは背中でもってイザベラの剣を受け止めていたから、傷口そのものは見えなかったが……
それでも、ギーシュには分かってしまった。
彼女が、既に助からないほどの傷を負っていることが。
イザベラが振り下ろした一振りの刃。それを、わが身でもって受け止めた少女の姿を。
モンモランシーは背中でもってイザベラの剣を受け止めていたから、傷口そのものは見えなかったが……
それでも、ギーシュには分かってしまった。
彼女が、既に助からないほどの傷を負っていることが。
「あ……う……」
「何を、ボーっとしてるのよ」
「何を、ボーっとしてるのよ」
ゆっくりと。
呼吸に合わせてあふれ出す血の迸りを感じながら、モンモランシーは口を開いた。
貴族の癖に。
あんなバケモノ(アーカード)の従者の癖に。
この期に及んでまだ腰を抜かし続けるギーシュがいらだたしかったし、同時に愛おしかった。
呼吸に合わせてあふれ出す血の迸りを感じながら、モンモランシーは口を開いた。
貴族の癖に。
あんなバケモノ(アーカード)の従者の癖に。
この期に及んでまだ腰を抜かし続けるギーシュがいらだたしかったし、同時に愛おしかった。
彼女は、アーカードの世界に居た傭兵のように、ギーシュに多くを語ろうとはしなかったし、唇を奪おうともしなかった。
ただ、
ただ、
「早く……私を食べなさいよ……」
やさしく。
「一緒に……あの女をやっつけましょう……?」
只々やさしく、ささやきかける。
「あ……」
「ぎー、しゅ」
「ぎー、しゅ」
無謬の慈愛に装飾された少女の笑顔に見とれ、動く事のできない少年の名前を、モンモランシーは呼んだ。
それが。
彼女の、人間としての最後の言葉になった。
彼女の、人間としての最後の言葉になった。
「もんも、らんしー」
その身は既にバケモノ(フリークス)。
死そのものであり、黒渦であり、最強たる吸血鬼の眷属なればこそギーシュは理解した。
死そのものであり、黒渦であり、最強たる吸血鬼の眷属なればこそギーシュは理解した。
「あ゛……」
彼女が死ぬ。
今死ぬ。
今死ぬ。
死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ。
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死
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ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ死ヌ。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!」
思考、理性、自制心。そう呼ばれるものを一切放棄して、ギーシュはモンモランシーの体をかき抱いた。
そして、恐怖する。
その体温の冷たさに恐怖する。
その声が聞けない事に恐怖する。
あふれ出る魂の大貨の量に恐怖する。
彼女に訪れようとする死に恐怖する。
彼女から流れ、自分の腕をぬらす赤いエキスを『美味しそうだ』と思う自分に恐怖する。
そして、恐怖する。
その体温の冷たさに恐怖する。
その声が聞けない事に恐怖する。
あふれ出る魂の大貨の量に恐怖する。
彼女に訪れようとする死に恐怖する。
彼女から流れ、自分の腕をぬらす赤いエキスを『美味しそうだ』と思う自分に恐怖する。
「ハッ! 虫けらが虫けらをかばったわけか! お笑い種だねぇ!」
少女に向かって剣を振り下ろした女が、抱き合う二人の姿を見て、それを嘲笑った。
「女も守れないドラキュラに、血を吸われることもなかった女か!
確かにお似合いだよあんた達は!」
確かにお似合いだよあんた達は!」
女は傍らに転がって痛もう一振りの剣を取ると、
「虫の人生はこれで終了さぁぁぁぁぁぁぁっ!」
二人の逢瀬を邪魔せんと、それを振り下ろそうと……『した』。
が ぎ ぃ っ !
「!?」
「……今」
「……今」
女の顔が驚愕に歪み、ギーシュの口からは、彼の言葉とは思えぬほどに冷たい声が放たれる。
「虫けらといったな!? 彼女の事を虫けらと!!」
呪文を唱えた気配などなかったにもかかわらず、唐突にその場に現れたワルキューレに剣をつかまれ、女は動けない。
「貴様は絶対に許さない!」
目の前の敵を倒すために。
モンモランシーを生かすために。
虫けら呼ばわりされた彼女の名誉を守るために。
ギーシュ・ド・グラモンは、死という運命に……彼女の首筋に、牙を付きたてた!
モンモランシーを生かすために。
虫けら呼ばわりされた彼女の名誉を守るために。
ギーシュ・ド・グラモンは、死という運命に……彼女の首筋に、牙を付きたてた!