あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロ執事-01


その時、セバスチャンは夕食の支度をしていた。
支度と言ってもすでにほぼ完成した状態でバルドに呼び止められ、火力を見ているだけに過ぎない。
あとはしばらく煮込んでおけばメインは完成する。
場所を外しているバルドが帰ってくれば、すぐ出せる状態だろう。
そして、その前に食器を出しておこうと足を踏み出した瞬間に―――それは起きた。
何の気配もなく、突然鏡が目の前に現れたのだ。
鏡と言っても鏡面に自分が映るわけでもなく、ただ光っているだけなのだが。
「……」
屋敷内の使用人達がうっかりここ置き忘れたという事態も考えたが、確かに数秒前までには何も無かった。
という事は自分の居る側の自称、悪魔や魔法、召喚によるものなのだろうか。
いままでこんな物はお目にかかった事がない。
何をするにもまずはとりあえず主人に伺いを立てた方が良いだろうと判断したセバスチャンは、火を調節した後で立ち去ろうとし―――
「セバスチャンさーん、クロス替え終わったデスだよ? 他に何か……ギャー!」
「……っ」
声を上げて止める暇もなく、足をもつれさせたメイリンが食器棚に突っ込む。
大惨事になる前にセバスチャンはメイリンの背後に回って彼女を押し戻した。
が、その拍子にバランスを崩して一歩後ろに足を付いてしまう。
鏡面の中に、足をめり込ませる形で。

声を上げる間もなく、セバスチャンは鏡の中へと消え失せた。
そして、一層輝きを放った鏡も同じくこの世からかき消えた。
「セバスチャン……さん?」
残されたのはメイドが一人。

こうして、ファントムハイヴ家の執事は、意図せず異世界に召喚された。

◆◆

メイジを見るなら使い魔を見よ……そういう考えを持つのがここの魔法使いである。
その為、召喚の儀には多くの想いが集中する。
この儀式でもしも矮小な使い魔を呼び出してしまったら、と不安に駆られる者も居る。
自分の力を信じている為、自分よりもむしろ他人の呼び出す使い魔が気になる者も居る。
ただ自分のできる事をするだけだと、特に儀式のことを気にかけていない者も居る。
想いが一つでないとはいえ、平時よりも皆浮かれているというのは事実であった。
ここに一人、この召喚の儀に他と比べものにならない程強い思いを抱いている者が居た。
公爵家第三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールである。
学園内では魔法が使えない為ゼロと呼ばれる彼女は、この儀式だけは失敗するわけにはいかなかった。
今まではどこかで期待していた部分があった。
これだけ努力を続けていれば、いつか必ず成功する日が来る、と。
しかしこの召喚の儀という一生ものの儀式は、これからの人生の分水嶺であると理解してしまった。
この儀式に失敗すれば自分は一生魔法が使えないのではないか―――?
そんな恐れが彼女を駆り立て、彼女はこの儀式に向けて全身全霊をかけるようになった。
呪文も杖も、できる事は全て行い、完全な状態で儀式を向かえられるように更に努力を重ねる。

そして訪れた当日。
彼女は盛大に失敗を繰り返し―――現在、第十二回目の挑戦である。
爆音。
第十二回目の挑戦 改め十二回目の失敗だった。

周りの生徒はもう皆召喚を終え、使い魔と親交を深めたりしている。
言うまでもなく、ルイズ以外の人間全員、失敗した人間は居なかった。
状況がどうしようもないプレッシャーとなって失敗を続けるルイズを追い込んでいく。
2,3回の失敗時にはまだ他の生徒も気にかけなかったが、回数が片手で数えられる数を超えた辺りで
段々と野次やら何やらが大きくなっていく。

ルイズはもう一度だけ集中する。
魔力を、意識を、一点に向かって集中させていく。
これが最後だ。これに失敗すればもう集中する力も残ってはいまい。

「宇宙の果てのどこかにいる、私の下僕よ―――」

お決まりの魔方陣、詠唱、そして辺りを包むまばゆい光と、一段と大きな爆発。
いつもの風景に、観客は諦めも混じった視線を傾ける。
それまでの爆発と異なったのは、呼び出した人間を中心として真っ黒な煙が噴き上がり辺りを覆い隠した点だろうか。
周りが真っ暗になった事にルイズは困惑していた。
「げふっ……何よ、何も見えない……」

同時に、突然召喚されたセバスチャンも困惑していた。
自分の正体上、今どういう状況にあるのかは十分に理解できる範囲内だ。
しかし、既に契約の上でシエルに仕えている今、何故それを飛び越えて召喚が可能であったかに
ついては全くもって理解できない。
そして、煙を全く気にせず見上げた空には、太陽が光り輝いている。
「日が……昇っている?」
自分が元居た世界ではもう日が落ちていたはずだ。
時間の進み方が違う事も含め、どうやら全く違う世界に召喚されたらしい。
そして、召喚したのは目の前の少女であるらしい。

「―――おや」
目の前に居るというのに、どうやらこの少女からはこちらが見えていないようだ。
形なき闇にでも見えているのだろうか。
「これはこれは、また小さなご主人様に召喚(よびだ)されたものです」
「……? どこから声がしたの?」
「貴方は私を必要とし、召喚した」

「その事実は永遠に変わらず、払われた犠牲は二度と戻らない」

「さあ、選んで下さい。私と契約―――なさいますか?」

問いかける声。
召喚の儀によって自分が呼び出した何かであるのは間違いない。
絶対成功しなければならないと臨んだこの儀式に、自分はようやく成功したのだ。
「契約……するわよ。私にはそれしかないんだから」
誰が見ても恥ずかしくない、堂々とした主人となる。
限りない失敗の上にようやく成功したこの儀式に、彼女は全身全霊をもって応えた。
「命令よ! 召喚されし者! 我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。我が一人前のメイジとなるまで、我に仕えよ!」
「―――御意 お嬢様」


煙が晴れ、周りの者が咳き込みながら見回すと、ルイズが煤で汚れたまま立っていた。
そしてその横に、もう一つ影が立っていた。
それは爆発前までは存在しなかった影であったため、俄に観客は騒ぎ始める。
「おい、ルイズが召喚に成功したぞ!」
「あのルイズが!?」
「ゼロが成功した?」
そして煙が完全に晴れた時、その影の正体を視認できるようになった為に更に騒ぎは大きくなる。
「おい、あれ」
「燕尾服……だよな」
「執事!?」
「かっこいい……」
「ルイズの癖に……」
「ゼロのルイズ! 召喚に失敗したからって執事を雇ったのか!?」
彼女の横に立っていたのは、誰がどう見ても執事であった。

きっちり着込んだ燕尾服に、抱えた銀盤、白い手袋。
その恰好をしているのは長身の美青年である。
召喚されたのだろうが何だろうが、その青年の整った容貌には、
男からは嫉妬や羨望の視線が、女からは熱意の籠もった視線が向けられる。
野次があちこちから飛ぶが、それを向けられているルイズは気にする様子も見せず、彼に対峙し続けた。
「しかし……ここは不思議な場所ですね。ここではこんな若い方々が契約をするのですか?」
「普通……こんな執事なんかじゃなくて、ああいう動物なんだけど」
ルイズが指した先には既に召喚を済ませた子供達が、様々な生物を連れていた。
とても元の世界の動物図鑑には載っていないものばかりだ。
「私だってドラゴンとか、そういうのの方が良かったわよ」
「何か不服でも?」
「不服ってわけじゃないんだけど―――」
セバスチャンに顔をのぞき込まれると、ついそらしてしまう。
そこらの貴族が及びもしない程整った顔立ちは、免疫のないルイズではとても直視できない。
……と、視界の端から中年教師の頭が洗われた。
「ミス・ヴァリエール? その、呼び出したのはその方ですかな?」
「え、ええ。ミスタ。一応」
「ご存じの通り召喚のやり直しはできません。時間も押していますし、契約をして欲しいのですが……」
「え、あ、契約ならもう……」
「ミスタ。ミスタ……ええ」
「ああ、失礼しました。ジャン・コルベールという者です。当魔法学校で教員をしています」
「ミスタ・コルベール。使い魔の契約ならば、もうこの通り、済ませてあります。この左手の印は、この契約によるものでしょう?」
「ふむ……変わったルーンだ……ん」
コルベールはセバスチャンの左手を指しながら尋ねる。
「この下の模様は、元からあるものですか?」
「……ええ。これは以前からあった契約の印です。お気に為さらず」
手袋をずらして自分の左手に刻まれた契約の証を見る。
上から刻まれた新しい契約印のせいで見にくくなっているが、それは未だ消えていない。
新しく結ばれた一時的な契約によって、元の契約が一時的に弱くなっている状態。
つまり、シエル・ファントムハイヴとの契約は未だ続いていて、
かつルイズ・フランソワーズとの契約が上位になっているという事である。
おそらくはここへと呼ばれるまでに経た経緯、あの鏡のようなものを通過した事で、
あるいはこの世界の魔法と呼ばれる膨大な力によって、本来あり得ない多重契約が成されている。
こちらで交わした『使い魔の契約』では、彼女の言う通り彼女が一人前の魔法師となるまで
彼女に仕え、その身を守ることとなっている。
向こうの主人であるシエルを自分で守れないというのが現状であるが、
今はどうしようもないというのも事実である。
契約してしまった以上、悪魔であるこの身は契約から逃れる事はできない。
願わくば、こちらの魔法というものが他の契約も保護するようなデタラメなものであるように―――。
「しかしこれでは……」
ふう、とため息をつきながら、残してきた者達を想う。

「―――メインディッシュが冷えてしまいますね」



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