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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-48


48.トリニティ

「ほう……なるほど。大体分かった」

アニエスはシエスタの話を聞き終わり、ふんふんと頷いた。
シエスタは色々とぼかしながら話したが、
アニエスはそれらを細かく聞こうとはしなかった。
盗賊家業なのだ。漏らしてはならない情報も色々あることは、
誰だって考えがつく。

「お前が最近話題に事欠かない盗賊一味の一人で、
『よきしるし』を持つ者を二人知っているということだな」

よきしるしとは何か、シエスタはそれが何か分からない。
きょとんとした顔でアニエスを見ていると、
ああ、と合点がいったらしくアニエスは説明を始めた。

「よきしるしとは、はるか昔に始祖ブリミルがお作りになられた3つのルーンの事だ。
 だが、ロマリアの者達は滅ぼされた邪神まで……」

またシエスタはちんぷんかんぷんですと顔で表現する。
あのオルゴールの歌の内容はティファニアから聞いたが、
それがどのような存在なのか、彼女は知らないのだ。

「あのー……邪神とは、何でしょうか?」

ああ、そうだった。とアニエスはため息をついた。

「初めから話そう。そのほうが分かりやすい」

長い、長い話が始まろうとしている。どちらかといえば眠くなる類の話だ。

「はるか昔、この地はロルカーンと呼ばれる神によって創られた。
 そしてその神は様々な生き物を生み出したのだ。
 その中に人間もいた。魔法が使える『マギ』と呼ばれる人々と、
 魔法が使えない代わりに力が強く繁殖力が高い『ヴァリヤーグ』と呼ばれる人々だ」

だから今もメイジよりも平民の方が多いのか、とシエスタは話を聞きながら頷く。

「それからしばらくして、ロルカーンと同じ世界で生まれた生き物もこの世に現れはじめた。
エルフや翼手、そしてオルシマー。今ではオーク鬼やオグル鬼と呼ばれ、
それごとの体格もまるで違うが、当時はエルフの一種で美しい姿であったそうだ」

はぁ、とシエスタはあの化け物のどこら辺がエルフなのかを考えるが、
答えは出なかった。

「それからしばらくの間平和な時が流れるが、
 ロルカーンは何を思ったか様々な厄災を招き、
 生きとし生けるもの全てを滅ぼそうとした。ゆえにロルカーンは邪神となり、
それを倒し世界をお救いになられたのが始祖ブリミルと、
『よきしるし』を持つ3つの従者だ」

シエスタは形だけ感嘆の声をあげる。

「後に始祖はよきしるしの一つであるガンダールブを授かりしエルフの乙女、
 サーシャと結ばれる。そしてその偉大なる血統は今も王家に受け継がれているのだ。
色々と省いたが、だいたいこんなものだな」


ぱちぱちとシエスタは手を叩く。
アニエスは少し照れたらしく、顔を赤くした。
コホンと咳を一つして、アニエスは続ける。

「さっきの話に戻ろう。古い文献に残っている四の使い魔は、
 大昔にブリミル教を名乗る連中によってねつ造された物だ。
 ロマリアの神学者共はそれを正しい物と認識している。
 邪神を良きしるしに加えているのだ。ルーンも残っていないのに何故信用出来るのだろうな?」

アニエスは毒づき、シエスタはへぇ、と頷いている。
元々ただの平民であるシエスタは、そこまで神学に詳しくもない。
話は終わりらしく、アニエスは腕を組みシエスタを見ている。
シエスタは軽く手をあげた。

「なんだ?」
「さっき、ガンダールブのサーシャの事を『聖母』って呼んでましたよね?」

ああ、とアニエスはハイランダーの信仰対象について話し始める。

「そもそも、ロマリアの連中は神とその代弁者である始祖を崇めているが、
 それ自体が間違いなのだ。我らは神を倒したからこそ今を生きることができる。
 だから神を信仰しない。始祖ブリミルとその子である王家、そして子を産みしサーシャ。
 この3つを同等に信仰するのが我々の教義だ」

アズラは神様にカウントしないのか。違いってなんなのだろうか。
シエスタにはあまり分からなかった。

「なら、精霊はどんな立ち位置なんでしょうか?」
「お前達とそこまで変わらないさ。侵してはならぬ領域にお住まいになられている、聖なる存在だよ」

ブリミル教は神と始祖を奉るが、精霊をないがしろにするわけではない。
教義としては、神や始祖の次に大事にされる存在である。
もっとも、その気まぐれっぷりから平民達には嫌われているようだ。
まだ何かあるか?とアニエスは聞き、シエスタは質問を続ける。

「やっぱり、レコン・キスタのやり方には異議があったりとか?」

瞬間、くわっとアニエスの目が開く。額にしわを寄せ、怒りのままにまくし立てる。
シエスタは禁止単語を言ってしまったらしかった。

「当然だ!『聖地』の武力による奪還。その上王家を倒すなどあってはならんことだ!
 当然、私も王党派に馳せ参じ戦った。ウェールズ王子の命で傭兵は脱出船の警備に回されて、
 結局私は死にきれず、今も生きている」

立派なお方だった。とアニエスはありし日のウェールズを思い出す。
信仰もあって本来より140%くらい美化されているが、気にしてはいけない。

「勇敢で聡明で……あのお方が王になられたら、国は良くなっていただろう」

実は生きてます。とは言えないシエスタは、はてと疑問を感じた。

「ハイランダーは戦いに参加していたんですか?」

アニエスの話を信じるなら、王家の為に彼らは戦うはずなのだが、
そんな話をシエスタは噂でも聞いた事が無かった。
アニエスはゆっくりとうつむいて手を組む。
その仕草は怒りが込められていると共にどこか諦めを漂わせていて、
一言で表すなら、あいつらきらいとでも言いたいらしかった。

「ハイランダーに、一度会いに行ったことがある。
 排他的で、狂信的で、ブリミル教に染まった王家を崇拝対象として見ていなかった」

ハイランドの住民の一部がダングルテールに降りた理由は宗教観の違いである。
王家を崇めるか否かで揉めた結果、100年以上前に王家を崇める一派がアルビオンを降りたのだ。
その事を知らなかったアニエスはハイランドに行った時に理解したが、シエスタはそれを知るよしも無い。

「だから連中は戦いに参加していない」

とりあえず、一つの宗教にも色々と派閥があって問題もあるのだということは、
シエスタも理解できた。

「ところで……お前は盗賊ギルドの一員だったな」

頼みたい事があるとアニエスは告げる。シエスタは情報をもらったので、
その代価で働くことは当然だろうと引き受けることにした。

「ダングルテールの事件についての資料を、王宮から盗み出してはくれないか?」

アニエスは何がしたいのか。シエスタはその目をじっくりと見る。
好機が巡ってきた人間の目であった。そしてその好機は自身であり、
さらにいえば、自身がもたらす情報である。
アニエスは頷き、実はもう盗ってきてますと返す。

「そうか……なら、教えてくれるか?」

あれの主犯を。シエスタは出がけに聞いたリッシュモンの名を口にする。

「すまないが、奴が出来る限り少数か、もしくは従者を連れずにいる時間帯を調べてくれないか?」

アニエスが何をしたいのか、シエスタは理解した。
本来盗賊ギルドの方針からして人殺しの片棒を担ぐわけにはいかないが、
彼女は違う。曾祖父からの教えで、悪党を倒すのは使命だと考えている。
そしてリッシュモンの悪名は、シエスタも多少は耳にしていた。
ただ、証拠と呼べる物が無かったのだ。

「一週間以上かかりますけど、構わないですか?」
「恩賞として、それなりに金貨を頂戴している。しばらくは働かずとも食っていけるさ」

学院にお手紙を書かないと、シエスタは何か理由を作って学院をもうしばらく休むことにした。

「では、13日後にまたここで」

シエスタが武器屋から去る。アニエスは心地よい気分でそれを眺める。
顔は自然に微笑みが浮かび、思わず笑いたくなっている。

「なぁ、アニエス」

ずっと黙っていた武器屋のおやじが口を開いた。

「復讐なぞ、したところで……」
「それがなければ、復讐を思う心がなければ、わたしはとうの昔に死んでいました」

おやじは腕を組み、むっとした、しかしどこか悲しげな顔でアニエスを見る。
ようやく果たすことが出来る。アニエスは、
残りの人生を全てそれだけに捧げる気なのだということを、
おやじは、理解できていなかった。


オスマン学院長は王宮から届けられた一冊の本を見つめながら、ぼんやりとひげをひねっていた。
今朝の会議で正式に美女ガーゴイルの購入が否決された事もあって、
その姿は哀愁が漂っている。水パイプを吸う気力も起きないらしい。
あんなことやこんなことをさせるつもりだったのに、とコルベールを恨めしく見たが、
結果は変わらなかった。むしろ評価が下がった。

ふむ……と無気力な仕草でオスマン学院長はページをめくる。
どこまでめくっても、その本は真っ白である。

「懐かしいのう。あの頃の思い出はもはや悠久のかなた……。
 しかしこんな事になってしまうとは、隠居もなかなかうまくいかんもんじゃな。
シェオゴラスは元気かのう。サングインは今も会いに行った時と変わらんじゃろうが」

学院長は、緩やかな笑みを浮かべてその本を眺める。
そして何も書かれていない始祖の祈祷書を、ていねいに閉じた。

「しかし、これから何が起こっても、それをどうにかするのはわしや古の英霊でなく、
 今を生きる「存在」でないとの。マーティン君やヴァリエール嬢が、
 その役を担う器になれば良いのじゃが……」

そう呟いたとき、ノックの音がした。綺麗なガーゴイルのネーチャンがいれば、
こんな事しなくて良いのに、と思いながら来室を促した。

「鍵はかかっておらぬ。入ってきなさい」

扉が開いて、一人のスレンダーな少女が入ってきた。
桃色がかったブロンドにも、人によってはただのピンクの髪に見え、
大粒のとび色の瞳、ルイズであった。

「わたくしをお呼びと聞いたものですから……」

学院長は立ち上がり、この小さな、いずれは英雄になるであろう来訪者を歓迎した。
そして、改めて、先日のルイズの労をねぎらった。

「おお、ミス・ヴァリエール。旅の疲れはいやせたかな?思い返すだけでつらかろう。
 婚約者に裏切られ、戦場という死の淵をのぞき込んだのじゃからな。
 だがしかし、おぬしたちの活躍で同盟が無事締結され、トリステインの危機は去ったのじゃ」

優しい声で学院長は言った。

「そして、来月にはゲルマニアで、無事王女と、
ゲルマニア皇帝との結婚式が執り行われることが決定した。
きみたちのおかげじゃ。胸を張りなさい」


それを聞いて、ルイズはちょっとどうかと思った。幼馴染みのアンリエッタに恋をするウェールズは、
アンリエッタの二号さんになってしまうからだ。同盟のためにはしかたがないとはいえ、
ルイズはウェールズのやけ酒とそれから続く一連の騒動を思い出すと、
いや、これでいいかと思い直す。どっちともアレっぷりがひどいのだ。
多分、ゲルマニアで仲良くすることでしょうと納得して、
ルイズは黙って頭を下げた。当然、自分は正常だと考えて。

学院長はうんうんと頷いて手に持った『始祖の祈祷書』をルイズに差し出した。

「トリステイン王家の伝統で、王族の結婚式の際に選ばれた巫女はこの『始祖の祈祷書』を手に、
 式の詔を詠みあげる習わしがあるのは知っておるかね?」

「は、はぁ」

ルイズはそこまで宮中の作法に詳しくはなかったので、気のない返事をした。

「姫は、その巫女に、ミス・ヴァリエール、そなたを指名したのじゃ」
「姫さまが?」
「その通りじゃ。そして巫女は肌身離さずこれを持ち歩き、詠みあげる詔を考えねばならぬ」
「えええ!詔を私が考えるんですか!」

「そうじゃ。もちろん、草案は宮中の連中が推敲するじゃろうが……伝統というのは、
 面倒なもんじゃのう。だがな、これは大変に名誉なことじゃぞ。王族の式に立ち会い、
 詔を詠みあげるなど、一生に一度あるかないかじゃからな」

アンリエッタは、幼い頃、共に過ごした自分を式の巫女役に選んでくれた……くれたのだろうか。
少し疑問が浮かぶが、ルイズはその疑問を叩き割った。アンリエッタは友人であり、
友人が大事な儀式の際に自分を頼ってくれたのだ。無下にするなど出来るはずがない。
ルイズはきっと顔をあげた。

「わかりました。謹んで拝命いたします」

ルイズは学院長の手から『始祖の祈祷書』を受け取った。オスマンは目を細めて、ルイズを見つめた。

「快く引き受けてくれるか。よかったよかった。姫も喜ぶじゃろうて」

ルイズが退出して後、オスマンは背伸びをしてから立ち上がる。
水パイプを吸い、ぷはと息をはく。

「これから何が起こるか。誰が何を起こすのか……。
 まーわしはただ眺めるだけじゃて。見つかったらめんどうだしの」

感慨深げに、魔法使いは水パイプの煙をたゆたわせるのであった。


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