あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

蒼い使い魔-40


「ふぅっ」
ルイズが室内に新鮮な空気を取り込むべく自室の窓を開け放つ、涼やかな風が頬をなでた。
ルイズはくるりと振り向くと、使い魔をみて言った。
「さて、明日から夏季休暇なんだけど」
「そのようだな」
脚を組みながらソファに座っている使い魔……バージルは本から視線を外さずに相槌を打った。
「せっかくだから領地に帰ろうと思うの」
「好きにしろ」
相変わらず淡白な反応しか返さない使い魔をじろりと睨みつける
「あんたも行くのよ」
「……」
気乗りしない、といった表情のバージルにルイズが再び口を開こうとしたその時、窓に大きな影が差す……
「おにいさまぁ~~~!!」
その声と共に、窓から突然、長い青い髪をした素っ裸の女性が勢いよく飛び込んできた。
「なっなっ、何ごとっ!?」
突然の闖入者にルイズが目を丸くする。
変化を使ったシルフィードが窓から乱入してきたのだ。誰かに見られていたらどうするつもりなのだろうか?
だがシルフィードはそんなことはおかまいなく部屋の中へ降り立つや否や、
固まっているルイズを尻目にバージルの元へ駆け寄ると、そのまま勢いよく抱きついた。
「きゅいきゅい! おにいさま! 明日から夏季休暇なのね!」
「知っている」
顔に胸が押し当てられているにもかかわらず顔色一つ変えずににべもなく言うと、ページをめくる、
シルフィードはソファから立ち上がると、そんなバージルから本を取り上げる、
睨むように視線を上げるとそこには当然のようだが……素っ裸のシルフィードが立っていた。
「そこでシルフィは提案します、おにいさまをシルフィのおうちへご招待するのね!
二人の愛の巣なのね! すてき! きゅいきゅい!」
「こぉの雌竜! 何勝手に入ってきてんのよ!」
ようやく我に返ったルイズがシルフィードに詰め寄った、
だがシルフィードはルイズに向きなおると、ふふんと鼻で笑う
「ふっふっふ、話は聞かせてもらいました! 桃髪! さっさと実家に帰れなのね!
おにいさまはシルフィと一緒にアッツイ夏を満喫するのね!」
「なにがアッツイ夏よ! あんたの頭ん中はいっつも春じゃないの! 大体人の使い魔に手を出さないで!
ぜったいそんなことはさせないわよ! させるもんですか!!」
目の前できゃんきゃんきゅいきゅい喚く二人にバージルは眉間に皺をよせ片耳を押さえた。
すると、今度はドアがバターンと勢いよく開け放たれる、
ルイズとシルフィードが驚いてそちらへ視線をやると、そこに立っていたのはシルフィードの主人であるタバサだった。
唖然とするルイズ達をよそに、タバサは有無を言わさず
きりり、と杖を取り回して脇に引き付け、渾身のスティンガーをシルフィードに叩き込む。
「ぎゃうん!」
その華奢な体のどこにそんな力があるのかと疑いたくなるほどの強烈な一撃がシルフィードを壁まで吹っ飛ばす。
バージルから取り上げた本が空中へ投げ出される、
重力に従い落ちてきたそれをバージルは難なくキャッチすると、何事もなかったかのように再び本を開き、静かに読み始めた。
もんどりうって吹っ飛び、気を失ってしまったシルフィードにタバサはつかつかと歩み寄ると、布でその体をくるくると包み込み、
持っていたロープで手際よく簀巻きにするとずるずると外へと引っ張って行った。
「お騒がせしました」
「まったくだ」
タバサはドアの前でぺこりと頭を下げると簀巻きになったシルフィードを引きずり、ルイズの部屋から退出していった。
嵐のように現れ嵐のように去っていったシルフィードにルイズは大きくため息を吐く、そのとき……。
ばっさばっさと一羽のフクロウが窓から入ってきた。
「ん?」
そのフクロウはルイズの肩にとまると、羽でぺしぺしと頭を叩いた。
「なによこのフクロウ」
フクロウは書簡を咥えている。
ルイズはそれを取り上げた。
そこに押された花印に気づき、真顔に戻る。
中を改め、一枚目の紙にルイズは目を通した。
それからルイズは呟く。
「帰郷は中止よ」
「好きにしろ」
「……」
帰郷のために一度まとめた荷物を、ルイズは再び改めると、
先ほどフクロウが届けてきた手紙をバージルに渡した。
「これ、一応あんたも読んでおきなさい」
「なんだこれは」
「姫さまからの手紙よ」
ルイズのその言葉を聞くや否やバージルが手紙を持つ手に力を込める
「ちょっと! なに破こうとしてんのよ!」
「気に食わん」
「中身も見ずにいきなり破こうとするやつがどこにいるのよ! とにかく読みなさいよ!」
ルイズの必死の説得に渋々とバージルが手紙に目を通し始めた。
内容をかいつまむとこうだ、アルビオンは艦隊が再建されるまでまともな侵攻をあきらめ、
不正規な戦闘を仕掛けてくる可能性が非常に高い――マザリーニを筆頭に、大臣達はそう予想したらしい。
街中の暴動や反乱を扇動するような卑怯なやり口でトリステインを中から攻める……。
そんなことをされてはたまらない、そのような敵の陰謀がある可能性を危惧したアンリエッタは
治安の維持を強化する判断を下したということだ。
「あの女にしては妥当な判断だな」
バージルはそこまで読むと、もう読む気が失せたのか、ぱらりと床に手紙を投げ捨てた。
「それで? 俺になんの関係がある」
「だから! ちゃんとこの先に書いてあるでしょ!」
ルイズがあわててその手紙を拾いながらバージルを叱りつける。
「わたしは身分を隠して情報収集をしなくちゃいけないの!
なにか不穏な活動が行われていないかとか、平民達の間で流れてる噂とか調べるのよ!
わたしがやるんだからあんたも手伝うのは当然でしょ!」
ルイズが手紙の中の文字を指でなぞる、なるほど、確かにそこには
トリスタニアで宿を見つけ下宿し、身分を隠して花売りなどをしながら
平民達の間に流れる噂など、ありとあらゆる情報を集め、報告するように指示してあった。
任務に必要な経費を払い戻すための手形も同封されている。
「要は間諜か、俺がいなくても問題のない仕事のようだが」
バージルがそう言うと、ルイズは胸をツンと張る。
「と、当然じゃない! この位の仕事、わたし一人でも余裕よ!」
「そうか、では精々あの女の期待に応えられるよう任務とやらに励むんだな、俺はここで無事を祈っていてやる」
その言葉を待っていたのか、バージルはこの話はこれで終わりだ、と言わんばかりに再び本に目を通し始めた。
言葉ではああ言っているが、彼の態度を見てわかるとおり、祈る気などゼロだ。
「だぁ~~かぁ~~らぁ~~……! あんたも行くって言ってんでしょこの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!!!」
ルイズはわなわなと怒りで肩を震わせ……、いつもより派手な音を立て、部屋が爆発した。

「暑いわね……」
ルイズが額の汗をぬぐいながら呟く。
じりじりと太陽が照りつける街道を、バージルとルイズはトリスタニア目指して歩いていた、
最初は渋っていたバージルも、結局ルイズに同行することにしたのだった、
アルビオンの背後には魔界の姿が見え隠れしている、悪魔を差し向けてくる可能性も捨てきれない。
先日あったラグドリアン湖に悪魔が発生した時のような事態が起きないとも限らない、
また、そう言った場所にはかならず魔界への手がかりがある
実際のところ、この任務はバージルにとっても有用な情報が手に入る可能性があったのだ。
「聞きたかったんだが、何故馬車を使わん」
そんなルイズとは対照的にバージルは涼しい顔をしながらルイズに尋ねる。
「だって……身分隠さなきゃいけないんだからしょうがないじゃない、今のわたし達は"一応"平民なんだから……」
「……一応聞くが、街についたらまずどうするつもりだ」
バージルがルイズを横目で見ながらなにやら含みのある声で聞く。
「まずは財務庁ね、そこで手形を金貨に換えなきゃ」
「平民はよく財務庁を利用するのか? それと……」
バージルは一旦そこで区切ると、改めてルイズをまじまじと見つめる。
「な……なによ……」
「平民が五芒星とマントの着用を許されているとは初耳だな」
「うっ!!!」
どうやらバージルの言いたいことは大体伝わったらしい、
行きは馬車で特に問題はない、トリスタニアに到着し、手形を金貨に換えてから
仕立て屋で平民に変装するなりしてから紛れ込めばいい。そう言っているのだ。
かといって今から学院に戻るには遠すぎる……。
「う! うるさいうるさい!」
痛いところを突かれたルイズは目くじらを立てながら怒鳴り散らす。
「喚くな、暑苦しい」
「誰のせいよこのばかぁぁーー!!」

街についた二人は、まず財務省を訪ね、手形を金貨に換えた。
新金貨六百枚、約四百エキューである。
その次に、仕立て屋に入り、ルイズが変装に使う地味な服を購入する。
ルイズは最初嫌がっていたが……五芒星とマントをつけたままでは平民の中に紛れるなど不可能だ。
地味な服を着せられたルイズは不満そうに口を開いた。
「足りないわ」
「何がだ」
「この頂いた活動費よ、四百エキューじゃ、馬を買ったらなくなっちゃうじゃないの」
「馬など不要だ、そもそも今のお前は平民だ、自分で歩け」
「平民のフリをしようがしまいが、馬がなくっちゃ満足なご奉公はできないわ」
「……」
「それにちゃんとした馬じゃないとダメね、安い馬じゃいざって言う時に役に立たないじゃないの!
馬具だって必要だわ、それに……宿だってヘンな所に泊まれないわ、
このお金じゃ二ヶ月半泊まっただけでなくなっちゃうじゃない!」
金貨六百枚が消し飛ぶ宿とは、どれだけのものなのだろうか。
「安宿でかまわん、少しは妥協しろ」
「ダメよ! 安物の部屋じゃよく眠れないわ!」
流石は大貴族のお嬢様、平民に混じっての情報収集なのにやたらと注文が多い。
「ご奉公にはお金がかかるの! 妥協なんてできないわ! あぁ、他にも……」
やいのやいのと注文をつけるルイズをバージルが睨みつける。
「お前はそんな風にして俺の金を使ったのか……」
あきらかに怒気を含んだ声にルイズが震えあがる。
「わっ……悪かったって言ってるでしょ! そ、それはあの時、あ、謝ったじゃない!」
ルイズは請求書が届いたあの日のことを思い出す。
あの時は本当にヤバかった、逃げたルイズを追ってきたバージルの背後には視界を覆い尽くさんばかりの幻影剣が浮き
目が合うや否やルイズに向かい一斉に射出してきたのだ。何の比喩もない、まさに剣の暴風雨だった。
幻影剣が容赦なく空から降り注ぐ、回避したと思ったら、今度はぐるりとルイズの周囲を取り囲み、一拍置いた後に一斉に射出される、
必死に地面を転がり回り、虚無を放ち打ち砕く、人間必死になればなんでもできる、そう実感した。
最終的には途中から加わったキュルケ、タバサ、シエスタを含む四人でバージルに謝り倒してようやく刀を納めてくれたのだった。

「お前に金を渡すとどうなるか、よくわかった」
バージルはそう言うと、ルイズが手に持っていた金貨の入った袋を取り上げた。
「なっ! なにすんのよ! 返しなさい!」
「俺も手伝わされるんだろう? 半分は俺の金だ、文句はあるまい?」
バージルがルイズを鋭く睨みつける。
「うっ……」
反論しようにも材料がない、そもそもバージルには金銭面で負い目を作ってしまっている。
バージルそう言うとはおよそ半分ほど、二百エキューほど袋から取り出すと、
残りの金貨が入った袋をルイズにぽいと投げ渡した。
「残りはお前のものだ、好きに使え、ただし、俺はお前には一切金をやらん、その金で自分の面倒は見ろ」
なんともまぁ、ケチくさい発言である。無断で私財を使われた身としては当然だが……。
「これっぽっちでどうしろっていうのよ……」
「この機会に金の使い方でも学ぶんだな」
切なそうに呟くルイズにバージルはしれと言った。

今も昔も、情報を仕入れるなら酒場と相場が決まっている。
珍しいバージルの助言に従い、二人は居酒屋へと足を踏み入れた。
するとルイズはその一角に設えられた賭博場を見つけた。
そこでは酔っぱらった男や、いかがわしいなりの女たちがチップをとったり取られたりの戦いを繰り広げていた。
「何を考えている」
入るなり見入っているルイズにバージルがジト目で睨みつける
「え? あ、えっと、これで増やせるかな……って、そ、そりゃ私も博打はあまり好きじゃないわよ!?
で、でもご奉公のためにお金は必要だし! ちょっとだけなら姫さまも許してくれるわ……きっと!」
呆れ果てているバージルをよそに、ルイズはおよそ五十エキュー分をチップへ換えると
くるくる回る円盤がついたテーブルへと向かう。
円盤の円周には赤と黒に色分けされた三十七個のポケットに分かれ、それぞれに数字が振られている。
その円盤の中を小さな鉄球が回る。そして円盤の周りには目の色を変えた男女がそれを食い入るように見つめていた。
ルーレットである。
ルイズは、まずは運だめしと、勝っている客と同じように赤に十エキューほどのチップを慎重に張ってみた。
玉は赤のポケットに見事入り込んだ。
「ほら見なさい! 勝ったわ!」
「偶然だ」
気を大きくしたルイズは賭ける額を少しずつ大きくしていく。
どういうわけかそのいずれもが的中しあっという間に八十エキューほど所持金を増やしていた。
「任務遂行のお金が増えたわ! さっすがわたしね! どっかのケチな使い魔とは違うのよ!」
「勝手にしろ、どうなっても知らん」
調子に乗り始めたルイズにバージルは吐き捨てるように呟くと踵を返した。
「どこに行くのよ?」
「外だ、酒臭くてかなわん」
そう言って退出していったバージルの後ろ姿を見てルイズがほくそ笑む。
「ぷぷっ、あの悔しそうな顔! みてなさい、何倍にもしてやるわ!」

三十分後……。
ルイズはがっくりと肩を落とし、恨めしげに盤面を見つめた。
彼女がさっきおいたチップが、バンカーの手でごっそりと消えていった。
ブロンドの美少女はしばらくしっとりと肩を落としていたが、やおら昂然と顔をあげる。
「次は勝つ……絶対勝てるわ!」
バージルと一緒に運が去って行ってしまったのか。
さっきまでの勝ちが嘘のように負け続けているのだ。
今までの勝ち分どころか、チップにしていなかった残りの軍資金まですっていたのだった。
「おかしいわよええ絶対おかしいわ、赤黒二分の一なのに十五回も連続で負けたわ、
というわけで次は勝てる、じゃないとおかしいわ」
鳶色の目をギラギラと輝かせルイズが呟く、もはや止める者は誰もいない。
「赤黒で当てても所詮は二倍……だったら一発数字を当てればいいのよ! 配当は三十五倍、
今までの負けを取り返すどころかおつりがくるじゃない、なぁんだ、最初からこうすればよかった!」
一人狂ったようにまくし立てていたルイズが大きく頷く。
「次こそ必ずJACKPOT(大当たり)よ!」
シューターがホイールに球を放り込もうとしている。
ルイズは一度深呼吸をすると目を閉じる。
その時、ルイズの脳裏にいつかの夢で見た、赤いコートを羽織った銀髪の男の姿がよぎった。
「あいつの弟……! 見えた! 赤の3!」
ルイズがなぜか頭に浮かんだ数字に残りのチップをあまさずベットする。
そして回転するホイールと球を、これ以上ない真剣な目で睨みつける。
赤に入り、跳ねて、今度は黒、また跳ねる……。
そしてカラコロと音をたて運命の球はポケットに入った。
入ったのは……黒(ネロ)の4……。
その結果を見届けたルイズはわなわなと体を震わせると、勢いよく立ち上がり酒場の外へと飛び出していった。
「バージル!」
「終わったか、結果は聞かん、行くぞ」
酒場から飛び出してきたルイズに冷たい視線を送りながらバージルが背を向ける。
だがギャンブルの魔力に取りつかれたルイズはバージルの前に回り込み立ちはだかる。
「あに言ってるの、まだ終わってないわよ、あんたのお金が手つかずじゃない、次はかならず勝てるわ」
「……言ったはずだ、これは俺の金だ、お前にくれてやる金などない」
こうなることを予期していたのか、ルイズを要求を無視し冷たく言い放つ
「あのね? 使い魔のものは主人のもの、決まってるの、いいから渡しなさいッ!」
ルイズはそう言うと電光石火の早業でバージルの股間を蹴りあげようとした、
だが、バージルの股間目がけ放たれたルイズの蹴りは、彼の左手に握られた閻魔刀の鞘に打ち払われる。
向う脛をおもいっきり打ち抜かれたルイズはあまりの激痛に、目に涙を浮かべながら蹲り、向う脛をさすった。
「いったぁぁぁぁ~~~~~……!! んぎゃっ!!」
トドメの一撃、こめかみに返す鞘の一撃を叩き込まれたルイズはそのまま昏倒してしまう。
「Foolish girl...」
呆れた表情で見下しながらバージルが短く呟くと、
倒れ伏したルイズの襟首を掴み、その場から引きずりながら移動した。

ルイズは暮れゆく街の中央広場の片隅にぼんやりと未だ痛む頭をさすりながら座り込んでいた。
ごぉんごぉん、とサン・レミの聖堂が夕方六時の鐘をうつ。
お腹がすいて疲れていたが、どこにも行けない。
ルイズは先ほど仕立て屋で購入した地味な作りのワンピースを身につけていた。
足には粗末な木の靴、マントと杖は鞄の中だ。
恰好だけみるとどこかの田舎娘のようだったが、やたらと高貴な顔のつくりと桃色かかったブロンドのおかげで、
お芝居の中の貧乏っ子のようにちぐはぐな感じがした。
バージルはいつもの恰好だったが……季節が季節だ、ロングコートを肩にかけており、ノースリーブ姿である。
左手にはいつものように閻魔刀が握られており、背中にはちゃんとデルフリンガーも背負っていた。
ぼそりと、ルイズがやっとことの重大さに気づいたような口調で呟いた。
「ど、どうしよう」
「知らん」
「う~~……」
バージルの冷徹な一言にルイズが膝を抱えてうなる。
するとルイズはなにやら言いにくそうにバージルを上目遣いで見つめながら口を開いた。
「ね、ねぇ……バージル? あの――」
「断る」
本題切り出す前にバッサリ断られルイズがずるっと肩を落とした。
「ま、まだ何も言ってないじゃない!」
「他に何がある」
バージルはこれ以上ないほど冷たい目でルイズを見る。
「呆れはてて何も言えん」
バージルもまさか自分が去って三十分もしないうちにルイズが全財産を失うとは思っていなかったようだ。
「だ、だったらあの時なんで止めなかったのよ!」
「あの時俺が止めろと言ったとしてだ……お前はやめたか?」
「うっ……」
ルイズが言葉につまる、ルイズはあの時勝ち続けていたのだ。
それ故調子にも乗っていた、仮にバージルが何か言っても聞く耳さえ持たなかっただろう。
「それで? どうするつもりだ?」
「い、今考えてるの! だまってて!」
ルイズはそれだけ怒鳴るとむっとした表情で膝を抱え、その上に顎を乗せた。
今のルイズの所持金はゼロ、これではどうすることもできない、宿どころか、食事だってとることが出来ない。
姫さまに頭を下げてまたお金をもらうべきか……否、自分だけの裁量で秘密の任務をお授けになっているのだ、
公的資金は、大臣たちを通さないと使う事が出来ない、つまりあのお金は姫さまのポケットマネーだ。
そもそもそのお金を三十分ですってしまったなんてどの顔を下げて言えばいいのだろうか?
いや、まだ半分残ってはいるが、それを持っているのは誰よりも恐ろしいこの悪魔だ……。
ルイズはそう考えながら再びバージルへと視線を向ける、
その視線に気が付いているのかいないのか、バージルはいつものように腕を組み目をつむっていた。
ルイズは意を決したように立ち上がる。
「バージル! あの……宿に泊まるつもりならその……、こ、このさい安宿でもいいわ! だからわたしも一緒に――」
「却下だ」
ルイズの必死の懇願も空しく、またもや言いきる前にバッサリ却下される。
「俺はお前に一切資金の援助はしない、貸すつもりもなければ借りるつもりもない……返済はしてもらうがな。
その金で自分の面倒は見ろ、最初にそう言ったはずだ」
「わ、わたしに野宿させる気なの!?」
「それしか手段がないのであれば、そうするしかあるまい」
絶望に打ちひしがれるルイズとは裏腹に、淡々とバージルが答える。
「信じられない! 貴族であるこのわたしに!? 野宿をしろですってぇ!?」
「この状況を招いたのはどこのどいつだ」
髪を振り乱し飛びかかるルイズをバージルは適当にいなす。
次第に体力が尽きたのかぐったりとルイズが地面に横たわった。
「おなかすいた……バージルぅ……せめてパンだけでも……」
消え入りそうな声でルイズが呟いた時、ちゃりーんと誰かが銅貨を投げた。
ルイズが憤った声で立ちあがる。
「だれ! 出てきなさいよ!」
すると人込みのなかから奇妙ななりの男が現れた。
「あら……物乞いかと思ったんだけれど……」
妙な女言葉だった。
「はぁ? あんたそこになおりなさい! わたしはねぇ! 恐れ多くも公爵家――むぎゃっ!?」
そこまで言おうとした時、バージルの掌がバチーンとルイズの口元に叩き込まれた。
「こーしゃくけ?」
「聞き違いだ」
口元を押さえながらジタバタと悶絶するルイズを尻目にバージルはしれといった。
身分を隠しての任務なのにいきなり正体をバラしかけた、これ以上目立ったらお話にならない。
男は興味深そうにルイズとバージルを見ている。
随分と派手な格好だ、黒髪をオイルでなでつけ、ぴかぴかに輝かせている、
大きく胸元の開いた紫のサテン地のシャツからもじゃもじゃとした胸毛をのぞかせている。
鼻の下と見事に割れた顎に、小粋な髭を生やしていた。
「なんかものすごく痛そうにしてるけど大丈夫なのその子?
それはおいといて……、それじゃなんで地面に寝ていたの?」
「お金がなくなっちゃって……で、でも物乞いじゃないわ!」
男の問いにルイズがふらふらと立ち上がり、バージルを睨みつけながらきっぱりと答えた。
男が興味深そうにルイズの顔を見つめる。
「そう、ならうちにいらっしゃい。わたくしの名はスカロン。宿を営んでいるの、お部屋を提供するわ」
にこっと頬笑み男が言う、最高に気色悪い笑顔だったが、悪い人間ではないようだった。
「だそうだ、決めるのはお前だ」
バージルがルイズに視線を送る、するとスカロンは人差し指を立てると、再び口を開いた。
「でも条件が一つだけ、一階でお店を経営しているの、そのお店を、そこの娘さんが手伝う、これが条件。よろしくて?」
その条件にルイズは渋った顔をしたが、ここで断れば野宿決定、バージルは絶対に助けてくれないため、おとなしく頷いた。
「トレビアン」
スカロンは両手を組んで頬によせ、唇を細めてにんまりと笑った。
――チャキリ……っと鯉口を切る音が聞こえたので、ルイズが即座に閻魔刀の柄頭を押え抜刀を防ぐ。
「じゃ、決まりね、ついていらっしゃい」
ルイズとバージルの水面下のせめぎ合いを知ってか知らずか、リズムをとるようにくいっくいっと腰を動かしながら男は歩きだした。
非常に乗り気がしないが……背に腹は代えられないとルイズは尚も抜刀しようとするバージルを必死に押さえながら男の後をついて行った。

「ルイズちゃん、じゃ、お仲間になる妖精さんたちにご挨拶して」
「ルルルル、ルイズです、よよ……よろしく、よろしくお願いしますです」
羞恥と怒りで顔を真っ赤にさせたルイズが、それでもひきつった笑顔を必死で浮かべながら一礼する。
ルイズたちがやってきたここ、『魅惑の妖精』亭は、一見ただの居酒屋だが、
かわいい女の子達がきわどい恰好で飲み物を運んでくるれるので、人気のお店であった。
スカロンはルイズの美貌と可憐に目をつけ、給士として連れてきたのである。
そんなわけで、ルイズもそのお店の売りであるきわどい格好をせねばならず……こうしている有様であった。
ただでさえプライドの高い貴族のルイズが、こんな格好をさせられ、
平民に頭を下げている時点でいつ暴れだしてもおかしくない状況なのだが……、
任務を果たさねばならないという強い責任感が、ルイズの怒りを抑えた。
先ほどのバージルの言葉のとおり、酒場は情報が集まる場所である、情報収集としてはうってつけだ。
これも任務、姫さまのため! と必死にルイズは自分に言い聞かせていた。
「さあ! 開店よ!」
店の隅の魔法人形たちの奏でる行進曲にスカロンは興奮した声でまくしたてる。
ばたん! と羽扉が開き、待ちかねた客たちがどっと店内になだれ込んできた。

開店と同時に給士の女の子達が忙しそうに走り回る、
そんな中、バージルは静かに店の一番奥にあるテーブルにつくと
必死に働こうとするルイズを見守るわけでもなく、腕と脚を組むとそれっきり目をつむってしまった。
さすがのバージルも"無償で"宿を提供されるとなると働かなくてはならない、
かと言って、彼が新入りの仕事の一つである皿洗いに素直に応じるかといったら……NOである。
バージルはスカロンに一泊分の代金を支払うと、客としてここに堂々と居座ったのだった。
特に注文をするわけでもなく……しばらくそうしていると、バージルの元に派手な恰好の女の子が現れた。
長い、ストレートの黒髪の持ち主の可愛らしい子である。
「ご注文をお伺いしま~す!」
「いらん」
居酒屋に来たらなにか頼むのが道理というものであろうに、
バージルは心底鬱陶しそうな表情を浮かべると、女の子に視線すら合わせず吐き捨てる。
「そんなこといわずにさぁ、なにか頼んじゃってよ、エール? それともワイン?」
だが女の子は両手を腰に当て、にっこりとほほ笑むと、バージルの座る向かいの席に腰かけた。
「あったしー、ジェシカ。あんた、新入りの子のお兄さんなんでしょ? 名前は確か……バージルだっけ?」
「……」
ジェシカと名乗った女の子は、両肘をテーブルにつき、人懐っこい笑顔を浮かべながらバージルの顔を覗き込む。
そしてきょろきょろとあたりを見回すと、小さな声でバージルに呟いた。
「ねえねえ、ルイズと兄妹ってウソでしょ?」
「当然だ」
バージルがあっさりと否定する。
店に向かう道すがら、スカロンに二人の関係を尋ねられた時、
ルイズは身分を隠すために、とっさにバージルを自分の兄と説明したのだ、
どうみても兄妹には見えない二人の容姿だったが、
スカロンはその辺のことにはあまりこだわらず、追及もしてこなかった。
ジェシカはあまりにあっさりとバージルが否定したので、少々拍子抜けしたような様子だったが、
すぐに気を取り直すと、あははと笑った。
「そりゃそうよね、髪の色、目の色、顔の形、ぜんっぜん違うわ」
ジェシカはそこで一旦言葉を切ると、再びバージルの目を覗き込む。
「そして纏う雰囲気も」
「……」
「あんた、血と硝煙の中をたった一人で生きてきた、そんな感じがする、あの子とはまるで正反対ね」
ずけずけと鋭く切り込んでくるジェシカをバージルが睨みつける。
「貴様はここの従業員だろう? 俺のことはいい、さっさと失せろ」
「いいじゃない、本当つれないわねぇ、これもお仕事のひとつよ、それにあたしは特別だからいいのよ」
ジェシカはそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべる。
「スカロンの娘だもん」
その言葉には流石のバージルも少々驚いたのか、少しだけ目を見開くと、ジェシカとスカロンを交互に見比べた。
「ま、それは置いといてね、別にいいんだよ、ここにいる子はみんなワケありなんだから、
他人の過去を詮索する奴なんかいないから、安心して」
そこまで言うと、ジェシカはバージルから視線を外さずに、ずいっと体を近づけた。
「ねえねえ、でもあたしだけにこっそり教えて? 本当はどういう関係? 何を企んでるの?」
どうやらジェシカは好奇心の塊のようだ、わくわくとした表情でバージルを見つめている。
「一つ教えておいてやる、詮索屋は早死にする、好奇心の代償を命で払いたくあるまい」
うんざりした表情でバージルはジェシカの詮索を打ち切ると、席を立ち、二階の客室へと戻って行った。

「えーでは、お疲れ様!」
店が終わったのは空が白み始めた朝方であった。
ルイズはふらふらの姿で立っていた、眠くて疲れて死にそうだ、
慣れない仕事でグッダグダになっていた。
「みんな、一生懸命働いてくれたわね、今月は色をつけておいてあげたわ!」
歓声があがり、店で働く女の子やコック達にスカロンは給金を配り始めた。
どうやら今日は給金日のようだった。
「はい、ルイズちゃん」
わたしにももらえるの! とルイズの顔が一瞬輝いた。
しかし、そこに入っていたのは一枚の紙きれだった。
「なにこれ?」
ルイズが首をかしげて呟く、スカロンの顔から笑みが消えた。
「請求書よ、ルイズちゃん、何人のお客さんを怒らせたの?」
スカロンの言葉のとおり、ルイズの給士としてのの仕事っぷりはそれは目も当てられないほどひどかった。
お客にワインをぶっかけるわ、平手を浴びせるわでクレームの嵐だったのだ。
ルイズは大きくため息をはき、肩をがっくりと落とした。
「いいのよ! 初めは誰もが失敗するの! これからがんばって働いて返してね!」

終礼も終わりルイズが与えられた部屋に案内してもらうために、
スカロンの後をついてゆく、二階へと上がり、客室のドアが並んだ廊下を歩いていると、
その中のひとつのドアが開き、中からバージルが姿を現した。
「バージ……っ! ぐっ……お、お、おお兄……さま? いままでなにをしていたの?」
怒りを抑えながら思わず出しそうになった彼の名前を必死に呑み込み、絞り出すようにルイズがお兄さま、とバージルに尋ねる。
スカロンには一応ルイズの兄だと伝えているため、お兄さまと呼ぶことにしたのだった。
どこぞの雌竜の顔が浮かんでくるが、この際そんなことは言っていられない。
バージルはそんな『お兄さま』と呼んできたルイズを気味の悪いものを見るような目で一瞥すると、スカロンに話しかけた。
「スカロン」
「何かしら?」
「部屋は自由に使っていいんだったな?」
「えぇ、もちろん宿代は払ってもらうことになるけどね」
「そうか」
バージルは短く頷くと、何かを考える様に目をつむる、
今は手持ちがあるとはいえ、誰かのせいで全財産を失ってしまった今、もう一度金を稼ぐ必要がある。
立ち去る間際、働くルイズのことを見たが、あのザマだ、返済は一切期待はできないと考えていいだろう。
どうせ一ヶ月以上ここで足止めされてしまうのだ、今のうちに自力で稼げるだけ稼いでおくべきだ。
そう考えていたバージルは、スカロンと何やら交渉を始めた、
それを聞いていたスカロンは少々驚いた顔をしたが……やがて了承したのか「おもしろそうね」と快く頷いた。
「礼を言う、ではこの部屋を使わせてもらうとしよう」
話し終えたバージルは、小さく頷くと踵を返し、部屋の中へ戻って行く。
「ちょ、ちょっとまってよ! わたしもこの部屋じゃないの!? あんた……いえ、お兄さまがここならわたしも――」
蚊帳の外に置かれたルイズがバージルの後に続き、部屋の中に入ろうとした。
だがバージルはそこで止まると、廊下の奥の突きあたりを指差した。
「何を言っている、お前に与えられる部屋は向こうだ」
ルイズに与えられた部屋は、二階の廊下の突き当たりの梯子を使って上がる、屋根裏部屋であった。
埃っぽく薄暗い、どうみても人が暮らすための部屋ではなく、物置として使われているようだった。
壊れたタンスに椅子、酒瓶の入った木のケース、樽……雑多に物が積み上げられている。
粗末な木のベッドが一つ、置いてあった、ルイズが座ると、足が折れてズドンと傾いた。
「なによこれ!」
「随分快適そうなベッドだな」
一緒に入ってきたバージルが皮肉っぽく言いながら、蜘蛛の巣を払う。
「貴族のわたしをこんなとこに寝させる気!?」
「雨風をしのげるだけマシと思え」
怒鳴るルイズとは裏腹にバージルはそれだけ言うと、出入口である梯子に向かい歩きだした。
「ちょちょちょちょちょっと! まちなさいよ! なんで主人のわたしがこんな場所で! あんたがあんなにいい部屋なのよ!」
「無一文のお前とは違って俺は金を払っている、文句を言われる筋合いはない」
ルイズが必死になってバージルを引きとめる、こんなところで一人で寝なくちゃならないなんて冗談じゃない!
「あんたの部屋にわたしを泊めなさいよ! さっき中を少し見たけど、ベッド二つあったじゃない!」
「ベッドは二つとも片づける、あの部屋には必要ない、スペースがなくなる」
バージルのその言葉にルイズが首をかしげた。
「どういうこと? 片付けるって」
「改装だ、あのままではまともに使うことはできん」
「部屋を改装って……そう言えばさっき何か交渉していたみたいだけど、一体なにをしようとしているの?」
「この状況、俺にとっては少々不本意だが……、仕方あるまい、ここで通用するかはわからんが、
昔、少しの間だがやっていた稼業を再び始める、さっきの通り、スカロンの許可は取った」
「昔やっていた稼業? そういえばあんた、昔はなにをやっていたの?」
バージルが振り向き、ルイズの問いに短く答える。
「便利屋だ」


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