あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-14


 アプトムの朝は早い。が、この日の場合は、ただ単に寝ていなかっただけである。
 何故、寝ていないのかと言えば、夜襲などがあったとしても、すぐにルイズを守れるようにである。
 決して、どこで寝ればいいのか教えてもらってなかったからではない。
 そんな一日や二日、睡眠を取らなくても平気な使い魔とは逆に、主たるルイズは、今朝も絶賛寝ぼけ中である。
 夜更かしすることが習慣付いており、昨夜はウェールズのことやアンリエッタの事で頭を悩ませてなかなか眠れなかった彼女は、眼を覚ましても、いつもの通りに頭の半分が眠ったままであり、起こしに来た者の成すがままであった。

 ルイズが、意識をはっきりさせた時、そこは礼拝堂だった。
 隣には着飾ったワルドがいて、自分もいつの間にか着替えさせられていた。と言ってもいつもの黒いマントからアルビオン王家から借り受けた純白のマントに変えただけで杖も持ったままであるが、そして前には始祖ブリミルの像を背にしたウェールズが立っていて、離れたところには壁にもたれるように立つアプトムがいる。
 何がどうしてこの状況?
 と、霧がかかったような記憶を呼び起こしてみる。
 たしか、寝ていた自分を起こしに来たのはアプトムではなくワルドだった。うん。それは憶えてる。それで、えーと、ワルドが「今から結婚式をするんだ」って言って、わたしを着替えさせてここに連れて来たのよね。って、誰と誰が結婚するの?
 と、周りを見回してみるが、ここにいるのは、自分を含めて四人。つまり、結婚するのは……、

「わたし!?」

 素っ頓狂な声を上げるルイズに、ウェールズは怪訝な顔をするが、まあ緊張しているのだろうと流すことにする。

「では、式を始める」

 いやいやいや、ちょっと待った、考える時間をください。などと思うルイズであるが、そんな心の声が聞こえた者はいない。

「新郎、子爵ジャン・ジャック・フランシス・ワルド。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして妻とすることを誓いますか」
「誓います」

 勝手に誓わないでよ。お願いだから、この状況を説明してください。どうして、わたしとワルドが結婚することになってるのよ。たしかに婚約者だけど、これは、なんか違うでしょ。
 内心で、そんな悲鳴を上げる彼女に、ウェールズはニコリと笑顔を向けて、詔を読み上げる。

「新婦、ラ・ヴァリエール公爵三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。汝は始祖ブリミルの名において、このものを敬い、愛し、そして夫とすることを誓いますか」

 無理! 心の中で悲鳴を上げる。
 確かにワルドを慕う気持ちはある。だけど、こんな風に何の説明もなく連れてこられて結婚しろと言われて納得できるはずがない。いや、起き掛けに説明はあったが、そんな頭が働いてないときに言われても困る。
 助けを求めてアプトムに視線を向けると、訝しげな眼で見返された。
 ウェールズもそうだが、アプトムは、ルイズがこの結婚式についてワルドから何も聞かされていない事を知らない。説明なしに助けを求められても困ると言うものだが、困っているのはルイズも同じである。

「新婦?」

 呼びかけてくる、こちらも訝しげなウェールズにルイズは慌てて何かを言おうとして、何を言えばいいのか分からずに困惑し、とりあえず現状を理解しようと努める。
 まず、三日前の夜にワルドが自分に結婚を申し込んできた。その時、自分はなんと答えただろう?
 答えられなかった。自分がどうしたいと思っているのかも分からなくて黙りこんだルイズに、返事はこの旅が終わるまで待つと言ってくれた。


 その後ワルドは、その話をしてくることはなかった。というか思い返してみると、アプトムとワルドの決闘やら、傭兵の襲撃やらいろいろあったとはいえ、どう返事するか一度たりとも考えなかったというか完全に忘却していた。我ながら酷い話だと思うが、それどころでなかったというのがルイズの言い分である。
 そして、今朝になって急にワルドが結婚式をしようと言い出して、反論の暇もなく自分を着替えさせてここに連れてきた。
 なんだそれ?
 急に腹が立ってきた。自慢じゃないが、というか自慢にならないがルイズは感情を爆発させやすい少女である。本人にも自覚がなかったが、この城に来てから彼女の心の奥底には爆発の起爆剤となる苛立ちが多く積み重ねられ続けていた。
 この城の人間は、人の気持ちを考えない人間ばかりだというのが彼女の見解。
 特にウェールズである。彼は愛してくれていて、そして自分も愛しているはずのアンリエッタの事を蔑ろにしすぎている。
 アンリエッタが亡命してほしいと言ってくれているのに、それを無視して、自分が正しいのだと、これが彼女のためだと一方的に決め付けて、王女の想いをなかったことにしようとする。
 人の上に立つものとして、それが正しいのだろうということは理解できるが納得はできない。
 そんな怒りが、これまで表面に出てこなかったのは、アンリエッタを想っての悲しみの感情が強かったからだ。
 しかし、ここに来て、その悲しみは噴出した憤怒に駆逐された。
 今のルイズにしてみれば、こちらの意思を無視して結婚式を挙げようとするワルドには、ブルータス、お前もか。という感情しか浮かばない。

「誓いません!」

 はっきりとした宣言にウェールズが首をかしげる。彼は、まさかこの結婚式が新婦の同意なしに行われたものだなどと考えもしていないのだから当然である。

「何を言っているんだいルイズ? ああ分かってるよ僕のかわいいルイズ。緊張すると思いもしない事を言ってしまうものだからね。 そうだろルイズ。きみが、ぼくとの結婚を拒むわけがない」

 そう言ってルイズの手を取るワルドであるが、それを彼女は振り払う。
 ふざけるなと心の中で叫び、睨みつける。
 ルイズにとってワルドは憧れであり、恋してもいた。だけど、許容できないことがある。
 アンリエッタの想いを無視し、これが彼女のためだと一方的に決めつけるウェールズに苛立ちを覚える今のルイズにとって、同じく一方的に自分の想いを決めつけ行動するワルドは、怒りの対象でしかない。

「そうね。わたしは、あなたとなら将来結婚したいと思っていた。でも、それは将来の話。今じゃない。あなたは待ってくれると言ったわ。
なのに、これはどういうこと? あなたにとって、わたしとの約束なんて守る価値がないって事?」
「なるほど。僕は急ぎすぎたようだね。なら、日を改めて式を挙げよう。しかし、せっかく媒酌を受けてくれた殿下の顔を潰すのもよくない。
ここは……」
「黙って!」

 目下のものを見守る優しい笑みを浮かべて言ってくるワルドに、ルイズは怒声で答える。
 そうではない。彼女が怒っているのは、そういうことではないのだ。ルイズはただ、こちらの考えを勝手に決めつけるなという、ただそれだけのことに怒っているのに、それが伝わらない。
 それも仕方がないことではある。ルイズの訴えることは、言ってみれば取るに足らぬ小娘の感傷で、大人であるワルドや、王族として貴族としての立場でしかものを見れないウェールズには理解できないものであった。
 もちろんアプトムにも理解できないのだが、彼は最初から理解する気がなく理解した気になってものを言うこともない。
 もういい。そう思う。このまま話していても、不愉快なだけだ。
 頭に血が上ったルイズではあるが、ウェールズに対して不敬を働いてはいけないと考えるだけの常識は残っている。
 とはいえ、このままでは、ワルドとウェールズに対し怒りを爆発させてしまうことは目に見えている。だから彼女は言う。

「アプトム。帰るわよ」

 気持ちの通じ合わぬ、しかし忠実な使い魔に呼びかけて、踵を返す。もう、ここにはいたくないから。
 そんな彼女の肩に、ワルドが手を伸ばす。


「待つんだルイズ。僕にはきみが必要なんだ! きみの能力が! きみの力が!」

 だが、ワルドの手をアプトムの左手が止める。アプトムにとって、ワルドの言い分などどうでもいい。この危険な城からさっさとルイズを連れ出せるのなら、他の事はどうでもいいのだ。もう終わった話で引き止めようとするなとしか思わない。

「きみは……」

 怒りに満ちた眼でアプトムを睨みつけ、そしてルイズを見るが振り返る少女の眼には拒絶しかない。

「子爵……、きみはフラれたのだ。いさぎよく引き下がりたまえ」

 そんなウェールズの言葉に、納得したからでもなかろうが、ワルドは落ち着きを取り戻した様子で、天井を見上げ首を振りため息を吐く。

「この旅で、きみの気持ちをつかむために、随分と努力したんだが、こうなってはしかたない。目的の一つは諦めよう」
「目的?」

 怪訝な顔をするルイズに、ワルドは唇の両端をつりあげて暗い笑みを作って見せる。

「そうだ。この旅における僕の目的は三つあった。その二つが達成できるだけでも、よしとしなければな」

 三つの目的とは何だと思うルイズに、ワルドは指を立てて言葉を続ける。

「まず一つはきみだ。ルイズ。きみを手に入れることだ。しかし、これは果たせないようだ」
「そうね」
「二つ目の目的は、ルイズ、きみのポケットに入っている、アンリエッタの手紙だ」
「なっ……、ワルド、あなたまさか……」
「そして、三つ目の目的は……」

 そこまで言った時、ウェールズが杖を構えた。ようやく、彼もワルドの言葉の意味を察したのだ。しかし、遅い。
 閃光の二つ名を持つワルドは、その名に恥じぬ素早さで杖を抜き呪文を唱え、青白く光る杖でウェールズの胸を貫いていた。

「貴様の命だ。ウェールズ」

 ワルドの嘲りを含んだ言葉を最後まで聞くことなくウェールズは倒れ、その胸に大きく開いた穴から血を溢れさせる。

「あなた! アルビオンの貴族派だったのね! ワルド!」
「そうとも。いかにも僕は、アルビオンの貴族派『レコン・キスタ』の一員さ」
「どうして! トリステインの貴族であるあなたがどうして!?」

 悲痛な声で訴えるルイズ。彼女はワルドに対して強い怒りを感じてはいたが、別に嫌いになったわけではない。恋が醒めたわけではない。そんな相手の裏切りに傷つかないではいられない。
 そんなルイズにワルドは杖を突きつけて言う。自分たちハルケギニアの将来を憂える貴族の連盟に国境はない。自分たちの手により無能な王家を打ち倒し、その後一つになった戦力で始祖ブリミルの光臨せし『聖地』を取り戻すのだと。

「昔のあなたは、そんな風じゃなかった。何が、あなたを変えたの?」
「人は変わるものさ。きみとて、昔のままなら僕の言うことに逆らったりはしなかっただろう」

 つまりは、そういうこと。ルイズの知るワルドとは十年も前の心優しい少年で、ワルドの知るルイズとは彼の言うことを頭から信じて疑わず、また逆らうということを考えることもできない内向的な少女であった。二人が見ていたのは十年前のお互いであって今ではない。だから、この破局は必然であったのだが、そのことにお互いだけが気づいていなかった。

「言うことを聞かぬ小鳥は、首を捻るしかないだろう? なぁ、ルイズ」

 自分に向かい杖を振ろうとする、かつての婚約者の殺意に晒されルイズは震える。彼女は魔法を使えないことを馬鹿にする心無い悪意には慣れていたが、人を害する事をいとわない敵意というものには慣れていない。
 そんなルイズの前に、アプトムが立ちはだかる。彼のここでの目的はルイズを無事に連れ帰ることなのだから、これは当然。だが……

「ふん。伝説の使い魔とはいえ、魔法も使えない平民が、左手一本で僕に勝てるとでも思っているのかい?」

 その言葉にハッとなるのはルイズ。自分の使い魔を先住魔法を使う亜人だと思っている彼女は、アプトムならワルドとでも互角に戦えると信じているが、彼は右腕に酷い火傷を負っているのだ。
 ここは、アプトムに頼るべきではないのではないか?
 そんな心配をするルイズの不安をよそに、彼はも焼け焦げた右腕を掲げて言う。

「左手一本でも勝てるだろうがな。右手を使わないつもりもない」

 その言葉と共に、彼の右掌から閃光が走り、杖を持ったワルドの右腕を貫く。

「なん…だと…」

 呻くワルドには、何が起こったのか理解できない。
 目の前の男の右手が光を放った。そして、その瞬間には自分の右手が肘から失われ、傷口は炭化していた。

「何をした! 貴様ーっ!」

 怒りに任せて叫ぶが、アプトムは答えず、ただ前に突き出した右腕の表面の皮膚がボロボロと崩れ落ち、傷一つなく手の平にレンズのような何かを貼り付けた右手が姿を現す。

「貴様。その右手は……」
「怪我なら、とっくに治ってたさ。だが、俺の正体に関する能力のことはルイズ以外には知られない方がよさそうなのでな」

 実際には、あと三人ほど彼の能力の一端を知る者がいるが、その事を言う意味はない。
 彼の背後では、だったら怪我が治ってることをさっさと教えときなさいよ。心配しちゃったじゃない。などと、ルイズが怒っており、後で責め立ててくるのだが、今はどうでもいいだろう。

 なんにしろ、右腕ごと杖を失ったワルドに抵抗する術などない。その考えが油断であるとは流石にアプトムも思わなかった。だから、まったくの別方向から襲い掛かった風の刃に対する反応が遅れ、その右腕はあっさりと切り飛ばされた。
 悲鳴が上がる。それは、アプトムの背後に庇われたルイズの口からこぼれたもの。右腕を失ったアプトムは、動じずに風の刃を放った者の姿を視界に捉え、そこに港町でルイズを捕らえようとした仮面の男を発見する。

「風は偏在する」

 そう呟いて仮面を取った男は、ワルドの顔をしていた。それに驚かなかったわけではないが、別の方向からの攻撃を感じ取り、背後にいたルイズを左手に抱えると、アプトムは襲い掛かる風の槌をかわす。
 そうして、見回した礼拝堂の中には、右腕をなくした者を含め四人のワルドがいた。

「分身か?」

 何気なく呟いた言葉に、ただの分身ではないと答えが返る。

「一つ一つが、本体とまったく同じ意思と力を持つ。今度こそ、右腕を失くしたきみに勝ち目はない」

 宣言と共に三方から矢継ぎ早に放たれる風の魔法を、ルイズを抱えたアプトムは回避していく。
 だが、全てをかわしきれるはずもなく、傷ついていくアプトムの姿にルイズは自分が足手纏いになっていることを知る。
 正直なところ、この日起こった出来事は、ルイズの許容できる範囲を越えていた。突然の結婚式にワルドの裏切り、ウェールズの死に、怪我をしてたはずの手から光線を出すアプトム。付け加えるなら、アプトムの得体の知れない能力に対して、まったく恐怖を覚えなかったわけでもない。
 もう思考放棄をしても許されそうな状況でルイズを現実に引き戻したのは、どれだけ傷ついても彼女を守ろうとするアプトムである。

 右腕を失くし、残った左腕を自分を抱えるために使っているアプトムに、ワルドに反撃する手段は残されていない。それなら自分がなんとかしなくてはならない。そうルイズが考えることは必然と言えるものであり、ゆえに彼女は杖を振るい呪文を詠唱する。唱えた魔法はファイヤー・ボール。魔法を撃ってくる三人のワルドの一人に向けて放たれたそれは、当然の如く失敗の魔法となり、狙いもそれてワルドの一人の少し隣で爆発した。
 そのワルドが、本体であったならその失敗魔法には何の意味もなかったであろう。しかし、偏在であったそのワルドは爆発の余波を受けた瞬間。まるで幻だったかのように消失した。

「馬鹿なっ!」

 そう叫んだワルドもまた、光線に胸を貫かれて消滅する。
 当然の事態に、何が起こったのか分からなかった残ったワルドたちは、手の平にレンズを貼り付けた右手を掲げるアプトムを見て驚愕する。

「どうした? まさか、右手を再生できるとは思わなかったなどとは言うなよ」

 冷笑と共に吐かれる言葉に、ワルドは沈黙する。ライトニング・クラウドを喰らった右手を再生させた相手であるから、まったく予想しなかったわけではないが、早すぎる。
 なるほど。確かにバケモノだ。『土くれ』が敵対したくないと言うのも分かる。
 腕だけでなく、ルイズを庇ってついた傷も、すでになくなっているのを見て、勝ち目がないと理解したワルドは考える。
 相手は、まだまだ自分の能力を隠しているであろう無傷のバケモノ。こちらは、敵が手の平から出す光線を回避する術すらなく、残った偏在の片側は片腕を杖ごとなくし戦闘能力は無きに等しい。

 勝ち目はなく、もうレコン・キスタの総攻撃が始まる頃だし、時間稼ぎをしなければいけない理由もない。
 ならば、これ以上は精神力の無駄だ。フーケの忠告もあり、もしもの事を考えて、礼拝堂には偏在だけを行かせたのは正解だった。最初からいた右腕を失くしたワルドも偏在である。そうでなければ、もしこの場に本体がいれば、あの光線に撃ち抜かれ自分は一撃で倒されてしまったかもしれない。
 手紙を自分の手で奪えないのは残念だが、それは後で死体から回収するとしよう。いかなバケモノとて、レコン・キスタ五万の軍勢からル
イズを守りきれる道理はない。
 だからと、ワルドはそこで切り上げることにする。

「どうにも、きみには勝てそうもないようだな、ガンタールヴ。まあ、目的の一つを果たせただけでよしとしよう」

 そう言って、偏在たちは消えた。
 アプトムはワルドとの戦闘に勝利したのだ。
 だけどと、ルイズは敗北感を感じる。自分はただ足手纏いになっていただけだ。自分がもっとしっかりしていれば、ウェールズ王子も死ななくて済んだのではないかという考えを、止められない。

 そして、ウェールズの生死に関心のないアプトムはルイズのような感傷とは無縁であるので考える。
 騒がしい音も聞こえてきたし、もうレコン・キスタの総攻撃が始まっているのだろう。自分なら、戦って負けるとも思わないが、ルイズを守りながらとなると難しい。
 だから、と彼は獣化することにした。幸いと言っていいのか、ワルドがいなくなったことで、この礼拝堂には自分とルイズ以外にはウェールズの屍があるのみである。

「アプトム?」

 ルイズは、アプトムを先住魔法を使う亜人だと思っている。だから、その姿を人でないものに変えたとしても、不思議ではないと理解はしている。
 だが、それは突然であったし、前に見たカメレオンに似た亜人の姿ではなく、その時よりも遥かに大きな巨体を持つ、二本足で直立するカブトムシと言う感じの姿になられれば、さすがにギョッとしてしまう。

「脱出するぞ」

 どうやって? とバクバクと音を立てる胸を押さえながら尋ねるルイズに「穴を掘ってだ」とアプトムは答える。この姿は、かつて融合捕食で手に入れたゼクトールと呼ばれる超獣化兵のものである。
 このゾアノイドの主な武装は、獣化兵中最高出力を誇る生体熱線砲であるが、それしかできないわけではなく、その巨体に見合ったパワーや地を潜って進んだり空を飛んだりの能力もある。

 その能力で、土を掘り、大陸の底まで行って、そこからは飛んで脱出しようというのが彼の考えである。
 ちなみに、穴を掘ったり空を飛んだりは、前に土くれのフーケと戦ったときの姿であるアプトム・フルブラストの形態でも可能なのだが、一人ではなくルイズも連れて行くのなら穴を掘る自分の体は大きいほうがいいだろうと彼は判断していた。
 そんな説明に、自分たちだけ逃げ出すことに罪の意識を感じる彼女は、ウェールズの屍に眼をやり、いや、ウェールズを救えなかった自分にはそんなことを考える資格はないのだと頭を振る。

「わかったわ。早く脱出しましょう」

 そして、姫さまに手紙を返さなければとルイズは、アプトムが開ける穴に飛び込んだ。

 もしも、このときルイズの注意力が高ければ、彼女はあることに気づいたかもしれない。
 ワルドの魔法に切られた後、再生したアプトムの右手は、新しく生えてきたものである。つまり、礼拝堂のどこかには、切り飛ばされた右手がなければいけないのだ。しかし、それはどこにもない。
 そして、誰もいなくなった礼拝堂で、その男は目を覚ます。
 それは、先ほどまでは屍だったはずの者。ウェールズと呼ばれていた男。
 ウェールズだった男は起き上がり、不思議そうに自分の薬指に眼をやる。そこには指輪がはまっていた。風のルビーと呼ばれる宝石のついた指輪が。一度、それに眼をやった彼は、歩き出す。何かに導かれるように。何かを捜し求めるかのように。


 一人、ラ・ロシェールに残ったギーシュが船に乗ったのは、宿が襲撃された二日後の朝。今まさにニューカッスルの城がレコン・キスタに攻められている頃である。
 もちろん、ギーシュがそんなことを知るはずがなく、彼はアルビオンに着いたらすぐにでもルイズたちを追おうと考えていた。
 どうやって、ルイズを捜すのか、ということは考えていない。、結局は彼もルイズたちと同じ世間知らずの貴族の学生でしかなかったのである。

 そんなわけで愛しい使い魔ヴェルダンデと共に乗った船の上で、彼は自分がこれからする事になるであろう大活躍を夢想するのであった。
 そんな彼は、途中ヴェルダンデが鼻をひくつかせアルビオンの方向に顔を向け、何かを眼で追うように顔を曲げて行き最終的にトリステインの方に向けた事には気づいたが、それが何故なのかは分からず、ついでに同じ船に乗っている黒いローブで顔を隠したあからさまに怪しい女性に気づくことがなかったのであった。

 彼の前途に幸あれ。


新着情報

取得中です。