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ゼロの黒魔道士-41


ピコン
ATE ~とどかぬ想い~

「――以上のように、建造物の破損、倒壊はかなりの件数にのぼりますが、住民の被害は軽微と言ってよろしいかと」
ラ・ロシェールの火災は、王宮から派遣された水メイジの手により沈静化していた。
その筆頭に立ったのは“波濤”という二つ名がして知られるモット伯であり、今報告を行ったのも彼だ。
艦隊が煉獄の炎を伴い落ちてきたことによる家々の崩落と火災は、駆け付けたトリステイン王軍の士気を著しく下げたが、
蓋を開けてみれば、突然の発光、爆発(この件については未だ情報が錯綜しており、正体不明となっている)によるアルビオン軍の壊滅、
及び住民の避難がほぼ完了していたことによる人的被害の軽減、
何より見目麗しくも勇ましいアンリエッタ姫殿下自身による鼓舞により、
主に残務処理となった軍の行動は着々と進んでいた。
「――軽微とはいえ、死んだ方が出たのですね……」
「おそれながら、アンリエッタ様。それが戦争かと」
と答えるものの、マザリーニ枢機卿は安堵していた。
軍人の被害は、当初の式典に参加していた者達の内に限られ、
民間人の死者は式典を危険な屋根の上や崖の傍で観覧していた無謀な輩のみだった。
数で言えば、軍・民間合わせ200人に満たない。
これはこの規模の戦闘行為から考えれば軽すぎる、とも言える。
軍人ではないマザリーニにしても、被害がここまで抑えられたことに驚嘆するしかなかった。
それは被害状況を視察に来た閣僚達も同様であった。
「被害に遭われた方、ならびにそのご遺族には国庫より何らかの保護を」
「そうなりますと今期の予算が――」
デムリ財務卿が苦言を挟む。
とはいえ、彼自身も予期していた軍事費を削れたことに胸をなでおろしていたはずだが、
それでも秋小麦収穫前の思わぬ出費は時期的に頭を悩ませることになっていた。
「我々のお給金を削るなり、必要無い予算を削ればよろしいでしょう」
「――確かに、この際ついでに不明瞭な予算を見直すのも手ですな」
「そ、そうですな。アルビオン軍が出てくることはもはや考えにくいですし――」
アンリエッタの言葉に、マザリーニが含んだ視線をリッシュモン高等法院長に向ける。
ここ数年のリッシュモンの散財ぶりが収入に合わないとする噂は耳に入っている。
流石に、高等法院長ということで易々と調査できないことから機会あればと常々狙っているのだ。
「――ところで、この街を守られた勇猛な方はどちらに?」
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ラ・ロシェールの玄関口であるビッグブリッヂ付近、そこに勇敢なる者達がいた。
「ひ、姫殿下!またご尊顔をたまわることは光栄の極みでして――」
跪く所作こそ貴族らしい優雅なものではあったが、ギーシュの身だしなみは酷いものだった。
メイジの象徴たるマントはズタズタに破け、フリルつきの特注のシャツは血と汗で汚れている。
自慢であろうハニーブロンドの髪もグシャグシャである。
しかし、それら全てが戦いを終えたという男の持つ独特の雰囲気とあいまって、戦士たる者であったことを主張していた。
「あぁ、よいよい、面をあげよ。ふむ、君だったのか。グラモン家の」
「はっ!不肖の四男坊、ギーシュ・ド・グラモンと申します!」
威風堂々とまではいかずとも、立ち上がって名乗る。
しかし、その膝は流石に疲れていたのか、笑いが止まらない様子であった。
「ふむ、そなたの活躍によりラ・ロシェールの民が守られたわけだ。いや実に素晴らしい――」
軍人であるド・ゼッサールがその髭面に似つかわしい豪胆な笑いでこの若き勇者を称える。
彼にとって、有望な若人は常に大いなる刺激であり、また期待を寄せる存在なのだ。
「あ、あの、そのことなのですが――実は私めよりもこの方が――」
「こ、こらっ、ギーシュ!?引っ張るなっ!?」
フラフラになった足取りで少年が橋の欄干の影より連れだしたのは、鎧に身をまとった妙齢の女性であった。
彼女もまた、ギーシュと同じく血と汗にまみれた良い姿になっている。
「――む、君は?」
「――アニエス、その後には何もつきませんよ」
不満たっぷりといった様子でその女は名乗った。
単純で明快な名前のみで苗字が無い。ハルケギニアにおいてその事実が示すこととは――
「なんと、ミスタ・グラモン!?君は、君よりもこの平民の女性が活躍したとでも!?」
「えぇ、私めなどひよっ子もいいところです!しかし、アニエス先生の活躍はまさしく八面六臂!
 敵をちぎっては投げちぎっては投げの大活劇!まるで紙の兵隊を相手にするような――」
まるで自分のことのように、まるで物語の英雄譚を思い出しながら語る子供のような表情で、
ギーシュがアニエスの活躍を語る表情は晴れ晴れとしており、そこには曇りは一点たりとも無かった。
「ギーシュ、やめろ。そう宣伝される武勲でも無い。第一、お前が来なければわたしは死んでいた」
頬をかき、苦い笑顔をつくりこれを聞くアニエス。なるほど、求道の武人らしく誇張を嫌う性質なのだろう。
ゼッサールは彼女が気に入り始めていた。武人の性さえあれば、男女の区別なしに気に入る彼もまた武人である。
「――ぬぬ、しかし、平民の活躍譚とあっては確かに喧伝するのは対外的に――」
これとは反対に、渋い顔をするのがド・ポワチエである。
彼は武人としてはそれなりの実力はあるのだが、身分や階級というものに固執するきらいがあり、
今回の若き者達の活躍譚も、素直に快く受け入れるだけの度量というものが無かった。
「あぁ、構いませんよ。わたしはただの平民です。以前、貴公方の警護役を務めましたが勝手にやめた無責任さですし」
アニエスの語ったことは真実である。
彼女が密かに抱いている目標のために、一時期“王宮警護官見習”という低い職を得たとはいえ、
剣士にあるまじき醜態を衆目に晒した負い目から自分探しの旅に出る際、
一言「一身上の都合で辞める」とだけ書いた封書を王宮に送りつけていた。
「――ならば、もう1度登用し、貴族の称号でも与えれば、対外的な言い訳も立ちますわね?」
「アンリエッタ様!?」
ここまでの話を、目を瞑りじっと聞いていたアンリエッタ姫がおもむろに口を開いた。
「アニエス、とおっしゃいましたわね。――此度の一連の出来事から、私どもも王宮銃士隊というものの結成を考えております。
 主に、私の手足となっていただく部隊ですが――その初代隊長の任をおまかせしてもよろしいでしょうか?」
この発言は、メイジとしての地位がより重要視されるトリステインにおいては異例中の異例、前代未聞、空前絶後であった。
何より、いつも傍にいてアンリエッタのことを知るマザリーニにしても、このような計画は初耳であった。
「――身に余る光栄ですが、何か裏でも?平民の下衆な勘ぐりで申し訳ないですが」
アニエスの右目が猜疑の色に見開かれる。左目は今回の戦闘で血が少し入り、今は開けにくい状況だからだ。
「フフ、流石ですね。――貴女と同様、メイジもメイジを信用できなくなりつつあるのです」
アンリエッタの語ったことは真実である。
魔法衛士隊はグリフォン隊の隊長職であったワルド子爵の裏切り、
閣僚会議の情報が外部に流出しているらしいという伝聞、
トリステインの貴族社会は、今までに無いほど腐敗しているといっていいだろう。
ならばこそ、平民を登用し、腐った貴族達の牽制とする――
アンリエッタの狙いは施政者として的を射たものであった。
「――なるほどな。お受けするのは結構だが、大人しく飼われはせんぞ?」
そのしたたかな狙いを感じ取ったアニエスが不敵に笑う。
その狙いの意味するところは、彼女の密かな目標と合致するものではあるが、
貴族という存在を嫌う彼女としてはただの尻尾をふるだけの飼い犬になる気はサラサラ無かった。
「――貴様、先ほどから不敬にも程があるぞっ!!貴様のような平民が――」
ポワチエが吼える。もちろん、不敬であることを咎めるわけではない。
彼は危機感を抱いたのだ。平民を登用し、自分と同等以上の地位に上げられてしまうという事実に。
しかし、彼の咆哮はアンリエッタ自身の手により制止されてしまった。
「結構でしょう。フフ、貴女のような方と共にいれば、私も強く見えますかしらね?」
「――いえ、噂よりお強い姫様にはわたしなど不要でしょう」
「貴女ほどではありませんわ」
力強い笑みを浮かべる二人の若き女性の姿に、今は亡き前王の姿を重ね、
あの幼き娘が立派になられたと、マザリーニは1人歓喜の涙を心で流していた。

「ギーシュっ!!」
「やぁ、愛しのモンモン、無事だったグホブァっ!?」
それは、ただのパンチというには、あまりにも重い一撃であった。
走りながらの前傾姿勢、そこから生まれるダウンフォースは、重力というものを味方につける。
沈んだ体から放たれた右手は、自然のままにひねりが加えられていた。
そう、彼女の髪の毛と同じく、螺旋の軌道を描いて定めた目的点に到達した。
定められた到達点、そこはギーシュの肋骨の稜線の合わさる地点、
東方医学においては水月、すなわち鳩尾と言われる部分であった。
全てが本能のままに、自然に。
それは古に生きる肉食獣、虎をも戮すとされた拳、
“タイガーブレイク”とも呼ばれた技であることを、殴った本人すらも意識していなかった。
まさに天賦の才。ナチュラル・ボーン・ファイターとはこのようなことを言うのだろうか。
ゼッサールはそれを見逃さず、小さく「ほぅ」と感嘆の声をもらした。
「バカバカバカバカバカっ!!何勝手に突っ込んでるのよっ!!」
「あ、あの場で逃げてはカッコ悪いじゃないクベラッ!?」
その生来生まれついた格闘センスでもってひたすら殴り続けられるギーシュ。
だが、なおもそれに耐えているところを鑑みるに、彼もまた驚くべきタフネスぶりだ。
ゼッサールは将来の見込みのある戦士達が育っていること嬉しく思いながら、無骨な優しい瞳で見つめていた。
「だっからあんたは大馬鹿なのよっ!!あのねぇ、ほんとねぇ、私が、私が、どれだけ心配したか――」
「モンモランシー……」
「ギーシュ!」
だが、涙ながらに抱き会う若いカップルを凝視し続けるほど無粋では無いので、
すぐに視線を明後日の方向へとそらすのであった。

「――あの、ミスタ・グラモン?」
その傍から見て微笑ましくも鬱陶しい抱擁を破ったぬったのは、素朴な魅力のある女性の声だった。
「ん?あ、あぁ、シエスタ、ルイズ、キュルケ君も!みんないたのか?」
「さっきからいたわよ!も~見せつけてくれるわねぇ!妬けるわぁ~」
赤髪の少女がニヤニヤとする。これでまたからかうネタが出来たと手ごたえを感じていた。
「ギーシュ、ビビは!?ビビは、どこにっ!?」
周囲の笑顔を破る声は、桃色の髪の少女、ルイズから発せられた。
白き大爆発の後、あまりにも多大な精神力を消費し、眠りこけたのを友達に発見され、
目が覚めまず心配したのは自身の使い魔のこと。
彼の無事が、とにかく心配だった。
愛すべき使い魔であり、友であり、自身の進むべき道を示した大事なビビのことが。
「ビビ君――そうだ!?ビビ君はっ!?ビビ君は無事なのかっ!?」
「あんたと一緒じゃなかったの!?」
「ビビ君は敵の旗艦に1人立ち向かって――」
「ルイズ、何事ですか?」
彼女を支えた者達の慌てように、アンリエッタが眉をしかめる。
「姫殿下!!私のビビ、いえ使い魔が――」
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「――敵の脱出船は粗方拿捕いたしました。しかし、お探しの少年は――」
即席の司令部がラ・ロシェールに作られていた。
といっても、近場で唯一焼け残った酒場を利用したものであるが。
そのため、あちこちに割れた酒瓶やマグが散らばっている。
帳面に敵方の捕虜の詳細な情報を急ぎ集め、献上するはめになった書記官の疲れた表情がそこにはあった。
「そんなっ!?それじゃ、まさか脱出が遅れて――」
「『レキシントン号』より脱出した捕虜の証言によりますと、船が謎の光に包まれて爆破した前後、
 “お客”と戦闘をし腕を失ったとの情報も――」
書記官は表情を変えない。彼はあくまでも文官で事務的に物事を処理する性質だった。
そんな彼が、わずかに首を横にふる。それは、彼なりの精一杯の“ご同情申し上げます”という仕草だった。
「そんな――そんな――」
「まさか、ビビちゃん――」
「墜落した船群は破損が激しく、全てを調査しきってはおりませんが生存者がいる可能性は――」
書記官は、淡々と事実を述べていく。そこには嘘や冗談といったものの存在を許さない確固たる意志が存在していた。
「ビビさんが、そんな――」
「ビビ君――」
「ビビが――ビビ――ビビぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
少女の悲痛なまでの叫び声が、ラ・ロシェールの岩場に反響し、
遠く、高く、淡い黄昏色に染まる空に弾けて、やがて風になった。



目覚めた朝は、いつも喜びを願うんだ。
今日もいい日でありますようにって……
……その日の目覚めは、深い水の底から上がってくるみたいに、
やっと光が見えたって感じのするものだったんだ。
「ル……イズ……おねえちゃ……ん……?」
寝ぼけた目で、辺りをキョロキョロと見渡したけど、ルイズおねえちゃんの姿は無い。
確かに、ルイズおねえちゃんの声を聞いたような気がしたんだけど……
「……?ここ、どこ……??」
見慣れない壁、見慣れない天井、でも、窓の外の木漏れ日は、どこも変わらない優しいものだったんだ。

ゼロの黒魔道士
~第四十一幕~ 忘却の森 ウエストウッド村

しばらく、ボーっとしていた。
なんか光を見るのが久しぶりって感じがして、目がショボショボした。
何十回目かの瞬きの後、軽い音がして、水の入ったマグを持った女の子がその部屋に入ってきたんだ。
「あ、気づいたんですか?よかった~!3日3晩寝てたんですよ?」
「……あ、えーと、君は……」
小鳥のさえずるような声。蜂蜜をこぼしたような髪の毛。
ニッコリ笑うその子は、とっても優しそうな女の子だった。
「ビビちゃん、ですよね?私はティファニアと言います。どうぞ、テファって呼んでね?」
「あ、う、うん……え、っていうか、どうしてボクの名前……それに、ここは……」
跳ねるようにしゃべるその子は、何故かボクの名前を知っていたんだ。
「ここはアルビオンのウエストウッド村というところです。あなたの名前は、あなたを助けた人から聞いたの」
「ボクを……助けた人?」
記憶がちょっとずつ戻ってきた。
ラ・ロシェールの上空で飛空挺同士の戦いがはじまって、
ギーシュと分かれて、一番大きな飛空挺の上までチョコボで駆け上がったら、
ワルドがいて、ワルドにやられて、光に包まれて、とりみだしたワルドに左腕を砕かれて……
「そう、クジャさんって言う人なんだけど――」
「クジャ!?あいつが、やっぱりあいつがいるのっ!?」
記憶の最後に見た光景は、夢や幻では無かったみたいだった。
ボク達の世界で酷いことをしたあいつが、まだ生きてこっちの世界にいたんだ!
いてもたってもいられなくなって、跳ね起きた。
「キャッ!?」
「……あ、ご、ゴメンなさい……」
そしたら、テファにぶつかっちゃった。
水が入ったマグがバランスを崩して、中の水が全部テファにかかってしまった。
「大丈夫ですよ、よくあることだし――やっぱり、クジャさんとお知り合いなの?」
「知り合い……そんなもんじゃ……」
テファが、この優しそうな子が、クジャをさん付けで呼ぶことにものすごく違和感があった。
それに、もっと違和感があったのは、テファが最初に言ったこと。
クジャが、ボクを助けた?右手で左腕の付け根をおさえる。
違和感も痛みも無く、つなぎ目すらも見当たらない。
左腕がちぎれたって記憶すら嘘に思えてしまう。
なんで、クジャがボクを?頭がグルグルしてきた。
「いい人ですよね、クジャさん。優しいですし」
「そんなわけっ……」
「?どうかされました?」
「う、ううん……なんでも、無い……」
そう言って途中で言い淀んでしまった。
ボク達の世界での、クジャの最後を思い出したからだ。
あのとき、自棄にんったクジャは、みんなを巻き添えにしようとして、ボク達に倒されて、その後は……
ジタンが、助けに行った。そこからのクジャを、ボクは知らない。
あのクジャが、そう変わるとは思えない。ボクがクジャを憎む思いも、そう変えられそうにない。
でも、クジャはボクを助けた。あのときも……あのときも?
うまく言葉にはできない、モヤモヤとしたもので頭が一杯になって、ものすごく気分が悪くなった。

「あ、そうそう、ビビちゃんにクジャさんから伝言があったんでした!」
「クジャから?」
「えーっと、ちょっと待ってくださいね、長いのでメモが――あぁ、あったあった」
テファが、胸元の辺りから、小さい紙を取り出した。
さっきマグをひっくり返したときに、水がかかったからちょっとグシャグシャになっている。
ちょっぴり申し訳ない気持ちになっちゃったんだ。
「“二度目のお目ざめ、いかがかな?お久しぶりだね、ビビ君!
  虹も出さずに戦乱に終止符を打った君達は、まさに最高だ!
  だがね、まだ第二部だ。終幕の音は近い。覚悟したまえ。
  追伸。指輪に注意したまえ”――」
間違いなく、この言葉遣いはクジャだった。
何が終止符だ。何が最高だ。あいつは、あいつがやった酷いことは、あいつは……
嫌な気持ちが、どんどんとボクを満たしていったんだ。
「あ、まだ続きがありますね。“さらに追伸。 許してもらえるとは思わないが、すまなかった”」
最後の追伸の意味が分からなかった。
すまなかった?許してもらえるとは思わないが?
誰に、謝っているの?なんで、何を、謝っているの?
いや、それよりも、あのクジャが……謝った?
こんがらがったグチャグチャが、声にならない喉元の辺りでうずまいてる感じがして、クラクラした。
「――色々、あったんですね?」
「……うん……」
色々、あった。本当にそれしか言いようが無さそうだった。
「とりあえず、起きれます?朝ごはんには遅いですけど、用意してますから」
「うん……」
……ここにいたクジャって、この間ボクが見たクジャって、今までボクが知っていたクジャとは違うの?
頭はみっちりと、そういうわけわかんない考えで一杯だったけど、お腹は空っぽだったから、テファについていったんだ。
 ・
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ウエストウッド村って、静かな木漏れ日の中に細い道があって、どことなく、黒魔道士の村に似ている。
だから、村の中を歩いているだけで、なんとなくホッとして落ち着く。
「あ、テファ、ゴーレムのチェックレポートだけど――ゲ、チビ助!?」
「な、なんでフーケもがあふぁふぁ!?」
小道を抜けて、ちょっと大きめの家にたどりつくと、見知った顔があったんだ。
土くれのフーケ。ボク達を2度も襲った泥棒だ。
会ったと思ったら、いきなり口をフーケに塞がれてしまった。
「わ、わたしもこの村出身なのよ、オホホホ。いや、奇遇ね~、ビビちゃん?」
口を塞いでくる手が汗でじっとり湿ってきている。
……テファに、フーケってことを秘密にしているのかなぁ?
「あら、マチルダねえさんもビビちゃんとお知り合いなの?」
「そ、そうさね。ちょっと、色々と、外でね。うん。」
どうも、テファはフーケをマチルダねえさんって呼んでいるらしい。
……“フーケ・マチルダ”とかそういう名前だったのかなぁ?
「いいなぁ~!私も、色んな人と出会いに外に行きたいな!」
木漏れ日の間から、空を見上げるテファの顔に、黒魔道士24号さんの面影を見た気がするんだ。
いっつも、村の入口近くにいて、木の間から光を見ていたっけ。
みんな、もっと命が続けば色々見たかったって言ってたなぁ、とちょっぴりしみじみしちゃった。
「――いいかい、チビ助、私はあんた達に何するつもりも無いから、ここじゃマチルダかロングビルで頼む」
そんなテファを、チラチラ見ながら、ボクにだけ聞こえるような小声でフーケが言う。
テファを見る目が、子供を見守るお母さんのように優しいもので、
そんな目をするのがボク達を襲ったフーケであることに、なんか違和感があった。
「う、うん……」
「あ、ほら、ビビちゃん!ご飯、あっためなおしますから、早くっ!」
「ほら、じゃぁ行くよ、チビ助っ!」
「うん……」
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「相棒ぉぉぉぉぉ!!無事で良かったわ!いやおれっちマジで心配しててよーっ!!しかしあれだな――」
デルフと再会して、遅めの朝ごはんを食べている間、ずっと考えていたんだ。
……今まで会った悪い人たちって、本当に悪い人たちだったのかなって。



ピコン
ATE ~渇いた望み~

タルブからほどほどに離れた林の奥、人立ち入らぬ泉の傍に2つの影があった。
「ちっくしょ……
 ちくしょう……ちくしょう……
 ちくしょう ちくしょう ちくしょう
 ちくしょう ちくしょう ちくしょう
 ちく ちく ちく ちく ちく
 ちく ちく ちく ちく ちく
 ちっっっっくしょーー!!」
2度までも主の命を救ったグリフォンと、2度までも命を救われた男である。
「この俺がっ!!2度までもっ!!」
男は、グリフォンの労をねぎらいもせず、呪詛を唱え続けていた。
「あいつらさえ、あいつらさえいなければっ!!」
あの糞ったれのガキがいなければ、思い通りにならない元婚約者さえいなければ、
仮定の文章をいくら重ねたところで、事実は覆らない。
それは重々承知していたが、言わずにはおれなかった。

そして、一通り吐きだし切った後、身の振りを考える。
アルビオンに、レコン・キスタに戻る?答えはノーだ。
今回の戦は、必勝たるべく立てられた作戦であった。
であるからこそ、惜しげもなく戦艦を出陣し、奇襲を敢行したのだ。
だが、結果といえば、多くの残骸を作り、散り散りに燃え尽いただけ、
しかもトリステイン本軍はほぼ無傷の状態である。レコン・キスタは遅かれ早かれ瓦解するだろう。
しかも、である。最後の目を覆わんばかりの白い光は、恐らく“虚無”であろうと、ワルドは見当をつけた。
あれは魔法以外の何物でもなく、スクウェアたる自分をはるかに凌駕する威力を示した。
クロムウェルが見せた“虚無”などとは違う、圧倒的な力の存在。
思い当たる節は1人しかいなかった。思うが儘にならぬと切り捨てた少女の桃色の髪が浮かぶ。
あの力を見てしまえば、クロムウェルの“虚無”の力など羽虫もいいところだ。
そして、理想ではなく力のためだけにレコン・キスタに与していたワルドにとって、
力無き組織に戻ることなど、選択肢に入るわけが無かった。
では、トリステインに戻るか?それも論外だ。
今さらどうやって戻る?二重間者であったとでも言い張るか?
幼児の頭でも鼻で笑う稚拙な策だ。第一、ウェールズを始末したところは伝えられているだろう。
恋人を殺した男を、あの姫様が許すとは到底思えない。
帰るべき場所を失い、ワルドは落胆した。
力を求めれば、高みに登りさえすれば、全てが叶うと思っていたのに、
今や何もかもを失い、地に伏している。
だから、もう一度、苦渋の思いを吐きだすかのように「畜生っ!!」と叫んだ。

「ようよう、吠えてるな大将」
ガサリ、と茂みから音がして堂々たる体躯の男が、ワルドに近寄った。
左半身を覆う醜き火傷の痕さえ無ければ、獣と思ったことだろう。
事実、この男は人ではない野獣も同然の臭いがする。
「――メンヌヴィル、貴様も、嘲笑いに来たか!!」
メンヌヴィル、年齢で言えば、ワルドよりもずっと年上の歴戦の兵であるが、
その評判と言えば、畏怖こそされ尊敬はされず、軽蔑の声が多いという散々たるものである。
理由は、敵味方の区別無く、邪魔という理由で、否、“燃やしたい”という理由で相手を灰に変えてしまう残虐さにある。
その残虐さがゆえに、かつて上官を殺そうとし、反対に両目を焼かれ、正規軍を放逐されたという噂を聞いた。
今やかつての栄光をも凌ぐ非劣なやり口の傭兵として成り上がり、レコン・キスタにおいても相応の地位を築いている。
何を隠そう、ワルドをレコン・キスタに誘ったのもこの男だ。
「なぁに、お前さんの熱を確認しに来ただけだよ。まだ消し炭にはなってないようだな」
腐ったミルク色の両眼でギロリと見られても、既に粉々に砕かれていたワルドの心には何も影響が無かった。
「言っていろ!くそ、ちくしょう、ちくしょう――」
ただ、地面を見、呪いの台詞をつぶやくだけの人形と成り下がっていた。

「もっと、“力”が欲しいってか?」
それを見透かすのは焼け焦げた2つの目。
「貴様に、何が分かるっ!薄汚い傭兵風情にっ!!」
「もう同じ穴のなんとやら、だろ?いいから、答えろよ!“力”が欲しいか?」
煙で燻されたような、品の無い笑いと共に、メンヌヴィルが質問を繰り返す。
「――あぁ、欲しいとも!全てを蹂躙しつくす力が!万物を睥睨する力が!」
ワルドは、大声で答えた。
そうだ、地面にはいつくばり続けることに、誰が納得するというのだ?
力が、欲しかった。再び高みへと這い上がり、己を虚仮にしてきた連中を踏みつぶすだけの力が。
「――いい熱さだ。じゃぁお前さんも案内してやろう」
にやりと笑みを浮かべるメンヌヴィル。黄色い歯が鈍く光る。
「どこへ?」
「本当の“スポンサー様”のところへだ」
「スポンサー、だと?」
怪訝な表情を浮かべるワルド。とすると、この男はレコン・キスタに雇われたわけでは無かったというのか。
「あぁ!更なる“力”を、更なる“熱”をお与えくださるぜ!こんな風に、なっ!!」
軽く、拳に力をこめた。少なくとも、ワルドにはそれだけに見えた。
杖は手に持っていない。それだけなのに、である。
紅から紫色に揺らめく禍々しい炎が、メンヌヴィルの両の手から沸き起こり、
意志を持つかのようにのたうちまわってダンスをしている。
火力といい、速度といい、火は専門外であるとはいえ、ワルドとしては魅惑的な力が、その妖炎には煌めいていた。
「――ほぅ」
「どうだ?」
「――断る、とでも?」
力への渇望は、最早戻れないところまで来ている。
無詠唱による魔法の発動、それだけでも御の字のつく力だ。
あるいは、そのスポンサーとやらがさらなる力を与えてくれるヒントになるかもしれない。
ここまで来てしまえば、ワルドは悪魔にすら魂を売り渡すつもりであった。
「フハハハハハハハ!更なる地獄の業火へようこそ兄弟よっ!」
「ふん、貴様と兄弟になった覚えはない」
そう言いながら、立ち上がるワルドの顔には、悪魔よりも邪なる笑みが浮かんでいた。


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