あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

魔法少女リリカルルイズ43


朝露に濡れた草の緑は瑞々しく踏むと弾けた水滴がキラリと光った。
キュルケ達が出発を決めたのは、まだ太陽が昇ってからそれほど時間が経っていない、そんな朝だった。
「あの、もう行かれるんですか?」
昨日のうちに仲良くなったのだろうか。
羽を畳んだシルフィードが村の子供達と遊んでいる。
そんな中でシルフィードの背中に乗ろうとしているキュルケをティファニアが不安げに見上げていた。
「ええ、ちょっと急ぎの用事があるのよ」
「でも今は危ないと思うんです」
勝敗は既に決しているとはいえ今のアルビオンは戦争状態にある。
そんな場所を飛ぶのがどんなに危険か。
ティファニアはそう言いたいのだろう。
昨日レコン・キスタの竜騎士に追跡されたキュルケにはそれがよく分かった。
「だけどね、早く助けないといけないのがいるのよ」
「そう……ですか」
シルフィードを見上げると、その背に乗ったタバサがこくんと一つ頷いた。
心配してくれるティファニアには悪いが、ルイズの助けるまではアルビオンから出る気はない。
それは昨日タバサと話し合って決めたことだ。
ギーシュとは話し合ってないが、やる気でいることは聞かなくてもわかる。
「だったら」
うつむいていたティファニアが祈るように胸の前で会わせていた両手をほどき、太陽の昇る方角を指した。
「東の方には行かないでください」
「東?どうして?」
「あっちにはニューカッスル城があるんです」
「ニューカッスル城?]
聞いたことはある。
たしか大陸から突き出た岬の突端にある城のはずだ。
「はい。そっちの方にレコン・キスタの軍隊がたくさん集まっているってこの前聞いたんです」
「レコン・キスタが……」
キュルケは考える。
レコン・キスタが圧倒的勝利を収めつつあるこの時期に改めて戦力を集中させつつある。
それは何故か。
おそらく、この戦争の総仕上げとしてアルビオン王家を圧倒的戦力で討ち滅ぼそうとしているに違いない。
ルイズがどんな任務でアルビオンまで来たかは分からないが、この時期ならアルビオン王家と接触しようとしている可能性は高い。
次の目的地は決まった。
だが、この本気で自分達を気にしてくれているティファニアを心配させたままにしてはおくのは気が引けた。
「そう、ありがとう。気をつけるわ」
だから、キュルケはこう答えた。
「後もう一つ」
「なに?」
「タバサさんとユーノさんのことです」
倒れるくらいに疲労していたタバサは一晩も経たずに回復していた。
決して浅くはない、むしろ深かったユーノの傷も見た限りすっかり癒えている。
キュルケにしてみれば魔法を使っていないはずなのにこの効き目は驚くばかりだった。
「お二人ともまだ病み上がりです。傷も手当てしたけど、まだ治りきってないと思います。ですから、くれぐれも無理はしないでください」
「ええ、わかったわ」
ティファニアは風竜の背中に少し潤んだ目を向けていた。
彼女がみているのはタバサだろうか、それともユーノだろうか。
「それじゃあ、私たち行くわ。昨夜はありがとう。また来るわ。その時はお礼をさせて」
「お礼なんて……」
「いやいや、是非させてくれ」
ティファニアの前に薔薇が差し出される。
ヴェルダンデをシルフィードに乗せた後でギーシュが錬金で作った造花だ。
意外とその出来は良く本物そっくりだ。
「君のような美しいレディにお世話になってお礼の一つもしないのは貴族が廃るという物だ」
ギーシュは戸惑うティファニアの手にそっと薔薇を握らせ、こう言った。
「美しい君にこの薔薇を」
口を少し開けているのは、キラリと光る歯を見せているつもりなのだろうか。
「ギーシュ、おいていくわよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれたまえ!」
慌てるギーシュが飛び乗ると、シルフィードは翼を広げた。
「またね、ティファニア」
そのキュルケの声は飛び立つシルフィードの羽ばたきに紛れ、ティファニアには半分も聞こえていなかった。
小さくなっていく村の中で子供達がティファニアと手を振っている。
キュルケは森で村が隠れてしまうまで、手を振り続けていた。


「結婚式……?」
ニューカッスルから疎開する人々が共にアルビオンから離れるフネに乗り込んでいく。
ワルドが結婚式と言いだしたのはアルビオン王家とレコンキスタの決戦を控えた朝だった。
「こんな時、に?」
「こんな時だからだよ」
だが今は姫様から預かった大切な任務の途中。
それにここはこれから戦場となる。
ルイズにはここが式を挙げるのにふさわしい場所とは思えなかった。
「君も聞いたとおりウェールズ皇太子は、この戦争を戦い抜くことで王女殿下を守ろうとしておられる。勇敢なメイジだ。そんな彼に媒酌をお願いすることで君と結婚をして守り続ける証としたい」
白の国アルビオンで王族媒酌による結婚式。平時ならば望外のことであったろう。
だがルイズはうつむいて返答を拒んだ。
「これは僕のわがままだ。だが、そういう形であの皇太子殿下の志を受け継ぎたいんだ。ルイズ、賛成してはくれないだろうか」
ワルドの言うことはわかる。そこまで自分のことを思ってくれていて、それを現そうとしていることは嬉しくも思う。
だけどルイズは「はい」と言えなかった。
大切な物が足りない。
その思いが秋風のようにルイズの心を凍えさせていた。
「ああ、そうだ。もちろんこれは略式だ。トリステインに戻ったら盛大な式を挙げよう。君の両親やお姉様達も招いてね。そうでないと君のお母様の怒りを買ってしまう。それから君の使い魔にもしっかり参加してもらわねば」
足りない物。それがやっと分かった。
お父様、お母様、お姉様。
みんなが待っている式場の中に、ユーノを肩に乗せてゆっくり入っていく。
一番奥にはワルドがいる。
「そうね。わかったわ。ワルド、式を挙げましょう」
ルイズはその光景を思い浮かべ、うつむけていた顔を上げて答えた。
(いいわよね。ユーノ)
その念話が遠くに届くようにと心の中で強く叫んだ。
だが返る答えは沈黙だけだった。


大陸から突き出た岬の突端には鉄と人でできた異形の草原が生い茂っていた。
その正体はレコン・キスタの軍勢である。
「は、はははは。すごい人数じゃないか」
壮観。そうとしか言いようのない光景である。
これほどの規模の軍勢が、この岬と同じ広さの土地に集結したことなど、おそらくハルケギニア史上でも数えるほどしかないだろう。
そして、その人の草原から草いきれのかわりに上り立つ殺気のようなものは、岬から離れた小高い丘の上からレコン・キスタを見下ろすキュルケ達の所までむっと漂っていた。
それを浴びたキュルケは夏の蒸し暑い熱風を浴びたように体中を汗でじっとりと濡らしていた。
「なんて大軍なんだ。10万はいるんじゃないのか?」
ギーシュの声は震えていた。笑っているようにも聞こえる。
見栄っ張りの彼のことだ。隠そうとはしているのだろうが隠しきれていない。
だからといってキュルケはギーシュのことを非難したり臆病者呼ばわりする気にはなれなかった。
「そこまで多くはないでしょ。そうね……5万ってところじゃないかしら」
無論、数えたわけではない。
キュルケも貴族の娘。戦争を見たことだってある。
だが、それと比べてこの軍勢はなんと多いのだろう。
口の中には何もないのに、無性に何かを飲み込みたくなった。
「あなたはどう思う?」
それに比べてタバサはどうか。
いつもと変わらず、汗一つかいていない。
その二つ名の雪風のごとく、冷めた目をレコン・キスタに向けていた。
「たぶん、3万くらい」
キュルケは再び軍勢を見下ろす。
レコン・キスタが攻め込もうとしているのは岬の突端にある小さな城ニューカッスルだ。
「10万、5万、3万か……随分ばらばらね」
つまり当てにはならないということである。
だが、どの数字であってもニューカッスル城に立てこもる利を軽々と踏みつぶせる戦力であることには変わりない。
「で、どうするんだい?ヴェルダンデはルイズはあの城の中にいると言っている」
なら、あの城に行かなければいけない。
そのためにここまで来たのだから。
「あの中を突っ切るのはできないよね」
「当たり前よ」
今にも城に攻め入ろうとする3万以上の軍を突き破ってニューカッスル城まで行けるはずがない。
「なら……そうだ、シルフィードで飛んで行けばいい」
「無理」
ぽつりと呟くタバサは軍勢の上を見ていた。
そこには無数の竜騎士が飛んでいる。
数は多いが士気にムラのある傭兵の多い地上よりも、正規の騎士のみで構成された竜騎士の守る空の方がむしろ警戒は厳しいかも知れない。
「なら、ヴェルダンデに城の中まで続く抜け穴を掘らせよう。そこを潜るんだ」
「それはいいけど、穴の中を這っていくの?」
「もちろん」
狭い半島の中とはいえ、レコンキスタは軍を広い範囲に展開している。
仮にその外側ギリギリから穴を掘ったとしても城の中までは何キロもある。
「無理でしょ」
その距離を這って行くとなると何時間もかかる。しかも暗闇の中をだ。
実際にはレコン・キスタに見つからないようにもっと遠くから穴を掘らなければならない。
それでは開戦までにルイズの元にたどり着けはしないだろう。
「陸はだめ、空もだめ、地下もだめ……え?」
その時キュルケの頭にひらめくものがあった。
「それなら」
地下。そう、他の場所ならともかくアルビオンの地下は他とは違うのだ。


ひらめき。それを覚えたのはキュルケだけではない。
「え……?」
ただし、それはキュルケのひらめきとは全く別のものだ。
ユーノの頭に走った閃光は声を伴っていた。
(ユーノ)
それは念話に似ていた。しかもルイズの念話だ。
だが、ここからニューカッスル城までは離れすぎている。
ルイズの念話が届くはずがない。届くには他の何かの介在が必要だ。
それを証明するかのように、ユーノの目にはここではないどこかが映っていた。
「おい、相棒。どうしたんだ?」
「何か見えるんだ」
椅子に座る足。その膝に当てられた震えるきつく結んだ手。
それはルイズの手と足であることは彼女の肩が居場所のユーノにはよく分かった。
だとすると、これはルイズの見た光景なのだろう。
使い魔のみているものをその主人は見られるという。ちょうどその逆が起こっていた。
うつむいていた視線が起き上がる。
膝と手は視界から外れ、新たに入ってくるものがあった。
ワルドだ。彼は片手をルイズに差し出し、言った。
それがユーノにも聞こえた。
(ルイズ、式の。結婚式の準備はいいかい?)
「だめだよ、ルイズ!」
その時既にユーノの足は地面を蹴り、ニューカッスル城に向けて駆け出していた。


「ちょっと、どこに行くの?」
気付いた時には既に遅かった。
キュルケの隣に後ろ足で立っていたフェレットのユーノは突然駆け出し、草の間に隠れどこにいるかも分からなくなってしまう。
「どうするんだ?ルイズの使い魔が行ってしまったじゃないか」
慌てるギーシュをそのままにしてキュルケは考えをまとめる。
何故ユーノが駆け出したか、それは分かりようもない。
だが、使い魔と主人の間にはつながりがある。ユーノもルイズとつながりがあるのは間違いがない。
ユーノが走り出したのは、そのつながりでルイズの状況が分かったからではないか。
それなら、このまま行かせてもいいかもしれない。
「いいわ。私たちは私たちで行きましょう」
だからといってキュルケ達もじっとしてはいられない。
ルイズを確実に助けるためにはやはりニューカッスル城まで行く必要がある。
「行くってどこから?」
「下から行くのよ」
「下?地下はさっき君がだめだといったばかりじゃないか」
キュルケは人差し指を足下に向ける。
「だから、地下じゃなくて下なのよ」


新着情報

取得中です。