あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの社長-22


「『姫様』、失礼します。起床の時間です。」
アニエスが扉を叩き、ノックがアンリエッタの部屋に響く。
普段ならば、侍女達が支度をしに来るのだが、今日は特別だった。
今この部屋にいるのは魔法でアンリエッタに扮したシエスタであり、それを知っているのは極わずかの人間のみ。
またシエスタ自身からボロが出ないためにと、アンリエッタが一番信用できるアニエスにシエスタの事を任せたのだった。
「・・・『姫様』?失礼します。」
一向に主からの返事が無いため、扉を開けて入ると、そこには目の下に少しクマができている
アンリエッタの姿をしたシエスタがいた。
心なしか少し顔色も悪い。
「・・・・・・眠れなかったのか?今日は魔法学院での使い魔品評会に出席する事になっているから、しっかりと寝ておけといったはずだが?」
「そうなんですけれど・・・あいたたた、頭痛が。」
シエスタは昨晩、結局空腹と緊張で一睡もできないままだった。
もっとも、ただの平民だったはずのシエスタがいきなりお姫様の代役。
その心情は推して知るべしと言ったところだろうか。
「とりあえず何か腹に詰め込んで、学園までの馬車の中で眠っておけ。近づいたら起こしてやる。」
「はい。すみません・・・」
ふぅ・・・とため息が出てしまうのは、二人とも同じようだ。
(初日からこれでは先が思いやられるな。姫様たちがアルビオンから行って帰ってくるのに少なくとも5日。
何とか隠し通せれば良いが・・・不安だな。)



一方で、夜通しずっと走りつづけたルイズ達一行を乗せた馬車は、現在昼を過ぎた頃、やっとの事で『港町ラ・ロシェール』にたどり着いた。
「早い・・・ふつう馬で2日の距離なのに。」
「それは馬に乗ってゆっくりしていった時の話だよ。
実際それよりかなりスピードを出せていたし、姫様から頂いたラ・ロシェールまでの地図から最短距離で行けば、
このくらいの時間につけるのはわかっていた。」
ちなみに馬車の速度が通常よりも早くできたのにはわけがあった。
レビテーションの応用で、馬車そのものを浮かせることで荷重を減らすというように利用し
馬への負担を減らしてはどうかというアイデアを海馬が提案し、実行したためである。
なお、馬のコントロールを海馬が担当。コルベールとタバサが交代でレビテーションの制御をしていた。
しかしこの方法。傍目から見たら非常に不気味である。
馬が馬車を引くというよりもむしろ疾走しているくらいの速度を出しているにもかかわらず
その背には馬車が繋がっており、しかも馬車が空を浮かんでいる。
実際にラ・ロシェールまでの道でこれを見かけた人々の間で、あの道には夜幽霊馬車が出るという噂が後々に広まったとか広まらないとか。
「便利なものだな、魔法というのは。」
「こんな事に使おうと思うのはあんただけだと思うわ。」
けろっとしている海馬とは対称的にルイズが顔色悪そうに馬車から降りてくる。
まぁ、そんな速度で走ってる馬車は左右に曲がれば当然のように揺れる。
凄く揺れる。
ある程度吹き飛びそうになる分には二人がコントロールしたものの、それでも細かく曲がり道があった場所でも
何もしないで座っていたルイズの脳みそは激しくシェイクされ、完全に乗り物酔いといった状態だった。
なお、キュルケ、アンリエッタ共にその提案に対して即座に『絶対に揺れる』と判断し
眠りのポーションを使用して睡眠をとるといった対策をとった。
海馬、コルベール、タバサが平気な理由は三人曰く「慣れている」とのことだった。
「うぇ…気持ち悪い…」
「だらしないわねぇ、ルイズ。これからが本番だって言うのに。」
「うっさい。そそくさと寝てた奴に言われたくないわよ…うぇ…」
「ほらほら、きついなら吐いてきなさいよ。一回吐いちゃえばすっきりするわよ。」
「日陰のところで休んでいろ。乗り物酔いは暫くすれば直る。」
ルイズの状態が酷いので、アンリエッタが木陰へと連れて行く。
「も、申し訳ありません姫様…」
「気にしないの。それより、今は姫様じゃなくて…なに?」
流石に服装を変えているとは言え、姫様姫様と連呼していれば気づかれてしまう。
そして一応の対策として、アンリエッタには海馬が適当に偽名をつけた。
「すみません…ピケル様…」
徹夜ということもあってか木陰に入ったルイズはそのままアンリエッタの膝の上で寝てしまった。
そのすやすやと寝てしまったルイズの寝顔を見ながら、アンリエッタは微笑んだ。
「もう、ルイズったら。様はいらないのに。」
偽名とは言え、ルイズが自分を姫ではなく名前で読んでくれることが、少し嬉しかった。


場所は変わってトリステイン魔法学院。
正門前には生徒たちが整列しており、一糸乱れず「姫殿下御一行」を待っていた。
一方でその待たれている姫様はといえば…
「姫様!姫様!そろそろ魔法学院に到着します。起きてください。」
夢の真っ只中にいた。
夜睡眠をとっていなくて、不味いとはいえ食事をとり、馬車の適度な揺れに揺られていれば
意識はすぐに夢の国へご招待であった。
「………ハッ!?」
ガバッと、正門直前で目を醒ますシエスタ。
流石に馬車の中で爆睡していたと言う噂が広まるのは不味い。
姫様的に。
「ふぅ…危ない危ない。」
「本当にしっかりしてくれ…」
ふと寝ぼけ眼でシエスタが学院のほうを見ると、仕事仲間のメイド達が駆けより、馬車のほうへと真紅の絨毯を敷いていた。

シエスタが何気なく手を振ると、そのメイドの少女は顔を真っ赤にして頭を下げ、そそくさと帰ってしまった。
(あ、そうか。私今姫様なんだっけ。)
普段とは違う視点で普段いる場所を見ると、新鮮だなあと他人事のように考えていると、馬車の扉が開いた。
「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下のおな――――――り――――――――!!」
「あまり気負わなくていい。落ち着いて、城で出る前に教えた通りにやればいい。」
アニエスの言葉を無言で頷き返し、シエスタは馬車から降りた。
しゃん!という杖の音がまっすぐに響き、姫の進む道を作り上げている。
(落ち着いて、気取らず慌てず優雅に。そして何より大切な…)
シエスタは笑顔を見せ、大きく手を振った。
そして一歩づつ、本塔の玄関で待つオスマンとロングビルのほうへと歩んでいった。
その歩みを後ろに続きながらアニエスは思った。
(急ごしらえの代役の割には様になっている。…が、あの笑顔は薔薇というよりも、向日葵だな。)

「ただいまより、本年度の使い魔お披露目を行います。」
司会進行役の教師の声が響く、学院内の広場に特設されたステージでは、生徒たちが次々と
春に召喚した使い魔を紹介していた。
シエスタと学院長は、特設テントの下に用意された椅子に座りながら、次々と披露されていく芸を眺めていた。
「国のためとはいえ王女の代理とは、また難題じゃのう。」
オスマンはなんでもない風を装いながらシエスタに話し掛けてきた。
シエスタも、視線を変えずに答える。
「はい。でも、学院長やアニエスさん達のおかげで、今のところ支障なくすんでいます。」
オスマンには、詳しい事情をアンリエッタ本人から伝えていた。
流石に王女自身が戦地に乗り込むという危険極まりない作戦に反対はしたものの、
アンリエッタの強い意志と同行する海馬、コルベールを信じた上で協力する事となったのだった。
シエスタにかかっている変身の魔法も、オスマンの力による部分が大きい。
「学院長。これは極秘裏の事ゆえ…」
「大丈夫。このテントの中の会話は外には聞こえないようにしてある。」
そう言いながらステージのほうを見ると、モンモランシーがバイオリンと共に使い魔のカエルと音楽を奏でていた。
「だが、問題は姫殿下たちのほうじゃ。いくら海馬くんたちが付いているとは言え、今のアルビオンは戦場。
何事もなく戻ってきてくれればよいが…。」
そう言われてシエスタは再確認した。
なんでもない風に行ってしまったけれど、海馬たちが向かった先は戦場。
そこに行く危険を犯しているアンリエッタ姫殿下の代理人として過ごさねばならない以上、下手な真似はできない。
シエスタはそう思い直しながら、海馬たちの無事を祈っていた。



「ん…。あれ?」
ルイズが目を覚ますと、既に外は夜だった。
「目が覚めた?ルイズ。」
傍らで本を読んでいたアンリエッタが話し掛けてくる。
「馬車から降りた途端倒れてしまったから、とりあえず近くの宿で部屋を借りたの。
他の者はアルビオン行きの船の手配とかで、今は出払っているけど。」
「申し訳ありません。せっかく早く着いたのに、私のせいで足止めを…」
「気にしないでルイズ。予定よりも早くこれたんだもの。少しくらい―――」
「でもっ!急がなければいけないのに!」
「どちらにしても、アルビオンに出航できるのは明日になるわ。ちゃんと体調を整えて明日に備えましょう。
そろそろ皆戻ってくる頃でしょうし、食事にしましょうか。」
「………はい。」
アンリエッタの笑顔と優しい言葉こそがルイズにとっては辛かった。
アンリエッタの為に、ゼロの自分でも何か役に立てれば…
そう思っていたのに幸先から足手纏いになってしまったことが、辛く悔しくて堪らなかった。

程なくして全員が戻ってきたので、場所を酒場に移すことになった。
いくつもの食事が運ばれてきて、皆一様に食事を満喫していた。
アンリエッタは、今まで食べてきたものより遥かに美味しいと喜んでいたし、
タバサはなぜか延々とハシバミ草のサラダばっかり、それもその量がその小さい体のどこに納まるのかというくらいたくさん食べていた。
だが、ルイズはといえば余り食が進んでいなかった。
その様子が気になったのか、珍しく海馬のほうから声をかけてきた。
「まだ体調が戻らないのか?」
「えぇ…ちょっと食欲がなくて。でも、もう大丈夫よ。」
「そう言うことは健康そうにものを食べてから言うんだな。」
「うるさいわね…。あんたに何がわかるのよ…。」
と、その時、ガシャーンと大きな音がして酒場の扉が開かれた。
風体の悪そうな連中が数人…いや、十数人か。
その連中は他の客を押しのけまっすぐにこちらへと向かってきた。
「なっなに!?」
先鋒の二人の剣が、ルイズとアンリエッタのほうへと向かっていく。
ガキン、とそれを武器屋で買った剣で受け止める海馬とコルベール。
海馬は強引に押し返し薙ぎ払うように一人目を切り伏せる。
一方、コルベールもどこで覚えたのか、相手をものともせずに気絶させた。
「ほう、やるじゃないか。しかしこいつら…」
「…おそらく傭兵だろう。彼女が姫殿下だと知ってか知らずかは判らないが、ここで戦闘を続行するのは危険だ。ミス…いや、キュルケ。」
「ルイズとピケルを連れて外へ出ろ!店の中のほうが闘いにくい。適当な窓を蹴破って港へ向かえ!
タバサは俺たちの援護を!適当にあしらったら合流する!」
「オッケー!こういう荒事って、ちょっとわくわくするわ。行くわよ、二人とも!」
「……了解」
キュルケを先頭にルイズ、アンリエッタと続いて玄関から向かって一番奥の窓を蹴破り、3人が外へ出たのを確認すると
残った3人は周りの傭兵達へと戦闘を開始した。
海馬はなぜか、初めて剣での戦闘を行うというのに、体の軽さを感じていた。
(ふむ、これが爺の言っていたガンダールヴの力か。便利なものだが…こんなもの俺には必要ないっ!!)
数人を切り倒したところで、トン、と背中がぶつかったタバサから声がかけられた。
「……質問」
「何だ。」
「ピケルって何?」
「デュエルモンスターズの、魔法の国の王女の名だ。」
「……納得」



「さぁ~て、このあたりが良い感じかしら」
キュルケ達が走り抜けた先は古びた連兵場だった。
かつては栄華のあったこの場所も、今ではただの置き物場。
夜の闇も相まってそこは酷く寂れているように感じられた。
「ルイズ、追っ手の数は?」
「9人。走りながら数えたわ。」
「それじゃ、一人頭3人って所かしら?」
などと言っている傍から傭兵たちが襲い掛かる。
が、その凶刃は彼女達に届く事はなく、一様に通り過ぎた白い閃光によって叩き折られていた。
そしてその白い光はアンリエッタの目の前に降り立ち、白銀の猛虎へと姿を変える。
「ちょっ!?ええっ!?」
「ドゥローレン!我に刃を向ける不届きものを成敗しなさい!」
突如として現れた巨大な虎に驚く傭兵達。
いや、驚いていたのはキュルケもだった。
海馬と同じデュエルディスクを、あろうことかトリステインの王女様が持っているなんて。
そんなことを考えていると、相手の傭兵達にも動きがあった。
所詮獣。数で押せば勝てるとふんだのか、4人がドゥローレンを囲み予備の刀で襲い掛かる。
ただの獣相手ならば、熟達した彼らの技量があれば倒す事は可能だっただろう。
現に彼らは過去にいくつかのモンスター退治を行った事があり、ドゥローレンぐらいの大きさの獅子を仕留めた事もあった。
しかし、その一瞬の油断が命取り。
彼らの目の前にいるのはただの虎にあらず。
ドゥローレンは結界を護る氷の一族のなかで、虎王の名を持つ最強の虎。
その鋭い爪は傭兵達の鎧を軽々引き裂き、ドゥローレンの周りには相手を寄せ付けない吹雪が舞っていた。
迫り来る傭兵達を次々になぎ倒していく氷結界の虎王。
あっという間に追っての内6人が倒される。
「さて、これで6人。私とルイズのノルマは終了でいいかしら?」
ふと見れば、残りの3人は慌てて逃げ出していた。
「なによ、私らが出る幕ないじゃないの。ねぇ、ルイズ」
「うん…そうよね…」
敵を撃退したというのに、なにやら浮かない表情のルイズ。
アンリエッタはといえば、ドゥローレンを戻してデュエルディスクをまたメイド服のスカートの中に仕舞っていた。
「さぁ、港まで急ぎましょう。」
「え、えぇ…。ほら、行くわよルイズ。」
そんな様子を眺めながら、ルイズは思っていた。
(姫様があんなに強いのなら…、私は一体何のためにここにいるのよ。)

ルイズ達は途中で空中から探索に来ていたタバサと合流し、シルフィードの背にのって港まで飛んでいった。
港には海馬とコルベールも既に来ており、アルビオンへの貨物船の船長と話をしていた。
「今から船を出すように言っておいた。敵に狙われた以上、この町に長くとどまるのは危険だからな。」
「いや、ですから。今から出るんじゃ風石の量が足りないんですってば。
今から出航しても途中でおっこっちまいますよ。」
中年の船長はまだ承諾してないと、慌てるように返す。
「風のメイジがいればその分は補えるでしょ?」
「…(コクン)」
「さっきも言ったがこれは王国の勅命だ。断れば、それは貴様の命で償える程度のものかな?料金は積荷の分まで含めて出してやる。さっさとしろ!」
「は、へい。わ、わかりました。すぐにでも!!!」
海馬の脅迫におびえる船長。
船長は駆け足で船員達を集めて、船の出航準備をはじめた。



「お疲れ様です、『姫様』。」
「ありがとう、ア…アニエス。」
学院から城に戻ったシエスタは、ふぅ、と疲れのため息を吐いた。
緊張と周りにいた学生達を騙しているという罪悪感からの疲れがあったが、戦地に向かったアンリエッタや海馬のことを思えば
この程度の事で根を上げるわけにはいかないと、気合を入れなおす。
「でも、あのお料理だけは…」
これから出るであろう夕食の事を思いだし、少し憂鬱な気分になる。
「それなら、食事のときに酒を飲んだらどうか?。
少し位酔いが回れば、多少物の味などわからないでしょう。」
「酔っている上に戻しそうな位不味いものが出てきたら…。」
あの冷めた上に油が浮かんで固まった正直スープといってはスープに失礼な存在を思い出した。
他にも、妙な匂いのするサラダとか、火のとおり方が半端な温野菜。
昨日の食事でちゃんとした味になっていたのは…
「『姫様』に言う言葉ではないがパンでもかじってるしかないんじゃないか?」
「うぅ…でも、ここで付くられている料理よりはお酒は味の心配がいらなそうです。」
思えば、これが悲劇の幕開けであった。
もともとトリステイン城の料理は決して不味いものではなかった。
素材は各地から最良のものが届けられるし、料理人も名の知れたものが集まってはいた。
が、しかし王城の料理というものは、まず完成しても毒見のために数人が試食し、
調理場から食堂までの長い通路や階段通過した上で食卓に並ぶ。
これではどんなにアツアツの料理が作られてもつく頃には冷め切ってしまっている。
名の知れた料理人達も、いつしかどうせ冷めて不味くなったものしか王族の口には入らないと怠惰な姿勢になり、
その料理脳でも錆び付いていった。
もはや彼らは料理人ではなく、ただの作業員と化していた。
今日も作業が終わり、片づけが始まるまで酒瓶を片手に談笑していたのだが
なにやら慌しい声と、ドスドスといった力強い足音が近づいてくる事に気づいた。
「この料理を作ったものはだれだぁ!!!!!!!!」
シーン…と、談笑に興じていた者達も全員が全員、調理場の扉のほうに視線が集中した。
そこにはいつも微笑を絶やさず、美しい花のようだった表情を怒りの色に変えて今にも襲い掛からんとするアンリエッタ王女の姿があった。
しかもその手には、先ほどまで食卓に並んでいた幾つかの料理が載った皿が乗っていた。
「ひ、姫殿下。一体なにが…」
料理長が慌ててアンリエッタ王女の前へと駆け寄る。
いつもと変わらないような料理を出したはずだったのだが、まさか怒鳴り込まれるとは思ってもいなかった。
それは回りの料理人達も同じようで、わけがわからないという表情だった。
「なにが…ですって?えぇ、答えてあげましょう。
あなた達に料理をする資格はなぁい!これなら…いえ、魔法学院の食堂のまかないと比べるのも失礼だわ!」
慌てて追いついたアニエスが、周りでおろおろする侍女達から話を聞くと、
どうやら昨日と同じく食欲がなさそうだった王女が、パンをかじりながらワインを一口飲んだ途端豹変。
いきなりいくつかの皿をつかんで飛び出していったとのこと。
途中で調理室までの道を聞かれたメイドも、あんな恐ろしい表情の姫様は見たことが無いと涙を流していた。
「ひっ、姫様。落ち着いてください。ちゃんと話をしなければ料理人達もわかりませんよ。」
「なら言ってあげるわ。毎食毎食こんなものを出されて、もう我慢の限界!
これが料理!?ふざけるにも程があるわ!せっかく育てられた材料をこんなゴミに変えられて、
お百姓さんたちがこれを見たら何度涙を流す事か!!」
急に今度は泣き出す始末。
アニエスは、この元凶が酒だと直感で判断した。
(しまった…彼女に酒を飲ませるんじゃなかった。まさかこんな結果になろうとは…)
しかし、そのアンリエッタの発言に少しはプライドがあったのか今度は料理長のほうが怒りを顔に表してきた。
「わ、我々が作ったものをゴミとおっしゃりますか!?
ならばこちらも言わせて頂きたい。せっかく作った料理を、毒見や長い廊下を使うことで、ゴミに変えているのは誰だと!」
「料理長!姫様に対してその口の利き方は…」
「いえ!確かに平民の身分ではありますがこのヨシーオ・マルイ。亡き先王直々にこの調理場を任された―――」
「プッ…くくく…あっはっはっはっは」
今度は笑い出した。もう酔っ払いは手がつけられない。
とにかく放って置けば大変な事になると判断したアニエスは強制的にでも自室に連れ帰る判断をした。
「りょ、料理長。姫様は酔っておられる。今日はこの辺で…げっ!?」
ふとシエスタのほうを見ると、その目は据わっており笑い声とは対称的なまでに冷えていた。
「こんなものを作っておいて料理長?先王から任された? 」
そう言うと料理人たちを押しのけて、シエスタは食品庫からいくつかの材料を取り出してきた。
そしておもむろに手袋を投げ捨てるとそれらの材料を使って料理をはじめた。
「なっ!なにぃー!!姫様の包丁が…早すぎて見えない!?」
「みっ、見せ掛けだけだ。あんなスピードで扱えば雑になる。」
ざわざわと料理人たちも周りの侍女たちも誰もがシエスタの料理姿に見とれ始めた。
あっという間に前菜が完成し、次の料理に取り掛かる。
「こっ…これは…」
「なんと…」
あまりの味の違いに、愕然となる料理長や他の料理人たち。
次々に繰り出される魚料理、肉料理、スープ、デザートまで全てがあの食卓に並ぶものとは比べ物にならない味わい。
フルコースが出揃う頃には、この料理場には久しく無かった美味の匂いが立ち込めていた。
料理長は脱帽し、がっくりと膝を落とした。
「姫殿下…。あなたの料理の腕前はわかりました。しかし…」
「理解するところが違っています。…料理長、もう一度、それを食べてみてください。」
シエスタが差し出したのは、最初のほうに出した魚の料理と同じもの。
いくつかの調味料に魚を漬け込み焼くというシンプルな手法の料理だが、それは素材の味を生かした料理だった。
しかし、最初の内に作ったそれは既に冷めていた。
「…………美味い…。」
「確かに、毒見や長い廊下は、作り立てを食べる料理には厳しい相手かもしれない。
しかし、ならば調理法でそれを克服する事をどうして考えないのか。
これは漬け込む調味料を濃い味にすることで、熱を失い冷めてしまった後でも味を保つ事ができる。」
「………」
「料理とは、ただ食べるだけのものではありません。材料を作る人、それを調理する人、
いくつもの人の手を通って食卓に並ぶものです。
先王も、あなたの料理に感動してここを任せたはず。ならば…」
そう言うとシエスタは、動き回ったせいと酔いのせいか、ふらっと倒れた。
転ばないようにアニエスが抱きかかえると、シエスタはそのまま眠ってしまった。
「料理長…あのだな、姫様は大変酔っておられてだな。今日のことはその…」
「我々は…今まで何を作っていたんだ。」
「へ?」
見れば周りの料理人たちまでもが涙を流し始めていた。
「お酒に酔われていたとは言え、姫様にあのような言葉を言わせてしまうなんて…
あえさまつ料理まで…」
「俺たち、間違ってた。間違ってたよ!」
「料理長!!もう一度、ちゃんとした料理を!」
「あぁ、このままじゃ俺たちはただの負け犬だ!!」
(……なんだ、この状況。)
アニエスが戸惑っていると、料理長が泣きながらシエスタの作った料理を味わっていた。
「あんた…姫様が起きたら、伝えてくれないか?明日からは今まで以上のものを作って見せるから、
先王に頼まれた食卓を、二度とあんなもので覆ったりしないと誓うと。」
背にシエスタを抱えながら、アニエスは答えた。
「それは、私の口からよりも、お前達の料理でお伝えすればいい。」
そう言って調理場から立ち去っていった。
結局その夜、調理場から明かりが消える事は無かった。
次の日の朝食は、無駄なく飾らず、思い直した彼らの素直な気持ちが表現されていたが、
シエスタは昨夜の記憶がまるでなく、何があったのかと不思議に思っていた。



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