あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロのロリカード-30


 メンヌヴィルを殺すのに力を使い切ったアニエスは、その場にドッと倒れ込む。
そのまま眠ろうかと思った時、自分の名前が呼ばれた気がしてアニエスは閉じかけた瞼を開けた。
「よう、アニエス」
黒髪の少女が、紅い瞳で己を見下ろしていた。

「処女か?」
目の前の少女の口から突然飛び出した質問に、アニエスは眉を顰めて疑問の目を投げかける。
まるで意味がわからない。
「処女かと聞いている、答えろ」
「だっ・・・・・・たら・・・な・・んだ」

 わけもわからないまま声を振り絞る。既に思考力は低下し、考えるのもめんどくさい。
アニエスは「どういうことだ?」と視線だけで訴えた。
「致命傷だ、長くはもたん。お前は直に死ぬ。生徒が唱える程度の治癒魔法では、とても間に合わん」
アーカードは一拍置いて口を開いた。


「どうする?」
アーカードの笑みが語る。『諦め』か、『拒絶』か。
はっきりと口に出して言ったわけではない。が、アニエス何故だか理解できた。

 自分は生きたいのか?己にやり残した事はあるのか?アニエスは自問する。
コルベールは、死んだ。メンヌヴィルは、殺した。最早するべきことはないのではないか。

(果たして・・・・・・そうか?)
自分は何だ?アンリエッタ女王陛下の剣であり盾だ。自分は忠義を尽くせたのか?恩義に報いる事ができたか?
復讐を終えればそれで「はい、おしまい」だとでも?こんなところで死んでいていいのか?


 アニエスはギリッと歯を噛む。
「・・・・・・諦める、ものか。わたしは・・・・・・陛下の剣なのだ」
その言葉を聞いたアーカードの笑みがさらに濃くなり、アニエスの上へとスッと覆い被さった。

「後悔は・・・・・・せぬことだ」
そう言った瞬間、アーカードはアニエスの首筋へと牙を立てる。
アニエスの口から声が漏れ、ピクリと体が震える。
全身を駆け巡る快楽と共に、全てはあっという間に終わった。


 幼少期に、家族や友人が燃えて全滅していく死の村落。
唯一人になるまで焼き尽くされる、まるで魔女の釜の底のような地獄。
家族を失い孤児となり、何をしてきたのか。復讐を終え、何を選択したのか。
「あきらめ」が人を殺す。あきらめを拒絶した時、人間は人道を踏破する権利人となる。


 アニエスの焼かれた肌が、損傷した内臓が、折れた骨が、加速度的に再生していく。
「あーそうそう、一ついい事を教えてやろう」
思いついたかのようにアーカードは言った。
「コルベールは、・・・・・・生きてるぞ」

 その言葉を聞いて、アニエスの顔にみるみる生気が戻っていく。
「金が余っていたから、緊急用にと秘薬を買っておいたんだがな。それを言ったら、キュルケに取られてしまった。
 今は学院の生徒がそれを使って、必死に治療をしているだろう。それと、人質は無事全員救出し、敵は殲滅済みだ」

「そうか、ほかの銃士隊は?」
呂律も回るようになり、アニエスは口内に溜まった血を吐き出す。
突入直後に、攻撃された銃士隊員達。その安否が心配される。
「既に何人かの生徒が治している筈だ。なぁに、命に拘わるような者はいない。
 尤も、指がなくなっていたりと今後に支障を来たす者はいるようだがな」


 アニエスは手を開き、握るという動作を何度か繰り返す。
生きている?いや・・・・・・死んでいる?
「・・・・・・気分はどうだ?」
「良くは・・・・・・ない」
「私のことはマスターと呼ぶように」
アニエスは少し逡巡した後、答える。
「わかった、・・・・・・マスター」
アーカードはうんうんと首を振り、腕を組んだ。

「本当の意味での、我が血族となるか?」
アーカードは鋭く尖った親指の爪で、人差し指の先を切り裂く。血がポタポタと流れ、床へと落ちる。
「・・・・・・いや、断る」
「何故だ?」
「・・・・・・血を飲んでしまえば、なにかが終わってしまうような、そんな気がしてな」

 アーカードは一瞬驚いた顔をした。するとすぐに、笑いを漏らす。
『アイツと同じような事』を言うのだなと、少しだけ懐かしい気持ちになった。

「そうか。ならばせめて、生まれた地の土のカンオケで寝ることだ。力が弱まる一方だからな。女王陛下の為に尽くしたいのだろう?」
「・・・・・・わかった」
丁度いい。"今からする事"を終えれば、一度故郷へと戻るつもりだ。
アニエスはゆっくりと立ち上がる。既に体の痛みはなく、吸血鬼の再生力というものに感嘆した。


 アニエスの視線のいく先は、最も憎むべき"復讐"の相手だった。
キュルケが寄り添い、周囲に何人かの女生徒が集まり治療をしている。

「殺すか?」
アーカードは邪悪を含んだ笑みを浮かべ聞く。
「当然・・・・・・だ」
アニエスは目を瞑り答える。そうだ、当たり前のことだ。復讐を果たす。我が故郷の無念の為に。

「・・・・・・私とあの男の因縁を、知っているようだな」
アーカードはふんっと鼻を鳴らす。
「私は私で、少しばかり調べていたから前々から知っていた。だが教える義理もないので言わなかった。
 そこに転がってる男との会話も聞こえていたし、その頃には人質周りの掃除は済んでいた。
 助太刀しようと思えばできないことはなかったが・・・・・・一応お前の気持ちを汲んで手出しはしなかった」

「そうか・・・・・・」
アニエスは呟いた。リッシュモンを殺した時と同じ、自分の心情を鑑みてのこと。
例えその結果として、私が死んだとしても・・・・・・だ。


 メンヌヴィルに突き刺さった剣を抜いたアニエスは、コルベールのもとへと歩いて行く。

「どけ」
アニエスの鬼気を含んだ雰囲気に、治療をしていた生徒達が散っていく。
キュルケは当然どこうとはしない。
「え・・・・・・?なに?」
よくわからずモンモランシーはそう口にし、秘薬を使用して治癒の魔法を使い続けている。
心配そうに眺めていたルイズも、状況が把握できないままその場に留まった。

「コルベール先生をどうする気・・・・・・」
キュルケはすぐ近くで一部始終を聞いていた。アニエスがこれから何をしようとするのか。
持つ剣と、その目を見れば、容易に想像がつくというものだった。が、それでも口に出して聞く。

「・・・・・・復讐だ。この男を殺す」
「駄目よ、やめて」
「・・・・・・え?」
「なんですって・・・・・・?」
キュルケはアニエスから目をそらさない。モンモランシーは呆け、ルイズは状況を理解しようとしていた。
やや後方で静観していたタバサの顔に、難色が浮かんだ。アニエスはキュルケの言葉を無視して、剣を構える。


「邪魔をするな」
キュルケは抱くような形で、コルベールをその身で庇う。
「もういいでしょ!コルベール先生はあなたを助けたのよ!!」
目に涙を浮かべて、キュルケは必死に叫ぶ。アニエスはただ冷ややかにそれを見下ろしていた。

「・・・・・・関係ない」
「ミス・ツェルプストー、どいてくれ」
目を開けたコルベールが起き上がろうとする。
しかし治療がまだ途中だった所為か、上半身を上げるだけで精一杯のようだった。

「駄目よ!殺させないわ!!」
「いいんだ、ミス・ツェルプストー。・・・・・・さぁアニエス君、私を殺したまえ。君にはその権利がある」
コルベールは諭すように言い、キュルケの体を手でどけようとする。
しかし思うように力が入らないのか、キュルケをどかすことは出来ない。
「嫌よ!殺すなら私から殺しなさい!」


 叫ぶキュルケに眼中はない。アニエスはコルベールを見据えた。
暫く沈黙が流れた後、アニエスが口を開く。
「・・・・・・潔いな。ならば何故、逃げた?」
アニエスは剣を構えたまま問う。

 魔法研究所実験小隊を脱し、王立資料庫の名簿から自分の名前を切り取った。
そして教師となり、これまで生きてきた。それなのに、今になって復讐されてもいいというのか。

「・・・・・・私は、"王国の杖"だった。疫病殲滅を名目に"焼き尽くせ"と命令が下り、それを忠実に実行した。それが・・・・・・"貴族の正しい在り方"だと思っていた。
 だが・・・・・・、村を、罪のない人々を焼き払った時に、それが間違いだと知った。私は"王国の杖"である前に、一人の人間なのだ。
 後になって真実を知った。本当の目的は"新教徒狩り"だったのだ。つまり私は・・・・・・ただ命令のまま殺戮し、村を焼いたということだ。
 私は罪の意識に苛まれた。そして一時、割り切ろうとした。『仕方なかったのだ』と自分に言い聞かせ、平穏な生活を望んだのだ」

「それで・・・・・・、王軍資料庫の名簿を破ったのか」
コルベールは「そうだ」と頷き、話を続ける。

「だが違うのだ。どんな理由があろうとも、罪なき人々を焼いていいわけはないのだ。命令であっても、それは決して赦されるべきことではない。
 この手で焼いた人々を、村のことを忘れた事は一度もない。私は悩んだ、一体どうすれば罪を購うことができるのか。
 私は軍を辞めた。二度と炎を破壊の為に使うまいと誓った。それからは研究に打ち込んだ。"贖罪"ではなく、"義務"として・・・・・・。
 一人でも多くの幸せにすることこそが、生きて世に尽くす事が、私の"義務"。私にとって、安易に"死"を選ぶという選択肢は存在しない」

「それで・・・・・・我が故郷の、死んだ者達の無念が晴れるとでも?」
「いや、晴れぬ。死んでも、この身が滅ぼうとも、罪が消えることなど・・・・・・永劫ない。だからこそせめて、この身が朽ちるまで人々の為に尽くす。
 しかしアニエス君、君だけが私を殺していい。村の唯一の生き残りである君だけが・・・・・・私を、あの村の慰めの為に殺す権利を持っているのだ」

 もう話すことはないと、コルベールは目を瞑ってアニエスの刃を待った。アニエスも目を瞑る。


「任務だったんだからしょうがないわ!!アニエス!あなたが女王から同じような命令が下ったらどうするの?
 知らずにそれを実行して、それが後になって間違いだったと知ったらどうするわけ?それにコルベール先生はあなたの命を救ったのよ?
 自分の命も省みず・・・・・・。私達も先生がいなかったら死んでた。それでもあなたは――――――」

 アニエスは目を瞑ったまま静かに口を開いた。
「少し、黙れ」
コルベールは自分を"王国の杖"と言った。
私は・・・・・・"陛下の剣"だ。
キュルケが言った通り、女王陛下から命令が下ればそれを躊躇無く、疑う事無く実行するだろう。
それが・・・・・・軍人というものだ。

「もしあなたが復讐の為にコルベール先生を殺すなら、その後に私があなたに復讐して殺してやるわ」
「それはいけない、ミス・ツェルプストー」
コルベールがキュルケを宥めようとするが、キュルケはアニエスをこれ以上ないくらい睨み続ける。


 心の整理を終え、考えを落ち着けたアニエスはゆっくりと目を開ける。
「・・・・・・復讐は、言わば鎖。そしてそれは、どこかで誰かが断ち切らねばならぬ・・・・・・か」

 アニエスはその場に剣を落とした。カランという音を立てて、剣は転がる。
そして深く空気を肺に取り込み、一拍置いてそれを全て吐き出した。
「百二十九人。貴様はその何百倍もの人々に為に尽くせ。生涯、その身を捧げろ」
「いや、百三十一人だ・・・・・・。妊婦の方が・・・・・・二人いた」

 コルベールの言葉に、アニエスはただ静かに――――――目を閉じた。



「話は落着したようだな」
離れた所から様子を眺めていたアーカードが近づいてくる。
「これからのことだが・・・・・・、まぁオスマンに任せておけばいいだろう。こういう時くらい頑張ってもらわないとの」

 空気が弛緩し、モンモランシーは気付いたように治療を続ける。
「銃士隊は、どこにいる?」
「あっ・・・・・・外で治療を受けてる筈よ」
ルイズがそう言うと、アニエスはさっさと歩いて行ってしまう。

「おまえは夜を選んだ。もはやあの日の光さえも、お前の体をむしばむ光でしかない。
 一度朝日に背を向け、夜を歩き始めた者に日の光は二度と振り向きはしない。覚えておけ」
すれ違うアニエスにアーカードは告げる。アニエスは呟くように言った。
「・・・・・・死ぬのか?」
「いや、今のおまえは半人・半吸血鬼の様なものだが、昼間に買い物なんて事も何不自由ない。
 力は落ちるし、多少苦痛ではあるがな。とりあえず流水にだけは気をつけろ、『ちりはちりに帰る』からな」


 最後にアーカードは「何かわからないことがあれば、こうやって聞け」と、アニエスと念話する。
その後に、大きく伸びをした。
「さぁ~てと・・・・・・ルイズ、寝るぞ」
「はぁあ?いきなりなに言い出すの。・・・・・・一緒になんて寝ないわよ」
「何を勘違いしている。空が白み始めた、もうすぐ夜が明ける。そう時間も経たず迎えがくるぞ」

 ルイズは「あっ」と声をあげる。そうだ、自分はこれからアルビオンへと向かうのだ。
襲撃によって睡眠を邪魔され、戦場の緊張感と戦闘によって疲弊している。
魔法も使ってるし、自分で思ってるよりも間違いなく精神力は消耗してる筈だ。
そういう疲れは知らず知らずの内に溜まり、後でどっと出て来るものだ――――と、アーカードは言っていた。
いざという時にそれでは困る。休める時にしっかり休んでおくのも、戦場の心得である――――――とも。

(寝れる・・・・・・のかな)
アーカードは欠伸をし、スタスタと歩いていく。ルイズも後を任せ、それに続く。
戦いの昂揚と張り詰めた神経が、ルイズに睡眠を許してくれそうになかった。

 しかし今の自分にとっては、色々と考える時間が必要なのかも知れなかった。


 『復讐は鎖、どこかで誰かが断ち切らねばならない』。
アニエスの言葉がタバサの頭の中で反芻される。自分の望むべきは――――――復讐だ。
父を亡き者にし、母を狂わせた憎き王を討つこと。それが己の生きる目的である。

 アニエスもそうだった筈だ。その為だけに研鑽を積み、生きてきた筈だ。
コルベールに理由こそあれ、並々ならぬ憎悪が心の中で渦巻いていた筈だ。
だがその鎖を、アニエスは自ら断ち切った。その英断は、きっと自分には真似できないだろうと感じる。

 もしもジョゼフを殺すことが叶ったのなら・・・・・・そう、例えば自分はイザベラに殺されるのだろうか。
それならそれで構わないかもしれない。思えば、復讐を為したの後のことなんて考えたことなかった。
復讐を遂げ、母を治し、学院に通い、友人に囲まれ、ただただ穏やかに過ごす。そんな幸せを望んでいる自分に気付く。

 復讐の為に、力を欲する余りに、無謀とも思える事を何度もやってきた。
その度にこの身を危険に晒してきた。死に掛けたことも何回もあった。
これからも復讐の為に、傷つきながらその道を進むか?

 あの狂王は・・・・・・最早、自分達に興味がないようにも、思える。
復讐をやめ、これからは母を治す為だけに奔走し、かけがえのない友と日々を過ごす。
そんな選択肢も――――――あるのではないのか。

 タバサはぼんやりと考えながら、ゆっくりと――――――目を閉じた。







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