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ゼロの黒魔道士-39


雲が後ろに走っていく。木々のざわめきが一際大きい。
「相棒、相棒ぉ~!めずらしく勇ましく積極的じゃねぇの?」
左手に握ったデルフがカラカラと笑うように言う。
「戦争は……嫌だから!」
チョコボから落ちないように、手綱を握る右手に、より一層力がこもった。
「ま、それにゃ同意だな。決闘ならともかく、戦争にゃ美学が少なすぎらぁ」
「……それは、なんか違うと思うけど?」
美学とか、そういう問題じゃないと思う。
なんか、うまく言えないけど……嫌なんだ。誰かが死ぬのを、黙って見てるなんて。
「ま、いいじゃねぇの!相棒がやる気なら全力サポートすっぜ?で、どうする?」
「……どうしよう」
大砲の音とともにトリステインの飛空挺が沈んでいく。
空は爆音と煙であふれていた。どうすれば、これを止められるんだろう……
「いや早ぇな!?」
チョコボの背に捕まりながら、ザワザワする心をそのままに、考えていた。

どうすれば、守れるのかを。


ゼロの黒魔道士

~第三十九幕~ 闘う者達

「――ビビ君、一番大きな船が見えるか?」
並走するギーシュが真っ直ぐ前を見たまま話しかける。
「……え?あぁ、アレのこと?」
一番大きな船は、進行方向真っ直ぐの上空で、悠然と居坐っていた。
近寄るトリステインの船を、小蝿をおっぱらうような簡単に大砲で潰している。
いかにも、ボスっていうたたずまいだった。
「いいか、ビビ君、戦の基本は頭と手を潰すこと、だよ」
「……頭と、手?」
ギーシュは、まっすぐ、前を見据えている。
「――ビビ君、頭は、君に任せていいか?」
真剣な、目。覚悟を決めたって感じの目をしていた。
「え、ちょ、ちょっと待ってよ?それじゃ、ギーシュは?」
頭『は』っていうことは、自ずとギーシュはボクと別行動で……
「何隻か、着陸態勢に入っている」
ギーシュが指さす先。
そっちには、『頭』よりも大分小さい飛空挺が2、3隻、岩場の隙間をぬってゆっくりと降下しているところだった。
「ラ・ロシェールやタルブを占領する腹づもりだろう。――僕は、『手』を潰す」
震える唇で、無理矢理笑顔を作るのが分かる。自分の言ったことに少しだけ怯えているんだろうか。
……思わず、『大丈夫?』って聞いちゃいそうだった。

でも、ボクは知っている。ギーシュは、強い。
最近、特に強くなってきているっていうことは、いつもの特訓で知っている。
それに、何て言ったらいいんだろう。心が、強い。
ここぞっていうときに、何とかしてしまえる、そんな安心感がある。
そういった意味では、ジタンとどこか似ている感じもする。
……だから、ボクが言ったのは、『大丈夫?』じゃなくて……
「……うん、分かった!無事でね!」
「あたりまえさ!」
「おっしゃいっちょサクッとズバッと俺様大活躍ぅっ!」
木々の間を抜けて、二手に分かれた。
『頭』と『手』、同時に打つために。
やるべきことは、決まった。
それぞれなすべきことが、決まった。
なら、それをやるしかない。
手綱を握る右手をもう1度ギュッと強くにぎりしめた。
 ・
 ・
 ・
「……ま、真下から見るとさらに大きいね……」
見渡す地面に全部影を作って、その飛空挺は空にあった。
首が痛くなりそうなぐらい、高いところにあって、ちょっとした島ぐらい、大きく見える。
「狙いは寄ってきた敵の排除ってとこか。近づくだけで殺られんぞ」
デルフがカチャカチャと警告する。
「……『メテオ』で落とせるかな……」
『頭』を潰すって考えたときに、真っ先に考えたけど……
ちょっと距離がある。うまい具合に狙いをつけないと、飛空挺に落ちそうにない。
でも、周りは平地。飛べないチョコボであの高さまで行くのは難しそうだ。
かといって、『サンダガ』や『コメット』でも似たようなものだ。
距離が遠すぎると、どうしようもない。
「どっちにしろ、今落としたら相棒ヤバくね?」
デルフの言うとおり、今落としたらボクの真上に残骸が落ちてくることになる。
……ちょっと、厳しそうな状況だった。
「……うーん……」
ボコに乗ったまま、周囲をグルっと偵察する。
早くなんとかしないとって焦る気持ちがザワつくけど、無茶はできない。
今、ここ、この場所にいるのはボクぐらい。だから、ボクがなんとかしなくっちゃ……

「貴様、ここで何をしている!?」
「……え!?」
おっきな飛空挺と影が重なって気付かなかったんだ。
「何だ?民間人のガキか?」
小さめのドラゴンに乗った兵士。状況からどう考えても、アルビオンの……
「え、あ、あの……」
「おい、どうした?――なんだ、ガキじゃないか」
返事に困っていたら、さらにもう一体、ドラゴンに乗った兵士が寄ってくる。
……よく見れば、『頭』を守るように、何体ものドラゴンがグルグルと偵察をしている。
「いえ、しかし、怪しい動きを!」
「ほう?どうする、上からは、疑わしきは――」
「は!罰せとの指示です!」
どうやら、怪しい動きをしていただけで捕まえられてしまうらしい。
……どうしよう、って思った、その先だった。
突拍子もない、っていうより、トンデモない考えが浮かんだ。浮かんでしまったんだ。
「なら手早くしろ。見張りも暇じゃないんだ」
「ハッ!」
「相棒、どうする?」
「……あのさ、デルフ、こういうのって、できると思う?」
ボソボソっとデルフに相談する。流石に、あり得ない作戦かなって思ったからだ。
「んぁ?なになに――あー?いやさ、できなくはねぇと思うけどよ?相棒、最近はっちゃけてねぇ?」
「……そうかなぁ?」
デルフにまでそう言われるってことは、よっぽどなんだなと思う。
……でも、反対はされてない。
やるべきことのために、他にいい方法も無さそうだ。やるしかない。
「そこっ!何をゴチャゴチャと独り言を!」
「青き海に意識薄れ、沈みゆく闇
         深き静寂に意識閉ざす… スリプル!」
「いいか、俺だって子供に手をかけるような真ねは――した――ないねん~……」
兵士の人だけに眠ってもらう。これで、もう、後には引けない。
「ボコ、行くよっ!」
「クェッ」
ボコの首をポンッと叩いて、速度を上げる。
そして、手綱をギュッと引っ張って、ボコが思いっきり……
「ん?どうした、ダット?小僧は始末――なっ!?」
「時を知る精霊よ、因果司る神の手から
         我を隠したまえ… ストップ!」
眠った兵士の乗っているドラゴンを足場に、さらに高く、ボコは跳びあがる。
ドラゴンの、目線の、さらに上まで。
……竜騎士のジャンプって、こんな気分なのかなぁ?
チョコボは、飛べない鳥。
でも、チョコボは、跳べる鳥。それも、ものすごく高くまで。
ということは、足場さえ用意できれば、どこまでも跳べる……うーん、トンデモないなぁ……
「!?」
『ストップ』で空中に張りついたように止まったドラゴンに足場を移す。
まだ、飛空挺ははるか上。足場は全然足りない。
……今は、まだ。
「様子がおかしいぞっ!?」
「えぇい、火龍隊っ!集結っ!」
「い、いっぱいきたぁ~!?」
予想どおり、とはいえ、こんなにワラワラ寄ってこられるると流石にきつい。
「ケケケ、上行く足場がいっぱいでてきて良かったじゃねぇのっ!」
「や、やっぱりこの作戦は失敗だったかなぁ……」
「相棒、もう遅ぇぜっ!始まっちまったらなぁ、『できるか』じゃねぇんだよ、『やる』1択しかねぇっての!腹くくれや!」
デルフに言われてしまうと、仕方ないなって気分になる。
うん、もうやるしかないんだ。
「う、うんっ!」
「よっしゃ、そんじゃ船の上、目指すぞぉ~!」
「クェーッ!」
はるか上の飛空挺を目指して、両手をグッと構えた。


ピコン
ATE ~ビッグブリッヂの死闘~

ラ・ロシェールは岩場に作られた要塞都市。
ゆえに、入る道は限られる。
大軍を擁した船が着陸できるタルブ平原からの街道であれば、1つの道しかあり得ない。
よって、その道程を確保できるかどうか、それがラ・ロシェールの攻防の全てと言っても過言では無い。
「ぐわっ!?」
その道程の一部、ラ・ロシェール近くの滝から注ぐ河川によって削られた谷、
そこにかかる太鼓橋、通称“ビッグブリッジ”において、戦の命運を賭けた戦闘が、行われていた。
「――ちっ、数が多いな」
剣士アニエスはそう呟いた。
艦隊戦にトリステイン軍の意識を集中させ、さらに通常の世界樹からの下船ではなく、
タルブ平原側からの歩兵による襲撃、敵ながらよく考えられた作戦ではある。
それを看過できたのは、剣士としての勘と、ほとんどは運否天賊によるものだ。
アニエスは自らの幸運に感謝した。
とはいえ、ここでの人数差、おおよそ1人に対して300の敵。
これを倒したところで、第二、第三の陣が出てくるだろう。
その点にまで運が作用しないのは、天を恨んでもお門違いではあろうが、恨まずにはいれなかった。
「――ゲヘヘ、姉ちゃん、剣なんておろしてさぁ、仕事終わったら遊ぼうぜ?」
橋を挟んで反対側、一際大きな歩兵が下卑た笑い声を上げる。
かろうじて、橋という地形に救われている。
1度に相手するのは多くても2、3人だ。
しかし、それが長く続くと、流石に息切れもしてくる。
既に橋の欄干に何体もの戦の証が転がっている。
「下郎が。どの口でほざくか」
荒れる呼吸をそのままに、せいぜい強がって見せる。
それしかできないのだ。たった1人、耐えねばなるまい。
貴族同士の潰しあいなら看過できようが、貴族の勝手で平民の命を潰そうとしているのだ。
それを見過ごすなど、炎の記憶を抱いた彼女にできようはずがなかった。
握る剣を、中段に構えなおす。
死んだら、屍で橋を塞いでやる。アニエスは死を覚悟した。

「イキのいい姉ちゃんは好きだぜ~?だが、こっちも300人はいるんだ、大人しくしてた方が――」
一際大きな歩兵が、また粋がった挑発をしようとした、そのときだった。
「――突撃ショコボキック!」
「クェーッ!!」
黄色い影が、下衆の巨体をなぎ倒し、砲弾のごとき勢いで飛んでくる。
「ぐはっ!?」
「な、なんだなんだ!?」
歩兵共が慌てているところを見ると、敵の攻撃では無いようだ。
――しかし、この間抜けな声に聞き覚えがあるのはどうしてだろうか。
「ア~ンドっ!ギーシュ・ダイナミック・ローリングクラ~ッシュ!!」
「おがっ!?」
「ぐぇっ!?」
黄色い影から、1体の影が分離し、橋のこちら側に着地した。
それは、金髪の、マントを着た間抜け面だった。
「ぎ、ギーシュ・ド・グラモン!ただいま参上っ!!」
「青瓢箪!?」
魔法学院の貧層な体つきの貴族のボンボン、それが影の正体と分かり、アニエスは驚かざるをえなかった。
何故、こんなところにこの嘴黄色い青二才が――
「おい、メイジだぜ」
「ひるむんじゃねぇ、メイジっつっても鼻たれのガキじゃねぇか」
歩兵共が陣容を整える。糞、とアニエスは小さく呟いた。
折角、相手の背後にいたのだから、もう少し奇襲らしくすればいいものを。
こうも貴族というものは無駄なことしかしないものか。
「何しに来たのだ、貴様は」
苦々しい毒気のこもった声が出る。
「いてて――あぁ、『命を惜しむな、名を惜しめ』というのが家訓でしてね」
なるほど、功を焦った若気の至りか。
無能な働き者は邪魔でしかない。厳しいが、戦場ではそれが現実だ。
「ふん、そんな理由で死にに来たのか?」
子供とはいえ、憎い貴族だ。いざとなれば見捨てる。そういう冷たい目で見る。
「いえ――錬っ金っ!」
薔薇に包まれた。そうアニエスの目には見えた。
花吹雪が消え去ると、そこには、先ほどまでの青瓢箪とは違う姿。
まるで――魔法のようだった。
「ライバルや、愛する人が待ってるんです!生きて帰りますよ!何より――」
中身は、やはり声の震えたヘタレのボンボン。
しかし、鎧甲冑に包まれた顔には、確かに戦士たる誇りがうかがえる。
「何より?」
「世界の女性のために、カッコよくなりたいんですよ、単純にね!
 だから、守りたいんです、カッコいいから!!」
大馬鹿野郎だ。そうアニエスは判断した。
カッコをつけたいためだけに、ここで戦って、生きて帰ろうとしている。
2対300、圧倒的に不利な状況で、だ。見もせぬ民を守るために。
あぁ、本当に大馬鹿野郎だ。
だが、気持ちいい。貴族にあって、この大馬鹿っぷりは清々しいほど気持ちいい。

「――ふんっ、見上げたバカっぷりだな、ヒヨッ子が」
少しだけ、笑みがこぼれる。
「う、酷くないですか、アニエス先生?」
不平を言う大馬鹿野郎。
あぁ、でも救われた。アニエスは素直にそう思う。
「まぁ良い。師と仰がれたのだ、教えておこう」
2対300、相変わらず不利だが、何とかなる気がしてくる。
「何を、ですか?」
「男なら、誰かのために強くなれ」
深く呼吸をし、眼前の敵を見据える。
「へ?」
「歯を食いしばって、思いっきり守り抜け」
この大馬鹿野郎なら、貴族だが守ってやってもいい。
「倒れても、何度でも立ち上がれ」
これは、自分に言い聞かせる。全く、ちょっとでも諦めそうになったのはどこのどいつだ?
「それだけできれば――カッコ良い英雄のできあがりだ」
貴族も、そう捨てた奴らだけでは無いのかもしれない。アニエスは小さくそう思った。
「――了解ですっ!」
「よし、守るぞ、ラ・ロシェール!」
「はいっ!」
体に、精神に、喝を入れる。死闘は、ここからだ。
「かかれ野郎共っ!」
「クェーッ!」
「おぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉ!!」

怒号響くビッグブリッジ、およそ302人と1羽は、
闘いの奔流に飲み込まれていった。



上に上に行くに従って、ドラゴンに乗った人達の攻撃は激しくなってきた。
「相棒、後ろっ!」
「うわっ!?」
「クェーッ!」
「ヌァッ!?」
ボコが後ろの兵士を蹴り降ろして、そのままさらに高く跳びあがる。
「ボコ、すごいっ!?」
「相棒、前前前っ!?あぁもう、まどろっこしい!ちょい体借りるぜっ!」
「え!?うわっ!?」
「グビェッ!?」
体が、左腕にひっぱられるように動き、前の敵をなぎ切った。
まるで、デルフが勝手にボクの体を動かしたような……
「魔力吸い取った分、所有者の体を動かせるんだよ、おれっち!」
そんな機能があるんだ。ちょっと便利かもしれない。
とはいえ……
「……そういうの、もっと早く言ってよ……」
「いや、悪ぃ。最近思い出してよ――だぁ、今度は上っ!」
今度はボクが反応する。
「闇に生まれし精霊の吐息の
         凍てつく風の刃に散れ! ブリザド!」
「ドァッ!?」
氷にひるんだドラゴンを足場に、蹴って上に上がれば、そこは飛空挺の翼の上。
後は、この上から攻撃をすれば……
「うし、あとちょっとぉ!」
「し、下は見ない、下は見ない……」
下を見ると、震えそうなぐらい高いところまで来てしまった。
もう、あと戻りはできない。

「――久しいな、“神の盾”」
上から、声がした。
「クェ?」
「なっ!?」
「おでれーたなこいつは」
左腕が、金属の光沢に変わっていたけど、間違いなく、その姿と声は……
「――そして、感謝しよう。私に武勲が与えられる機会を与えてくれて」
「わ、ワルドっ!?」
「そしてお恨み申し上げよう。この間の借りをな――」
ギリリと歪む笑顔が醜い迫力で、ボクの目線の高さにまで下がってくる。
「借りはまとめて返してやるよっ!貴様の死でなっ!!!」
ワルドの咆哮が、地面から遠く離れたこの場所で轟いた。


ピコン
ATE ~マザリーニ回顧録より~

――幻想は、いずれ終焉を迎える。
それは幼児ならともかく、我ら大人ならば理解せねばならぬことである。
しかし、我々は幻想に頼っていた。
恒久なる平和を、甘い幻想を信じて疑っていなかった。
その驕りが、我々自身を苦しめていた。

「偵察の飛竜より、連絡途絶えました!」
「残存船、1つ!それも落ちかけです!」
「ラ・ラメー伯を救助!しかし大怪我をおっておられるようで――」
「ド・ポワチエ大将とは連絡がつかんのかーっ!」
「が、ガリア方面からも船見ゆとの報告が――」
「それは誤報だ!それよりもゲルマニアへの急使は――」
「応戦は外交問題に――」

会議場にもたらされる情報は混乱模様をきわめ、真偽を確かめる暇すら無かった。
一方の卓を囲む顔ぶれは、所謂、宗教屋あがりである私から見ても、政治家とは思えぬ体たらくであった。
いわゆる『楽観派』であった大臣達は自らの責任の所在を他者へ押しつけようと周囲を見渡すばかり、
『悲観派』であった数少ない将軍連中も、情報の取捨に手を割かれている状況であった。
あるいは、かつてこの国を治めた前王がおられれば、かような事態にならずとも済んだやもしれない。
しかしながら、それはかなわぬ幻想に過ぎぬことであると、覚悟しなければならなかった。

「――マザリーニ」
「――何でございましょう、アンリエッタ様」

ゲルマニアとの婚姻は、アルビオン新政府に対する政治的意味合いが強かったこととはいえ、
それを逆手に取られた今、叱責を受くるべきは私であった。
全ての責はこのマザリーニが負うべき、その覚悟が無くば政治屋などできるものではない。

「動ける竜兵は?」
「――ラ・ロシェール近辺の情報は混迷しております。今しばらく把握にお時間を――」
「違います!今、このトリスタニアより動ける竜兵です!」
「それならば、常に十機は待機させておりますが?」

政治屋となった時点から、私もまた幻想に囚われていたというのだろうか。
『政治とは理念ではなく、合理性を尊ぶべき』という幻想に。
であったとしても、私は仕えるべきアンリエッタ・ド・トリステインに教えられたのである。

「ならば!直ちに準備をさせなさい!私、自らが参ります!」
「な!?」

婚姻前の姫君が戦場へ。姫自らのその発言が、混乱の中にあった会議室に一石を投じた。
それは常識という名の幻想に浸かっていた政治屋共の肝を見事に冷やすこととなった。

「な、なりませぬ!!婚姻前の大事な御体ですぞ!?」
「民が運命に飲まれていると言いますのに、会議室で騒ぐだけの体のどこが大切なのですか!!」

その語気は、未だ幼い女性のものであったと記憶している。
しかしながら、私は見たのだ。その瞳に、前王のごとき為政者の輝きが宿るのを。

「あの方は、勇気をもって私に『生きていてくれ』とおっしゃった!
 しかし、このまま卑怯者達の好き勝手にさせて、どう生きていけというのでしょうか!」

彼女の弁は語彙も足りず、未だ人の上に立つに値するほどではないものではあったが、
熱を感じたのである。我々政治屋の合理的に凝り固まった頭脳を溶かす熱を。

「会議室の皆様に問います!このまま会議室で慌てふためくだけの無能として記憶に残るか、
 護国と民のために戦う運命を取るか!!」

それは、幻想の終焉であった。
政治家とは、机上の書類を前に議論を交わすだけという、ぬるま湯の幻想の終焉であった。
我々は、姫の青臭くも熱のこもった弁に乗り、直ちにタルブへの派兵を決めた。

しかしながら、これが終演の幕開けであることを、
私を含め、この場にいた全ての者が知ることは無かったのである。

                  マザリーニ回顧録 第五集『幻想の終焉』
                  第一章 『終演の幕開け』より抜粋・編集


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