あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロの使い魔~我は魔を断つ双剣なり~-18


それは決戦場だった。
血戦場だった。

――いや、処刑場だったのかもしれない。

闇が集う、闇が集う、闇が集う。
歪んだ/狂った/悶える/異形の闇が集う。

光が集う、光が集う、光が集う。
荒ぶる/吼える/嘲笑う/異形の光が集う。

全てが一つに混ざり合い、全てが一つとして重なる事が無い。
全てが否定しあい、全てが肯定しあい、全てが無に還る。
それはあらゆる万物の法則を無視した、純潔で醜悪な儀式。

そこにルイズはいた。それを人の認識では感知できない感覚で『観ていた』。
その儀式を銀河の果てで、銀河の中心で、宇宙の内側で、ガムの包み紙の外で『観ていた』。
それは、二体の巨人の、二体の神の、極限戦闘【エクストリームバトル】。
苛烈に/兇悪に/鮮烈に/衝突しあう、美麗な/邪悪な/神聖な/醜悪な/舞だった。
そして、舞は終わり、二体は激突し、離れる。
光と闇の軌跡は、宇宙において完全なるシンメトリを描き、相対する。
そして、二体は鋼の手を伸ばし、ソレを掴み取る。

宇宙の奥底から=宇宙の外側から=宇宙の裏側から=宇宙の彼方から=宇宙の上部から
宇宙の逆から=宇宙の表から=宇宙の臓腑から=宇宙の皮膚から=宇宙の脳から=
宇宙の腕から=宇宙の瞳から=宇宙の夢から

→それを引きずり出した。

「――――――ッ!」
「――――――ッ!」

宇宙を破壊し、宇宙を再生し、宇宙を創生する、その祝詞は、意/威をもって紡がれる。
両者が掴む、歪な線であり、立体。
それは宇宙であり、それは宇宙でなく、それは万華鏡で、それは、それは――


**

「――ッ!?」
そこでルイズは無意識の奥底から目覚めた。
だが、開いた瞳に捉えるのは、塗りつぶされたような一面の漆黒。
「気づいたか?」
「クザ……ク?」
ひどく間近で聞こえる自分の使い魔の声。そう、吐息がかかるほど、近くに。鼻をくすぐる
香水の香り。女性がつけるような、芳しい匂いが鼻を突いた。
「ようやく、起きたようだな。怪我は無いか?」
言いながら、九朔がルイズの額を撫ぜる。それはルイズの怪我を心配してか優しい仕草で、
髪をかき上げ撫ぜる手は柔らかくて、それはまるで姉のカトレアを思い出すようで。
ちい姉さまと慕う彼女の笑顔がルイズの脳裏で鮮明に思い出される。それは女神のような
神々しさと穏やかさを兼ね備えた美しさで、何者の心さえ溶かすような温かさを持っていて。
ああ、そうだ。いつも魔法ができない自分の頭を撫でてくれてて――
「ルイズ?」
「……へ?」
――そこで我に返った。どうやら、また意識が何処かに行っていたようだ。これは恥ずかしい。
頬が真っ赤に染まるのを覚える。
「大丈夫か?」
「だっ……だだだ、だいじょぶよ!? うん、ぜんぜん大丈夫!」
「痛むところは、あるか?」
「う、ううん。平気、ばっちり、ぴんぴんしてる」
「そうか……。ならば、良い」
柔らかな物腰で九朔が呟く。どうにか気づかれていないようだった。
「ねえ、クザク」
「なんだ?」
暗闇の中で、九朔の手を借りて立ち上がり辺りを見回す。
「ここ、何処なの?」
「分からぬ。だが、我等はあそこから落ちたようだ」
「何処?」
「上だ」
「上? 真っ暗で何も……あ」
そこで、気づく。遥か頭上、それこそ小指の先のような、小さな、小さな、点。そこから
光が差し込んでいた。
その微かな光のおかげなのか、よくよく見れば、クザクの姿もおぼろげにだが視認する事
が出来る。
「嘘……。あんなところから落ちたの?」
「ああ、そのようだ」
「死ななかったのが不思議だわ……」
「運が良かったのだろうな。日頃の行いが報われたに違いない」
「でも、どうしたら良いのかしら。フライが使えたら、こんなところすぐにでも抜け出せるけど、
 でも、アタシ……」
落ち込むルイズの頭を、九朔は撫ぜた。その手つきは、やはり優しい。
「安心せよ。魔法が使えなくとも、抜け出す方法はありそうだ」
「え?」
そうして九朔が指差す先には、ぽっかりと空いた洞穴があった。



「トリステインの地下にこのような洞穴があるとはな……知っていたか?」
「ううん。こんなの、本でも見たこと無いわ……姫様から聞いた事も無いもの」
「姫様?」
「このトリステインの王女であられる、アンリエッタ様のことよ。言わなかったかしら?
 幼いころにはアタシ、姫様の遊び相手をさせていただいた事もあるの」
「……汝、貴族は貴族でも、実は相当に身分の高い家柄か?」
「当たり前でしょ、アタシ貴族だもん」
「…………」
ならば、常日頃のあの傍若無人な振る舞いは何だというのか。いや、それほどまでに高貴な
身分なのだ。その常日頃の鬱憤晴らしが必要な事もあろう。とばっちりを喰らう方はとんだ
迷惑千万なのだが。

――正義【ジャスティス】ッッ!

突然見目麗しい妙齢の女性が、その年に似合わぬミニスカートのコスプレで、しかも何故か
涙目でポーズを取っている姿が何故か浮かんだ。その周りには、生ぬるい目つきでそんな彼女を
見るミニスカメイド達と、微笑ましく、それこそ娘の成長を見守る親とでも言わんとばかりに
微笑ましい眼差しを送るウィンフィールドの姿が。
「クザク? もしかしてどこか痛むの?」
「いや……なんでもない」
疲れている、そう思うことにして九朔は今脳裏に浮かんだ姿を記憶から抹消した。
さらに洞穴は奥へと続く。
続く洞穴、不思議な事に奥に行くにつれて道が整備されているような気配があった。
進むにつれ、段々と道を塞いだ岩塊と土が減って行く。
「奇妙だな……」
「うん……」
吹き込む風が段々と肌で感じられるものになっていく。道幅はより広く、天井はより高くなる。
そして、道の先が急激に開けたかと思うや、その全貌が九朔達の眼前に現れた。
「え……!?」
驚きの声がルイズの口から漏れる。
ルイズの目に入ったそれは、文字通り果てしなく広い空間であった。
壁に刻まれた文字は淡く輝き、その空間を仄かな光で照らし出す。だが、その明かりを以てしても
その空間の端を見通すことができない。それほどまでに巨大であった。
「ルイズ、汝はこの場所の話を聞いた事が在るか?」
「ううん……さっきも言ったけど……知らない」
鋼の足場をくだり、その空間の真ん中へと向かう。歩くたびに、積もった埃が舞い、淡い光に
反射しては落ちる。その埃の量や、何年という単位でなく何十、何百年と言う単位で人が
入り込んだ形跡が見られない。
「もしかして、アタシって今、歴史的大発見の場に居合わせてるのかしら」
「………………」
だが、隣にいるはずのクザクは答えない。それどころか、隣にいなかった。
「クザク?」
九朔はルイズのはるか後ろ、淡く輝いた空間のただ中で突っ立っていた。
その姿、瞳に生は感じられず、まるでそこに人形があるだけのように見えた。
「クザク……?」
「……ン……ベイン」
そして、ルイズは卵がひび割れるような音を聞いた。

――ザザッ

九朔の姿が、擦れる。文字通り、後ろの風景が透けて見える。紅く染まる、世界。
九朔の姿が解けて/薄れて/消えて/なくなっていく。
「え!?」
驚き、目を擦る。自分の見ているものを信じられず、もう一度見直してみる。
「見間違い……?」
やはり、何もなかった。九朔が突っ立っているのは同じだが、姿が薄れていると言う事は無い。
消えてもいない。世界は紅に染まってなどいない。
「ふう……。ちょっとクザク、ぼーっとしてないでよ」
「……え?」
ようやく我に帰ったか、九朔がルイズを見る。
「だから……まあ、良いわ。それより、今さっき何て言ったの?」
「さっき?」
「だから、何か言おうとしたじゃない。えっと、なんだっけ。ほら、デモン――」

――GIIIIII’AAAAAAAAHHHHH!

咆吼が、空間を戦慄かせた。
地面が激しく揺れ、鋼鉄の壁が紙細工のようにへしゃげていく。異常に膨れ上がった壁面が
津波となって見る見るうちにルイズ達へと向かってきた。地面の中を何かが泳いでいた。
「ルイズッッッ!」
「分かってる!」
同時駆け出す。遥か先に見える通路へと一目散に全力で疾走する。だが、先回りをしたとでも
言いたげに、その津波は九朔達を一気に行き過ぎ、鋼鉄の床を突き破ってあの巨大な蛆は
再びその醜悪な頭部を曝け出した。
「ひっ!」
ルイズは身体を竦ませた。腐臭が鼻を突く、瘴気をまとった咆吼はなおも大気を戦慄かせる。
鎌首をもたげ、汚濁した唾液を蛆は口腔から滴らせる。

ドォッ――

全身を蠕動させ、蛆はその全容を大空間に曝け出した。屍蝋色は先ほどよりくすみ、浮かんだ斑は
呼吸に合わせて不気味に伸縮をしている。
足が震え、ルイズは金縛りにあったように動けなくなった。
ここで終わりなのか、眼の前が暗くなる。
だが、ルイズを背に隠し、九朔が前へ出る。
「九朔……?」
九朔は答えない。しかし、その翡翠は確信していた。眼前の邪悪を討つ術を確信していた。
身に湧きだした力がそう告げていた。
不意に脳内に浮かんだ【式】が可動を始める。
激しく脈打つ心臓、鼓動はけたたましく、しかし心は何処までも静寂。
九朔の中で術式が組み立てられる。それは邪悪を討ち、魔を断つ外道の智識。
しかし、今の九朔はそれを知る術も、その意味も知らない。
だが、彼の二重螺旋に深く刻まれた【記述】がそれを可能にしていた。
破壊され失われた断片が今この瞬間、九朔の中で再構築され、意/威となっていた。
親指の皮を噛み千切り、傷口から真紅の熱が――血液があふれ出す。
「血こそ我が存在。我が魔力の証明。我が魔術の源泉……」
謳う。少女と見紛うほどの整った顔が、激しい憤怒相を纏う。しかし、その美しさは失われない。
あふれ出した血液は空に解け、鮮血はたちまちの内に血霧と化して蛆の周囲に満ちる。
呻きの叫びをあげる蛆、それを見てルイズが驚きの表情を浮かべる。
「く、九朔!? あんた、今、何を……!」
「ルイズ」
「え?」
「我の合図と同時に、奴へ魔法を叩きつけろ」
「でも……今の……」
有無を言わさぬ響きだった。しかし、失敗魔法しか撃てない自分に何をしろというのか。
「後で話す。今、汝にしかできぬ事があるのだ。頼む」
その響きは自分へ完全な信頼を置いてくれていた。誰にも頼られなかった自分を頼ろうと
してくれていた。ルイズに行動を起こさせるのに、それは充分すぎる理由となった。
「――分かったわ!」
「よし……ならば、駆けろっっ!」
「え!? あ、うん!」
再び疾走、それも蛆に向かって。
「ちょ、ちょっと!?」
蛆が向かってくる二人を見定め、怒りの叫びをあげる。もたげた鎌首が大きくのけぞった。
「飛び込むぞっっ!」
「へ? あ……きゃああ!」
ルイズの手を掴み、九朔は蛆の真横を跳んだ。同時、のけぞった巨体が薙ぐ様にして鋼鉄の
床を抉る。

――ゴォッッ!

激しい地響きを立てて抉られた鋼鉄の床は宙を舞う。まさしく紙細工のように引き千切れ、
床へ激しい音を立てて叩きつけられる。
「あ、危なかった……!」
「走るぞ!」
間一髪助かったが、すぐさま再び駆け出す。そして、その先にあるのは、またも通路。
後ろでは蛆がその巨体の全容を曝け出し、身体を蠕動させて向かってくる姿が。
「クザク! どうするのよ!?」
「まだだ!」
走る、駆ける、疾走る、疾駆する。全力で、通路へ向かう。
そして――
「つ……着いたっっ!」
「良し――」
激しく息切れする身体を抑え振向くと、凡そ200メートル先、広大な空間に紅の羊膜に
包まれた蛆が。
「――今だっっ!」
九朔の合図、それが撃鉄。苦しい呼吸を止め、狙う。
九朔の言われたとおりに編んでおいた魔法を、ルイズは蛆へと向けた。
「ファイアッッ……ボールッッ!」
だが、放たれるのはその名の通りの魔法ではない。彼女の好敵手である少女が操る魔法は炎球、
だがルイズが放つのは失敗魔法と呼ばれる威力――――爆発【イクスプロージョン】。
血霧の中で起きる爆発は引鉄、血液が魔学反応を起こし、相乗し/連鎖し、強大な爆発を
引き起こす。

――GURRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAA!

血の彩の爆炎と爆風が、ルイズの失敗魔法を巻き込んで蛆の肉体を食い千切った。
壁に刻まれた刻印の緑と相反する色合いの紅が、巨大空間内で混ざり合う。
蛆は、己を焼く炎と混ぜ千切る爆発によって激痛の咆吼を上げて悶えた。だが、

――GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOWWWWWW!

それは未だ致命ではなかった。自分を傷つけ滅そうとした憎き怨敵を蟲の感覚器官で捉え、
突進を行なう。蠕動する焼けた屍蝋色は激しい爆音を伴ってその巨体を九朔へと向かってくる。
「クザクっ!?」
「――ならばっっっ!」
再び、今度は足元に跳んできていた鉄片で腕を斬りつけ九朔は鮮血を噴出させる。
脳内で、魂で、術式を編み上げる。
編み上げた式はすぐさま威へ、転換/昇華され、蛆へ放たれる。血霧は再び蛆を覆う。
瘴気を纏った咆吼が大気を腐らせる。だが、意に介さない。
手に持つ鉄片に【意】を込める。だが、足りない。まだ、存在力(リアリティ)が足りない。
「クザクッッ!」
ルイズの叫び声が聞こえる。だが意に介さない。
鉄片へさらに【威】を込める。イメージする、それは書の頁(ページ)が焼ける様。
式は高密度に編み上げられ、錬度は著しく高められ、純化した魔力が込められる。
圧倒的な存在力【リアリティ】を構築する。血に/二重螺旋に/記述に刻まれた魔術情報が
検索/ヒット/転送/顕現を行なう。鉄片は魔術文字へ分解、新たな組み合わせに
編み上げられる。
星気領域を超え、霊的境界を越え、世界を超え、そこに在らざる可能性を顕れせしめる。
「来い……来い、来い、来い、来い―――――来たっっっ!」
そして、遂に術式は完成する。組み上げられた魔術式、それはスピードローダー、リボルバー弾。
込められた刻印、それの意味は知らない。だが、その威は識っている。
距離は100と少し。巨大な蛆はなおも近づく。
「クザクッッッ!」
悲鳴にも近い叫びをあげるルイズ。だが、意に介さない。

――GRRRRRRRRRRRROOOOOOOOWWWWWWWWWWW!

目標、巨大蛆。
放つ、銃弾を。
人狼(ワーウルフ)の心臓を打ち抜く銀の銃弾をイメージ。
撃つ/討つ、指弾の要領で、
「Blast Blood――【血は、灼け】」
魔力を込めて弾く。
衝撃、銃弾は一直線。
輝く刻印は汚濁した咆吼を切り裂き、血霧を突き抜け、そして。
「Warcry――【爆ぜる】ッッ!」

――爆裂した。

「――――――――ッッッッッッッッッッッ!」
音にもならない大音響が、蛆の口腔/爆発から放たれた。魔炎は濃密な血霧と魔学反応、爆炎は
鋼鉄すら溶かしつくす炎量と高熱を発し、蛆を一片すら残さぬほどの紅蓮と化する。
だが、突進した巨塊はベクトルに従いその動きを止めない。
「いかん!」
瞬時、判断。
ルイズの手を引き通路の奥へ疾駆/跳躍。
肉薄する、紅蓮の熱が背を灼く。

――ゴォッッッッ!

大激突。焼けた蛆の肉が通路へとめり込み、そして崩れた。だが、それまでだった。
蛆の屍蝋色の肌を舐める炎は一切の慈悲もなくその芯まで焼き尽くした。
沸騰する穢れた血液は瘴気すら残すことなく紅蓮によって浄化される。
跡に残ったのは崩れた洞穴、それのみだった。蛆の存在は跡形もなく消滅したのだった。


「……なんだったの、あれ」
「妖蛆だ」
「え?」
「ある呪文を繰り返し己の肉体を蛆に分解し、乗り移り、他人の身体を乗っ取る」
「何よ、それ……」
もはや明かりすらない道を、どうにか進む。かすかに吹く風だけが、出口への頼り。
「おぞましい儀式だ。だが、あれはそれですらない。改変された、改悪された、異形だ」
自分の使い魔がいっている事が理解できない。だが、分かった事がある。
「クザク……もしかして、記憶が戻ったの?」
「…………ああ、少しな」
暗闇の中、自分の手を引く彼の手が、強く、だが優しく握り返してきた。
「あれは邪悪だ。決して人々の世界にあってはならぬものだ。存在すら許されぬ邪悪だ。
 故に我は闘う。故に我は騎士だ。だが――なんだ」
クザクの笑う声が、暗闇で響く。だが、それは決して嘲笑うものでなくて清く正しいもの。
「まあ、実のところ。今の我が騎士を名乗るのは心構えでしかない」
「何よ、それ……」
「簡単な話だ。我は結局のところ、ただのガキでしかないということだ」
「意味わかんない」
「それは良かった。我も分からん」
「くすっ……あははっ」
「ふっ……」
ルイズも笑い声を漏らす。緊張が解けたからか、はたまた、心からのものか。そういえば、
この使い魔に何か聞かなければならなかったことがあった気がする。
「…………」
「ん? どうかしたか?」
「ううん、なんでもない。早く行きましょ、出口、こっちなんでしょ?」
「ああ。この風の流れ、もう近い」
――いや、そんなことはどうでも良いだろう。今は生きているこの事実だけで充分だ。
「それにしても良く歩くな、今日は」
「ほんとね。災難続きでもうヘトヘトよ」
お互い、見えぬ闇を進む。握り合う手だけがお互いの存在を確かめる。
そして、遂に――
「光だわ……」
「ようやく、ゴールか……」
かすかな光が漏れた。水の流れが、人の声が、聞こえる。
「では、行こうか」
「ええ、そうね」
かすかな光に九朔の横顔が見えた。湛える微笑にルイズも微笑み返す。
地上へと行き返る、光在る世界への帰還だった。



崩落した鋼鉄通路の奥、巨大な空間は静謐に包まれていた。蛆の灼けた匂いは未だ燻り、
魔術刻印は淡く、穏やかに、呪術的脈動を打って輝いている。
その光の中、壁に刻まれた文字が照らし出されている。
だが、それを読む者も、その意味を知る者も、此処にはいない。
否、凡そその言葉を理解できる者はこのハルケギニアはいない。
なぜならば、それは彼らとは違う言語で書かれていたからである。
その淡く輝く光の中で、だが、その黯黒の女だけは読むことが出来た。
燃える闇を纏い、燃えるように輝く三つの瞳を持つ、暗闇よりなお冥い女。
彼女の名を名乗る者はいない。彼の真の名を知る者はここにはいない。
それは、知性を持つ全ての存在が持つ言語を以てしてもその存在の一片たりとも言い表す事が
出来ない存在である。
それは無貌にして千の貌、黒のファラオであり膨れ女、それは厭わしき嘲笑で世界を眺める
道化師、それは変幻自在の躰を持つ宇宙的悪意。
彼/彼女/それ/あれ/ダレ/これ/オレ/アタシ/はニアーラという貌【アバター】を
今だけは捨て去ってそこに宇宙的角度で立り、その名を曠野の眼でなぞる。
そこにあるのは愛、だが、悪意しかない。ソレは観客がいないのにもかかわらず、人が
認識しうる位相に再びその存在を変じさせ、それが愛する矮小な人間が最も良く知る女の姿を
とり、物理的法則に基づいて地面に降り立った。
「ああ、ああ、やはり騎士殿は僕が見込んだとおりだったよ。さすがは君の/彼女の、息子だ。
 いつも通り用意されたイベントを正しくこなし、いつも通りヒロインをエスコートしてくれる」
女は、かつてナイアと呼ばれた女は心地よさげな表情を浮かべて踊る。踊る。
「ああ、ああ、やっぱり僕は彼が大好きだ。僕を討ち、僕を滅ぼし、僕を斃しただけあるよ。
 ちっぽけな人間だからこそ、ちっぽけな人間だからこそ、楽しい、嬉しい、ワクワクする!」
狂ったような笑い声をあげる。いや、最初から狂っている。狂っているという表現自体が
間違っている。そのような人間の稚拙な表現はこの邪神にはあてはまらない。
「ああ、ああ、愉しみだ。この先が、これからが、愉しみだ! 玩弄者(ゲーミキーパー)に
 して道化師たるこの僕の心を掴んで離さないよ! そうだろう? そう思わないかい?
 だが、これからなんだ。ようやく第一幕開演だ。君はどう思うかな? ねえ――」
そして、女の容が愉悦の余り崩れ落ちた。そこから溢れる闇、黯黒が淡く輝く空間を飲み込む。
黯黒に燃えるように輝く三つの瞳がその黯黒に産まれる。そして、無貌はその名を読み上げた。
人に認識できない、宇宙的発声で、読んだ。愛しき敵を、憎き恋人を。彼らの剣を、読んだ。
その刻まれた文字、その刻まれた語、その刻まれた意/威。それは、その名は


――DEMON BANE【魔を断つ剣】




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