魔法学院の教室は、講義を行うメイジの教卓が一番下の段に位置し、階段の様に机が続いている。
ルイズとミュズが中に入って行くと、先に教室にやって来ていた生徒達が一斉に振り向き、そして、くすくすと笑い始める。
皆、様々な使い魔を連れていて、教室中に沢山の生き物が居た。
梟、蛇、烏、猫。ミュズの中のデータにある地球に存在する生き物が見える。
しかし、ミュズの目を引くのは、椅子の下で眠り込んでいるキュルケのサラマンダーの様な見た事も無い未知の生物だった。
アバロス星人に似た姿の、六本足のトカゲがいた。
ミュズは気になって、ルイズに尋ねた。
「あの六本足のトカゲは何ですか?」
「バジリスク」
ミュズは次々に不思議な生き物の名前を尋ねる。
ルイズはそれを次々と不機嫌な声で答えて、席の一つ腰掛けた。
ミュズはその傍らに怖ず怖ずと無言でぴたりと立った。
ルイズは使い魔達が集まっている教室の壁際に居る様に言いつける。
しかし、ミュズが怖がってマントを掴んで離れないので、渋々諦める事になった。
扉が開いて、中年の女の先生が入ってきた。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。
彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。
「皆さん。使い魔召喚は、大成功の様ですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」
ルイズは俯き、ミュズが居るのとは反対側の方に顔を逸らした。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」
シュヴルーズがミュズを見て、何気無しにとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれ、太っちょの男子生徒から野次が飛ぶ。
「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」
ルイズは立ち上がり、長いブロンドの揺らして怒鳴った。
「違うわ!きちんと召喚したもの!この子になっちゃっただけよ!」
「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」
ゲラゲラと教室中の生徒が嘲笑う。
「ミセス・シュヴルーズ!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
握り締めた拳でルイズは机を叩いた。
「風邪っぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!風邪なんかひいてないぞ!」
マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。
「あんたのガラガラ声はまるで風邪をひいてるみたいなのよ!」
シュヴルーズは小ぶりな杖を振って、立ち上がった二人を制止させ、席に座らせる。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい」
さっきまでの勢いが吹っ飛んで、ルイズはショボンとうなだれていた。
「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりました?」
「ミセス・シュヴルーズ。僕の風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
マリコルヌの一言に、生徒達からくすくす笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回して杖を振るい、何処からともなく現れた赤土の粘土でくすくす笑いをする生徒達の口を塞ぐ。
「あなた達は、その格好で授業を受けなさい」
教室中のくすくす笑いが治まった。
授業の開始を告げ、シュヴルーズは咳払いをして、ルーンを唱え杖を振うと、教卓の上に石ころが現れた。
「テレポート?あの人のESP波が一瞬で急に強くなった様な感じがした…」
ミュズはその光景に眼を見開き、口をきゅっと締めて呟く。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」
二年生になって最初の講義と言う事も有り、おさらいをする様に系統魔法や『土』系統の魔法の特長が説明される。
そして、シュヴルーズは『土』系統の魔法の基本である『錬金』を、教授する為のお手本として、自ら石ころに向かって唱える。
石ころが光りだし、それはピカピカした黄色味を帯びた金属に変わっていた。
ミュズはその様子をじっと注視して、目の奥をチカチカと光らせた。
キュルケが身を乗り出し、「ゴールドですか?」と尋ねると、シュヴルーズは謙虚そうに「真鍮」と答えた。
その後に、ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』で有り、自分は『トライアングル』だともったぶった様に付け足した。
ミュズがルイズの肩をつつく。
「マスター」
「何よ。授業中よ」
「『スクウェア』や『トライアングル』って何ですか?」
「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」
「はい?」
ルイズは小さい声で顔を近づけさせる。
そしてミュズに、一つの系統に他の系統を足して呪文を強化する事や、同じ系統を足してその系統を強化する事などを、すらすらと説明した。
ミュズはその説明に納得すると、ぽつりと疑問を投げ掛けた。
「マスターは幾つ足せるの?」
その疑問に口をへの字に閉じて悲しげに眼を細め、ルイズは押し黙ってしまった。
そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められ、ルイズはクラスメイトの前で錬金の実技を行う様に言いつかる。
しかし、困ったようにもじもじするだけで、ルイズは立ち上がろうとしなかった。
シュヴルーズが再び呼び掛けると、キュルケが『危険』を理由にルイズの実技を取り辞めるように困った声で言い、教室の殆ど全員が頷いた。
初めてルイズを教えているシュヴルーズはその意味が分からず、励ましの声を掛けルイズに実技を行う様に促す。
キュルケは褐色の肌から血の気が引いて、ルイズに実技の辞退を懇願するが、決心した様にルイズは立ち上がってシュヴルーズに答える。
緊張した顔でルイズはつかつかと教室の前へと進むと、隣に立ったシュヴルーズはにっこりと笑い、錬金したい金属を心に思い浮かべるようにと指導をする。
こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げ、それと同時に前の席に座っていた生徒が椅子の下に隠れた。
ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。
その瞬間、教卓ごと石ころは爆発と化した。
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩き付けられた。
驚いた使い魔達が暴れ出し、サラマンダーが火を吐くは、マンティコアが外に飛び出すは、大蛇が烏を飲み込むはの大騒ぎになった。
悲鳴や罵声が溢れる教室で、ミュズは誰も気付かない小さな声で呟いた。
「真空の揺らぎが『ゼロ』になった」
シュヴルーズはたまにピクピクと痙攣をして倒れたまま動かない。
煤で真っ黒になったルイズは、服の至る所が破れた見るも無残な格好で、むくりと立ち上がる。
大騒ぎの教室を意に介した風も無く、顔の煤をハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。
「ちょっと失敗みたいね」
他の生徒達から猛然と反撃を食らう。
「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ゼロじゃないかよ!」
ミュズは、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのかを、ルイズが魔法を使うと如何なるかを知った。
ルイズとミュズが中に入って行くと、先に教室にやって来ていた生徒達が一斉に振り向き、そして、くすくすと笑い始める。
皆、様々な使い魔を連れていて、教室中に沢山の生き物が居た。
梟、蛇、烏、猫。ミュズの中のデータにある地球に存在する生き物が見える。
しかし、ミュズの目を引くのは、椅子の下で眠り込んでいるキュルケのサラマンダーの様な見た事も無い未知の生物だった。
アバロス星人に似た姿の、六本足のトカゲがいた。
ミュズは気になって、ルイズに尋ねた。
「あの六本足のトカゲは何ですか?」
「バジリスク」
ミュズは次々に不思議な生き物の名前を尋ねる。
ルイズはそれを次々と不機嫌な声で答えて、席の一つ腰掛けた。
ミュズはその傍らに怖ず怖ずと無言でぴたりと立った。
ルイズは使い魔達が集まっている教室の壁際に居る様に言いつける。
しかし、ミュズが怖がってマントを掴んで離れないので、渋々諦める事になった。
扉が開いて、中年の女の先生が入ってきた。紫色のローブに身を包み、帽子を被っている。ふくよかな頬が、優しい雰囲気を漂わせている。
彼女は教室を見回すと、満足そうに微笑んで言った。
「皆さん。使い魔召喚は、大成功の様ですわね。このシュヴルーズ、こうやって春の新学期に、様々な使い魔達を見るのがとても楽しみなのですよ」
ルイズは俯き、ミュズが居るのとは反対側の方に顔を逸らした。
「おやおや。変わった使い魔を召喚したのですね。ミス・ヴァリエール」
シュヴルーズがミュズを見て、何気無しにとぼけた声で言うと、教室中がどっと笑いに包まれ、太っちょの男子生徒から野次が飛ぶ。
「ゼロのルイズ!召喚できないからって、その辺の平民を連れてくるなよ!」
ルイズは立ち上がり、長いブロンドの揺らして怒鳴った。
「違うわ!きちんと召喚したもの!この子になっちゃっただけよ!」
「嘘つくな!『サモン・サーヴァント』ができなかったんだろう?」
ゲラゲラと教室中の生徒が嘲笑う。
「ミセス・シュヴルーズ!風邪っぴきのマリコルヌが私を侮辱したわ!」
握り締めた拳でルイズは机を叩いた。
「風邪っぴきだと?俺は風上のマリコルヌだ!風邪なんかひいてないぞ!」
マリコルヌも立ち上がり、ルイズを睨みつける。
「あんたのガラガラ声はまるで風邪をひいてるみたいなのよ!」
シュヴルーズは小ぶりな杖を振って、立ち上がった二人を制止させ、席に座らせる。
「ミス・ヴァリエール。ミスタ・マリコルヌ。みっともない口論はお止めなさい」
さっきまでの勢いが吹っ飛んで、ルイズはショボンとうなだれていた。
「お友達をゼロだの風邪っぴきだの呼んではいけません。分かりました?」
「ミセス・シュヴルーズ。僕の風邪っぴきは只の中傷ですが、ルイズのゼロは事実です」
マリコルヌの一言に、生徒達からくすくす笑いが漏れる。シュヴルーズは厳しい顔で教室を見回して杖を振るい、何処からともなく現れた赤土の粘土でくすくす笑いをする生徒達の口を塞ぐ。
「あなた達は、その格好で授業を受けなさい」
教室中のくすくす笑いが治まった。
授業の開始を告げ、シュヴルーズは咳払いをして、ルーンを唱え杖を振うと、教卓の上に石ころが現れた。
「テレポート?あの人のESP波が一瞬で急に強くなった様な感じがした…」
ミュズはその光景に眼を見開き、口をきゅっと締めて呟く。
「私の二つ名は『赤土』。赤土のシュヴルーズです。『土』系統の魔法を、これから一年、皆さんに講義します。」
二年生になって最初の講義と言う事も有り、おさらいをする様に系統魔法や『土』系統の魔法の特長が説明される。
そして、シュヴルーズは『土』系統の魔法の基本である『錬金』を、教授する為のお手本として、自ら石ころに向かって唱える。
石ころが光りだし、それはピカピカした黄色味を帯びた金属に変わっていた。
ミュズはその様子をじっと注視して、目の奥をチカチカと光らせた。
キュルケが身を乗り出し、「ゴールドですか?」と尋ねると、シュヴルーズは謙虚そうに「真鍮」と答えた。
その後に、ゴールドを錬金できるのは『スクウェア』で有り、自分は『トライアングル』だともったぶった様に付け足した。
ミュズがルイズの肩をつつく。
「マスター」
「何よ。授業中よ」
「『スクウェア』や『トライアングル』って何ですか?」
「系統を足せる数の事よ。それでメイジのレベルが決まるの」
「はい?」
ルイズは小さい声で顔を近づけさせる。
そしてミュズに、一つの系統に他の系統を足して呪文を強化する事や、同じ系統を足してその系統を強化する事などを、すらすらと説明した。
ミュズはその説明に納得すると、ぽつりと疑問を投げ掛けた。
「マスターは幾つ足せるの?」
その疑問に口をへの字に閉じて悲しげに眼を細め、ルイズは押し黙ってしまった。
そんな風にしゃべっていると、シュヴルーズに見咎められ、ルイズはクラスメイトの前で錬金の実技を行う様に言いつかる。
しかし、困ったようにもじもじするだけで、ルイズは立ち上がろうとしなかった。
シュヴルーズが再び呼び掛けると、キュルケが『危険』を理由にルイズの実技を取り辞めるように困った声で言い、教室の殆ど全員が頷いた。
初めてルイズを教えているシュヴルーズはその意味が分からず、励ましの声を掛けルイズに実技を行う様に促す。
キュルケは褐色の肌から血の気が引いて、ルイズに実技の辞退を懇願するが、決心した様にルイズは立ち上がってシュヴルーズに答える。
緊張した顔でルイズはつかつかと教室の前へと進むと、隣に立ったシュヴルーズはにっこりと笑い、錬金したい金属を心に思い浮かべるようにと指導をする。
こくりと頷いて、ルイズが手に持った杖を振り上げ、それと同時に前の席に座っていた生徒が椅子の下に隠れた。
ルイズは目をつむり、短くルーンを唱え、杖を振り下ろす。
その瞬間、教卓ごと石ころは爆発と化した。
爆風をモロに受け、ルイズとシュヴルーズは黒板に叩き付けられた。
驚いた使い魔達が暴れ出し、サラマンダーが火を吐くは、マンティコアが外に飛び出すは、大蛇が烏を飲み込むはの大騒ぎになった。
悲鳴や罵声が溢れる教室で、ミュズは誰も気付かない小さな声で呟いた。
「真空の揺らぎが『ゼロ』になった」
シュヴルーズはたまにピクピクと痙攣をして倒れたまま動かない。
煤で真っ黒になったルイズは、服の至る所が破れた見るも無残な格好で、むくりと立ち上がる。
大騒ぎの教室を意に介した風も無く、顔の煤をハンカチで拭きながら、淡々とした声で言った。
「ちょっと失敗みたいね」
他の生徒達から猛然と反撃を食らう。
「ちょっとじゃないだろ!ゼロのルイズ!」「いつだって成功の確率、ゼロじゃないかよ!」
ミュズは、どうしてルイズが『ゼロのルイズ』と呼ばれているのかを、ルイズが魔法を使うと如何なるかを知った。