あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

虚無のパズル-19


翌日……、朝食を終え、教室に入っていくと、すぐにクラスメイトたちがルイズを取り囲んだ。
ルイズたちは学院を数日開けていた間に、なにか危険な冒険をして、とんでもない手柄を立てたらしい、ともっぱらの噂であったからだ。
事実、魔法衛士隊の隊長と出発するところを何人かの生徒たちが見ていたのである。
教師の目のある朝食の席では我慢したのだが、何があったのか、クラスメイトたちは聞きたくてうずうずしていたのである。
キュルケとタバサとギーシュは、すでに席についていた。その周りも、やはりクラスメイトの一団が取り囲んでいる。
「ねえルイズ、あなたたち、授業を休んで一体どこへ行ってたの?」
腕を組んで、そう話しかけたのは香水のモンモランシーであった。
見ると、キュルケは優雅に化粧を直しているし、タバサはじっと本を読んでいる。
タバサはぺらぺらしゃべるような性格じゃないし、キュルケもお調子者ではあったが、何も知らないクラスメイトに自分たちの秘密の冒険を話すほど、口は軽くない。
一方ギーシュは、取り囲まれてちやほやされるのが大好きなので、調子に乗ったらしい。
きみたち、ぼくに聞きたいかね?ぼくが経験した秘密を知りたいかね?困ったウサギちゃんだな!あっはっは!
と呟くなり足を組み、人差し指を立てたので、人壁をかきわけて近付いたルイズに頭をひっぱたかれた。
「何をするんだね!」
「口が軽いと、姫さまに嫌われるわよ。ギーシュ」
アンリエッタを引き合いに出されたので、ギーシュは黙ってしまった。
二人のそんな様子で、ますますクラスメイトたちは「何かある」と思ったらしい。
ふたたびルイズを取り囲んで、やいのやいのやりはじめた。
「ルイズ!ルイズ!いったいなにがあったんだよ!」
「なんでもないわ。ちょっとオスマン氏に頼まれて、王宮までお使いに行ってただけよ。ねえギーシュ、キュルケ、タバサ、そうよね」
キュルケは意味深な笑みを浮かべて、磨いた爪の滓をふっと吹き飛ばした。
ギーシュは頷いた。
タバサはじっと本を読んでいた。
取りつく島がないので、クラスメイトたちはつまらなさそうに、自分の席へと戻っていく。
「どうせ、大したことじゃないよ」
「そうよね、ゼロのルイズだもんね。魔法のできないあの子に、何か大きな手柄が立てられるわけないものね」
「フーケを捕まえたのだって、きっと偶然さ!たまたま禁断の鍵の力を引き出したのさ」
隠し事をするルイズに頭にきたらしく、クラスメイトたちは口々にルイズにイヤミを投げかけた。
ルイズは悔しくて、きゅっと唇を噛み締めたが、そんなイヤミなど聞こえないふうを装って、自分の席に向かった。
「やあ」
ルイズの席には、ティトォがいた。ちょいと手を挙げて、ルイズに挨拶している。
ルイズが来たのを見ると、ティトォは席を詰めて、ルイズの座る場所を作った。
ティトォは、自分たちの使う魔法と違う理でなされる魔法が興味深いらしく、ルイズの取っている授業には欠かさず出席していた。
普通に潜り込んだら、生徒でないティトォは教室からつまみ出されてしまう。
しかしルイズと一緒なら、『ルイズの使い魔』という立場で教室に居座ることができるのであった。
「……授業時間には普通、使い魔を連れないものなのよ」
ルイズは憮然として言った。
なるほど確かに、教室に他の使い魔の姿はなかった。
春の召喚の翌日は、使い魔のお披露目の意味もあって、みんな教室に使い魔を連れてきたものだが、そもそも大型の使い魔は教室には入れないし、使い魔達にとって魔法の講義なんて退屈なものである。
なので、授業時間中は、ほとんどの生徒は使い魔を中庭に放しているのだった。
「それなのにあんたってば、普段は好き勝手そこら中うろついて、ちっともわたしの傍にいないくせに、授業となると顔を出すのね。授業時間くらいしかあんたと顔を合わせてない気がするわ。あべこべよ」
「夜寝る時と朝起きる時は一緒にいるじゃない」
「屁理屈言ってんじゃないわよお~~!」
ルイズはティトォの頬を思いっきりつねり上げた。
「あう~~……」
アルビオンから帰ってきてから、なんだかルイズの態度が変わっていた。
なんというか、ずいぶんと気安くなった。
いままでルイズは、ティトォにどこか気後れしたものを感じていた。
見た目は同年代の男の子なのに、不老不死の体を持って、三人の人間の魂を持っていて、なにやらとんでもない秘密を隠している。
そんなティトォは、自分の使い魔だと言うのに、得体が知れなかった。まるでお話の中の登場人物のように思えた。
でも、ニューカッスルの城にルイズを助けに来てくれたこと……、ルイズのことを『友達』だと言ってくれたこと……、
それが嬉しくて、なんだかルイズは、それまで感じていた距離感がぐっと縮まったような気がしていたのだ。
「別に四六時中一緒にいろとは言わないけど!あんたってば、あんまりわたしのことほったらかしすぎじゃないかしら!この!くの!」
「いひゃい、いひゃい。ごめんってば」
ティトォが謝ってもルイズは許さず、さんざんティトォの頬を痛めつけた。教室にミスタ・コルベールが入ってきたので、ようやくティトォは解放された。
授業が始まった。


「さてと、皆さん」
コルベールはうれしそうに、でんっ!と机の上に妙なものを置いた。
はたしてそれは、妙な物体であった。長い、円筒状の金属の筒に、これまた金属のパイプが伸びている。
パイプは床に置かれたふいごに繋がり、円筒の頂上にはクランクが付いている。そしてクランクは円筒の脇にたてられた車輪に繋がっていた。
そしてさらにさらに、車輪は扉の付いた箱に、歯車を介してくっついている。
ティトォは興味深そうにコルベールの装置を見つめたが、他の生徒達の反応は冷めていた。
ミスタ・コルベールが、またおかしなものを作った、とひそひそ囁く声が聞こえた。
コルベールはおほん、ともったいぶった咳をすると、語りはじめた。
「えー、『火』系統の特徴を、誰かこのわたしに開帳してくれないかね?」
コルベールがそう言うと、教室中の視線がキュルケに集まった。ハルケギニアで『火』と言えば、ゲルマニア貴族である。その中でもツェルプストー家は名門であった。
キュルケは授業中だというのに、爪の手入れを続けていた。ヤスリで磨く爪から視線をはずさず、気だるげに答えた。
「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」
「そうとも!」
自身も『炎蛇』の二つ名を持つ、『火』のトライアングルメイジであるコルベールは、にっこりと笑って言った。
「だがしかし、情熱はともかく『火』が司るものか破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます。破壊するだけじゃない、戦いだけが『火』の見せ場ではない。使いようによっては、『火』はいろんな楽しいことができるのですぞ」
「トリステインの貴族に、『火』の講釈を承る道理がございませんわ」
キュルケはツンとすまして、自信たっぷりに言い放つ。
「で、その妙なカラクリはなんですの?」
キュルケは、きょとんとした表情で、机の上の装置を指差した。
「うふ、うふふ。よくぞ聞いてくれました。これはわたしが発明した装置ですぞ。言ったでしょう、『火』は使いようです。『火』の新しい使い道を示す装置、まさにそのものなのです」
クラスメイトはぽかんとして、その珍しい装置を眺めている。ティトォも興味深そうに、装置に見入っていた。
コルベールはにこにこ笑いながら、続けた。
「まず、この『ふいご』で油を気化させる」
コルベールはしゅこっ、しゅこっ、と足でふいごを踏んだ。
「すると、この円筒の中に、気化した油が放り込まれるのですぞ」
慎重な顔で、コルベールは円筒の横に開いた小さな穴に、杖の先端を差し込んだ。
呪文を唱える。すると、断続的な発火音が聞こえ、発火音は、続いて気化した油に引火し、爆発音に変わった。
「ほら!見てごらんなさい!この金属の筒の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」
すると円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させた。
回転した車輪は箱に付いた扉を開く。するとギアを介して、ぴょこっ、ぴょこっ、と中からヘビの人形が顔を出した。
「動力はクランクに伝わり車輪を回す!ほら!するとヘビくんが!顔を出してぴょこぴょこご挨拶!面白いですぞ!」
生徒達は、ぼけっと反応薄げにその様子を見守っている。熱心にその様子を見ているのはティトォだけであった。
「で?それがどうしたっていうんですか?」
コルベールは自慢の発明品が、ほとんど無視されているので悲しくなった。
コルベールは、当年とって42歳。物腰やわらかな、人のいい先生である。
しかしどうにも変わり者で、研究と発明を生きがいとしている。
コルベールの授業は、ときどきこうやって、彼の妙ちくりんな発明品のお披露目の場になることが多いのであった。
そしてその発明品のほどんどは、一体何の役に立つのか分からないものばかりである。
生徒達の冷めた目線も気にせず、コルベールはおほんと咳をすると、説明を始めた。
「えー、今は愉快なヘビくんが顔を出すだけですが、たとえばこの装置を貨車に乗せて車輪を回させる。すると馬がいなくても車輪は回るのですぞ!
 たとえば海に浮かんだ船のわきに大きな水車をつけて、この装置を使って回す!すると帆がいりませんぞ!」
「そんなの、魔法で動かせばいいじゃない。何もあんな妙ちきりんな装置を使わなくても……」
ルイズがぽつりと呟く。
「わ、すごい。あれ、『科学』だ」
「『カガク』?」
ルイズはきょとんとした顔をして、横に座るティトォを見る。
ティトォは目を輝かせながら、教壇の上の装置を見ていた。いつもの癖で、トントンと指でこめかみを叩いている。
「そう、物質を使った魔法……、メモリアで研究されてる、最新の技術。……最新っていっても、ぼくの知識は50年くらい前のだけどね」
「物質を使った魔法?なにそれ。あんな装置を使うより、普通に魔法を使った方が手っ取り早いでしょ」
「そんなことないよ。あの装置、今は点火を『火』の魔法に頼ってるけど、もっともっと改良すれば、魔法がなくても動くようになると思うんだ。例えば火打石を利用して、断続的に点火できるようにすれば……」
「なんと!やはり気付く人は気付いておる!そう!この装置は、いずれ魔法がなくても動くようになるのです!」
コルベールは興奮してまくしたてた。しかし生徒たちは「いったいそれがどうしたっていうんだ?」と言わんばかりの表情であった。
なんでもできる便利な魔法を行使するメイジ達は、コルベールの発明のすごさにちっとも気が付いていないのだった。
コルベールの発明品の真価を理解しているのは、教室中見回しても、ティトォだけであった。
「おや!おお、きみはミス・ヴァリエールの使い魔の少年だったな」
コルベールは、彼が確か、伝説の使い魔『ミョズニトニルン』のルーンを額に浮かび上がらせた少年であることを思い出した。
あの件はオスマン氏が「わしに任せなさい」と言ったので、しばらく忘れていたが……、先ほどの発言と合わせ、ティトォにあらためて興味を抱いた。
「きみはいったい、どこの国の生まれだね?」
身を乗り出して、コルベールはティトォに尋ねる。
ルイズがそんなティトォの肩を小突き、軽く睨んでみせた。
「……余計なこと言うんじゃないの。怪しまれるわよ」
「きみは、いったい、どこの生まれなのだね?うん?」
しかし、コルベールは目を輝かせてティトォに近付いた。
隣に座ったルイズが、代わりに答える。
「ミスタ・コルベール。彼は、その……、東方の……、ロバ・アル・カリイエの方からやって来たんです」
コルベールは驚いた顔になった。
「なんと!あの恐るべきエルフたちの住まう地を通って!いや、召喚されたのだから、通らなくてもハルケギニアへはやってこれるか。
 なるほど……、エルフたちの治める砂漠を越えた東方の地では、学問、研究が盛んだときく。きみはそこの生まれだったのか。なるほど」
コルベールは納得したように頷いた。
ティトォは「なにそれ?」といった顔でルイズの方を向いた。ルイズは「わたしに合わせなさい」とでも言うように、目くばせをした。
「そうです。ぼくはその、ロバ・アル・カリイエからやって来たんです」
コルベールはうんうんと頷くと、ふたたび教壇に立ち、教室を見回す。
「さて!では皆さん!誰かこの装置を動かしてみないかね?なあに!簡単ですぞ!円筒に開いたこの穴に、杖を差し込んで『発火』の呪文を断続的に唱えるだけですぞ!」
コルベールは生徒たちに語りかけながら、ふいごを踏んで、ふたたび装置を動かした。爆発音が響き、クランクと歯車が動いて、ヘビの人形がぴょこぴょこと顔を出した。
しかし、誰も手を挙げない。コルベールが自分の装置に対する生徒の興味を惹くために作った『愉快なヘビくん』は、生徒たちにはまったくウケなかったようだ。
コルベールはがっかりして、肩を落とした。すると、モンモランシーが、ルイズを指差した。
「ルイズ、あなた、やってごらんなさいよ」
コルベールの顔が輝いた。
「なんと!ミス・ヴァリエール!この装置に興味があるのかね?」
ルイズは困ったように、首をかしげた。すると、次々と他のクラスメイトたちも騒ぎだした。
「そうだ!ルイズ!やってみろよ!」
「土くれのフーケを捕まえて、何か秘密の手柄を立てたルイズなら、それくらい簡単だろ?」
「どうしたルイズ!もったいぶるなよ!」
ティトォは気付いた。クラスメイトたちは、ルイズに失敗させて恥をかかせようと言うのだ。
隠し事をするルイズに、意地悪をしてやろうというのだろう。最近、派手な手柄を立てているルイズへのやっかみもあるかもしれない。
モンモランシーは挑発を続けた。
「やってごらんなさい。ほら、ルイズ。ゼロのルイズ」
ルイズはカチンときた。ゼロと呼ばれるのだけは、どうにも我慢ならないのである。
ルイズはがばっと立ち上がった。教壇へ向かおうとしたが、ルイズのマントの裾をティトォが掴んで引き止めた。
「やめなよ、ルイズ。みんな、きみが魔法を使えないの知ってて、意地悪言ってるんだよ」
ティトォはルイズを心配して言ったのだが、どうにも言葉がまずかった。ストレートすぎた。
ルイズは目を吊り上げて、きっと鳶色の瞳でティトォを睨みつけた。
「馬鹿にしないでちょうだい。わたしだって、いつも失敗しているわけじゃないのよ。たまに、成功、するわ。たまに、成功、するときが、あるわ」
ルイズは自分に言い聞かせるように、区切って言った。声が震えている。ルイズは完全に怒ると、声が震えるのだった。
こうなったらもうルイズは止められない。ルイズはティトォの手を振りほどいて、コルベールのもとへ向かった。
ルイズが教壇の前に立つと、前列の席の生徒たちが、こそこそと机の下に隠れた。
ニコニコとコルベールが見守る中、ルイズはコルベールがしていたように足でふいごを踏んで、装置の中に気化した油を送り込んだ。
それから、目をつむり、大きく深呼吸すると、おもむろに装置に杖を差し込んだ。
朗々と、かわいらしい鈴のような声で、呪文を詠唱する。
教室中が、ぴきーんと緊張する。
そして期待通りに爆発音が鳴り響いたのだが……、その音はいつもの失敗の爆発に比べ、ずいぶんと小さかった。
おや?と机の下に隠れていた生徒たちが顔を出す。そして、教壇を見て、ぽかんと口を開けた。
なんと、断続的な爆発音とともに、クランクと歯車が動いて、ヘビの人形がぴょこぴょこ動いているではないか!
「うそだろ!ゼロのルイズが成功した!」
教室中がざわざわと騒ぎだす。いつものように魔法を失敗させて、大爆発を起こすルイズをからかってやろうと待ち構えてたのに!
クラスメイトたちはすっかり困惑していた。
コルベールは喜んで、ぽんぽんと手を叩いた。
「お上手!お上手ですぞ、ミス・ヴァリエール!ほうら、見てごらんなさい!愉快なヘビくんがご挨拶!ご挨拶!」
コルベールはすっかりはしゃいでいたが、ふとおかしなことに気が付いた。
はて。どうも、装置から聞こえる爆発音が大きいような……
見ると、装置は爆発音のたびにがたがたと震えている。クランクや歯車がきしみ、悲鳴を上げていた。
いかん、なぜかは分からないが、考えていたより爆発が大きい。
「あー、その。ミス・ヴァリエール?今回のところはそれくらいで……」
コルベールがあわてて止めに入る。しかし、ルイズは集中して呪文を唱えているので、その声には気付かなかった。
実のところ、ルイズは相変わらず魔法を爆発させていた。小さな爆発を起こして、『発火』の魔法の代わりに油に引火させていたのである。
それによって装置は動いたが、しかし、魔法の爆発と、油の爆発の2倍の爆発に耐えられるようには作られていなかった。
とうとう、装置はぼかーんと景気のいい音を立てて吹っ飛んだ。
部品がそこらじゅう飛び散って、その破片がコルベールの頭を直撃した。コルベールは気絶した。
爆発はいつもよりささやかだったが、ルイズの可愛らしい、清楚な顔は煤まみれになってしまった。
しかしまあ、慣れたもので、ルイズは大騒ぎの教室を意に介したふうもなく、優雅にハンケチを取り出した。そして顔を拭って、言った。
「ミスタ・コルベール。この装置、壊れやすいです」
コルベールは気絶していたので、答えることができなかった。代わりに生徒たちが口々にわめいた。
「お前が壊したんだろ!ルイズ!ゼロのルイズ!」
「もう、いい加減にしてくれよ!」
「なんだ、やっぱりルイズはゼロだったな!何をやっても失敗だ!あっはっは!」
ガラガラ声で笑っているのは、ふとっちょのマリコルヌである。
ルイズはカチンと来た。最初のうちは成功してたじゃないの!『発火』の呪文はできなかったけど、装置は動いたのよ。それって成功ってことじゃない。
装置の小さな歯車がはずれて、教壇をころころ転がる。歯車は教壇から落ちて、カツーンと床を跳ねた。
ルイズは小声で呪文を唱えた。すると、ぽんっ!ととても小さな爆発が起こり、歯車をルイズの頭ほどの高さまではね飛ばした。
続いてルイズが呪文を呟く。ふたたび小さな爆発が起こり、歯車をすっ飛ばした。
歯車は正確にマリコルヌの眉間にぶちあたった。「ぎゃぶ!」と悲鳴を上げ、マリコルヌは気絶した。
「わ!なんだなんだ!」
突然倒れたマリコルヌを見て、クラスメイトたちががやがやと騒ぎだす。
そんなクラスメイトたちにかまわず、ルイズはしげしげと、タクト状の自分の杖を眺めた。
そして、不思議そうな顔で呟いた。
「わたし、爆発が……、制御できるようになってる?」


その後……、
ルイズは罰として教室の掃除を言い渡された。しかし今回は机の煤をはらうだけで済んだので、いつもよりずっと早く終わった。
吹っ飛ばした装置の部品を全部拾ってコルベール返したら、涙目になっていた。ちょっと胸が痛んだ。
そして部屋に戻る途中、ルイズはさっきの『爆発』についてティトォに疑問をぶつけた。
するとティトォは、納得したような顔で言った。
「そっか、そっか。そういえば、そろそろじゃないかと思ってたんだ」
「そろそろって?」
ルイズは怪訝な顔をする。
「ルイズ、きみは以前のきみとはちょっと違う。パワーアップしてるのが、自分でもわかるだろ?
 フーケや夜盗の一味、そしてワルド……。きみはぼくの魔法を受けながら、何度も命をかけた戦いをした。それによって力が目覚めつつあるんだ。ぼくの魔法『ホワイトホワイトフレア』の副作用さ」
「へえ……」
ルイズは感心した声を上げた。回復、治療、強化、魔力の底上げ……。たったひとつの魔法で、ここまでいろいろなことができるものなのだろうか。
「……でも、結局は爆発なのよね」
「ぼくの魔法は、『元からある力』を強化するだけだからねえ」
申し訳なさそうに、ティトォが言った。ルイズはちょっと肩を落とした。

そうして話していると、廊下の先から誰かがこちらに向かってきた。
長い黒髪に、漆黒のマントの教師、ミスタ・ギトーであった。
いつぞやの授業の事を根に持っているのか、ギトーは意地の悪そうな目でじろりとルイズを見た。ルイズはすっかり縮こまってしまう。
「ミス・ヴァリエール。オールド・オスマンがお呼びである。すぐに学院長室に向かうように」
ギトーは淡々と告げた。ルイズはきょとんとした顔になる。
「オスマン氏が?」
「そうだ、早くしたまえ」
「は、はい」
ルイズはティトォを連れて、学院長室に向かおうとした。しかし「オホン!」とギトーが咳払いをしたので、ルイズは立ち止まった。
「オールド・オスマンはミス・ヴァリエールをお呼びである」
横目でティトォを見ながら、ギトーは棘のある声で言った。
つまり、使い魔であるティトォがオスマン氏に目通りするなど許されない、と言っているのだ。
オスマン氏はそんな差別するようなことは言わないだろう。なにせ、貴族の名をなくしたミス・ロングビルを秘書にしていたこともある。
しかしギトーは、性根から意地が悪いのだった。
ルイズはムッとしたが、教師に口答えするのはためらわれて、申し訳なさそうにティトォを見た。
ティトォはそんなルイズを見て、「別に気にしないよ。いってらっしゃい」と言った。


さて、ルイズが学院長室に向かったあと、一人残されたティトォは図書館に足を向けた。
趣味で絵を描いたり、ルイズと一緒に授業に出る以外は、大半の時間をここで過ごしている。
最初の頃は、オスマン氏からもらった利用許可証を司書に提出していたが、まあ、あんまり足しげく通うものだからすっかり顔を覚えられて、今では何もなくても入館を許可されていた。
「やあ、いつ見てもすごいなあ」
ティトォは嬉しそうに言った。
図書館で、まず圧倒されるのはその本棚である。三十メイルはあろうかという本棚が、まるで森のように立ち並んでいる。
古びた紙と、インクの匂いが独特な空気を作っている。ティトォはこの空気が好きだった。
ティトォは据え付けのはしごを上って、地上10メイルほどの棚から、一冊の本を取り出した。
それを持って中央の長テーブルにいくと、見知った顔がそこにいた。
青い紙の小さな少女、タバサ。ティトォにハルケギニアの字を教えてくれた子だ。
ティトォはタバサに近付くと、声をかけた。
「やあ、タバサ」
いつものように無視されるかと思ったが、なんとなく挨拶した。ティトォは人がいいのだった。
タバサの前の席に着き、本を広げて読みはじめる。そのとき……
「珍しい」
タバサが声をかけてきた。ちょっと意外で、ティトォは驚く。
「え、なにが?」
「あなたはいつも、学術書ばかり読んでると思ってた」
タバサはティトォの持ってきた本を指差した。それは、ハルケギニアの地理や歴史について書かれた本だった。
ハルケギニアの魔法はティトォにとってもの珍しいものばかりで、とても面白かった。だもんでついつい魔術書や、秘薬の製法なんかの本ばかりを読みあさるようになっていた。
しかし今日、ルイズに東方……、ロバ・アル・カリイエのことを言われて、ティトォは自分がハルケギニアそのものについてまだあまりよく知らないことに気が付いて、こうして勉強することにしたのである。
「うん、たまにはね」
ティトォはそう言った。そして、ふとあることに気が付いた。
「そう言えばきみは、図書館にいる時はいつも同じ本を読んでるね」
タバサはきょとんとした。
タバサは机で本を読む時、机に本を置いてページをめくっているので、ティトォに表紙は見えなかったのだが、本の汚れやページ端の小さな傷などで、タバサが読んでいるのが同じ本だと分かった。
タバサはいつも、種々様々な本を読んでいる。しかし図書室にいる時は、決まって同じ本を読んでいるのだ。
「何の本?」
ティトォは興味を惹かれ、尋ねた。
タバサは読んでいた本をぱたんと閉じると、愛しそうにそれを抱きしめた。
「これは、大切な本」
淡々と答えるが、その口調はどこか優しい響きがあった。
「母様との、思い出の本……」
タバサが、ぽつぽつと語りだした。
小さな頃、むずかる自分を寝かしつけるために、母が枕元で本を読んでくれたこと。
その頃、いちばん多く読んでもらった物語……。
「それがこの本。『イーヴァルディの勇者』」
『イーヴァルディの勇者』は、ハルケギニアではいちばんポピュラーな英雄譚である。
勇者イーヴァルディは始祖ブリミルの加護を受け、”剣”と”槍”を用いて龍や悪魔、亜人に怪物、様々な敵を打ち倒す。
メイジ……、貴族が主人公ではないため、主に平民に人気がある作品群だ。
これと言った原点が存在しないため、筋書きや登場人物など、無数のバリエーションに分かれている。
イーヴァルディは女性のこともあったし、男性のこともあった。神の息子だったときもあったし、妻だったこともあった。ただの人だったこともある。それだけいい加減な物語群なのである。
しかし、『イーヴァルディの勇者』はおもしろい。勧善懲悪、単純明快なストーリーは読むものを選ばない。そのために人気があって広く読まれているのだ。
タバサに読書の楽しみを教えてくれたのも、この本であった。
無口なタバサが優しそうな声で語るのを見て、ティトォは、ああ、この本は本当にタバサにとって大切なものなんだな……、と思った。
しかしふと、疑問に思う。
「なんで図書室で?」
タバサの性格なら、そんな大切な本は自分の部屋で静かに堪能したいもののではないだろうか?
タバサはちょっと俯いて、言った。
「この本は、『イーヴァルディの勇者』の物語群の中のひとつ。……でも、三十年前に焚書にされてしまった」
平民向けの物語である『イーヴァルディの勇者』は、ハルケギニアではまともな扱いを受けていないと言っていい。
研究するものは異端だの愚か者だの呼ばれ、神学や文学の表舞台には決して立つことはない。
焚書の憂き目にあったものも多い。
「とっくに絶版になっているから、ハルケギニア中探してももうほとんど残っていない貴重な本。貸し出しも禁止されているから、ここで読むしかない」
タバサは悲しそうに言って、胸に抱いていた本を机の上に置いた。
机に置かれた本の表紙を見て、ティトォの目が大きく見開かれた。
ティトォは、からからになった喉から、なんとか声を絞り出した。
「……タバサ」
「?」
急にティトォの声の調子が変わったので、タバサは不思議に思って、顔を上げた。
ティトォは真剣な顔で、机の上の『イーヴァルディの勇者』を見つめていた。
「……この本、焚書にされたって言ってたね。それはどうして?」
ティトォの変貌に、タバサは少し戸惑って言った。
「不敬とされた」
「不敬?」
ティトォが顔を上げる。
「そう。その本は、始祖ブリミルの伝説をベースとして作られた物語だから」
ティトォは愕然として、ふたたび本に目を落とした。
本の表紙には、豪奢な金文字でタイトルが記されている。
そこにはこのようにあった。
『イーヴァルディの勇者と大魔王デュデュマ』


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