あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

毒の爪の使い魔-31c


『あいつが死んで…俺は心底落ち込んだ。一時期は死のうかとも考えた…』


薄暗いスラム街をジャンガは一人寂しく歩いていく。


『けどよ…結局死ぬ事はできなかった。怖かった…てのもあるが…』


立ち止まり、首に巻いたマフラーを見る。


『あいつは…俺の事を最後まで案じてた。死ぬ最後の瞬間までよ…。
もし…ここで死んだら、その気持ちを裏切っちまうじゃねェか…』


ジャンガの目から涙が零れた。


『だから、俺は生きる事にした…。あいつに言われた生き方…賞金稼ぎを続けてよ…。
で、十年ほど経ったある日の事だ…。いつも通り賞金を受け取りにギルドへ行った時によ…その話を聞いた』


別の光景が広がる。

古めかしい造りだが、ジャンガの住居と比べればそれなりに清掃が行き届いている建物だった。
ジャンガは入り口の正面に在るカウンターへと向かう。
係員と思しき初老の亜人の男と会話を交わし、ジャンガは金を受け取る。
それを懐に入れるとジャンガは店を後にしようとする。

――なぁ、ジャンガ…ちょっといいか?――

――ンだ、急に?――

――お前とは長い付き合いだからな…この面白い話を耳に入れておいてやろうと思ったのさ――

――前置きはいいんだよ…、話すんなら話せ…―

――せっかちな奴だ。…”英雄ナハトゥム”…――

――ナハトゥム~? 何だ、そりゃ?――

――最近トレジャーハンターの間で飛び交ってる話題さ…。大昔、この大地を治めていた王様ナハトゥム。
その力は今じゃ考えられない位凄い物だったんだそうだ。その力…”ナハトの闇”を引き出す方法が何処かに在るんだとよ――

――…下らねェ。どうせ、どっかのホラ吹きが流した噂話だろうがよ? アホらし…――

――そうかもしれねぇさ…。だがよ…もし本当だったらどうだ? 大昔の英雄様だ…きっとトンでもない力かもしれないぜ?――

ジャンガは暫く何かを考えるように立ち尽くしていたが、そのまま外へと出て行った。


『英雄ナハトゥム……ナハトの闇……。正直、最初は本気になんかしてなかった。
ただ、あっちこっちでそんな話が囁かれていてよ…次第に俺も興味を惹かれるようになった』


――ナハトの闇ってのはどんな力が有るんだろうな?――

――俺が聞いた話じゃ”夢を自在に操れる”んだとよ――

――俺の方は”時間を超える事が出来る”とかだったぜ?――

――”死んだ奴を生き返らせる”って話もあったな――


『”死んだ者を蘇らせる”……その言葉が俺の耳に入った時、俺の興味は完全にナハトの闇に向いていた。
勿論、噂話は噂話だ……本当かどうかなんて定かじゃねェ…。けどよ…そんな事はどうでもよかった…。
ただ……ただ俺は……あいつにもう一度会いたかった…』


別の光景が映し出される。

ジャンガと金色の毛をした狼と思しき亜人の男と向き合っている。


その男の姿を見たルイズは驚いた。
前に夢の中で見たジャンガと対峙した亜人の少年とよく似ていたからだ。


ジャンガが男を見ながら笑う。

――キキキ…これから宜しく頼むゼ。”金色の死神”――

男もジャンガを見ながら笑う。

――ああ、こちらもな。”毒の爪”――

そうして互いに握手を交わす。


『結局、トレジャーハンターなんてやった事も無かった俺は、直ぐに手詰まりになった。
それで…その当時、バウンティハンターとしてもトレジャーハンターとしても腕の良いと評判だったあいつ…バッツと組む事にした。
――思えば、あいつら親子と会ったのは…これが初めてだったっけよ?』


「バッツって……やっぱり」
あの夢の中でもその名は出ていた。…あの亜人の少年が自分の父だと言っていた名だ。
ルイズの横でタバサは静かに目の前の光景を見つめている。
その脳裏を過ぎるのは以前、自分の実家でジャンガの口から語られた話。
(親子…)


ジャンガはバッツに連れられ、彼が取っている宿と思しき場所へと入る。
そして彼の借りている部屋へと案内された。

――ガンツ! 今帰ったぞ!――

そう言いながらバッツは扉を開ける。
中へと入るや、彼と良く似た亜人の少年が抱き付いてきた。

――親父!――


その少年を見てルイズは目を丸くする。
多少幼かったが、正しく夢の中でジャンガと対峙していた少年だった。


人懐っこい笑顔を振りまく少年とバッツを交互に見比べるジャンガ。

――お前…子持ちだったのか?――

――ああ、言い忘れてたな。そうなんだよ……と、ガンツ。まったく…甘えん坊だな――

自分に縋り付いてくる息子に困りながらも、バッツは嬉しそうだ。
それをジャンガは、どこか羨ましそうな表情で見つめていた。


『正直に言う……俺はあいつが子供を持っているって知った時、激しく嫉妬した。
バッツだけじゃない…、たとえ母がいなくても…こんな優しい親を持てた…ガンツ坊やにもだ。
親子の絆を深める二人が…憎らしくも思えた。自分勝手な理屈だけどよ……それでも羨ましかったんだよ。
そうして…俺とバッツとで賞金稼ぎと宝探しの日々が始まった。
東に西に賞金首やら秘宝やら、様々な物を探して旅をした。
次の獲物を決める度に宿を変えたが、決まった家を持たない事に疑問を感じてバッツに聞いた事があった。
そしたらよ…あいつの伴侶が死んじまってからは、ずっとこの生活を続けてるらしい。
旅を続けていれば…母親のいない寂しさも紛れると思ったんだとよ。ま、その辺の事情はあんまり詳しくねェ。
…あまり興味も無かったし、何より…”ナハトの闇”を探す為に利用しているだけだったしな…。
でもよ……それだけだ。”ナハトの闇”が見つかって、俺が使えるようになれば…それで良かったんだ。
いや、寧ろ…あいつとのコンビも悪くないとすら思ってたんだよ』


――なァ、いいのか? 俺がお前のマークなんざ付けてもよ?――

――構わないさ。俺とお前はコンビなんだからよ――

――そうかよ。なら…お言葉に甘えて――

言いながらジャンガは帽子に金色のマークを刻んだ。


『本当に充実した日々だったゼ。――そんな俺の思いに影が差し始めたのは……あの日からだったか?』


別の光景が浮かんだ。

ジャンガがギルドの外で退屈そうに欠伸をしていた。


『それはちょっとした偶然の一致による出来事だった。
その日のギルドは、いつもよりも賞金稼ぎがごった返していてよ…、俺はバッツが用事を済ますのを外で待っていた』


――ん?――

ふと、ジャンガが何かに気が付いたように目を向ける。
視線の先にはジャンガよりも多少は年を食っていそうな二人組みの亜人が、路地裏へと入っていく姿が在った。


『別に無視しても良かったんだがよ……と言うか、男追いかけてもつまらねェ。
だけどよ…虫の知らせとでも言うのか? 何故だか…俺はそいつらが気になった』


ジャンガは二人の後を追うようにして路地裏へと入っていく。
薄暗い道なき道を暫く進むと、二人の男が地面に座り込んで話し込んでいた。
タバコを咥え、懐から取り出した金を数えながら、あーだこーだと話をしている。
どうやら収入の分配を話し合っているようだった。
ジャンガはそれを暫く眺めていたが、やがて詰まらなくなったのか…背を向け歩き出した。

――それにしてもよ…最近は稼ぎが悪いな――

――ああ…まったくだ。楽して儲ける事ってできないもんかね?――

そんな男達の会話が聞こえるが、ジャンガは歩き去ろうとする。

――ま~たあのお偉いさんから仕事が来ないかね? …五年位前のようによ――

ジャンガの足が止まった。

――そうだな…、あの仕事は報酬の割には楽だった。…スラムの一軒家に火を点けるだけだったしよ――


ジャンガの両目が開かれた。――それは事の成り行きを見守っていたルイズとタバサも同様だった。
男達の会話は続く。


――でもよ…何だってあんな事をしなくちゃいけなかったのかね? 仮にも娘だろ?――

――名家のご息女がスラムで男と二人暮し…なんて、世間様に知られたくないんだろうな…――

――ま、そんなもんだろうな。親子の絆ってもんより立場ってのが重要だって事か――

――そうだな。実益とスラムに流れた我侭な子供…比べりゃどっちが重要かなんて誰でも解るしな――

ジャンガの身体が静かに震えだした。

――大体よ…親子の絆だ、愛だ、なんて言ってる奴は今時いないぜ?――

――そうだな。…やっぱり世の中”金”だしな――

――まぁ、あの女の子は気の毒だったけどよ、俺等を儲けさせてくれたんだから、少しは世の役に立ったと言えるんじゃね?――

――そうだよな~~ははは――

男達の笑い声が裏路地に響く。
それを静かに聞いていたジャンガは、その足を男達の方へと向けていた。
男達がジャンガに気が付き、驚きの表情を浮かべる。

――な、なんだ? お前?――

――テメェらに仕事を頼んだのは誰だ? 詳しく聞かせろ――

――聞いてやがったのかテメェ!?――

――聞かせろ…二度は言わねェ…――

しかし、男達は口封じの為か、愚かしくもジャンガに襲い掛かった。


…そこで一旦辺りが暗闇に包まれる。――そして別の光景が浮かんだ。

変わらない路地裏。
そこには三つの人影があった。
一人はジャンガ、他の二人は話をしていた男。
その男の一人は血塗れで地面に倒れている。
ジャンガの爪から血が滴っているところを見る限り、彼の仕業なのは間違い無い。
その血の滴り続ける爪を構えながら、ジャンガはもう一人の男へ歩み寄る。

――ひ、ひぃ!?――

――もう一度聞くゼ…、テメェらに仕事を頼んだのは誰だ?――

――…わ、解った…。言う…、言うから…助けてくれ…――

男は震えながらジャンガに情報を与える。
粗方聞き終わるや、ジャンガは立ち上がる。
男は、助かった、とでも思ったのか安堵の息を洩らし。――その直後だ。

ズバッ!

――がっ!?――

ジャンガの爪が男の胸を貫いた。
そのまま男は呆気ない最後を遂げた。
ジャンガは男二人を蹴飛ばして完全に死んだ事を確認すると、
詰まらなさそうに鼻を鳴らすや、その場を歩き去ろうとする。

――ん?――

ジャンガは唐突に足を止め、顔を上げる。
そこにはバッツが立っていた。

――ジャンガ…、何処へ行くつもりだ?――

――”何をしてるんだ?”とは聞かねェんだな?――

――ああ……見てたからな。…止めようと思ったが、間に合わなかった――

――そうかい? ま、別に助ける義理なんざ無ェだろ…、気にすんな――

それだけ言うとジャンガはバッツの横を素通りしようとする。
それをバッツは腕を掴んで止める。

――何だってんだよ?――

――ジャンガ……それは止めとけ――

――…何がだよ?――

――復讐をだ――

ジャンガの目付きが冷ややかな物になる。

――…お前には関係無いだろうが――

――確かに直接の関係は無い。だが、無意味な殺しは見過ごせないな――

ジャンガの目付きが更に鋭くなる。

――……無意味だ? 無意味なんかじゃねェ……俺の苦しみ、あいつの無念、それを教えてやる…。
そこに転がってる奴等に仕事頼んだ奴によ!――

ジャンガは掴まれた腕を力任せに振り解こうとする。
しかしバッツはジャンガの腕を離さない。

――離せよ……これ以上はテメェでも容赦しねェぞ?――

――…復讐をしたら、お前は満足するのか?――

――当然だ、解りきった事を聞くなよ?――

――そうか…。だが、それは一時の物だ。直ぐに後悔する事になる――

――なんで憎い奴殺した事を後悔するんだよ? 訳が解らねェ…――

――相手がどんなに憎い奴だろうが…殺す事に罪悪感を感じない者はいない――

――奇麗事だな――

――かもしれない。だが、お前は確実に後悔をする――

――何故だよ?――

――一緒に過ごして解った。お前は優しい性格をしている…、それに責任感も強い。…人殺しなど合わない――

――知った風な口を…――

――ジャンガ、お前の過去に何があったか…深くは踏み込まない。だが、賞金稼ぎの仕事と復讐を一緒にするな。
復讐は何も生まない…、悲しみと憎しみ…そして、新しい復讐を生むだけだ――

ジャンガは歯を噛み締める。

――なにより……お前の大事な奴がどう思うかを考えろ――

――……死んだ奴が笑ったり悲しんだりするかよ? 卑怯な言い方だゼ…――

――そうだな…、俺も卑怯な言い方だと思う。だが…それなら解るだろ、復讐を遂げる事が意味の有る事かどうかが――

――チッ…――

舌打ちをするジャンガの肩にバッツは手を置く。

――ジャンガ…復讐の事は忘れろ。俺も今あった事は忘れる。…さぁ、帰ろう――

バッツはジャンガの背を叩くと歩き出した。
その背を見つめながらジャンガは歯を噛み締めた。
そして、静かに呟いた。



――お前に何が解るんだよ……バッツ――



『殺意やら憎悪やら解らねェが…その時、俺は確かにバッツに好ましくない感情を抱いた。
正直…殺してやりたいとも思った…』


ルイズとタバサは最早言葉が無かった。


『でもよ……それを否定している自分もいた。なんでかって? …”ナハトの闇”を探すのが難しくなるからさ。
いや、そんな理由抜きで…バッツを殺したくないんだよ。
何故って……俺はあいつの事が気に入ってたからよ。
最初は利用するつもりで近づいただけだった…、だけどよ…いつの間にか相棒として気に入ってたんだ。
バッツだけじゃない…、甘えん坊なガンツ坊やも…嫌いじゃなかった。
だから、殺そうだなんて考えなかった……寧ろ、このままコンビを続けてもいいとさえ思った。…それなのに』


また別の光景が映し出される。

そこは遺跡のような場所だった。
壁には文字のような物や絵のような物が描かれている。
一部の壁や天井は罅が入ったり、壊れたりしており、長い年月が経っている事が解る。
どう言う仕組みなのか解らないが、遺跡の内部は所々から光が漏れており、明るく照らしていた。
その遺跡の中をジャンガとバッツは歩いていた。

――こいつは…いよいよ当たりかもしれねェな?――

ジャンガが辺りをキョロキョロと見回しながら呟く。
その間も、バッツは壁に手を添えながら、描かれた文字やら絵やらを熱心に見ている。

――おい、バッツ何か解ったか?――

ジャンガが声を掛けるも、バッツは答えない。
熱心なその様子にジャンガはため息を一つ吐くと、それっきり口を閉ざした。
途中、ジャンガは一つの黒い玉のような物を見つけて拾ったが、その玉は直ぐに砕けてしまった。
その瞬間、立ち眩みのような物をジャンガは感じたが……それも一瞬の事だった。

やがて、バッツとジャンガは今までよりも細かく文字と絵が刻まれた一つの大きな石碑を見つけた。

――こいつは…――

ジャンガが呆然とした表情で声を漏らす。
バッツはその内容に目を通していたが、徐々にその表情が青ざめていった。
その様子にジャンガは再び声を掛ける。

――おい…どうしたんだ、バッツ?――

――……ナハトの闇……――

その名前にジャンガの目が見開かれる。

――な、何だって!? ナハトの闇!? バッツ、そう書いてあるのか!?――

――…ああ…――

真っ青な表情で呟くバッツと正反対に、ジャンガは玩具を見つけた子供のような笑顔を浮かべる。

――や、やった! ここが当たりだった…そうだったんだ!!!――

喜ぶジャンガ。自分の捜し求めていた物が見つかったのだから、当然の反応だろう。
――だが、その喜びは束の間の物だった。

――帰るぞジャンガ――

突然、バッツが石碑に背を向けるや、ジャンガにこの場を撤収する事を告げた。
喜びの絶頂から不幸のどん底に叩き落されたジャンガの表情が一瞬で曇る。
そして、バッツの背に向かって怒鳴った。

――どう言う事だ、バッツ!?――

――言ったまでの意味だ…、帰るぞ――

――納得が行かねェ! ナハトの闇……ずっと捜し求めていた物がようやく見つかったんだ。
なのに…それを諦めろとでも言うのかよ!?――

――そうだ――

にべも無い返答。
ジャンガは納得しない様子だ。

――何故だ!?――

――過ぎた力だからだ。…これは俺達のような一介の賞金稼ぎが持っていい力じゃない…――

――そんなのは関係無ェ! 俺はこの力が必要だ…、この力で……あいつを…――

――死んだ人間を蘇らせるなんか出来るわけが無い――

――なんで断言できるんだよ!? 大体…テメェも伴侶亡くしてるんじゃねェかよ!?
生き返るんだったら…生き返らせたいとは思わねェのかよ!? 死んだ女には…もう興味も無ェってのかよ!?――

――例え可能だとしても、それは死者に対する冒涜だ――

――バッツ!!?――

――…此処での事は忘れろ。いいな?――

そう言うや、バッツはジャンガに背を向け歩き出した。

――バッツ!!?――

ジャンガは再三叫んだ。
だが、バッツが振り向く事は無かった。


瞬間、世界は暗転した。


『その時の俺には…あいつの言葉の意味、あいつの心理を理解する事は不可能だった…』


暗闇にジャンガの声が木霊する。


『ただただ……目の前を行く、テメェの思いを踏み躙る奴が…赦せなかった…。
それまで溜め込んでいた怒りが…憎しみが…一気に噴出すのを感じた』


――バァァァーーーーーッツゥゥゥーーーーー!!!――


『そして…俺は……』


暗闇に光が戻る。

ポタッ、ポタッ、ポタッ

地面に水が滴り落ちる音が響く。
だが、床に落ちるそれは水ではなかった。

何処までも紅い……真紅の液体が床に広がっている。

――ハァ…、ハァ…、ハァ…――

荒い呼吸音が響く。
ジャンガは爪を突き出す格好で息を荒げていた。
その爪の先端は――バッツの背を貫いていた。

――ゴフッ…――

バッツは貫かれた腹から血を流し、口からも大量の血を吐き出した。
ジャンガが爪を引き抜くと、バッツはよろめく様に二・三歩歩き、ジャンガを振り返る。

――…ジャンガ…――

――ハァ…、ハァ…、恨むなよ…バッツ――

バッツは膝を地面につき、苦しそうに血を吐き出す。
そして、ジャンガを見上げる。

――…ああ…恨むもんか…――

――な、何?――

予想外の言葉だったのかジャンガは目を見開く。
当然だろう。死ぬかもしれないような大怪我を負わされたのに、恨まないとはどう言う事か?
訳が解らないと言った表情のジャンガを見ながら、バッツは言葉を続ける。

――……本当は、解っているさ……、大切な者を亡くした者は…どうあっても…その幸せを取り戻したいと願う事は…。
だがな……そう言う悲しみは…人は……乗り越えていかなけりゃ…ならない…んだ……。だから…――

――……――

――だが……よく考えてみれば…そん…なのは……ただの独善だよな…?
お前の気持ちを……他人の俺が…、理解できるはずが…無いんだしよ…。
だから……これは…報いだ……、俺の独りよがりな…考えを…押し付けようとした……な…――

――バ、バッツ!?――

ジャンガはバッツに慌てて駆け寄った。
だが、どう見ても助かりそうにない傷だ。
バッツは息も絶え絶えな状態ながら、言葉を搾り出す。

――ジャンガ………せめて……お前は……真っ当に生きてくれ…。そして…――

そしてバッツは寂しげに笑い――

――…すまねぇな…――

――それだけ伝えると、息を引き取った。

ジャンガは暫く呆然となり、そのままの姿勢で佇んだ。

カランッ

突然、静寂を切り裂いて物音が響いた。
慌ててジャンガは顔を上げる。
そして、大きく目を見開いた。

――ガンツ坊や?――

彼の視線の先には呆然と立ち尽くすガンツの姿が在った。


『何も考えられなかった…』


――何で…――

幼いガンツが呟く。

――何でだよ…?――

再度呟く。
ジャンガは何も答えられないまま立ち尽くす。


『俺はあいつを真っ直ぐに見る事が出来なかった…』


――何でなんだよぉぉぉーーーーー!!?――

幼いガンツの絶叫が迸り、再び辺りを暗闇が支配した。


『気が付いたら、俺は走り出していた。…色んな事から逃げたかったのかもしれない。
バッツを殺した事から…、ガンツ坊やか親父を奪った事から…、そして…殺さないと言う誓いを破った弱い自分自身から…。
そして…、それから俺はまた各地を転々とした。賞金稼ぎとして名を轟かせるだけでなく、様々な悪事にも手を染めた。
…もう半ば自棄になってたのかもしれない。恨まれて殺されても構わないと本気で思ってた。
そんな生活を三年ほど続けていた時か? …ジョーカーに会って、ガーレンの野郎に会って……ナハトの闇を引き出そうとしていた』


そこで闇に光が戻る。

広がった光景は、あの遺跡だった。
そこにはジャンガとガンツの姿が在った。

――ああ、いかにも『毒の爪のジャンガ』様だ。で、坊やは何処の何方だい?――

――テメェ…よくもヌケヌケとぉ!!――

一瞬即発の状況だったが、直後にガンツは落とし穴に飲み込まれた。
そして、目の前の光景が掻き消える。


『最初は解らなかった…、完全に忘れていた…』


別の光景が浮かぶ。

対峙するジャンガとガンツの他に青い服装の猫の様な亜人の少年がいた。
しかし、二人は少年の事はそっちのけと言った様子だ。

――敵はとらせてもらうぜ! 裏切り者のジャンガ!!――

――敵? その銃…まさか、お前…?――

――こんな所で会えるとはな…、探したぜ、クソやろう!!――

叫びながら手にした銃の引き金を引く。
飛び出す銃弾を、ジャンガは軽やかなステップでかわしていく。

――キキキキキ、なるほどなァ…バッツの息子か。こりゃ…傑作だ!――


『本当に傑作だった…。なんせ…親父を殺した場所で、その息子と再び面逢わせる事になったんだ…。
もう会う事も無いと思ったのによ……どうして逢っちまったんだろうな?』


別の光景に変わる。

周囲が鉄の壁で囲まれ、金網状の橋が通路に掛かり、その下を溶けた鉄らしき物が流れている。
鍛冶屋の設備をそのまま拡大したかのような巨大な空間。
そこにジャンガとガンツはいた。

――キ…いい加減しつこいガキだなァ、よォ?――

――親父の無念を晴らす為なら地獄の果てでも追いかける!!――

ガンツは叫び、銃の引き金を引いた。


ジャンガに向かって怒りと恨みの雑ざった叫びを上げるガンツに、タバサは自分の姿を重ね合わせていた。


ガンツの撃った銃弾はジャンガに当たらない。
嘲り笑いながら余裕でかわし、彼を親父の形見だという大型の拳銃で吹き飛ばすと、その場を去った。
しかし、ガンツは諦めなかった。ジャンガへと必死に追い縋る。

――おいおい、またおめェか?――

――言ったろう、地獄の果てでも追いかけるってな!――

――ッたく、クソガキがッ――


『…殺したくはなかった。親父の命を奪ったんだから、寧ろ殺されるのは俺の方だ…。
だが、俺は死ぬのが怖い。このままやりあえば加減も何もせずに殺してしまうかもしれない…。
今のガンツ坊やに俺を倒す事が出来るとは到底思えなかった……だから』


――しゃあねェ…そのしつこさに免じて、…ほらよ――

ジャンガは手にした銃を宙に放り投げる。
唐突なジャンガのその行動にガンツは呆気に取られる。
その隙をジャンガは見逃さない。一瞬で駆け寄り、ガンツに爪で当身を食らわせた。
苦痛に顔を歪め、ガンツは地面に崩れ落ちる。
それをニヤニヤした笑みを浮かべながら、ジャンガが見下ろす。
手にした銃をガンツに向ける。

――毒爪は使わねェ。テメェは大好きな親父の銃に撃たれてくたばるんだ!――

――テ……メ……ェ……――

――地獄で親父と仲良くなァ!!!――


BANG!!!


――キーキキキキキキ…、餞別だァ…こいつはくれてやるゼ――

そう言ってジャンガは動かなくなったガンツに向かって銃を放る。
そして笑いながらその場を去っていった。


『殺さないように…俺はあの時、服から除いていたメダルを狙い撃った。
衝撃で気絶はしたが、命にはまァ別状は無いだろう。
こうして力の差を見せてやれば、あいつは諦めるかもしれない。
楽観視かもしれないが…本格的な殺し合いをするよりは幾分もマシだと思った。
それでもやりあう事になるなら殺されたい……そう思って、あの銃も渡した。
復讐なんて……下らないからよ…』


再び場面は切り替わる。

「ここ…?」
そこはルイズが一度見た場所だった。
ジャンガの言っていた月の世界。
そこにジャンガとガンツは立っていた。


――正念場だな、ジャンガ!――

――カッコつけんじゃねェよ、ガキが!――

二人は殺意を隠そうともしないで罵りあう。
そのまま戦いが始まってもおかしくなかったが、そうはならなかった。

――ぶっ倒す前に、一つ聞いておきたい事がある――

ガンツは静かな口調でジャンガに問いただした。


その会話を聞いてルイズは、あれ? と思った。
以前はこの部分の会話は聞き取れなかったはずなのだ。
なのに、今は鮮明に聞こえてくる。

そんな事を考える間も二人の会話は続く。


――テメェと親父は名コンビと呼ばれたトレジャーハンターだったはずだ。…だが、何故親父を裏切った!?――


『その言葉に、今更ながらこいつは迷いなんかを持ったのか? と俺は心配になった。
これから始まるのは本格的な殺し合い……加減なんか出来るはずが無い。
だから…俺は自分を徹底的な悪役に仕立て上げる事にした。事実をありのままに告げる事で』


――裏切ったァ? キキキ…そいつは違うな――

ジャンガはニヤリと笑う。

――バッツは最高のハンターだったからな…、最初から利用するつもりで近づいただけさ。
解るか? ムゥンズ遺跡を調べ”ナハトの闇”を引き出す方法を見つけたのは……ガンツ、おめェの親父なんだゼ?――

ジャンガの言葉にガンツの眉がピクリと動く。

――もっとも…それを利用するのに反対しやがったからな…、ちょいとあの世に行ってもらった訳だ。
腕が良いってのも考え物だよなァ~~? キキキキキ!――

――そうかい……――

ガンツの呟きは諦めたような、安堵したような、判断がし辛い感情が含まれているようだった。
しかし、顔を上げたガンツの瞳に迷いなどは無い。在るのは…純粋な怒りだけ。

――それじゃあ、遠慮はいらねぇな。…最初から遠慮なんてしてねぇけどよ!――

――キキキ、くたばりなァーーーッッッ!!!――

ジャンガの叫び声が響き渡り、両者は一斉に飛び出した。


「止めて…」
目の前の戦いを見ながらルイズは呟いた。
「止めてよ…、二人とも…」
届くはずが無い…、止まるはずが無い…、何せこれは過去の事……過ぎ去った出来事の記録。
それでもルイズは言わずにいられなかった。
どうして二人が殺しあわねばならないのだ…?
全ては不幸なすれ違い…、話し合えば解り合えるかもしれないのに…。
その気持ちはタバサも同じだった。
今なら彼が自分に復讐を止めて親を大事にしろと言った、あの時の言葉の全てが理解できる。
だから止めたい……しかし、それは出来ない事。

そして……決着はついた。

結果的にジャンガはガンツに敗れ、命乞いで見逃され、不意打ちを仕掛けて返り討ちにあった。

そこで、目の前の光景が掻き消えた。


『最後の授業のつもりだった……世の中にはどうしようもない奴は大勢居るんだって事を、教えておきたかった。
結果的に、お友達の坊やが割り込んだ所為で手元が狂っちまったがよ…。
まァ…最後にガンツ坊やに信頼できる相手ができたのを見れて良かったかもしれないがな…。
それで俺はクレバスに落ちて……終わりのはずだった。なのによ……』


――『なんだ?』――じゃないわよ!この馬鹿猫ぉぉぉぉぉ!!!――


「え?」
突然、自分の出した物ではない自分の声が響き渡り、ルイズは驚いた。
暗闇に光が戻り、別の光景が広がる。
それはあの日……ジャンガと始めて会話をした時の物だった。


『神様ってのは意地が悪いんだな…。いや…悪いのは俺の運か? まァどっちにしろ…俺は生き残った。
召喚だなんて…非常識な物でよ。おまけに…不愉快な事極まりない連中が大勢いるときた。
メイジだか貴族だか知らないが……力の有る連中が無い奴を虐げる…、最悪に不愉快だった』


ギーシュとの決闘の場面が広がる。
ジャンガの爪がギーシュを切り倒し、周囲の生徒達が悲鳴を上げる。


『連中が悲鳴を上げた瞬間……スカッとした。結局殺しそこねた、あいつのクソ親の分も悲鳴を聞けた気がしてよ。
まァ、本当ならこのまま全員血祭りで行くんだが……案外、ここも面白い事が解った』


次いでタバサとの決闘の場面が広がる。


『ガンツ坊やと同じ目を持ったタバサ嬢ちゃん。最初は面白い玩具程度にしか考えなかったなァ…。
でもよ…見ていれば見ているほど、俺やガンツ坊やに良く似ているのが解った。
どこまでも無鉄砲で…人の話を聞かないで…人と関わらないで…一人ぼっちでいて…。
まったくよ……心配掛けさせる奴だった…』


場面は更に移り変わる。

それは夜の学院で、コルベールとジャンガが対峙している物だった。


『バッツに似てると思ったが……その実、俺に似ていたあのオッサン。
”闇に堕ちたとしても、きっかけ一つで人は変われる”…なんて、陳腐な台詞吐いて、俺なんかを必死に諭して…。
おまけに…勝手にくたばりやがって…。ほんとに自分勝手な野郎だった…』


更に別の光景が広がる。

そこに映し出されるのはルイズと過ごした日々。
時にぶつかり、時に励まし、時に虐げられ、時に慰められた。
それらの日々を見てルイズは寂しげな表情を浮かべる。


『シェリーに”見た目”は似ている生意気なクソガキ。見た目以外は性格も体付きも似てない。
見ているだけでイライラする…そんな奴だったのによ、自然と放っておけなくなった。
別に同情だとかそんなんじゃないが……似てなかったのが段々と似てきたのかな?
まったく…、似てないなら最後までそれで通しやがれってんだよ…。中途半端に似やがって…』


目の前の光景が消え失せ、暗闇が支配した。
血の海が広がる中、立ち尽くすジャンガの姿が現れる。
ジャンガは天を仰いだ。


『俺は……ここに来るべくして来たのかな? それとも…本当はあのままクレバスの底でくたばるべきだったのか?』


「違う…」
目に涙を浮かべながらタバサが呟いた。
ルイズもまた同様に泣いていた。
「死ぬべき? 何勝手な事を言ってるのよ…あんた」

しかし、二人の言葉はジャンガには届かない。


『…まァ…どうでもいいか…。…どの道…これで終わりだしよ…』


ジャンガの身体が血の海に沈み始める。
それを見たルイズとタバサは必死に叫び、手を伸ばす。
だが、届かない……届くはずが無い。

と、ジャンガが寂しげな笑顔を浮かべながら、二人を振り返る。


『あいつらじゃないけどよ……最後の最後で……助けられた気がした…。
ルイズ嬢ちゃん…、タバサ嬢ちゃん…、色々とすまねェな……俺は…もう満足だ……』


完全に沈む瞬間、ジャンガの最後の声が響いた。


『ありがとよ…』


「「ジャンガァァァァァーーーーー!!!?」」


二人の絶叫が何処までも広がる暗闇に木霊した。


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