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重攻の使い魔-09


第9話『勝利の代償』


 背後で徐々に騒ぎが広まっているのを尻目に、一行は桟橋目指して走り続けていた。宿の主人には申し訳ない、本当に申し訳ないのだが、元はといえば酒場で襲ってきた暴漢共が悪いのだ。とにかくそういうことにしておいてでも、今自分達は逃げなければならない。もしも捕まったり、殺されでもしたら元の木阿弥だ。
 ワルドを戦闘とした一行は、建物に挟まれた階段をなだれ込むようにして駆け上がる。余り幅広とは言えない削り出しの階段を上りながら、ルイズはもしやライデンは通ることが出来ないのではないかと後ろを振り向いたが、かろうじて通行できているようだった。
 延々と走り続け、ワルドとライデンを除く一行は完全に息が上がっていた。足ががくがくと振るえ、壁を支えにどうにか階段を上りきる。階段を抜けた先は広い丘の上であり、そこには天を突くかのような巨木が悠然と聳え立っていた。広大な範囲へ四方八方にわたって広げられた枝には、まるで木の実のように幾つもの船が係留されている。

「追っ手の姿は見えるか?」
「はぁっ、はぁっ、いえっ、今の所、それらしい、影は、見えないわ……」

 待ち伏せと奇襲を受けた以上、敵は組織的に行動している可能性が高い。今は先刻の混乱で追撃がないだけかもしれないのだ。一刻たりとて気を緩めることはできない。
 もう数百年も以前に枯れてしまった大樹をくりぬいて造られた内部は、遥か上方まで完全な吹き抜けとなっている。ワルドは目当ての階段を見つけると、急かすように手振りをする。とはいえ先程から足の筋肉を酷使しているルイズたちにすればもう走れない所まできていたが、そこではたとフライを使えばいいことに気がついた。焦るあまり基本的なことを失念していたのだ。そのフライが使えないルイズはライデンに抱えてもらおうとしたその時、ワルドが叫んだ。

「まずい、上だ!」

 ルイズ達が声に釣られて、はっと見上げると20メイルほど上空に白い仮面を被った男が浮遊し、あろうことか詠唱に入っているのが見て取れた。男が黒塗りの杖を頭上に振り上げると、周囲の空気が急速に冷却されていく。仮面の男がどのような魔法を使おうとしているのか気付いたワルドは全員に警告する。

「全員逃げろ! 奴が使おうとしているのは……!」
「『ライトニング・クラウド』!」

 ライデンが魔法の棍棒を仮面の男へ向け、迎撃しようとしたが、半瞬の差で間に合わなかった。何かを鞭で打ち付けるような鋭い音が聞こえたかと思うと、男の周囲から敵を噛み殺さんとばかりに稲妻の竜が伸びる。さしものライデンとしても光速の攻撃を回避することはできず、赤い鎧を纏った巨体は超高圧の電流に蹂躙される。
 直撃を受けたライデンは全身を帯電させながら、地面へと膝を突いた。神の使途の如く、強大な力を振るっていた巨人が初めて敵の攻撃に屈した瞬間であった。

「ライデンっ!」

 ルイズが思わず駆け寄るが、鋼の巨人はクリスタルをせわしなく点滅させ、一向に動き出す気配がなかった。そんな馬鹿な、この強力な使い魔が打ち倒されるなどと。この困難な任務において最後の頼みの綱であったライデンを失い、主人であるルイズもその場に崩れる。

「くっ、すばしっこいわねぇ!」
「敵はスクウェア・メイジ。私たちでは勝てないかもしれない」

 キュルケやタバサ、ワルドらが魔法で応戦するが、攻撃が敵の体を捉えることはない。ひらりひらりと、寸での所で回避し続ける男は時折空気の塊を打ち据えてくる。ワルキューレを盾にすることで、どうにか凌いでいたが、一発が盾をすり抜けワルドたちに直撃した。
 敵の攻撃で一瞬足並みが乱れた隙を、白仮面は目ざとく認識すると、ライデンの傍で呆然としているルイズの背後に降り立つ。

「ルイズっ!」
「……え? っきゃああぁぁぁっ!!」

 抵抗する間もなくルイズは抱え上げられ、男は空中へと上昇する。

「おのれぇっ! 『エア・ハンマー』!」

 ワルドは高速で詠唱を行い、三連続で圧縮された空気弾を男目掛けて放つ。ルイズを抱えたことで若干動きが鈍った男は、ワルドの渾身の攻撃を完全に回避しきることができなかった。空気塊の一つに足を取られ、体勢を崩すと思わずルイズを手放してしまう。拘束から開放されたものの、空中に投げ出されたルイズは地面へ向けて真っ逆さまに落下していく。

「ワルキューレ、ルイズを受け止めろ!」

 薔薇を振りかぶり、一体のワルキューレに命令を出すと、ワルキューレは装備していた武装を放棄し、落下してくるルイズの元へ一目散に駆け寄る。跳躍しながら衝撃を吸収するようにルイズを受け止めると、即座にその場から退却する。
 体勢が崩れたことで、今度は逆に隙を作ってしまった男はキュルケとタバサによる集中攻撃を受け、地面へ墜落することとなった。一瞬倒れ伏すものの、即座に起き上がり再び攻撃に移ろうとした所で、残り二体のワルキューレが突進してくる。練成する数を減らしたことで、個体の膂力・防御力・速度が飛躍的に向上したワルキューレは、とどめを刺すことこそできなかったが、連携攻撃により男を転倒させることに成功した。それでもなお立ち上がろうと身を起こした男の目に映ったのは、先程から詠唱を続けていたワルドの姿だった。周囲の気温が急激に下がっていく。そしてワルドは一切の躊躇いなしに己が使用できる最大級の魔法を放つ。

「『ライトニング・クラウド』!!」

 先程仮面の男がライデンに膝をつかせた風系統最強の魔法は、相手のそれよりも更に太い雷撃であった。男が身動きするにも間に合うはずがなく、胴体の中心を打ち抜かれる。身を起こしかけていた男は全身を焦がしながら再度、地面に倒れ伏すこととなった。

「はぁっ、はぁっ、倒したか……?」

 しばらく警戒していたが、男が再び動き出す気配は見られなかった。どうにか突然の襲撃者を倒すことができたが、こちらも相当に消耗してしまった。これから先、またも不測の事態が発生しないとも限らない。ここでの消耗は一行にとって痛手となった。しかも最大の攻撃担当であったライデンが機能不全に陥り、任務の成功率はがた落ちしたといっても過言ではなかった。

「まさか敵がスクウェア・メイジを投入してくるとはな……。間違いなく反乱軍の一員だろう」

 ルイズは先程と同じように、やはりライデンの傍に座り込んでいた。表情からは感情が抜け落ち、完全に放心している。そんなルイズにワルドは苦々しい口調で話しかける。

「おそらく、昨日今日の戦いをどこかで眺めていたんだろうな。奴は真っ先に最大の脅威となる君の使い魔を潰しに来た。あの魔法で先手を打たれた時点で結果は決まっていたんだ。『ライトニング・クラウド』に耐えられる者などいはしない。残念だが、君の使い魔は……」
「……っ! 子爵、奴が!」

 同じように苦しげな表情をしていたギーシュは、黒焦げとなって転がっている男の異変に気がついた。その場にいた全員が一斉に振り向くと、男は驚いたことによろめきながらも立ち上がっていたのだ。懐から小さな手の平に収まる程度の球を取り出すと、こちらに向けて放り投げる。ワルドたちがまずいと考えた瞬間、球は盛大に煙を吐き出し、周囲の視界は全く効かなくなる。敵の攻撃が来るかと身構えていたが、結局煙が晴れるまで何も起きなかった。そしていつの間にか、男は姿を消していたのである。

「馬鹿な……。奴は本当に人間なのか……?」

 『カッタートルネード』とならんで風系統魔法の最高位に位置する『ライトニング・クラウド』の直撃を受けて尚も生きていられる人間が存在するなど信じがたい光景であった。あれだけ常識離れした能力を持っていたライデンですら一撃の下に倒してしまう魔法なのだ。姿を消した男が人間であるとは思えない。一同はまるで神か悪魔を見たような表情となる。
 しかし、そんな中ルイズだけは相変わらず呆然自失となっていた。ワルドが見やると、左手の薬指にはめられた『水のルビー』を動かなくなったライデンに押し付けている。

「どうして、どうして直せないのよ……。これで直せなかったら、どうすればいいのよっ……」

 必死でライデン修復を試みる婚約者の姿に、ワルドは悲しげな表情となる。一瞬躊躇ったあと、言いにくそうに話しかけた。

「……ルイズ、君はどうしたい? おそらく君の使い魔が元に戻ることはない、と思う。それに僕達はここに留まっているわけにはいかないんだ。動かない以上足手纏いにしかならない。残念だが置いていく他ないと思うが……」
「いや……いやよ……。ライデンはわたしの使い魔なんだもん……。初めての使い魔なんだもん……。置いていくなんてやだっ……、うっ、ううぅ……」

 遂に泣き出してしまったルイズに、一同は掛ける言葉がなかった。
 たとえ感情を持たない人形であっても、異質な力が少し怖くても、それでもライデンは自分にとって家族以外の初めての味方だった。自分が危ない時には真っ先に身を盾にして庇ってくれたのだ。確かにライデンに頼らないメイジになるとも決心したが、いなくなっても構わないということではない。徐々に点滅の感覚が長くなり、最後には完全に光を失ってしまったライデンの前で、ルイズは泣き崩れた。
 その時、それまで黙っていたタバサが口を開いた。

「あなたがその使い魔を置いていきたくないと言うのなら、シルフィードに運ばせればいい」

 青髪の少女はそう言うと、甲高く指笛を吹いた。すると吹き抜けになった上層部から主人と同じように青い鱗を持った竜が降下してきた。その口元には、どこに行ったか分からなくなっていた巨大モグラが咥えられていた。苦しげな鳴き声を上げ、じたばたと手足を動かしている。己の使い魔の無事を知ってギーシュは思わず抱きついた。

「ああっ、無事だったんだねヴェルダンデ! どこにいってしまったのかと心配していたんだよ!」

 感激してヴェルダンデに頬ずりしているギーシュは放っておき、キュルケが流石に労わるように声を掛ける。

「ほら、ルイズ。タバサもこう言ってるし、ね。大丈夫よ、きっとライデンを直す方法が見付かるわ」

 実際にはそんな保障はなかった。気休めだとしても、そう言う他になかったのだ。ワルドとキュルケ、タバサの三人でレビテーションを使い、どうにかライデンをシルフィードの背に載せると、一行は急いで船が係留してある桟橋へと向かう。未だ力の抜けているルイズはワルキューレに抱えられていた。




 階段を駆け上った先の桟橋として機能している巨大な枝を走り抜けると、そこに停泊していた船へと飛び込む。突然集団で乗り込んできた闖入者に、それまで甲板で寝こけていた船員が飛び起きる。船員はワルドたちの格好を見て、顔から血の気を引かせた。

「君、船長を呼んでもらおうか」
「へへへへいっ! 船長、せんちょおー!」

 船員は泡を食ったような勢いで船長室へと飛んでいった。しばらく待っていると、つばの広い帽子を被った初老の男性を連れて戻ってきた。船長らしい男性は、ワルドの格好を頭からつま先まで一通り眺めると、一応の敬意を払いながらも胡散臭そうな表情をした。

「して、なんの御用ですかな?」
「女王陛下直属のグリフォン隊隊長のジャン・ジャック・ワルド子爵だ。この船はアルビオンへの定期船なのだろう? 今すぐに出航してもらいたい。これは姫殿下直々の勅命だ。君達に拒否権は与えられていないことを伝えておこう」

 突然無理難題を押し付けられた船長は、勅命だと言われたのも関わらず反論してしまう。

「ちょ、ちょっと、無茶を言わんで下さい! 今この船にはアルビオンへの最短距離分の風石しか積んでおらんのですよ! 風石の予約は一杯で、今から新たに風石を確保するなんて無理です!」
「もちろん、こちらとしてもそのことは認識している。僕は風のスクウェアだ。足りない風石の分は僕が補おう。料金は言い値を払う」
「はぁ……、まあそれなら」

 その後、ワルドから積荷である硫黄の分も上乗せして料金を支払うとの言質を取り、思わぬ商談の成立に気分を良くした船長は、何事かと甲板に上がってきていた船員達へ矢継早に命令を出していく。気分よく眠っていたところを叩き起こされた船員達は、ぶつぶつと文句を零してはいたものの、船長の命令に逆らうこともなく、桟橋に括りつけられている舫い綱を解き放ち、横静索によじ登り帆を張った。
 繋留が解かれた船は一瞬空中に沈んだかと思いきや、風石の力を如何なく発揮してアルビオンへ向けて出航した。到着予定は明日の昼過ぎであることを聞くと、ワルドは糸の切れた人形のように壁を背にして座り込んでいるルイズへ足を向ける。その傍には主人と同じように赤いゴーレムが力無く足を放り出して座らされていた。

「ルイズ……、任務の話なのだが……」

 ワルドの言葉にもルイズは完全に無反応であった。仕方無しに三人固まって難しい顔をしていたギーシュを呼んで、今後の方策を練ることとする。あまり頼れる人物ではないが、出身がゲルマニアとガリアのキュルケとタバサに秘密任務を話す訳にはいかない。手招きに気付いたギーシュが小走りに近付いてくる。

「どうしました、子爵?」
「船長から聞いた話だが、ニューカッスル付近に陣を敷いた王軍は攻囲されて苦戦しているらしい」
「……ウェールズ皇太子は無事なのですか?」
「わからんよ。まだ存命ではいるらしいが……」

 二人は同じように苦い表情となる。思っていた以上に戦局は厳しいものだった。本陣付近まで攻め込まれているとなると、最早一週間ともつまい。更に手紙の回収を行うには分厚い敵陣を突っ切る以外に手段はない。この任務にタバサの風竜を使うわけにはいかないのだ。非常に困難な局面となることが予想された。

「反乱軍としても一応は無関係のトリステイン貴族に公然と手出しする訳にはいくまい。ただ、間違いなく検問を設けているだろうな。そこは隙をついて突破する以外に手段はない」

 ワルドの言葉にギーシュは緊張した表情を作る。トリステインの今後の命運を分けるこの任務、最大戦力であったライデンを失ってしまったのは余りにも痛かった。
 様々な人間の意志が交錯する中、船はアルビオンへ向けて一直線に飛行する。




 「空賊だ!」

 夜が明け、下半分が真っ白な雲に覆われたアルビオンを視界に入れたところで、甲板に船員の切羽詰った叫び声が響く。緊急事態を表す鐘ががらんがらんと打ち鳴らされ、それまで眠っていた船長と船員達が慌てて飛び出してくる。
 ワルドたちの乗る船の右舷上方に位置取る船は、所属する国家の端を掲げておらず、甲板から身を乗り出してこちらを眺める男達の格好は、どう見ても空賊以外にありえなかった。

「今すぐ逃げろ! 取り舵いっぱぁぁいっ!!」

 船長は船を空賊船から遠ざけようと命令を下すが、時既に遅し。高度を落として並走し始めていた空賊船は定期船の進路を遮るかのように大砲を放った。
 その後、マストに旗流信号を示す四色の旗が掲げられる。停船しなければ攻撃を行う。敵船の意思表示を受け、船長は一瞬悩む。今この船にはグリフォン隊の隊長と、数人のメイジが乗船している。助けを期待するかのような視線をワルドへ向けるが、ワルドはどうしようもないといった身振りをすると、溜息を付きながら告げた。

「魔法はこの船を浮かべるために打ち止めだ。それに彼女達も相当魔力を消耗していてね。あの船に従うしかない」

 これで破産だと頭を抱えて呟くと、観念したのか船長は停船命令を出す。
 空賊船は完全に定期船へと横付けすると、鉤付のロープを渡して次々とこちらへ乗り込んできた。日焼けして粗野な雰囲気を隠そうともしない男達が拡声器を片手に命令する。

「てめぇら、抵抗すんじゃねぇぞ! もしも逆らってみろ、すぐさま首を切り飛ばしてやる!」

 弓やフリントロック銃で武装した空賊は手馴れた様子で抵抗する船員を拘束していく。ギーシュやキュルケが思わず魔法を使おうとした時、目の前にすっと手を出されワルドに制止された。

「やめたまえ。いくら平民といえど、あれだけの数を相手に消耗した状態で戦うのは無謀だ。大砲がこちらを狙っていることも忘れてはいけない。……今はとにかく機を待つんだ」

 突然ずかずかと歩き回り始めた空族たちに、甲板で大人しくしていたグリフォンやヴェルダンデら使い魔が喚き始めた。空賊の一人が仲間の一人に身振りをすると、その男は杖を取り出し短く呪文を唱える。すると使い魔たちの頭上に小ぶりな雲が現れ、次の瞬間には纏めて寝息を立て始めてしまった。

「眠りの雲……、メイジまでいるのか」

 抵抗する人間がいなくなったところで、空賊の頭と思わしき男が乗り込んでくる。汗とグリース油で真っ黒に汚れたシャツの胸をはだけ、そこから覗いた胸板は逞しく、赤銅色に日焼けしていた。ぼさぼさに乱れた長髪は赤い布で適当に纏められ、口元は無精髭に覆われている。丁寧に左目は眼帯が巻かれ、まるで作り話に出てくるような男は乗り込むやいなや、船長を出すように命令する。

「ほう、てめぇが船長か。船の名前と積荷を答えろ。嘘をついたらいいことねぇぜ」

 曲刀で頬をなぜられ、震える足を押さえながら何とか立っている船長は正直に白状する。積荷が硫黄であるということを聞くと、空族たちは割れんばかりの歓声を上げる。男は船長の帽子を取り上げると、躊躇いなく自分の頭に被せた。

「マリー・ガラント号、いい船だ。全部丸ごと俺達が買ってやる。料金はてめぇらの命だがな。異論はねぇだろう?」

 がくりと船長が崩れ落ちるのを確認した所で、空賊の頭は座らせられている真紅のゴーレムに気付いた。値踏みするかのように下卑た笑を顔に貼り付けると、悠然とした足取りで近付いていく。

「ほほぅ。こいつは随分と変わったゴーレムだな。どこぞの悪趣味な貴族に売りつけたら結構な値段が付くかも知れねぇ」

 そう言ってライデンに触ろうとした時、隣で座り込んでいたルイズが猛然と立ち上がった。

「わたしの使い魔に触るんじゃないわよっ! あんたらなんかね、ライデンが無事だったら、無事だったらっ……!」

 頭は一瞬驚いたものの、少なくとも美少女といって差し支えないルイズの顔を見ると上機嫌になった。敵意を込めた視線を向けるルイズの顎を取ると、舌なめずりをした。

「へぇ、随分と別嬪な小娘だな……。お前、俺の嫁にしてやるぜ」
「触るなっ!」

 鋭く頭の手を払うと、銃を向けられるのも構わずに血走った目で睨み付ける。
 頭は面白そうに笑おうとして、はっとした表情になった。その視線はルイズの左薬指にはめられた指輪に集中している。しばらく考え込み、ふんと鼻を鳴らすと部下へ命令を下す。

「硫黄に加えて貴族様ときたか。おい! てめぇらこいつらも運び込め。あとでたんまりと身代金をふんだくれるぜ! それとそこのデカい人形も忘れるなよ!」

 ライデンがメイジの手で空賊船に運び込まれるのを見て、またしてもルイズは抵抗する。空賊に拘束され、身動きが取れなくなっても、ルイズは喚き続けた。
 一足先に船長室へと引き上げた頭の顔は、とても空賊とは思えない程に引き締まっていた。


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