今を遡る事数十年前。
タルブの村に3つの悪魔が呼び出された。
赤い炎の悪魔『神炎皇ウリア』
黄金の雷の悪魔『降雷皇ハモン』
蒼き最強の悪魔『幻魔皇ラビエル』
世界を破滅に導こうとした者が呼び出した3体の悪魔の出現は、タルブを中心に黒い雲を呼び出し、世界を闇に包み込んだ。
村人達は、これが世界の終焉かと思い絶望した。
だがそこへ、不思議な光とともに一人の青年が姿を現した。
青年は幾多の亜人を呼び出し、見たことも無い魔法でその悪魔と悪魔を呼び出したものに向かっていった。
中でも2体の亜人…青年が呼び出す幾多のモンスターと融合を繰り返しそのたびに姿を変える白い亜人の戦いに、村人達は目を奪われた。
3体の悪魔の攻撃を全て受け流し跳ね返す黒い亜人の力に、村人達は助けられた。
一体、また一体と悪魔達が白と黒二人の亜人によって倒される。
そして、その二人が融合した亜人…いや『超人』によって全ての悪魔は倒され、世界に平和が訪れた。
「そして、その青年はタルブの村に英雄として称えられ、末永く平和に暮らしましたとさ…ってあれ?
すみません。退屈だったでしょうか…?」
シエスタが語ったタルブの過去の物語。
シエスタの祖父という、遊城十代のハルキゲニアでの物語。
しかし、聞いていたメンバーの殆ど(タバサだけはやけに興味津々で聞いていた)がほうけた顔をしていた。
「あのねぇ、数十年前とはいえそんな世界が滅びるかもしれない出来事が、
トリステインで伝わっていないわけ無いでしょう。現に私は初耳よ。」
「う~ん…シエスタ君のおじいさんの年齢からすると…流石に私も生まれていないからねぇ。
オールド・オスマンならもしかすれば…しかし、私もその話は初耳だねぇ。」
ルイズ、コルベールは苦い顔をしていた。
「で、シエスタのおじいちゃんが戦いのときに使っていたカードのうちの1枚が、この『ハネクリボー』なのよね?」
キュルケが、海馬の手元に預けられている『ハネクリボー』のカードを覗き込みながら言った。
「ハネクリボー。俺のまだ見たことの無いカードだが、これに似たカードは良く知っている。」
「じゃあやっぱり、おじいちゃんは瀬人さんと同じ国の出身という…」
「まだ詳しくはわからん。他のカードは残っていないのか?」
そう言いながら海馬はシエスタにハネクリボーのカードを返した。
シエスタは、メイド服の胸元のポケットにハネクリボーのカードをしまいながら答えた。
「残りのカードは、ユベルさん…あ、さっきのお話の黒い亜人というのが、ユベルさんなんですが。
その人がおじいちゃんから預かっています。今は村から少し離れた山の中に住んでいるので、会おうと思えばいつでも…」
「良し、今から行くぞ。」
そそくさと食堂を飛び出そうとする海馬に、ずっこけながらもブレーキをかけるルイズ。
「ちょっと待ちなさい。そもそもここに集まったのはその話をするためじゃないわ!
ってタバサ、アンタもどこ行こうとしてんのよ。」
見ればタバサまでもが海馬とシエスタの手をつかんで外へ行こうとしている。
「物語の英雄…会いたい。」
「いやあの、どっちかといえばユベルさんは英雄って言うよりも、行き過ぎた恋する乙女って言う感じが…」
わけのわからない事をぶつぶつというシエスタを余所目に、ルイズが主題に戻す。
「そんな事よりも、セトは今度の使い魔品評会をどうにかする事が先でしょう!」
ルイズが怒号を上げながら強引に海馬を席につかせる。
そもそも、フーケの事件やらトリステイン城殴りこみ事件のせいで、そのことをすっかり忘れてしまっていたのはルイズのほうであるのだが
この際誰のせいとかいっている場合ではない。
「良いじゃない、セトに出てもらえば。ただの平民なら兎も角、ギーシュを倒すくらいのドラゴン呼べるんだし、
出して馬鹿にされるような事も無いでしょう?」
「本人が素直に出てくれるなら苦労はしないわよ!」
品評会のことを思い出したルイズは、その場で海馬に出場を頼んだのだが、当然の如く拒否された。
「誰が好き好んで見世物になるものか。タバサのように出場しなければ良いだろう。」
「そう言うわけには行かないわよ!姫様が見にいらっしゃるのよ!」
「だから、あの学芸会のようなくだらん見世物に参加しろというのか。
カエルやモグラと同列に扱われるなど、不快極まりない。」
「うぅ~…姫様に会わせる顔が無いわ…。」
だれたように机に突っ伏すルイズ。
と、そのルイズに後ろから声がかけられた。
「あら、別にそんな気を張って考えなくてもいいわよ、ルイズ。」
呼ばれてふと振り返ると、見慣れないメイドがいた。
紫がかった髪の毛と大きな瞳、そしてキュルケほどではないが、ルイズでは到底敵わない程度のバストを持った、一言で言うなら可愛いメイドだった。
「ちょっと、メイドが気安く話し掛けてるんじゃないわよ。あぁ、ついでに食堂から何か飲み物を持ってきて頂戴。」
「…はい、かしこまりました~♪」
何かを考えるように少し間を置いた後そう言うと、そのメイドは食堂のほうへ向かっていった。
と、ふとルイズが周りを見ると、コルベールとシエスタが真っ青な顔をしていた。
「……目がおかしくなったかな?そんな馬鹿な事が…」
「って言うか、アレ…いえあの方って…」
「なによ、どうかしたの?」
と、いうと食堂のほうからガシャーン!という皿が大量に割れる音がした。
と、同時にさっきのメイドが逃げるように走ってくる。
流石に冷静な頭でさっきのメイドを見れば、ルイズもアレが誰か理解できる。
「ひっ…姫様ぁぁぁぁぁぁ!?????」
タルブの村に3つの悪魔が呼び出された。
赤い炎の悪魔『神炎皇ウリア』
黄金の雷の悪魔『降雷皇ハモン』
蒼き最強の悪魔『幻魔皇ラビエル』
世界を破滅に導こうとした者が呼び出した3体の悪魔の出現は、タルブを中心に黒い雲を呼び出し、世界を闇に包み込んだ。
村人達は、これが世界の終焉かと思い絶望した。
だがそこへ、不思議な光とともに一人の青年が姿を現した。
青年は幾多の亜人を呼び出し、見たことも無い魔法でその悪魔と悪魔を呼び出したものに向かっていった。
中でも2体の亜人…青年が呼び出す幾多のモンスターと融合を繰り返しそのたびに姿を変える白い亜人の戦いに、村人達は目を奪われた。
3体の悪魔の攻撃を全て受け流し跳ね返す黒い亜人の力に、村人達は助けられた。
一体、また一体と悪魔達が白と黒二人の亜人によって倒される。
そして、その二人が融合した亜人…いや『超人』によって全ての悪魔は倒され、世界に平和が訪れた。
「そして、その青年はタルブの村に英雄として称えられ、末永く平和に暮らしましたとさ…ってあれ?
すみません。退屈だったでしょうか…?」
シエスタが語ったタルブの過去の物語。
シエスタの祖父という、遊城十代のハルキゲニアでの物語。
しかし、聞いていたメンバーの殆ど(タバサだけはやけに興味津々で聞いていた)がほうけた顔をしていた。
「あのねぇ、数十年前とはいえそんな世界が滅びるかもしれない出来事が、
トリステインで伝わっていないわけ無いでしょう。現に私は初耳よ。」
「う~ん…シエスタ君のおじいさんの年齢からすると…流石に私も生まれていないからねぇ。
オールド・オスマンならもしかすれば…しかし、私もその話は初耳だねぇ。」
ルイズ、コルベールは苦い顔をしていた。
「で、シエスタのおじいちゃんが戦いのときに使っていたカードのうちの1枚が、この『ハネクリボー』なのよね?」
キュルケが、海馬の手元に預けられている『ハネクリボー』のカードを覗き込みながら言った。
「ハネクリボー。俺のまだ見たことの無いカードだが、これに似たカードは良く知っている。」
「じゃあやっぱり、おじいちゃんは瀬人さんと同じ国の出身という…」
「まだ詳しくはわからん。他のカードは残っていないのか?」
そう言いながら海馬はシエスタにハネクリボーのカードを返した。
シエスタは、メイド服の胸元のポケットにハネクリボーのカードをしまいながら答えた。
「残りのカードは、ユベルさん…あ、さっきのお話の黒い亜人というのが、ユベルさんなんですが。
その人がおじいちゃんから預かっています。今は村から少し離れた山の中に住んでいるので、会おうと思えばいつでも…」
「良し、今から行くぞ。」
そそくさと食堂を飛び出そうとする海馬に、ずっこけながらもブレーキをかけるルイズ。
「ちょっと待ちなさい。そもそもここに集まったのはその話をするためじゃないわ!
ってタバサ、アンタもどこ行こうとしてんのよ。」
見ればタバサまでもが海馬とシエスタの手をつかんで外へ行こうとしている。
「物語の英雄…会いたい。」
「いやあの、どっちかといえばユベルさんは英雄って言うよりも、行き過ぎた恋する乙女って言う感じが…」
わけのわからない事をぶつぶつというシエスタを余所目に、ルイズが主題に戻す。
「そんな事よりも、セトは今度の使い魔品評会をどうにかする事が先でしょう!」
ルイズが怒号を上げながら強引に海馬を席につかせる。
そもそも、フーケの事件やらトリステイン城殴りこみ事件のせいで、そのことをすっかり忘れてしまっていたのはルイズのほうであるのだが
この際誰のせいとかいっている場合ではない。
「良いじゃない、セトに出てもらえば。ただの平民なら兎も角、ギーシュを倒すくらいのドラゴン呼べるんだし、
出して馬鹿にされるような事も無いでしょう?」
「本人が素直に出てくれるなら苦労はしないわよ!」
品評会のことを思い出したルイズは、その場で海馬に出場を頼んだのだが、当然の如く拒否された。
「誰が好き好んで見世物になるものか。タバサのように出場しなければ良いだろう。」
「そう言うわけには行かないわよ!姫様が見にいらっしゃるのよ!」
「だから、あの学芸会のようなくだらん見世物に参加しろというのか。
カエルやモグラと同列に扱われるなど、不快極まりない。」
「うぅ~…姫様に会わせる顔が無いわ…。」
だれたように机に突っ伏すルイズ。
と、そのルイズに後ろから声がかけられた。
「あら、別にそんな気を張って考えなくてもいいわよ、ルイズ。」
呼ばれてふと振り返ると、見慣れないメイドがいた。
紫がかった髪の毛と大きな瞳、そしてキュルケほどではないが、ルイズでは到底敵わない程度のバストを持った、一言で言うなら可愛いメイドだった。
「ちょっと、メイドが気安く話し掛けてるんじゃないわよ。あぁ、ついでに食堂から何か飲み物を持ってきて頂戴。」
「…はい、かしこまりました~♪」
何かを考えるように少し間を置いた後そう言うと、そのメイドは食堂のほうへ向かっていった。
と、ふとルイズが周りを見ると、コルベールとシエスタが真っ青な顔をしていた。
「……目がおかしくなったかな?そんな馬鹿な事が…」
「って言うか、アレ…いえあの方って…」
「なによ、どうかしたの?」
と、いうと食堂のほうからガシャーン!という皿が大量に割れる音がした。
と、同時にさっきのメイドが逃げるように走ってくる。
流石に冷静な頭でさっきのメイドを見れば、ルイズもアレが誰か理解できる。
「ひっ…姫様ぁぁぁぁぁぁ!?????」
で、場所が変わってここはルイズの部屋。
「ひ、ひどい騒ぎなってしまったわ…」
「それもルイズがお姫様に飲み物もって来いなんて言うからじゃない。」
「うっさい!って言うか、揃いも揃ってなんで私の部屋に逃げてくるのよ」
アンリエッタが学院に忍び(?)こんで来ていたことがばれてしまい、匿うようにルイズの部屋に案内したのだが、
結局あの場にいたメンバー全員がついてくるという不思議な状況が成立してしまった。
「ひ、ひどい騒ぎなってしまったわ…」
「それもルイズがお姫様に飲み物もって来いなんて言うからじゃない。」
「うっさい!って言うか、揃いも揃ってなんで私の部屋に逃げてくるのよ」
アンリエッタが学院に忍び(?)こんで来ていたことがばれてしまい、匿うようにルイズの部屋に案内したのだが、
結局あの場にいたメンバー全員がついてくるという不思議な状況が成立してしまった。
と、いつもの調子で口喧嘩をはじめかけるが、アンリエッタの前で醜態を晒すまいと冷静を装うルイズ。
「ひ、姫様。汚いところですが、どうぞ…」
「それは部屋に入れる前だろ。」
海馬の的確な突っ込みが入るが無視。
と、それまで後ろにいたコルベールが前に出て跪き、アンリエッタに話し掛けた。
「あの…失礼ながら姫殿下、学院にいらっしゃるのは明日の予定のはずだったと…」
「あなたは…?」
「本学院で火の講義を担当しております、ジャン・コルベールと申します。」
「コルベール教諭、本日私がここに来たのは全くの私用です。
……できれば、人知れずにルイズと瀬人さんにお会いして用事を告げたかったのですが。」
そう言いながら、アンリエッタは窓のほうへと歩いて行く。
そして全員に振り返り、毅然とした姫の顔で告げた。
「私はこれよりウェールズ皇太子よりあるものを返していただきに、アルビオンへと赴きます。
その道中の護衛として、ルイズさんと瀬人さんに付いて来て貰おうと思いここまで来たのです。」
「アルビオンって、戦争の真っ只中じゃない!!」
驚きのあまりキュルケが口を開く。
興味なさげに本を読んでいたタバサでさえも顔を上げていた。
信じられないという表情で、コルベールが立ち上がってアンリエッタに問う。
「気は確かですか姫殿下。今のアルビオンに向かうなど自殺行為。
まして姫殿下だけでなく学生のミス・ヴァリエールと、海馬君を連れて行くなど!」
「確かに、危険なことは承知しています。アルビオンの現状についても、言い方は悪いですが、コルベール教諭よりも存じているつもりです。」
「ならば…」
「おそらくアルビオン王家は滅びるでしょう。そして反乱軍…レコン・キスタの次の目標はこのトリステイン。
国力の乏しいトリステインではレコン・キスタに対抗できる力はありません。
そのためにトリステインは、ゲルマニアとの同盟を結ぶ事にしました。」
「ゲッ…ゲルマニアって、あんな野蛮な成り上がりの国と!?」
「悪かったわね、野蛮で。」
いつもならここで口喧嘩でもはじめるところだが、流石に空気を読んだのかそれ以上二人が続ける事は無かった。
「ゲルマニアが同盟に提示した条件は、私がゲルマニア皇帝に嫁ぐこと。
ですが、ウェールズ皇子の持つ手紙には、その婚姻を妨げる材料となりえるもの。
それがアルビオンの貴族の手に渡れば…」
「同盟は成らず、トリステイン、ゲルマニア両国は独力で自国防衛をしなければならなくなる。
2本の矢でも1本づつなら容易く折れる。」
こくん、とアンリエッタはうなずく。
「その通りです。そして先ほど、アルビオン王家に対する再度進攻が行われたという連絡が入りました。
事は一刻を争います。一刻も早く、その手紙を手に入れなければなりません。」
「しかし、それは姫様自らや、学生の彼らでなくても。王国の騎士隊の精鋭を使えばすむ事ではありませんか。」
「これは、私の行いが招いた失態です。私の手で手紙を返してもらわなければ意味がありません。
それに…トリステインの中には、すでにレコン・キスタの息のかかっているものが入り込んでいるようです。
そして、先日、療養中のはずのグリフォン隊隊長のワルド子爵が姿を消しました。」
「ワルド子爵が!?」
ルイズは先日自分が黒焦げにした男の事を思い出した。
まさか?と思いたかった。
幼少の頃憧れたあのワルドが国を裏切って敵に回るなど、ルイズには考えられない。
「姫様、それは何かの間違いです!先日だってワルド様は!」
「私も、そうは思いたくありません。ですが彼が行き先も残さずに姿を消し、
そのタイミングでアルビオン軍が進攻を開始する。私には、関わり無い事とは思えません。」
室内を沈黙が包み込む。
その静寂を破ったのは、海馬だった。
「事は一刻を争うのだろう。ならば、こんなところでだらだらとしている場合ではない。
一刻も早くアルビオンに向かい、その手紙を回収してくれば事は済む。」
「私も行くわ。姫様のためなら、私はどんな命であろうと成し遂げて見せます。」
二人の様子を見て、コルベールはストップをかける。
「ダメだ!いくら海馬君が強いデュエリストだろうと、危険には変わりない。
ましてミス・ヴァリエールや姫殿下が行くなど持っての他。」
「私が行かなければ、おそらくウェールズ皇太子は手紙を渡してはくれないでしょう。」
アンリエッタの言葉は嘘だった。
アンリエッタが書いた手紙でも渡せば、ウェールズはきっと手紙を返してくれるだろう。
だが、アンリエッタが戦禍から守りたかったのは手紙だけではなかった。
たぶん、戦争を境にウェールズは帰らぬ人となるであろう。
だからこそ、自分自身で最後に彼に会っておきたいと思った。
姫としてではなく、一人の少女としての淡い気持ち。
姫としては失格だろう。
だがそれでも、自分の思いだけは譲れなかった。
「私もいくわ。トリステインとゲルマニアの同盟が成立しなかったら、ゲルマニアも危険だもの。」
「…………」
無言だがタバサも行く気のようである。
「ミス・ツェルプストー!ミス・タバサまで…」
「コルベール。心配ならば、貴様が付いてきて守ってやればいいだけだ。
もっとも、身を守ってやらねば成らないのは、そこのルイズだけだろうがな。」
「なっ!どういう意味よ!?」
「…………」
「コルベール教諭、できれば力を貸して下さい。トリステインの人々を戦禍から一人でも救うために、
この作戦は必要不可欠なのです。」
「姫殿下…わかりました。この炎蛇のコルベール。姫様の剣としてお使いください。」
これでここにいるメイジの全員参加が決まった。
しかし、若干一名、この緊張した空気でどうしていいかわからない人物がいた。
シエスタである。
(アレ…?変な空気になってる。ど、どうしよう。平民の私なんかが聞いちゃっていい話じゃないはずなのに
変な緊張感から結局退室する事もできなくて話がどんどん大きくなってるし
あぁ、どうしよう。秘密を聞いたからには打ち首!!!なんてことになったりしたら…)
混乱しているシエスタを尻目に、どんどん話はすすんでいく。
と、アンリエッタがシエスタに目を向ける・
「それでは、出発は今夜です。それと…そこのメイドのあなた。」
「はっ!はい!?」
急に声をかけられ、その上その声の主がアンリエッタだったことで、声がひっくり返りながら返事をするシエスタ。
「あ、そんなに気負わなくっても…えっとお名前は?」
「シッ…シエスタと申します。」
「そう、シエスタ。ひとつ、あなたにお願いしたいことがあるの。」
「…はい?」
「ひ、姫様。汚いところですが、どうぞ…」
「それは部屋に入れる前だろ。」
海馬の的確な突っ込みが入るが無視。
と、それまで後ろにいたコルベールが前に出て跪き、アンリエッタに話し掛けた。
「あの…失礼ながら姫殿下、学院にいらっしゃるのは明日の予定のはずだったと…」
「あなたは…?」
「本学院で火の講義を担当しております、ジャン・コルベールと申します。」
「コルベール教諭、本日私がここに来たのは全くの私用です。
……できれば、人知れずにルイズと瀬人さんにお会いして用事を告げたかったのですが。」
そう言いながら、アンリエッタは窓のほうへと歩いて行く。
そして全員に振り返り、毅然とした姫の顔で告げた。
「私はこれよりウェールズ皇太子よりあるものを返していただきに、アルビオンへと赴きます。
その道中の護衛として、ルイズさんと瀬人さんに付いて来て貰おうと思いここまで来たのです。」
「アルビオンって、戦争の真っ只中じゃない!!」
驚きのあまりキュルケが口を開く。
興味なさげに本を読んでいたタバサでさえも顔を上げていた。
信じられないという表情で、コルベールが立ち上がってアンリエッタに問う。
「気は確かですか姫殿下。今のアルビオンに向かうなど自殺行為。
まして姫殿下だけでなく学生のミス・ヴァリエールと、海馬君を連れて行くなど!」
「確かに、危険なことは承知しています。アルビオンの現状についても、言い方は悪いですが、コルベール教諭よりも存じているつもりです。」
「ならば…」
「おそらくアルビオン王家は滅びるでしょう。そして反乱軍…レコン・キスタの次の目標はこのトリステイン。
国力の乏しいトリステインではレコン・キスタに対抗できる力はありません。
そのためにトリステインは、ゲルマニアとの同盟を結ぶ事にしました。」
「ゲッ…ゲルマニアって、あんな野蛮な成り上がりの国と!?」
「悪かったわね、野蛮で。」
いつもならここで口喧嘩でもはじめるところだが、流石に空気を読んだのかそれ以上二人が続ける事は無かった。
「ゲルマニアが同盟に提示した条件は、私がゲルマニア皇帝に嫁ぐこと。
ですが、ウェールズ皇子の持つ手紙には、その婚姻を妨げる材料となりえるもの。
それがアルビオンの貴族の手に渡れば…」
「同盟は成らず、トリステイン、ゲルマニア両国は独力で自国防衛をしなければならなくなる。
2本の矢でも1本づつなら容易く折れる。」
こくん、とアンリエッタはうなずく。
「その通りです。そして先ほど、アルビオン王家に対する再度進攻が行われたという連絡が入りました。
事は一刻を争います。一刻も早く、その手紙を手に入れなければなりません。」
「しかし、それは姫様自らや、学生の彼らでなくても。王国の騎士隊の精鋭を使えばすむ事ではありませんか。」
「これは、私の行いが招いた失態です。私の手で手紙を返してもらわなければ意味がありません。
それに…トリステインの中には、すでにレコン・キスタの息のかかっているものが入り込んでいるようです。
そして、先日、療養中のはずのグリフォン隊隊長のワルド子爵が姿を消しました。」
「ワルド子爵が!?」
ルイズは先日自分が黒焦げにした男の事を思い出した。
まさか?と思いたかった。
幼少の頃憧れたあのワルドが国を裏切って敵に回るなど、ルイズには考えられない。
「姫様、それは何かの間違いです!先日だってワルド様は!」
「私も、そうは思いたくありません。ですが彼が行き先も残さずに姿を消し、
そのタイミングでアルビオン軍が進攻を開始する。私には、関わり無い事とは思えません。」
室内を沈黙が包み込む。
その静寂を破ったのは、海馬だった。
「事は一刻を争うのだろう。ならば、こんなところでだらだらとしている場合ではない。
一刻も早くアルビオンに向かい、その手紙を回収してくれば事は済む。」
「私も行くわ。姫様のためなら、私はどんな命であろうと成し遂げて見せます。」
二人の様子を見て、コルベールはストップをかける。
「ダメだ!いくら海馬君が強いデュエリストだろうと、危険には変わりない。
ましてミス・ヴァリエールや姫殿下が行くなど持っての他。」
「私が行かなければ、おそらくウェールズ皇太子は手紙を渡してはくれないでしょう。」
アンリエッタの言葉は嘘だった。
アンリエッタが書いた手紙でも渡せば、ウェールズはきっと手紙を返してくれるだろう。
だが、アンリエッタが戦禍から守りたかったのは手紙だけではなかった。
たぶん、戦争を境にウェールズは帰らぬ人となるであろう。
だからこそ、自分自身で最後に彼に会っておきたいと思った。
姫としてではなく、一人の少女としての淡い気持ち。
姫としては失格だろう。
だがそれでも、自分の思いだけは譲れなかった。
「私もいくわ。トリステインとゲルマニアの同盟が成立しなかったら、ゲルマニアも危険だもの。」
「…………」
無言だがタバサも行く気のようである。
「ミス・ツェルプストー!ミス・タバサまで…」
「コルベール。心配ならば、貴様が付いてきて守ってやればいいだけだ。
もっとも、身を守ってやらねば成らないのは、そこのルイズだけだろうがな。」
「なっ!どういう意味よ!?」
「…………」
「コルベール教諭、できれば力を貸して下さい。トリステインの人々を戦禍から一人でも救うために、
この作戦は必要不可欠なのです。」
「姫殿下…わかりました。この炎蛇のコルベール。姫様の剣としてお使いください。」
これでここにいるメイジの全員参加が決まった。
しかし、若干一名、この緊張した空気でどうしていいかわからない人物がいた。
シエスタである。
(アレ…?変な空気になってる。ど、どうしよう。平民の私なんかが聞いちゃっていい話じゃないはずなのに
変な緊張感から結局退室する事もできなくて話がどんどん大きくなってるし
あぁ、どうしよう。秘密を聞いたからには打ち首!!!なんてことになったりしたら…)
混乱しているシエスタを尻目に、どんどん話はすすんでいく。
と、アンリエッタがシエスタに目を向ける・
「それでは、出発は今夜です。それと…そこのメイドのあなた。」
「はっ!はい!?」
急に声をかけられ、その上その声の主がアンリエッタだったことで、声がひっくり返りながら返事をするシエスタ。
「あ、そんなに気負わなくっても…えっとお名前は?」
「シッ…シエスタと申します。」
「そう、シエスタ。ひとつ、あなたにお願いしたいことがあるの。」
「…はい?」
日も暮れ夜もふけた頃、トリステイン街中の武器屋の扉を酔っ払いが鼻歌を歌いながらくぐっていく。
「ふ~んふ♪ふ♪ふ♪ふ~んふ~♪ぅお~いデル公、い~ま帰ったぞ~」
その武器屋の店主は店番のデルフリンガーに声をかけた。
店主の言葉に声を返すのは、会計の前に立っている椅子のうえに突き刺さった錆びついた剣。
「もう今更のことだからつっこまねぇけどよぉ、親父。剣の俺をレジにおいて飲みに出かけるのやめたほうが良いぜ?」
「なーにいってんだ。どうせお客なんか稀にしかこねぇし夜ぐらいだいじょうぶだいじょうぶ」
「とは言うがな、まさにお客さんがお待ちだよ。」
「あん?」
振り返ると奥の鎧とかの置き場所に数人、店主の帰りを待っていた。
武器屋という場所には似つかわしくないメイド服の少女が数人に、頭の禿げた背の高い男が一人。
そして店主はその中にルイズと海馬を見つけると、上機嫌に声をかけた。
「おや、この前の旦那とお嬢様じゃねぇですか。いや~この前はどうもすみませんでしたねぇ。
ついでにあの猫に取られちまった筆とかも取り返してもらっちゃって。」
少し薄い頭を掻きながら、店主が海馬たちに話し掛けると、メイド服の少女の内一人がそれに反応する。
「あ、その件はうちの飼い猫がご迷惑をおかけしました。」
「おぉ、あの猫はお嬢ちゃんの飼い猫だったのかい。いやいや、戻ってくりゃあこっちも文句なんかねぇって。
って…それにしてもお嬢ちゃんの顔、どっかで見たことがあるような…」
「おいおい親父よう、今時そんな口説き文句はねぇだろうよ。」
カチャカチャとデルフリンガーが鍔を鳴らしながらツッコミを入れる。
「ちげぇよデル公!ん~…酔ってるからか思い出せねぇ。」
などといっている間に、ルイズと海馬が奥のほうにあった兜や剣などを持ってレジのほうに現れた。
「この辺を貰っていくぞ。」
「別にデル公に置いていってもらっても良かったんですがねぇ。しかし、こんな時間に買い物なんて、何かあるんですかい?」
「あんたが知る必要なんて無いわよ!」
そういってドンと金貨の入った袋をレジに置く。
中身を確かめると店主は笑顔で対応する。
「こいつは失礼しました。ほい、確かに頂戴しました。」
「よし、行くぞ。」
海馬のその一言を合図に、全員が外へ出て行く。
猫の飼い主のメイドの少女が、愛らしい笑顔で手を振ってくるので、店主は鼻の下を伸ばしながら笑顔で返した。
ぞろぞろとその不思議な集団は外に止めていた馬車にのってどこかへ向かっていった。
「ん~…どっかで見たことがあったんだがなぁ。」
「気のせいだろ。それより、もうとっとと店閉めちまえよ。」
「ふ~んふ♪ふ♪ふ♪ふ~んふ~♪ぅお~いデル公、い~ま帰ったぞ~」
その武器屋の店主は店番のデルフリンガーに声をかけた。
店主の言葉に声を返すのは、会計の前に立っている椅子のうえに突き刺さった錆びついた剣。
「もう今更のことだからつっこまねぇけどよぉ、親父。剣の俺をレジにおいて飲みに出かけるのやめたほうが良いぜ?」
「なーにいってんだ。どうせお客なんか稀にしかこねぇし夜ぐらいだいじょうぶだいじょうぶ」
「とは言うがな、まさにお客さんがお待ちだよ。」
「あん?」
振り返ると奥の鎧とかの置き場所に数人、店主の帰りを待っていた。
武器屋という場所には似つかわしくないメイド服の少女が数人に、頭の禿げた背の高い男が一人。
そして店主はその中にルイズと海馬を見つけると、上機嫌に声をかけた。
「おや、この前の旦那とお嬢様じゃねぇですか。いや~この前はどうもすみませんでしたねぇ。
ついでにあの猫に取られちまった筆とかも取り返してもらっちゃって。」
少し薄い頭を掻きながら、店主が海馬たちに話し掛けると、メイド服の少女の内一人がそれに反応する。
「あ、その件はうちの飼い猫がご迷惑をおかけしました。」
「おぉ、あの猫はお嬢ちゃんの飼い猫だったのかい。いやいや、戻ってくりゃあこっちも文句なんかねぇって。
って…それにしてもお嬢ちゃんの顔、どっかで見たことがあるような…」
「おいおい親父よう、今時そんな口説き文句はねぇだろうよ。」
カチャカチャとデルフリンガーが鍔を鳴らしながらツッコミを入れる。
「ちげぇよデル公!ん~…酔ってるからか思い出せねぇ。」
などといっている間に、ルイズと海馬が奥のほうにあった兜や剣などを持ってレジのほうに現れた。
「この辺を貰っていくぞ。」
「別にデル公に置いていってもらっても良かったんですがねぇ。しかし、こんな時間に買い物なんて、何かあるんですかい?」
「あんたが知る必要なんて無いわよ!」
そういってドンと金貨の入った袋をレジに置く。
中身を確かめると店主は笑顔で対応する。
「こいつは失礼しました。ほい、確かに頂戴しました。」
「よし、行くぞ。」
海馬のその一言を合図に、全員が外へ出て行く。
猫の飼い主のメイドの少女が、愛らしい笑顔で手を振ってくるので、店主は鼻の下を伸ばしながら笑顔で返した。
ぞろぞろとその不思議な集団は外に止めていた馬車にのってどこかへ向かっていった。
「ん~…どっかで見たことがあったんだがなぁ。」
「気のせいだろ。それより、もうとっとと店閉めちまえよ。」
一方その頃のトリステイン城。
「……どうして、こんな事に…」
布団の中にいるアンリエッタはぼそっと愚痴る。
アンリエッタにとっては普段使うベッドではあるが、今その上に寝転がる彼女にとってはそのやわらかさも暖かさも
緊張を生みとてもではないが安らかに眠れるものではなかった。
「でも、姫様の『お願い』を断る事なんかできないし。」
そう、その布団の上にいるアンリエッタはアンリエッタにあらず。
シエスタであった。
アンリエッタのお願いとは、自分が戻るまでの数日自分の代理をしてくれというものだった。
『むっ、無理です無理無理。私が姫様の代わりなんて!』
『大丈夫よ。どうせたいした事はしていないわ。どこかに行くときも、窓の外に向かって笑顔で手を振っていればいいよ。』
『いえいえいえいえ、確かに魔法で顔は変えられても、立ち振る舞いとかでばれてしまいます!』
『なるべく早く戻ります。どうか、私の影武者となってください。』
(安請け合いするんじゃなかった。)
後悔の念でいっぱいになりながら、ベッドの天井を眺めていると、不意におなかの音が鳴るのに気づいた。
(それにしても意外だったなぁ…。お城の料理があんなにも…)
一言で言えば不味かった。
学院で賄いとはいえマルトーが作っている料理を普段から口にしているシエスタでは有るが、
平民である以上そんなに豪華な食事は今までしたことが無かった。
そして実際に口にした宮廷の豪華な料理は、想像とは程遠い味だったのだ。
まず、毒見を行った上に料理場から食卓までに無駄に長い距離があるために酷く冷めている。
しかも人数を考えていないのか大量にある料理の数々。
(あんな量…見てるだけでおなかいっぱいになっちゃう。しかも総じて全てが美味しくないなんて…。
もったいないお化けが出ちゃいますよ。…ダメだ。おなかすいた。)
遠めに見れば美味しそうに見えるのに、冷めて油が浮かんでいたりする料理を思い出す。
流石の不味さに少し吐き気を催したほどだ。
シエスタは緊張と空腹を紛らわせようと、布団を頭から被り強引に眠りにつこうとする。
(いつまで続くのかなぁ…)
シエスタはマルトーの作ってくれた料理や故郷の料理を思い出しながら、見知らぬ天井の部屋で夜を過ごすことになった。
「……どうして、こんな事に…」
布団の中にいるアンリエッタはぼそっと愚痴る。
アンリエッタにとっては普段使うベッドではあるが、今その上に寝転がる彼女にとってはそのやわらかさも暖かさも
緊張を生みとてもではないが安らかに眠れるものではなかった。
「でも、姫様の『お願い』を断る事なんかできないし。」
そう、その布団の上にいるアンリエッタはアンリエッタにあらず。
シエスタであった。
アンリエッタのお願いとは、自分が戻るまでの数日自分の代理をしてくれというものだった。
『むっ、無理です無理無理。私が姫様の代わりなんて!』
『大丈夫よ。どうせたいした事はしていないわ。どこかに行くときも、窓の外に向かって笑顔で手を振っていればいいよ。』
『いえいえいえいえ、確かに魔法で顔は変えられても、立ち振る舞いとかでばれてしまいます!』
『なるべく早く戻ります。どうか、私の影武者となってください。』
(安請け合いするんじゃなかった。)
後悔の念でいっぱいになりながら、ベッドの天井を眺めていると、不意におなかの音が鳴るのに気づいた。
(それにしても意外だったなぁ…。お城の料理があんなにも…)
一言で言えば不味かった。
学院で賄いとはいえマルトーが作っている料理を普段から口にしているシエスタでは有るが、
平民である以上そんなに豪華な食事は今までしたことが無かった。
そして実際に口にした宮廷の豪華な料理は、想像とは程遠い味だったのだ。
まず、毒見を行った上に料理場から食卓までに無駄に長い距離があるために酷く冷めている。
しかも人数を考えていないのか大量にある料理の数々。
(あんな量…見てるだけでおなかいっぱいになっちゃう。しかも総じて全てが美味しくないなんて…。
もったいないお化けが出ちゃいますよ。…ダメだ。おなかすいた。)
遠めに見れば美味しそうに見えるのに、冷めて油が浮かんでいたりする料理を思い出す。
流石の不味さに少し吐き気を催したほどだ。
シエスタは緊張と空腹を紛らわせようと、布団を頭から被り強引に眠りにつこうとする。
(いつまで続くのかなぁ…)
シエスタはマルトーの作ってくれた料理や故郷の料理を思い出しながら、見知らぬ天井の部屋で夜を過ごすことになった。