あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

重攻の使い魔-08


第8話『かくれんぼ』


 一行はラ・ロシェールで最も高級な宿である『女神の杵』に泊まることとなった。安宿を利用して先程の山賊騒ぎのような余計な厄介事を抱え込む可能性を少しでも減らすためだ。少なくともこの宿の中では値段に見合った秩序が保障される。この任務に関わる費用は全てアンリエッタの懐から出ることとなっており、金銭面での心配はなかった。
 だがルイズとしては友人であり敬うべき殿下から受け取った資金で、飛び込み参加してきたキュルケとタバサまでこの宿に泊めるのは甚だ不満であった。アンリエッタ直々に参加を認められたギーシュはともかく何故この二人までも面倒を見なければならないのか。不満は我慢の容量を超え、口を伝って表へと零れ出る。

「あんたたちはどっかの安宿にでも泊まってなさいよ」
「あぁら、こぉんな美女を野獣だらけの安宿に追い出すなんて薄情ねぇ。もしものことがあったらどう責任取るつもり?」
「わたしはあんたがどうなろうと知ったこっちゃないし、色目を使われても何とも思わないわよ」

 タバサはいがみ合う二人をよそに、ロビーに設えられた岩盤削りだしのテーブルで読書に耽っている。ギーシュはというと、使い魔のヴェルダンデとじゃれ合っていた。アルビオンへの定期便乗船のため、ワルドが桟橋へと交渉に向かっている間の暇を持て余しているようだった。高級宿のロビーに何やら統一感のない珍妙な集団がやってきたことで、一向は他の宿泊客の注目を集めていた。
 その中でも最も人目を引いたのは、キュルケの美貌でもなく床の上で転がる巨大モグラでもなく、超然とした態度で立ち尽くすライデンだった。2・5メイルの長身のため、学院よりは手狭なこの宿では部屋へ入れることはできない。結果ロビーの置物と化しているのだが、先程のライデンが起こした騒ぎを目撃していた者もいたようで、遠巻きにひそひそと囁き合う光景がちらほらと見受けられた。
 その時、交渉へ出向いていたワルドが帰ってくる。石造りの椅子へ腰を下ろすと、困ったことになったとばかりに軽く溜息を付いた。

「参ったね。アルビオンへの定期船は明後日にならないと出ないそうだ」
「そんな……、せっかく急いでここまで来たのに……」

 思わぬ場所で足止めを食うこととなり、ルイズは思わず肩を落とす。一刻を争うこの任務は、一日の遅れが致命的な結果をもたらしかねない。ここで地団駄を踏んだとしても何も変わらないのだが、それでもどうしようもない現実に腹を立ててしまう。
 落ち込んだと思いきや、不満だらけな表情を見せたりと、せわしないルイズの肩をワルドが優しく叩く。

「仕方がないよ。どちらにせよ今日は休むことになるんだ。明日もう一度船を出せないか交渉してみるよ」

 見回すと、明日出航できないことに疑問を感じて首を傾げるキュルケにタバサが小声で解説しているのが見える。ギーシュは特に疑問を挟む様子もなく、ふんふんと頷いていた。ワルドは受付から受け取った鍵束をテーブルの上に置き、部屋割りを決めていく。

「キュルケ君とタバサ君は相部屋。ギーシュ君は一人部屋だ。で、僕とルイズは同室。構わないだろうルイズ?」

 何気なく言い放たれた言葉に、ルイズの反応が一瞬遅れた。そしてはっとなると、勢いよく首を左右に振りながら拒絶する。

「だだだ駄目よ! わたしたちまだ結婚してるわけじゃないのよ!? なのに同室なんて……」
「別に疚しいことをしようとしているわけではないよ。ただ大事な話があるんだ。できれば二人だけで話をしたい」

 真剣な表情でそう迫られると、ルイズとしても強く拒絶できなかった。誰か助け舟を出してくれる人間がいないかと周囲を見回すも、にやにやと含み笑いを顔に貼り付けたキュルケと我関せずのタバサ、後はこちらの内心など理解しそうもないギーシュしかいなかった。ライデンに頼んでワルドを引き剥がすのも気が引ける。結局部屋割りが変更されることはなく、空気に流されるがままにワルドと相部屋となってしまった。




 ラ・ロシェール最高の宿、更にその中でも最高級の部屋だけあり、天蓋付のベッドには相当に値が張ると思われる秀麗な刺繍が施されたレースのカーテンが取り付けられていた。削りだしで作られた部屋の壁は顔が映るほどに磨き上げられ、床には腕の立つ職人の手によって編まれた赤い絨毯が敷かれている。
 ワルドは備え付けられているボトルラックから年代物の高級ワインを一本取り出し、ワイングラスを二つ手に取ると、テーブルへと腰掛けた。ルイズも同じように腰を下ろすと、置かれたグラスにワインが注がれる。深みのある色を湛えた赤ワインだった。
 ワルドがグラスを掲げ、ルイズもまたそれに答える。二つのグラスはかちんと小気味よい音を立て、注がれたワインが波打つ。

「姫殿下からお預かりした手紙は持っているかい?」

 ルイズは小さく頷くと、手紙の収められたポケットを服の上から押さえた。
 預かった手紙の内容、おそらく自分が予想している通りの内容なのだろう。ウェールズ皇太子へ向けて送られたというのは、きっとそういうことなのだ。自分にはまだそこまで強く想える相手はいない。もしも、アンリエッタが普通の貴族に生まれていたならば、今頃自由に遊びまわり、望む相手と結ばれていたかもしれない。自分とももっと近しい関係でいられたかもしれない。ルイズはとりとめのない思索に耽る。
 その沈黙をどう受け取ったか、ワルドは安心させるように優しい声音で話しかける。

「不安なのかい? ウェールズ皇太子から無事に手紙を取り戻せるのかどうかが」
「……ええ、そうね。不安だわ」

 実際には別のことを考えていたのだが、余計な面倒を起こすこともないと、とりあえずルイズは頷く。
 ルイズの返答を聞くと、ワルドは笑顔を交えながら励ますように言う。

「大丈夫だよ。きっと上手くいくさ。なにせ僕がついているんだからね」

 その言葉にルイズは違和感を覚える。本当にワルドがいれば問題ないのだろうか。むしろ強烈な力を見せ付けたライデンの前で、グリフォン隊隊長がどれほどの物だと言うのだろう。もしかしたらどうあってもライデンに勝てないという現実を認めたくないのかもしれない。もとよりライデンを打ち倒せるメイジがいるのかどうか、疑問符が付く所であった。始祖ブリミルが行使していたという伝説の系統『虚無』ならばどうだろう。倒せないまでも抑止力にはなるかもしれない。ルイズは神の気まぐれによって授けられた、ライデンという形をした力を持て余していた。
 とりあえず思考を打ち切り、大事な話とやらを切り出すことにする。

「それで、大事な話って何なの?」
「……覚えているかい? あの日、君の屋敷の中庭にある池で交わした約束……」

 ワルドは遠い記憶を探り出すように、情感を多分に含ませた声で語り始める。ルイズがいつも母親に叱られていたこと、出来のいい姉と比較されていたこと、悲しくなると池に浮かべられた小船の中で泣いていたこと、どれもが今のルイズに繋がる余り楽しいとは言えない思い出だった。

「でも僕はそれは間違いだと、ずっと思っていたんだ。確かに君は不器用で失敗ばかりしていたけれど……」
「意地悪なことばっかり言うのね」

 正直ルイズにとって、この手の過去を話題にされるのは不愉快だった。なにせ現在になっても未だ連綿と繋がっているのだ。自らの不出来を他人の口から語られるのは気分のいいものではない。
 苛立ちを顔に浮かべたルイズを見て、ワルドは慌てて話を続ける。

「違うんだよルイズ。僕は君を貶めてるわけじゃないんだ。君は失敗ばかりしていると思われがちだが、それこそが他人にはない特別な力を持っている証なんだ。僕は自分が並みのメイジではないと自負している。だからこそ君が素晴らしいメイジとなる素質を持っていることが判るんだ」

 余りにも突飛なことを言い出したワルドにルイズは疑わしげな表情を作る。出来損ないの自分を持ち上げるなど、どうかしている。
 己の話を信用していないルイズに構わず、ワルドは更に捲くし立てた。

「君の使い魔、ライデンと言ったね。あのゴーレムの左拳に刻まれたルーン、あれは始祖ブリミルが使役していたと言われる伝説の使い魔『ガンダールヴ』の印なんだ」
「ライデンが伝説の使い魔? そんなこと……」

 そんなことが、もしかしたらあるのかもしれない。ワルキューレを紙屑を扱うかのように蹴散らした決闘、山賊たちを骨すら残さず消滅させたあの事件、キュルケのサラマンダーだろうがタバサの風竜だろうが、きっと瞬く間に倒してしまうであろう己の使い魔。まるで神の眷属とも思えるライデンの姿に、ルイズは否定することができなかった。
 動揺する様子を見せるルイズに、ワルドは鋭い視線を向ける。

「君は間違いなく偉大なメイジになる。僕なんて比較にならないほどにね。そう、始祖ブリミルのように歴史に名を残す、ともすれば君自身が伝説と呼ばれるようになるだろう。僕はそれを確信している」

 今までの価値観の全てが変わってしまったかのような錯覚。自分が始祖ブリミルのようなメイジになる。幼い頃から無能と蔑まれ、卑屈な精神にならざるを得ない環境で育ってきたルイズにとって、一連の話は余りにも衝撃的だった。
 畳み掛けるかのようにワルドはとどめの言葉を放つ。

「この任務が終わったら結婚しよう。僕は今の地位に甘んじるつもりはない。いずれ真の力に目覚めた君に釣りあう男になるためにも、一国を、いやハルケギニア全土を動かせる貴族となってみせる」

 余りに唐突な求婚。確かに道中で散々婚約者だと言っていたが、この任務終了と同時に結婚するなど性急すぎる。思わず拒絶の言葉が口をついて出る。

「そ、そんな急に言われても……。わたし心の準備が……」
「僕にとっては急じゃない。ずっと、ずっと前から君と結婚したいと考えていた」
「で、でも、わたしまだ子供だし……」
「16歳は子供じゃないよ。君は自分のことはもう自分で決められるはずだ。父上にも許しを頂いている」

 ルイズがどれだけ拒絶の口実を作った所で、ワルドは執拗に食い下がってくる。

「確かに10年間も放っておいたことは謝るよ。今更婚約者だなんて言えた義理ではないことも分かってる。だがそれでも、僕には君が必要なんだ。君以外の女性では駄目なんだよ」
「ワルド……」

 常識的に考えれば、これほど情熱的に求愛されれば頷くだろう。文武あらゆる面で優れた男に必要とされるのは、女にとって最高の幸せに違いない。しかし、ルイズはどうしても首を縦に振ることができなかった。どれだけ求められても、目の前の男を信用しきれないのだ。10年ぶりに再会した男女、幼い頃の婚約を忘れなかった男、一途に女を思い続けた男、実にドラマティックだ。だが余りにもでき過ぎてはいないか。その後の伝説の使い魔の話や、熱っぽく語った野心が尚更疑惑に拍車をかける。
 ワルドは黙ってしまったルイズを見て、悲しげな表情を作る。

「僕では駄目なのかい、ルイズ……?」
「わたし……、わたしは……」

 ルイズがどうやっても頷かないのを見ると、ワルドは大げさな手振りを交えて一転して明るい口調になった。

「まあいいさ、今返事をくれとは言わない。何しろ急な話だからね。君が混乱するのも無理はないよ」
「……うん」
「でも僕は諦めはしないよ。この旅できっと君を振り向かせてみせる」

 ふと俯いていた顔を上げた時、ワルドの瞳に狂的な何かを感じ取ったルイズはすぐさまに目を伏せてしまう。どうして、どうしてこの男はこれほどまでに自分を求めるのだろう。自分に秘められた力とやらが欲しいだけなのではないか。新たな不信が積み上げられる。

「もう寝よう。疲れただろう?」

 ワルドが自然な動作で口付けを迫ろうとしたが、ルイズはやんわりとそれを拒絶した。やれやれと言わんばかりに肩をすくめると、ワルドは呟く。

「急がないよ、僕は」




 もの静かな洋館。そこに人影はなく、月明かりに照らされたその姿は、どこかしらおぞましい雰囲気を纏っている。空に浮かぶ月は銀色に輝き、地上を睥睨している。その洋館の玄関口にルイズは立ち尽くしていた。なぜ自分はこんな場所にいるのだろう。理由などない。強いて言うならば、ここにいるのがその理由なのだ。そこに疑問が挟まれる余地はない。
 洋館の周囲は雑草が茂り、長い間ここに人間が訪れていないことを物語っている。ふと、ルイズはこの館に入らなければならない衝動に駆られた。とにかく入らなければ、そこにはやはり疑問はない。
 長年放置され、さび付いた蝶番が軋みを上げる。どうにか扉を開くと、内部は当然暗闇に支配されていた。しかし、窓の傍は月明かりが差し込み、宙を舞う埃が光の舞踏祭を広げていた。ルイズは玄関ロビー奥の扉へと向かう。床に散らばったガラクタを蹴飛ばすたびに静かな洋館に音が響き、設えられた棚の上には眼球を失くした人形が、虚ろな瞳をルイズへと向けている。
 その時、どこからか泣き声が聞こえてきた。

「誰かが泣いてるのかしら……」

 泣き声に引き寄せられるようにルイズは奥へ奥へと足を進める。しばらくすると暗闇にも目が慣れ、ぼんやりとではあるが室内を見渡すことができた。足が折れて倒れた椅子。分厚く埃の積もったテーブル。床には皿や鍋などの食器が散らばっている。どうやらここは食堂のようだった。
 そしてまたしても件の泣き声が響く。よく聞くと、階上から聞こえてくるようだ。ルイズは食堂を出て、上へと向かう階段を探す。月光に照らされた廊下をしばらく歩くと、館の端に位置する場所に階段を見つけた。手すりは折れ、所々踏み板が抜けている。足を挟まないように慎重に二階へと上る。三階へ向かう階段はなかったので、とりあえず廊下伝いに進んだ。ある扉を開けると、そこは書斎らしかった。主人を失った多くの書物には埃が積もり、中々帰ってこない主人を健気に待ち続けている様でもあった。
 試しにルイズが一冊取り出してみると、ふわりと埃が舞う。咳き込みながら書物を開くと、そこには見たこともない文字でなにやら長々と書き連ねられていた。

「なにこれ? どこの言葉かしら」

 適当にページをめくると、いくつか図説が載っているの目に留めた。人間のような人間でないような、いうなれば人形の絵がそこに描かれている。ここは異国の人形師の屋敷なのだろうか。それきり興味を失くしたルイズは本を閉じると、元の位置に戻した。扉を開けっ放しにして書斎を出ると、またしても泣き声がする。

「もう、どこにいるのよ」

 階上から響く声に、流石に苛立ちながら階段を探す。こんな奇妙な設計の屋敷に住むなんて、主人も相当な変人だったに違いない。廊下に散らばる瓦礫を踏み抜き、砕きながら目的の三階へ向かう階段を見つけた。先程の階段と大差ない風化ぶりだったが、気にせず上へと向かう。三階へ上がってみると、水平方向から声が聞こえた。どうやらこの階にいるらしい。これまではくぐもってよく聞こえなかった声が若干明瞭になる。

「……るのー? パ……姉様ぁ……」

 耳を澄まして聞く限り、どうやら幼い女の子のようだ。こんな廃屋に少女が一人泣いているのは異常なことであったが、ルイズは特に疑問に思わない。そういうことになっているのだから、考えるだけ無駄なのだ。廊下を進むと、窓から館を取り囲む森を見渡すことができた。背の低い木がほとんどだったので、割かし遠くまで見通せるのだが、視界に人間が住むような建物は一つとして見当たらなかった。
 そうしている内に、少女が泣いているであろう部屋の前に到着した。流石にこの距離となるとはっきりと聞こえる。父親と姉とはぐれ、泣きじゃくっているらしい。ルイズは錆付き、かつては美しい輝きを放っていたと思われるドアノブを掴み、静かに扉を開いた。開いた扉から差し込む月の光に照らされ、果たしてそこにいたのは、橙色のワンピースを身につけ、同じ色の三角帽子をかぶった、見た所10歳かそこらの少女だった。

「パパ、お姉様……お願い、ここから出してよぅ。寂しいよぅ、悲しいよぅ。あたしもお外に出たいよぅ……」

 少女は背を向けているので顔はよく分からない。だがルイズはとにかく慰めなければならないと思った。

「お嬢ちゃん、どうしたの?」
「ぐすっ、パパたちがね、あたしをここから出してくれないの……」

 はぐれたわけではなく置いていかれたようだ。親とも思えぬ所業にルイズは思わず腹を立てる。この泣きじゃくっている少女の力になりたい、ならねばならない。そう考えると、少女を遊びに誘う。それは一種の強迫観念ともいえるものだった。

「それじゃあ、お姉さんとかくれんぼでもする? きっと楽しいよ」
「いなくなったりしない?」
「しないわよ」
「本当……?」

 少女の言葉に、ルイズは何度でも肯定の返事をする。少女はおずおずと振り向いたが、肝心の顔は影になってよく見えなかった。

「かくれんぼして遊んだら、お姉さんと一緒にここから出よう?」
「ほんと!? あたしここから出られるの!?」
「うん、お姉さんと一緒にね。そしてあなたのお父さんやお姉さんを探そうね」
「うんっ!」
「そうだ、お嬢ちゃん、お名前はなんていうの?」
「あたし? あたし――――っていうの!」

 少女は朗らかに笑った、はずなのだが、ルイズにはよく分からなかった。何故か少女の顔の部分だけ影になって見る事ができないのだ。名前の部分もよく聞き取れない。早速少女は壁に顔を当て、数を数え始める。早く隠れなければ。少女に隠れる旨を伝えると、ルイズは静かな廊下を走り出した。




 翌朝、ワルドの声でルイズは目を覚ました。何か夢を見ていたが、よく思い出せない。とはいえ夢を思い出せないのはよくあることなので、大して気にも留めずに身支度をする。運が良ければ今日出発できるかもしれないのだ。
 朝一番でワルドが再び交渉に行ったが、やはり明日にならないと船は出せないと言われたようだった。料金を上乗せして払うと言っても、風石の予約はいっぱいで、とても余分に使用できる状況ではないとのことらしい。やきもきしながらも、仕方がないのでロビーでギーシュたちと雑談したり、トランプで遊んでみたり、酒場で軽く一杯することで時間を潰すこととなった。
 明日の予定を話し合っている時、突然玄関から突入してきた傭兵の一団が一行を襲った。ルイズたちは慌ててテーブルの足を折り盾にして降り注ぐ矢の雨を凌ぐ。

「こうなったら僕が……」
「ライデンっ! あいつらを蹴散らして!」

 ギーシュの言葉を遮り、ルイズが言うが早いか、ライデンが動くのが早いか、とにかくライデンはどこからともなく円盤状の箱を取り出すと、それを床を滑らせるように投擲した。傭兵が一瞬それに気を取られ、自分達の足元に滑ってきた時、もはや彼らの運命は決定されていた。床を滑る円盤の外殻が崩壊したかと思うと、次の瞬間直視していれば間違いなく失明するであろう程の閃光を放ち、大爆発を起こす。もっとも失明したとしてもその後消し炭にされてしまった以上、大差はなかった。
 『女神の杵』は激震に見舞われ、鏡面のような壁には幾本もの亀裂が走る。衝撃波で窓ガラスはすべて砕け散り、建物が崩壊する轟音と舞い上がった砂埃で視界が奪われる。

「ほへぇ……」

 ルイズたちはテーブルを盾にしていたので助かったが、顔を出してみるとライデンを挟んで宿の反対側は完全に瓦礫の山となっていた。当然襲撃してきた傭兵達の姿はなく、向かいの崖まで大きく抉り取られている。いざ雄姿を見せんと飛び出そうとしたギーシュ、どうやって逃げるか算段を立てていたキュルケとタバサ、任務遂行の危機を感じていたワルドとルイズは皆一様に気の抜けた表情をしていた。これだけの大爆発にも関わらず、耳は痺れている程度で済んでいるのはいささか不思議であった。

「と、とにかく、こうも連続で襲われては狙われているしか思えない。無理にでも出航してもらおう」

 気を取り直したワルドはそう宣言すると、裏口を開いて手招きをする。その通りだ、今船に乗れば流石に追っ手もかかるまい。一向は急いで裏口を抜け、通用口から船が係留してある桟橋へと向かう。殿を務めているのは、やはりライデンである。
 横目でライデンを見ながら、ふとルイズは疑問に思った。ギーシュとの決闘の時は魔法を使わなかったのに、昨日と今日の襲撃には迷わず魔法を使っている。この赤い巨人は一体何を基準に行動しているのだろう。人ならぬ身の使い魔の思考を理解するのは非常に困難な仕事であった。


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