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重攻の使い魔-07


第7話『騒乱と疑惑』


 まだ日も昇らぬ暗がりの中、学院裏門にルイズとライデン、ギーシュが立っていた。アルビオンへと向かうために準備をしている最中なのだが、ルイズは特別何かをするわけでもなく、一方のギーシュは自らの足とするために馬へ鞍を取り付けている。そしてライデンはというと、相変わらずルイズの背後に控えて微動だにしなかった。
 先日の決闘騒ぎのために、二人の間に流れる空気は非常に気まずいものだった。じきに現れるはずのワルドを待つ間、どうにも時間を持て余してしまう。流石に沈黙に耐え切れなくなったのか、ギーシュが口を開く。

「あー……、その、使用人の彼女に伝えてくれたかい?」
「! ちゃんと伝えたわよ」
「そうか、ありがとう」

 そこでまたしても空気が静寂に支配される。出発の準備は整い、することがなくなってしまったため、尚更耐え難い雰囲気になっていた。時間を持て余したギーシュが何となしに足で地面を叩く。すると地面がおもむろに盛り上がり、中から茶褐色の体毛に覆われた巨大なモグラが姿を現した。ギーシュは思い切り抱きつくと、巨大モグラの毛皮に顔をうずめる。

「はぁー……、ごめんよヴェルダンデ。今から僕達はアルビオンに行かなきゃならないんだ。お前にはちょっと大変な旅になるかもしれない」
「ギーシュ。あんたまさかそのジャイアントモールを連れて行く気じゃないでしょうね。私たちはアルビオンへ行くのよ」
「君だってあのゴーレムを連れて行く気満々じゃないか。それならヴェルダンデも……」
「ライデンよ。ああ見えて結構素早いの、あんたも知ってるでしょ?」
「それを言うならヴェルダンデだって地面を掘り進むの中々に早いんだよ」

 二人がああだこうだと話し合っていると、巨大モグラは何を嗅ぎつけたか鼻をひく付かせた。のそのそと地面を這いながらルイズに近付く。ギーシュを言い合っているルイズは忍び寄る影に気付いてはいないようだった。これ幸いとばかりに巨大モグラがルイズにのしかかろうとした所で、何物かにむんずと掴まれる。
 巨大モグラの行進を妨げたのは真紅のゴーレム、ライデンであった。巨大モグラといえども2.5メイルのライデンの前では可愛らしいものだった。ルイズは、そこでようやくきゅうきゅうという鳴き声を上げ、じたばたと逃げようとするモグラに気が付いた。何事かという視線を向ける。

「ヴェルダンデは宝石が大好物なんだ。君が付けている『水のルビー』が気になったんじゃないかな。で、どうでもいいからヴェルダンデを放しておくれよ」

 ルイズはライデンに放すよう命令する。開放されたモグラは主人であるギーシュにすりより、丸まってしまった。よしよしとギーシュが撫でていると、何やら翼が風を打つ音が聞こえ始めた。二人が顔を上げると、翼を生やした幻獣のグリフォンが降りてくる。その背中には長身の男性を乗せていた。羽帽子を被り、口髭を生やした男性はグリフォンから降りると、厳しい表情を貼り付けながら告げた。

「姫殿下よりこの任務を承った魔法衛士隊が一角、グリフォン隊隊長ジャン・ジャック・ワルド子爵だ。同行者はラ・ヴァリエール嬢だけのはずなのだが……、君は?」
「は、はいっ。僕はこの度極秘任務の一員に加えていただいたギーシュ・ド・グラモンです!」

 ワルドは緊張した様子で敬礼をするギーシュをしばし眺めていたが、にやりと破顔すると手を差し出した。

「なるほどグラモン元帥のご子息か。君もまた国を思う貴族というわけだね。志を同じくする者が増えるのは嬉しい限りだ。よろしく頼むよギーシュ君」
「よ、よろしくお願いします!」

 貴族の子弟にとって憧れの的であるワルドに握手を求められ、緊張しながらもギーシュはそれに応えた。
 一人感動するギーシュを置いておき、ワルドはルイズの元へ向かうと思い切り抱きしめた。突然抱きしめられ、混乱しているルイズは挨拶することもできず、そのまま抱きかかえられてしまった。

「ワ、ワルドさま!?」
「ああ、久し振りだなルイズ、僕のルイズ! 元気にしていたかい? 相変わらず羽のように軽いんだな君は!」
「あ、あの、お久し振りです……」

 物静かに眺めるライデンに気が付いたワルドは、借りてきた猫のようになっているルイズを降ろしてライデンに歩み寄ると、こんこんと鎧を叩いた。ルイズがライデンは自分の使い魔であると説明すると、更に気分を良くしたようで大仰な手振りを交えながら感嘆の声を上げる。

「すごいじゃないかルイズ! こんな精緻なゴーレムを召喚したメイジは誰一人としていないよ!」

 それまで纏っていた高貴な雰囲気をかなぐり捨てたワルドに、ギーシュは思わずあんぐりと大口を開けて驚くことになった。今まで自分が抱いていたワルドのイメージが少しばかり崩れてしまう。ワルドの台詞からこてんぱんにのされた決闘を思い出し少しばかり顔をしかめたが、とにかく二人を置いて盛り上がっているワルドを落ち着かせなければならない。

「あの、子爵は彼女とどういった関係なんですか?」
「おっとすまないね。10年ぶりに会ったせいかつい周りが見えなくなってしまったよ。彼女は僕の婚約者さ」

 ワルドの答えに、ギーシュは更に驚いてしまう。一員となるだけでも大変な努力と才能が必要とされる魔法衛士隊。その中でも最も誉れ高いと評判のグリフォン隊隊長が、このお世辞にも優秀とは呼べない少女の婚約者とは。つい数時間前の王女との会話といい、流石に大公爵の娘だけはある、ともじもじするルイズを眺めて認識を新たにすることとなった。

「さあ時間は余りない。そろそろ出発するとしよう」

 そう、自分達に与えられた時間は多くはないのだ。ワルドの言葉にルイズとギーシュはさっと顔を引き締めた。




 使用人達がそろそろ起きてくるだろう時間、学院長室の中でアンリエッタは不安な表情を隠さずにいた。遠きアルビオンに向けて出発する一行が見えなくなるまで眺めると、胸の前で手を組み、始祖ブリミルへと祈りの言葉を捧げる。

「やはり、ご不安ですかな?」

 それまで豪奢な机に書物を広げ、溜まっていた決済書類を片付けていたオスマンが尋ねる。先日のフーケ騒動の影響で体調を崩したロングビルが中期休暇を取っているために、学院長室には様々な本が積み上げられ床はうっすらと埃に覆われている。結果オスマンが本を置く度に溜まった埃が舞い上がり、書類を書く隙間を見つけるのも苦労する有様であった。流石に客を迎えるための一角は掃除しているが、雑然とした雰囲気はごまかし様がなかった。
 ランタンに灯された火に照らされたアンリエッタの顔は、陰影も相まって余計に憂いが深そうに見えた。窓を閉じるとオスマンを見やる。

「学院長はどう思われますか? 自らの学院の生徒をこのように危険な任務につかせることを」
「当然不安はありますな。ですが姫殿下のご命令とあらば断る訳にもいきますまい」

 オスマンの答えにアンリエッタは俯いてしまう。実際そのように思われて当然なのだが、こうもはっきりと自らの命令と言われてしまうと罪悪感が湧く。自分はオスマンに何の不安もないと、気に病む必要はないと言って貰いたかったのだろうか。なんとも愚かしいことだ。かつての親友を死地へと送り出したのは紛れもない自分だというのに。
 そんなアンリエッタの内心を見透かすかのようにオスマンは口髭を揺らしながら話を続ける。

「まあワルド子爵もおりますし、何よりヴァリエールの使い魔がおりますでな。わしとしては案外上手くいくと考えておるのですよ」
「ルイズの使い魔……、あの赤いゴーレムですか? 見慣れない装飾だとは思いましたが……」

 こっそりと部屋を訪れた時も、先程出発を見送った時も、ルイズの傍には常にあのゴーレムがいた。確かに得体の知れないゴーレムではあると感じたが、それだけでは実力を測れるはずもない。オスマンが大丈夫だと考える根拠が気になった。

「一週間と少し前に、この任務についたヴァリエールとグラモンが決闘しましてな。あの赤いゴーレムとグラモンの青銅のゴーレム7体を戦わせおったのです。……ああ、私闘禁止云々は置いておいて下され」

 その後、赤いゴーレムことライデンが7体のワルキューレを瞬く間に倒してしまったこと、あの使い魔ならばルイズ一人くらいなら簡単に守りきれるだろうことを話した。しかしアンリエッタの顔は優れない。

「たとえあのゴーレムが強力だとしても、成功を保証するものではないのではありませんか? この任務が失敗すればトリステインの未来が危ういのですよ」
「そうお思いになるのなら、失敗した場合を想定して動きなさるべきではないですかな? 仮に失敗したとして、結果トリステインが蹂躙されるがままにしていては彼らが報われませんぞ」
「……そうですね、ごめんなさい」

 そう、最早犀は投げられたのだ。最良の目が出るか最悪の目が出るか、それを人間が知ることなどできない。果たして今自分にできることがあるのだろうか。鳥篭の中で飼われている無力な自分に。オスマンの言葉はアンリエッタにとって痛い点を突いていた。
 実の所、オスマンが楽観的な態度を取っているのにはもう一つ理由があったのだが、この時点でそれをアンリエッタが知ることはなかった。




 学院を出発してから、正午をとうに過ぎ日が傾き始めた現在までワルドはグリフォンの速度を緩めることはなかった。一刻を争う任務のため、僅かな時間の浪費も惜しかったのだ。ワルドはふと25メイル下の大地を疾駆している赤いゴーレムを見やった。

「全く驚いたな。君の使い魔がここまで速いとは」

 そう、ルイズの使い魔であるライデンは左肩にギーシュとその使い魔ヴェルダンデを纏めて抱えているにも拘らず、風竜、飛竜に次ぐ速度を誇るグリフォンに一歩も遅れずに追随しているのだ。しかも走っているのではなく、地面を滑るように移動している。博識なワルドとしても、このようなゴーレムを目にするのは初めてだった。

「やはり君は素晴らしい才能を持っているんだね。あのようなゴーレムを使い魔としたのが何よりの証拠さ」
「……あの、ワルド。あなた、どうして姫様にわたしが優秀だなんて言ったの? わたし、全然魔法使えないのに……」

 これまでの道程中、ワルドに抱かれる格好でグリフォンに跨っていたルイズは、任務を言い渡された時から気に掛かっていた疑問を口にする。ワルドはこれからの任務への不安など少しも持っていないといった笑顔で答える。

「さっきも言ったろう? 使い魔は主人の鏡なんだ。それでなくても僕は君が素晴らしい才能を秘めていることを知っている」
「でも、わたしたち10年間も会ってなかったのよ。なのに突然わたしを指名するなんて……おかしいわ」
「いいや、おかしくなんてないよ。この10年間、一度たりとも君を忘れたことなんてなかったんだからね」

 ワルドの口調に何か含むものを感じたものの、ルイズはそれを上手く説明できなかった。笑顔と一途な言葉に何となく誤魔化されてしまう。

「……なんでわたしなの? あなたならもっと良い人がいくらでもいるはずじゃない」
「酷いな。いつか君を迎えに行く為に僕は出世したのに」

 ワルドの言葉は脳髄を溶かすほどに甘い。しかし甘い蜜の先には罠が仕掛けられていることもあるのだ。食虫植物のように。どうあってもワルドは自分を振り向かせたいらしい。女性として世間的にも認められている男に、これほど熱心に口説かれるのは名誉なことであるのは間違いない。しかし、己の脳内の何かが決して信用するなと警告を発している。これまで不遇の人生を歩んできたルイズの感覚が、どうしても目の前の男を受け入れることはできないと拒絶している。
 むっつりと黙りこくってしまったルイズを見て、ワルドは頬をかきながら少しばかり困った声を出した。

「まあいい機会だ。一緒に旅をする間にもっとたくさん昔話をしよう。きっとあの頃の気持ちを思い出してくれるさ」

 自分が6歳のころに両親が勝手に決めた婚約話。確かにあの頃はワルドと結婚するというのは嬉しかった。だがそれは遠い記憶の彼方にあり、現在の感情ではない。突然現れて婚約者だ、と宣言されても簡単に頷けるわけもなかった。自分の心に纏わりつくこのワルドへのかすかな不信感が、尚更邪魔をする。本当に言われるままに結婚してよいのだろうか。




 自らの使い魔であるヴェルダンデと纏めて、空箱を運ぶかのように軽々と持ち上げられているギーシュは複雑な気分になっていた。あの決闘の後、完膚なきまでにワルキューレを倒したライデンに追い付くため、特訓をしていたのだが余り実り多いとは言えなかった。単体による戦闘能力の向上と最低限の連携を維持を目的に、錬金するワルキューレの数を7体から3体まで減らしているものの、眼下で大地を疾走する赤いゴーレムに勝てそうもない。
 膂力・硬度・速度においてワルキューレの遥か上を行き、何より具体的な命令無しで自律行動するゴーレムは、ギーシュがこれまでの人生で見てきたいかなる『土』のメイジであっても作れないだろう。そもそもゴーレムは主人が創り出して使役するもので、使い魔としては異端なのだ。厳密にはゴーレムではなく、アルヴィーズのようなマジックアイテムの類なのかもしれない。とそこまで考えた所で苦しそうに鳴くヴェルダンデに気付いた。

「ごめんよヴェルダンデ。多分夜までには着くからもう少し我慢しておくれ」

 出発する際、ワルドにヴェルダンデの随行を嘆願した時、やはり渋い顔をされ、流石に諦めざるを得ない状況となった。だが肩を落としながら巨大モグラを置いていこうと決心した所で、意外な所から援護された。それほどまでに連れて行きたいのなら、ライデンに担がせればいいとルイズが言ったのだ。その後、この巨大モグラを運ばせるなら主人も纏めて運ばせようという話になり、現在に至るというわけであった。

「姫殿下に認められたらモンモランシーとケティも許してくれるかなぁ……」

 シエスタの行動により、手酷く二人に振られた後も中々仲直りができずにいた。何とか話しかけて謝ろうとしているのだが、毎度先方に逃げられてしまい、実現には至っていない。この任務を終えたら真っ先に二人の元へ行こう。自らの不貞のために、元の鞘に収まることは難しいだろうが、それでもこの想いを伝えたかった。ギーシュは決意する。
 すでに日は沈みつつあり、この調子ならば本当に本格的な夜を迎える前にラ・ロシェールに着きそうであった。




 日が沈んで幾ばくもなく、一向は切り立った峡谷に挟まれたラ・ロシェールの玄関口へと到着した。よもや馬で二日はかかる距離を一日で到達してしまうとは、いかにグリフォンに乗っているといえども相当な強行軍であった。ルイズが眼下を見下ろすと、ライデンも同じく谷へと入っている。前方には一枚岩から削りだされた街の明かりが煌々と輝いており、とりあえず一安心だとルイズが安堵しようとしたその時、頭上の崖から何本もの松明が投げ込まれ、次いで矢の嵐が降り注いだ。

「きゃあぁぁぁっ!」
「くっ、山賊か!? おのれっ」

 ワルドが杖を引き抜き、応戦しようと呪文を唱えようとしたその時、余りにも予想外の事態となる。
 地上にて同じように奇襲を受けたライデンが、抱えていたギーシュ達を放り出すと、背中から輝く光を撒き散らしながら猛然と上昇してきたのだ。瞬く間にワルドとルイズの乗るグリフォンを追い抜いて崖の上に飛び出すと、手にした巨大な棍棒を賊へと向け、凄まじい勢いで光弾の雨を降らせる。崖上からはもうもうと爆炎があがり、ラ・ロシェールに激震が走り重々しい爆発音が響き渡った。
 慌ててワルドが崖の上にグリフォンを上昇させると、賊がいたであろう場所は完全に煙に包まれ何も見えない状態となっている。その時一陣の強風が吹き、すうっと煙が流れていった。煙が晴れると、そこにはライデンといくつもの盆状に削られた大地以外に何もなかった。ワルドとルイズが言葉を失っている所に、翼が空気を打つ音と共に青い風竜が降りてくる。

「ちょ、ちょっとルイズ、今の何よ!? 助けようとしたらあんたの使い魔が倒しちゃったじゃない!」
「ゴーレムが魔法……初めて見た」

 唐突に風竜に乗ったキュルケとタバサが現れたにも関わらず、ルイズは目の前の光景に釘付けとなっていた。

「ルイズ……、君の使い魔は一体……?」
「わたしにも判らない……」

 呆然となったワルドの疑問にルイズとしても答えようがなかった。十数人はいたはずの山賊は血煙となって消滅した。今しがたライデンが使った魔法は、爆発するという点では己の失敗魔法と同じように見えるが、その破壊力は比較にならない。しかも単発ではなく連続であの規模の魔法を放てるというのは異常に過ぎる。ゴーレムというには性質が奇妙だと思っていたが、もしかするとライデンはマジックアイテムの一種なのかもしれない。
 自らの使い魔による戦闘とすら呼べない一方的な破壊劇を眼にしてルイズは思わず震え上がる。もしもあの力が自分に向けられることがあれば、死んだことにも気付くまい。たとえワルドであってもそう大差はないだろう。
 一行はとりあえず谷底で地面に延びているギーシュの元へ降り立った。ライデンはこともなげに崖上から飛び降りると、やはり光を放出しながら着地した。ルイズはギーシュを介抱しつつ、未だ動揺する心を落ち着かせるために、キュルケに対して文句を言う。

「で、あんたがなんでここにいるのよ?」
「朝ちょっと起きたときに丁度出発するあなたたちを見かけたのよ。しかもグリフォンまでいるとなれば、ただ事じゃないのは一目瞭然。あたしはタバサを叩き起こしてこっそりついてきたってわけ」

 あっけらかんと答えるキュルケにルイズは思わずこめかみを押さえる。ギーシュといいキュルケといい、どうしてこうも横槍が入るのだろう。

「あのねぇ、わたし達はお忍びなのよ? 全く勝手についてきて」
「いいじゃない。旅は道連れ世は情け。面白そうなことに首を突っ込まないなんてツェルプストーの名が泣くわ」

 ますます頭痛が酷くなってくる。少なくともおいそれと任務の内容を話すわけにはいかず、説明無しに帰れと言った所でこの女が素直に頷くとも思えない。ルイズが頭を抱えていると、キュルケはワルドに目を付け、すすすと身を寄せる。

「あら、どなたかと思ったらグリフォン隊の隊長さんじゃない。ねぇ、口髭の素敵なあなた、情熱ってご存知?」
「麗しい女性にそう言われるのは光栄だが、これ以上近付かないでくれたまえ。婚約者が誤解しかねないのでね」

 ワルドはキュルケを押しのけると、介抱しているルイズを見やる。状況も弁えずに男とあらば言い寄るキュルケに文句を言おうとした所でワルドによる婚約者宣言をされ、ルイズは怒っているような恥ずかしがっているような、複雑な表情を浮かべた。目の前の男が売約済みだと知ると、キュルケは途端に興味を失くした。ツェルプストーの歴史に則って寝取ってみるのも一興であったが、流石に今それをするのは憚られた。何よりワルドの瞳に冷たい物を感じ取ったキュルケは、この男に深入りするのは余りよろしくないと判断したのだった。
 介抱の甲斐あって、ようやくギーシュが目を覚ます。まだ事態を飲み込めていない様子だったが、とにかく気付いたことを確認すると、一行は宿を取ることにした。強行軍だったこともあり、一旦休みを取らなければならない。爆発騒ぎに集まってきた野次馬を押しのけて街へと入る。
 宿へと向かう道すがら、キュルケはこそっとルイズに近付くと、耳打ちした。

「ねぇ。あなたの使い魔だけど、あれ何? 魔法使えたの?」
「……知らないわよ。わたしだってライデンが魔法使えるなんて初めて知ったんだから」

 キュルケはふぅんと鼻を鳴らすと、最後尾をのしのしと歩き殿を務めているライデンを見やる。つられてルイズも振り向くが、当のライデンは相変わらず物言わぬ石像の如きであった。そのときキュルケの傍を歩いていたタバサが呟いた。

「あのゴーレムは異常。あなたは一体何を召喚したの?」

 その言葉にルイズは詰まってしまう。ライデンが一体何者なのか、そんなことは自分が一番知りたい。だが問い詰めようにも、ライデンは何も答えることはなく、結局情報は一切手に入らない。己の使い魔は本当にこの世界の産物なのだろうか。戦闘時には主人の命令無しで行動し、更に強力無比な魔法を行使するなど、まるで神々の創り出した神兵ではないか。
 夜が更けるラ・ロシェールにおいて、ルイズの疑問に対する答えを持つ者は誰一人として存在しなかった。


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