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魔導書が使い魔-06a


それは炎のような男だった。
烈火のごとく燃え上がり。
火花のように火を飛ばし。
業火のごとくあらゆる全てを焼き尽くす。
それは何も見えていない――否、1つだけ見えている。
それは手段を選ばない――否、己の感情を抑えきれないだけだ。
それは前にしか進まない――否、己にそれを強いているのだ。
だから男は目に炎を宿し、行動に火を入れ、進む道を焼き尽くす。
男は手に獲物を取る。ひどく冷たく、ひどく硬く、ひどく懐かしく手に馴染む。
静かな微笑み。
男はその獲物を手に、大きく胸を張り、顔を上げ、己の存在を訴える。
手が踊る。それは獲物を自在に操り。
それは気高く、神々しく――

「ぷぎゃーっはっはっはっ! 全世界9000億のファンの皆様お待たせしました。
我輩が世紀の超々々々々々天才科学者。
ドクタァァァアア!! ウエェェェエエストッッ!!」

――見間違うことの無いキ○ガ○だった。
神速の指捌きを持って不協和音となったエレキギターが騒ぐ。
「現れよ、我輩の最高傑作! 人造人間エェェルザァァ!!」
――ジャッジャカジャンージャーン!
過剰な音楽と共に背後から吹き上がるスモーク。
「可憐で優雅でちょっといじらしいメインヒロイン、エルザだロボ!」
そこから自画自賛の名乗りで、どこか作り物めいた少女――エルザが現れる。
クリンクリンと可愛らしくお尻を回す白衣の○チ○イ――ウエスト。
「彼女を作ったことは神への冒涜……この頭脳は罪! この知力は業! ……
ならばこの身に背負うは神々の原罪!」
手に持ったギターが悲しみの旋律を奏で。
「ああ、我輩の頭脳が、全世界に無駄に存在する凡人どもに罪を背負わせてし
まったのか。だが我輩も人間、人間が罪を犯したのなら、人間全体に罪が及ぶ
のも当然のこと……それはまるで禁断の果実を口にしたアダムとイヴ。……な
らば我輩こそが全ての始まりにして終わりなのであるか!」
大仰な仕草で項垂れながらも手の動きは止まらず。逆に陰鬱としたメロディー
が徐々にトーンを上げていく。
「だが、だがだがだがだがだがだがだが! だがっ!!」
急にトーンが上がり、その顔を上げ。未だに回していた腰がピタッと止まる。
「いっそ責任を取って腹をかっさばいてくれよう!」
ガバっと服をはだけさせた。
6つ割れた腹筋が逞しく、チョコンとある窪み。
「チャームポイントは、お・へ・そ♪ キラ☆」
どこともしれない画面へ向かって星を飛ばす。
「博士きもいロボ」
ボクッ――
「ぎゃばっ!?」
トンファーのような銃にぶっ飛ばされてウエストは頭から着地した。
死にかけたゴキブリのごとく足がピクピク震えているが、ギターから手を離さ
ないのはさすがと言うべきか。
「博士ぇ、死んだロボ?」
つんつんとエルザが爪先でウエストを蹴ると。
「原罪がなんぼのものであーる!」
突如ブレイクダンスのごとく回転し始める。
「だからと言って連帯責任なのだからしょうがない。1人はみんなのために、
みんなは我輩のために! ここは宇宙船地球号……ならば我輩はこの知をもっ
て、すべからず人類を真っ赤に燃える太陽へと導こうではないか! 面舵いっ
ぱい! 碇を上げろ! なにをやっているぐずぐずするな! 敵は待ってはく
れないのである!」
首に力を溜めると跳ねるように飛び、着地。
「なにぃ! 敵からの攻撃だとっ!? 弾幕を張れ! 主砲を用意しろ……弾
幕薄いぞ、なにやってんの! ……な、なんだあの機体はっ! ぎゃーっ!
ちょ、直撃っ!?」
崩れ落ちるように膝を突く(禁止ワード)。
その姿はもう、馬鹿と天才は紙一重。ではなく、馬鹿+天才=××××である。
「だが、我輩は諦めない。そう、科学とは挫折とともにあるのだから!」
立ち上がるウエスト。
「アイム・ロックンロール!」
奇妙なノリと共に猛烈にエレキギターを弾きだした時。
「了解、主砲を用意するロボ!」
エルザはどこからともなく巨大な砲身を持ち出し構えた。
「あれれぇ? それはなんでこっちを向いているのであるか? なんだか我輩
が設定した安全出力を軽くオーバーしているみたいだけどぉ?」
「出力120%『我、埋葬にあたわず(Dig Me No Grave)』――ファイア!」
引き金が引かれた。

「うわぁぁぁあああいーーーっっ!!」

奇妙な旋律と共に世界に光が満ちる。



「――なんなのよ一体っ!?」
理不尽な○○○○を無理やり見せられたの如く、ルイズはベッドから跳ね起き
た。
「……っはぁ……っはぁ……っはぁ」
ひどく息が切れる。額を冷や汗が伝う。体中を悪寒が奔る。
「むにゃ……うるさいぞ……」
声に目を向けると、そこにはゼリーのベッドで寝るアルの姿がある。
激しい動悸が五月蝿かった。
内容は忘れたが、極上の悪夢を見た気がする。
それはもう、言語では表現してはいけないような典型的な――
――思考停止、思考閉鎖、情報隔離――
これ以上は考えてはいけない。
ひどく馬鹿馬鹿しいようだが、ルイズは真剣だった。
顔を青くしてルイズは布団へと潜り込む。
「忘れなさいルイズ……そうよ、あれはただの夢なのよ……寝て全てを忘れる
のよ」
ぶつぶつと呟く言葉は心細い。
もう恐怖は心に刻み付けられてしまったのだ。
朝はまだ遠い。
しばらく眠れそうになかった。



変な時間に一度起きたせいか、こびり付く眠気を払いながらルイズは宣言した。
「今日は街に行くわよ」
目の前に用意された朝食にはまだ手をつけていない。
「まあ、そうなのですか?」
「てけり・り?」
給仕をしていたシエスタと、謎の肉塊を咀嚼するダンセイニはそれに反応する。
「ふぐふぐふぐ」
「ルイズさん、体のほうは大丈夫なのですか?」
心配そうな声に、手を軽く握ってみる。
多少動かし辛いが問題は無い。
「ええ、大丈夫よ」
「そうですか。ですが無理はなさらないように」
「わかっているわ」
ふふ、と笑うシエスタにルイズはぷいっと顔を背け、更にシエスタの笑みが深
くなる。
「がふがふがふ」
「それで、街へはなにをしに?」
「ええ、それはね……」
「むぐむぐむぐ」
ルイズは、一心不乱に食べるアルへと指差した。
「さっきからあんた少しは話を聞こうとしなさいよ!」
いきなり話を振られたアルは口の中の物を咀嚼すると。
「むぐ? んぐんぐ――で、なんだ小娘」
ルイズは口元をヒクつかせる。
「ほんっっっっとに何も聞いてないのねっ!」
最近沸点の低いことで定評のあるルイズの、ちっぽけな堪忍袋の尾は限界に近
かった。
ため息を吐きながらアルはルイズへと向き直る。
「やれやれ、汝は少し忍耐というものを身に付けろ」
「ルイズさん、はい落ち着いて」
ぐーを作って拳を振り上げるルイズをシエスタが押しとどめる。
数分間の葛藤の末、なんとか矛を収めたルイズはすでに青息吐息であった。
ぐったりとするルイズへ、アルは怪訝な目を向ける。
「……なにを遊んでおる」
「――きぃぃぃいいいっ!!」
「はい、どうどうどう」
「わたしは馬じゃないわよ!」
叫ぶルイズをシエスタは軽くスルーした。
「アルさん、今日ルイズさんは街に行くそうです」
「ふむ、街とな?」
ようやく食いついてきたアル。そして息切れを起こすルイズ。
「して、なにをしに行くのだ?」
ルイズは息を整える。
「はあ……はあ……剣よ……」
「剣? ……ああ、昨晩のあれか」
ふむアルは呟き。
「だがいいのか?」
「なにがよ」
憮然と応えるルイズにアルは続ける。
「汝は決闘の時に言っていたではないか。メイジは杖がどうたらと」
「ええ、だから剣を杖にするの」
「? なにを言っておるのだ汝は」
首を傾げるアルにルイズは指を立てる。
「杖ってのはね。対象物と契約することで初めてそれは杖になるの。……そう
ね」
軽く周囲を見渡し、不意にスプーンを手に取り。
「たとえばこのスプーンと契約を結べば、このスプーンは新しい杖になるって
わけ」
契約はめんどくさい手順が必要だけど、とルイズは呟くと再びアルへと視線を
戻す。
「わたしの杖は折れちゃったし。それに剣を杖になんて、騎士や軍人には珍し
いことではないわ」
「なるほどな」
「というわけで、これを食べ終わったら街へ行くわよ。ついでにアル、あんた
を案内してあげるわ」
「ふむ、この世界の文化レベルを見るのもまた一興か」
うむうむと頷くアル。
「また偉そうに!」
「偉そうではない。妾は偉いのだ」
「なんですって!」
ぎゃーすかと言い争う2人を脇に。
「2人でお出かけですか」
「てけり・り」
「そうなると……お弁当必要ですかね。マルトーさんにお願いしてみましょう
か」
「てけり・り!」
メイドと人外はのほほんとしていた。



「……………………」
ベッドの上でキュルケはボケーとしていた。
昨日はルイズの手前虚勢を張っていたが、ベッドに入った瞬間に熟睡してしま
った。
「ふあぁっ」
窓から入る太陽の位置からもう昼に近い。睡眠時間は十分なはずなのだが、い
かんせんまだ寝足りない気がした。
ぼさぼさになった頭をかく。
トロンと下がった目尻に肩紐がずり落ちたベビードール。寝起き特有の気だる
さと相成って普段とは別の色気が漂っている。
(ええっと……今日は、虚無の日で……ザバーニとは……昨日だっけ? バー
ニィは……今日はパス……)
ぼんやりとした思考の中、キュルケは今日の予定を確認した。
特に予定は無いことがわかると、ぽてんと横になる。
「んー……なんでこんなに眠いんだろう」
フレイムは寮の傍にある使い魔たちの小屋にいるため、聞かせる相手もいない
言葉。
枕に頭を乗せながら、昨日のことを思い出した
「ああ……そうか。昨日までルイズの……」
頭に浮かぶは2日間も死んだように眠る寝顔と、起きてから震える指先を隠す
動作。
あの時には病み上がりということで問い詰めなかったが。
思い出したからには寝ている暇はない。
むくりと体を起こす。
「っん」
腕を後ろ手に組んで伸ばすと、肩と背中からパキパキと音が鳴った。
「――よしっ」
ベッドから跳ねるように立ち上がると、クローゼットに手をかける。
もちろん目的は。
「ふふふ……待ってなさいよルイズ」

着替え自体は5分とかからなかった。
化粧も普段から薄いために時間はかからない。
キュルケはさっさと準備を済ますとルイズの部屋の前に行き、扉をノック。
コンコン――
「ルイズー、あたしよー」
…………。
返事はない。
ノブに手をかける。ガチャガチャと侵入者を拒まれる。
それに対してキュルケは胸元に指を滑り込ませると。
「『アン・ロック』」
杖を取り出しあっさりと鍵を開けた。
一応、寮内……というか実技授業以外では無断での『アン・ロック』は禁止さ
れているのだが。
当然キュルケにそんなことを気にすることは無い。
「はあい、ルイズ……って」
軽く規則違反したにしては陽気な挨拶をするが、応える声は無く。
「……あら?」
そもそもが部屋に誰もいなかった。
「本当にいなかったのね」
拍子抜けとばかりに呟くキュルケ。
「どこいったのかしら?」
朝(実質昼に近いが)から予定が崩れそうになり、どうしようと考えたとき。
「あ、キュルケさん」
後ろから声がかかった。
振り返るとそこには洗濯籠を抱えたシエスタがいる。
「あらあら。ルイズさん鍵を閉め忘れたんですね」
「そうみたい。まったく無用心だこと」
魔法で勝手に空けたなど馬鹿正直に話さず同意するキュルケ。
くすくすとシエスタはキュルケへと笑いかける。
「キュルケさんはルイズさんへなにかご用ですか?」
「まあ、そんなものね」
頷くキュルケ。
「ルイズさんなら、アルさんとついさっき街へ出かけましたよ」
「街へ?」
「ええ、なんでも剣を買うだとか」
「剣……ねぇ」
片眉を跳ね上げ腕を組む。その豊満な胸が押し出された。
考え込むキュルケを前にしてシエスタは籠を抱えなおす。
「では、私は仕事がありますので」
「そう? ありがとう」
そしてシエスタは去り際に顔だけ覗かせると。
「ずいぶんと熱心にルイズさんを心配なさるんですね」
にこやかに言う。
「なっ!?」
言葉を失うキュルケを見て、含むように笑いシエスタは顔を引っ込めた。
「なんなのよまったく……」
残されたキュルケはぶつくさと呟くと、髪を掻き揚げた。
「まあいいわ。さて、ルイズは街にねぇ」
今から馬で追おうにも。寮を出て、馬小屋へ馬を借り入れるとなると時間がか
かる。
それではルイズに大きく遅れてしまう。
と、キュルケはぽんと手を叩く。
「なら、あの子に手伝ってもらいましょうか」
そう言うが早いか、キュルケはさっさと部屋を出た。
向かう先はルイズの部屋から自分の部屋を挟み反対側。
頼れる親友のところであった。



じりじりと火が蝋燭を炙り溶かし、その命を削ってゆく。
拙い灯火は全てを照らすことはかなわない。
それは逆に物の一面だけを照らすことで、より一層そのものの影を色濃く浮き
立たせる。
べっとりと粘りつくような影が囲う灯りの周囲。それこそ影のように佇む姿が
ある。
もしこの場で他の人がいたならば、精巧な人形だと思っただろう。
「…………」
だが人形とは違い、時たま手元にある本を捲り、わずかな息遣いが漏れる。
そしてそれにゆらりゆらりと纏わりつく少女がいた。
ぴちゃり――
濡れた音が響く。
「ん……」
その少女は首筋へと顔を――口を付けゆっくりと動く。
ちゅく……――
口が動くたびに相手から息が漏れる。
「……ふ、くっ……」
吸い付く口端から一筋の血が伝う。
ちゃぷ――
少女はそれを目ざとく見つけると舌を伸ばし舐め取った。
顔には愉悦が浮かび、その目は淫猥に光る。
そして再び首筋へ口を近づけて――
「終わり」
ぐいっと頭を押さえられた。
「あーうー、もっともっとー」
くすぐったさをひたすら我慢する時間が終わり。ジタバタと暴れる少女をよそ
にタバサは読んでいた本を置くと、杖を手に取る。
それを薄く血の流れる首筋へと向け、短い詠唱が流れた。
すると傷は消えていき、少女――エルザはそれを恨めし気に眺める。
「まだ足りないよおねえちゃん!」
不満げに言う少女。
傷も塞がり、杖を置くとタバサは再び本を手に取った。
「あなたの説明なら、これであと半年は持つ」
「半年も待てないよ!」
少女が叫び、その口から長い犬歯が覗く。
その犬歯の長さは人とは思えないほどの長さを持ち。判る者なら判るだろう。
日光を遮られた部屋、血を吸う行為、長い犬歯。
少女は吸血鬼である。
人狩人(マンハンター)、夜の狩人と呼ばれる恐るべき存在。
人間の天敵とも言える少女は、とある事情からタバサの元へと住み着くことと
なった。
「我慢はできるけどお腹はすくの!」
「そう……でもこれ以上はまた来週」
「食事は一週間に一回、しかも少しだけなんておうぼうだーおうぼうだー!」
ぷーと膨れっ面になった少女――エルザはじたばたとベッドに飛び乗り暴れだ
した。
「…………」
タバサは活字へ意識を向けることで黙殺する。
「うーうーうー」
エルザが唸るが、それもしかたない。
吸血鬼はその名の通り、血を糧として生きる者である。
血については一応動物だろうが人だろうが種別は問わないが、やはり人の血を
好むようである。
1回の吸血で数ヶ月は飲食が無くても生きていけるらしく、吸う量も死ぬよう
なものではないのだが。
問題は今、唯一血を吸える相手がタバサだということであった。
お世辞にもタバサは大柄とは言えず、むしろ小柄の部類に入る。そうすると必
然的に血の吸える量も限られてくる。
他の人を襲うという案もあるが。ここは魔法学院。
もしそれがばれたのならば魔女狩りならぬ、吸血鬼狩りが始まるだろう。
いくら人狩人と言われる吸血鬼だろうと、メイジの集団には敵うまい。
本来なら文句も言えず必要量以上は与えられず、数ヶ月断食(断飲?)させら
れているものを、週1回血を与えるのはタバサの温情ほかならない。
そのはずなのだが。
「飲みたいよー飲みたいよー、もっと飲みたいよー」
エサを求めるヒナのごとく騒ぐ少女をどうするのか。
「…………」
とりあえずタバサは、このまま黙殺することにした。
「ぶーぶーぶーぶー」
若干騒がしくなってきた部屋に。
コンコン――
緊張が走る。
「――っ」
息を呑むエルザ。
タバサも手を止める。
この部屋に訪れる者は少なく限られるが。もし他人にエルザのことがばれたな
ら、エルザがメイジ総動員で殺されることは確実であり、自分ももしかしたら
グールとして殺されるかもしれない。
「…………」
常に最悪を想定し、タバサは杖を取ると。
『タバサー、いないのー?』
その声が響くと同時に、ガチャリと閉めたはずの鍵が開いた。
有無を言わせず扉が開き。
「はあい、タバサ」
遠慮なくキュルケが部屋に入ってきた。
「やだ、なんで昼真っからこんなに部屋を暗くしてるのタバサ」
ズカズカと入ってくるキュルケを見ると、タバサは無言で読書に戻る。
……現状放棄とも言うが。
硬直するエルザにキュルケが微笑みかける。
「タバサ、あなたの知り合い?」
「……親戚」
「そう」
金髪の少女はどう見てもタバサの親戚とは思えないが、キュルケはなにか訳が
あるのだと深くは突っ込まないことにした。
「こんにちは可愛らしいおちびさん。あたしはキュルケ、タバサの親友よ」
「……っ」
エルザはおろおろとした後、タバサを見る。するとタバサは軽く頷き、それを
見てエルザは口を開いた。
「えっと、エルザといいます」
ぺこりと可愛らしくお辞儀をするエルザに、キュルケは笑みを深くし再びタバ
サへと向き直る。
「ねえタバサ。お願いがあるんだけど」
「……なに?」
本から顔を上げずにタバサは問うた。
話がわかるとばかりにキュルケは言う。
「なんかねぇ、ルイズたちが街へ行くみたいなんだけど。あなたの風竜に乗せ
てくれないかしら」
直球と言えば直球な物言い。
「今から?」
「そう今すぐ」
即座に帰ってきた返事に、タバサはパタリと本を閉じると杖を手に取る。
「さすがタバサ。話がわかるわね……って、この子はどうするの?」
そのまま出て行こうとするタバサにキュルケはエルザを指した。
ぴたりとタバサが停止する。
エルザは吸血鬼。直射日光には当たったことは無いが、当たればただではすま
ないと聞いている。
「…………」
どう切り抜けようかと考えていると。
「うん、わたしもいく!」
エルザが元気よく手を上げた。
「……大丈夫?」
思わず声をかけるタバサに、エルザは頷くと。
「おねえちゃんお洋服かしてね」
クローゼットを漁り始めた。
「あら、おめかしかしら」
「…………」
キュルケはのん気に呟き、タバサは本人が大丈夫ならいいかと思った。



トリステインの城下町をルイズとアルは歩く。
ルイズの予想外にもアルは馬を乗りこなし……というか一方的に懐かれ。
無事町へと付いたのだが。
休日の賑わいを見せる表通り、声を張り上げる露天市、ごった返す人が雑多な
様子を見せる。
人混みに揉まれ、手にはバスケットを持たされアルは不機嫌だった。
「ええい、狭い、騒がしい! なんなのだ! こんなぎゅうぎゅう詰めに歩き
おって!」
確かにアルのいた世界。それも世界の中心であったアーカムシティと比べたな
らば、中世のようなこの町は余計に狭苦しく感じるだろう。
不機嫌なアルにルイズは呆れたように。
「狭いってことはないでしょう。ここは王都のお膝元よ」
「路地裏辺りと間違っておらぬか? それに、なぜ妾がこれを持たねばならん」
手に持ったバスケットを指し示すアル。
もちろん中身はシエスタから受け取ったお弁当である。
「あら、受け取ったのはあなたじゃない。ならあなたが持つべきでしょう」
「うぬぬぬ……」
唸るアルに先立ってルイズが歩く。
「それにわたしは財布を持ってるの。バスケットなんて持ってたらスリに会っ
たときに確かめられないじゃない」
それにアルは鼻を鳴らし。
「ふん、その時は汝が間抜けだったというだけだ」
「なんですってっ!」
人が行き交う往来で言い争う2人を、周囲は迷惑そうにしながらも咎めない。
なにせ、これ見よがしにメイジのマントを付けた見た目麗しき少女に、マント
も杖もないが幻想的な美を持つ少女なのだから。
言い争う2人を避けて通る人々。
それを、ただある者達は見つめニヤリと笑った。

「店はまだなのか」
「もうすぐよ」
ルイズの先導の元、狭い路地裏へ入ったアルは愚痴をもらす。
「これはまた随分と汚い場所だな」
「しょうがないでしょ。メイジがいるのに、武器屋なんて表通りに堂々と構え
ているわけじゃない」
「臭いもひどいぞ」
ぶつぶつと文句をもらすアルにルイズもイライラを募らせていき。
「ああもう! 少しは黙って――」
「静まれ小娘」
開けた口を塞がれた。
「むぐー!」
「黙れと言っている」
もごもごと口を動かすルイズを無視することにして、アルは耳を澄ませる。
「っぷは! なんなのよ一体!」
なんとか手をどけたルイズが怒るとアルは淡々と事実を述べる。
「ふむ、囲まれている」
「え?」
その意味を問いただそうとした時。
ジャリっと周囲から決して上品ではない部類の男達が出てきた。
見た目からしても粗野な服装。
軍人のような圧迫感はないが、暴力に慣れた者達が発する独特の雰囲気が漂う。
「な、なに?」
口々に下品な笑みを浮かべながら、リーダーと思われる男が前に出た。
「お嬢ちゃん方、ここは俺たちのシマでね。ここを通りたければ通行料を支払
ってもらえないかな?」
「なに言ってるの。ここはトステイン王国の城下町、王家のお膝元よ。この場
所は決してあなた達のものじゃない。通行料なんて払うわけないじゃない」
ルイズは毅然として前に出る。
「それに見て判らない。わたしは貴族よ。貴族に手を出したらどうなるかわか
らないわけじゃないわよね」
だが、ニヤニヤと男達は笑い合うだけ。
その様子にアルは疲れたようなため息を吐く。
「言って判るような連中だと思っているのか?」
そんな言葉は耳に入らず。
「なによあんたたち! 言いたいことがあるならはっきりと」
勝手にヒートアップしていくルイズに。
「んなことはどうでもいいんだよ」
冷たい声が被さる。
「貴族だろうがなんだろうが、今すぐ有り金を出せばいいんだよっ!」
「ひっ!」
初めて晒された脅し慣れた怒号。反射的に竦むルイズ。
だが。
「煩わしいわ下郎、疾く去ね」
不快とばかりにアルが吐き捨てた。
「なんだとぉ……」
「目障りだ。その息の根を鶏のように捻られたくなければ早々に立ち去るがい
い」
「ちょ、ちょっとアル!?」
寒々しい空気が広がる。
「面白い冗談だお嬢ちゃん……」
顔を引きつらせ震えた声で男は言う。
「俺たちは気の長いほうじゃない……だからさっさと」
「何度も言わすな。そのむさ苦しい顔をさっさと引っ込めんか」
そうアルが言った時。
ざっ――
「――」
アルの手からバスケットがもぎ取られる。
それはゆっくりと宙を舞い、地面へと叩きつけられた。
グチャリと地面に広がる潰れたサンドイッチ。バスケットの表面にはナイフが
刺さっている。
「いいかげんにしろよ……クソガキ」
ナイフを投げたらしき男がぎらついた目で睨みつける。
「ちょっと、あんたどうするのよ!」
ルイズがアルへと話しかけるが、アルはうつむいている。
そして。
「くくく、くくくくくく」
「え?」
「くはぁーはっはっはっはっはっは――っ!」
突如として笑い出した。
呆気に取られるルイズと男達。
それを前にして、アルは前髪に隠れた双眸を光らせて宣言した。
「よほど死にたいらしいなお前ら。ならば、妾が地獄へ叩き込んでやろう」
「はい?」
男達は油断していた。
たとえメイジであったとしても、数ではこちらが有利であり。よほど腕に覚え
のある者でない限り自分達がやられるわけはないと。
だが、その認識は間違いであった。
アルが手をかざす。
杖も持たず、距離もあるのにどうするのかと思った時。
「地獄で後悔するがいい」
その手が、体が発光し。なんかやばい感じに光が集まり。
「――死ねい!」
発射。
「ぐべらぼげぇーーっ!!」
吹き飛ぶ男。
ものすごい勢いで地面を平行に飛び、壁に激突。
「「「「…………」」」」
一同が沈黙。
ぷすぷすと男から煙が上がる。
そして。
「よくもリーダーを!」
「てめえらやっちまえ!」
訳もわからず襲い掛かる男達。
「全て根こそぎ彼岸の彼方へ送り込んでくれるわ!」
「な、なにしてるのよぉ!」
闘争が始まった。いや、一方的に蹂躙するのを闘争とは言わない。
「はーはっはっはっはっはっは! 叫べ! 逃げ惑え! 命乞いをしろ!」
「うわぁぁあああっ!」
「た、助け――うぎゃぁああ!!」
「母さん……母さぁぁああん!!」
撃ち込まれる魔力弾、吹き飛ぶ人体、響く笑いに、張り上げられる悲鳴と怒号。
それは戦いの名を借りた虐殺(ジェノサイド)だった。
「ふはははははは! さあ、助けを請え、許しを請え……そして死ねぇ!」
「「「ぎゃーーーーっ!?」」」
戦場とかした路地裏にはいくつもの人影が舞う。
ルイズの脳裏に地獄絵図という言葉が浮かぶ。
初めに絡んできた男達はとうに地に沈み、爆音と悲鳴を聞いたのか。他の縄張
りの荒くれ者が集まってくる。
「ここか! 俺たちを舐め腐ってるやつらが――」
「隙だらけだ!」
――チュドン!
「ぎゃーーっ!!」
「はーははははははは! かーかっかっかっかっかっかっ!!」
なんかどうやら収拾のつきそうにない状況の中。ルイズは被害が及ばぬように
身を屈めていると。
「ここですアニエス隊長! ここから爆音と悲鳴が!」
路地の角から声が聞こえた。
ガチャガチャと金属が触れ合う音が響き。
「貴様ら! 王家のお膝元でなにをしている!」
鎧を着た女兵士とその仲間らしき者が現れる。
「衛兵!?」
ルイズの言葉にざわっと周囲が沸く。
だが、そんなことも関係なく。
「またしても新手か!」
「あ、あんたやめな――」
必死に止めようとしたルイズの言葉も言い終わらぬ内に。
――チュドーーン!
「ぐあぁぁあっ!!」
吹き飛ぶ衛兵達。
「他愛も無い」
満足げに言うアルにルイズはつっかかる。
「あんたなにやってんのよ!」
「敵を排除したまでだ」
「敵ってあんたね!」
言い争いに発展しそうな会話は。
「ほ――」
倒れていた女兵士の声で遮られた。
「捕縛しろぉぉおおおっ!!」
一斉に倒れていた衛兵達が起き上がる。
それを見るとアルは不敵に笑い。
「ふふん。お前らごときで妾を捕まえられると思うたか!」
再び光が集まろうとしたとき。
「いつまでやってんのよ!」
ルイズがアルの手を取り走り出す。
「ぬあ! なにをする小娘!」
「なにもこうも逃げるのよ!」
「なぜ逃げねばならぬ!」
「そんなの決まってるでしょう!」
走る2人に背後から声がかかる。
「追えぇっ! 王国の衛兵の誇りにかけて絶対にあの2人を逃がすなぁっ!」
「「「おおぉぉぉおおおおおーーっっ!!」」」
「もうなんなのよーー!!」
ルイズの悲鳴が路地裏に響いた。



「ん?」
雑踏の中、ピタリとキュルケは足を止めた。
「……?」
それを不審そうに見上げるタバサ。
なんでもないわ、と首を振るとその視線は前方に戻る。
そこには跳ねるように雑踏を進む黒い者がいる。
フード付きの黒い長袖の上着に、黒い長ズボン。袖から覗く手は肘まである黒
い手袋で隠され、深く被ったフードは顔を完全に隠している。
どこまでも黒く、そして肌を隠しているその姿は背丈が小さいからまだ許容で
きるものの。本来なら不審者の風貌である。
さらにそれが手にクックベリーパイを持ち、うきうきとフードの奥へと運ぶ姿
はシュールであった。
ときおりすれ違う人々がチラチラと振り返る。
キュルケはさっき買ってやったパイを美味しそう(?)に食べているエルザを
指差すと。
「あの服装、どうにかならないの?」
タバサは毒々しい緑のソースの乗ったパイを口に運びながら。
「……問題ない」
簡潔に応える。
「あ、そう」
それ以上追求することをキュルケは放棄すると。
こちらもハムリとエルザと同じパイを食べると空を見上げる。
空は高く、澄み渡る。
「もう、ルイズたちはどこ行ったのかしら」
声は風に乗り。
『まぁぁてぇぇぇえええいっっ!!』
『待てと言われて待つわけないでしょぉぉ!!』
『ええぇい! 煩わしい! 屠ってくれるっっ!!』
『止めてぇぇぇえええっっ!?』
風に乗って聞き覚えのある声が聞こえた気がした。
「あら?」
首を傾げるキュルケ。
「キュルケおねえちゃんどうしたの?」
そこにピョコンとエルザがくっ付いてくる。
服装こそ怪しいがその中でしているであろう顔を思い浮かべてキュルケは笑み
を漏らす。
「なんでもないわ。それじゃ、近くにある武器屋から行きましょうか」
コクリとタバサが頷いた。



「はぁ……はぁ……はぁ……」
ルイズは精魂尽き果てかけていた。
その原因はもちろん。
「なんとまあ、情けないな」
「あんたのせいよ!」
なんとか衛兵は振り切ったようで、後ろには誰もいない。
くたびれて座り込もうにもここは裏路地。
椅子なんてものもない。
そもそもここはどこなのかもわからない。
「ふむ、それで店はどうした?」
そんなアルの惚けたセリフにうんざりとルイズは顔を上げ。
「そんなもの――」
見上げた先に剣のマークの看板があった。
「――あった」
「ふむ、ここか」
なんの偶然か因果か。
どちらもいいが、そこまで今日は尽いていないわけではないとルイズは思う。
「まあいいわ、過程はともかくここまで来たんだから入りましょう」
「うむ」
古ぼけた扉を開けた。

店に入った瞬間、鉄臭さが鼻につく。
古びれた店内に、所狭しと飾られた刀剣たちや、壁際に立てられた甲冑や盾。
物珍しげに見回すルイズに。
「へい、いらっしゃい」
扉の開閉音を聞いたのか奥から主人が出てくる。
気前よさそうな笑顔で出てきた主人は、だがルイズの姿を見ると顔をゆがめた。
「なんの御用で――て、なんですか貴族様。うちは真っ当な店ですぜ、お上に
報告されるようなことはしていません」
不機嫌そうに言う主人。
「客よ」
ルイズは腕を組んで一言で返す。
「へぇー! 貴族様が剣を? 従者にでも持たせるんで?」
「違うわ。わたしが使うの」
ルイズの言葉に主人は驚きの表情を作る。
「こりゃおったまげた! 貴族様が剣をお使いに!」
「なにかおかしいの?」
怪訝になって聞くルイズ。
「そりゃ、軍人様や騎士様なら剣を杖にすることはありますけど。杖はメイジ
の命。そのほとんどが特注品で、店売りの剣なんぞお買いになる人なんていや
しないのでさ」
「まあ、それはそうでしょうね。でも、そんな特注品なんて待ってられないの」
「へえ、そうですか」
「適当に見せてくれないかしら」
「わかりやした」
ルイズの言葉に主人は手揉みをして店の奥へと行きながら。
(こりゃいいカモだ)
こっそりと呟いた。
「貴族様に似合う物といえばこれでしょう」
そう言って主人が持ってきたのは刀身の細い剣であった。
「レイピア?」
首を傾げるルイズ。たしかにハンドガードが付いたその剣はレイピアである。
主人は大きく頷くと剣を差し出した。
「へい。これは無名ですが腕のいいメイジが彫金したレイピアで、大きさも貴
族様が持つには丁度いいと思いますぜ」
手に取ってよく見る。斬撃より刺突に重点を置いた刃、細微な彫金がガードに
施され、手に持った感じも良い。
剣を持ちながら、ルイズはぼんやりとルーンが光るのを確認した。
(やっぱり剣が発動条件だったんだわ)
レイピア握っていると体が軽く感じ、初めて手にする剣なのに最適な使い方が
脳裏に浮かぶ。
試しに握ったレイピアを軽く振ってみる。
「ああ、貴族様。店の中で振り回したら危な――」
ビュン――
「へ?」
どうせまともには振れないだろうと高を括っていた主人の鼻先を、剣先が通る。
「……っふ!」
垂直斬り、水平、斜め、跳ね上げ。
刃が風を切り、音は鋭く、軽いとはいえ、まるで小枝を振るうがの如く剣が舞
う。
その剣が動くたびに鋭い風斬り音が響き、主人は呆然と見ている。
「――しっ!」
最後に刺突を放ち、ゆっくりと手を戻した。
剣が発動条件だということはわかった。あとは当初の目的に帰るだけである。
「これはどうかしら、アル?」
後ろへ振り返る。
「そんな細いのよりも、もっと幅広で長いの剣のほうが最適だな」
「あっそう」
ざっくばらんなアルの言葉に。
「それじゃ、返すわ」
ルイズは未だ呆然とする主人へあっさりとレイピアを放った。
「って、あわわわわっ!?」
わたわたと主人は剣をお手玉すると、息を切らせてルイズを睨む。
「な、なにをするんでさ! 剣を投げるなんて危ないっ!」
「なによ。ちゃんと持ち手をそっちに向けて投げたわよ」
しれっと言うルイズに主人が更に口を開こうとするが。
「そういう問題じゃ――」
「いいから、それより幅広で長い剣を持ってきなさい」
「でも貴族様が使うのにはこれぐらいの大きさが――」
「――持ってきなさい」
強くルイズが遮ると、しぶしぶと主人は店の奥へと入っていく。
小さく「これだから貴族は!」と呟きながら。
そして次に主人が持ってきたのは随分と大きな剣であった。
1.5メイルほどある長さに、磨き上げられた刀身はルイズの顔が隠れるほどの
幅がある。各所に散りばめられた宝石が光を放つ。
「これは、かの有名なゲルマニウム鉱石……じゃない、ゲルマニアの錬金魔法
使いシュペー卿が鍛えた業物でさ。これ以上の物はこの店にはありません」
そう言って自慢げに見せる主人。
「へえ……」
その大剣を見てルイズも簡単の声を上げ。
「んな屑鉄なんぞ使えるか」
アルがバッサリと切った。
「な――」
絶句する主人に背を向けると、アルは近くにある刀剣を手に取り始める。
「それを使うぐらいなら、まだ錆びて折れた刃を使う方がまだいい」
それは安売りされている古剣の束である。
がさごそと漁るアルに主人は顔を赤くし。
「こ、この――」
その時、どこからか笑い声が聞こえた。
「ははははははは! 白い娘っ子の言うとおりだ!」
突如聞こえた声に戸惑う中。主人はアルのほうへ向き怒鳴った。
「黙りやがれデル公! それこそ屑鉄にしてやるぞ!」
その声はアルの手に握られたボロボロの剣から発せられていた。
「おう! やれるもんならやってみやがれ! ここらで腐っているのも飽き飽
きしていた頃だ!」
カチカチと鍔が鳴り、剣から声が出る。
「ようし! よく言った! 貴族様に頼んで一切合財を熔かしてやろうじゃね
ぇか!」
「はん! 熔けずに依頼料だけ嵩ませてやってもいいな!」
「んだとぉ!」
「なんだよ!」
口汚く罵りあう主人と剣。
「インテリジェンスソード?」
その名の通り、魔法使いにより知性を持つマジックアイテム。
ベラベラと流暢に喋るそれはアルには及ばないまでもかなり物だと思う。
ルイズが呟くと、主人が申し訳なさそうな顔になる。
「へえ、そうでさあ。大昔に作られた物らしく、見た目はあれですがえらく頑
丈で切れ味もそこそこあります……」
「なんでそれが古剣の束に埋もれているの?」
ボロボロとはいえ。普通、インテリジェントアイテムとなると城が買えるよう
な値段がつくものだが。
「あいつはなにせ口が悪くて……」
主人の顔が苦々しく歪む。
「買っていったお客を怒らせては返品されることを繰り返しているんでさ」
「なよなよの腕で俺を使おうとするからだ!」
「黙りやがれデル公!」
剣が口を挟み、主人が怒鳴り返す。
「デル公じゃね! デリフリンガーつう立派な名前があるんでい!」
「立派過ぎて涙がでるね!」
2人(1人と1本?)の言い争いを見てルイズはうんざりとした顔になり。
「アル、そんな剣なんて早く戻し――」
「よし、これを買うぞ」
「「ええー!?」」
ルイズと主人の声がハモった。
「止めなさいよアル。そんなボロボロの剣」
「そうでさ。買ってまた返品されるなんざ、もううんざりですぜ」
2人の言葉の合間にもアルは繁々とデルフリンガーを見る。
「だが、長さも幅もちょうどいい。それに薄っすらと感じる魔力。これはいい
媒体になる」
「……なんか物騒な言葉があった気がしたが。白い娘っ子、見る目があるじゃ
ねえか!」
「でもアル……」
「これ以上の物はないぞ?」
その言葉にルイズも折れた。
「わかったわ。主人、この剣の値段は?」
「へえ……新金貨100で結構です」
剣の相場がわからないルイズは戸惑いなく懐から金貨袋を出すと100枚掴みカ
ウンターに並べる。
「ひい、ふう、みい……はい、ちょうど」
主人は慎重に数えると大事にカウンターの下へと仕舞う。
「これからよろしく頼むぜ白い娘っ子、貴族の娘っ子」
アルに掴まれたまま機嫌よく言うデルフリンガー。
「ああ、いい“物”になってくれよ」
アルはくくくと笑った。
「ほら、早く帰るわよ」



アルとルイズが出て行って暫く経った時。
再び武器屋の扉が開く。
「へいらっしゃい」
ルイズの扱っていたレイピアの手入れをしていた主人が見たのは。
「ここにもいないわね……」
燃えるような赤い髪の色気をむんむん出す女――キュルケ。
「これで、6軒目」
無表情に呟く青い髪の少女――タバサ。
「そろそろ飽きてきたー」
可愛らしい声を出す、少女“だと思われる”者――エルザ。
前者2人は身につけたマントから貴族だとわかるが。問題は最後の1人。
全身黒尽くめ一色で、怪しいにもほどがある。
呆気に取られる主人にキュルケが近づき。
「ご主人。ここに桃色髪の貴族と銀髪の女の子がこなかったかしら?」
それに主人は戸惑いながらも応える。
「え、ええ……少し前に来ましたが」
それを聞くとキュルケは「遅かったか」と呟く。
「それで、その貴族はなにを買ったの?」
「はあ……ボロボロの大剣を……」
「へえ……そんなものを」
ニヤリとキュルケが笑う。
「そう、それじゃご主人。この店のお勧めなんてある?」
主人は改めてキュルケを眺めた。
まるでメロンのような胸に、きゅっとくびれたお腹、肉付きのいい太ももと色
気としては良いが、いかんせん剣を自在に振るうには筋力が足りないだろう。
銀髪の少女に屑鉄と揶揄された自慢の剣を売りつけようとも思ったが、武器屋
の端くれとして不相応な物を勧めるのはいただけない。
主人は手入れをしていたレイピアを差し出す。
「それでしたら、これです」
その見事な彫金の施されたレイピアを見てキュルケは感嘆の声を上げる。
「おいくらかしら?」
「新金貨で1000ってところです」
その答えにキュルケは艶のある声で、主人の耳元で呟いた。
「ちょっと――お高くない?」

3分後。ほくほく顔で武器屋を出るキュルケ。
その手には見事な彫金のレイピア。
「…………」
キュルケについてくる2人は無言、心なしか気の毒そうな表情。
背後の店から啜り泣く声が聞こえるのは……気のせいだろう。
「よし、買い物も安く済んだし。もう少しうろついてから帰りましょうか」
キュルケが宣言するように言い。
「……古本屋」
「パイ屋さん!」
タバサとエルザが口々に返す。
「はいはい。それぐらいならあたしのおごりでいいわよ」
3人は表通りへと歩いていった。


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