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ゼロの黒魔道士-36


「いい季節ですよね!今なら、丁度タルブの『猫祭り』の季節ですし!」
爽やかな朝、初夏の風が、街道沿いを吹きぬけていた。
ルイズおねえちゃんの授業も、王室の結婚式がもうすぐっていうことで、ほとんどがお休みになったみたい。
……その代り、「宿題多すぎ!」ってルイズおねえちゃんが叫んでたなぁ……学生さんって、ホント大変だ。
「……猫?なんで、猫祭りなの?」
「えぇと、元々はワイン蔵を荒らすネズミ退治の猫を慰労するお祭りだったらしいんですけど、
 今はみんなで猫の仮装をしたり、お酒を飲んで夏の到来を祝う祭りなんです」
なんか、とっても楽しそうなイベントだなって思う。
でも……
「ギーシュ~!もうちょっと笑顔になりなさいよ!暗い顔してると、幸せが逃げるわよ?」
……キュルケおねえちゃんはとっても嬉しそうだけど、
ギーシュが、モットおじさんのところから帰ってきてずっと暗いままなんだ。
「――放っておいてくれ、頼む」
「ぎ、ギーシュ?私はあなたの味方だから、ね?例え女装したりしても……」
「あぁっ!?もう、言わないでくれぇぇぇ……」
なんか、とっても酷い目にでもあったのかなぁ……?
「そういえばほら、アニエスってどうなったの?例の鎧の……」
キュルケおねえちゃんが、ふと思い出したよう言う。
そっか、キュルケおねえちゃんも、あの夜はモットおじさんの所に行ったから知らないんだ。
「あぁ、鎧の姉ちゃんなら――」
「……『自分を見つめ直す』って書き置きだけを残して消えちゃったんだ……」
デルフの言葉を引き継ぐ。
アニエス先生は、あの夜、夕食をもっていってあげたら、いつの間にかいなくなってたんだ。
どこに、行ったんだろう……?“ブレイヴ・ブレイク”って病気、治ったのかなぁ……?
「う~ん、これだと締らないし――」
ルイズおねえちゃんは、相変わらず白い本を持って、うんうん唸っている。
「ルイズ~?あんたまだ詔できてないの?結婚式って、あと1週間ちょっとでしょ?」
「わ、分かってるわよ!あ、後はツメなのよ、ツメ!」
……このお宝探しが、いい気分転換になればいいなぁ……

「あ、タルブが見えてきました!」
遠くに、白い壁の家がいくつか重なるように見えてくる。
あれが、タルブなんだ。綺麗でのどかそうな村だなって思ったところに……
「クェー!」
「……え?」
……どこかで、聞いたことがあるような声が聞こえてきたんだ。


ゼロの黒魔道士
~第三十六幕~ タルブ・de・○○


タルブの村は、丁度ダリの村を大きくしたような感じだけど、
雰囲気はずっと明るかった。多分、大人の人たちがちゃんと働いているし、
子供たちも外で元気に遊んでるからだと思うだ。
『猫祭り』の準備なのか、あちらこちらに猫のぬいぐるみや、猫の置物が置いてあった。
……『猫ワイン』って、猫が入ってるわけじゃないよねぇ?
「で、シエスタ、この地図の×印なんだけど――」
「クェー!」
キュルケおねえちゃんの質問は、大きな声で遮られちゃったんだ。
「さっきから聞こえるけど、何の音?」
ルイズおねえちゃんが不思議そうな顔をする。
ボクの予想が正しければ、この声って……
「あぁ、この声は、そこの厩舎ですね。見てみます?おもしろいですよ?」

「な、何なのよ、これ!?」
ルイズおねえちゃんは驚いていたけど、ボクはもっと驚いていたんだ。
その生き物の姿は、ボクが知ってるものより、ずっとくすんだ色をしていたんだ。
「クェーッ!」
でも、その声も、その臭いも、そのクチバシも、そのケヅメも、その大きさも……
「クェ~!」
どこからどう見ても、その生き物は……
「ちょ、チョコボっ!?」
「あら、ビビさん、御存じなんですか?」
ボクの知ってる、普通のチョコボは黄色い。卵の黄身と同じぐらいの鮮やかな黄色だ。
でも、ここ、タルブの馬小屋のようなところ(多分、チョコボ舎かな?)のチョコボは、
色がくすんだ白、ミルクを入れすぎた紅茶みたいな色をしていた。
でも、この鳥は、間違いなくチョコボだ。
人が乗ったり、土を掘ったりする、あのチョコボだ。
しかも、何羽もいる……
「な、何なのよ、このおっきな鳥!?」
「――すごい匂いだね、これは」
他のみんなはルイズおねえちゃんみたいにおっかなびっくりしてたり、
ギーシュみたいにチョコボ独特のにおいに鼻をつまんだりしている。
「タルブ名物『ショコボ』です。畑を耕すときとか、荷物を運ぶのに使うんですよ?」
「え、『ショコボ』……?チョコボじゃないの?」
なんとなく、発音が違う気がしたんだ。
「えぇ、『ショコボ』……あら?ビビさんの発音、私のひいおじいちゃんと同じような言い方ですね?」
「ひいおじいちゃん……?って、いたたたたたたた!?」
横を向いた瞬間に、チョコボが、ボクの帽子をつついてきたんだ。それはワラとかの餌じゃないのに……
「あらあら、ビビさん、気に入られたみたいですわね?」
そんな気に入られ方しなくてもいいんだけどなぁ……
「や、やめ、やめてててててて!?」
チョコボの嘴って、地面を掘ったりするから結構鋭い。
それに、首の力もものすごく強いんだ。あと、足も速い。
……襲われたら、かないそうにないなってふと思った。
「ハハハ、僕のライバルも鳥相手には形なしか!」
ギーシュがケラケラ笑ってる。うん、元気になったみたいで良かったけど……
ちょっと、その笑い方はムッとするなぁ……
「いいかい、鳥っていうのは、こうやって首の下を……でっ!?」
チョコボを得意気になでようとしたギーシュは、おもいっきり頭の上にケヅメが振り下ろされた。
……チョコボって、すっごい器用だなぁ……
「フフッ、ミスタ・グラモンも気に入られたみたいですね」
シエスタがクスクス笑う。ボクも、つられてちょっと笑った。
「ギーシュ~、なさけないわねぇ~!ところで――荷物ぐらい置きたいんだけど?」
ルイズおねえちゃんも久々に笑ったみたいだ。うん、良かった。いい気分転換になったみたいで。
「あ!そうですね!それじゃぁ、私の家に向かいますか」
「いたたたたたたたたた、髪の毛に絡まる!?絡まってる!?」
「じ、じっとしてなさいよギーシュ!今取るから――」
モンモランシーおねえちゃんがギーシュの頭からケヅメを取り除く間、
そのチョコボはうれしそうに「クェーッ!」と鳴いていた。
……流石に、ちょっと痛そうだから、ボクも手伝ったけど、
ギーシュの髪って、ちょっと癖があるのか、チョコボのケヅメにうまいこと絡まってて……
「いだだだ!?抜ける抜ける抜ける!?」
……長い時間を費やして取れたけど、あとちょっとで、
コルベール先生みたいになっちゃってたかもしれないなぁと思ったんだ。
 ・
 ・
 ・
シエスタの実家は、風車が目立つちょっと大きめのお家だった。
風車って言ったけど、普通の板みたいな大きな羽が縦にゆっくり回るものだけじゃなくて、
お椀みたいな小さい羽が横にグルグルと素早く回っているものや、
お花みたいな形で一が通り過ぎるたびに回るもの、
風じゃなくて、実際は脇を流れる川の水車の動力で回っている偽物の風車もあって、
なんか家全体までグルグル回っているような印象を受けた。
「ひいおじいちゃんが大好きだったんですよ、風車」
……大好きって言うにしても、程がある気がするなぁ……

「ただいま帰りましたー!」
「まぁまぁまぁ!?貴族の方々まで!?粗末なあばら家にわざわざお越しいただくとは――」
シエスタのお母さんかな?シエスタより少し背が低くて、ちょっとふっくらした感じの女の人が出迎えてくれた。
そのお家の中は、外よりも、もっとすごかった。
あちこちに、木で作った馬車の模型や、歯車の組み合わさった鉄の塊が転がっていて、、
ガラスの筒の中では色とりどりの球体が浮かんだり沈んだりしている。
「――あばら家、っていうより――何かの研究室みたいな雰囲気ですわね」
モンモランシーおねえちゃんが、一瞬『物置』って言いそうになったのが分かった。
でも、これだけゴチャゴチャとよく分からない物が並んでるって、確かに物置っぽいけど、
なんとなく、ワクワクしないかなぁ?キュルケおねえちゃんじゃないけど、お宝の山って感じで。

「大体が、ひいおじいちゃんの発明品なんです」
シエスタがお茶を入れるのか、ヤカンを火にかける。
そしたら、そのヤカンがクルクルと回りだして……
「え?どういう仕組みなんだい?」
ギーシュも不思議に思ったのか、大きめのテーブルにつきながら聞いたんだ。
「あぁ、これもひいおじいちゃんの発明で――ほら、上に風車の羽がありますよね?」
かまどの上の方に、外にあった大きな風車を、ずっと小さくして横倒しにしたものがあった。
そこから、軸が上に伸びて、歯車を伝って、かまどの下の方にクルクルという動きが伝わってる。
「なるほど、湯気を利用した動力ということか」
「そうなんです、これで、まんべんなく熱が伝わるという仕組みなんですよ!」
「ふむ、おもしろいね!肉を焼くときも使えるのかな?」
ギーシュは素直に感心してるけど、おねえちゃん達はちょっと退屈そう。
……うーん、男の子と、女の子の差、なのかなぁ?

「えーと、ところで、シエスタ?この地図なんだけど」
「え?あぁ、はいはい、その紙、ですね?」
キュルケおねえちゃんは、早く×印のついている場所に案内して欲しくてたまらないらしい。
「で、この地図のこの印のところって、結局この村のどこに――」
「そんな場所、存在しませんよ?」
「……え?」
ボクは、いや、他のおねえちゃん達も、耳を疑ったんだ。
「ほら、さっき厩舎にショコボがたくさんいましたよね?あの子たち、畑を耕すときにがんばってもらうんですけど、
 そのとき、地面から色々見つけちゃうんですけど、こういった紙もよく見つけて……ほら!」
……今、気づいたんだ。それは、おねえちゃん達や、ギーシュも同じだったみたい。
部屋の壁一面が、キュルケおねえちゃんの持っている地図とほとんど同じもので埋め尽くされているってことに……
「ちょっとした壁紙にしたりすると、味のある模様なのでお土産として売ってるんです。タルブの密かな名産ってところですね。
 ショコボの落書きっていうことで、『ショコ・グラフ』という名前で……」
キュルケおねえちゃんの笑顔が、貼りついたみたいに引きつっていた。
「――ま、待ちなさいよ?あなた、この地図は『タルブの』って……」
「?えぇ、ですから、その紙が『タルブの』名産品と申したつもりでしたが……あの、何か不都合が?」
お茶っ葉を探しながら、シエスタが首をかしげる。
……そっか、『タルブの“描かれた地図”』じゃなくて、『タルブの“お土産”』なのかぁ……
なんか、言葉って難しいなぁって思ったんだ。
「それじゃぁ、この地図って……」
ルイズおねえちゃんが、気の毒そうな表情になる。
「むかーし、貴族様方に調べてもらったんですがね?いやまさか大切な紙だったら大変ですし」
シエスタのお母さんが、カップを出すのを手伝いながらしゃべる。
シエスタと、シエスタのお母さんは、キュルケおねえちゃんの事情には全然気付いてないみたいだ。
「その結果、『こんな場所はハルケギニアではありえない』ってことで、大昔の落書きってことになったみたいですね」
コポコポと、熱いお湯がお茶っ葉の上に注がれる。
お茶の葉が、その熱でふにゃふにゃになるみたいに、キュルケおねえちゃんの体から力が抜けていくのが分かった。
「そ、そんな~……」
「あー――えー、そのー……」
ギーシュが、かける言葉につまっている。
「何というか、古物商って、あこぎねぇ……」
ルイズおねえちゃんも、かぶりをふる。
流石に、壁紙と、お宝の地図だと、値段もすごく違うはずだよね?
……なんて言ったらいいんだろう……
「――御愁傷様、ね」
モンモランシーおねえちゃんの言葉って、大抵鋭くて、的を射てると思うんだ……
「高かったのにぃぃぃぃぃ~!!!」
キュルケおねえちゃんは、テーブルにへにゃ~ってつっぷしちゃった。
なんか、ものすごく疲れきった感じがする。

「……あ、シエスタ?シエスタの、ひいおじいちゃんって……」
なんとなく、話を別なところに持っていった方がいいかなって思って、シエスタのひいおじいちゃんのことを聞くことにしたんだ。
「あ、私のひいおじいちゃんですか?」
『ひいおじいちゃん』って言うときの、シエスタの顔がちょっと誇らしげだった。
「この子、ひいじいさまっ子て言えばいいんですかね、小さいときに死んじまったってのに、ずっと好きだったみたいでねぇ」
シエスタのお母さんがそう苦笑しながら、お茶のカップを配る。
お茶は、ミントの香りが強い、ハーブティーだった。とってもすっきりした香りで、飲みやすい。
「だって、ひいおじいちゃん、色々作ってくれて、とっても楽しかったんだもの!聞いたこと無い話してくれるし!」
なんか、小さい子に戻ったみたいな口調になるシエスタが、ちょっと可愛らしかった。
「まったく、この子ったら――ひいじいさまはね、元々はこの村の者じゃないんですよ」
「あ、そうなんだ……?」
「大昔に、ショコボにまたがってこの村にやってきたそうでしてね。
 あんな大きな鳥は見たこと無いってことで村中大騒ぎになったと聞いております」
あれ?でも、そうすると、チョコボはそのときからずっと生きているってこと?
「あの、じゃぁ……今いるチョコボって……」
「あぁ、今のショコボは、ちょっと貴族様に頼んでね、何しろ役に立つ鳥だもんですから。
 南方の方に住むオストリ鳥っていう大きな鳥と交配させた子孫なんです」
あぁ、だから普通のチョコボとは違う薄茶色なんだ。
「あ、そうそう!ビビさんのショコボの言い方、ひいおじいちゃんと似てない、お母さん?」
「あら?そういえばそうねぇ?もしかして、ご同郷なのかしら?」
そういえば、ボクはロバ・アル・カリイエってところから来たことになってたっけ。
……うーん、どうしよう。そっちの方の話をされたら、とてもじゃないけど話をあわせられないなぁ……
「あ、ならひいじいさまの手帳、読めなさるかもねぇ?あの訳分からないこと書いてある手帳」
どうしよう、今更違うって言ってもしょうがないし……
「あぁ、あったあった!時計の所に隠してたんだよね?」
シエスタが、時計(って言っても、歯車がむき出しで、文字盤が無かったから、時計にはとても見えなかった)の針を、
無理やり逆回転させると、カチッと小さな音がして、歯車の一部が外れた。
「これなんですけど、ビビさん、読めます?方言なのかなって最初は思ったんですけど、綴りや文法がところどころ変で……」
どうしようって思ったけど、そのあちこち黄ばんだ手帳を見せてもらったんだ。
表紙は、真っ赤な皮でできている手帳だった。あちこちについている焦げ痕は、ロウソクでつけちゃったのかなぁ?
読めなかったらどうやってごまかそうって思いながら表紙をめくったんだ。
そしたら、聞き覚えのある地名が、そこに書き記されていたんだ。
「……『リンドブルム大公、シド・ファブール8世を尊敬して』……え!?」
リンドブルムって……あの!?
 ・
 ・
 ・
手帳を読み進めていくと、やっぱりあのリンドブルムだったんだ。
飛空挺の国、大きなお城のある街並み、人がいっぱいで目が回った、あのリンドブルムだ。
シエスタのひいおじいちゃんの名前は、『シド・ランデル』。
「え、ビビの故郷って、平民でも苗字があるの?」
ルイズおねえちゃんが口をはさんだ。
「う、うん……めったに使わないけど……」
ともかく、シド・ランデルさんは、リンドブルムの工業区で生まれたらしい。
……アレクサンドリアの侵攻で、つぶれてしまった工業区のことを思い出すと、
ちょっといたたまれない気持ちになっちゃったんだ。
少しだけ、そうした気持ちになりながら、先を読む。
そのときの大公、シド・ファブール8世にあやかって名前をつけてもらったらしい。
(ボク達を色々世話してくれた、カエルになったりブリ虫になった人は確か9世だから、そのお父さん、かな?)
ともかく、ランデルの方のシドさんは、そのときの内戦を憂いたリンドブルム大公に共感し、飛空挺の開発に携わったんだって。
手帳の最初は、そうした自分の人生を振り返り、飛空挺を作るにあたっての心意気からはじまっていた。
曰く、『技術者たるもの、常に新しきことを目指せ!』とか、
曰く、『技術者たるもの、完成図を思い描け!』とか書いてある。
汚い字で、技術者っぽくてそっけない文章だけど、熱意がすごく伝わってくるな、と思うんだ。

「やっぱり、ビビさんと同郷だったのですね?文法がおかしくて私たちでは意味が分からなかったのに……」
そういえば、ボクがこっちの本を読もうとしたときも、文法や綴りが違うなって思ったっけ。
きっと、ちょっとずつズレてるんだと思う。
手帳は、いくつもの数式やアイディアのラフ・スケッチが続いた。この辺はぜんぜん分からない。
ところどころに、『もっと強度が?』とか『要確認!』といった走り書きが飛び出してくる。
手帳の1/3まで来たところで、箇条書きのまとめが書いてあった。
『霧機関』っていうものの完成と、その問題点について、だ。
「『霧機関』って何だい?」
「えぇと……ボクもあまり詳しくないんだけれど……」
ギーシュの質問に、断りをいれてから答えようとしてがんばる。
っていっても、詳しい仕組みとかは全然知らなかったんだ。
そもそも霧っていうのが、魂が星を循環するときに発生する副産物ってことぐらいしか知らなくて、
(ボクが霧で作られてるってことは、あんまり言いふらしたくなかったし)
「えっと……霧は、強力な魔力をもった煙、かなぁ……?」
このぐらいの説明しかできなかったんだ。
「ということは、風石の代わりに、その霧というものを使って船を飛ばすということか」
ギーシュはこうした機械の仕組みとかには頭がよく回ってくれるみたいで助かるんだ。
「で、えーと……ランデルさんの書いている問題点は……」
『霧機関』は、ボク達が旅をしたおよそ50年ぐらい前からずっと使われてきたものだった。
でも、ランデルさんは、その霧機関に問題点を見つけていたみたいだ。
霧の存在する低高度でしか使用ができないこと、
(山地を越えることが難しいって書いてある。だから、南ゲートが開発されたのかなぁ?)
霧の大陸の外、例えば外洋には出れない可能性があることが書かれてあった。
その問題点を解決するヒントを探しに旅に出て……
「チョコボに乗ってたときに、霧に飲み込まれた……?」
そこが手帳の丁度半分まできたところで、数式や絵じゃない、文章の続くページが始まっていた。
ランデルさんは、深い霧の中、目を思わずつぶっちゃって、次に開いたときにはまったく霧の無い、青空の下にいたらしい。
「『植物:既知の生態系とは異なる。 動物:同種のものもわずかながらいるが、植物とほぼ同じく。
  結論:霧の大陸では無いと推察される』……なんか、すっごく淡々とした書き方だなぁ……」
実際は、もっと驚いたんじゃないかと思うんだけど、民家を探してとにかくチョコボを走らせたらしい。
そうしてたどり着いたのが……
「それが、この村ってわけなんですね!あー、なんかひいおじいちゃんのことが分かってうれしいです!」
シエスタがにっこり笑った。
タルブにたどり着いたランデルさんは、帰り道も分からないし、この村に住む決心をしたって書いてあった。
何より、『ここの技術の無さは逆に自分を刺激する』って書いてある。
技術者魂ってことなのかなぁ……?なんか、尊敬してしまうんだ。
あとの手帳は、風車の設計図メモや、ちょっとした日記が続いていた。
おもしろかったのは、シエスタのひいおばあちゃんへの告白をしようと考えたらしいところのメモで、
「『ラブレター作戦:問題点→当方に文才なし。 代筆の可能性?→誠意が伝わらない!
  プレゼント作戦:問題点→彼女の好みは? 誰かに聞く→誰に?誰にだ!?』……だって」
「なんか、いつの時代も同じだねぇ」
ギーシュが苦笑する。
なんか、いつの時代も恋する人って大変なんだなぁと思って、ボクもちょっと笑った。
 ・
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 ・
お昼ごはんまで、こうやってまったりとシド・ランデルさんの手帳を読んだり、
ランデルさんの発明品をシエスタに説明してもらったり、
ワイン蔵を見学しながらすごしたんだ。平和な旅って感じで、本当いいと思う。
……1人を除いて、だけど……
「あの、古物商め~……」
キュルケおねえちゃんは、シエスタの家で、ずっと『猫ワイン』を沢山飲んでいたみたい……
あんまり、飲みすぎると、体に悪いと思うんだけどなぁ……

ピコン
ATE ~歌劇を見ながら~

その日の昼ごろ、ゲルマニアの劇団によるトリスタニアでの初舞台が行われていた。
タニアリージュ・ロワイヤル座を汚す行為であるとの指摘もあったが、
この度の婚姻による文化交流の一環ということと、ゲルマニアで一番人気の劇団であるということで、
無理やり反対派をおさえての開幕となったわけだ。トリステインの目の肥えた客は受け付けないのではと考えられたが、
怖いもの見たさという奇特な客がそれなりいたのか、客席はほどほどに埋まっていた。
「♪愛しの 貴方は 遠いところへ?♪」
主演女優の歌声が舞台から響く。なるほど、舞台映えのする美人だ。
「♪色あせぬ 永久の愛 誓ったばかりに♪」
しかし、ありきたりの美人だ。この程度ならば、この間、貴族警護役で雇った女騎士と同程度ではないか。
そう高等法院長であるリッシュモンは、眠たげな表情で舞台を眺めながら思っていた。
「ありきたり、といえばありきたりですな。内容を含め」
どこで考えが漏れたのか、横に座った男がそう呟く。そう、そのとおり実にありきたりな内容だった。
なんといっても単調だ。亡国の姫と、それを巡る男たちの話。使い古されている。
「――確かに、これが人気舞台となった理由がはかりかねるな」
単調な上に不謹慎な内容であるなとリッシュモンは思っていた。
何しろ、一人の男は亡国の戦士であり、もう一人の男は対立国の王子だ。
どことなく、今回の婚姻のあてつけと思われてもしょうがない。
しかし、このような風刺的な演目を行うのも、ゲルマニアらしいと言えばらしいか。
「あぁ、それには事情があるらしいですよ。なんでも、ヴィンドボナの講演でハプニングがあったとか」
「ハプニング?」
少々、興味が魅かれた。舞台では、主演女優が花束を投げ、消えた男に再び愛を誓うという名場面だったが、
男の話の方がよっぽどおもしろそうだ。
「そう、ゲルマニアで公演中に、クラーケンの仲間らしき巨大なタコが演劇中に乱入したそうでしてね。隣の見世物小屋から逃げだしたとか」
何とも間抜けな話だ。見世物小屋の管理体制はどうなっていたというのだ。
これだからゲルマニアは、と愛国心をあまり持ち合わせていないリッシュモンでも呟いてしまう。
「ほう?それで、どうなった?」
「団長以下、役者のアドリブで乗り切ったそうで。まぁ、そういった大道芸は得意なのでしょう」
そんなことで人気が出る舞台なのだ、ゲルマニアの文化程度が知れようというものだ。
「ゲルマニアらしい、といえばらしいことだ」
ふん、と鼻をならすリッシュモン。これだからゲルマニアとの連合は反対だったのだ。
「えぇ、我々のように念いりな脚本は書けぬ分、そうしたところで人気獲得に走るようですな」
ピクリ、とリッシュモンの肩が動く。
目は舞台の上、姫と悪役の王子との優雅なダンスシーンに注がれてはいるが、
頭は完全に男との話に集中していた。
「脚本、か。そういえば、次回の演目は?」
もちろん、客席のマナーとして小声だ。
いくらルール破りが得意なリッシュモンとて、そこまでルールを破る気はない。見えるところでは、だが。
「明日の朝、ですな」
話し相手の男がこともなげに答える。舞台上の俳優よりも、実に演技が上手いものだ。
新進気鋭の舞台監督として十分通用する見た目と受け答えだ。しかし、明日とは。
「急だな」
リッシュモンの頭では、算盤が弾かれていた。もちろん、文字どおりの舞台興行収益などではない。
考えているのは、今回の“舞台”により、どう情報を受け渡しすれば儲かるかという皮算用だ。
「客と役者が揃えば、早いに越したことは無いんですよ。いつ台本が他に洩れるとも限りませんのでね」
肩をすくめる様が、実に芸術家らしい動きだった。
この男は、このような職に就かず俳優という道もあったのではないかと思われた。
「ふむ、それなりに、趣向を凝らした舞台なのかな?」
リッシュモンも舞台好きの貴族としての演技を続ける。伊達に綱渡りは続けていない。
老獪な役者のみが可能な自然な演技だった。
「それはもう。こちらもフルキャストで臨みますからね」
「期待しよう。特等席から見させてもらうよ」
とはいえ、役者は本職ではない。二重の意味をもたせたやりとりは続ければ続けるほど苦しくなる。
「えぇ、それでは。私は舞台の準備がありますので、この辺りで……」
それを見計らったのか、男が中座しようとする。正直、助かったとリッシュモンは考えた。
「ふむ、分かった。演目表はいつものとおりでいいのだな?」
舞台上では、死んだと思われていた戦士が、必死に姫の元へ馳せ参じる場面で、
他の客はその見せ場に釘付けになり、二人の男の密談には気づいていなかった。
「えぇ、いつものとおりで」
演目表は、会議録のこと。それはトリステインの閣僚会議でなされる国家機密である。
だが、リッシュモンにとっては、それは豊かな老後のための安チケットでしかなかった。
「♪命 尽き果てようとも 離しはしない♪」
「♪決闘だ!♪」
決闘、か。くだらないことだ、とリッシュモンはそう思う。
決闘など、愚者のやることだ。賢者は、決闘を観劇しながら、懐を温めるのだ。
舞台上の俳優に、マザリーニ枢機卿と、クロムウェルの顔を重ねつつ、リッシュモンはニヤリと狡猾な笑みを浮かべた。


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