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ジ・エルダースクロール外伝 ハルケギニア-45


45.ジャックとオリヴァー

ルイズがタルブから出発してしばらくしてから、
ティファニアがタバサの薬を完成させた。
笑顔でタバサの下へやって来たティファニアは、
やはりピンク色の液体が入ったビンを二つ持っている。

「これでおそらく大丈夫です」

タバサはおそらくという言葉がひどく頭に引っかかったが、
そんな事を言い出したらきりがない。
タバサは礼をしてそれを受け取って寝室に行き、
未だグッスリ眠っている自身の使い魔をたたき起こす。
悲鳴を上げて飛び起きたシルフィードの目には主人が映る。
頭をさすりながら、うーと唸ってタバサを見る。
なにしやがりますのねこのちびすけは。とは言わず、
正論で訴えることにした。

「今日は、帰んないって、お姉様はいいましたわ」

杖で頭を思い切りぶん殴られた使い魔が抗議の声を上げるが、
タバサはいつも通り、表情の読めない顔のままだ。

「事情が変わった」

彼女はこんなに早く薬が出来るとは思っていなかったのだ。
叔父が何を考えているのかは分からないが、
今この事に気付かれるとやっかいだ。
次の夏期休暇まで大人しくしておく方が無難だと思い、
タバサは早々に帰る事にした。

「きゅいきゅいきゅいきゅい……」

恨みのこもる声に杖を持ってタバサは対抗する。
その目はジャベリンでもどう?と言いたげだ。
シルフィードも負けじと、にらみを利かせる。
結局そのまま数分経って、先に折れたのはシルフィードだった。

「まったく、使い魔使いが荒すぎるのね」

ぼやいてからとぼとぼと外に出て、元の姿に戻った。
マーティンはふむとその様を見続ける。
シルフィードが服を脱ぐ辺りから。

「やっぱり、女性の裸に興味があるんだ?」

キュルケの問いに、いやいやと首を横に振った。

「こんな魔法、見たことが無いからね。シルフィード、今度その魔法の原理を教えてもらってもいいかい?」

シルフィードは目をそらし、言いにくそうに言った。

「えーと、知らないのね。そもそもお父さんやお母さんに先生とかから教わっただけだから、
 どういう風にこうなってるかなんて、わたしにはわかんないのね。
学校で大いなる意志の力がどーのこーのと聞いたけれど、よく覚えてないのね」

えへへ。と龍の姿に戻ったシルフィードはぽりぽり頭を掻く。
少し恥ずかしげなその仕草は、年頃の龍娘らしく可愛らしいものだった。

「なるほど……」

今のシルフィードが言った言葉で、韻竜達は魔法の原理をそれほど知らなくても、
使用する事が出来るとマーティンは分かった。
つまり魔法体系が簡略化されていて、それだけ魔法が一般的に使われているということだ。
タムリエルのそれに似ている。彼の地も本格的な理解を深めずとも、
それなりに魔法を使う事ができるのだ。

「今度、知っている魔法を教えてくれないか?」
「きゅい?かまわないのね」

大いなる意志とは何か?友の手紙にはこの地はアカトシュが創ったと書かれていた。
ならば、やはり彼らの魔法こそタムリエルの魔法なのかもしれない。
ルイズが帰るまでにやる事が一つ出来たマーティンは、
笑顔でシルフィードの方へ向かう。

マーティンとキュルケと共にタバサが龍に乗り、
タルブの村を後にする。見送りの盗賊の一人が空に浮かんでいく龍に向かって言った。

「ありがとうよ貴族のお嬢さんがた!
 マスターがいないから代わりに俺が言わせてもらうぜ」

「気にしないで。お互い利用しあったんでしょ?」
「ちげえねぇ!」

キュルケの返しに黒い頭巾の男は笑って答える。
龍は機嫌が悪そうにきゅいと吠えて、
そのまま風の様な速さで飛び去った。


「行っちゃいましたね」

途中からいる事すら忘れられていたウェールズに、優しくティファニアが話しかける。
彼女が近づこうとすると、微妙にウェールズが離れる。
名残惜しそうな、しかし確固たる意志を持って距離を空けている。

「あ、ああ。そうです、ね」

彼女は従妹であり、自分にはアンリエッタという女性がいる。
そう己に言い聞かせ、精神破壊兵器に目が行かぬように視線を空に固定する。
それは男を狂わす凶器。ありえない破壊力を秘めているのだ。

「フォックスさんはああ言っていますけど、
 しばらくはここでのんびりしてくださいね。
 街道の警備が強化されているでしょうから」

姫様が誘拐されてしまったのだから、
しばらくは街道等の警備が強化される事だろう。
テファはアンリエッタの結婚式までは、ここにいる予定だ。

「そ、そうですね」

ティファニアは歯切れの悪さを不思議に思ったが、
アルビオンに色々と思い残した事もあるのでしょうと、
敢えて聞かない事にした。実際の所誘惑と戦っているのだが、
そんなこと、ティファニアに分かるはずもない。

盗賊達は姐ごさんのフーケにはそんなちょっかいをかけるが、
おそれおおいからと、テファにはそんな事一切しない。
何というか、神性とかそういうオーラがテファからは透けて見えるらしい。
それを聞いたフーケは何であたしからは出てないんだよ!と答えた野郎に詰め寄ったそうな。

だから彼らからは手を出したりはしない。もちろんルイズの様にあんな事をされていたら、
危険性が無いときはそのまま眺める。仕方ない。盗賊達はそういう連中なのだ。
女よりも男の方が多いのだ。

それではと彼女が去って、ようやくウェールズは視線を下に降ろす。
見るべきだったのだろうか。だが、見てしまったら何か大事な事を忘れてしまうかも知れない。
青年にとって、一番愛すべきアンリエッタは遠くへ行った。
浮気はダメだ。そう、浮気はダメなのだ。浮気に成り得そうな物を見るのもよした方が良い。
そうしてウェールズは気持ちを落ち着かせる。

「ふぅ……」
「ハァイ。色男」

そんなウェールズの肩がポンと叩かれた。だが叩いた手はそのまま肩にのっている。

「なにか――あの子に?」
「い、いえ、何もないですヨ」
「そう。良かった」

お姉さんは笑っていた。緑色の髪の綺麗なお姉さんだった。
ただ、「妹に手を出したら殺す」と目が言っているのと、
のせられた手が肩を強く掴み、強烈な痛みを伴っていただけだ。

手が離れたウェールズはああ、とこれからの事について両手を額に当てて考えようとして、やめた。
何か自分の将来が不安なことこの上ない。しかし自分は生きている。
それにアンリエッタと結ばれたのだ。これ以上の幸せはない。
なら、どこだって天国ではなかろうか。ああ、そうとも。

アンリエッタの様な女性に恋をするということは、
それなりに大変な事である。ウェールズはそれを分かった上で、
彼女の事を愛する事にした。理由なんて「好きだから」以外に何もない。
それ以外何が必要だというのだろう?

「住めば都……かなぁ?」

牧歌的なタルブの村で、ウェールズは一人周りを見る。
どう見ても田舎であり、住んでも田舎であることは変わらないだろう。

「まぁ、悪い所じゃないか」

ぐっとのびをして、とりあえず家に戻る事にした。

王家の束縛から解放されて、少し憑きものが落ちたのかもしれない。
その憑きものとは王家が持つべき様々な義務や意地等だが、
アンリエッタによって、それらのほとんどが破壊されたのだ。
愛しいアンリエッタの説得によって、ウェールズはとてものんびりと生活が出来るようになった。
今彼に、レコン・キスタと戦って死んでこいと誰かが言っても、きっといやだと言うだろう。


ルイズが学院に戻った日。ワルドは、アルビオンまでどうにか逃げ出す事に成功した。
烈風カリンの一撃を回避できた理由は奇跡としか言いようが無いが、
それでも生きていることに、彼は感謝した。
しかしどういうわけか、彼の今の雇い主であるクロムウェルの秘書という名の上司であるマニマルコは、
帰ってきたワルドを見ていい顔はしなかった。

「ああ、帰ったのか」

首都ロンディニウムに向かうレキシントンの仕事部屋にいた彼女は、
冷たい声で労をねぎらいもしない。死んでいればよかったのにと言いたげな口調だ。
仕方が無いとワルドは思った。彼女の性格はある程度共に行動した事もあって知っている。
仕事が出来ない者には用が無いから死んで実験材料にでもなれと言い切る人だ。
手紙を奪えずアンリエッタを誘拐出来なかったのだから、怒るのも無理はない。
マニマルコに会う前に、桃色がかったブロンド髪の死体が無いかと兵隊に聞いて回ったが、
どこにもそんなのは無かったと言われた。ならば、どうやってか逃げてしまったのだろう。
その事についてワルドが謝罪しようとして、口を開いた。

「マニマルコ殿。手紙と姫の誘拐の件は私のミスです。何なりと罰をお与え下さい」
「それ『だけ』か?」
「は?」

聞き返したワルドを見て、マニマルコは心の底からため息をついた。
ああ、こいつ使えない。シロディールのメイジより使えない。
何でこんな使えないメイジが世の中に存在しているのだという声を、
ため息に詰め込んでいるようだ。詰め込めるだけ詰め込んでから、
ようやくマニマルコは話をする気になれた。

「ウェールズはまだ生きているのだが」
「そんな!あの男は私の目の前で死んだはずです!」

苦虫を数十匹噛みつぶした様ないらだたしげな顔で、マニマルコはワルドの方へ何かを投げた。
手に持って確かめると、切り傷とほこりで汚れた人形だと分かった。

「これは……?」
「スキルニルだ。ウェールズに化けていた」

ワルドの顔から血の気が引いた。マニマルコは続ける。

「私とて悪魔では無い。二度までなら失敗も許そうではないか。
手紙を奪取出来ず、王子をまんまと逃し、アンリエッタの誘拐までしくじった。
私が言いたいことは、分かるな?」

マニマルコはワルドに近づいていく。その手からは禍々しい緑色の光が発せられている。
ワルドは以前その障気を含んだ様な光を見たことがあった。その光に浴びた者は意識を失い、死んでしまうのだ。
それは体から魂が抜き取られる魔法である。危険なこの魔法は当然死霊術の一種で、
マニマルコを倒したメイジギルドの精鋭はこの呪文によって敗れるはずだった。
結局のところ、対抗策によりマニマルコが敗れる事になったのだが。

「マニマルコ殿、水の精霊との『危険な交渉』の際、私が身を挺してあなたをお守りしたではありませんか」

「そうだったか?忘れたな。では、ごきげんようワルド。いや、それは領地の名か。
さようならだ。ただのジャック」

ワルドが杖を抜くより早く、緑光が彼の胸を貫く。そしてその身体は霧の様に消えた。

「……使えない上に悪知恵だけは働くか。スクウェアメイジの魂と身体が欲しかったのだがな」

マニマルコはまたため息をついて、肩を回す。
大方どこかから遍在で操作しているのだろう。そして本体はどこか遠くへ逃げているに違いない。
ああ、と気を落として、自室で死体の調整にとりかかるマニマルコであった。

「で、どうだったのですかな?子爵」

比較的近いクロムウェルの部屋、その部屋の主であるクロムウェルと、
たまたま来ていたイザベラが見守る中、ワルドは首を横に振った。

二人はレコン・キスタ結成以来の付き合いであり、水の精霊への襲撃や裏工作等を、
共に行ってきた者同士でメイジと非メイジの枠を超えた友であった。

とはいえ、クロムウェルの方がワルドを上に見ている。
親しき仲にも礼儀ありといった事も多少有るが、
非メイジとして生きている人間にとって、メイジとはそれ程凄いものなのだ。
特にスクウェアクラスのメイジに全く敬意を払わずに接すること等、出来るはずがない。

そんなクロムウェルは馬鹿正直にマニマルコの部屋へ行こうとしたワルドに、
とりあえず、遍在で様子を見るべきだと提案したのだ。

「マニマルコは変に厳しい時があるからね~。まぁ、気を落としちゃだめだよ」

いまいち空気を読めていないイザベラがワルドの肩を軽く叩く。
朗らかな表情でのんびりとした口調だったが、それが逆に場の温度を下げてしまう。
クロムウェルは神妙な顔をしてワルドを見る。彼は先の無い男の顔になっていた。

「母を、蘇らせてくれるとあの女は言ったんだ。だからこそ全て裏切ったのだと言うのに。
 なぁオリヴァー……私はどうすれば良いのだろうか?」

25を過ぎてお母さんってどうなんだろう。とはこの張りつめた空気の中で言えるはずもないし、
彼にとってはそれが至上の命題なのだから、口を挟む訳にもいかない。
クロムウェルは神妙な顔のまま、ワルドに答えた。

「ヤケになってはなりませんよ。貴方は優秀なメイジなのですから。
これから先、やろうと思えばどうとでもなるでしょう?」

クロムウェルは近くのタンスから袋を取り出し、ワルドに渡した。

「500エキュー程入っています。身を隠すも良し、他の方法を探すために聖地に行くのも良し……」

イザベラに聞こえないように、ワルドに近づいて小さく言った。

「トリステインに戻り、この惨状を伝えるのも良し」

ワルドは驚いてクロムウェルを見る。そこにはうまい話にのせられて、
今の立ち位置に少しばかり後悔している男がいた。やはり元司教として、
死体と魂を思うがままに操る存在には、何か思うところがあるようだ。

「なになに?何の話?」
「男同士の会話だから秘密だよ」
「男同士ぃ?いいじゃない別に~」

はっはっはとクロムウェルはごまかし笑いを浮かべて、イザベラをなだめる。
手慣れたものだな。とワルドはそれを見て、すっくと立ち上がった。

「感謝するよ。もしまたアルビオンに戻る事が出来たなら、何か奢らせてくれ。オリヴァー」
「余計な事を考えずに、今後どう生きるかを考えて下さいよ」

母の死からどれほど経ったのだろうか。
今から何年か前のある日、あの女が現れて死霊術についてワルドに話した。
実演を見て彼はトリステインを裏切ることを決意したが、
それは失敗だったらしい。ようやく踏ん切りがついたワルドは、とりあえず身を隠す事にした。

「今までありがとうワルド殿。気を付けて」
「バイバイ。元気でね」

帽子をかぶり直し、男は部屋から出て行く。
甲板まで出て口笛を鳴らすと、長年親しんでいるグリフォンが現れた。

「お出かけですか?ワルド様」

甲板にいた兵士が声をかける。ワルドは短く答えてグリフォンに乗り込む。

「お気を付けて」
「ああ、分かっている」

グリフォンがレキシントンを離れ、ワルドは少々気が楽になった。
少なくとも今すぐ死ぬ可能性は無くなったからだ。

蘇生は夢物語では無い。マニマルコは確かに死者を蘇らせることが出来る。
しかし、それで母を蘇らせる事は出来なくなった。ならば、どうするべきか。
おそらく何かがある聖地に赴くか、それとも不思議な力を持っているらしいルイズに、
再び会ってみるか。どちらなら成功するだろうか。

「500エキューでは当座は何とかなるが、色々と足りないな。まずはゲルマニアで稼いでみるか」

どちらの奇跡に赴くにも、もう少々金が欲しい。一山当てるにはゲルマニアが良いのはメイジも平民も共通の事柄だ。
ひとまずワルドはゲルマニアで身を隠す事にした。

「名前も変えないとな……」

『閃光』のワルドはトリステイン王国魔法衛士グリフォン隊隊長の、良く知られた通り名だ。
そのまま名乗っていたら、すぐにばれてしまうだろう。

「ジャック、『ただの』ジャック……『名無し』のジャック。悪くないな」

国を裏切り、名を捨てた己を皮肉った二つ名だがそう悪い気はしなかった。
グリフォンに乗るジャックは雲の中に消えて、そして二度とレコン・キスタには戻らなかった。


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