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タバサと不死者 第一章

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「また吸血鬼のお出ましよ。まったく、なんたら村の騒ぎがどうにか片付いたばかりなのに、もう一匹湧いて出てくるなんてね」
 そう言ったのは、泉のように青い瞳と、癖ひとつない青くきらめく髪をもつ少女だった。
 整った目鼻立ちと雪のように白い肌は、豪奢な絹のドレスとあいまって美術品を思わせる美しさをかもし出しているのだが、敵意に満ちた
険しい目つきと粗野な態度が、それらの美点をだいなしにしていた。

 ガリア王国、いや、ハルケギニア大陸における最大の都・リュティスの東端には、『グラン・トロワ』と呼ばれる広大かつ壮麗な王宮が存在し、
そこから少し離れた場所に『プチ・トロワ』という小宮殿が建てられていた。
 その『プチ・トロワ』の一室で、ふたりの少女が向かい合っていた。

「だから、あんたは命に代えてもその吸血鬼を始末しなくちゃいけないってわけよ。でも、相手はとびきり凶暴なやつ。
この一月で二十人も殺されたって話よ。その中にはあんたの前任者も含まれるんだけど、化け物は血を吸うだけでは飽き足らず、騎士の手足を
人形みたいに引きちぎったんだってさ。おお、怖い怖い!」
 言葉とはうらはらな嗜虐的な笑みを浮かべて彼女――現在のガリア国王、ジョゼフ一世の娘であるイザベラ王女――が語りかける相手は、
自身より四つか五つは年下に見える、小柄な少女だった。
 少女が身に纏った白いシャツと黒いスカートは簡素だが仕立てのよいものであり、見る者が見れば、それがトリステイン魔法学院の女子生徒の
制服だと、すぐにわかるだろう。
 少女はイザベラとまったく同じ色合いの瞳と髪――こちらは少年のように短く切りそろえられている――の持ち主だが、他の点では
まったく似ていなかった。
 この少女の異常なまでに物静かな物腰と態度は、青い瞳に嫉妬と憎しみの炎をちらつかせ、脅しの言葉を吐き散らす王女と際立った
対照をなしているのだ。
 一切のことに関心を示さず、すべてを拒む冷たい雰囲気を漂わせてはいるが、不思議と陰気臭い印象は受けず、むしろ新雪の清らかさを
連想させた。
「ずいぶんと余裕じゃないの。歴戦の騎士様、若き天才メイジ様は、吸血鬼ごとき何度でも叩き潰してみせるって?」
 相手が何の反応も示さないことに苛立ったイザベラは眉根を寄せ、少女をにらみつけるが、彼女はひたすら無言のままで、眼鏡のレンズ越しに
じっと前方を見すえるだけだった。
 イザベラは聞こえよがしに舌を打った。
「その態度が吸血鬼に出会っても続くかどうか、怪しいものだけどね。せいぜい、吸血鬼の餌にならないよう気をつけなさい、シャルロット……
ああ、今はタバサだったっけ? どっちでもいいけどとにかく、あんたの幸運が尽きないように祈っておいてあげるわ」
 イザベラがふん、と鼻を鳴らして手を振り退出をうながすと、シャルロット――あるいはタバサ――と呼ばれた少女は無言で踵を返し、
王女の部屋を出て行った。

 タバサはその本名を、シャルロット・エレ-ヌ・オルレアンという。
 ガリア王ジョゼフの弟・オルレアン公シャルルの忘れ形見であり、イザベラ王女とは従姉妹の間柄になる。
 高貴な王族であるはずのタバサがこのような扱いを受ける原因は、五年前のある日までさかのぼる。
 ジョゼフ王主催の狩猟のさなか、オルレアン公シャルルは何者かによって暗殺され、その妻、つまりタバサの母親もまた、未知の猛毒を盛られて
精神に異常をきたした。
 これらの凶行の犯人は明らかになっていないが、ジョゼフが深く関わっているであろうことは、王宮内でなかば公然の秘密となっていた。
 ジョゼフの、タバサに対する残酷な仕打ちがなによりの証拠だった。
 王が哀れな姪に与えたのは、慰めや慈しみではなく、熟練の騎士にさえ達成不可能と思える決死の任務だったのだ。
 タバサは唯々諾々としてこれらの任務を達成していった――失敗や拒否は王家に対する反逆ととられ、彼女だけではなく、病に臥せる
母親の身をも危うくするであろうことは確実だからだ。
 最愛の両親を襲った不幸と、死と隣り合わせの過酷な闘いは、タバサから人間らしい表情と感情を奪っていった。
 そうしてついには、イザベラ王女に「薄気味悪い人形」と揶揄される、何が起きようが顔の筋ひとつ動かさず、必要に迫られたとき以外は
口を開かない、今のありさまに成り果てたのだ。

 青く輝く鱗をもつ竜が巨大な翼をはばたかせるたびに、眼下に広がる野原や田園や森林が、矢のような勢いで過ぎ去っていった。
 竜の首の付け根のあたりには小柄な少女が跨っているが、彼女の青い瞳には雲ひとつない蒼穹も、生命に満ちた地上の光景も映らなかった。
 その少女――タバサ――の視線は、手にした羊皮紙に釘付けになっていたからだ。
 タバサが何事かをつぶやくと、竜は長い首を横に曲げて彼女を見やり、かっと口を開いた。
「きゅ、きゅい!? また? 早くも二度目の吸血鬼退治なの? またごわごわの服を着て、騎士のまねごとしなくちゃ駄目ぇ!?」
 牙の生えた竜の顎の間から、若い女の哀れっぽい声が漏れ出した。
「ひどすぎるのね! あのいじわる従姉姫、本気でお姉さまをどうにかしちゃう気なのね!」
 竜はあきれたように頭を左右に振り、二十フィートにも及ぶ巨体に似合わない愛嬌のある声で、喋り続けた。
「かわいそうなお姉さま! もっとかわいそうなシルフィ! きっとまた、吸血鬼を釣り上げる餌の役をやらされるのね! 今度という今度は
年貢の納め時なのかもしれないのね。ああ、先行く不幸をお許しくださいなのね!」
 もしも何者かがこの様子を目にしていたなら、さぞかし奇妙な光景と映ったことだろう。
 乗騎として軍隊で飼われている竜はいくつもの命令を聞き分け、犬や馬に劣らぬ高い知能と主人への忠誠心をもつことで知られるが、
それでもあくまで獣に過ぎず、自らの乗り手と言葉を交わすようなことはない。
 つまり、タバサの≪使い魔≫シルフィードは、ただの竜ではない――その正体は古代に絶滅したと思われている伝説的な幻獣、人語を解し
≪先住の魔法≫を使いこなす稀少な≪韻竜≫なのだ。
 彼女――シルフィードは雌竜だ――は自分を召喚したタバサを姉と呼んで慕った。
 実際には、シルフィードはタバサの十倍以上は歳をとっているのだが、非常に寿命の長い≪韻竜≫は成長も緩慢としたものであるため、
その精神は人間の子供のそれと大差ないのだ。
「騎士になる必要はない」
 タバサはそう言って、しきりに嘆くシルフィードを落ち着かせた。
「ほんとに? ほんとにお芝居しなくていいの?」
 シルフィードはおそるおそる尋ねた。
「今度の事件は異常。前と同じやり方では無理」
「異常?」
 タバサの言葉に、シルフィードが大きな眼を細めていぶかしんだ。
「吸血鬼といえば、町や村の中に紛れ込んで夜になったら人を襲う。このあいだの村でもそうだったのね。今度は違うの、お姉さま?」
「人相風体は明らか。目撃者も複数」
 タバサはそう言って、シルフィードの眼前に、自分が読んでいた羊皮紙を突き出した。
「……ええと、『身の丈二メイル前後、肩まである銀髪に、同じく銀色の顎ひげ。右の頬に大きな傷跡。服装は黒いぼろぼろの外套と編上靴』」
 羊皮紙に書かれた文字を読み上げるシルフィードの声が、疑わしげなものに変わった。
「これだけ目立つ格好なのに、誰が吸血鬼かわからないの? そんなのおかしいのね。普通の吸血鬼よりも精霊の力に通じていて、
シルフィみたいに変身できるの? それとも、誰とも関わり合わないで、昼間は空き家かどこかに隠れているとか?」
「わからない」
 タバサはかぶりを振り、ふたたび羊皮紙に目を通した。
 それは執行長官が王宮に送った報告書であり、そこにはシルフィードが読み上げた吸血鬼とされる者の特徴に続いて、こう書かれていた。

「……メルドープ、ポトー、マルメディ、サン・ヴィト、ジャンディエヌイル。アルジャンタン地方の二町三村が今もって吸血鬼の脅威に
さらされ続けているが、解決の糸口はつかめていない。目撃者たち――彼らが吸血鬼でなければ屍人鬼(グール)でもないことは証明済み――の
証言にもとづく人相書きを近隣の町や村に張り出し、すべての廃屋と地下室を捜索し、数百人を動員しての山狩りさえ行ったが、何の成果も
得られなかった。また、この吸血鬼に関する謎は、その居場所だけではない。ポトーの農夫を襲った化け物は翌日、マルメディの夜警の血を
すすったが、これら二つの集落は、直線にして六十リーグも離れているのだ。双子のように瓜二つの姿をした複数の吸血鬼による共謀が
あったのか、あるいは、翼でも生やして空を翔けたのか……」


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