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ゼロの花嫁-18 A


ゼロの花嫁18話「それぞれの日々」



ルイズ達が学院に戻ると、束の間の平穏を楽しんでいた学院の生徒達は皆揃って嘆息する。
問題児達と廊下ですれ違う度、目線を逸らすような生活を誰も好き好んでしたりはしないのだ。

「何か最近、貫禄すら感じられるようになってきたわ」
何時ものメンバー、ルイズ、キュルケ、タバサ、燦に、珍しくモンモランシーを加えながら中庭で昼食を取っている。
学院でも数少ないルイズ達とまともに接触出来る人間であるモンモランシーは、時折こうして話を聞きにくるのだ。
都度笑えないトラブルの話を聞かされるハメになるのだが。
「そう?」
サンドイッチを頬張りながらルイズ。
「ああ、特にアンタね。実家で何かあったの?」
そのまま燦と目を合わせ、どちらからともなく苦笑する。
「……まあ色々とね。でももう解決したからいいの」
モンモランシーは次にタバサを見る。
「タバサは少し表情が柔らかくなった?」
「そう?」
顔に出ないようにするのに大変な労苦を要するルイズ、キュルケ、燦の三人。
大公夫人が居る気配すら漏らしてはならない。ならば、タバサが超ご機嫌な理由も秘さねばならないのだ。
そして最後にキュルケへ。
「アンタは迷走してるわね~」
「うっさい」
一時は幽鬼か何かと見まごうばかりであったが、今では妖艶な肢体を取り戻している。
ちょっとした雑談で各メンバーの機嫌を確認、しかる後本題へ。
モンモランシーの話術も中々に巧みである。
「で、さ。あの時ゴーレム粉々にしたルイズのアレ。そりゃルイズがバカみたいに訓練してるのは知ってるけど、幾らなんでもあれは無いでしょ」
「……バカは余計よ」
「何か凄い理由とかあるんじゃないの?」
にやにや笑いながらキュルケが口を挟んでくる。
「生徒達の間じゃどういう話になってるのよ」
「ルイズには超古代の悪魔が封じられていて、時々何かの拍子に表に出そうになるんだって『くっ、暴れるな邪気眼』とか言って」
物凄い嫌そうな顔のルイズ。
「そんな事言ってる奴等、全員この世から消え失せればいいのに」
「アンタが手を下せばあっと言う間よ」
「しないわよっ! 人を殺人鬼みたいに言わないで!」
モンモランシーはちょっと表情を引き締める。
「少し真面目な話……ね。アンタ達さ、一体何やってんの?」
即座にルイズは答える。
「学生」
「月に十回も医務室使う学生とか聞いた事もないわよ。私の実家も物凄い驚いてたけど、ルイズ、モット伯の件、アレ洒落になってないって」
「そう? 笑って済んだわよ?」
気楽にそう言うルイズだったが、モンモランシーは堅い表情を崩さない。
「あのね、問題なのは、それだけの大事件起こしておきながらアンタ達が飄々としすぎてるって事。つまり、あれだけの大事件をそう思えてしまう程に、アンタ達はヤバイ件に首突っ込んでるって事なんじゃない?」
指折り数えるモンモランシー。
「最近学院周辺で起きた事件、モット伯襲撃とその後の不可解な判決、巨大ゴーレムの襲来と無敵戦艦ルイズ、近所で起きたらしい国籍不明のスパイ迎撃……どうなってんのよ一体。全部アンタ達が絡んでるんじゃないの?」
そして、と最も気になっている事を口にする。
「アンタ達、使い魔召喚の儀式辺りから変よ。何て言っていいかわかんないけど、それ以前と比べるともう別人みたい。自分に剣刺すとか自分から燃えに行くとか、正気じゃないわよ絶対」
モンモランシー以外誰も口を開かない。
じっと、彼女の真意を確かめるべく言葉に耳を傾ける。
「ゴーレムに立ち向かった事だってそうよ、あんな事してたら命が幾つあっても足りやしないわ。何してるか知らないけど、少し自重した方がいいんじゃない?」
本気で詮索するような話を、モンモランシーがしてきたのはこれが初めてだ。
彼女なりに気にはなっていたのだろうが、ずっと黙って来たのだろう。
そして、これ以上見てはいられない、そう判断したからこそ口を出して来たのだ。
しかし四人は有体な言葉でお茶を濁し、モンモランシーは不機嫌そうに去って行った。

「ええ子じゃね、モンモランシーちゃん」
燦は打ち明けられぬ心苦しさからか、少し影のある顔でそう呟く。
キュルケも同じように少し悲しそうだ。
「生徒で私達の心配してくれてるのって、モンモランシーぐらいじゃないのかしら」
ルイズは料理を切り分けるナイフをぶらぶらと振りながら言った。
「詮索好きは多いみたいだけど」
手首の返しだけでナイフを投げると、建物で影になっている場所にナイフが突き立つ。
そこに隠れていた男は、頭を掻きながら物陰から出て来た。
「心配してるのはモンモランシーだけじゃないんだけどね」
バツが悪そうにしながら、そう言ってテーブルに歩み寄って来るのはギーシュであった。
「盗み聞きは謝るよ。少し出ずらかったんでね」
ルイズは不快そうに眉根を寄せたままだ。
「何か用?」
「ルイズとキュルケに客が来てるよ。正門前で、正式な形ではない、風体の怪しげな……多分メイジ」
「そう」
四人は同時に立ち上がる。
正門へと向かう彼女達に、ギーシュは大声をあげた。
「ぼ、僕じゃ役に立てないかもしれない! それでも! もし僕に出来る事があるのなら言ってくれ! 何時でもいい! どんな事でも構わないから言って欲しい!」
疑念を持っているモンモランシーにより疑惑を持たれるような事のないよう、客の話をモンモランシーが去ってからしたギーシュ。
何度もルイズに挑んだギーシュには良くわかる。
ルイズとは既に天地程の差がある。そんなルイズと共にあれるキュルケ、タバサとも歴然とした差があるだろう。
ほんの数ヶ月で、肩を並べて歩くには余りに遠い存在となってしまった友達に、ギーシュはありったけの声を振り絞って叫んだ。
「僕は君達に並んで見せるからな! 絶対にだ! 何時までも置いてきぼりなんて僕は納得してないんだからな!」
足手まとい、そう口にされたら耐えられない。
彼女達の事情に深入り出来なかったのは、そんな恐怖からかもしれない。
モンモランシーが言っていたように、ルイズ達が何か大きな事をしでかしてる。そんな気はしていた。
兄から事情を聞いた所によると、ルイズは前王にすら認められたという。
また、ギーシュもキュルケのようにルイズの真似をした事があるが、あんな様になって倒れるまでなど続けられなかった。
そして、今の会話の最中、ずっと杖を傍らに置いたまま、素振りすら見せずギーシュを警戒しているタバサに、魔法を打ち込む隙など見出せなかった。
勝てない。誰が相手でも。技術的にも、それ以外でも。
それがわかっているからこそ、踏み込む事を望まぬ彼女達の思うように、そうし続ける事がギーシュにとって出来る最大限だった。

彼女達の心からの笑顔も素直に受け取れない程、ギーシュは自分の無力が悔しかった。



正門前に居た男、彼に見覚えがあった。
剣呑な視線を送るルイズ。
「……何か御用かしら?」
ルイズだけではない、残る三人も抜きこそしてないが、いつでも動ける臨戦態勢だ。
男は苦笑して、両手を開いてみせる。
「杖は懐の中だ、出す気はない。また肩をへし折られては堪らんからな」
モット伯の屋敷を襲撃した時、伯の傍らに居てルイズに氷の矢を放ったメイジであった。
「用は何か、と聞いたのよ」
取り付く島も無さそうだと見たのか、メイジは本題に入った。
「モット伯が人を集めてる。ならず者ばかりだが、中にメイジも混ざっている。恐らく狙いは君達だろう、注意したまえ」
キュルケは胡散臭そうな表情を隠そうともしない。
「……何だってそれをわざわざ、モット伯子飼いのアンタが知らせにくるのよ」
「伯の部下は辞めてきたよ。国に……君達から見れば小さすぎて笑えるだろうが、自分の領地に帰るさ。ただ、その前に一言礼と恨み言を言っておこうと思ってね」
男はじっとルイズを見つめる。
身長180サント以上ある男からは、どうしても見下ろす形になる。
「君のおかげで身の程を知ったよ。魔法の腕には自信があったし、それで成り上がってやるって王都へと出て来たんだが……魔法も使わぬ君の様な女性に負けたんだ、言い訳のしようもない。国に帰って嫁さんでも見つけてのんびりやるさ」
達観したような男の表情に、ルイズは何かを言わなければならないような衝動に駆られるが、うまい言葉が思いつかない。
ただ焦燥感に押されるように口を開く。
「あ、えっと……私は、その……」
「いいさ、一方的に私が恨み言を言いたかっただけだ。それと礼だ、気付かせてくれてありがとう。おかげで命は残ってくれてたよ」
貧乏貴族がモット伯の側近となるまでに必要な努力がどれ程のものなのか。ルイズにはわからなかったが、男の顔に刻まれた深い皺は、その一片なりとを感じさせてくれた。
「貴方は……」
ルイズの口からつい漏れかけた言葉、それをぐっと堪える。
「ん?」
男の前で、初めてルイズは笑みを見せた。
「あ、貴方は背も高いし、顔もそこそこ見れる。だから、きっと可愛いお嫁さんが見つかるわ」
男は不意を突かれたような顔をしたが、すぐに破顔する。
「ありがとう、もう会う事も無いだろうが達者でな」
去り行く男の背中に、口にしなかった言葉を心の中のみで送る。
『……貴方の方が強かったから、モット伯より先に倒したのよ』
恐らくモット伯の武名の幾分かはあの男が背負っていたのだろう。
しかし今更それを口にした所で意味は無い。あの男は、領地に戻り平穏に暮らすつもりなのだから。
そしてルイズは、

「さて。そういう話だけど、どうしてくれようかしら」

振り返って、頼もしき仲間達に不敵な笑みを見せる。
男と違い、まだまだルイズの戦いは続いていくのだから。



タバサは下町に知り合いが居るので、その者を使ってならず者に関する情報を集める事にした。
単独行動はなるべく避けるべき、との結論によりキュルケもそれにお付き合い。
そしてルイズと燦は、全くどーしていいのか思いつかないので、とりあえず気になった事をやっておく事にした。
基本、殴る相手が何処に居るかはっきりしてないと、動きずらいらしい。

ルイズが燦と二人で山ほどの花束を持って見舞いに行くと、ワルド子爵は喜色満面でこれを迎えた。
「やあ、良く来たねルイズ」
多少の社交辞令の後、ワルドはこの機会を逃すかとばかりに話題を切り出した。
「実はルイズ、君にプレゼントをしたいと思っているんだ。ただ私は女性の好みに疎くてね、それでだが……」
これから一緒に店を見て回らないかと持ちかける。
旧来は家に商人を呼びつけるのが慣わしであったのだが、最近トリスタニアの若い貴族の間では、意中の女性と共に買い物をするというのが流行っていたのだ。
もちろん大抵の女性は遠慮呵責無しに好きな物を選んでくれるので、これには裏づけとなる経済的余裕が必須なのだが。
キュルケからそんなスタイルがあるという話を聞いていたルイズは、飛びあがって喜ぶが、今行こうというワルドの言葉には流石に頷けない。
「しかしワルド様はお怪我が……」
「もう治ってるよ、医者がしつこいだけさ。さあ、そうと決まればすぐに行こう!」
多少強引な形で、ルイズと燦の二人を引きつれ病室を出る。
それとなく廊下を歩く人達の視線から逃れるようにしつつ、正門ではない中庭口から建物の外に出る。
ルイズは小声で訊ねた。
「……もしかして、病室は退屈でした?」
「そりゃもう」
これだけは超本音なので、即座に答える。
更に言うなら、もっと面倒な事があるのだが、敢えて口にする事でもあるまい。

「貴様! 毎日毎日押しかけて来おって! 軍の仕事はどうした!? 平民混じりはロクに働かなくても良いとは随分お気楽な身分だな!」
「鏡見て物言えファック! てめえこそ毎日毎日仕事片付けて来てるフリして他の連中に押し付けてるだけなんじゃねえのか!?」

賑やかな正門付近をこそーっと避けるワルドに、ルイズも燦もつっこんだりしない優しさを持っていた。



冷静になれ、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。
落ち着いて状況を整理するんだ。
まず、我々は病院を出てドレスの店に向かった。そこまではいい。
だが、そこでふと気が付いたら軍幹部ご用達の武器屋で武器を見ていた。
二人の女性をエスコートして、彼女達の希望に沿う形で万事を進めていたら、極自然に武器屋に居るとか意味がわからない。
彼女達がドレスを嬉しそうに選んでいたのまでは、理解出来る展開だった。
しかし、

この装飾品の短剣実用性無いわね → 店主カチンと来て反論 → じゃあ試してみましょう

→ 短剣をいきなり壁に向かってぶん投げる → 壁に根元まで深々と突き刺さった短剣を見て店主呆然

→ そこまでやっといて短剣の出来に文句を付けるルイズ → 店主発狂して怒鳴り散らす

→ 実用性のあるものが欲しいのなら案内しようと言ってその場を誤魔化し、店主に謝って店を出る(←今ココ)

どうすれば良かったんだ私は。
と、ともかくデートの一つもこなせぬでは子爵の名が泣く。きっちりルイズに好印象を与えねば。
ここから巻き返しを図る……あ、いや、ルイズはさっきの騒ぎもそれなりに楽しんでるようではあるが。

目の輝き方が違う。
私は呆然としながらルイズとお付の子、サンというらしい、が武器屋の店内ではしゃぎ回るのを見ていた。
盾はやっぱり便利だとか、槍は持ち運びが不便だけど最強じゃないとか、このメイスの黒光りが渋いとか、もう君等女の子やめれと。
「ねえ店主さん、片刃の剣は無いの?」
ルイズが訊ねると店主も即座に対応する。
二人共剣の目利きが出来るとわかると、店主も嬉しそうに対応するようになった。
自分が一番得意な武器の話題を可愛らしい女の子達と共有出来る機会なぞ、そうそうあるはずないのだから、店主の様も納得出来る。
サンが自前の剣を店主に見せた所、店主はとても嬉しそうだった。
「随分古い剣だが良く手入れされてる。自分が使う道具なんだ、きちっと自分で手入れしなきゃいざって時に頼れなくなっちまう。アンタ良くわかってるじゃないか」
サンと店主の会話を他所に、堂に入った姿勢で売り物の剣を見るルイズ。
軽々と振り回しているが、あれ、結構重いはずなんだが……
気を取り直して、話しかける。
「どうだい、気に入った物はあったかい?」
おーけい、私はこの程度で動じたりはしない。
武具のコレクターというのも中々に高尚な趣味ではないか。
「うーん、欲を言うのならもう少し長めがいいかしら。これだと軽すぎるのよ」
おいおい、それ短刀ではなく長剣ですよお嬢さん。
「ちびっこのおめーにゃ、どう考えたって長すぎだろ」
流石私、突然サンの持つ剣が口をきいても動じない。
「何ですってええええ!! ……でもまあ確かに。これだと私じゃ鞘から抜けないわ。店主さん、少し短めでもっと重いの無いかしら?」
…………というかルイズ。もしかしてサンのではなく、君が使う剣を探しているのかい?
店主が幾つか引っ張り出してきた剣、その中で、一際輝く鉄の剣がルイズの目に止まった。
「これ凄いわ……もしかして種類の違う鉄を何重にも重ねてあるの? どうやって作ったのよこんなもの」
「良く気付いたね。ゲルマニアで作られた物で、硬度は文句無しだけど、何せサイズと重量のバランスが悪くてね。これを作った奴もすぐに普通の作り方に戻したらしい」
とにかく重くて扱いずらい、と説明されたルイズは、剣を片手でぶんぶん振り回す。
「……え?」
物凄い真顔になる店主。
「いいわ……このぐらいの重さでないと私使いずらい。両手持ちが基本になるけど……うん、悪く無いわ。固定化はかかってるのよね?」
「あ、ああ。そりゃ一応一級品だから……」
サンが持っている剣より一回り小さいぐらいの剣だ。おそらく重量はこちらの方が重いであろう。
ルイズから剣を受け取ったサンが、今度はゆっくりと振り上げ、同じようにゆっくりと振り下ろす。
「う~ん、ルイズちゃんじゃとこれ少し重いかな。疲れるの早くなるで」
「いいのよ、その分更に鍛えるから」
「えー、また量増やすん? 朝起きる時間また早めなならんで」
「付き合いなさい。最近ちょっと楽すぎかなって思ってた所なのよ。目標がはっきりしてれば気合も入るし」
もう買う気満々で剣の値段を店主に問うルイズ。
……しまった。私も呆気に取られてて金を出すタイミングを外した。
が、まあ問題無いようだ。
あの物凄い衝撃を受けつつ、失望に塗れた顔を見れば、金が足りていないのは良くわかる。
「ルイズ、もし良ければ私にプレゼントさせてもらえないか? そもそも今日はその為に来たのだろう」
私の申し出を、申し訳無さそうにしながら全力で拒否してくるルイズ。
案外しっかりしている。こういう慎ましさなどは可愛げがあるとは思うのだが、買ってあげる物が物だしなぁ。
「頼むよ、婚約者にプレゼントの一つも渡せない甲斐性無しと思われては、我が家の恥だ。私を助けると思って、ね」
婚約者に実用一点張りの剣を買ってやるというのもどうかと思うがな。
しばらく粘るとルイズは恥ずかしそうに頷いてくれた。
うむ、この辺は以前の小さいルイズのままだ。
サンと嬉しそうに剣を持ってはしゃいでる。本当に嬉しそうだし、ルイズもサンも揃って見目麗しい事も手伝って、とても微笑ましい光景だと思う。
「嬉しいっ! 帰ったら早速勝負しましょうサン! この重量ならサンの剣ごと弾き返せるわ!」
「ええで~、そんな硬そうな剣真正面から受けたりせんけどな~」
「言ってくれるわね。見てなさい、今日こそは師匠越えを果たしてみせるわ! 腕の一、二本折れても文句言わないでよね!」
「ふっふっふ、十年早いでルイズちゃーん。剣が折れないってわかってるなら私も本気で打ち込むきに!」
愛らしいかどうかは判断に迷う所だが。
不良在庫を適正価格と思しき値段ではけた店主は、嬉しそうに手を振って私達を見送った。
サービスでナイフを二十本も付けてくれた辺り、かなり売り飛ばしたかったんだろうと思う。
まあいいさ、プレゼントを値切る訳にもいかんしな。
二人は揃って私に礼をして、学院へと帰って行った。
デート最後のサプライズとしてグリフォンで学院まで送ってやろうと思っていたのだが、ホントにスマンルイズ、今日はもう限界だ。色々と魂的に。

よっぽど部下達の相手してた方が楽だったと、改めて年頃の女の子の相手は難しいと認識しなおすワルドであった。



シュバリエの叙勲を受けたアニエスは、ここ一月程目が回るような忙しさに見舞われていた。
軍内部に新設された捜査部の立ち上げと、幾つかの捜査にてんてこ舞いだったのである。
ワルドが目を付けていた各部の人間を、女王認可の下片っ端から引っこ抜いて来たせいで、軍部の上のお方々には随分と睨まれている。
だから、ただ立ち上げるのではなく、同時に幾つかの案件を解決し、有用性を認めさせなければならない。
アニエスは捜査の方に回っていたのだが、捜査だけに専念させてくれる程、人に余裕も無かったので、何やかやと捜査部の建物に寝泊りする日が続いている。
特にスパイ撃破の為とはいえ、ワルド自身が重傷を負ったのが痛かった。
おかげで軍でのワルド子爵の武名が跳ね上がってくれたので、楽になってくれた部分もあったのだが。
宮廷での評価はさておき、伝説の傭兵メンヌヴィルの恐ろしさは軍には充分に伝わっていた為、そんな相手を一騎打ちにて撃破したとなれば軍での評価も上がろうというものだ。
捜査部全体のモチベーションの高さも尋常ではなく、指揮官クラスの人間は皆アニエスの様に泊り込みで仕事を続けている。

この一月で一年分は働いたわね。
そんな言葉を捜査部宿舎にてアニエスが漏らすと、部内の同僚達は疲れているにも関わらず愉快そうに笑う。
誰もが強要されるでもなくこんな無茶な仕事の仕方をしているのは、一重に捜査部の意識の高さ故である。
任務に対する誠実さ、強い正義感、本来持っていたそれを存分に発揮出来る場所を、誰もが求めていたのだ。
疲れたから辞めたいなどと、つまらぬ事を言う者など居るはずもない。
こういった人材ばかりを集めたワルドの、人を見る目には感服せざるをえない。
捜査の進め方に関して、他の者には負けぬ自信があったアニエスであったが、着任三日目でより優秀な人間に教えを請いつつ自らの物としていこうと、スタンスを変えざるをえなくなった。
それを不快と思わぬ、そんな雰囲気が捜査部にはあった。
正直、楽しくて仕方が無い。
夢中で走りぬけたこの一ヶ月を振り返ると、そう思えてならないのだ。
これをロングビルと共に出来れば、そうも思ったが、そこでくすっと笑いがこみ上げてくる。
『そういえばロングビルは余り仕事が好きではなかったな。彼女にこんなペースで仕事をさせたら、怒り狂うかもしれん』
1/4刻刻みで仕事を管理するようなやり方、とてもじゃないが嫌いな人間にはさせられない。
ようやく立ち上げの方は目処もついた事だし、明日辺り久しぶりにロングビルを誘って飲みにでも行こう、そう心に決め、ワルドの元へ報告に向かう。

何時もの病室で、何故か子爵は大層疲れた顔をしていた。
「体調が優れぬようですが。明日以降出直しましょうか?」
「いや、構わない。仕事の事を考えている方が気は楽だ」
不思議な事を言う子爵であったが、大丈夫だというのなら申し訳無いが仕事を優先させていただく。
何せ報告事項と認可を求める書類が山積みなのだ。
「……といった次第でして。高等法院の件は踏み込むだけの資料が揃いました」
「まだ早いな。本丸を落とすにはもう少し外堀を埋めないと謁見の間で引っくり返される。街の動きは?」
「やはり検挙した組織の残党が一つ所に集まって来ています。連中絡みで一騒動ある、というのが我々の認識です」
「誘うか?」
「そのつもりで準備はしていたのですが、どうも他所で似たような事を考えている者が居るようで積極的に奴等を取り込んでおります……その者が何者かは現在調査中なのですが」
「残党を集めて何かをする? いずれも今のトリスタニアでは金を集める事も出来ぬような連中ばかりだぞ、誰がそのような真似を……」
「一番可能性が高いのはやはりガリア諜報員の筋でしょうが、さんざ叩いた後ですし、我等も対象を絞れずに居るのです」
「連中を使って今のトリスタニアに入り込むにも、利が無さ過ぎる。となると怨恨の筋か……」
「恩赦で外に出た奴等の中で、目立った馬鹿共は軒並み始末した後ですし、そういう意味では子爵が一番狙われやすいとは思うのですが」
「心配するな、私はもう好きに動ける」
「でしょうな。でなくば如何に子爵とて女連れで遊びまわる何て真似も出来ますまい」
今日は厄日か、とでも言いたげな顔で苦笑する子爵。
「見張ってたのか。全く、君達は本当に優秀だよ。私も気付けなかった」
「勘弁して下さい、大慌てで一個小隊丸々周辺警戒に付けたのですから」
そう言いながらも子爵の女性関係が中々に賑やかなのも知っている。
これ程の人物だ、さもありなんと理解はしているのであるが。
「悪かったよ。ところで、彼女達にも護衛は付けたのかい?」
「いいえ、必要ありません。あの二人で勝てぬ相手でしたら、一個小隊全部付けても意味がありませんし」
怪訝そうな子爵にアニエスは、以前この街でチンピラ相手に大立ち回りをした燦の事、アニエスが自ら「訓練」してやってるルイズの事を説明する。
子爵は、何とも形容しがたい表情であった。
「……そう、か。我が婚約者殿の武勇伝は、決闘、モット伯のみに留まらぬか……いやはや、とんだ跳ねっ返りに育ったものだ」
全身から血の気が引いた。

いや、ちょっと待って下さい子爵。その婚約者って……えっと、ししゃくのだいじなだいじなこんやくしゃが、あのばりえーるなのですかー。
わたし、ほんのちょこっとだけ、ぼっこぼこにぶちのめしてしまいましたよー。
いえいえ、まいにちではなく、しゅうにいっかいぐらいのぺーすですが、くやしなきするぐらい、めっためたのぎったぎたに、たたきのめしてますよー。とてもたのしゅうございましたー。

これはマズイ。他のどうでもいい貴族ならさておき、大恩あるワルド子爵に恨まれるのは私の本意ではない。
な、何とかせねば……ええい、こういう時ロングビルが居れば……。
「縁がありまして、な、中々に見所がある故、少々厳しく鍛えております」
良し、嘘は言ってない。さんざ扱き下ろして来たが、あれはあれで、当然私には及ばないが、使える奴でもある。意味不明な程にタフだし。
「そうかい、なる程ね。捜査部一の剣の使い手も一緒になって鍛えているというのであれば、あの腕力も理解出来る。君の事だ、随分と厳しくしているのだろう?」
「それはもう……で、ではなくてですねっ! き、貴族の子女にあるまじき行為とも思いますが、当人のたっての希望という事で仕方なくですな……」
ワルド子爵は哀れむような視線でこちらを見ている。
「彼女の相手は苦労するだろう。私にも良くわかるよ」
「は、はあ……」
どうも子爵もあの小娘には手を焼いている模様。
内心だけで安堵の吐息を漏らすと、子爵から幾つかの指示を頂戴し、退室した。
「全く、つくづく人の邪魔ばかりしてくれる。あの小娘めが……」
でも、次勝負持ちかけられたら少しだけ優しくしてやろうとか、ちょっと日寄った事を考えてたりする今日この頃。



ヴァリエール家長女、エレオノールはつまらなそうにテーブルに頬杖を付く。
華美すぎる装飾を避けつつ、奇異なセンスと上品さを両立させた優雅な室内は、見た目にも楽しい造りとなっている。
運ばれてくる料理も独特で、それでいて味や食感に品があり、貴族向けの料理としては花丸をあげてもいい。
文化の粋を集めた王都トリステインならではの貴族専門店に、他の客達は皆満足そうにしていた。
「退屈、ですか?」
テーブル正面に座るこの男。
グラモン家の三男坊は、女性的な仕草でそう訊ねてくる。
女々しいといった意味ではない。万事に優しげな所作が、そう思わせてくれるのだ。
「……いえ、毎回思うのですが、ミスタ・グラモンは本当に軍人らしからぬな、と」
食事時の話題でも、彼は決して軍の話を持ち出して来ない。
職場の話は、誰しもしたくて堪らないはずであるのに。
「そういった話がお好みで?」
「大っ嫌いですわ」
「ではやはり無しにしましょう、ミス・ヴァリエール」
エレオノールの表情が怒りに歪む。
「……その呼び方は気に入らないと、先日言いませんでしたか?」
特にミス、の所がとは言えないようだ。
「そうですか、ではどのようにお呼びすれば?」
「エレオノールで構いませんわ」
つまらなそうに言い捨てる。
「わかりました。ではエレオノール……」
今度は癇に障る所ではない、憤怒の形相に変わる。
「ミスタ・グラモンッッッ!!……少し、馴れ馴れしすぎやしませんこと?」
もうどうすればいいんだコイツはと。
そんな理不尽にもミスタ・グラモンはにこやかに応える。
「では、エレオノールさん、でどうでしょう?」
不服そうに頷くエレオノールを見て、ミスタ・グラモンは満足気な顔をした。

こうして直接会うのも既に数度に及ぶ。
エレオノールはミスタ・グラモンを通じて、ルイズの学院における近況を調べていたのだ。
ミスタ・グラモンは弟のギーシュから話を聞き、エレオノールへと伝えているのだが、特に伝えるべき事が無くてもこうして食事に誘ったりしてくる。
エレオノールの職場での話を嬉しそうに聞いてくるので、エレオノールもついつい色々話したり、相談してしまったりもしている。
「ミスタ・グラモンは余りご自身の事は話したがらないのですね。そんなに自分に自信が無いのですか?」
プライベートでこうして何度も会うなど、それなりに親しいといってもいい間柄であるにも関わらず、こんな呼び方をする所が、とてもエレオノールらしい部分である。
ミスタ・グラモンは自嘲気味に笑う。
「実は、少し落ち込んでます。……エレオノールさんはワルド子爵が新設した部隊のお話は聞いてらっしゃいますか?」
「ええ、まあ」
何時でもにこやかマイペースな彼が、自分からそれを崩して来たのは初めてだ。
「お話を伺った時、お恥ずかしい話ですが、きっと私にもお声がかかる。そう思っていたのです……」
エレオノールも、ワルド子爵が軍の優秀な人間を片っ端から引っこぬいている、そんな話を聞いてはいた。
「貴方の実力が不足していただけの話では?」
「その通りです。そんな私に自信を持てとは、少々酷な話です……」
本気で落ち込んでるミスタ・グラモンを他所に、エレオノールは給仕に新しい強めのウィスキーを頼む。
給仕が酒を持ってくると、エレオノールは自分のグラスではなく、ミスタ・グラモンのグラスに注ぐよう命じる。
「え?」
きょとんとした顔のミスタ・グラモンに、エレオノールは不愉快そうに言う。
「男の愚痴はみっともないだけですわ。自身の力が認められないからといって不平不満を漏らすだけでは、平民と変わりません」
エレオノールがグラスを持ち上げると、ミスタ・グラモンも反射的にグラスを手に持つ。
「明日からまたやりなおしなさい。それ以外、貴方程度に出来る事などありませんわ」
当人これで慰めてるつもりなのだから、そりゃ婚約者も逃げるわというお話である。



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