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ゼロの黒魔道士 幕間劇-03


とざいとーざいっ!
一座、高席にはござりますれど
御免お許しなこうむり!

さて、このところご覧に入れまするは、
トリステインは名だたる武門の息子!ギーシュとあい申します男の噺!
こいつぁ只のボンボンとぁ訳が違いまして、
一本筋の通りやした助六真っ青の色男ってぇ次第でござんす。

女中とぁいえ女子の危機なんてことになっちまやぁ、
この漢が黙っていられる訳にゃ参りやせん!
しかし今度の相手ぁちっと難物、
トリステインのお妃さんのおぼえもめでてぇ身の丈のくせ、
女中を次から次に手篭めにするってな風聞飛び交う悪代官!
下手に首を突っ込みゃ、お家ごとその首が飛ぶってなもんだ!

とぁいえ、そんなことで尻込みしてるようじゃぁ噺になりやせん!
そこでギーシュとそのお仲間が雁首ひっそろえて描いた絵図とは!?

お後は見てのお楽しみっ!
お代は見てのお帰りで、

あ、頂戴つかまつりまする~~!!



―ゼロの黒魔道士―
~幕間劇ノ三~ 蜂蜜色香纏雲艶 (はちみついろか まといしくもの あですがた)


「ギーシュ、あんた覚悟、ある?」

おおよそ、女人にこんなことを聞かれて、
『無い』って言っちゃぁ男が廃るってなもんで、
「もちろんさ!」
と言ってのけちまうところから噺が始まります。

「どんな作戦でも?」
「ん~、どんなって言うと?流石に、実家に迷惑がかかるのは――」
とぁいえ、まだ尻の青さも抜けきらねぇ書生の身。
お家に火の粉がふりかかんのは避けてぇお年頃。

「その心配は無いはずよ。多分ね――
 それじゃ、作戦前に準備がいるわね、ルイズ!モンモランシー!手伝いなさい!」
「了解!じゃ私はコルベール先生のところに――」
「え、ちょ、わ、私も手伝うの!?」
「彼氏ががんばるって言ってるのに黙って見てるのは問題あるでしょ?
 いいからさっさと来なさい!」
「す、すいません!な、なんか私ごときのために……」
「いいのよ、私が好きでやってるんだし!それより……ってどこにあるの?」
「え?あ、あぁ、それでしたら……」
女三人で姦しいってなこと言いやすが、四人にもなるとさらにってぇ次第でして。
「作戦って、何だろうね……??」
「うーん――まぁ、やるだけのことはやるさ」
「おれっちの出番あんのかなぁ?」
あいにく男ってぇ字ぁ重ねて書いても所詮男、
黙って待つしかねぇ身が辛い!
 ・
 ・
 ・
さて姦しい四人娘、学院中を隅から隅までずずずいっと騒ぎとおしやして、
半刻もしねぇ内に慌しく帰って参りやした。
「はい、ギーシュ!急いでこれに着替えなさい!」
「え?着替える?」
四の五の言わず、赤髪娘が何やら黒っぽい布の塊をつきつけてきまして、
「モット伯の家に潜入するのに必要なのよ!急ぎなさい!」
見りゃぁ桃髪の娘ぁ今にも吹き出しそうな面してるし、
恋人の黄巻き髪ぁお通夜かってぇほど気の毒そうな面してまして、
こいつぁ何か妙ちきりんなことになったんじゃぁねぇかと、
足りねぇ頭で考えたギーシュがその布の塊を開いてみるってぇと、

「――こ、これはっ!?」

布の塊の尺はギーシュの身の丈ほど、
肌触りぁしなやかで、そこそこお足がかかりそうってな代物。
闇夜みてぇに黒いそいつに雪みてぇに白いヒラヒラがあちこちに。
お公家さんやら貴族さんが肌を通す代物じゃぁないが、
見覚えぐらいなら腐るほどあるってな形をしてやがりました。

「……これって、もしかして……」
とんがり帽子の小僧がすぐ気づきやして、
「――メイド服だぁな、間違いなく」
剣の野郎が続いて気づきやす。
「着替えるって――え?」
ところが当の本人ぁそう簡単に認めたくないってぇもんでして、
「そうよ。ギーシュ、あんたがメイドに化けて、潜入するの!」
「え?」
「ぷ、ククククク――は、はい、ほら、コルベール先生から金髪のカツラも、借りてきたわよ?プププ――」
桃髪娘が取り出すは金色夜叉ってなばかりに輝く毛の束。
「え、あ」
「あの、一応、香水も――女らしい香りがする物を――ギーシュ、無事でね?」
黄巻き髪が取り出すは蜜みてぇに甘い香りのみっちり詰まった、洒落っ気のあるギャマンの小瓶。
「えぇぇぇぇ!?!?ぼ、僕が女装するのかっ!?」」
ようよう飲み込んだあたり、おつむに血が巡りやすのが少々遅ぇのはご愛嬌。
「いーい?玄関でいきなり『メイドを返してください』なんて言ってもしょうがないでしょ?
 だから、まずは中に潜入することが大切なの!」
「い、いやしかし、それならば、何故、僕が!?」
男が女物の服に袖を通すってぇなぁ、男児としての恥もありまさぁ、
気が咎めるってぇのも詮方ねぇことでございやす。
「あら、こんな危険な仕事、女性にさせるつもり?」
「ぐ」
色男にこれを言っちまっちゃぁ弱いもんでして、
例えるならナメクジに塩、狸に泥船、オスマンに女の尻てなもんでしょうか、
最後のぁちょいと違う気もしやすがまぁそういったところで。
「はい、さっさと着替える!ビビちゃん、悪いけど手伝ってあげてね?」
「……え……あ、う、うん……」
年貢の納め時ってのぁこんなもんかと、貴族の身に初めて染みわたりやして、
こんちくしょう、男は度胸と腹をくくり、えいやとばかりに立ち上がる!
「よ、良かろう!見せてやろうではないか!一世一代のメイド姿をっ!」
ちょいと間違ってる気もいたしやすところはご愛嬌。

さてさて、覚悟ぁ決めたがどう着たもんかと、
布の塊をひっくり返してる内に、足元に落ちた薄布っ切れ一枚。
なんだいこいつぁ?とばかりにつまみあげりゃ、
こいつぁまた驚き桃の木山椒の木!
「こ、これはっ!?」
薄くて黒くて三角で、男ってぇのぁなんでこの薄布を目指すのか、
夢の三角布、女人の下穿き、当世風に言やぁぱんてぃと呼ばれておりやす代物でして。
「変装するからには、全身整えなきゃね?」
何もそんなところぁ誰も見やしめぇと、
思いながらもギーシュも男、
そんな薄布一枚に思いをはせたこともあらぁ助平の一人でございやして。
つまんで透かして香りを嗅いで、思わず五感が冴え渡りやす。
あぁ、この布っ切れってぇのぁこういう香りがするもんか――

「――あ、残念だけど、それ新品だから」
思い出したように付け加える赤髪娘。
「え、あ、その、あ、アハハハハハハ――」
残念至極ってぇ表情と、助平心を見透かされた恥ってもんが交じり合い、
思わず目が天を平泳ぎいたしやすギーシュ。
「――ギーシュ……」
恋人の黄巻き髪にゃぁ呆れられ、
「うわー、最低……」
桃髪娘にゃにらまれて、
「ま、まぁ男の子、でいらっしゃいますものね……」
女中にゃぁ何やらいらぬ同情されちまいまして、
戦を前に、男の尊厳ってぇのが風の前の塵になっちまいそうになりやしたが、
「じ、自分の部屋で、着替えてくるよ!ビビ君、行こう!」
「あ、う、うん……」
女中の危機を救わんがため、ここで折れて何とする!
男ギーシュの大芝居、気張ってやるさと歩み去るっ!!
 ・
 ・
 ・
お天道さんもとっぷりと暮れやして、
目指すぁ悪代官、モット伯の屋敷!
正義の志士たらんと、馬車は静かに進み行くっ!!
――ってなワケには参りやせんで。
「アッハッハッハッ!!に、似合ってるわよ!ギーシュ!!」
赤髪娘の天地に響きそうな笑い声、
「み、ミスタ・グラモン、その、き、綺麗、ですよ?」
助け舟が実は泥舟になっちまってる、女中の笑い声、
「――なんで、こんなことに――」
色男ってのぁ何着ても似合うもんだが、恥が先に立っちまったぁ助六の情けねぇ声、
何はともあれ、その道中のにぎやかなこと!

「だ、大体だねっ!キュルケ君も来るなら僕はこんな格好をしなくても!」
見りゃぁ赤髪娘も女中の姿、
とはいえ、熟れごろ食べごろの水菓子を胸元からはみ出させているそいつぁ、
女中よりも遊女の色香ってなもんで、
『お戯れはよすでありんす』なんつわれたら、世の男はホイホイついてきそうな塩梅でございやす。

「あら、あんた、乙女の危機に、助けが女一人でいいって言うの?」
「ぐ」
ぐぅの音は出なくとも、ぐの音ぐれぇは出ちまいやしたギーシュ。
天然物ほどの色香ぁ無ぇとしても、こちらも化けに化けたりで、
こぼれる金の髪ぁカツラとは思えねぇほど、さながら天女の羽衣の輝き、
布をつめにつめた胸ぁ天上の雲の柔らかさ、
化粧をちょいとばっかり施した顔ぁ切れ長の小粋な美人ってもんで、
元々細身の体で手足も長く、小股の切れ上がった粋なお嬢ちゃんに見え、
黄巻き髪の香水もあいまって蜂蜜の色香を出してございやす。

「え、えっと、す、すいません!こんなお手間までかけてしまいまして!!」
さて渦中の張本人、危機に陥った女中はって言いやすと、
こちらは流石に本職で、餅は餅屋って言いやしたところ。
黒髪に白い髪留めで、小さくまとまりやした顔が愛らしく、
女中の服にしっかり納まる乳、尻、太ももってぇのぁかくあるべきってな姿で、
悪代官ならずとも一家に一台は所望してぇってな具合でございやす。
馬車を操る手さばきも上々で、
ちょいとした趣味人なら『ぼ、僕も操られたい』ってなことを思っちまうかもしれやせん。

まぁそんなこんなで、見場ばっかりは極上の女中三人衆。
今宵の絵図は至極単純。
女中のフリして屋敷に入り、
悪代官がいざ色事をはじめようって段になったら、
扉蹴破り、動かぬ証をその場でおさえ、
家名をちらつかせての直談判。
時は戦乱、綱紀粛正とのお達しがお上から出てやがる時代にごぜぇやす。
平民とぁいえ、女中を囲っての良からぬ艶事なんざぁ知れちゃぁ、
名前どころか首がしゅぽぉんと飛んじまいやす。
互いに出るとこ出ちゃまずいってんで手打ちにして一件落着。
言ってみりゃぁ痛みわけ狙いってもんでして。
「ま、まぁ構わないけどね――僕が女装をすることは無かったんじゃ――」
「あぁ、ダメダメ!あんたは今、メイドなんだから!『僕』は禁止ね!」
「ぐ――むぅ……わ、私、こんな感じで、い、いいのかしら?」
つっかえながらも、女言葉で話す色男。
またその恥じらいが初々しいてなもんでして。
「上出来、上出来!」
赤髪娘の笑顔が止まりゃしやせん。

「あ、そういえば、屋敷に入ったら、『ミスタ・グラモン』ってお呼びするのはまずいですよね?」
「あぁ、そうね、名前を考えないとね――」
「な、名前!?」
グラモンなんざぁ男らしい名前で呼ばれちゃお里が知れ渡りやす。
何ぞいい名前は無いかってんで雁首そろえて頭をひねりやした。
「――クラウディア、ってどう?」
「んー、綺麗な名前だけど、どういう言われが?」
「いや、昔見たお芝居かなんかで、女装してた兵士の名前がそういう名前だった記憶が。
 確か――『LOVELESS』って芝居だったかしら?」
なんのことぁない。
芝居にゃぁ芝居の役の名前がしっくりくるって寸法でして、
「――それってどうなんだろう……」
「いいじゃないですか!クラウディアさん、うん、響きがいいですわよ?」
「いや、僕としてはもうちょっと――」
「『僕』は禁止よ、クラウディア!」
「う~――わ、私、クラウディア、よ、よろしくね?」
「うん、だいぶ様になってきたわね!」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、クラウディアさん!」
かくして、当世きっての色男ギーシュ改め、
当世きっての色女クラウディア、ここに参上ってぇ次第にございやして、
故事を遡りゃぁヤマトのタケルも女装して妖怪退治をしたってもんで、
英雄ってのぁ古今東西、女人に化けるのが慣わしみてぇな所もございやす。
ともかく、クラウディア嬢ご一行、悪代官の屋敷へといざ参る!!
 ・
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「なんとなんと!シエスタ君の他にも、こんな美人お友達も一緒に!?」
さぁて舞台ぁ件の悪代官、モット伯の屋敷!
油の乗った大物貴族の舌なめずりぁ蝦蟇蛙の親分みてぇにぬらりとしておりやして、
世の女ぁこうした男衆に気をつけなとわざわざ言う必要もねぇほどの好色ぶり!
「全く、私は果報者だなぁ!さて、それでは早速、今宵は――」

並び立った見場だけ美人女中三人娘をじっとりと舐めるように見つめる蝦蟇親父、
そいつの眼力ぁじっとりとしておりやして、服の上からねぶり倒すかのごとく、
流石ぁ水メイジ、視線にも水っ気がたんまりとこもってるってなぁ塩梅でござんす。
嫌らしい視線に身ぃよじって耐えるクラウディア嬢。
そりゃぁ男が男にねっぷりと見られて気持ちがいい訳ありやせんや。
さてさて、蝦蟇親父、じっくりどっぷり品定めを終えて、告げた今宵のお相手は!!
「そこの、金髪のちょっと骨太の君!君は私と来てくれ。
 ――後の二人は、今日はいいよ。ゆっくり休んでいてくれ」
「は、え、な、ぼ、ぼく――いや私っ!?」
どうした訳か気に入られちまいやしたクラウディア嬢、
まさかてめぇがってんで、顔が蒼くなることナスビのごとしでございやす。
「おや、思ったより低い声だね?それはそれでセクシーで実に私好みだよ」
眼尻の下がる蝦蟇親父の視線がまた油ぎっておりやして、
こりゃいよいよ背筋に冷汗タラリとなるクラウディア嬢、
生きた心地もしやせんや。
「さささっ、こちらに来たまえ――」
どうしたもんかと、赤髪娘に目で問うも、
行くしかねぇというつれない返事。
こりゃぁ腹をくくるしかあるまいと、
「――は、はいぃぃ」
返事の「はい」がまた笑っちまうぐらい震えてて、
そいつを初々しいと思うんだか、また蝦蟇親父が舌舐めずり、
猫の前のネズミってぇのぁこんなもんかとクラウディア嬢ぁ気が気じゃありやせん。
もっと気が気じゃねぇことに、
赤髪娘がふっと「おもしろくなってきたわ」
なんぞと口が動くのが見えちまった次第でございまして、
足が思うようにゃ動きやせんや。

「何をしてるんだね?早く来たまえ」
「あ、あの、は、はい――」
さてさてどうなることですやら。
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さて貴族さんの寝室ってぇのぁ、我々一般庶民とぁ勝手が違いやして、
豪奢な洋式布団にゃぁ天道さんが照る訳でもねぇのに天蓋がついてございやすし、
布団ってぇと、真っ白な薄布にゃ皴一つねぇところに、
どんぐれぇの鳥さんが真っ裸になったんだかってぇほど羽がたっぷり詰まった枕もございやす。
部屋ん中の調度品ってぇと、そりゃぁまた豪華なもんでして、
そんじょそこらのコソ泥が入ったところで、どいつを持って帰ろうか迷うばっかりで、
かえって盗めねぇってぐらいのもんです。
そんな塩梅で寝室の様子はってぇと、我々一般庶民とぁ違うんでございやすが、
使い方ってぇと、洋の東西や金持ち貧乏の差ってぇのは無いもんでござんすねぇ。
つまるところ、寝るか、営むかってなもんで。
営むってぇのが何かってぇのは、
ちょいっと若いお客さんもいるみてぇなんでここじゃぁ控えさせていただきやす。
良い子のぼっちゃんじょうちゃんは帰っておっかさんにでも聞いておくんなさい。
ここで言えることぁ、せいぜい男と女が“しっぽり”しちまうってぇ曖昧なところでご勘弁を。

さてさて、件の悪代官と我らがクラウディア嬢ことギーシュの旦那、
その豪奢な寝室に、男と女じゃねぇくせしてしっぽりと営もうってんで来ちまいやした。
「あぁ、もう私は待ち切れないよ、そういえば、君の名前は?」
蝦蟇親父の方はってぇと、もう鼻息荒く暴れ馬のごとし。
「え、あ、く、クラウディアと申します」
一方クラウディア嬢ってぇと、声も足も震えた生まれたての子馬のごとし。
文字どおり“薔薇”のギーシュになっちまっちゃぁたまるまいってぇもんですや。
「そうか、クラウディア――いい名前だ。
 しかし、いい骨格をしているねぇ、君は――
 私はねぇ、君みたいなたくましい娘が大好きでね――」
口でその名前を転がしていい気になりやがる蝦蟇親でございやす。

「それでは、早速――」
部屋の扉をしめるなり、この親父、いきなり鞭と黒い紐みてぇのを取り出しやがりやした。
その黒い紐ってぇのぁ、“魔法の拘束具”てな名前がついてる代物でして、
普通ぁ猛獣なんぞをこうしつけたりしやすときに使うもんでして。
なんで鞭とんな拘束具を取り出したかってぇいいやすのぁ、言わずともしれようってもんでございやす。
もちろん、普段おつむの弱ぇギーシュもこういうことにゃ頭がすぐまわりやす助平の一人でございやす。
つまるところ、自分ぇが“しつけられちまう”ってぇ図が頭にピンと浮かびやす。
さぁここで慌てる慌てるクラウディア嬢、
広い寝室つってもたかがしれておりやす、
それでも何とか離れてぇとばかりに反対っ側の壁へひとっ飛びすること牛若丸のごとし。
それを見てまたニヤリとするは蝦蟇親父、ふてぶてしい笑いで今宵の獲物を狙いやす。
喩えるとすりゃ千本目の刀求めた武蔵坊弁慶ってぇところでしょうか。
違う点って言やぁここぁ五条大橋でもなけりゃぁ、
求めるのぁ“刀”じゃなしに“鞘”ってなもんで――
ちぃっとばっかし艶のある喩えなんで、今のは流してくださって結構でございやす。

「おやおや、どうしたんだい?逃げるのかね?」
猫なで声がまたぬらり、一々湿気とぬめりのある響きでございやす。
さぁ、ギーシュ、ここで逃げなきゃ“薔薇”で“菊”がまずいことになるってな次第でして――
この喩えぁもう止めにしておきやしょう、ちぃっとお腐れ様衆の臭いもしてめぇりやした。
ともかく、逃げるっつったって限りがございやす。
部屋ぁ真四角なのに死角なしってな洒落にもなんねぇことになっておりやして、
友の突入がかなり遅く感じやす。
じわりじわりと悪代官の息が近くなるってぇと、
その吐息がまた湿気てやがって、冷汗にじんわり絡んで気持ち悪ぃったらありゃしやせん。
えぇい、あいつら何してやがると、来るはずの友を待つ身ぁ辛いなり。
友がこのまま来ねぇとなりゃ、自分ぇで何とかせにゃなるまいと、
懐の薔薇に手を伸ばそうといたしやすが、こいつぁ失敗に終わりやす。
女中の服ってぇのぁ、メイジ連中のそれと違いやして、マントってぇのがございやせん。
なんとも間抜けなことに、着替えたときにどこに薔薇を仕込んだか失念しちまうという間抜けぶり。
こいつぁ大失態と思っちゃいてももう遅ぇ。
「さぁ、捕まえたぞ」
懐探った手が蝦蟇親父にハッシとばかりに受け取られ、
あとは絡めて、持ち上げて、投げて、しっぽり、布団で、椿がポトリと落ちるまで――
走馬灯ってぇのぁ本当に頭で回るもんだなと、
味わいたくねぇことを考えちまいやす。
いよいよ年貢の納め時、これにて一巻の終わり、
ゼロの使い魔は十六巻まで刊行中、お求めのお客さんはお近くの売店へってなもんで。

「それじゃ、これを使って――」
あぁ、こいつぁいよいよ“男”を捨てることになるってぇのか。
いっそ刺し違えて――そうさ、“命惜しむな名を惜しめ”。骨の髄まで武人のコッチコチの頭でごぜぇやす。
あぁ、始祖さま、母上さま、父上さま、兄上さま、誰でも後は頼むってな物騒なことを叫んじまいそうになりやして、
「――私を、虐めてくれたまえ」
「――ふ、ぇ?へ?」
思わず素っ頓狂な声も出ちまいやすわ。
世に趣味人ってぇのぁ大勢おりやすし、
数少ねぇギーシュの友人も“その気”ってぇのがございやす。
しかしまぁ、この状況でそんな御仁に出会うとぁお始祖さまでも思うめぇって次第でして。
「さぁ、な、何をしているのかね!わ、私を早く、縛ってくれ!」
見りゃぁいつの間にやら上半身はだけて布団の上の蝦蟇親父、
そいつぁさながら、まな板の上鯛、陸に上がった河童、なんとも情けねぇ姿でして。
「え、あーそのー……はい……」
なんか納得いかねぇものの、拘束具で縛りにかかるクラウディア嬢。
人間ってぇのぁ不思議なもんで、
あんまりにも変なことが続くと、脳の味噌ってぇ野郎がそれ以上考えるのを嫌がっちまうてなもんだそうで。
丁度ギーシュの野郎はそんな塩梅でございやした。
「さ、さぁ、次はその鞭で!!」
「あ、え、えぇ、では――」
 ・
 ・
 ・
ちいちいぱっぱ、ちいぱっぱ!雀の学校の先生よろしくムチが飛ぶ!
それに合わせて響くオヤジの声のまぁ嬉しそうなこと!
目黒のサンマを食ったお殿さんですら、もうちっと慎ましやかでございやしたでしょうに、
このオヤジときたら、汚ぇ涎と涙ダバダバ流して喜んでやがりやす。
この水っ気のあり様が水メイジたる所以じゃぁねぇかってなことを邪推しちまいやすと、
してこの国のお姫さんは水メイジだったななどと余計な妄想に火がついて大火事になっちめぇやす。
気をしっかともって本筋へと戻りやしょう。

さてさて、ムチの振り方、女としての身の振り方が板に付いてめぇりやしたクラウディア嬢。
しかし、カマボコの野郎が板にしっかと付くのが、きっちり冷え切った後でありやすように、
そういった諸々が板に付いてきた頃合いにゃぁオツムの方にも冷えが来るもんでございやす。
「(……僕は、何を……)」
女中ってぇなぁ奉公人の格好をしながら、振る舞いは女王のごとく、
ちーっとばっかし妙な塩梅であることぁ自明のことでございやす。

ところで、お客さん方におかれやしては、即席麺、当世風に言やぁいんすたんとらぁめんってな軽食を、
どのような具合でお召し上がりになられるでございやしょうか?
あっしゃぁ専ら早めが好みでございやして。えぇ、お察しのとおり女子も若い方が――
――あぁ、こいつは話が脇道にそれやしたね。大通に戻らねぇと。
ところが世の中にゃぁ、麺の野郎がだるんだるんになるまで待つのも好きなヤツがいるそうで、
ありゃぁ絶対、女も熟れきった乳母の方が好みの――こいつぁ失敬。大通、でございやすね?
それはさておき、豪奢な寝室の扉が赤穂浪士の討ち入りより派手にぶち開けられたのは、
いんすたんとらぁめんの野郎がぶよぶよになっちまうぐれぇ正しい時期ってのを逃しておりやして。
「そこまでよ、モット伯!」
赤髪娘の凛とした声ぁ勇ましいもんでございやすが、外しちまった感じぁいなめやせん。
ってぇ次第でございやすので、
「遅いよっ!?」
てなことをクラウディア嬢ことギーシュの野郎が叫んじまうのも仕方があんめぇことにございやす。
「ちょっと迷っただけよ!」
「ご、ご無事ですか、ミスタ……あ、く、クラウディアさん!!」
とぁいえ、援軍とぁ心強ぇもの。やっと生きた心地がしてまいりやす。

「――これは、何ごとだ?君たち、ただのメイドでは無いな?」
生きた心地に冷や水がぶっかけられやす。流石ぁ水メイジってぇいったところでございやしょうか。
さっきまで嬌声響かせてたオヤジとは思えねぇほど、雷鳴轟くような凄みをきかせやす悪代官!
それにちょいっとばっかりひるんじまったクラウディア嬢。
「な、名のるほどの者ではないっ!!」
しかしその中身は助六真っ青の色男っ!
世の乙女を救ってみしょうぞ男道っ!
ここでひいてはなるものか!
腹はとうの昔にくくってあらぁ、寝具に足かけにらみをきかせ!
「お、お前の悪行は全てお見通しだっ!!」
声はちっとぁ震えたものの、見得切る様は悪くはなし。
おしむらくは女中の艶姿、ムチを片手の珍妙な所ぐれぇでしょうか。
「だから、何だと言うのだ?」
しかしこっちも名うての悪代官!
踏んだ修羅場は数知れず!
ゆるがねぇこと大海原のごとく!
ちっと残念なのぁ拘束具のヤツをつけっぱなしにしちまって、
足をもがれたタコ状態ってぇ所ぐれぇでしょうか。

「ぼ、僕たちを解放したまえ!さ、さもないと……」
嗚呼、男ギーシュ!決めるときぁ決める男!
寝具にかけた足に力をこめて、キッと睨むは蝦蟇親父!
何の因果か女中の姿、せめて決めるは男前に、
ぐっと肝をひきしめて、啖呵を切るは勇ましく!
「切り落とすぞ」
何を?ってな野暮なことを聞いちゃぁいけねぇですよお客さん。
ここぁ黙って男ギーシュの晴れ姿、その両の眼にしっかと焼き付けておくんなさい。

「そうね……言う通りにしないと……」
と、ここでおいでまするは、今宵の筋を描いたキュルケ嬢!
男が何だと言うものか、こちとらゲルマニアの女だと、
目にかからん燃ゆる赤髪ふりはらい、切ります見得は内なる炎!
「ねじり切っちゃうわよ」
だから何をってなことぁ聞かないでおくんなせぇよお客さん。
そいつを聞くのは野暮天もいいところでさぁ。

「え、えっと……お、お願いします、でないとそのー……」
さてさてどん尻に控えますは、悲劇の主役!
威風堂々とぁいかねぇものの、なかなか度胸がすわってるのか、
女だてらにおみ足を、振り上げ降ろすは豪奢な寝具!
「す、すりつぶしますわよ?」
あぁ、皆まで言わねぇでおくんなせぇ。何をだって聞きてぇのは山々でしょう。
しかしここぁ少しばかりご辛抱を願いやして、噺を続けさせておくんなせぇ。

「ほう――この私が『波濤のモット』と知っての所業かね?」
いやさ敵も天晴れなるかな!
三段の睨みを正面より、討って返すは大上段!
小娘ごときの脅しなど、例え手足が動かずとも、
己が気迫で押し戻す、これぞ『波濤』の心意気!
さぁさ舞台と役者が出そろって、火花散りやす寝室に、
どちらが動くか根競べ、瞬きすらもできやしねぇ!

「……もちろんタダ、とは申しませんわ」
ここで動くは女前!
赤髪見事な情熱の、そのたわわなる胸元から、取りだしたるは紙の束。
「そ、それはっ!?」
カッと開かれるは蝦蟇親父の目ん玉。
縛られてやがる手が喉元から飛び出そうなぐれぇに紙束に食いついておりやす。
「“召喚されし書物”!?」
えぇい、控えぃ控えぃ控えぃっ!
この本を何だと心得るっ!
当地のお貴族さん達ぁその由来をご存じねぇようなんで、
この場をお借りしてご解説申し上げやす。
大本の出所ぁ遠く離れた異界の地、
地底世界はドワーフ城、その礎の下にある、開発室が奥深く、
幾人の漢が求めたか、見果てぬ聖地はエロマンガ島、
ここに控えしお宝は、その名もずばり“エッチなほん”なるぞ!
頭が高い!控えぃ控えぃ控えぃっ!
「くっ……そ、そのようなもので……」
さぁこれにたじろぐは悪代官!
お宝のあまりのご威光に、あてられ目ん玉空泳ぐ。
「――そう言ってられるのは……いつまでかしらね!」
パラパラパラっと紙の束、踊りめくれて花吹雪!
「お、おぉぉぉぉぉ!?」
あまりに秀逸なその中身、あの蝦蟇親父がチラリと目に入れただけで鼻血吹雪が地に落ちる!
「……ゴクッ……」
横目で見ただけのギーシュの野郎も唾を飲み込めば、
「……」
女中の頬が朱に染まる、なんたる威力か“エッチなほん”!
しかし赤髪娘の顔たるや、どちらが悪玉か分かりゃしねぇ!
げに恐ろしきは女かな!

「よかろう――もとより、嫌がる娘を飼うほど私は非道ではない」
顔を整えるも鼻からは、紅ぇ道がタラリと伸びておりやす蝦蟇親父。
ホッとギーシュは紛い物の胸をなでおろしやす。
「しかし、残念だな――シエスタ君はもちろんだが、クラウディア君はまさに好みだったのだがなぁ……」
締めの台詞はやはりぬめりと、湿り気こもる蝦蟇親父。
ゾクリとギーシュの背が凍りやす。
「は、ははは――」
笑いがカラカラに乾いたスルメみてぇになるのも詮方ねぇことで。
 ・
 ・
 ・
「いや~!良かったわね、シエスタ!」
「ほ、本当に、ありがとうございました!お二人とも!」
帰りの道ぁ月灯り、照らす街道ゆるやかに、馬車がガタゴト進み行く。
「――どうしたのよ、ギーシュ?名演技だったじゃない!」
「――どうされました、ミスタ・グラモン?」
ところが釈然としてねぇのは今宵の主役、助六気取りのギーシュの野郎。
「――あの、さ」
「え、まさか、モット伯にあんた……」
「そ、そんな!?」
暗い顔にいらぬ勘違いをしちまう女二人。
「い、いやそうじゃなくて!?ていうか何もされてないっ!?何もされてないからっ!?」
流石に、そこだけは否定しねぇと、おめおめ生きていけなくなっちめぇやす。
「じゃぁ、どうしたのよ?シエスタが助かったし、万事問題ないじゃない?」
何が問題なんでぇと、訝しげな表情を作りやす赤髪娘。

「……僕、必要だったか?」
足りない頭をぶん回し、やっとこさ気づいた助六気取り。
よくよく考えてみりゃ、必要だったのぁ“召喚されし書物”のみ、
それさえありゃぁ何も女中の格好はしねぇでも良かったんじゃぁねぇかと、
流石のギーシュも気づいちまったってぇ次第でございやす。
「ううん。必要無かったわよ?」
それをあっさり肯定しちまう赤髪娘!
「じ、じゃぁなんで僕がっ!?」


「――おもしろそうだったから」
げに恐ろしきは女かな!
身も蓋もあったもんじゃねぇキュルケ嬢の言葉に、うなだれる首はガックリと、
落ちる涙に月灯り、漢泣きをしたところで服は女中のものでございやす。
「み、ミスタ・グラモン!?か、かっこよかったですわよ!?」
女中の庇いもちっとばっかり的を外れておりやして、
垂れる頭が戻りやせん。


兎にも角にも、女中の危機に立ちあがる、漢ギーシュの晴れ姿、
艶姿とぁなっちまいやしたものの、
あ、これにて、一件落着とあいなりました!
助六気取りの青瓢箪の活躍は、
まず今日はこれぎりにてっ!!


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