あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

ゼロと損種実験体-10


 王女殿下がルイズの部屋にやってきた翌朝、アプトムとルイズとギーシュの三人は、アルビオンに向かうため馬に鞍をつけていた。
 こんなはずではなかった。アプトムはルイズを連れて行くつもりなどなかった。
 究極の戦闘生物を自認する彼は、いかなる戦場に単独で飛び込んでも生還する自信がある。しかし、誰かを守って戦えるのかと言われれば、難しいと言わざるを得ない。
 なまじ強靭な肉体と、高い生命力を持っているだけに、うっかりと無茶をしてルイズに無駄な危険を冒させてしまう可能性を考えると、置いていきたいところだが、そうもいかない。
 何故、そんな事になってしまったのかと言えば、それはギーシュのせいである。
 アプトムは、ルイズの部屋の前で聞き耳を立てている何者かを王女の護衛だと思い込んでしまった。
 そいつを連れて行くから、学生でしかないルイズは残っていろと言ってしまった。
 だが、そこにいたのは、ルイズと同じく学生の身でしかないギーシュであり、その少年を連れて行くのにルイズは置いていくというわけにはいかなくなってしまった。
 いっそ、最初から一人で行くと言えば良かった。そうすれば馬に乗る必要もなかったのに。と思ったのも後の祭り、世界はこんなはずじゃないことばかりである。こんなときに限って、ルイズはちゃんと早起きしてるし。

 まいったなと、ため息を吐いていると、ギーシュがルイズに話しかけた。アプトムに敵愾心を持つこの少年が、決闘以外でアプトムに対し口を開くことはなく、必然ルイズにのみ話しかけることになる。

「お願いがあるんだが……」
「なによ」
「ぼくの使い魔を連れて行きたいんだ」
「あんたの使い魔なんて、どこにいるのよ。って言うか、あんたの使い魔って何だっけ?」

 考えてみれば、ルイズは他人の使い魔に興味を持っていなかったので、アプトム以外の使い魔は、キュルケのフレイムとタバサのシルフィードくらいしか、記憶していない。
 そんなわけで尋ねてみると、ギーシュは、ここだと何もない地面を指差した。
 何もいないじゃないかと言ってくるルイズに、ギーシュは笑い、指差したそこを杖で叩く。と、地面が盛り上がり、そこからクマくらいある巨大モグラが顔を出した。

「あんたの使い魔ってジャイアントモールだったの?」
「そうだ。ぼくの可愛いヴェルダンデだ」

 うれしそうに、モグラを抱きしめるギーシュである。
 おそらくは、本人にとっては自慢の使い魔なのだろうが、はたから見ていると滑稽な事この上ない。
 まさか、自分も、ああ見えているんじゃないだろうなと、アプトムを見てしまうルイズだが、彼女はもっと酷かったりする。主に朝の食堂とか。
 それは、ともかく。

「ねえ、ギーシュ。ダメよ。その生き物、地面の下を進んでいくんでしょう?」
「そりゃ、モグラだからね」
「そんなの連れていけないわよ。わたしたち、アルビオンに行くのよ。地面を掘って進む生き物を連れて行けるはずないじゃない」

 言われ、そういえばそうだったかと、ギーシュは、あと一勝で甲子園に行けたはずの球児の如く崩れ落ちる。
 畜生、なんて時代だ。と涙を零すギーシュに、モグラのヴェルダンデは慰めるように彼の両肩に前足を置いてくれたりもする。良い主従である。
 何の漫才だ? などと思いつつ、アプトムが見ていると、ヴェルダンデは、ふと何かに気づいたように鼻をひくつかせルイズの方に擦り寄っていった。


「ちょっと、何よこのモグラ」

 そんな抗議の声など聞こえぬとばかりにヴェルダンデはルイズに圧し掛かり押し倒す。

「やめなさいよ! ギーシュ! アプトム! なんとかしなさいよ!」

 大モグラの鼻で体中を突かれながら助けを求めるルイズであるが、押し倒されて着衣が乱れた姿にギーシュは何やら鼻の下を伸ばし、アプトムはというと、どうしろと? などと考えていた。
 殺せというのなら簡単だが、この大きさの生物をルイズから引き離せというのは難しい。

「こいつは、人を食うのか?」

 違うとは思うが、もしそうならルイズに危害を加えられる前に始末しなくてはならないなと、尋ねてみるアプトムに、ギーシュはムッとした顔になる。

「ぼくのヴェルダンデが、そんな野蛮ことをするわけないだろ! ヴェルダンデの好物は、どばどばミミズだよ! 人間なんか食べるわけないだろ!」
「なら、あれは何をやっているんだ?」

 まさか、発情しているわけじゃないだろうな。と問われ、ギーシュは難しい顔でヴェルダンデを眺め、しばらくして大モグラがルイズの右手の薬指にはまった指輪に鼻をつけるのを見て納得する。

「ヴェルダンデは、宝石が大好きなんだよ」

 つまり、ルイズの指には、昨夜王女から任務のための資金の足しにしてくれと送られた指輪が光っており、それに反応して押し倒す結果になったというわけである。
 なるほどなと、ルイズに危険がないことを納得するアプトムだが、同時にそれは普通に強盗じゃないのか? と思ったりもする。

「納得してないで、助けなさいってば!」

 叫ぶルイズに、しょうがないなとアプトムは拳を握る。危うし、ヴェルダンデ。彼は今その愛らしい頭部を岩をも砕く拳で粉砕されんとしていた。ついでに、元々良好とはいえないギーシュとアプトムの間の人間関係も、取り返しのつかない破局を迎えようとしていた。
 その直前のことである。一陣の風が走り、大モグラは吹き飛ばされていた。

「誰だッ! ぼくのヴェルダンデに何をするんだ!」

 ギーシュは激昂して叫ぶ。その何者かが起こした風がなければ、大事な使い魔が撲殺されていたと気づかぬがゆえの言葉である。知らないということは、幸せだ。
 風が吹いてきた方向からは、一頭の幻獣を従えた一人の男が歩いてきており、頭に血の上ったギーシュは薔薇の造花を取り出すが、その瞬間には杖を抜いた男の魔法で造花は吹き飛ばされていた。

「僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられてね。きみたちだけではやはり心もとないらしい。しかし、お忍びの任務であるゆえ、一部隊つけるわけにもいかぬ。そこで僕が指名されたってワケだ」

 そう言って一礼した男は、魔法衛士隊、グリフォン隊隊長ワルド子爵であると名乗り、文句を言いかけたギーシュは、そこで固まった。魔法衛士隊は、貴族の少年たちの憧れである。当然ギーシュも例外ではない。そんな憧れの対象にどうこう言えるほど彼の心臓は剛毅にできてはいない。


「すまない。婚約者が、モグラに襲われているのを見て見ぬ振りはできなくてね」

 そんな事を言いながら、ワルドはルイズに歩み寄り、少女の華奢な体を抱き起こす。

「久しぶりだな! 僕のルイズ!」
「お久しぶりでございます」

 抱きかかえられ、頬を桜色に染めるルイズの顔は、喜びに満ち溢れ、あんな顔もするのだなとギーシュは珍しいものを見れた幸運を喜ぶべきだろうかと思う。アプトムの方はというと、何かを考え込んでいてルイズの様子に気づいていないようだが、何を考えているのかギーシュには分からない。

「相変わらず軽いなきみは! まるで羽のようだね!」
「……お恥ずかしいですわ」
「彼らを、紹介してくれたまえ」

 そう言われ、下ろされたルイズが、ギーシュとアプトムを紹介すると、二人はそれぞれ頭を下げた。

「きみがルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな。僕の婚約者がお世話になっているよ」

 気さくに話しかけるワルドに、アプトムは「ああ」と気のない返事を返し、無視された形のギーシュは、内心ムッとしていた。
 というか、ギーシュはワルドのことが気に入らない。理由は分からない。ヴェルダンデのことが尾を引いているのではないかとも思うが、なんとなく違う気もする。
 ワルドの他者を見る眼が、アプトムが自分を見ている眼と同様の相手を同格と認めぬ冷たい視線であるがゆえの嫌悪感なのだが、そのことに、ギーシュは気づけない。ギーシュがアプトムを敵視しているのは、自分より下の立場のはずの者が自分を見下しているからで、ワルドのような立場の者が自分を見下すのは当然であろうと理解しているから。
 そんなギーシュの内心の葛藤に他の三人は気づかないというか、興味もない。
 そして、ワルドは自分の連れてきたグリフォンにルイズを乗せ、反対側に立ったアプトムが、ルイズを下ろした。

「……」
「……」

 何事もなかったように、またルイズを持ち上げグリフォンに乗せるワルド。そして下ろすアプトム。

「……」
「……」
「どういうつもりだい?」
「そちらこそ、どういうつもりだ? なぜルイズを連れて行こうとする?」

 元々、この任務にルイズとついでにギーシュを連れて行くことに、アプトムは賛成ではない。それなのに何故連れて行く事になったのかと言えば、アプトムにハルケギニアの土地勘がないからであるが、ワルドという男が共に行くのなら、二人を連れて行かなければならない理由はなくなる。
 そのことを言うと、当然ルイズは反発したが、知ったことではない。彼のここでの最優先事項はルイズを危険から遠ざけることである。ある程度の我侭なら聞いてやるつもりであるが、わざわざ行かなくてもいい虎穴に入らせる気はない。

「きみは、随分と僕のルイズを大事に思ってくれているんだね。しかし、大丈夫さ。ルイズの身には傷一つ負わせないと僕が約束しよう」



 そんなことを言ってワルドはルイズの好感度を上げるが、アプトムは納得しない。
 お前がそうするのは勝手だが、ルイズは足手まといになるためにアルビオンに行きたがっているわけではあるまい。ルイズも任務のことなど、忘れて立派なメイジになれるように勉強していろ。王女だってそう思ってワルドを寄越してくれたんだろう。などと言われると、ルイズもワルドも反論の余地がない。
 もちろん、アンリエッタにそんな考えはない。元々彼女はワルドにも行かせるつもりであり、黙っていたのはワルドがルイズの婚約者であることを知っていたがゆえの悪戯心である。

 しかし、そんな事を知る者はおらず。かくして、アプトムとワルドは二人でアルビオンに向かい、ルイズとギーシュは置いて行かれることとなった。
 もちろん、アンリエッタの手紙をルイズから取り上げることを忘れるような、うっかりはやらない。


 二人が旅立った後、しばらくしてルイズは、のろのろと再起動し、馬を厩に帰しに行く。
 アプトムの言うことは、もっともであると理解はしたが、心から納得したわけではない。
 とはいえ、ルイズにアプトムを納得させる答えは見つからず、思いついたとしても今更どうにもなるまい。だから、ルイズは自分の部屋に戻る。
 二度寝しよう。授業なんかどうでもいいや。アプトムいないし、今日はシエスタも起こしに来ないだろうから。
 そんな投げやりな事を考えて、自室に戻った彼女を迎える声があった。

「ちょっと、また俺のこと忘れてってるよ相棒。おっ、娘っ子。相棒と一緒に行ったんじゃなかったのか? まあいいや、すぐ俺を相棒のところに連れて行ってくれ」

 それは、インテリジェンスソードのデルフリンガー。あまりの存在感のなさにアプトムが忘れて行ってしまった魔剣である。
 と本人は思っているが、実際は必要ないというか、邪魔だと判断されて置いて行かれただけである。
 しかし、ルイズにはそんなことは分からない。この剣に限ったことではないが、武器を持つと左手のルーンが反応して獣化しようとしてしまうアプトムの事情などしらぬ彼女は、すぐに届けてあげなければならないと、アプトムについて行き姫さまの持ってきた任務に自分も参加できる言い訳ができたことを内心で喜びながら、剣を持って走る。
 剣だけ受け取ったら追い返されるだろうとは、考えない娘である。
 それはともかく、先ほどまでいた所に戻ると、ギーシュがまだそこに立っていた。彼もまた、ルイズと同じように置いて行かれたことに納得などしていなかったのである。
 そして唐突に気づく。今から馬をもう一度用意して追っても、追いつけるものではないと。
 そんなとき、ばさりと頭上から羽音が聞こえてきた。


 ある居酒屋での話である。
 そこに、フードで顔を隠した一人の女がいた。
 その居酒屋は、ならず者が客として訪れるような場所であり、本来なら女が一人で来れるような店ではないのだが、女は周囲を意に介さず黙々と食事を摂っていた。
 彼女は、フーケ。『土くれ』の呼び名で知られるメイジの盗賊である。
 荒くれ者といえど、ほとんどの者はメイジに手を出すような馬鹿なことはしない。だが、そんな彼女の隣に、一人の男が訪れた。
 白い仮面で顔を隠したその男に、フーケは「おや、早かったね」と、どうでもよさそうに声をかける。

「予定が狂った」

 前置きなしの言葉に、「なんだい。そりゃ?」とフーケは首を傾げる。
 彼の予定では、アルビオンの玄関口である、ここ港町ラ・ロシェールへ向かってくる、ある四人組をここにいる傭兵に襲わせる予定であった。そのための傭兵は、先にここに来たフーケが雇ってある。
 だが、襲わせる対象は四人ではなく二人になってしまっていた。
 なら襲撃を中止するのかと問うフーケに、仮面の男は首を振る。
 襲撃の目的は、一行の数を削ることであったが、その二人、正確にはその一方の実力を測るには、ちょうどいいかもしれないと彼は考えた。
 その答えに、フーケは唇を歪め、そりゃあ気の毒にと、傭兵たちに同情する。
 彼女は、仮面の男が実力を測りたがっている相手のことを知っている。

 あれは、バケモノだ。自分などでは到底敵わない能力を持っている。傭兵などでは、返り討ちにあうのがオチだ。
 それほどのものなのかと問う仮面の男に、彼女は笑って頷く。それが何故か誇らしげなのだが、そこには仮面の男は突っ込まない。
 どんな能力なのかを問いかけてみてもフーケは答えない。聞いても分からない。見れば分かる。分かっても対策なんて立てられない。それが彼女の答え。ついでに言えば、彼女はあのバケモノの能力の一部を知っているだけである。

 それに、とフーケは続ける。彼女は、その相手を敵に回したくはない。敵に回せば確実に命がないことを理解しているから。仮面の男に協力している時点で敵になっているようなものだが、それでも相手に敵とみなされるような行動は最低限避けたいと思っている。
 だから、彼女は話さない。その相手の能力を知るものが、今のところ自分しかいないから。話せば自分が敵に回ったと思われる恐れがあるから。
 そんなフーケに、仮面の男は何も言わない。彼女が恐れる相手がどれほどのものか知らないが、結局のところ自分には敵わないだろうと楽観しているからであり、役に立つだろうと、わざわざ引き入れた手駒を、たった一人の相手の情報のために手放すようなことをするのは馬鹿らしいと思っているゆえに。


 朝、魔法学院を出発したアプトムとワルドは、夜中近くになってようやくラ・ロシェールの近くまでたどり着いていた。
 ワルドのグリフォンは、アプトムの乗る馬を置いていこうとする勢いで疾駆し、しかし途中で馬を交換するときだけは待ってくれていた。
 今回の任務にあたっての、アンリエッタがウェールズに充てた手紙はアプトムが預かっていたのだから、当然ではあるが。
 そうして、町まであと少しという所の渓谷に挟まれた道を進んでいた時、崖の上から何本もの松明が投げ込まれた。
 特に慌てることもなく、なんだろうと頭上を見上げようとするアプトムだが、馬のほうは驚き暴れようとする。
 やれやれと、馬から飛び降りたアプトムが改めて頭上を見上げると、そこに矢が射かけられた。
 そのままだと、自身を貫いてたであろう何本かの矢を掴み取ったアプトムは、これはどういう状況だろうかと頭を悩ませる。

 普通に考えれば、賊の襲撃なのであろうが、銃騨ですら脅威に感じない彼にとって、この弓矢を使った襲撃は、例えるなら子供が玩具の刀を持って殴りかかってきている状況のように危機感がなく、どう対応したものか判断がつかない。
 こんな襲撃でも危険に感じるであろうルイズがいれば、即座に殲滅という選択をしただろうが、いるのは魔法衛士隊隊長という肩書きを持つ、こんな襲撃で命を落とすことはないであろう男だけである。
 叩きのめしてもいいのだが、少しワルドの手並みを見せてもらおうとそちらを見ると、魔法で小さな竜巻を作り出して身を守りながら、同じようにこちらを観察してくるワルドと眼が合った。どうやら、お互いにこの襲撃を脅威に感じておらず相手の対応を見守ろうとしていたらしい。

 成す術がないというのならともかく、お互いにどうとでもできる能力を持っているために、どう対応するか悩んでしまうというのも皮肉な話だ。などと、やはり緊張感のないことを考えているアプトムは、もう賊のことは無視して町に向かおうかとやる気のないことを考える。
 彼にとって、間断なく降ってくる矢など、全て受け止めてしまえるし、当たってもダメージにはならない。馬は置いていくしかないが。
 ワルドの方も、問題なく防げるようだし、別にいいだろうと思っていると、ばさりという羽音と共に崖の上にいる賊のものであろう男たち
の悲鳴が聞こえ、何人かが転がり落ちてきた。

「おや、『風』の呪文じゃないか」


 ワルドの呟きに、何者の仕業かを察したアプトムであるが、何故ここに現れたのか分からないでいると、更に残った男たちも落とされてきて、その後に青い風竜が舞い降りた。
 そうして、風竜の背から降りてきたのは、シルフィードの主であるタバサ、そしてルイズとキュルケとギーシュであった。


 キュルケの朝は、特に早くはない。休日なら昼前まで眼を覚まさないし、平日でも遅刻はしないが、食堂に一番乗りしたことは一度もない。
 そんな彼女が、その朝たまたま早く眼を覚ましたのに特別な理由はない。納得がいかなければご都合主義とでも思えばいい。
 さて、そこで早起きしたキュルケが最初にしたのは窓から外を見ることである。この行動に意味はない。ただの習慣である。そうして、彼女は見知った三人を発見する。

 馬を用意している三人が、こっそりどこかに出かけようとしているということは見れば分かる。だが、どこに出かけようとしているのかは分からない。
 だからといって、それをわざわざ知ろうとも思わない。面白そうなことには首を突っ込む主義だが、あの三人がどこかに出かけようとしているという程度では、眼を覚ましてすぐの寝ぼけ気味の頭を覚ますほどの面白さを感じない。
 そんなわけで、ぼんやりと三人を見ていた彼女は、そこに四人目が現れたことで、パッチリと眼を覚ますことになった。
 そこに現れたのは、先日の王女一向の中にいた美丈夫であった。

 キュルケは惚れっぽい少女である。とはいえ、一度遠目に見ただけの相手に惚れるということはあまりない。
 そんな彼女が、その男に惹かれたのは、その男が魔法衛士隊という外に自慢できる立場の人間であり、見目の良い青年であったからであり、ついでに今窓の外でルイズと親密そうに話しているのを見て、あの男をルイズから奪えば面白い事になるとキュルケは考えた。
 思い立ったら行動の人であるキュルケは、飛び起きると親友の部屋に走った。いらん判断力を持つ彼女は、今から急いで着替えて外に出て行っても、その前に四人が出発してしまう可能性が高いことを考えて、すぐに追える様に親友の使い魔に頼ることを選択したのだ。

 そうして叩き起こされたタバサにとって、それは迷惑極まりない頼み事であった。
 彼女は、キュルケのように魔法衛士隊の男にもルイズにも興味はないし、できる限りルイズの使い魔には関わりたくないと思うようになっていた。
 しかし、親友の頼みを無碍にしたくはないし、放って置いてアプトムを嫌っているキュルケが虎の尾を踏む事になって、死にでもすれば、どれだけ後悔しても足りないし、困ったことに彼の危険性をキュルケに知らせることもできない。別に口止めされているわけではないが、何が彼の逆鱗に触れる事になるのか分からない現状では、ヘタな事を話すわけにはいかない。

 そんなわけで、キュルケの頼みを聞き入れたタバサはノロノロと着替えを済ませた後、使い魔を呼んだ。
  風竜の幼生であるシルフィードに乗れば、少しくらい離されても追いつけると理解しているキュルケは、着替えに戻った自室でしっかりと丹念に身支度をしてからタバサの元へ向かう。
 それでも、タバサが着替えるのに遅れなかったのは、さすがである。
 そして、いざ四人を追いかけようとシルフィードが舞い上がった時、彼女らは置いてけぼりになっていたルイズとギーシュを発見することになった。


 シルフィードから降りたルイズは、早速アプトムに剣を渡し、「忘れ物をするなんて、うっかりしてるわね」などと言ってくる。
 忘れてきたわけではなく、置いてきただけだとか、そんなボロ剣の代わりくらい必要なら、いくらでも用意できるとか、デルフリンガーが聞いたら泣きそうな事を、いろいろと言いたくなったアプトムであったが、飼い主が投げたボールを咥えて帰ってきて褒めてほしがっている子犬のようなキラキラとした瞳で見られると、さすがに口を噤むしかない。

 うっかりしていた。助かった。などと言いながら、頭を撫でてやると本当に子犬のように目を細めて喜ぶルイズの姿に、不気味だと思うタバサがいたが、その視線に二人とも気づかない。付け加えると、あの冷徹なアプトムが主人とは言えルイズの頭を撫でるという行為もタバサから見れば不気味である。
 ちなみに、この光景を見れば、ルイズに対して親愛を、アプトムに対して嫌悪を覚えるであろうキュルケは、現在ここにいるもう一人の人物であるヒゲの美丈夫に釘付けである。
 ルイズがアプトムに駆け寄ったように、キュルケはワルドに歩み寄り、「ねえ。あなた」などと呼びかけている。


「おひげが素敵よ。情熱はご存知?」
「何が言いたいのかね?」
「好きだって言ってるの。ほら、あたしの胸がこんなにドキドキ言ってる。触ってみる?」
「悪いが婚約者がいる身でね」

 素気無く押し離そうとするワルドに、キュルケは不思議そうな顔をする。たとえ恋人や婚約者がいても自分が言い寄ってこんなに冷たい態度をとった相手は今まで一人も……、一人いたなと少し不機嫌になりながらも、彼の見てる方を見て、アプトムとルイズを発見して憮然とした顔になる。
 そこにいたのは、その一人であり現在彼女が最も嫌悪する男と、最近お気に入りになっている少女がいた。
 もし尻尾があれば、勢いよく振っているであろうルイズの姿は、キュルケに笑みを浮かばせるものであるが、その相手がアプトムであると
いう事実には顔をしかめざるを得ない。

 この光景を婚約者さんはどんな顔で見ているのかねとワルドを見て、その眼が嫉妬などとは縁のない冷たいものである事に気づく。
 なにこいつ、これが婚約者を見る眼なの? とキュルケは不快になる。こんなに不快な気分になったのはアプトムが主であるルイズに対して好意も悪意も抱いてないのだと知ったとき以来だ。
 そうして、もう一度ルイズたちの方を見ると、ワルドが見ている事に気づいたのだろう。顔を赤くして、真っ先にアプトムに駆け寄ったことの言い訳をしながらワルドのところに来て、ついでにキュルケを睨みつける。
 そんなルイズにワルドは微笑みかけるが、その眼は冷たいままだとキュルケは気づいていた。
 気に入らない。それが正直な感想だったが、だからといってどうこう言う気はない。貴族の婚約に本人の意思など意味を成さないのだと理解しているキュルケには、ワルドがルイズに好意を持っていないからといって、文句を言う筋合いはないし、ルイズのほうがワルドに好意を持っているのなら、それでいいのだろうと考える。

 つまんない。もう帰ろうかしら。などと思うキュルケだが、もう夜も遅いしシルフィードも疲れているだろうという配慮くらいはある。
 ついでに言えば、アプトムとワルド、種類は違うがそれぞれに対し好意を持っていて、しかし両方から好意をもたれていないルイズが心配でもある。おそらく、彼女は帰る気がないだろうし。
 とりあえず、今日のところはラ・ロシェールで一泊して、その後の事はその時に考えようとキュルケは決意する。
 ちなみに、そんなキュルケを心配そうに見ているタバサがいたりする。
 彼女は、アプトムに対する敵愾心を隠さない親友が心配で仕方がない。いっそ、あのバケモノの真実について離してしまおうかとも考えるが……、

「キュルケ。あのルイズの使い魔について話したいことがある」
「あら? 何かしら」
「あの男はバケモノ」
「ふーん。そのバケモノって……、こんな顔をしているのか?」

 そう言ったキュルケであったはずの者はアプトムの顔をしていた。

 なんてことになる想像をしてしまい、背筋が冷たくなる。
 アプトムと吸血鬼退治に行った経験は、タバサの心に軽いトラウマを残していた。
 そんなふうに、それぞれに考え事をしていると、ギーシュがやってきて、あの男たちはただの物盗りのようだと報告してきた。
 そう、彼は一人真面目に賊の尋問をしていて、そのせいで描写されなかったのだ。決して存在を忘れていたわけではない。
 なんにしろ、それなら捨て置こうとワルドが言い。一行は、ラ・ロシェールに宿泊することになったのだった。


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