「アガァッ!?」
「きゃあ!?」
突如口を開けたバエルに悲鳴を上げながらルイズがへたり込む、だがその口の中を見た瞬間
ルイズ達の顔に希望が灯る、その中には彼女の使い魔、バージルが平然と立っていた。
飛びかかってきたバエルの勢いを利用しデルフを上顎に突き立てつっかえ棒の代わりにすると、
無理やり口の中をこじ開けベオウルフを装着する、渾身の力を込めた左アッパーを皮切りに、口の中を蹂躙し始めた。
頬を拳で打ち抜き、歯を砕く、上顎に拳が叩き込まれる度に背中に残った氷塊が血の色に染まってゆく、
殴りながらちゃっかり円陣幻影剣を展開し、さらに被害を拡大させている。
「ムゴッ! グェッ! ガァッ! ガッ!?」
どうやら相当怒りが溜まっているらしい、容赦など微塵も感じさせないほど殴ったにもかかわらず
バージルはいつの間にか閻魔刀まで抜き放っており、口の中を切り刻んでいた、舌を斬り裂き、頬を裂く、
舌の一部と思われる肉塊が外へと飛び出し、挙句の果てにはバエルの体中から幻影剣が飛び出す始末、もう口の中は大惨事だろう、
「うっ……口の中に鉄の味が……」
それをみたギーシュが口元を押さえ苦い顔で呟く、想像してしまったらしい、
「あんなもの口に入れるからよ」
ルイズが心配して損をした、といった表情で肩をすくめる。
上顎に刺さったデルフに力を込めると、そのまま上顎を貫通し、バエルの頭の部分からバージルが飛び出した。
「グゲャアアアアア!!」
追い打ちの一撃に苦悶の悲鳴をあげながらラグドリアン湖の氷上に巨体を横たえる。
息も絶え絶えになりながらバエルは最後の力を振り絞り呪詛の言葉を投げた。
「クソッ! 畜生! ゲートさえ開けば――」
遺言を最後まで聞かずにバージルが閻魔刀で頭から叩き割る、
するとパキパキッ! とバエルの身体がみるみる氷の塊へと変わり、ボコォン! と派手な音をたてて砕け散った。
その時、辺りを包み込んでいた闇が急激に晴れてゆく、
どうやらこの闇はバエルから放出されるガスで作り出された擬似的なものだったらしい、
「バージル!」
「おにいさま!」
バエルを倒したバージルの近くにルイズ達が駆け寄る、
「大丈夫……って聞く必要なんかないわよね……」
心配すること自体がバカバカしい、そう言いたげに肩を落としがっくりとルイズがうなだれる
バージルは駆け寄ってきたルイズ達に視線を合わせることもなく、周囲を改めて見回すと何かに気が付いたのか眉間にしわを寄せ静かに呟く。
「……魔界の氷を軸に悪魔を呼び出したか、くだらん小細工を施したものだな……」
バージルが視線を向ける先に、ルイズ達が注目する、今まではあたりに闇に包まれ気がつかなかったが
ひときわ大きな氷柱が禍々しい魔力を放ちながら聳え立っていた。
「なっ、今までこんなのあったかい?」
「きゅいきゅい! この氷! 精霊の力を吸い取って雪を降らせているのね! はやく壊してあげるのね!」
きゅいきゅい喚くシルフィードを押しのけバージルが一歩前へ出ると、目にも留まらぬ速度で閻魔刀を抜刀、
刃が氷に触れていないにもかかわらず、巨大な氷柱が横一閃、閻魔刀が鞘に納められた途端、
――ズズッ……ズズゥゥゥン……と派手に音を立てながら倒壊した。
「なっ、なっ、なにあれっ!? 何がっ!? ど、どうやって!?」
初めてバージルの剣技をみたモンモランシーが目を白黒させ騒ぎ立てる。
だがルイズ含めた5人はもはや見慣れているせいか、特にリアクションをとるわけでもなく
何を今さら騒いでいるんだコイツは、といった表情でモンモランシーを見つめた。
「どうって……ねぇ?」
「あの化物との戦いを見てなかったのかい?」
「空間ごと斬ってる」
「あいつに関してはあぁいうものだと理解してもらえればいいわ」
「なんであなたたちそんな平然としていられるのよ!」
とあくまで淡々と答える面々にモンモランシーが喚いていると、不意に空が明るくなった。
異変を引き起こしていた装置が破壊されたためか、空を覆っていた分厚い雲に切れ目が入り見る見るうちに霧散していく、
夏のまぶしい太陽の光が差し込んできたのだ、湖を覆っていた氷から魔力が消え、ラグドリアン湖に精霊の力が戻っていった。
夏の日差しにキラキラと湖面の氷や舞い散る雪に反射しルイズ達の前に幻想的な光景が広がった。
「わぁっ」
「綺麗ねぇ……」
その美しい光景にルイズ達は思わず息をのむ、
「この雪は悪魔の仕業だったけど、こういう景色も悪くはないわよね、バージル……?」
ルイズが己が使い魔の名を呼び振り返る、だが、バージルは何も反応を返さずに先ほど破壊した魔界の氷の前に立っていた。
よく見ると氷の中に奇妙な光を放つ何かが見える、その光はふわりと浮きあがるとバージルの中へと吸い込まれ、彼の身体が光に包まれた。
その様子を見たルイズが思わず後ずさる、この男と数か月間生活を共にして培った勘が警告を発する。
――絶対ロクでもないことが起こる
「きゃあ!?」
突如口を開けたバエルに悲鳴を上げながらルイズがへたり込む、だがその口の中を見た瞬間
ルイズ達の顔に希望が灯る、その中には彼女の使い魔、バージルが平然と立っていた。
飛びかかってきたバエルの勢いを利用しデルフを上顎に突き立てつっかえ棒の代わりにすると、
無理やり口の中をこじ開けベオウルフを装着する、渾身の力を込めた左アッパーを皮切りに、口の中を蹂躙し始めた。
頬を拳で打ち抜き、歯を砕く、上顎に拳が叩き込まれる度に背中に残った氷塊が血の色に染まってゆく、
殴りながらちゃっかり円陣幻影剣を展開し、さらに被害を拡大させている。
「ムゴッ! グェッ! ガァッ! ガッ!?」
どうやら相当怒りが溜まっているらしい、容赦など微塵も感じさせないほど殴ったにもかかわらず
バージルはいつの間にか閻魔刀まで抜き放っており、口の中を切り刻んでいた、舌を斬り裂き、頬を裂く、
舌の一部と思われる肉塊が外へと飛び出し、挙句の果てにはバエルの体中から幻影剣が飛び出す始末、もう口の中は大惨事だろう、
「うっ……口の中に鉄の味が……」
それをみたギーシュが口元を押さえ苦い顔で呟く、想像してしまったらしい、
「あんなもの口に入れるからよ」
ルイズが心配して損をした、といった表情で肩をすくめる。
上顎に刺さったデルフに力を込めると、そのまま上顎を貫通し、バエルの頭の部分からバージルが飛び出した。
「グゲャアアアアア!!」
追い打ちの一撃に苦悶の悲鳴をあげながらラグドリアン湖の氷上に巨体を横たえる。
息も絶え絶えになりながらバエルは最後の力を振り絞り呪詛の言葉を投げた。
「クソッ! 畜生! ゲートさえ開けば――」
遺言を最後まで聞かずにバージルが閻魔刀で頭から叩き割る、
するとパキパキッ! とバエルの身体がみるみる氷の塊へと変わり、ボコォン! と派手な音をたてて砕け散った。
その時、辺りを包み込んでいた闇が急激に晴れてゆく、
どうやらこの闇はバエルから放出されるガスで作り出された擬似的なものだったらしい、
「バージル!」
「おにいさま!」
バエルを倒したバージルの近くにルイズ達が駆け寄る、
「大丈夫……って聞く必要なんかないわよね……」
心配すること自体がバカバカしい、そう言いたげに肩を落としがっくりとルイズがうなだれる
バージルは駆け寄ってきたルイズ達に視線を合わせることもなく、周囲を改めて見回すと何かに気が付いたのか眉間にしわを寄せ静かに呟く。
「……魔界の氷を軸に悪魔を呼び出したか、くだらん小細工を施したものだな……」
バージルが視線を向ける先に、ルイズ達が注目する、今まではあたりに闇に包まれ気がつかなかったが
ひときわ大きな氷柱が禍々しい魔力を放ちながら聳え立っていた。
「なっ、今までこんなのあったかい?」
「きゅいきゅい! この氷! 精霊の力を吸い取って雪を降らせているのね! はやく壊してあげるのね!」
きゅいきゅい喚くシルフィードを押しのけバージルが一歩前へ出ると、目にも留まらぬ速度で閻魔刀を抜刀、
刃が氷に触れていないにもかかわらず、巨大な氷柱が横一閃、閻魔刀が鞘に納められた途端、
――ズズッ……ズズゥゥゥン……と派手に音を立てながら倒壊した。
「なっ、なっ、なにあれっ!? 何がっ!? ど、どうやって!?」
初めてバージルの剣技をみたモンモランシーが目を白黒させ騒ぎ立てる。
だがルイズ含めた5人はもはや見慣れているせいか、特にリアクションをとるわけでもなく
何を今さら騒いでいるんだコイツは、といった表情でモンモランシーを見つめた。
「どうって……ねぇ?」
「あの化物との戦いを見てなかったのかい?」
「空間ごと斬ってる」
「あいつに関してはあぁいうものだと理解してもらえればいいわ」
「なんであなたたちそんな平然としていられるのよ!」
とあくまで淡々と答える面々にモンモランシーが喚いていると、不意に空が明るくなった。
異変を引き起こしていた装置が破壊されたためか、空を覆っていた分厚い雲に切れ目が入り見る見るうちに霧散していく、
夏のまぶしい太陽の光が差し込んできたのだ、湖を覆っていた氷から魔力が消え、ラグドリアン湖に精霊の力が戻っていった。
夏の日差しにキラキラと湖面の氷や舞い散る雪に反射しルイズ達の前に幻想的な光景が広がった。
「わぁっ」
「綺麗ねぇ……」
その美しい光景にルイズ達は思わず息をのむ、
「この雪は悪魔の仕業だったけど、こういう景色も悪くはないわよね、バージル……?」
ルイズが己が使い魔の名を呼び振り返る、だが、バージルは何も反応を返さずに先ほど破壊した魔界の氷の前に立っていた。
よく見ると氷の中に奇妙な光を放つ何かが見える、その光はふわりと浮きあがるとバージルの中へと吸い込まれ、彼の身体が光に包まれた。
その様子を見たルイズが思わず後ずさる、この男と数か月間生活を共にして培った勘が警告を発する。
――絶対ロクでもないことが起こる
「これは……」
自身を包み込みこんでいた光が消え、自分の身体に起きた変化に思わず呟く、
肩に金属製の小さな羽のようなものが装着され、同じように金属のフェイスマスクが口元を覆う。
両手両足がまるで鋼の様に硬質化、足元にはいくつもの刃が並んだ円形のエッジがついており、
拳を握りしめると、硬質化した腕の部分から噴気孔のようなものが現れた。
「魔具……か」
生物と同化し、対象の手脚を鋼のように高質化させる魔界金属――衝撃鋼ギルガメス。
彼の所持する閻魔刀然り、ベオウルフ然り、魔具と呼ばれるものはそれぞれ凄まじい魔力を秘めている、
おそらくは雪を振らせる魔力の補助に使われていたのであろう、
魔力を供給していた部分が破壊され、行き場を失った魔具がバージルに取りついたのだった。
バージルは、しばらくの間、鋼のように硬質化した手のひらを握ったり開いたりしていたが、
おもむろに腰を落とし体勢を低くする、そして静かに拳を振り上げる……
その様子を見ていたルイズが顔を真っ青にしながら、いまだに景色に心を奪われているキュルケ達に声をかける。
「ねぇ……みんな……ちょっといい? あれ……」
「なによルイズ、どうし……ちゃ……」
「きゅいきゅい! おにいさま? 一緒に見……」
震えながらバージルを指差すルイズに首をかしげながら視線を向ける、そして全員言葉を失い、みるみる顔が青くなってゆく。
自身を包み込みこんでいた光が消え、自分の身体に起きた変化に思わず呟く、
肩に金属製の小さな羽のようなものが装着され、同じように金属のフェイスマスクが口元を覆う。
両手両足がまるで鋼の様に硬質化、足元にはいくつもの刃が並んだ円形のエッジがついており、
拳を握りしめると、硬質化した腕の部分から噴気孔のようなものが現れた。
「魔具……か」
生物と同化し、対象の手脚を鋼のように高質化させる魔界金属――衝撃鋼ギルガメス。
彼の所持する閻魔刀然り、ベオウルフ然り、魔具と呼ばれるものはそれぞれ凄まじい魔力を秘めている、
おそらくは雪を振らせる魔力の補助に使われていたのであろう、
魔力を供給していた部分が破壊され、行き場を失った魔具がバージルに取りついたのだった。
バージルは、しばらくの間、鋼のように硬質化した手のひらを握ったり開いたりしていたが、
おもむろに腰を落とし体勢を低くする、そして静かに拳を振り上げる……
その様子を見ていたルイズが顔を真っ青にしながら、いまだに景色に心を奪われているキュルケ達に声をかける。
「ねぇ……みんな……ちょっといい? あれ……」
「なによルイズ、どうし……ちゃ……」
「きゅいきゅい! おにいさま? 一緒に見……」
震えながらバージルを指差すルイズに首をかしげながら視線を向ける、そして全員言葉を失い、みるみる顔が青くなってゆく。
――バシュン! シュゴォォォォ! と拳から突き出るように現れた噴気孔から何やら蒸気が噴出するような音が聞こえてくる。
よく見ると、恐ろしい程のエネルギーが蓄積されているのだろう、蒸気どころか炎が噴き出している。
よく見ると、恐ろしい程のエネルギーが蓄積されているのだろう、蒸気どころか炎が噴き出している。
「逃げて!」
ルイズがありったけの声を上げ、全員が弾かれたように全速力で駆けだすのと、
バージルが拳を湖面に叩き込むのは、ほぼ同時だった。
バージルが拳を湖面に叩き込むのは、ほぼ同時だった。
その破壊力、まさに「衝撃」的
最大加速、最大出力で湖面に振り下ろされた渾身の拳は、そのものの威力もさることながら
氷に打ちつけられた衝撃に、ギルガメスが反応、
噴気孔から巨大な杭が勢いよく突き出され、さらに凄まじい衝撃を生み出す。
その拳は厚さおよそ一メイルはあろうかという分厚い氷をたやすくブチ割るだけにとどまらず、巨大な水柱を発生させた
足元の氷がバージルの拳から発生した衝撃に次々空へと舞い上がってゆく、
少しでも脚を緩めればたちまち氷とともに空へと打ち上げられるだろう。
さらに空から雨のように巨大な氷塊が地上を逃げ惑うルイズ達に次々降り注ぐ、先ほどのバエルよりもひどい有様だ
一方のバージルは拳を叩きつけ湖面の氷をブチ割るのと同時に上空へと飛びあがり
共に舞い上がった氷塊を次々拳打で打ち砕きさらに被害を拡大させている。
やがて重力に従い、衝撃の範囲外だった湖面の上へバージルが降り立つと
――カシャン! と小気味よい音と共にフェイスマスクが解除され彼の顔が現れた。
すると彼の後ろに、上空へ跳ね上がった厚さ一メイル程の氷の板が次々に重なり、およそ十メイル程の高さにまで積み上がる
バージルはそれを後ろ目でちらと見やり、親指で鼻の頭を弾くと、もう一度空へと飛びあがり高く脚を振り上げる、
すると――ギュゥィィィィン!! と足元のエッジが火花を散らしながら高速で回転を始め――一気に氷塊に向け踵を振り下ろす!
――ガッシャァァァン! っとまるでバターのように容易く氷塊を両断、十メイルはあった氷の塔は一瞬にして砕け散ってしまった。
氷塊と一緒に上空へと向かって吹き飛ばされた水が雨となって降り注ぎ、太陽の光に反射し巨大な虹を作り上げる。
「Too easy.(――まぁまぁだな)」
その虹の下、常に無表情の彼にしては珍しく、水に濡れ降りた髪を掻きあげることも忘れ、
新たな力にどことなく嬉しそうな笑みを口元に浮かべながら呟いた。
最大加速、最大出力で湖面に振り下ろされた渾身の拳は、そのものの威力もさることながら
氷に打ちつけられた衝撃に、ギルガメスが反応、
噴気孔から巨大な杭が勢いよく突き出され、さらに凄まじい衝撃を生み出す。
その拳は厚さおよそ一メイルはあろうかという分厚い氷をたやすくブチ割るだけにとどまらず、巨大な水柱を発生させた
足元の氷がバージルの拳から発生した衝撃に次々空へと舞い上がってゆく、
少しでも脚を緩めればたちまち氷とともに空へと打ち上げられるだろう。
さらに空から雨のように巨大な氷塊が地上を逃げ惑うルイズ達に次々降り注ぐ、先ほどのバエルよりもひどい有様だ
一方のバージルは拳を叩きつけ湖面の氷をブチ割るのと同時に上空へと飛びあがり
共に舞い上がった氷塊を次々拳打で打ち砕きさらに被害を拡大させている。
やがて重力に従い、衝撃の範囲外だった湖面の上へバージルが降り立つと
――カシャン! と小気味よい音と共にフェイスマスクが解除され彼の顔が現れた。
すると彼の後ろに、上空へ跳ね上がった厚さ一メイル程の氷の板が次々に重なり、およそ十メイル程の高さにまで積み上がる
バージルはそれを後ろ目でちらと見やり、親指で鼻の頭を弾くと、もう一度空へと飛びあがり高く脚を振り上げる、
すると――ギュゥィィィィン!! と足元のエッジが火花を散らしながら高速で回転を始め――一気に氷塊に向け踵を振り下ろす!
――ガッシャァァァン! っとまるでバターのように容易く氷塊を両断、十メイルはあった氷の塔は一瞬にして砕け散ってしまった。
氷塊と一緒に上空へと向かって吹き飛ばされた水が雨となって降り注ぎ、太陽の光に反射し巨大な虹を作り上げる。
「Too easy.(――まぁまぁだな)」
その虹の下、常に無表情の彼にしては珍しく、水に濡れ降りた髪を掻きあげることも忘れ、
新たな力にどことなく嬉しそうな笑みを口元に浮かべながら呟いた。
「こっ、この馬鹿ぁぁぁぁぁ!!! いきなりなにすんのよぉぉぉ!!!」
「水の面積を広げただけだ、これで水の精霊とやらも姿を出しやすくなっただろう」
いきなり大災害を巻き起こした張本人であるバージルは口元に浮かべていた笑みを消し
食ってかかるルイズを見て、何事もなかったかのようにしれといった。
「だからってわたしたちのことちょっとは考えなさいよ!! もうちょっとで死ぬとこだったわよ!
悪魔じゃなくてあんたに殺されちゃ本末転倒じゃない!!」
尚も喚くルイズから視線を外し、バージルは氷がなくなった水面を睨みつけると静かに言った。
「黙れ、……水の精霊とやらのお出ましだ」
バージルがそう言うと、三十メイルほど離れた水面の下が眩いばかりに輝いた、
まるでそれ自体が意思を持っているかのように水面がうごめき、餅が膨らむようにして水面が盛り上がって行く。
ルイズや息も絶え絶えで戻ってきたギーシュ達が呆気に取られてそれを見つめていた。
まるで見えない手でこねられているように、盛り上がった水が様々に形を変える。
巨大なアメーバのような姿だった。
湖からモンモランシーのカエルが上がってきて、ぴょんぴょん跳ねながら主人の元へ戻ってきた。
モンモランシーは手のひらに乗せると人差し指でカエルの頭を撫でる。
「ありがとう、ちゃんと連れてきてくれたのね」
モンモランシーは水の精霊に向けて両手を広げ口を開いた
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系よ。
カエルに付けた血に覚えはおありかしら、覚えていたらわたしたちにわかるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」
水の精霊……、盛り上がった水面は見えない手によって粘土がこねられるように姿を変えてゆく、
そしてその水の塊はモンモランシーそっくりの形になり、にっこりとほほ笑んだ。
次に水の精霊は表情をさまざまに変える、笑顔の次は怒り、その次は泣き顔、と繰り返して行くうちに
無表情になる、そして水の精霊はモンモランシーの問いに答えた。
「覚えている、単なる者よ。貴様の体に流れる液体を、我は覚えている、
貴様に最後に会ってから月が五十二回交差した」
水の精霊はそう言うと次にルイズ達をぐるりと見渡した。
「単なる者よ、忌々しき力から湖を我を解放してくれたこと、まずは礼を言おう」
「いいえ、わたしたちは大したことはしていないわ、そのかわり、お願いがあるの
あつかましいとは思うけれど、あなたの一部を分けてほしいの」
水の精霊の言葉にモンモランシーは謙遜した態度で答えると、水の精霊に体の一部を分けてくれるように頼んだ。
すると水の精霊はにこっと笑い短く答えた。
「断る、単なる者よ」
「そりゃそうよね、残念でしたー。さ、帰りましょ」
モンモランシーがあっさりとあきらめたのでルイズが必死にしがみつく、
「ちょっと待ちなさいよ! ここまできてそれはないわよ! ちゃんと責任持ちなさい!」
「だって断られちゃったんだもん! しょうがないでしょ!」
そんな風に言い争いをしているとバージルがふらりと一歩前に出る、
そしてモンモランシーに低い声で尋ねた。
「確認だ、精霊の涙、とは奴の体の一部の事だったな?」
「え、えぇ、そうよ」
それを聞いたバージルからとんでもない一言が飛び出した。
「ということは、コイツを殺せば手に入るということか」
その言葉を聞いた一同が凍りつく、水の精霊本人を目の前にして殺害宣言、間違いなく怒りを買ってしまう。
だがバージルは知ったことではないと言わんばかりに水の精霊を睨みつける。
「ようやく怒りのはけ口が見つかった、コイツに感謝するんだな」
モンモランシーにそう言うと静かに閻魔刀を抜き放つ。
「貴様と同じ顔、同じ姿、遠慮する点が何一つ見当たらん」
普段から遠慮どころか容赦すらしないくせに、バージルが閻魔刀を水の精霊に突きつけ冷徹に言い放つ。
「我に挑むか、無力なる者よ」
「貴様を殺し、最後に残ったその一部を奪うとしよう」
「ちょっ! 何考え――」
モンモランシーがバージルを止めようと近寄ろうとした瞬間、ルイズが後ろから必死の形相でしがみつく
「なっ、何するのよルイズ! あなたなら水の精霊の怖さを知らないわけないでしょ!?」
「あいつ……キレてる……あぁなったらもう手がつけれれないわよ」
ルイズが怯えるように首を横に振る、もうこうなったらただ見守るしか方法はない。
「よかろう、相手になろう」
水の精霊がそう言うと、水面に浮いた氷塊をバージル目がけ凄まじい速度で飛ばしてきた
だがバージルは空中に跳び上がると閻魔刀を振い飛んできた氷塊を華麗に切り落としてゆく、
そして宙を遊ぶ氷塊よりも先に地面に降り立つと地面へと降り注ぐ氷塊を次々水の精霊にむけ蹴り飛ばしてゆく、
バージルへ向け放たれたはずの氷塊は次々水の精霊の顔面に直撃し、最後に飛んできた一際大きな塊が頭の部分を粉砕した。
「Come on(――来い)」
顔がなくなった水の精霊にむけ冷然と挑発する、すると水の精霊はぐにぐにと姿を変え頭の部分を再生する。
そしてまたもあらゆる表情を浮かべると、再び笑みを浮かべ、水の中へと潜って行った。
バージルは即座に水の中へと飛び込もうとするが、何者かにコートを引っ張られ、水面まで後数歩のところで立ち止まる
邪魔をされたバージルがコートを掴んだ人間、タバサを不愉快そうな目で睨みつけた。
「待って」
「邪魔をする気か? だとすれば、お前とて容赦はしない」
その言葉にタバサはふるふると首を横に振る
「邪魔をする気はない、そのまま水の中に入るのは危険、水に触れながら精霊と戦うのは自殺行為」
タバサが言うには、水の精霊は水に触れるものの精神や生命そのものを自在に操ることが出来るらしい、
このまま飛び込むのは危険だということで止めたらしい、
「いくら貴方でも、精神を支配されない保証はない」
「何か手でも?」
タバサのその言葉に少々イラついたような口調で聞きかえす、するとタバサは小さく頷いた。
「……なんのつもりだ」
バージルが少々ばつが悪そうにタバサに尋ねる、
それもそのはず、バージルの首元にタバサが腕を回し背中にしがみついているからだ
「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!!!! おねえさま!! そこはシルフィの特等席なのね!! きゅいきゅいきゅい!」
「タっ……タバサ! あんたまでなにを!!」
その様子をみたシルフィードとルイズが地団太を踏みまくる、キュルケにいたってはニヤニヤしっぱなしである。
そんな連中には気にも留めていないと言わんばかりにタバサが状況説明をする。
「水に触れなければ水の精霊の攻撃は届かない、私があなたの後ろで空気の球を作る」
「……少し動きにくいが、仕方あるまい」
その説明に納得したのかタバサを背負い、バージルが水の中に飛び込んでいった。
「水の面積を広げただけだ、これで水の精霊とやらも姿を出しやすくなっただろう」
いきなり大災害を巻き起こした張本人であるバージルは口元に浮かべていた笑みを消し
食ってかかるルイズを見て、何事もなかったかのようにしれといった。
「だからってわたしたちのことちょっとは考えなさいよ!! もうちょっとで死ぬとこだったわよ!
悪魔じゃなくてあんたに殺されちゃ本末転倒じゃない!!」
尚も喚くルイズから視線を外し、バージルは氷がなくなった水面を睨みつけると静かに言った。
「黙れ、……水の精霊とやらのお出ましだ」
バージルがそう言うと、三十メイルほど離れた水面の下が眩いばかりに輝いた、
まるでそれ自体が意思を持っているかのように水面がうごめき、餅が膨らむようにして水面が盛り上がって行く。
ルイズや息も絶え絶えで戻ってきたギーシュ達が呆気に取られてそれを見つめていた。
まるで見えない手でこねられているように、盛り上がった水が様々に形を変える。
巨大なアメーバのような姿だった。
湖からモンモランシーのカエルが上がってきて、ぴょんぴょん跳ねながら主人の元へ戻ってきた。
モンモランシーは手のひらに乗せると人差し指でカエルの頭を撫でる。
「ありがとう、ちゃんと連れてきてくれたのね」
モンモランシーは水の精霊に向けて両手を広げ口を開いた
「わたしはモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で旧き盟約の一員の家系よ。
カエルに付けた血に覚えはおありかしら、覚えていたらわたしたちにわかるやり方と言葉で返事をしてちょうだい」
水の精霊……、盛り上がった水面は見えない手によって粘土がこねられるように姿を変えてゆく、
そしてその水の塊はモンモランシーそっくりの形になり、にっこりとほほ笑んだ。
次に水の精霊は表情をさまざまに変える、笑顔の次は怒り、その次は泣き顔、と繰り返して行くうちに
無表情になる、そして水の精霊はモンモランシーの問いに答えた。
「覚えている、単なる者よ。貴様の体に流れる液体を、我は覚えている、
貴様に最後に会ってから月が五十二回交差した」
水の精霊はそう言うと次にルイズ達をぐるりと見渡した。
「単なる者よ、忌々しき力から湖を我を解放してくれたこと、まずは礼を言おう」
「いいえ、わたしたちは大したことはしていないわ、そのかわり、お願いがあるの
あつかましいとは思うけれど、あなたの一部を分けてほしいの」
水の精霊の言葉にモンモランシーは謙遜した態度で答えると、水の精霊に体の一部を分けてくれるように頼んだ。
すると水の精霊はにこっと笑い短く答えた。
「断る、単なる者よ」
「そりゃそうよね、残念でしたー。さ、帰りましょ」
モンモランシーがあっさりとあきらめたのでルイズが必死にしがみつく、
「ちょっと待ちなさいよ! ここまできてそれはないわよ! ちゃんと責任持ちなさい!」
「だって断られちゃったんだもん! しょうがないでしょ!」
そんな風に言い争いをしているとバージルがふらりと一歩前に出る、
そしてモンモランシーに低い声で尋ねた。
「確認だ、精霊の涙、とは奴の体の一部の事だったな?」
「え、えぇ、そうよ」
それを聞いたバージルからとんでもない一言が飛び出した。
「ということは、コイツを殺せば手に入るということか」
その言葉を聞いた一同が凍りつく、水の精霊本人を目の前にして殺害宣言、間違いなく怒りを買ってしまう。
だがバージルは知ったことではないと言わんばかりに水の精霊を睨みつける。
「ようやく怒りのはけ口が見つかった、コイツに感謝するんだな」
モンモランシーにそう言うと静かに閻魔刀を抜き放つ。
「貴様と同じ顔、同じ姿、遠慮する点が何一つ見当たらん」
普段から遠慮どころか容赦すらしないくせに、バージルが閻魔刀を水の精霊に突きつけ冷徹に言い放つ。
「我に挑むか、無力なる者よ」
「貴様を殺し、最後に残ったその一部を奪うとしよう」
「ちょっ! 何考え――」
モンモランシーがバージルを止めようと近寄ろうとした瞬間、ルイズが後ろから必死の形相でしがみつく
「なっ、何するのよルイズ! あなたなら水の精霊の怖さを知らないわけないでしょ!?」
「あいつ……キレてる……あぁなったらもう手がつけれれないわよ」
ルイズが怯えるように首を横に振る、もうこうなったらただ見守るしか方法はない。
「よかろう、相手になろう」
水の精霊がそう言うと、水面に浮いた氷塊をバージル目がけ凄まじい速度で飛ばしてきた
だがバージルは空中に跳び上がると閻魔刀を振い飛んできた氷塊を華麗に切り落としてゆく、
そして宙を遊ぶ氷塊よりも先に地面に降り立つと地面へと降り注ぐ氷塊を次々水の精霊にむけ蹴り飛ばしてゆく、
バージルへ向け放たれたはずの氷塊は次々水の精霊の顔面に直撃し、最後に飛んできた一際大きな塊が頭の部分を粉砕した。
「Come on(――来い)」
顔がなくなった水の精霊にむけ冷然と挑発する、すると水の精霊はぐにぐにと姿を変え頭の部分を再生する。
そしてまたもあらゆる表情を浮かべると、再び笑みを浮かべ、水の中へと潜って行った。
バージルは即座に水の中へと飛び込もうとするが、何者かにコートを引っ張られ、水面まで後数歩のところで立ち止まる
邪魔をされたバージルがコートを掴んだ人間、タバサを不愉快そうな目で睨みつけた。
「待って」
「邪魔をする気か? だとすれば、お前とて容赦はしない」
その言葉にタバサはふるふると首を横に振る
「邪魔をする気はない、そのまま水の中に入るのは危険、水に触れながら精霊と戦うのは自殺行為」
タバサが言うには、水の精霊は水に触れるものの精神や生命そのものを自在に操ることが出来るらしい、
このまま飛び込むのは危険だということで止めたらしい、
「いくら貴方でも、精神を支配されない保証はない」
「何か手でも?」
タバサのその言葉に少々イラついたような口調で聞きかえす、するとタバサは小さく頷いた。
「……なんのつもりだ」
バージルが少々ばつが悪そうにタバサに尋ねる、
それもそのはず、バージルの首元にタバサが腕を回し背中にしがみついているからだ
「きゅいきゅいきゅいきゅいきゅい!!!! おねえさま!! そこはシルフィの特等席なのね!! きゅいきゅいきゅい!」
「タっ……タバサ! あんたまでなにを!!」
その様子をみたシルフィードとルイズが地団太を踏みまくる、キュルケにいたってはニヤニヤしっぱなしである。
そんな連中には気にも留めていないと言わんばかりにタバサが状況説明をする。
「水に触れなければ水の精霊の攻撃は届かない、私があなたの後ろで空気の球を作る」
「……少し動きにくいが、仕方あるまい」
その説明に納得したのかタバサを背負い、バージルが水の中に飛び込んでいった。
「追って来たか、無力なる者よ」
水の底で待ち構えていた水の精霊は淡々と言葉をつづけバージルを見る。
「メイジではない貴様に何ができる、後ろの娘は空気の球を作るのに手一杯だ」
だがバージルは水の精霊の言葉にも耳を貸さずにずんずんと歩を進める
そして空気の球の中に水の精霊の身体が入り込む。
「剣では我は切れ――」
水の精霊の言葉はそこで途切れる、バージルが閻魔刀を抜刀し首の部分を斬り飛ばしたのだった。
斬り飛ばされた水の精霊の一部はぶすぶすと煙を上げながら、魔力を失いどんどん萎んでゆく。
水の精霊は今まで感じたことのない強烈な苦痛にのたうちまわる、傷口が焼けるように熱い。
閻魔刀に精霊としての魔を喰われているのだ。
魔力の塊のようなものである精霊にとって閻魔刀は触れるだけで我が身を焼く劇毒だ。
「What'd you say?(――何か言ったか?)」
――ジャリッっと萎んでゆく水の精霊の一部を踏みにじり皮肉たっぷりにバージルが挑発する、
「苦しいか? しかし……閻魔刀では少々都合が悪い、これで殺してしまっては涙は手に入らんな」
言葉とは裏腹にそんなことは露ほどにも気にしていない、そんな様子が伝わってきた。
「まぁいい、死にたくなったら『精霊の涙』……貴様の一部を差し出せ、そうしたら殺してやる」
その言葉とともに閻魔刀を振い今度は右腕を斬り飛ばす。
「――ッ!!?」
奇妙な悲鳴が水の中に響き渡る、その様子にバージルが少々不愉快そうに顔を顰めるも、さらに左足を斬り飛ばした。
「……待て、貴様……一体何者だ」
長い拷問の末、水の精霊がついに口を開く
「差し出す気になったか?」
閻魔刀を突きつけ冷然と言い放つ、背中にタバサを背負っているせいで少々決まっていないのが残念だ。
「不死たる我ら精霊をも滅するその刃、閻魔刀、貴様に流れる血、覚えがある」
水の精霊の首元に向けられた閻魔刀がピタリと止まる、
「何の話だ」
「その恐るべき力の片鱗、まさか、スパーダ……」
「親父を、スパーダを知っているのか?」
精霊の口から出たスパーダの名に思わず聞き返す、
すると水の精霊はふるふるとからだを震わせると、崇めるようにその名を口にした。
「おぉ……スパーダ……偉大なる名、偉大なる者、神代の昔、闇を祓いし最後の希望」
「親父の何を知っている」
「スパーダ、伝説の魔剣士、闇が光を覆い、二つの世が再び混じり合う時その者は現れた、
我らの世を守るために剣をお取りになられた、再びスパーダの血族に相見えることがあろうとは……」
水の精霊はそれだけ言うと、ぐにぐにと姿を変え再び人間の姿をとる、首と腕、左足が欠損しているため誰とは判断できないが……。
「偉大なる血を引きし者よ、ここに非礼を詫び、喜んで我が身の欠片を捧げよう」
既に何箇所か斬り飛ばしているが……水の精霊は今までの態度を一変し気前よく差し出すと言いだした。
その言葉を降伏と受け取ったのか、バージルは閻魔刀を納刀した。
水の精霊の提案で、もう一度地上へと出た二人は、ルイズ達と合流し水の精霊から身体の一部を受け取る
「あいつだけは絶対怒らせちゃダメね……」
体の数か所を斬り飛ばされた痛々しい姿の水の精霊を見てルイズが顔を真っ青にして呟く、
完全にアウェイであるはずの水の中で水の精霊を圧倒、地上へと再び引きずり出しているあたり相当キレていたのは確かだ。
「もうちょっとで私がああなってたのね……」
さすがにモンモランシーも顔を青くして呟いた。
「スパーダの血を引くものよ、頼みがある」
そんななか、水の精霊がバージルに語りかける
「……内容次第だ」
相も変わらず傲岸な受け答え方である、怒りも多少は引いたのか問答に答える気にはなったようだ。
「数える程も愚かしい程月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「それで?」
「その秘宝が盗まれたのは、月が三十程交差する前の晩のこと」
「わかりやすく言え」
「(おおよそ二年前よ!)」
モンモランシーが小声でフォローを入れる、王族どころか水の精霊を前にしてもこの傲岸不遜っぷり、はっきり言ってタチが悪い。
「それで? その秘宝とやらを俺に取り戻してこい、そう言いたいのか?」
「そうだ、我も取り戻すため水かさを増していた水が浸食し続ければいずれ秘宝に届くだろう。
水がすべてを覆い尽くすその暁には我が体が秘宝のありかを知るだろう」
「耄碌もここまでくれば笑えるな」
言葉とは裏腹にどこか憐れみを含んだ目でバージルは水の精霊を見る
「ちょっと! 言葉を選びなさいよ!」
突っかかってくるモンモランシーを無視しつつバージルは続ける
「なぜ俺に頼む」
「スパーダの血族は信用できるからだ、我も水かさをふやす必要もなくなる」
「その秘宝とやらの名前は?」
「『アンドバリ』の指輪、我が共に時を過ごした指輪」
「なんか聞いたことがあるわ」
モンモランシーが呟く
「『水』系統のマジックアイテムね、たしか、死者に偽りの命を与えるという……」
「そのとおり。誰が作ったものかはわからぬがな。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが。
死を免れぬお前たちにはどうやら『命』を与える力は魅力と思えるかもしれぬ。
しかし『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ、所詮益にはならぬ」
先ほど『死』に片足突っ込んでいたにも関わらず、水の精霊がしれと言った。
「風の力を行使して、我の住み処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった」
「どんな奴だ、手掛かりがなければ話にならん」
「確か個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」
その名前には聞き覚えがあったのか、キュルケがぽつりと呟く
「聞き間違えじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」
それを聞いていたルイズ達が顔を見合わせる、するとルイズが質問をする
「あの、偽りの命を与えられたらどうなるの?」
「指輪を使ったものに従うようになる、個々に意思があるということは不便なものだな」
「とんでもない指輪ね、死者を動かすなんて趣味が悪いわ」
キュルケが何やら考えるように顎に手をあてていたが、途中であきらめたのか髪をかきあげた。
「受けてくれるか?」
腕を組んで目をつむっているバージルに水の精霊が尋ねる
「いいだろう、俺もそいつには用がある」
そう短く答えると踵を返し、湖をあとにしようとする、
「礼を言う、偉大なるスパーダの息子よ」
そう言い残すと水の精霊もごぼごぼと姿を消そうとした。
だがその時、誰かが水の精霊を呼びとめた
「待って」
その声がした方向を全員が見る、そこにいたのはバージルの背中にいるタバサだった。
タバサが彼の背中から降りると、水の精霊の所へと向かってゆく。
バージルを除く全員が少々驚いたようにタバサを見た、
なぜ彼女が、水の精霊を呼び止めるのだろうか?
皆が同じ疑問を抱く中、タバサは周りを気にせず話を進めた。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、深く理解はできぬ。しかし我が思うには、我の存在自体がそう呼ばれる理由であるのだろう。
我に決まったかたちはない。しかし、我は不変の存在。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった」
水の精霊の言葉に小さくタバサが頷く
「変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは最後に大きく頷くと、目をつむり手を合わした。キュルケは優しく肩に手を置く。
バージルは大体察しがついているのかあまり気にしている様子はなかった。
水の底で待ち構えていた水の精霊は淡々と言葉をつづけバージルを見る。
「メイジではない貴様に何ができる、後ろの娘は空気の球を作るのに手一杯だ」
だがバージルは水の精霊の言葉にも耳を貸さずにずんずんと歩を進める
そして空気の球の中に水の精霊の身体が入り込む。
「剣では我は切れ――」
水の精霊の言葉はそこで途切れる、バージルが閻魔刀を抜刀し首の部分を斬り飛ばしたのだった。
斬り飛ばされた水の精霊の一部はぶすぶすと煙を上げながら、魔力を失いどんどん萎んでゆく。
水の精霊は今まで感じたことのない強烈な苦痛にのたうちまわる、傷口が焼けるように熱い。
閻魔刀に精霊としての魔を喰われているのだ。
魔力の塊のようなものである精霊にとって閻魔刀は触れるだけで我が身を焼く劇毒だ。
「What'd you say?(――何か言ったか?)」
――ジャリッっと萎んでゆく水の精霊の一部を踏みにじり皮肉たっぷりにバージルが挑発する、
「苦しいか? しかし……閻魔刀では少々都合が悪い、これで殺してしまっては涙は手に入らんな」
言葉とは裏腹にそんなことは露ほどにも気にしていない、そんな様子が伝わってきた。
「まぁいい、死にたくなったら『精霊の涙』……貴様の一部を差し出せ、そうしたら殺してやる」
その言葉とともに閻魔刀を振い今度は右腕を斬り飛ばす。
「――ッ!!?」
奇妙な悲鳴が水の中に響き渡る、その様子にバージルが少々不愉快そうに顔を顰めるも、さらに左足を斬り飛ばした。
「……待て、貴様……一体何者だ」
長い拷問の末、水の精霊がついに口を開く
「差し出す気になったか?」
閻魔刀を突きつけ冷然と言い放つ、背中にタバサを背負っているせいで少々決まっていないのが残念だ。
「不死たる我ら精霊をも滅するその刃、閻魔刀、貴様に流れる血、覚えがある」
水の精霊の首元に向けられた閻魔刀がピタリと止まる、
「何の話だ」
「その恐るべき力の片鱗、まさか、スパーダ……」
「親父を、スパーダを知っているのか?」
精霊の口から出たスパーダの名に思わず聞き返す、
すると水の精霊はふるふるとからだを震わせると、崇めるようにその名を口にした。
「おぉ……スパーダ……偉大なる名、偉大なる者、神代の昔、闇を祓いし最後の希望」
「親父の何を知っている」
「スパーダ、伝説の魔剣士、闇が光を覆い、二つの世が再び混じり合う時その者は現れた、
我らの世を守るために剣をお取りになられた、再びスパーダの血族に相見えることがあろうとは……」
水の精霊はそれだけ言うと、ぐにぐにと姿を変え再び人間の姿をとる、首と腕、左足が欠損しているため誰とは判断できないが……。
「偉大なる血を引きし者よ、ここに非礼を詫び、喜んで我が身の欠片を捧げよう」
既に何箇所か斬り飛ばしているが……水の精霊は今までの態度を一変し気前よく差し出すと言いだした。
その言葉を降伏と受け取ったのか、バージルは閻魔刀を納刀した。
水の精霊の提案で、もう一度地上へと出た二人は、ルイズ達と合流し水の精霊から身体の一部を受け取る
「あいつだけは絶対怒らせちゃダメね……」
体の数か所を斬り飛ばされた痛々しい姿の水の精霊を見てルイズが顔を真っ青にして呟く、
完全にアウェイであるはずの水の中で水の精霊を圧倒、地上へと再び引きずり出しているあたり相当キレていたのは確かだ。
「もうちょっとで私がああなってたのね……」
さすがにモンモランシーも顔を青くして呟いた。
「スパーダの血を引くものよ、頼みがある」
そんななか、水の精霊がバージルに語りかける
「……内容次第だ」
相も変わらず傲岸な受け答え方である、怒りも多少は引いたのか問答に答える気にはなったようだ。
「数える程も愚かしい程月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前たちの同胞が盗んだのだ」
「それで?」
「その秘宝が盗まれたのは、月が三十程交差する前の晩のこと」
「わかりやすく言え」
「(おおよそ二年前よ!)」
モンモランシーが小声でフォローを入れる、王族どころか水の精霊を前にしてもこの傲岸不遜っぷり、はっきり言ってタチが悪い。
「それで? その秘宝とやらを俺に取り戻してこい、そう言いたいのか?」
「そうだ、我も取り戻すため水かさを増していた水が浸食し続ければいずれ秘宝に届くだろう。
水がすべてを覆い尽くすその暁には我が体が秘宝のありかを知るだろう」
「耄碌もここまでくれば笑えるな」
言葉とは裏腹にどこか憐れみを含んだ目でバージルは水の精霊を見る
「ちょっと! 言葉を選びなさいよ!」
突っかかってくるモンモランシーを無視しつつバージルは続ける
「なぜ俺に頼む」
「スパーダの血族は信用できるからだ、我も水かさをふやす必要もなくなる」
「その秘宝とやらの名前は?」
「『アンドバリ』の指輪、我が共に時を過ごした指輪」
「なんか聞いたことがあるわ」
モンモランシーが呟く
「『水』系統のマジックアイテムね、たしか、死者に偽りの命を与えるという……」
「そのとおり。誰が作ったものかはわからぬがな。死は我にはない概念ゆえ理解できぬが。
死を免れぬお前たちにはどうやら『命』を与える力は魅力と思えるかもしれぬ。
しかし『アンドバリ』の指輪がもたらすものは偽りの命。旧き水の力に過ぎぬ、所詮益にはならぬ」
先ほど『死』に片足突っ込んでいたにも関わらず、水の精霊がしれと言った。
「風の力を行使して、我の住み処にやってきたのは数個体。眠る我には手を触れず、秘宝のみを持ち去っていった」
「どんな奴だ、手掛かりがなければ話にならん」
「確か個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」
その名前には聞き覚えがあったのか、キュルケがぽつりと呟く
「聞き間違えじゃなければ、アルビオンの新皇帝の名前ね」
それを聞いていたルイズ達が顔を見合わせる、するとルイズが質問をする
「あの、偽りの命を与えられたらどうなるの?」
「指輪を使ったものに従うようになる、個々に意思があるということは不便なものだな」
「とんでもない指輪ね、死者を動かすなんて趣味が悪いわ」
キュルケが何やら考えるように顎に手をあてていたが、途中であきらめたのか髪をかきあげた。
「受けてくれるか?」
腕を組んで目をつむっているバージルに水の精霊が尋ねる
「いいだろう、俺もそいつには用がある」
そう短く答えると踵を返し、湖をあとにしようとする、
「礼を言う、偉大なるスパーダの息子よ」
そう言い残すと水の精霊もごぼごぼと姿を消そうとした。
だがその時、誰かが水の精霊を呼びとめた
「待って」
その声がした方向を全員が見る、そこにいたのはバージルの背中にいるタバサだった。
タバサが彼の背中から降りると、水の精霊の所へと向かってゆく。
バージルを除く全員が少々驚いたようにタバサを見た、
なぜ彼女が、水の精霊を呼び止めるのだろうか?
皆が同じ疑問を抱く中、タバサは周りを気にせず話を進めた。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違うゆえ、深く理解はできぬ。しかし我が思うには、我の存在自体がそう呼ばれる理由であるのだろう。
我に決まったかたちはない。しかし、我は不変の存在。お前たちが目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と共にあった」
水の精霊の言葉に小さくタバサが頷く
「変わらぬ我の前ゆえ、お前たちは変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサは最後に大きく頷くと、目をつむり手を合わした。キュルケは優しく肩に手を置く。
バージルは大体察しがついているのかあまり気にしている様子はなかった。
そんなタバサの様子を見ていたモンモランシーが肘でギーシュをつつく
「ん、なんだね?」
「あんたも誓約しなさいよ。ほら」
「なにを?」
本当にわからないといった顔でギーシュが聞き返したので
モンモランシーは思いっきりギーシュの顔面にストレイトを叩きこむ
「なんのために私が惚れ薬を調合したとおもってんのよ!」
「あ、あぁ……ゲホッ……え、えっと、ギーシュ・ド・グラモンは誓います、これから先、モンモランシーを一番目に」
今度はモンモランシーのキック13が華麗に叩き込まれる
「なっ……なんだね……ちゃ、ちゃんと誓約したはずじゃ……」
「『一番』じゃないのよ! 私『だけ』! 私『だけ』愛すると誓いなさい!」
ギーシュは悲しそうな表情で誓約を口にする、どうにも守られそうにない口調であった
「きゅいきゅい! おにいさまっ! 誓約のお時間がやってきたのね! シルフィと永遠の愛を誓うのね!」
俺には関係ないと言わんばかりの勢いでさっさと歩き去るバージルをシルフィードがきゅいきゅいと鳴きながら腕に絡みつく、
「ばっ、この雌竜! なに勝手なこと言ってるのよ! 絶対許さないわよ! バージル!? 絶対言っちゃダメだからね!」
それをみたルイズが必死になってバージルに腕にしがみついた。
「桃髪っ! いつもいつもでしゃばってきて! 二人の愛を邪魔しないで――あいだっ! いだっ! 痛い! きゅい!」
そんなシルフィードの頭を誓約を終えたタバサが杖で打ちすえる、結構本気だ、
「な、なにするのね! きゅい!」
「ふふ、言い気味ね! タバサ、もっとやっちゃいなさ――いだっ! なにすんのよ!」
「手が滑った」
「わざとでしょあんた! も~~~!」
「いい加減にしろ……」
バージルが騒ぎ立てる三人を見ながら眉間を指で押さえながら呟く
この馬鹿馬鹿しい騒ぎも今日限りでおわり、そう思うと幾分気分は和らぐが……・
小さくため息を吐き、空を見上げる、空には二つの月が静かに光を放ちラグドリアン湖を照らしていた。
「ん、なんだね?」
「あんたも誓約しなさいよ。ほら」
「なにを?」
本当にわからないといった顔でギーシュが聞き返したので
モンモランシーは思いっきりギーシュの顔面にストレイトを叩きこむ
「なんのために私が惚れ薬を調合したとおもってんのよ!」
「あ、あぁ……ゲホッ……え、えっと、ギーシュ・ド・グラモンは誓います、これから先、モンモランシーを一番目に」
今度はモンモランシーのキック13が華麗に叩き込まれる
「なっ……なんだね……ちゃ、ちゃんと誓約したはずじゃ……」
「『一番』じゃないのよ! 私『だけ』! 私『だけ』愛すると誓いなさい!」
ギーシュは悲しそうな表情で誓約を口にする、どうにも守られそうにない口調であった
「きゅいきゅい! おにいさまっ! 誓約のお時間がやってきたのね! シルフィと永遠の愛を誓うのね!」
俺には関係ないと言わんばかりの勢いでさっさと歩き去るバージルをシルフィードがきゅいきゅいと鳴きながら腕に絡みつく、
「ばっ、この雌竜! なに勝手なこと言ってるのよ! 絶対許さないわよ! バージル!? 絶対言っちゃダメだからね!」
それをみたルイズが必死になってバージルに腕にしがみついた。
「桃髪っ! いつもいつもでしゃばってきて! 二人の愛を邪魔しないで――あいだっ! いだっ! 痛い! きゅい!」
そんなシルフィードの頭を誓約を終えたタバサが杖で打ちすえる、結構本気だ、
「な、なにするのね! きゅい!」
「ふふ、言い気味ね! タバサ、もっとやっちゃいなさ――いだっ! なにすんのよ!」
「手が滑った」
「わざとでしょあんた! も~~~!」
「いい加減にしろ……」
バージルが騒ぎ立てる三人を見ながら眉間を指で押さえながら呟く
この馬鹿馬鹿しい騒ぎも今日限りでおわり、そう思うと幾分気分は和らぐが……・
小さくため息を吐き、空を見上げる、空には二つの月が静かに光を放ちラグドリアン湖を照らしていた。