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蒼い使い魔-37a


――ラグドリアン湖
トリステインとガリアとの国境に位置する、およそ600平方キロメイルほど面積を持った、
ハルケギニア随一の名勝と謳われる広大な湖である。
季節によって様々な美しさを見せるラグドリアン湖の景色は多くの人々の心を魅了する。
「どうなってるのよこれ……」
そんなラグドリアン湖を、馬に跨り小高い丘から見下ろしながらルイズが唖然とした表情で呟く、
季節はもう夏に差し掛かっている、道中は初夏のさわやかな日差しがルイズ達を照らし続けていた。
しかし、目の前のラグドリアン湖は違った、頭上を照らしていた太陽はいつの間にか姿を消し、
まるで冬の光景をそのまま切り取って貼り付けたかのように湖を中心に分厚い雲がかかり、雪を降らせていた。
夏の高い気温と空から降り続く溶ける事のない雪、
この二つが同居するラグドリアン湖の光景は奇妙を通り越してもはや異常としか言いようがない。
「一体どうなってるんだい? なんでこんなに暑いのに雪が溶けずに積もってるんだ? ぶぇっくし!」
空から降る雪に身体を冷やしたのかギーシュが盛大にくしゃみをした。
「(この気配……奴らか)」
そんな中ラグドリアン湖の光景を険しい表情で眺めていたバージルの後ろからぴょこっとシルフィードが顔をだす
「きゅい……生き物たちの声が聞こえないのね、こんなの初めてなのね……すごく嫌な感じなの……」
「やっぱり、あなたにもわかる?」
怯えたようにバージルの背中にしがみつくシルフィードにモンモランシーが声をかける。
「この雪、自然に降るものじゃないわ、すごい魔力よ、禍々しくて、汚らわしい力を感じるわ」
「貴様にもわかるのか?」
バージルがモンモランシーに横目で見ながら尋ねると、モンモランシーは肩をすくめた。
「私は水のメイジ、香水のモンモランシーよ、雪も大元は水だからね、何となくわかるのよ」
そういうとまっすぐラグドリアン湖のある方向を指差す
「いやだわ……なにかが"いる"、たぶんこの雪の元、もういやよ、絶対行きたくな――」
――ヒュンッ! と風を切る音とともにモンモランシーの前を何かが通り過ぎる、
モンモランシーが恐る恐る地面に視線を落とすとそこには幻影剣が深々と刺さっていた。
「10秒やる、ここで死ぬか、湖まで行くか、選べ」
吹きつける雪よりも冷たいバージルの視線がモンモランシーを貫く、
「い、行くわよ! 行けばいいんでしょ行けば!」
半ばヤケ気味にモンモランシーが叫ぶ、するとギーシュがモンモランシーの横に馬をつける。
「安心したまえ、恋人よ、ぼくがついてるじゃないか!」
「気休めにもならないわ、あなた、よわっちいし」
そういうとモンモランシーはあきらめたように肩を落とした。
湖畔へ降りると降り積もる雪のせいか気温が低くなる、やはりというべきか、周囲は夏だというのに雪がしんしんと降り積もり
ラグドリアン湖は一面雪化粧が施されている、その景色はある種の美しさすら感じさせた。
「これが音に聞こえたラグドリアン湖か! 雪景色ってのも美しいな! ヤッホォーー!」
一人旅行気分のギーシュが季節外れの雪景色に興奮したのか馬に拍車を入れ喚きながら湖へと駆け降りる
凍っているとはいえ湖は湖、馬は水を怖がり波打ち際で急にとまってしまう。
慣性の法則でギーシュは馬上から投げ出されて湖に頭から飛び込んだ、
幸か不幸か、湖には分厚い氷が張っており、ギーシュは水中にダイブすることなく、氷上に頭から叩きつけられる。
「ぐげっ!? あっ、頭がっ!! あいだだだだ!!!」
頭頂部を豪快に打ったギーシュがジタバタと悶絶する。
「やっぱり付き合いを考えた方がいいかしら」
モンモランシーが呟く。
「そうね、こういう旅はいい機会よ、見えなかったものが見えてくるからね」
ルイズがどこかで遠い目で同意した。
「お……思い出が領空侵犯してきた……」
「めくるめく走馬灯ってやつね、よかったじゃない、そうそう見れないわよ」
フラフラとおぼつかない足取りで戻ってきたギーシュにモンモランシーが冷たい一言を投げる
どうやら氷の厚さは相当なものらしい、ギーシュが叩きつけられた部分にはヒビ一つ入っておらず、
なおかつ歩いて戻ってきた所を見るに人が立っても割れるという心配はなさそうだった。
ギーシュから湖に視線を戻したモンモランシーがふと首をかしげた。
「ヘンね……水位があがってるわ、昔、ラグドリアン湖の岸辺はずっと向こうだったはずよ」
「どういうことだ」
バージルが尋ねるとモンモランシーが指をさす
「見て、あそこ、屋根が出てるでしょ、村が飲まれてしまったみたいね」
指の先には雪に埋もれてしまってはいるが家屋の屋根が見える、他にも黒々と家が氷漬けになっていた。
モンモランシーは波打ち際に近づくと、氷に手をかざし目をつむった。
しばらくそうしていたモンモランシーは立ち上がり困ったように首を横に振った。
「すごい魔力……水の精霊の声が全く聞こえないわ、湖全体が凍るなんて本来あり得ないことよ?
ここじゃ湖の底まで凍っちゃってる……沖に行かないとダメね……」
「触れるだけでわかるのか?」
「ええ、私を誰だとお思い? このラグドリアン湖に住む水の精霊と、
トリステイン王家は旧い盟約で結ばれているわ、その際の交渉役を『水』のモンモランシ家は何代も続けてきていたの」
「本業、というわけか」
「そう言うことね」
「ならば話は早い、沖へ行き氷の薄い場所を探す、幸い氷は厚い、上を歩いても割れることはあるまい」
バージルはそう言うと、氷の張った湖面へと降り立つ、ルイズ達もそれに続く様に降りると沖へと向かい歩きだした。
「しかし、夏場に雪なんて避暑にはもってこいな環境だね、ちょっと寒いけど……しかし……」
沖へと向かいながら呑気にギーシュがあたりを見回すと顎に手をあて何やら考えるような仕草をとる
「何よ、なにか気になることでもあるの?」
そんなギーシュにルイズが尋ねると、何やら思わしげに首をかしげた
「ちょっと思ったんだけど、ここまでくる間、僕たち誰か人に会ったかい?」
「そう言えば誰とも会わなかったわね、でもそれがどうしたの?」
「いや、ラグドリアン湖はトリステインはおろかハルケギニアでも一、二を争う景勝地だろ? そんな場所に夏場だというのに溶けない雪が降っている、
涼みに来た人がいてもおかしくないじゃないか、それが一人もいないんだ、おかしいと思わないかい?」
「確かに……この状況は異常だけど、人が誰もいないのはおかしいわ……」
その言葉を聞き何やら不安になったのかルイズがバージルのコートの裾をぎゅっと握る、
するとバージルがすっと前方を指差し、静かに口を開いた。
「……人間ならおそらくアレだ、もっとも生きてはいないだろうがな」
一同がバージルの指差す先に注目する、最初は水位の上昇により水没した木々に出来上がった樹氷の群れではないかと思われた、
だが、それは違うようだった、よく見ると樹氷にしては透明感がある、――氷柱だ、それも巨大な。
その氷柱の先端はまるで騎乗槍のように鋭くなっており、その先にはなにやら黒い何かが見え、その氷柱もそこから赤黒く変色している。
目を凝らしてみるとそれが何か、良くわかった、いや、わかってしまった、
ぐったりと氷の槍に貫かれた人間の死体、それがいくつもいくつも湖面から生えた氷柱に突き刺さり
本来透明であったであろう湖面を赤く染め上げていた。
「ひぃっ! きゃあああああああ!!!!」
「モンモランシー! 見ちゃダメだ!」
幻想的な光景に突如現れた地獄絵図にモンモランシーが半狂乱になりながら悲鳴を上げる、
それをギーシュが抱きしめこれ以上見せないために必死に視界を覆う、
「ひどい……一体何がこんなっ……!」
「きゅいきゅい!」
ルイズとシルフィードがバージルのコートに縋りつく、
だがバージルは無遠慮にそれを振り払うとつかつかと氷柱の群れに歩を進める。
「(殺してからこうしたのか……あるいは生きたままこうなったか、どちらにしろ悪魔の仕業には違いはないか……)」
氷柱の一本を見上げ、哀れな犠牲者を見る、女子供一切の区別なく、貫かれているのを見るにこの近辺の村人、
雪景色を楽しみに来た旅人も含まれるのだろう、中には調査に来たであろうメイジの騎士の姿も見受けられた。
「きゅいきゅい! おにいさま! おねえさまは!? おねえさまは大丈夫なのね!? きゅいきゅいきゅいきゅい!」
シルフィードが急に喚き出し、戻ってきたバージルに縋りつく、
惚れ薬の効果があるとはいえ流石は使い魔、この惨状に近くに実家があるタバサのことが心配になったようだ。
「知らん、探しに行くなら勝手にしろ」
振り払いながら冷然と言い放つ、シルフィードは思い詰めたような表情で自分の頭をぽこぽこと叩く。
「おにいさまのおそばにいたい! でもおねえさまも心配なのね! うぅ……この身が二つあればいいのに! きゅい!」
「鬱陶しさが二倍だ……行くならさっさとタバサの所へ行け、そのまま戻ってくるな」
そう吐き捨てるように言うと、ルイズ達に向きなおった
「事情が変わった、この雪、魔界が関わっている可能性が高い、元を断つ」
その言葉にギーシュ達の顔が青くなる。
「あ、悪魔の仕業だってのかい!? 一体どうやって元を断とうって言うんだ!」
「この状況を引き起こしている悪魔、もしくはなんらかの仕掛け、それを破壊するなりすればこの雪も止まる」
バージルが簡単なことのようにさらっと言ってのける、だがその言葉にモンモランシーが半泣きになりながら喚き出す
「魔界? 悪魔ってなによ! 私を変なことに巻き込まないで! 私は帰――っ!?」
彼女の必死の抗議はそこで中断される、目の前に閻魔刀の刃が突きつけられていたからだ。
恐怖にへたり込み言葉を失うモンモランシーにバージルは冷然とした口調で告げる。
「一つ、勘違いをしているようだな」
「え……あ……」
強烈な殺意に怯え竦む彼女の頬に閻魔刀が触れる、ただ軽く触れただけにも関わらず薄らと皮膚が切れた。
「解除薬を貴様に作らせるのは俺の慈悲だ、他のメイジに作らせる手もあるが、それでは貴様の立つ瀬がなくなる、
そう考え貴様に調合させる事にした、だが貴様がそれを阻むというのであれば……貴様をここで殺し別のメイジに作らせる
安心しろ、貴様の死体は肉片一つ、髪の毛一本たりとも残さん」
「い、い、行くわ! 行くわよ! 行けばいいんでしょ!」
かなり物騒な脅し文句だがモンモランシーにはこれ以上ない効果があったようだ
必死に首を縦に振るモンモランシーを一瞥し閻魔刀を納刀する。
ぶつくさと文句を言いながら立ち上がるモンモランシーを尻目に歩を進めるバージルにルイズが尋ねる
「ねぇ、本当にそう考えてたの?」
「何のことだ」
「さっきの話、モンモランシーに作らせるって話よ、立つ瀬がないとかどうとかって言ってたじゃない」
「ただの思いつきだ、奴の立場など知ったことではない、
だが奴以外に水の精霊を呼び出せるような人間を俺は知らん、
それに、解除薬が奴以外に作れないということも考えられる、だからここまで連れてきた」
どうやら先ほどの脅しは口からの出任せだったらしい、こんな状況とはいえ、他人のことを考え行動するような人間ではない、
「ちょっとだけいいとこあるな、なんて思った私がバカだったわ……」
「何か言ったか?」
「別に」
ルイズは呆れたように呟くとがっくりと肩を落とす、そしてふと別な方向へ視線を向けると、一面の雪の中にちらっと赤い炎が目に留まった。
「……? あれって……」
「何だ」
バージルがルイズへ視線を向ける、するとしばらく一つの方向をじっと見続けていたルイズが突然驚いたように声を上げた。
「やっぱり! 火だわ! 誰かが戦ってる!」


「なんなのよこいつらっ! 倒してもキリがない!」
キュルケが悲鳴交じりにフレイム・ボールを放つ、
火球は真っ直ぐ標的に向かう、だが火球は迎え撃つように放たれた氷の矢によりかき消され空中に霧散、水蒸気となり視界を遮る。
パキパキッ、と何かが凍る音とともにウィンディ・アイシクルに似た氷の矢が水蒸気のベールを切り裂きキュルケに襲い掛かった。
「ッ!?」
「アイス・ウォール」
――ガガッ! ズガガガガッ! と詠唱と共に目の前に現れた氷の壁に氷弾がブチ当たる音が響く
間一髪、タバサのアイス・ウォールがキュルケに向かってきた氷の矢を全て防いだのだった。
「たっ……助かったわ……」
「来る」
キュルケが安堵の言葉を漏らすのもつかの間、タバサが警告を発する、
バギン! という派手な音ともに氷の壁が砕け散り、大量の氷の槍が地面から生えてきた。
跳ねるように回避した二人はすぐさま杖を構え、目の前に躍り出た一体に各々の得意魔法を叩きこむ、
集中砲火を浴びた悪魔は奇妙な断末魔の悲鳴を残しまるで氷が溶けるように湖面へと消えて行った。
勝利の余韻に浸る暇もなく二人は油断なく悪魔の群れを注視する
眼前に聳え立つ三本の氷柱、その頂点に乗りこちらを見下ろす悪魔、
爬虫類の様なしなやかな体を持ち、両手には絶対零度の冷気を放つ鋭い爪、
魔帝が人間界侵攻のために造り上げた魔界兵
その中でも最精鋭であるフロストが三体、二人を見下ろしていた。
「……………」
「……………」
「……………」
二人の視線に悪魔達は沈黙で答え、氷柱から飛び降りると、
自らの身体を微粒子に分散させ瞬間移動ともいえる速度で二人を取り囲み統制のとれた動きでじりじりとこちらの様子をうかがい始めた。
「ちょっと……マズくない?」
キュルケがそう呟いた瞬間、背後に回り込んだ一体が無言のまま目の前の獲物に爪を突き立てるべく飛びかかる
「ッ!!」
すぐさま反応しキュルケがフレイム・ボールを放とうとしたその時、
――ひゅおん! と風を切る音とともに横から矢のようにカッ飛んで来た一本の剣がフロストの喉元を深々と貫き、地面へと叩き落とした。
「!?」
二人とフロストの群れは突然喉元から剣を生やし、苦痛に地面をのたうちまわるフロストを見て驚きながら周囲を見渡す、
すると喉元に突き刺さっている剣が緊迫した状況に似つかわしくない軽い口調でカチカチと言葉を発した。
「よ……よぉ、お二人さん、お元気?」
「ダーリンの剣……!? まさか!」
その声に気が付いたキュルケが剣が飛んできた方向を見る、
すると吹きつける雪の中からこれまたこの景色に溶け込みそうな蒼いコートをはためかせバージルの姿が現れる、
その姿を認めたフロストの群れは即座にバージルへと狙いを変え即座に飛びかかる。
「ダーリン!? どうしてここに!?」
「話は後だ」
思わず声を上げるキュルケに短く返すと、ベオウルフを装着し自らに飛びかかってきたフロストの腹に強烈な後ろ回し蹴りを叩きこむ、
思いっきり蹴り飛ばされたフロストはさながら大砲の砲丸と化し、時間差で飛びかかってきたもう一体を巻き込み派手に吹っ飛んで行く。
バージルはすぐさま身を翻し跳躍、デルフが喉元に突き刺さり未だ地面を舐めている一体の頭目がけ閻魔刀を突き立てる。
脳を破壊されなすすべなく絶命するフロストからデルフを引き抜くと、何を思ったかそのまま空中へと放り投げる。
くるくると回転しながら宙を舞ったデルフが、体勢を立て直し再びバージルに爪を突き立てんと真上から飛びかかる二体のフロストを切り裂く。
未だ宙を舞うデルフよりも先に落下してきたフロスト達を閻魔刀で両断し華麗に納刀する。
悶絶しながら絶命するフロストを尻目に、落ちてきたデルフを高く掲げた右手に掴むと、切っ先を返して地面に叩き付けた。
一瞬でフロストの群れを片付けたバージルにしばらく呆然としていたキュルケとタバサが駆け寄る
「ダーリン! 助けにきてくれたのね! あぁんもう本当素敵! 惚れ直しちゃう!」
「……」
キュルケがバージルに抱きつこうとするも頭を押さえられ近寄れなくされじたばたとたたらを踏む。
そんなキュルケをよそにタバサがバージルに尋ねる
「どうしてここに?」
「ただの偶然だ」
タバサの問いに短く答えるとバージルは自らが歩いてきた方向を見る、すると遠くからかすかにルイズ達の声が聞こえてきた。

「キュルケ! タバサ! 大丈夫!?」
「えぇ、ダーリンのおかげでね」
タバサ達と合流したルイズ達はお互いの無事を確かめあう、
「ところでさっきの奴らは一体なんなんだい? もしかしてこの吹雪の原因?」
ギーシュがどこかへっぴり腰になりながらあたりを見回しながら尋ねる、
もしかしたらさっきみたいのがまだ周囲に潜んでいるかもしれない、そう思うと不安を感じずにはいられないのだろう。
生憎ここは氷上だ、彼が得意とするゴーレムを錬金することは非常に難しい。
「奴らは尖兵だ、吹雪の原因は別にある」
だがバージルはあっさりそれを否定すると、タバサ達に向きなおった。
「何故ここにいる、お前の実家がここの近くとは聞いてはいるが」
「目的は湖の増水を起こしている水の精霊の退治、雪の調査、原因を突き止める事、あなたは?」
「水の精霊とやらに会いに来た、だが事情が変わった、この雪、
魔界が関わっている可能性が高い、元を断つ、目的は同じということか」
「そ、そうだ、目的が同じなら一緒に行動したらどうだい?」
ギーシュの提案に反対する者はいなかった、先ほどのフロストの群れがいつ襲ってきてもおかしくはない、
いつの間にかラグドリアン湖は悪魔の巣窟と化してしまっているのだ、わざわざ別れて行動するほど愚かしいことはない。
「いい?」
「構わん、好きにしろ」
タバサがバージルに尋ねる、彼も特に反対する理由もないのかあっさりと首を縦に振った。

沖へと向かうと、ラグドリアン湖の様子はさらに異常さを増した。
今の時刻は真昼時、厚い雲が上空を覆っているとはいえ、ある程度の明るさはあった。
にもかかわらず、突然周囲が闇に包まれ、まるで夜のように暗く閉ざされてしまった。
今まで比較的穏やかだった雪も奔流のような大吹雪に変わりルイズ達に吹きつける、
その雪はもちろん冷たいのだが、周囲の気温だけは夏の暑さのまま、なんとも言えない気持ち悪さである。
そんな中、バージルが立ち止まると不意にあたりを見回した
「……」
「どうしたの?」
「この異常を引き起こしている存在が近い、死にたくなければ警戒を怠るな」
その言葉にルイズ達が身構える、
「きゅい、でもこのあたりから精霊の力を感じるのね」
シルフィードが言うにはこのあたりは台風で言う目の部分、この異常を引き起こしている部分だという
「きゅい……精霊の力を吸い取ってこの異常を起こしてるの、ひどいことするのね!」
吸い取るための部分、つまり精霊の力の強い場所がここらしい、
ならばこの場所が精霊を呼ぶにはふさわしい場所、ともいえる。
「そうね、精霊を呼ぶならここが一番いいと思う……、というかもうここしかないわね」
モンモランシーが覚悟を決めたように頷く
「でも氷が張ってるわよ? どうするの?」
ルイズが首を傾げると、バージルが閻魔刀を抜き放ち、湖面に突き立てる。
氷に込められた魔の力、それを氷ごと断ち切り穴を開ける、
「キュルケ、氷を溶かせ、これならお前の炎が通るはずだ」
「えぇ、いいわよ」
キュルケが軽く頷くと、発火の呪文を唱え炎を放つと言葉の通りみるみる氷は溶け小さな穴が開いた、中を覗くとかろうじて水面が見える。
これならば水の精霊とも交渉ができるだろう、出てこれるかどうかは別問題だが……。
するとモンモランシーは腰にさげていた袋から一匹のカエルを取り出した。鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。
カエルはちょこんとモンモランシーの手の上に乗り、忠実な下僕のようにまっすぐとモンモランシーを見つめていた。
「ひっ! カエル!」
カエルが苦手なルイズが小さく悲鳴をあげバージルに寄り添う。
それを同じくバージルの背中にしがみついていたシルフィードが見咎め眉を吊り上げた。
「きゅいきゅい! そうやっておにいさまにすり寄ってからに! 自重というものを知るといいの!」
「あんたに言われたかないわよこのぉ!」
きゃんきゃんと喚きたてる二人を無視しバージルがそのカエルを見ながら尋ねる。
「それが貴様の使い魔か」
「えぇ、これが私の使い魔のロビンよ、これから中に入って水の精霊を呼んできてもらうわ」
「でも湖が凍ってるわよ? 凍死しちゃわない?」
キュルケが湖を指差し尋ねると、モンモランシーが首を振る
「それが……湖の水温はいつもとかわらないの、それが不気味なのよ、この気温で雪や氷が溶けないのと関係しているみたい……」
モンモランシーはそう言うと、指を立て使い魔に命令する
「いい? ロビン、あなたたちの古いおともだちと連絡がとりたいの」
モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指の先を突いた、
赤い血の玉が膨れ上がり、それをカエルに一滴垂らす。
それからすぐに、モンモランシーは魔法を唱え指先の傷を治療する、
ペロっと舐めると、再びカエルに顔を近づけた。
「これで相手は私のことがわかるわ。覚えていればの話だけど、
じゃ、ロビンお願いね、偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げてちょうだい、わかった?」
カエルはぴょこんと頷き、ぴょんと跳ねて水の中へと消えてゆく
「今、ロビンが水の精霊を呼びに行ってくれたわ、見つかったら連れてきてくれるでしょう、
小さな穴だから出てくるのに時間はかかるでしょうけどね……」
その様子を眺めていたバージルがふとモンモランシーへ尋ねる
「先ほど、貴様は水の精霊との交渉役を貴様の家系は代々続けてきていた、と言ったな、今はその役目を務めていないのか?」
「水の精霊の機嫌を損ねちゃってね、今は他の貴族が務めているわ」
モンモランシーはそういうとその質問に答え始めた
「その時の話なんだけど……干拓を行うのに水の精霊の協力を仰いだの、
大きなガラス容器を用意してその中に入ってもらって領地まで来てもらったわ、
なのに父上が不用意な一言言っちゃってね、干拓は失敗しちゃったわ、
でもまぁ、呼び出すくらいなら私でも出来るから、安心して」
そう言いながら肩をすくめる、あまりいい思い出ではないのは確かだ。
「それで? 水の精霊とはどのような存在だ」
バージルが尋ねると、ギーシュやキュルケも気になるのだろう、モンモランシーの言葉に耳を傾けた
シルフィードは"なにか"の存在を感じているのかきょろきょろとあたりを見回している。
「水の精霊は……、人間たちより、ずっとずっと長く生きている存在よ。
六千年前に始祖ブリミルがハルケギニアに光臨した際にはすでに存在していたというわ、その体はまるで――」
――フフフ……アハハハ……
モンモランシーがそこまで言った時、辺りを包みこむ闇の中から、淫靡な笑い声が聞こえてきた
「なっ……何? この声……」
ルイズが驚き周囲を見渡す。すると闇の中を舞う二つの影が躍り出た。
吹雪の中、淫猥な笑みを響かせながらふわりふわりと二人の乙女が宙を舞う。
青白い光を放ちながら裸身を絡ませこちらに向かって手招きを繰り返していた。
それを見たギーシュが鼻息荒く目を輝かせる。
「こっ! これが水の精霊っ!? ベイビーちゃーんー!! サイコーだ! イイね! グッときた!」
二人の乙女の中に滑り込むように中に入り込む
「あいつの頭、年中春よね……」
「やっぱり付き合いを考えよう……」
それをやや呆れた様子で見ながらキュルケがモンモランシーに尋ねる。
「で、あれが水の精霊なの?」
「違うわ……あんなのじゃないわよ、あれは一体なに?」
それを見たモンモランシーが首を横に振る
「タバサ」
バージルがタバサに何やら耳打ちをする、タバサは小さく頷くと杖を構えた。
「いやぁ! 水の精霊がこんなにもフレンドリーだとは思わなかったなぁ!」
ゴロンと横になり二人の乙女を横に侍らせたギーシュが男の本懐を遂げたような表情を浮かべる
その瞬間、吹雪に濁る闇の中から巨大な重量を持った"何か"が飛び出してきて、バックリ開いた大口の中にギーシュを飲み込まんと――
「エア・ハンマー」
「うぇっ!? うわあああああ!」
間一髪、タバサのエア・ハンマーがギーシュに直撃し吹き飛ばされたお陰でなんとか丸飲みを逃れる。
「クソッたれが! 食い損なうとはのう!」
ずらりと鋭い牙の並んだ口をぱくぱくさせつつ闇の中から飛び出してきた白い化物が赤く光る目を細めた。
背中にしょった氷塊の中からは長い触角が二本突き出ており、その先端には青白く光る女が二人……
いや、女の姿をした疑似餌が二つくっついている。
「カっ、カエルぅぅぅ!!」
「……随分立派になって帰ってきたな?」
「ロビン……? あなたなの?」
突如闇の中から現れギーシュを丸のみにしようとした巨大ガエルにモンモランシーが少々引き気味に尋ねる。
「母ちゃん……帰ってきたで……ってボケがッ!! んなワケあるか!!」
モンモランシーの問いにノリツッコミをしつつカエルの化け物――バエルが大声で怒鳴りつけると、
吹き付ける風と一緒に異臭を放つおぞましい色をした粘液が大口の中から飛び出した
「きゅいきゅい! くっさいのね! 鼻がおかしくなりそうなのね! きゅいきゅい!」
その臭いを嗅いだシルフィードが騒ぎ立てる、
「早く片付けんと気分が悪い、鼻が曲がりそうだ」
珍しく顔を顰めバージルが吐き捨てる、その言葉に激昂したのか
「ブチ殺してやる! ガキ共め!」
喉の袋をいっぱいに膨らまして以前に倍する大声でわめくと、前にも増して大量の粘液がばら撒かれ、吹雪が異様な色になった。

「You bastard!(クソガキが!)」
バエルがひときわ大きく怒鳴ると、背負った氷塊をまるで矢のように射出する、
「カエルいやあああああ!!」
ルイズが悲鳴交じりに空から降り注ぐ氷塊から逃げ回る。
カエルが苦手な彼女にとってはトラウマ級の悪魔だ、杖を振ることすら忘れ必死になって走り回った。
「誰がカエルじゃと! 丸のみにしてやる小娘がァ!」
だが悪いことに、カエルという言葉にさらに怒ったのかバエルが自身に降りかかる魔法を物ともせず
逃げ回るルイズめがけ大きな口をあけ跳躍する。
「きぃやあああああ!!」
さらに激しい悲鳴がルイズの喉から絞り出される、このままでは飲み込まれる、
ルイズが迫るバエルの口内を見て恐怖に目をつむる、
あぁ、大っきらいなカエルに食べられて死ぬなんて……本当最悪だ……
「ひ……あぁ……ぐえっ!?」
悲嘆に暮れていると急に上に引っ張り上げられるような感覚に襲われ思わずカエルのような声を出す
「ふぇ……?」
気がつくとルイズはバージルの小脇に抱えられている、どうやら間一髪、飲み込まれる直前に救出されたらしい。
「え、あ……ありがと、バージ――むぎゃ!」
ルイズが礼を言おうとした途端無遠慮に地面に投げ出され、またまた情けない声を上げる、
「あにすんのよ! せ、せっかく人がお礼を言おうとしたのに!」
「言ってる場合か、お前達は下がっていろ、このカエルの相手は俺がする」
喚くルイズを尻目にバージルは憤るバエルに向かって歩いてゆく、
普段なら「わたしも戦うわ!」と息巻くはずであったがなにしろ相手が相手だ、巨大ガエルというだけでトラウマものである。
「わ……わかったわ、本当早く倒して! お願い!」
「……」
珍しく弱り切ったルイズの言葉に沈黙で答え怒りに荒い息を吐くバエルの前に立ちはだかった。
「まずは貴様からか! 丸飲みにして消化したるわい!」
「やれるものならな」
その挑発に反応するように、バエルが鼻で大きく息を吸い込むと、耳をつんざく咆哮を放つ、
その咆哮は空気を一瞬で冷却し、舞い散る雪が氷塊と化しバージルに襲い掛かかる、
だが、すぐさまトリックアップでバエルの頭上へと躍り出ると、デルフを抜き放ちバエルの背中に強烈な一撃を叩きこんだ。
しかし、その一撃は背負った氷塊により威力を削がれ、分厚い皮膚に阻まれてしまいイマイチ効果がないようだった
バエルは背中の上のバージルを振り落とさんと体を大きく揺らし、背中の氷弾を打ち出す。
それに反応し、空中に飛び上がったバージルは、追撃として新たに放たれた氷弾をデルフを使い叩き落とした。
「ただのカエルかと思えば、少々見くびっていたか」
右手に握ったデルフを軽く弄びながら、バージルがバエルを見据える
「ボケがァァァッ! 噛み砕いてくれる!」
カエル、という言葉に激昂したのか、バエルは一際大声で叫ぶと丸飲みにせんと大口を開けバージルへと飛びかかる
だがバージルは何を思ったかその場から動こうとせず、バエルの口の中に消えていってしまった。
「いやああああ!! おにいさまあああああ!!」
それを見たシルフィードがあらん限りの悲鳴を上げる
「ばかぁ! なにやってんのよぉ!」
ルイズが叫びながら杖を抜き、バージルを救わんと走り出す、もうこの際カエルがどうとか言っていられない、
バージルを助け出さなくては、その思いが、ルイズを動かした、
キュルケやタバサ、ギーシュもそれに続かんと杖を抜き、バエルの眼前へと立ちふさがる。
「バージルを出しなさいよこの化けガエル!」
ルイズが啖呵を切りバエルに杖を突きつける、しかしバエルはカエル、という言葉を聞いたにも関わらずピクリとも動かない……
「……? ど、どうしたのよ、か、かかってらっしゃい」
少々引き腰だがルイズが挑発しても何も反応しない、どうしたのだろう、とよく見てみると、
バエルの目がピクピクと動いている、何やら苦しんでいる、そんな様子だ。


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