前半部からの続き。
しかし、そんなことは露知らぬ才人達は、シルフィードがねぐらにしている森のちょっとした広場で、
首輪をつけたシルフィードを森の木に鎖で結んで、犯人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。
「きゅーい、きゅーい!!」
あからさまに囮役にされているシルフィードは、よせばいいのに悲しげに泣き喚いている。
そんなことをしてもかえって犯人を呼び寄せるだけなんだが、離れた藪の中から見張っている才人達は
心の中でそう突っ込んでいた。
「さーて、見え見えの囮作戦だけど、果たして引っかかってくれるかな?」
我ながら、下手な作戦だと思うが他に方法がないので仕方が無い。なお、当然のことであるがギーシュのほうに
期待を寄せている者は、モンモランシーも含めて一人もいない。
「けど、犯人はどうやって学院の誰にも気づかれずに使い魔達を根こそぎさらって行ったのかしら?」
待っていて退屈な間、キュルケがタバサに何気なく尋ねた。いくら適当に管理されている学院とはいえ、
メイジが大勢おり、学院自体一種の城砦となっている、そんなところから誰にも気づかれずに使い魔を根こそぎ
さらっていくなど、どういう手品を使ったのか。
「私も少し調べてみたけど、厩舎あたりで魔法が使われた形跡はなかった。それに、人間より大きなヒポグリフや
バグベアーみたいなのまで一度に消えてる。正直に言えば、見てみないとわからない」
「なるほど、そんなに簡単に分かればすぐに捕まえられてるわね。それにしても、同じ使い魔なのに、なんで
ダーリンは狙われなかったのかしらね?」
キュルケにそういう目で見られ、才人はぽりぽりと頭を掻いた。
「そりゃ人間だし、使い魔と見られなかったんだろう。まあ、俺のところに来たらギタギタにしてやるけどな」
ガッツブラスターを握り締めて、不敵な笑みを浮かべる才人の背中で、「なあ俺を使ってくれよ」とデルフが
わめいているが、長剣とビームガンではどっちが頼りになるか言うまでもない。ただし、ガッツブラスターの
残弾にはもうあまり余裕がないので、ここぞというときまでは使うまいと心に決めていた。
そんな意気込む才人を見て、ルイズは冷ややかに言った。
「ま、仮に使い魔が狙われているとしても、あんたみたいに無能な使い魔、だれも狙いはしないでしょうけどね」
「む、どーせ俺は掃除洗濯しかとりえがありませんよーだ。火とか吐けなくて悪かったね」
わざとらしくふてくされる才人の態度にルイズも調子に乗る。
「ふんっ、そーんなどうしようもない使い魔をずっと保護してあげてるあたしってば、なんて慈悲深いのかしら。
あんたみたいな無能者は、このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが精々保護してあげるわ」
「よっ、胸はないけど器はでかい」
「なぁんですってぇーっ!!」
「ぐばぁ!!」
例によってルイズのストレートパンチが才人の顔面に炸裂する。ほんとにこいつは一言多いというか、傍目で
見ていたキュルケやモンモランシーも、いつまで経っても変化の無い二人に呆れるしかない。
「はいはい、夫婦漫才はそのへんにしておいて、しっかり見張りしなさいよ。いつ犯人が現れるか分からないん
ですからね」
「ちょ、誰が夫婦漫才よ!! え? あ、ああ、あたしとこいつが、夫婦!? それってつまり、あたしとこここ、こいつががが」
急にパニックに陥ってしまったルイズは照れ隠しのように才人の体をげしげしと蹴る。それがまた皆の笑いを
誘うことになっているのだが、才人はいい迷惑としか言いようがない。
だが、そうして待っているうちに、シルフィードに怪しい影が近寄っていた。
「みんな、あれ、あれ!!」
藪の中から目だけ出して、全員がシルフィードに近寄る影を見つめた。
そいつは、真っ黒な服とマントをはおい、さらに黒い帽子をかぶった老人の姿をしていた。才人とルイズは一瞬
ヤプールの人間体かと思ったが、ヤプールのような禍々しいオーラは感じないから別人だと判断した。
「あいつが、あたしのロビンやギーシュのヴェルダンデを?」
「しっ、まだ分からないわ。もう少し様子を見ましょう」
男は足早にシルフィードに近寄って、値踏みするように右から左からじろじろと眺めている。シルフィードは
自分を観察してくる怪しい男に嫌そうに顔を背けるが、男はそれでもぎょろりと目を見開いて観察を続けている。
もはや、限りなく黒に近いグレーだが、確証がつかめるまではと一行は息を呑んでそれを見守る。
だがやがて、男はシルフィードの前に立つと、にやりと笑った。
首輪をつけたシルフィードを森の木に鎖で結んで、犯人が現れるのを今か今かと待ち構えていた。
「きゅーい、きゅーい!!」
あからさまに囮役にされているシルフィードは、よせばいいのに悲しげに泣き喚いている。
そんなことをしてもかえって犯人を呼び寄せるだけなんだが、離れた藪の中から見張っている才人達は
心の中でそう突っ込んでいた。
「さーて、見え見えの囮作戦だけど、果たして引っかかってくれるかな?」
我ながら、下手な作戦だと思うが他に方法がないので仕方が無い。なお、当然のことであるがギーシュのほうに
期待を寄せている者は、モンモランシーも含めて一人もいない。
「けど、犯人はどうやって学院の誰にも気づかれずに使い魔達を根こそぎさらって行ったのかしら?」
待っていて退屈な間、キュルケがタバサに何気なく尋ねた。いくら適当に管理されている学院とはいえ、
メイジが大勢おり、学院自体一種の城砦となっている、そんなところから誰にも気づかれずに使い魔を根こそぎ
さらっていくなど、どういう手品を使ったのか。
「私も少し調べてみたけど、厩舎あたりで魔法が使われた形跡はなかった。それに、人間より大きなヒポグリフや
バグベアーみたいなのまで一度に消えてる。正直に言えば、見てみないとわからない」
「なるほど、そんなに簡単に分かればすぐに捕まえられてるわね。それにしても、同じ使い魔なのに、なんで
ダーリンは狙われなかったのかしらね?」
キュルケにそういう目で見られ、才人はぽりぽりと頭を掻いた。
「そりゃ人間だし、使い魔と見られなかったんだろう。まあ、俺のところに来たらギタギタにしてやるけどな」
ガッツブラスターを握り締めて、不敵な笑みを浮かべる才人の背中で、「なあ俺を使ってくれよ」とデルフが
わめいているが、長剣とビームガンではどっちが頼りになるか言うまでもない。ただし、ガッツブラスターの
残弾にはもうあまり余裕がないので、ここぞというときまでは使うまいと心に決めていた。
そんな意気込む才人を見て、ルイズは冷ややかに言った。
「ま、仮に使い魔が狙われているとしても、あんたみたいに無能な使い魔、だれも狙いはしないでしょうけどね」
「む、どーせ俺は掃除洗濯しかとりえがありませんよーだ。火とか吐けなくて悪かったね」
わざとらしくふてくされる才人の態度にルイズも調子に乗る。
「ふんっ、そーんなどうしようもない使い魔をずっと保護してあげてるあたしってば、なんて慈悲深いのかしら。
あんたみたいな無能者は、このルイズ・ド・ラ・ヴァリエールが精々保護してあげるわ」
「よっ、胸はないけど器はでかい」
「なぁんですってぇーっ!!」
「ぐばぁ!!」
例によってルイズのストレートパンチが才人の顔面に炸裂する。ほんとにこいつは一言多いというか、傍目で
見ていたキュルケやモンモランシーも、いつまで経っても変化の無い二人に呆れるしかない。
「はいはい、夫婦漫才はそのへんにしておいて、しっかり見張りしなさいよ。いつ犯人が現れるか分からないん
ですからね」
「ちょ、誰が夫婦漫才よ!! え? あ、ああ、あたしとこいつが、夫婦!? それってつまり、あたしとこここ、こいつががが」
急にパニックに陥ってしまったルイズは照れ隠しのように才人の体をげしげしと蹴る。それがまた皆の笑いを
誘うことになっているのだが、才人はいい迷惑としか言いようがない。
だが、そうして待っているうちに、シルフィードに怪しい影が近寄っていた。
「みんな、あれ、あれ!!」
藪の中から目だけ出して、全員がシルフィードに近寄る影を見つめた。
そいつは、真っ黒な服とマントをはおい、さらに黒い帽子をかぶった老人の姿をしていた。才人とルイズは一瞬
ヤプールの人間体かと思ったが、ヤプールのような禍々しいオーラは感じないから別人だと判断した。
「あいつが、あたしのロビンやギーシュのヴェルダンデを?」
「しっ、まだ分からないわ。もう少し様子を見ましょう」
男は足早にシルフィードに近寄って、値踏みするように右から左からじろじろと眺めている。シルフィードは
自分を観察してくる怪しい男に嫌そうに顔を背けるが、男はそれでもぎょろりと目を見開いて観察を続けている。
もはや、限りなく黒に近いグレーだが、確証がつかめるまではと一行は息を呑んでそれを見守る。
だがやがて、男はシルフィードの前に立つと、にやりと笑った。
「ふよふよふよふよふよふよふよふよふよ」
意味不明な言葉を男がつぶやいて、バッとマントを翻すと、なんとシルフィードの巨体が手品のように消えうせてしまった。
「なに!?」
見守っていた才人達も、あまりに驚くべき出来事に愕然とした。しかし、男が踵を返して逃げ出すと、はっと我に返って
藪から飛び出した。
「あいつが犯人だ!!」
「逃がさないわよ!! あたしのフレイムを返しなさい!!」
「あたしのロビンもよ!!」
叫び声をあげて一行は黒マントの男を追いかける。しかし、男はふよふよと奇怪な笑いを立てながら、どんどん
加速していって全力で走ってもまったく追いつけない。
「なっ、なんて逃げ足の速い奴!?」
走っても追いつけないと知った一行は、『フライ』の魔法で飛翔して追うことに切り替えた。飛べないルイズに
いたっては才人が抱えてガンダールヴで突っ走る。なお、前回脇に抱えたのが不評だったために、今回はルイズを
お姫様だっこしている。しかし、荷物扱いよりはましだが、やっぱりすごく恥ずかしい。さらに、抜き身じゃ危ないからと
ガンダールヴ発動のためにガッツブラスターを使われてデルフがいじけている。というか、背負えばいいのではないのか?
だが、そうして馬で走るくらいの速さまで加速したというのに黒マントの男には追いつけない。時速に換算すれば
優に60キロは出ているだろう。
「ありゃ人間じゃない」
どこの世界に時速60キロで突っ走れる人間がいるものか、そうと分かればなおさら逃がすわけにはいかない。
「しめた。この先は学院よ、追い詰めてしばりあげてやるわ」
学院に行けば、もはや勝手知ったる自分の庭、他の生徒もいることだし逃がしはしまいとキュルケは不敵な
笑みを浮かべた。
しかし、森を抜けて西日が彼女達の目を焼いて、もう一度目を開いたとき……
最初は道を間違えたのかと思った。
目をこすってみると、この時間は学院の尖塔ごしにしか見えないはずの夕日がはっきりと見える。
けれど、学院のあるべき場所には、大きな四角形の穴が空いているだけで、他には何も無い。
そこには何もない、だだっ広いだけの平原が広がっていたのだ。
「なに!?」
見守っていた才人達も、あまりに驚くべき出来事に愕然とした。しかし、男が踵を返して逃げ出すと、はっと我に返って
藪から飛び出した。
「あいつが犯人だ!!」
「逃がさないわよ!! あたしのフレイムを返しなさい!!」
「あたしのロビンもよ!!」
叫び声をあげて一行は黒マントの男を追いかける。しかし、男はふよふよと奇怪な笑いを立てながら、どんどん
加速していって全力で走ってもまったく追いつけない。
「なっ、なんて逃げ足の速い奴!?」
走っても追いつけないと知った一行は、『フライ』の魔法で飛翔して追うことに切り替えた。飛べないルイズに
いたっては才人が抱えてガンダールヴで突っ走る。なお、前回脇に抱えたのが不評だったために、今回はルイズを
お姫様だっこしている。しかし、荷物扱いよりはましだが、やっぱりすごく恥ずかしい。さらに、抜き身じゃ危ないからと
ガンダールヴ発動のためにガッツブラスターを使われてデルフがいじけている。というか、背負えばいいのではないのか?
だが、そうして馬で走るくらいの速さまで加速したというのに黒マントの男には追いつけない。時速に換算すれば
優に60キロは出ているだろう。
「ありゃ人間じゃない」
どこの世界に時速60キロで突っ走れる人間がいるものか、そうと分かればなおさら逃がすわけにはいかない。
「しめた。この先は学院よ、追い詰めてしばりあげてやるわ」
学院に行けば、もはや勝手知ったる自分の庭、他の生徒もいることだし逃がしはしまいとキュルケは不敵な
笑みを浮かべた。
しかし、森を抜けて西日が彼女達の目を焼いて、もう一度目を開いたとき……
最初は道を間違えたのかと思った。
目をこすってみると、この時間は学院の尖塔ごしにしか見えないはずの夕日がはっきりと見える。
けれど、学院のあるべき場所には、大きな四角形の穴が空いているだけで、他には何も無い。
そこには何もない、だだっ広いだけの平原が広がっていたのだ。
「がっ……学院が……ないいぃぃっ!?」
一行は夢でも見ているように、穴のふちに止まって学院があったはずの場所を眺めた。
黒マントの男も穴の手前で止まって笑っているが、もうそれどころではない。
だがそのとき、突然頭の上から不敵な笑い声が降ってきた。
黒マントの男も穴の手前で止まって笑っているが、もうそれどころではない。
だがそのとき、突然頭の上から不敵な笑い声が降ってきた。
「フフフフ……ハーハッハッハッ!」
「誰だ!?」
その声の主は、夕焼けの光の中から姿を現すと、黒マントの男の頭上で停止した。
そいつは黒いマントをつけて、真っ黒い仮面のような顔に大きな赤い目のついた怪人、一目見ただけで
即座に宇宙人だとわかるスタイルをしていた。
「君達だね? この星を守っているのは」
宙に浮いたまま、怪人は悠然とそう言い放ってきた。
才人は、こいつは俺とルイズがウルトラマンだと知っているなと思ったが、それには答えずに目の前の
見たことも無い姿の宇宙人に言った。
「お前が学院を消したのか?」
「いかにも、私の名はヒマラ、ここの他にもトリスタニアの街のいくらかもいただかせてもらったよ。次はガリア
あたりに行こうかなと予定しているんだ」
「お前も、ヤプールの手先か!? シルフィードや他の使い魔達をさらって行ったのもお前らか」
「ヤプール? あっはっはっ、あんな芸術を理解しない無粋なやからといっしょにしないでくれ。まあ、成り行きとは
いえ、この世界の存在を教えてくれたことだけは感謝しているが、私は何もこの星を侵略しに来たわけではないのだよ。
そういう野蛮なことは私の趣味ではないのでね。それに、私は生き物は専門外でね」
すると、今度は追ってきた黒マントの男が笑いながら大きな頭部を持つ宇宙人の姿になった。
「ふっふふ、私はスチール星人だ。お前たちの飼っている珍しい動物たちは、私が全部いただいた」
スチール星人、こいつなら才人もエースも知っている。かつて同族が地球のパンダを全部盗んでいこうとして
やってきたという、数いる中でも特に妙な趣味をしていた宇宙人。なるほどこいつなら並の動物園真っ青の
使い魔達に目をつけたとしてもおかしくは無い。侵略ではないとはいえ迷惑な奴だ。
しかし「いただいた」と言われて、「はいそうですか」とあげる奴はいない。キュルケはもちろんタバサも
珍しく怒気を見せて杖をスチール星人に向けた。
「ふっざけんじゃないわよ、このこそ泥!!」
「シルフィードを……返して!」
けれどもスチール星人は、恐らく笑っているのだろう、頭を微妙に上下に揺らしながら言った。
「ふふふ、お前たちにできるかな? それに、しばらく観察していたが、人間共はお前達が使い魔と呼んでいる
動物達を粗雑に扱っていたのではないか? ならば私が大事に飼ってやったほうが彼らのためではないかね」
確かに、ここにいる者達のほかの生徒達は使い魔の世話を真面目にしているとは言いがたい。けれど、
そんな盗人猛々しい詭弁に揺り動かされるほど彼女達の怒りは生やさしくは無い。
「泥棒が偉そうなことほざくんじゃないわよ! 人のものを勝手に盗っていくような奴が何を大切にできるっていうの、
丸焼けにされる前にさっさとみんなを返しなさい」
「ぬぅ……」
今にも爆発しそうな彼女達の気迫は、星人さえも黙らせるには充分だった。
だが、ヒマラはそんな様子を見下ろしながら含み笑いを浮かべていた。
「ははは、威勢のいいお嬢さん達だ。けれども、一度目をつけたものはどんな手を使ってでも手に入れるのが
コレクターというものだから、返すわけにはいかないねえ」
「コレクターですって?」
「ああ、彼とはこちらで会って意気投合してねえ。ものは違えど美しいものを愛する者同士に壁はないのさ。
それに、私も見つけてしまったのさ、実に美しいものをね。この星には、この広い宇宙でも、ここともう一つの
星にしかない美しいものがある、なんだか、分かるかね?」
「……」
才人らが答えずにいると、ヒマラは誇らしげに語り始めた。
「それはね、夕焼けの街だよ。私は一目で心を奪われた、私は気に入ったものは手に入れることに決めている。
だから、私が美しいと思ったものはすべて、私のものなのだよ」
どこまでも自分勝手なヒマラとスチール星人に、才人達もついに怒ってそれぞれの武器を抜く。
「なんだと!! ふざけるな、そんな勝手が通るか、学院のみんなをどこにやった」
「ふふ、悪いが夕焼けの街は前に手に入れそこなったことがあるので、私も引けないのだよ。それと、人間達は
余計だったな。見苦しいので後でまとめてどこかにポイしてしまうつもりだよ。フフフ、ご希望とあれば案内するよ」
そう言うとヒマラは手を大きく広げると、ぐるりと体の前で回し、一行の視線がそれに集中したとき。
「ハアッ」
突然、ヒマラの額からビームが放たれた!
「危ない!!」
とっさに才人はルイズを突き飛ばしたが、その代わりに才人がビームをもろに受けてしまった。
「うわっ!?」
「サイト!!」
ルイズははっとして才人を見るが、才人の体は一瞬発光すると煙のように消えてしまった。
「ええっ!?」
「ちょっ、サイトをどこにやったのよ!?」
「ハッハッハッハ、彼はリクエスト通り仲間のところに送ってあげたよ」
慌てて怒鳴るが、ヒマラとスチール星人は笑いながら、すぅっと消えていってしまった。
その声の主は、夕焼けの光の中から姿を現すと、黒マントの男の頭上で停止した。
そいつは黒いマントをつけて、真っ黒い仮面のような顔に大きな赤い目のついた怪人、一目見ただけで
即座に宇宙人だとわかるスタイルをしていた。
「君達だね? この星を守っているのは」
宙に浮いたまま、怪人は悠然とそう言い放ってきた。
才人は、こいつは俺とルイズがウルトラマンだと知っているなと思ったが、それには答えずに目の前の
見たことも無い姿の宇宙人に言った。
「お前が学院を消したのか?」
「いかにも、私の名はヒマラ、ここの他にもトリスタニアの街のいくらかもいただかせてもらったよ。次はガリア
あたりに行こうかなと予定しているんだ」
「お前も、ヤプールの手先か!? シルフィードや他の使い魔達をさらって行ったのもお前らか」
「ヤプール? あっはっはっ、あんな芸術を理解しない無粋なやからといっしょにしないでくれ。まあ、成り行きとは
いえ、この世界の存在を教えてくれたことだけは感謝しているが、私は何もこの星を侵略しに来たわけではないのだよ。
そういう野蛮なことは私の趣味ではないのでね。それに、私は生き物は専門外でね」
すると、今度は追ってきた黒マントの男が笑いながら大きな頭部を持つ宇宙人の姿になった。
「ふっふふ、私はスチール星人だ。お前たちの飼っている珍しい動物たちは、私が全部いただいた」
スチール星人、こいつなら才人もエースも知っている。かつて同族が地球のパンダを全部盗んでいこうとして
やってきたという、数いる中でも特に妙な趣味をしていた宇宙人。なるほどこいつなら並の動物園真っ青の
使い魔達に目をつけたとしてもおかしくは無い。侵略ではないとはいえ迷惑な奴だ。
しかし「いただいた」と言われて、「はいそうですか」とあげる奴はいない。キュルケはもちろんタバサも
珍しく怒気を見せて杖をスチール星人に向けた。
「ふっざけんじゃないわよ、このこそ泥!!」
「シルフィードを……返して!」
けれどもスチール星人は、恐らく笑っているのだろう、頭を微妙に上下に揺らしながら言った。
「ふふふ、お前たちにできるかな? それに、しばらく観察していたが、人間共はお前達が使い魔と呼んでいる
動物達を粗雑に扱っていたのではないか? ならば私が大事に飼ってやったほうが彼らのためではないかね」
確かに、ここにいる者達のほかの生徒達は使い魔の世話を真面目にしているとは言いがたい。けれど、
そんな盗人猛々しい詭弁に揺り動かされるほど彼女達の怒りは生やさしくは無い。
「泥棒が偉そうなことほざくんじゃないわよ! 人のものを勝手に盗っていくような奴が何を大切にできるっていうの、
丸焼けにされる前にさっさとみんなを返しなさい」
「ぬぅ……」
今にも爆発しそうな彼女達の気迫は、星人さえも黙らせるには充分だった。
だが、ヒマラはそんな様子を見下ろしながら含み笑いを浮かべていた。
「ははは、威勢のいいお嬢さん達だ。けれども、一度目をつけたものはどんな手を使ってでも手に入れるのが
コレクターというものだから、返すわけにはいかないねえ」
「コレクターですって?」
「ああ、彼とはこちらで会って意気投合してねえ。ものは違えど美しいものを愛する者同士に壁はないのさ。
それに、私も見つけてしまったのさ、実に美しいものをね。この星には、この広い宇宙でも、ここともう一つの
星にしかない美しいものがある、なんだか、分かるかね?」
「……」
才人らが答えずにいると、ヒマラは誇らしげに語り始めた。
「それはね、夕焼けの街だよ。私は一目で心を奪われた、私は気に入ったものは手に入れることに決めている。
だから、私が美しいと思ったものはすべて、私のものなのだよ」
どこまでも自分勝手なヒマラとスチール星人に、才人達もついに怒ってそれぞれの武器を抜く。
「なんだと!! ふざけるな、そんな勝手が通るか、学院のみんなをどこにやった」
「ふふ、悪いが夕焼けの街は前に手に入れそこなったことがあるので、私も引けないのだよ。それと、人間達は
余計だったな。見苦しいので後でまとめてどこかにポイしてしまうつもりだよ。フフフ、ご希望とあれば案内するよ」
そう言うとヒマラは手を大きく広げると、ぐるりと体の前で回し、一行の視線がそれに集中したとき。
「ハアッ」
突然、ヒマラの額からビームが放たれた!
「危ない!!」
とっさに才人はルイズを突き飛ばしたが、その代わりに才人がビームをもろに受けてしまった。
「うわっ!?」
「サイト!!」
ルイズははっとして才人を見るが、才人の体は一瞬発光すると煙のように消えてしまった。
「ええっ!?」
「ちょっ、サイトをどこにやったのよ!?」
「ハッハッハッハ、彼はリクエスト通り仲間のところに送ってあげたよ」
慌てて怒鳴るが、ヒマラとスチール星人は笑いながら、すぅっと消えていってしまった。
そして才人は、ヒマラの放ったテレポート光線によって、どこか別な空間へと飛ばされていた。
「あいてて……こ、ここは?」
見渡すと、そこは夕日に照らされた見慣れた広い芝生の上に立つ巨大な幾本もの塔、魔法学院の前であった。
けれど、学院から離れた場所にはトリスタニアの街並みがそびえ、見慣れた風景とはまったく違う。
というか、あっちこっちにオランダの風車やイースター島のモアイ像、パリの凱旋門からタイの寝仏、はては
巨大なタヌキの置物まで訳の分からないものがずらりと並んでいて何て言えばいいかわからない。
「消された街か……コレクションするっていうのは、こういうことかよ」
すると、彼の目の前にヒマラが今度は巨大な姿となって現れてきた。
「ようこそ、私のコレクションルーム、『ヒマラワールド』へ、ここは外界から隔絶された擬似空間だ。私の集めた
美しいものを、ぜひ君も見物していってくれたまえ」
「そうはいくか、こんな贋物の世界、すぐにぶっ壊してみんなを元に戻してやる。なあルイズ!! ……ルイ……」
そこで才人は、大変な事実に気がついた。ここに飛ばされたのは自分だけだ、ルイズは元の世界に置いて
きたまま、つまり。
「し、しまった!!」
変身……できない。
「あいてて……こ、ここは?」
見渡すと、そこは夕日に照らされた見慣れた広い芝生の上に立つ巨大な幾本もの塔、魔法学院の前であった。
けれど、学院から離れた場所にはトリスタニアの街並みがそびえ、見慣れた風景とはまったく違う。
というか、あっちこっちにオランダの風車やイースター島のモアイ像、パリの凱旋門からタイの寝仏、はては
巨大なタヌキの置物まで訳の分からないものがずらりと並んでいて何て言えばいいかわからない。
「消された街か……コレクションするっていうのは、こういうことかよ」
すると、彼の目の前にヒマラが今度は巨大な姿となって現れてきた。
「ようこそ、私のコレクションルーム、『ヒマラワールド』へ、ここは外界から隔絶された擬似空間だ。私の集めた
美しいものを、ぜひ君も見物していってくれたまえ」
「そうはいくか、こんな贋物の世界、すぐにぶっ壊してみんなを元に戻してやる。なあルイズ!! ……ルイ……」
そこで才人は、大変な事実に気がついた。ここに飛ばされたのは自分だけだ、ルイズは元の世界に置いて
きたまま、つまり。
「し、しまった!!」
変身……できない。
続く