あの作品のキャラがルイズに召喚されました @ ウィキ

残り滓の使い魔-05



悠二が学院長室で互いの情報を交換している頃、ルイズは部屋で目を覚ました。
悠二がいなくなってしまったと思い込み、枕を濡らしているうちに眠ってしまっていたのだった。眠ったからなのか、ルイズは寝る前とは心機一転していた。
(使い魔がご主人様を置いていなくなるなんて、ありえないわ)
ルイズは、昨日から今日にかけての悠二の発言を振り返ってみることにした。
(そういえば、使い魔のこと何も知らないわね)
今更ながら、自分が使い魔から何も聞いていないことを思い出した。
(まあそれは、あいつが帰ってきてから聞けば良いわよね)
自分が覚えている限りのことを思い出そうとするが、
(……あいつの話ちゃんと聞いておけばよかった)
悠二の話をあまり覚えていなかった。
(でも、ミスタ・コルベールのこと聞いていたわね)
朝食を食べているときに、悠二にコルベールについて聞かれていたことを思い出した。この時は気にも留めていなかったが、よくよく考えてきるとおかしかった。
(ミスタ・コルベールとは何も関係なかったはず。ということは、ミスタのところ!)
ルイズは飛び起き、一直線に部屋の外に出ようとしてドアの前まで行き、すぐさま回れ右した。
(泣いたまま寝ちゃったし、ひどい顔になってるかも)
そう思い鏡を覗いてみると、案の定目は腫れて、頬には涙のあともついていた。
(まずは、顔を洗わなきゃね)

ルイズは顔を洗ってから、本塔と火の塔の間にあるコルベールの研究室である小屋に来ていた。
「ミスタ、いらっしゃいますか?」
何度かドアをノックして、呼びかけてみたが中からの反応はなかった。
失礼します、と言ってドアを開けると、立ち上ってきた異臭にルイズは顔をしかめ、鼻をつまんだ。
鼻をつまみながらも、小屋の中に入ってコルベールがいるか確かめようとしたが、それも即座に頓挫した。
「もう限界! この臭いには耐えられないわ! それに何回も呼んだのに返事がなかったし、いないのよね」
ルイズの悠二の手がかりは早くも無くなってしまった。
(そういえば、昼食抜きにしたからお腹空いてるはずよね)
今度は、厨房に向けて歩き出した。

厨房に来てみると、昼食の後片付けと夕食の下ごしらえのためにコックやメイドたちが忙しなく働いていた。
貴族の存在に気づいたのか、黒髪でそばかすがあるメイドが近寄ってきた。
「何か御用でしょうか?」
「私の使い魔ここに来てない?」
それを聞いたメイドは昼食の時に食堂の前で会った少年を思い出した。
「ミス・ヴァリエールの使い魔の方なら、ミスタ・コルベールに会いに図書館に行きましたよ」
「そう。もし、私の使い魔が来たら、私に教えに来てちょうだい」
ルイズはそう言い残し、図書館に向けて歩き出した。

結論から言うと、図書館にはコルベールも悠二もいなかった。この時は学院長室でまだ話をしていたのだが、ルイズには知る由もない。
この時、図書館に司書がいなく、生徒が一人いるだけだった。
(あれは、確かタバサよね? キュルケの友達の)
ルイズよりも小柄な青髪の少女に話しかけた。
「あの、私の使い魔かミスタ・コルベール見なかった?」
タバサは読んでいた本から顔を上げ、ルイズの顔を一瞥し短く告げた。
「知らない」
タバサはそれだけ言うと再び本に顔を向け直した。

ルイズは再び自室に戻ってきていた。戻ってくる途中、キュルケに話しかけられたが思考の海の中を漂っていたルイズはキュルケに気づかなかった。
(図書館に向かってから消息が不明ね。これは迷宮入りかもしれないわ)
そう結論付け、ルイズはうんうん唸りながらベッドに腰掛けていた。しばらくすると、ドアがノックされた。
「開いてるわよ」
「失礼します。ミス・ヴァリエール、使い魔の方が厨房にいらっしゃいました」
メイドの言葉を聞き、
(あんの使い魔ったら、ご主人様に心配かけるなんて……)
クククと黒い笑みを浮かべて厨房に向かうルイズに、黒髪のメイドことシエスタは言い知れぬ恐怖に震えた。

悠二、オスマン、コルベールの三人は厨房に来ていた。
オスマンとコルベールが来たにもかかわらず、厨房で働いている人たちは挨拶もそこそこに、すぐに仕事に戻ってしまう。
学院長室からここに来る間に、二人から、ハルケギニアの身分階級を聞いていた悠二はこの態度に首をかしげた。
(この態度から、二人とも厨房によく来てるみたいだし、貴族とか平民とかの身分もあまり気にしないみたいだな)
そして、悠二は思い出していた。こっちに召喚されてから、ルイズには同じ椅子に座ることさえ許されなかった。
そして、周りの人たちもそれを当たり前のように見ていたことを。
それを鑑みると、学院長室に入り盗み聞きを咎められなかったこと(普通は身分階級にかかわらず、盗み聞きをしてはいけない)や、
同じ椅子に座ったことなどが特殊なケースであることを自覚した。
そこに、四十過ぎくらいの丸々とした体の男性がオスマンとコルベールに笑顔で話しかけてきた。
話によると、その男性はコック長のマルトーと言い、二人とは中々に仲が良いようだった。

「それで、お二人さんの横にいるその少年は誰だい?」
マルトーが二人との冗談の言い合いも終わると、二人の横にいた悠二に訝しげな視線と共に問いかけた。
「彼は、ユージ君と言っての、この間の使い魔召喚の儀式で呼び出された少年じゃよ。今では、私らの友人じゃ」
「ああ、お前が噂の使い魔か! 貴族にこき使われて大変だろうが、俺らは味方だからな!」
悠二の首に腕を回し、ガハハと豪快に笑った。
「シエスタ! 三人に何か食べるものを持ってきてくれ!」

喧騒に包まれた厨房の中で、二人は悠二の話に耳を傾けていた。オスマンからの助言で、悠二は東方から来た平民と言うことでマルトーに紹介され、マルトーが仕事に戻ってからは地球での生活を話すことになった。
やはり、異世界の話というのは興味深いのか、二人とも熱心に聞いていた。
コルベールに至っては、そのまま近づいて悠二に熱い接吻をしてしまうのではないか、と誤解してしまうくらいに前のめりになって話を聞いていた。
「身分階級がなく、誰でも教育が受けられるというのは素晴らしいことじゃのう」
悠二が、まずは、と思い学校の話をすると、二人とも感慨深いからなのか、うんうん唸りながら頷いていた。そこへ、マルトーに食事の用意を言われたシエスタがおいしそうな料理を運んできた。
「たいしたものは出せませんが」
そうは言っていたが、見ているだけで涎が出てしまうくらいの料理が目の前に並んだ。並べ終わった後に、シエスタは悠二の耳元に口を寄せ、
「さきほど、ミス・ヴァリエールがユージさんをお探しになってましたよ」
囁いた。では、ミス・ヴァリエールをお呼びしてきますね、とぺこりと礼をしてからシエスタは厨房からいなくなった。
疑問に思う。ルイズは、あまり悠二自身に興味ないはずなのに、なぜ探しているのだろうか、と。
(どうせ、使い魔は側にいないとダメなのよ、とか言われて怒られるんだろうな)
その予想はあながち間違いではなかったが、実際は惨劇が繰り広げられると思うほどルイズが怒っているとは、その時は思っていなかった。
内心で大きくため息をつき、目の前にある料理を頬張った。
「これ、すごくおいしいですね!」
悠二は召喚されてから初めてまともなものを食べ、感動のあまり大きな声で言っていた。
「私はこれを食べたいがために、こうして厨房まで足を運んでしまうんじゃ」
「マルトーさんが作る料理は絶品なんですよね」
オスマンもコルベールも、そう言って食べ続け、悠二はつかの間の幸せを貪った。

(あんの生意気な使い魔にどんな罰を与えてあげようかしら)
勝手にいなくならないように首輪でもつけようかしら、一週間縄で縛っておくのもいいかもしれないわね、などぶつぶつと言いながらルイズは厨房にやって来た。
ちなみに、ルイズの後ろをついてきていたシエスタは、厨房に着くまでルイズから発せられ続けた毒の強い言葉に顔面蒼白になりつつあった。

悠二は厨房の入り口からの不穏な気配を感じ取り、振り向いてみると青筋を立てながら笑顔を浮かべているルイズがいた。
この時悠二は、笑顔は肉食獣が獲物を前にしたときに浮かべる表情だと聞いたことを思い出していた。
(ははは、冗談には聞こえないな……)
これから自分の身に降りかかる不幸を思い、それから逃れられぬことも知り、自身の境遇を呪った。
「おお、ミス・ヴァリエール! いいところに来ましたな!」
そういった彼の輝く頭頂部に、悠二は希望の光を見た。
「ミスタ・コルベールにオールド・オスマン! どうして厨房なんかで私の使い魔と!?」
「そう! そのことでルイズに大事な話があるんだ!」
ルイズからの怒りを逸らすために、ここぞとばかりに大きな声を出した。
幸いにもルイズは混乱しているようで、既に悠二に対する鬱憤は霧散していた。
(え? なによ、急に大事な話って。まさか、私がひどいことをしたとか言い出すんじゃないでしょうね。
そんなわけないわね。ということは、わわ、私の、み、魅力に……)
ポカンとした表情を浮かべたと思ったら、急に頬を赤く染めてもじもじし始めたルイズに、悠二は訝しげな視線を向けたが、
ルイズは、いきなりそんなことを言われても、だとか、貴族である私が平民なんかとは、とか小声で独り言を言い続けていた。

「と、とりあえず今日の夜にヴェストリの広場で待っておりますぞ」
そう言い残し、コルベールは、メイドたちにいやらしい視線を送っているオスマンを引っぱり、去っていった。
残された悠二は、厨房にいる人たちに感謝の辞を述べ、いまだにくねくねしているルイズを連れ部屋に戻った。

部屋に戻る頃にはルイズも冷静になっていたが、そうなると次第に悠二に対する怒りがふつふつと沸きあがってきた。
(だ、大事な話とか言ってご主人様を騙すなんて! やっぱり一回しつけなおさないとダメかしら)
しかし、とりあえず主人である自分がいかに寛大であるかを教えてあげよう、と思ったらしく、部屋に入るなり怒鳴り散らす、などということはせずに、ルイズなりに優雅に椅子に腰掛け、
「それで、大事な話って何かしら?」
やはり上目線で問いかけた。
「学院長とコルベール先生にはもう話したんだけど、実は、……僕はこことは違う魔法がない世界から来たんだ」
悠二がそう言うと、ルイズはまるで汚いものを見るかのような目で悠二を見下した。
「で、それをどうやって証明するわけ? そうじゃなくちゃ信じられないわ」
オスマンとコルベールをも納得させた道具──財布──を、(仰々しく、とまではいかないが)悠二がポケットから取り出す姿には、
──これを見たら絶対に信じる──という自信が滲み出ていた。実際に悠二の自信はその通りで、ルイズも一応は信じたようだった。

「あんたが異世界から来たってのはわかったわ。で、それが大事な話ってわけ?」
「いや、ここからが本題なんだけど、簡単に言うと、僕は普通の人間じゃない。それで、元の世界を守るために戻らないといけない」
悠二は言ってしまった後に後悔した。
(うわ、この言い方だと自分を正義の味方だと思ってる頭の痛いやつみたいだな)
自分の今の発言を思い出し、あまりの酷さに笑いそうになったが、ここで笑ってしまうと場違いだし、ルイズに信じてもらえないだろうと思い必死に我慢した。
ルイズはそんな悠二を、養豚場のブタでもみるかのように冷たい目で見ていた。
「あんたの大事な話ってそれ? 冗談を言うならもっと面白い冗談を言ってよね」
「冗談に聞こえたかもしれないけど、本当なんだ。それを今日の夜に証明するから」
ルイズはまだ悠二を軽蔑の視線で見下していた。その視線を感じながらも、
(ルイズに“この世の本当のこと”は教えたくないしな)
聞いたとき受けるであろう衝撃を考慮し、何も言わなかった。

その後、夕食を食べ(悠二は当然のように床で固いパンとスープのみ)、ほとんどの生徒の部屋から明かりが消えた頃、ルイズと悠二はヴェストリの広場にいた。
「ちょっと! 私、明日も授業あるんだから早くしてよね!」
「静かにして。他の人たちに気づかれたら困るから」
ルイズはつむじを曲げながらも、とりあえず静かになった。


魔法学院近くの森の中。
(こんな夜に、誰……?)
彼女は女性の甲高い声が聞こえ、目を覚ました。


数分後、オスマンとコルベールが暗闇に包まれたヴェストリの広場に現れた。
「待たせてしまったかの?」
「いえ、じゃあ始めますね」
悠二がそう言うと、オスマンは周囲にサイレントの魔法をかけ、コルベールは悠二にディテクトマジックをかける。
「これで音が外に漏れることはないから安心じゃ」
「探知魔法でも、やはり普通の人間のようですな」
こうして準備が整い、悠二が自在法の基礎でもある炎弾を見せる運びになった。
悠二は目を瞑り右手を胸の前に出す。
(僕の体を形作っている“存在の力”を統御する)
一度実戦で使用したことにより、明確に『戦うための力』として認識できるようになった、
(そして、炎のイメージで──)
己の力を、具現化する。銀色の炎が悠二の手のひらの上に浮かぶ。その大きさは、ちょうど手に収まるほど。
悠二は具現化と同時に目を開け、他の三人の様子を伺う。三人とも驚愕の表情を浮かべている。
「先住魔法のようだが、それとも違うようじゃな。色も普通の炎とは違うしの」
「ええ、先住魔法も詠唱無しでは使えませんからね」
オスマンとコルベールは悠二の手のひらの上に出ている炎について検証しているが、
ルイズは鳩が豆鉄砲を食ったような表情をしたまま、硬直してしまっていた。


闇の中に銀の炎が浮かんだ。
(──あれは、──?)
手のひらに炎を浮かべる少年を、彼女は目撃した。


手のひらにあった炎は、悠二の元を放れ、あらかじめ用意していた的──数本の木の枝──に向かう。
手のひらの炎は残滓も残さず飛んでいき、的を吹き飛ばした。
(よし。今までより確実にコントロール出来てる!)
力の繰り方にも満足し、三人へ振り返る。
「とまあ、こんな感じです。まだ基礎しか出来ませんが、他にも色々パターンはありますよ」
説明をちゃんとした二人は納得したようだったが、ちゃんとした説明をしてない一人──ルイズ──は腑に落ちないという顔をしていた。
「おぬしの判断次第じゃが、あまり公にはしないほうがいいのう」
その言葉に悠二は頷き、四人は各々帰った。


部屋に戻るとルイズが一気にまくし立ててきた。
「あんた、なんで先住魔法のようなもの使えるのに言わなかったのよ! それで、なんか他にできることはないの?」
ルイズにとっては、使い魔がなぜ力を使えるかではなく、使い魔として何が出来るか、自分の使い魔が有能なのかのほうが重要なようで、自在法についての質問は一切なかった。
「あとは、剣が使えるんだけど、今は持ってないから……」
実際には『吸血鬼』を栞にして持っていたが、あまり自分の手の内を見せたくない、それとハルケギニアでの武器が見たかったという理由で言わなかった。
(魔法がかかってる武器があるかもしれないし)
すると、ルイズはわずかに考え込み、
「次の虚無の曜日に剣を買いに行くわよ」
宣言した。


深い闇の中。
彼女は先ほど目にした現象を思い出す。
──銀の炎に映し出された黒髪の少年の姿を。




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