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ゼロの黒魔道士-34


「ケケケ!やっぱし冒険にゃ戦闘がつきもんだよな~!」
そう言って笑うデルフに、ボクはあまり賛成できなかったんだ。
「……のんびりした冒険もあっていいと思うんだけどなぁ……」
水の精霊が言うには、この大きな湖のガリア側、
さっきいた場所とは反対っ側に襲撃者が出るらしいんだ。
しかも、真夜中……つまり、今ぐらいの時間に。
夏が近づいてきてるとはいえ、夜の風がまだほんのちょっぴり寒かった。
「これも1つの訓練と思ばいいさ!僕も、新技を試したく思っていたところだしね」
今回は、デルフだけじゃなくてギーシュまで張り切っている。
うーん、襲撃者が出てるっていうのを、そうやって喜んでいいのかなぁ……?


ゼロの黒魔道士
~第三十四幕~ 素敵だね


「新技って?いつのまに、そんなの編み出したの?」
襲撃者にバレると良くないから、焚き火もできない。
念のため、襲撃される水辺からは少し離れた茂みの中でじっとするだけ。
木の隙間からうっすら差し込むお月さまの光だけじゃ心細くて、
お互いがちゃんといることを確認するためにも、小声でずっとしゃべっていたんだ。
「フフフ、アニエス先生に散々しごかれたときにね!開眼したんだよ!『これだ』ってね!」
すごいなぁ……転んでもタダじゃ起きないっていうところが、ギーシュの強みだと思うんだ。
「どんな技でぇ?また『ギーシュなんちゃらスーパーアタック』とか
 『ミラクルギーシュうんちゃらクラッシュ』とかいうのじゃねぇだろうな?」
……ちょっと、技名の付け方にセンスが無いのはどうかとは思うけど。
「今度のは今までの格好だけの技ではないさ!」
あ、自覚してたんだ。……じゃぁ今までのは何だったんだろう?
「そんじゃぁどんな技よ?」
「えー、どうしようかなー?ライバルだしな~?」
こうやって、もったいつけているギーシュが後で出した技は、
あんまりすごくないことが多いんだ。
この間の『ギーシュエキセントリックスーパークラッシュ』って、
散々引っ張って見せてくれたのも、ただの体当たり、だったし……
転んでもタダで起きないのはいいけど、もうちょっと考えてもいいんじゃないかなぁってときどき思うんだ。
「……見たい、かなぁ。襲撃者と戦うときに戦略とか考えなきゃいけないかもしれないし……」
だから、あたりさわりの無いように、そうやって聞いたんだ。
もし、とんでも無い技だったりしたら、ボクが頑張るしかないからだ。
(ルイズおねちゃん達は万が一のため別の場所で待機している。
 2ヶ所から挟み打つことも考慮した作戦だ)

「ライバルにそう頼まれちゃ、しょうがないなぁ~!では、とくとご覧あれ!」
すっごく嬉しそうに、ギーシュが少しだけ体勢を変える。
「それでは、いざ、鎌っ金っ!」
……錬金の魔法って、そういうポーズって必要なんだっけ?
ギーシュが軽く杖をふると、
(わざわざ腰をひねって変なポーズで一回転をしたりはしたけど)
ギーシュの体は鎧に包まれて、絵本に出てくる戦士みたいな姿になったんだ。
角とか飾りとかが豪華なところがまさにそんな感じだった。
「装着っ!『魔導アーマー』っ!!」
「おぉ~!?ちっとぁ戦えそうな格好になったじゃねぇの?」
確かに、鎧をつけたことで、あんまり大きくない体が大きく見えるし、
なんとなく逞しい戦士っぽい雰囲気になったな、とは思うんだ。でも……
「……それ、動けるの?」
ギーシュの筋力を考えると、ちょっと不安になってしまうんだ。
「むしろ、いつもより動けるんだよ!『ワルキューレ』の応用でね!
 ボクには身体能力や持久力が足りないから、“足りない力は足せばいい”ってわけさ!
 僕を僕自身で操作することでね!」
……なるほど、確かにいいかもしれない。
『ワルキューレ』を動かすように、自分を動かしてしまえば、
魔力で自分の身体能力を補うことになって、メイジが苦手とする接近戦になっても不利にならないかもしれない。
「色々、考えてるんだなぁ……すごいや」
素直に、感心する。ギーシュって、やっぱりすごいのかもしれない。
「アニエス先生にボコボコにされてね、防御力を上げるために鎧を着ることを考えたんだ。
 しかし、メイジとして平民の鎧はどうかと考えた結果、自分で鎧を作ることに思い至ってね――
 それに、僕の彫金の趣味も活かせるしね!どうだい?この角の造形は!薔薇の棘をイメージしたのだが――」
……変なところに凝るのはどうかとは思うけど。

「おうおう、お二人さんよ、おしゃべりはその辺にしとかにゃなんねぇんじゃね?来たぜ」
デルフの言葉に、ゆるみきった注意を一気に引き締める。
大っきな影と、小さな影、襲撃者は2人組。
風の魔法か、おっきなガラスの球を押しつけたような跡が水面にでき、
そこに影が二つ乗ろうとしている。
水の精霊の言うとおりだった。
「よーし、ビビ君、はじめようか!今日は僕も活躍するよ!」
「おっとぉ、相棒がてめぇのために全部片付けるに決まってるだろうが!」
……なんか、ちょっと不真面目な感じがするけど、やる気なのはいいこと、かなぁ?
「岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち……」
ともかく、牽制だ。逃がしてしまっては元も子もない。
「集いて赤き炎となれ! ファイア!」
ごく小さい火の球が、2つに分かれて相手に襲いかかる。
今回は、『全体化』しているから、火の球はさらに小さく半分ぐらいだ。
でも、これなら2人同時に牽制できる。
相手の出方を見るにはちょうどいい。
小さな影がまず反応した。
大っきな影はやや遅れるけれども、
小さな影を突き飛ばすような形で陸に上がる。
「いくぜ相棒っ!」
「うんっ!」
「決めるっ!」
茂みから飛び出し、一気に距離をつめる。
水の精霊の証言と、おねえちゃん達の推理から、
相手は風と火のメイジってことは大体分かっている。
相手が魔法を主体に戦うならば、近距離戦でやっつけた方がいい。
ざわざわとガンダールヴの力が騒ぎ出す。
それを抑えることなく、手や足に流す。
頭は冷静に、心は熱く、アニエス先生の教えだ。

「そりゃーっ!!」
「え!?」
ギーシュの足が、かなり速くなっている。
『魔導アーマー』のせいかな?
ただ、ガシャンガシャンとスタイナーおじちゃんよりもうるさい音を立てて、
直線的に襲撃者めがけて走っている。
「おいおいつっぱしりすぎだろ!?」
デルフが指摘するってことは、よっぽどなんだと思う。
だから案の定……
「どわっ!?」
目の前で突然思いっきりコケるギーシュ。
焦りすぎて石にでもつまづいて……いや、そうじゃなかった。
「ギーシュっ!?」
ギーシュの右足、正確には『魔導アーマー』の膝関節の部分、
そこがカチコチの氷で固められていた。
相手のメイジがやったことか、それならものすごく正確だ。
このままギーシュを放っといたら、真っ先にやられてしまう。
「お、おのれっ!卑怯なーっ!!」
「ギーシュ!溶かすからじっとしてて!」
暴れるギーシュを少しだけ抑えて、感覚を研ぎ澄まさせる。
「岩砕き、骸崩す、地に潜む者たち
         集いて赤き炎となれ! ファイア!」
できる限りの早口で呪文を唱えて氷を溶かそうとする。
もちろん、この行為が何を招くかは、頭の冷静な部分で分かっている。
だけど、ギーシュが的になるのを放っておけるわけはない。

「相棒っ、危ねぇっ!!」
「っ!せいっ!!」
案の定、特大級の火の球、『ファイガ』を無駄なくボールに押し込めたような火球が、
ボクを目がけ真っ直ぐに飛んでくる。
襲撃者の2人のメイジの連携はうまく取れている。
足止めをした風メイジに、一気に潰しにかかる火メイジ。
だけど、連携が取れているのは襲撃者だけじゃない。
「デルフ、行くよっ!」
「熱つつつつ!!お、おうよっ!ガンガン来いやっ!」
魔法を吸い取る剣、デルフとの連携だ。
相手がデルフの能力を把握しきる前に、近距離から一気に……
「え!?」
相手が、ローブをかぶった相手が目の前まで来ていた。
そうか、火球を出した瞬間に相手も距離をつめたのか。
少し大柄の相手、接近戦に自信でもあるのだろうか?
それでも、怯むことはできない。ギーシュが後ろにいるんだ。
まずは、1人を確実に無力化しなくては――

「てぇぇいっ!!」
「ビビちゃん!!こんなところで何を!?」
「え?」
聞き覚えのある声、急に立ち止まってちょっとよろける。
そのまま目の前の腕の中におさまってしまう。
「あぁん、情熱的ねぇ♪このキュルケおねえちゃんを追って来てくれたの?」
ローブの頭の部分をめくると、そこには見慣れた真っ赤な髪。
「え、えぇぇっ!?ど、どうしてキュルケおねえちゃんが!?」
「私もいる」
湖すぐそばの茂みから、タバサおねえちゃんも姿を表す。
襲撃者って……まさかこの2人なの?
「え、ど、どうして!?」
「まぁ、いいじゃない、ビビちゃん♪
 あ、折角だし、もうちょっとなでさせてよ~――ウリウリ♪」
「え、あ、あの、そ、そこはくすぐったい!や、やめて~……!!」
変なところをなでられて、くすぐったくってしょうがなかった。

「――ちょい待ち!これだとおれっちの見せ場今回なし!?何それ!?」
「――僕はコケただけだぞ?」
「ドンマイ」
「ここ?それとも、こっち?ウリウリ~♪」
「や、やめ、アハハハ!や、やめてぇぇぇ~~!!」
ルイズおねえちゃん達が異変に気づいて、
ルイズおねえちゃんがキュルケおねえちゃんに飛び蹴りをするまでの間、
この妙な状態がしばらく続いたんだ……
 ・
 ・
 ・
「……じゃぁ、タバサおねえちゃんの実家もこの辺なんだ?」
「そうなのよ。実家が沈みそうだし、奨学金のための任務もあるし――
 で、友情のために私がここにいるってわけ!それをルイズが足蹴にして……」
「か、勝手にビビに抱きついたりしてるからでしょ!ちょっとは反省しなさいっ!」
事情を聞けば、タバサおねえちゃんはガリア国からの留学生で、
奨学金をもらって生活しているから、その見返りに任務を果たさなきゃいけないらしい。
それで、今回の任務っていうのが、『水の精霊の暴走を止めろ』ってことだったみたい。
タバサおねえちゃんの家もこの辺りらしいから、強硬手段に訴えてでもなんとかしなくちゃ、
ってことだったんだって。キュルケおねえちゃんはその付き添い。いつも仲良しだなぁ。
「まぁ、襲撃者が知り合いで良かったわよ。ギーシュが痛い目に合わなくて……」
「ぬぅ、僕としてはもう少しいい格好したかったんだがなぁ」
「ダハハ、思いっきりコケてたしなぁ!ざまぁねぇぜ!」
とりあえず、怪我も無く、後は水の精霊と交渉するだけ……

いや、それ以外にも聞かなきゃいけないことがある。
なんで水位を上げてたのか?
それに……
『記憶の落とし子』って何なのか?

「それより、あんた達はなんでここに?ビビちゃんが私に会いたいからじゃないの?」
「んなわけないでしょ!あのねぇ、実はモンモランシーが……」
「ちょ、ちょっと!!言いふらさないでよっ!」
「痴情のもつれと見た」
「――流石タバサねぇ、そうなのよ。元はと言えばギーシュに使うはずだった……」
「うわ、そこから説明するのはやめてくれ!?」
……おねえちゃん達は、とっても仲がいいなぁって、改めて思うんだ。
 ・
 ・
 ・
「――というわけで、襲撃者は捕まえたから、『水の精霊の涙』を分けて欲しいんだけど」
モンモランシーおねえちゃんのしでかしたことは、
キュルケおねえちゃんとタバサおねえちゃんの知るところとなってしまったんだ。
堅く口止めをしたのはいいけど、キュルケおねえちゃんがニヤニヤしてたのが気にかかる。
……そんな、悪いことにならないといいんだけどなぁ……
「良かろう、単なる者よ」
水の精霊はそう言うと、水面を小さい羽虫が暴れたみたいに細かく揺らせて、
自分の体から一欠片の水滴のようなものを飛ばす。
「うわっととと!」
ギーシュが叫んで、それを丁寧に壜に受けた。
それを見届けると、水の精霊は湖底へ帰ろうとしてしまう。

「待って! 聞きたいことがあるの!」
キュルケおねえちゃんがそれを呼び止めた。
水の精霊はぴくり、と動きを止め、再び盛り上がって綺麗な女の人の形になる。
「なんだ、単なる者よ」
「あなたはどうして水かさを増やすの? できれば事情を説明して欲しいのだけれど。あたし達にできることなら、解決に当たるわ」
キュルケおねえちゃんの言葉を受けて、水の精霊は様々に形を変えたんだ。
めまぐるしく、グルグルと、色を変えながら。
水の精霊の表情ってよく分からないけど、これって迷っている、ってことなのかなぁ?
「お前たちに任せてよいものか、我は悩む。しかし、お前たちは我の願いをかなえた。信用して話してもよいことと思う」
やっと1つの答えを見つけたのか、水の精霊が安定した女の人の姿に戻る。
……今気づいたけど、モンモランシーおねえちゃんの姿に似てる、かな?
「数えるのもおろかしいほど月が交差する時の間、我が守りし秘宝を、お前達の同胞が盗んだのだ」
「秘宝?」
「そうだ。我が暮らすもっとも濃き水の底から。その秘宝が盗まれたのは月が二十五ほど交差する前の晩のこと」
25回……えっと、この間ルイズおねえちゃんに聞いたところだと、1年が12ヶ月で二つの月は1ヶ月に1回交叉するから……
大体2年前、かな?
「じゃあ、人間に復讐する為に水かさを増やしてるってわけ?」
「復讐? 我はそのような目的はもたない。ただ、秘宝を取り返したいと願うだけだ。ゆっくりと水が浸食すれば、いずれ秘宝に届く。
 水が全てを覆う暁には、我が体がその在り処を知ろう」
な、なんかのんびりした話だなぁって呆れてしまう。
「我とお前たちでは、時に対する概念が違う」
違うっていっても、これじゃあんまりだと思うんだ。
「じゃあ、私達がその秘宝を取り返してくればいいのね? なんていう秘宝なの?」
「『アンドバリ』の指輪。我が共に、時を過ごした指輪」
「聞いたことがあるわね」
モンモランシーおねえちゃんが考え込む。
「確か……『水』系統のマジックアイテムね。偽りの命を死者に与えるとか……」
……偽りの命?『フェニックスの尾』とか『ゾンビ化』とは違うのかなぁ……?
「そのとおりだ。単なる者よ。死は我にない概念ゆえ理解できぬが、死を宿命とするお前たちには魅力と思えるのかもしれぬ。
 しかしながら、其は偽りの命。 旧き水の力に過ぎぬ。『アンドバリ』の指輪はお前たちの益にはならぬだろう」
「誰がそんなもの取っていったのかしら。名前とか分からないの?」
「個体の一人がこう呼ばれていた。『クロムウェル』と」
「――クロムウェルって。確かアルビオンの新皇帝よね、記憶が確かなら」
キュルケおねえちゃんが呟いた。
「あの、恥知らずの!?」
ルイズおねえちゃんが顔をしかめる。
あの、アルビオンの戦争の、ウェールズ王子と敵対してた人たちのリーダーなら、
そういうふうな反応になるのも仕方ないと思うんだ。
「……偽りの命を与えられると、どうなっちゃうの……?」
「生前と同じ姿、同じ声、同じ記憶で指輪を使った者に従うようになる。個々に意思があるというのは不便なものだな」
「死者を動かすなんて趣味が悪いわね」
眉をひそめるキュルケおねえちゃん。
……趣味が悪いなんてもんじゃない。
とんでもなく愚かしいアイテムだと思うんだ。命を、弄ぶなんて。
「……約束する。その指輪を取り返してくるから、水かさを増やすのをやめて」
そう言ったのはタバサおねえちゃんだった。
……心なしか、タバサおねえちゃんも怒ってるような気がした。
いつもと同じ無表情だけど……
「わかった。お前たちを信用しよう。指輪が戻るのなら水を増やす必要もない」
「いつまでに取り返してくればいいの?」
「お前たちの寿命が尽きるまでで構わぬ」
……精霊とボクたちって、こんなに時間の感覚が違うの?
「我にとっては明日も未来もあまり変わらぬ」

「待って」
気が遠くなるほどの時間の差を言い残して去ろうとする水の精霊を呼び止めたのはタバサおねえちゃんだったんだ。
「水の精霊。あなたに一つ聞きたい」
「なんだ?」
「あなたはわたしたちの間で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由を聞きたい」
「単なる者よ。我とお前たちでは存在の根底が違う。我はお前たちが深く理解はできぬ。
 しかし我がお前たちの身から見て不変であるが故に、変わらぬ何かを祈りたくなるのであろう」
タバサおねえちゃんその答えに満足したのか頷くと、ひざまずいて目をつむって、水の精霊にお祈りを捧げたんだ。
キュルケおねえちゃんが、それを優しく見守っていた。
「ねえギーシュ」
「なんだいモンモランシー」
「誓って?」
「何を?」
……ボクも鈍くて、トロい方だとは思うけど、ギーシュはそれ以上に鈍感だなぁと思うんだ。
流石に、この会話の流れだと、大体想像がつきそうなんだけど……
モンモランシーおねえちゃんがその頭を思いきり殴りつけた。
「わたしへの愛に決まってるじゃないの!」
「あ、ああ。えーと。ギーシュ・ド・グラモンは誓います。これから先、モンモランシーを一番に愛す……」
そこまで言ってまたギーシュは殴られちゃったんだ。
「一番って何よ!!二番三番がいるっていうの!?」
「痛っ!?あーえーそのー……」
「あぁ、もうっ!じれったいわねっ!!」
煮え切らない返事しかしないギーシュの頬を思いっきりつかんで、
モンモランシーおねえちゃんは無理やりギーシュにキスをしたんだ。
「あらあら、“世界一ピュアなキス”とはいかないみたいねぇ――」
キュルケおねえちゃんがケラケラ笑ってその様子を見る。
うーん、水の精霊の光で、湖が星空みたいに煌いて、なかなか神秘的でいいと思うんだけどなぁ?
「ルイズー、あんたも祈っといたら?恋人の1人でもできるようにって」
「ば、バカ言うんじゃないわよっ!男をとっかえひっかえするような女に言われたくないわっ!」
「あ、ちょっとおねえちゃん傷ついたわー、傷つかされちゃったわー。ビビちゃん慰めて~!」
「え、わわっ!?」
水の精霊が、そんな光景にあきれたのか、去ろうとしてしまう。


「あ、あの……待ってください!」
これを逃したら、聞く機会は来ないんじゃないかなって思って、声を出した。
「何用か、『記憶の落とし子』よ」
水の精霊は、またボクのことを『記憶の落とし子』と呼んで振り返った。
キュルケおねえちゃんの抱きしめをなんとかふりほどいて、
帽子をかぶりなおして、聞いたんだ。
「……『記憶の落とし子』って、何ですか?」

少しだけ間があって、水の精霊が言葉を選ぶようにゆっくりと語り始めたんだ。
「我ら精霊と、単なる者をつなぐ物、それが『記憶の輪廻』だ。
 単なる者は死して『記憶』となり、精霊はそれを受くる――」
……?精霊って、クリスタルみたいな存在ってことなのかなぁ?
「『記憶の輪廻』は秩序に従う。
 だが、秩序が乱れしとき、『記憶の落とし子』が生まれ落ちる――」
……『霧』と『魂』の関係だと、なんとなく分かった。
ボクは、クジャに作られた存在だ。
『魂』が循環するときにできる残り滓である『霧』からボク達を作ったと、クジャが言っていた。
水の精霊は、そこからボクを『記憶の落とし子』って呼ぶのか……
「『記憶の落とし子』は秩序に変革をもたらす。
 望むがままに。新たな秩序か、さらなる混沌か――」
クジャは、ボク達を使って、ボク達の世界に混沌をもたらそうとした。
戦乱を引き起こし、『魂の循環』を汚そうとした。
それは、どんなに間違っても、ボクの望みなんかじゃない!
これまでも、この先も。
「……ありがとう。ボクは、混沌を望みません」
「我は傍観者にすぎぬ。礼はいらぬ」

最後に、ボクもお祈りしたんだ。
世界が……平和でありますようにって。
誰も傷ついて泣いたりしない、そんな世界になりますようにって。
水の精霊が去った後の水面は、ゆらゆらと、星屑が反射して、
もう一つの夜空のように横たわっていた。



ピコン
ATE ~死人(しびと)が笑う~

「そ、それが、聖地の真実だと!?」
「あぁ、そうだな。仮説にすぎんが。だが筋は通っているだろ?」
ジョゼフはこの瞬間がいつも好きだった。
チェスでチェック・メイトをかける瞬間。
サンクで手札を開ける瞬間。
工夫を凝らしたびっくり箱を知りあいが開ける瞬間。
驚愕に目を見開き、瞳には困惑の色が宿る。
ジョゼフはそんな目が大好きだった。
それが見たいがために、寝る間も惜しんで悪戯を繰り返したこともある。
だが、今の地位は仮にも王。
やすやすと児戯をこなせる暇も、隙もなくなってきている。
だからこそ、今この瞬間を、得がたいものとして、
無上の喜びとして噛みしめているのだ。
おそらく、寝る前にもう1度思い出して愉悦に浸るだろうし、
起きた後で再度反芻し、素晴らしい朝を迎えることだろう。
何しろ、今宵トリックにかけたのは、
ハルケギニア中のメイジが、いやハルケギニア中の民衆が恐れる、
金髪長耳の悪魔、エルフなのだから。

「にわかには、信じられんな――それは、老評議会も同じだ」
やはり、そうかとジョゼフはため息をつく。
いつも『大人たち』はこうだ。
目の前の真実を真実と認めず、幻想にすぎないと信じ込もうとする。
それが老いたる者の集団ならなおさらだ。
「アンドバリの指輪や、聖地、全てをつなぐ鍵がこの“外典”なのだがな?」
ビダーシャル、この頭に固定化がかかったエルフ共の代表が接触してきた理由は
『シャイターンの門』に近づこうとする人間の動きの抑止である。
聖地に近づくハルケギニア人、エルフ共が言うところの蛮族が存在することにも興味がわいたが、
それ以上に、エルフが同じテーブルについたことに、ジョゼフはほくそ笑んだものだ。
人の動きの抑止など、たやすい用事である。
それで相手の示した掛け金、エルフの部下1名というのはまさに破格だ。

しかし、同じテーブルについた相手を、それで返すのは、失礼というものだ。
何より、ジョゼフの持つ手札は、多くが彼のミョズニトニルンが秘密裏に入手したものだが、
もっと大きな勝ちを期待できる素晴らしいものだった。
この程度の掛け金でゲームが終わってしまうのは実にもったいない。
ロワイヤル・ラファル・アヴェニューなど目ではないほど、
ピカピカに輝かんばかりの手札が揃いそうだ。
素晴らしい手札と上質の財布を持つ相手が存在し得る場合どうするか?
簡単な話だ。手札を、ほんの少しだけほのめかす。
掛け金をレイズさせるにはそれしかない。
「その程度の掛け金でいいのか?」と問いかける。
そうすれば、相手が値を少しだけ吊り上げてくる。
焦らず、ゲームの熱が場に沁み渡るまでこれを繰り返すのだ。
そうして、お互いの熱が最高潮に達し、最後の1枚が手に入ったとき、
一度に全てを晒しだす。もったいつけても構わないが、ジョゼフはそうしたことを好まなかった。
手札を広げるときは、勝ち誇って、満面の笑みで、一度に、だ。
そのときの相手の顔といったら!
眼に映る光景を記憶できる魔法があれば、この表情だけを集めて城の壁に貼り付けるのもおもしろいだろう。
ジョゼフは喉の奥で笑いながらそう考えた。
さぁ、仕上げだ。掛け金の徴収が残っている。

「――この件は、老評議会に預けねばならない。
 己個人の協力ならばもはや拒否はせぬが、ここまで大事となると――」
及第点だ。自分の役割を心得た男の合格点の回答。
この男の協力は申し分ないところまで得ている。
後は胴元を自分のテーブルまで引きずり降ろすだけ。
ここで焦ってしまってはそれはかなわない。
よって、ジョゼフは慎重にこう言う。
「なるほどな。まぁしょうがあるまい。この“外典”にしてもロマリアの地下書庫から盗んだものだしな」
この手札はイカサマ同然に手に入れたジョーカー。
あまりにも強力すぎて、場から遠ざけられたルール違反も同然のカード。
それを惜しげもなく、切ったのだ。失敗は許されない。
その緊張感、その高揚感、ゲームの熱にジョゼフは酔っていた。

「――では、早速この件は評議会に」
「あぁ、まてまて、普通に行き来していたのではまた1週間以上かかる」
熱は冷めぬうちに。料理もゲームも同じだ。
「速い方法でもあるのか?」
「あるのだな、それが。お前やミョズニトニルンの協力で新型の船ができてな。
 小型だが、かなり足は速い。試運転代わりに乗っていってくれ」
手札をもう1枚重ねての提示。ブラフなどという姑息な手段ではない。
王者の遊戯とはかくあるべし。最強の手札を惜しみなく、だ。
「『ブラック・ジャック号』……“黒い簒奪者”と名付けてな?どうだ、俺にピッタリだろう?」
「ふむ、それで?どこに行けばいい?」
「あぁ、この者が案内しよう。――おい、頼むぞ?お客さんだからな」
「――はい、かしこまりました」
そして、本日最後の手札が、部屋の隅から、月影の射さぬ場所から効果的に現れる。
少々、演出過剰な気もするが構わないだろう。
金の髪が月灯りに映える。まさに金ぴかに光る最高のカードだ。

「――ウェールズ・テューダーと申します。サハラまでの道案内はよろしくお願いいたしますね」
王者の風格をたたえた手札が、優しく微笑んだ。


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